gock221B

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『アイアンクロー』(2023)/呪われた若草物語?と思いながら観てたが思いのほか温かい着地してよかった。大好きなリック・フレアーのシーンは、短いが面白すぎて本編の内容どうでもよくなりかけたので映画の事を思えば無い方がよかったかも🖐️


原題:The Iron Claw 監督&脚本:ショーン・ダーキン 製作総指揮&ランス・フォン・エリック役:マクスウェル・ジェイコブ・フリードマン プロレス演出&ザ・シーク役:チャボ・ゲレロ・ジュニア. 製作&配給:A24 製作国:アメリカ 上映時間:132分 公開日:2023年12月22日(日本は2024年4月5日)

 


主に60~70年に活躍していた”鉄の爪”フリッツ・フォン・エリック、その息子たちフォン・エリック兄弟。不幸な出来事が相次いだため「呪われた一族」という異名で呼ばれた彼らを描いた実話ベースの映画。

父フリッツ・フォン・エリックの全盛期はさすがに生まれる前なので見てない。
漫画『プロレススーパースター列伝』に出てきたり、プロレスラーの逸話で語られるのを聞いたことあるだけ。
フォン・エリック兄弟たちも、アメリカンプロレスは日本で放送してなかったのでよく知らない。当時のアメプロもプロレス漫画で読んだりゲーセンのWWFアーケードゲームをプレイして憧れを抱いてた程度。
兄弟も全日本プロレスとかに来日してたそうだけど記憶になし……。
ということであまり知識ない状態で観た。この監督の過去作も観てないし。

〈プロレスの映画〉という視点ならダーレン・アロノフスキー『レスラー』(2008)はかなり良かった……けど、この破滅的なレスターの映画を観て帰宅したら三沢光晴が亡くなったりして考えさせられた。フローレンス・ピューがWWEのペイジの半生を演じた『ファイティング・ファミリー』(2019)……は、まぁ普通だったかな。そういえばWWF(現WWE)のレスラーのリング外の姿を捉えたドキュメンタリー『ビヨンド・ザ・マット』(1999)、これが一番面白かったかも。当時のイカれたビンス・マクマホンとか見ごたえしかなかった。
プロレス自体は子供の時から20代前半まで新日本プロレス全日本プロレスを普通に観てて、20代後半にWWEにはまった。その時はエディ・ゲレロクリス・ベノワという苦労人で渋い2人がチャンピオンになって、日本公演があったので武道館に観に行ってアンダーテイカーのワープとか観て盛り上がった。
……が、翌年あたりにそのエディ・ゲレロが若くして病死。そして少し後にクリス・ベノワが妻子を殺した後に自殺というとんでもない経緯で死亡。
クリス・ベノワ - Wikipedia
ベノワが悪人ならまだしも凄い人格者の苦労人として知られてたのでショックも大きかった。あとレスラーがやたらと若くしてポンポン死んでいくので色々考えさせられるし、WWE全部観てたらめちゃくちゃ時間かかるってのもあってプロレス観るの止めた。
WWEで活躍する日本人(中邑真輔、ASUKA、KAIRI SANE、IYO SKY)とか、ジョン・シナとかアンダーテイカーとか気になる人の試合をたまーーに観るだけで、もう殆ど観なくなってしまった。
……と、全然本作に関係ない話してるようだが要はプロレスラーは膝やら首やら身体がボロボロになったり(特に昭和は脳天から落とす技とかやってたし)ステロイドが能に与える影響とか、それらから逃れるためにコカインやったり(海外)、あと単純に極端な人格の人が多いせいか不幸になる人が妙に多い……最近は対処され始めてそんな不幸は減っていくだろうが2000年以前のレスラーはそんなイメージある。
ある時期、昭和のレスラーがバンバン死んだり不幸なニュースが多い時期があって、時間食うしプロレスあまり観なくなった。
そういう事で昔のレスラーは不幸になるイメージが強いってことで間接的には本作に関係あるかも。

ネタバレあり

 

 

 

 

1980年代初頭、次男ケビン・フォン・エリック(演:ザック・エフロン)、三男デビッド(演:ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(演:ジェレミー・アレン・ホワイト)……たち、エリック兄弟は、元AWA世界ヘビー級王者である父親鉄の爪フリッツ・フォン・エリック(演:ホルト・マッキャラニー)と母親パム(演:リリー・ジェームズ)によって”地上最強の一家”となるよう育てられた。

そんな話。
劇中のプロレスシーンは、フォンエリック家と同じく名門プロレス一家ゲレロ家出身のチャボ・ゲレロ・ジュニアが担当している。劇中の試合は80年代がメインなので現代のスピーディなものではなくじっくりした試合運びを振付して、ザック・エフロンを始めとした俳優たち本人がプロレスアクションを行っている。
冒頭で父である初代・鉄の爪フリッツが引退してプロモーターになる。
フリッツは自分が唯一穫れなかった〈NWA世界ヘビー級王座〉を息子の誰かに獲得させたい。
メインの主人公は次男ケビン。ザック・エフロンが物凄いマッチョに仕上げて演じている、というか本物のケビンより筋肉すごい。ちなみに四兄弟の上に実は長男が居たのだが幼少期に事故で既に亡くなってたらしい。だから今は次男ケビンが一番上。
ケビンは一番最初にプロレスラーになって活躍しておりプロレス的な技術は優れていたが、マイクパフォーマンスやら抗争など、プロレスには必要不可欠な”華”要素が苦手という弱点があった。
それを補うのがケビンに次いでプロレスラーになった三男デビッド。長身で体格にも優れたデビッドはケビンには無いマイクパフォーマンス能力があった。
ケビンに僅かな不満を抱いていた父フリッツはデビッドを推していく。
父の期待に応えるためプロレス一筋で生きてきたデビッドだが、彼は最初から「プロレスで天下獲る!」みたいな思想ではなく彼の本音は「みんなと楽しく暮らしていきたい」という心優しいもの。つまりケビンにとっては家族や仲間との愛情が一番であって、プロレスや王座はそれを実現するためのツールに過ぎない。ケビンにとっては尊敬する父フリッツに褒められたり、兄弟達と切磋琢磨したい。
父の期待がデビッドに移ったから……なんて単純なことからではないだろうが、この時期、ケビンは生まれて初めてできた恋人パム(演:リリー・ジェームズ)との間に子供が出来たので皆に祝福されて結婚する。
「兄弟と両親が健在」「愛する家族全員に祝福されて愛するパムと結婚」、この映画内の範囲だと、この辺が一番ケビンの幸福度が高い。
そして父や兄弟の期待を背負ったデビッド。しかしデビッドはケビンとパムの結婚式で吐血しケビンや我々観客に嫌な予感を感じさせる。映画の中の”嫌な予感”は、予感だけで終わりはしない。またぞろ出てきて、”嫌なこと”をするのよ。
デビッドは日本に試合しに行き、そのままホテルで内蔵不全で亡くなってしまう。ショックを受けるフォン・エリック家。
四男ケリーは陸上でオリンピックを目指していたが1980年、アメリカはモスクワ・オリンピックのボイコットを宣言したため、やる事がなくなったのでプロレスラーになる。総帥フリッツや兄弟の期待を背負ったケリーは”狂乱の貴公子”リック・フレアーを倒し、見事に父フリッツや故デビッドが志半ばで叶えられなかったNWA世界王座……への登竜門となる王座を勝ち取る。寝る前にバイクでドライブするケリー。
次のシーンは朝、目覚めたケリーは飲み物を飲むためキッチンに行くが右足の足首から下がない。バイク事故で切断してしまった数日後だったのだ。
バイクに乗るから事故るんだろうなと思ってたが事故のシーンはなく、後日の朝に足がないっていう、この見せ方は不意を突かれて「ひっ!」となった。
ケリーの事故だけ、事故の瞬間や家族のリアクションなどをスキップしてる演出が、映画として非常に良かった。毎回毎回、兄弟死ぬ悲しむを繰り返してたら実際に起きた悲劇とはいえギャグっぽくなりかねないしね。実際、フォン・エリック家には本当は六男もいて自死したそうだが五男マイクのエピソードに統合されたらしい。ケビン以外の兄弟が死んだり事故ったりが四回も連続で続くと嘘っぽくなるから一個減らしたのかな?よくわからないが、現実では死んだ兄弟が更に一人多かったというのが凄い。

 

 

劇中で起こること全部書いていっても仕方ないのでやめるが、兄弟の相次ぐ死や事故で最終的に兄弟はケビンと義足で復帰したケリーだけになってしまう。
ケビンとパムには息子が二人できたが、ケビンは世間で噂されている”エリック家の呪い”を信じ始め、愛する息子たちに「呪いが伝染しないように」と自宅に帰らなくなる。まぁ、兄弟のうち長男が生まれて間もなく死んで近年10年以内に三回連続で不幸に見舞われ(現実では四回)たら、そう思っても不思議じゃないよね。
一方、義足で復帰したケリーはWWFインターコンチネンタル王座を獲ったりして凄いのだが、痛みを紛らわせるため薬物を乱用したせいか気性が荒くなり不安定になっていく。
後半、ケビンは父フリッツや弟たち(デビッド、ケリー、マイク)も穫れなかったNWA世界ヘビー級王座決定戦に挑戦する。
対戦相手は弟たちとも抗争を繰り広げた”狂乱の貴公子”リック・フレアー(演:アーロン・ディーン・アイセンバーグ)。
試合前、ケビンはシリアスかつナーバスな表情で準備運動する。もはや「フォン・エリック一家、念願の王座が目の前」という事は頭にはない。前述した通り、ケビンの欲しいものは「兄弟や家族と楽しく暮らすこと」だけなのだ、それが半壊してしまっている今、ケビンにとってNWA世界ヘビー級王座などどうでもいいのだ。
虚ろな瞳でウォームアップを繰り返すケビン、彼の目はNWA世界ヘビー級王座を見ておらず自分の内面……一番大事だった兄弟の殆どを失ってしまった一家の呪いを見つめている。
……そんなシリアスなケビンとシンクロしてリック・フレアーによるTV用の、自己アピールのド派手なインタビューが流れる。

フレアー「俺様が他の奴らと違うのは頭のてっぺんからつま先までカスタムメイドだということだ。俺は街の一番大きな丘の上の一番大きな家に住んでいる……。……このジャケットも800ドルだ!(インタビュアーのスーツを嫌そうにつまんで)んん値段もわからんような物は恥ずかしくて着れん~~!(靴を脱いで手に持ちカメラ目線で)だから俺様はトカゲの靴を履き!(手首を上げて目と歯を剥いたキチガイの表情でカメラ目線)んんん時計はロレックス!俺様の全長1マイルのリムジンに乗り込んだ美女25人が俺様の帰りを今も待ちわびている!WOOO!!!!!
そしてフォン・エリック家の不幸を使ってケビンを煽る(というか励ましているようにも聞こえる)。
ハッキリ言ってフレアーのインタビューが面白すぎた。そこそこ似てたし。
昔の若フレアーのインタビューも大体こんな感じ「俺様は常に自分のジェット機を飛ばし!そこには大勢の美女がおり!」とか自慢をわめきちらすのが最高。
本物の昔フレアーのわめきちらし動画を貼るか……と検索してたら、ちょうど父フリッツと言い合いしてる映像があった。大体こんな雰囲気だ。元気が少ない時に観たら元気を貰えるかも。
www.youtube.com
フレアーのマイク・パフォーマンスに匹敵するマイク・パフォーマンスは松居一代の「おちんちんシール」くらいしかない。

www.youtube.com結論から言うと、試合は精神状態が不安定なケビンがフレアーを痛めつけすぎてしまい反則負けになる。ケリーは「どしたん?」と引き気味で、またしても期待を裏切られた父フリッツは呆れ気味。ケビンにボコボコにされて血まみれのフレアーがやってきて「ケビン、さっきの俺様への超暴力めちゃくちゃ良かった!またやってほしい!今から飲みに行こう!?」と笑顔。それどころじゃないケビンは「いや……俺はいい……」と断る。
ケビンの精神状態が危ういシリアスなシーンのはずなんだがハッキリ言ってフレアーのインタビューが面白すぎた。
ケビンvs.フレアーの試合も30秒くらい?の短いものだが、ケビンをコーナーに押し付けたフレアーがチョップして「WOOO!!!」(フレアーの雄叫び、客も真似をする)そこからのフレアーウォーク(相手を馬鹿にしてアホみたいな歩き方する。野性爆弾くっきーがお笑い向上委員会でよく真似している)。

というフレアーの得意ムーブが5秒くらい?流れるもんだから、さっきのインタビューと合わせて一気にフレアーの事で頭が一杯になってケビンの人間ドラマを忘れてしまった。
実のところは僕は全プロレスラーの中でリック・フレアーが一番好きで、一番良いところは強さ以上に受けの天才で「コーナポストに投げられて一回転してスタスタ歩き出す」という訳のわからんムーブも好きだが、

「敵の攻撃を喰らって平静を装って歩き出すが三歩で顔面から倒れる」など芸術作品。
敵の攻撃を平気なふりして顔面からぶっ倒れる……これ以上に尊い動きがあるか?

あと卑怯なキャラでもあったので「NO……NO……」と弱ったふりをしといて目潰し。ひざまずいて「NO……NO……」と許しを請うて油断を誘っといて敵のチンコを殴る……などもたまらない。
映画に関係ないのでやめるが僕はフレアーの自伝やDVDBOXも買ったし最も好きな有名人ベスト5に入る気がする(他には水木しげるジョン・カーペンターなど)。現在は娘のシャーロット・フレアーWWEで活躍している。
このフレアーの話は映画本編に直接関係ないとはいえ「若い時のフレアー完コピを1分近くも展開したら、そりゃ面白すぎて映画をさらってしまうだろう」という僕の意見がこのページにも反映されたと言える。
この映画のためを思うなら、フレアーはデビッドやケリーの時みたいに名前だけ出すとかTVで流れてるだけにしといた方が良かったと思う。フォン・エリック家のこと忘れて「フレアー自伝映画が観たい!」と思っちゃうからね。本作は人間ドラマに焦点を当てててプロレスの面白さ自体を描写するシーンは少ないのだが、どうやら監督がプロレス好きらしいから「フレアーだけはちょっと入れたい!」と思ったのかも。

 

気を取り直して話を戻そう。俺がこれを始めた。だから俺が終わらせよう。
そうこうしつつも起きてはいけない更なる悲劇が……起きてしまう。
ケビンが大切なにしていたものは全てなくなってしまう。
ケビンは生まれて初めて父フリッツに反抗して首を締める。
「アイアンクローって、確かにフォン・エリック家の必殺話だけど別に劇中で象徴的に使われるわけでもないから映画のタイトル『フォン・エリック』とかでも良かったんちゃうか?」とか思いながら観てたが、この父への首絞めはひょっとしてアイアンクローと被らせてて、だから映画のタイトルにしたのかも……と、少し思った。
父フリッツの描き方は「諸悪の根源」にも見える。しかし「DVしまくり」とかそれほど分かりやすい毒親ではない、普段は家族を普通に愛してるし浮気もせず妻とも仲が良い。ただここ一番の家族の精神的なピンチの時、1mmも寄り添う素振りがない、という事は一貫して描かれていた。「自分は出来るから他人もほっときゃ出来るだろ」と思ってるタイプ?最後に妻も家を出るとかはしないが仕事から帰ったフリッツに夕食を作らなくなり故マイクが興味を持っていた自分の事(絵画)を始めるという絶妙なかたちでフリッツ批判をしていた。フリッツもそれで逆ギレするわけでもなく受け入れてるし、全員をちゃんと人間として描いてる感じ。……とは言ったものの、兄弟が4人も(現実では5人も)死んでしまうというのは、弱みを見せた子供に一切寄り添わなかったり、すぐ目を離してしまうフリッツのせいとしか思えないよね。
そして死んだ後のフリッツ・フォン兄弟たちも実に暖かく描いていた。
「たったひとつの大切なもの、全て失った」と絶望したケビンだったが、彼には愛する妻子が居た。父フリッツの妄執を捨てたケビンは『機動戦士ガンダム』(1979-1980)ラストのアムロのように帰れる場所に帰っていった。
実際はどうだったかわかんないけどこの映画観た限りだと、ケビンが独身だったらケビンもそのまま死んでたんじゃないかという気がする。

そういう感じでしんみりしつつも最後は暖かくて良い映画でした。
……良い映画とは思うが、ちょっとしんみりしすぎかなという気もした。中盤から兄弟がどんどん不幸に見舞われていって、どうしてもしんみりせざるを得ないので前半はもっとめちゃくちゃ派手に楽しくしといた方が良かったかも?その方が死のショックもデカくなっただろうし。

 

 

 

 

そんな感じでした

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The Iron Claw (2023) - IMDb
The Iron Claw | Rotten Tomatoes

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映画『アイアンクロー』再生リスト - YouTube

『キャビン・フィーバー スプリング・フィーバー(旧題キャビン・フィーバー2)』(2009)/下品系ホラー部分も良いけどタイ・ウェスト作品に期待する人間ドラマや冴えないヒロインのエモ描写がやっぱ良かった🦠


原題:Cabin Fever 2: Spring Fever 監督&原案:タイ・ウェスト 製作国:アメリカ 上映時間:86分 ※劇場未公開作品

 

 

地味に観たかったがタイ・ウェスト作品、アマプラに来てたのですぐ観た。
「X」三部作の第一作『X エックス』 (2022)は「なんか悪いけとか70年代ホラーが好きそうで趣味が良いけど面白いような面白くないのか……」という感じだったが前日譚を描いた続編『Pearl パール』(2022)が傑作すぎて、過去作が配信に入ったら観てるタイ・ウェスト監督作。今年か来年あたりに公開されるであろう完結編の『MaXXXine(原題)』(2024)は今一番楽しみな新作の一つだ。
タイ・ウェストの過去作と言えば『インキーパーズ』(2011)もまた「面白いような面白くないのか……」という内容だったが異常にエモかった。それでいてわかりやすい見せ場がなく(幽霊映画なのに幽霊が出てこず若者がダラダラしてる時間が大半)釈然としない作品なのでネットの評価はめっちゃ悪い。でも僕は凄く良いと思った。
最近アマプラを検索してたらこれがあったので早速観た。
本作の一作目はイーライ・ロス監督の長編デビュー作『キャビン・フィーバー』(2002)。これは一言で言うと田舎に来た若者たちが謎のウイルスに感染して身体がグシャグシャに崩れていくウイルス系ホラー。メインの内容よりもどっちかというと「パンケーキ!」を連呼しながらカンフーキックをスローモーションで繰り出す長髪の男児がいたり本作にも登場する不真面目な警官など、全体的に「メイン以外が面白すぎる」→「この監督面白そうだな」と一気にイーライの人気が出た(それに続いて監督したのが『ホステル』1&2なので一気に人気者になった)。
本作はその『キャビン・フィーバー』(2002)の正式な続編だがイーライ・ロスは離れているし別に続編を観たいタイプの映画じゃなかったしビデオスルーだったので僕もスルーして15年……経ったがまさかその監督の映画に感動して掘り返す事になるとはわからんもんだね。
当ブログに感想とか描いてないけど短編とかも可能な限り観てる。
V/H/S シンドロームのgockの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画

本作は、アマプラでは『キャビン・フィーバー スプリング・フィーバー』 という邦題だが映画情報サイトなどでは『キャビン・フィーバー2』になっている。多分、昔DVDが出た時は『キャビン・フィーバー2』だったけど配信するにあたって邦題が変わったのだろう(細かいけど『キャビン・フィーバー2 スプリング・フィーバー』になってるサイトもある)。
こんな映画、検索するやつ殆ど居ないだろうが一応、検索に出るように記事タイトルに2つ書いておいた。
ちなみに3作目は1の前日譚『キャビン・フィーバー ペイシェント・ゼロ』(2013)、イーライ・ロスが製作総指揮&脚本を務めて一作目をリブートした『キャビン・フィーバー』(2016)というのもある。が、どちらも観てない。多分どちらも観てない。
YOUTUBEなどに比べて旧作の記事って殆ど誰も読まないので(本作のような不人気作は特に)、ほぼ虚空に向かって喋ってるような虚しさがあるが自分のために書いてるので頑張っていこう。

ネタバレあり

 

 

 

 

前作は、田舎に遊びに来た大学生の若者たちが身体が崩れ落ちるウイルスに罹って全滅する。主人公も感染して川に落ちて死んだ。

……と思ったら生きててゾンビみたいになりながらスクールバスに轢かれて『ロボコップ』の悪人みたいに粉微塵になって死んだ。
前作ラストで確かに死んでた気がするがこの粉微塵になって死ぬ華々しいオープニングのために蘇らせられて殺された感。
OPで前作の主人公の血肉がこびりついたスクールバスから運転手が感染したり、前作のウイルスがどっさり入った飲料水が学校に運ばれる様がアニメで描かれる。
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本作の主人公は前作の山の近くの高校
生徒たちは卒業間近でプロムパーティの噂をしている。
主人公は医者になるため大学進学が決まっているジョン(演:ノア・セガン)。
そのジョンが幼い頃から想いを寄せているが彼氏がいるキャシィ(演:アレクシス・ワッサー)、ジョンの親友は大柄のアレックス(演:ラスティ・ケリー)。
前半~中盤で、徐々に生徒や職員たちの中に感染し始めるものが増えていく。
主人公の親友の大柄も、振られて泣いているビッチ系女子生徒に「どしたん?話きこか」と優しく話しかけたら猛烈にオーラルセックスされる。ラッキー。しかしビッチ女生徒の口にはヘルペスみたいなものが出来ていて殺人ウイルスに感染していた。このラッキースケベによって大柄は既に死んでしまった。

ジョンはキャシィと仲がいいのだが、キャシィの暴力的な彼氏に嫉妬していつも絡まれている。だがジョンは勇気を出してキャシィをプロムに誘う。
既に何人か感染者が出始めているプロム。感染者古参のスクールバス運転手は悪ガキ達を嫌ってるのでパンチに尿を混入させる。
これによってジョンとキャシィが殺人ウイルス+ションベン入りパンチを飲む飲まないのプチスリルを演出。だがキャシィの嫌な彼氏が二人の間に割り込んできたおかげで2人は死ぬパンチを飲まずに済んだ(こんなシーンで「世の中なにが幸いするかわからんな」と考えさせられてしまった)。
それにしてもこの、北米のプロムという風習、そしてアメリカの高校生のパーティに必ず出てくるパンチという飲み物(大きいボウルに甘い粉を溶いたカラフルな飲み物?)。これどんな味なんだろ。めっちゃ甘そう。それよりもデカいボウルに入った飲み物をパーティの間じゅう放置してて、飲みたい時は柄杓のような物で掬ってコップに入れて飲む。……いやぁ、これ汚いだろ……ホコリとか小さい虫とか入りそうじゃん。
パンチを飲もうとしてキャシィの嫌な彼氏に絡まれて外に出たジョン。
追いかけてくるキャシィ。
ジョンは感情を爆発させて「僕にはわからないよ!何で君がバカなのか!君は凄くいい娘なのに、よりにもよって何であんな嫌な奴と付き合ってられるのか!」「僕が君のことをずっと昔から好きなのは周りの奴ら皆知ってるのに何で君は知らないの?バカだから!?もう僕のことは放っといてくれ!」と叫ぶ。キャシィはさめざめと泣いている。
このジョンが激怒しながらキャシィを褒めつつ激怒したまま告白する一連の流れは演技も言い回しも素晴らしい。めちゃくちゃ良い!ジョン役の青年の表情とか言い方、弱りきって聞いてるキャシィ、全て良い!
キャシィもまた自分の腕を抱いて「しく……しく……」と泣いていて凄く良い。
演じてる女優さんはあまり見かけないが今は脚本とか監督も始めてる女優らしい。凄く特徴的な、美人なんだかそうでないのか曖昧なそれでいて奇妙な愛らしさのあるルックスをしている。そしてこのキャシィというキャラも「優しくてお人好しで……しかし嫌な奴と付き合ってる女子」という絶妙なキャラ。
成績優秀なジョンに「貴方が医者になってこの町に帰ってきたら皆、太って子育てしてるわ。私には特に目的もない。私の彼氏もきっと貴方が羨ましくて焦って意地悪してるんだと思う」とか言う。ジョンはキャシィの事が好きだがキャシィの方は、ジョンに置いていかれると思ってる女の子なのだ。
ジョンの怒りと泣きが入った告白をしくしく泣いてるキャシィを見てると、しょうもないエログロホラーのステレオタイプなキャラを超えて、何だか自分の幼馴染かのような人間味を感じてキャシィが愛おしくなってくる。
『インキーパーズ』(2011)のヒロインも割と似たタイプのキャラだった(可愛いのかそうでないのかよくわからないルックスの、目的がない儚い凡人の女子)。『インキーパーズ』(2011)のヒロインも好きだったな。『Pearl パール』(2022)のパールも殺人鬼ながら、薄幸どんづまり少女って感じで凄く心を揺さぶられた。何かタイ・ウェストの描く凡人の女の子キャラはツボに深く刺さりますわ。

……といっても本作はそんな風に人間ドラマを観るものじゃなくて全編、SEXと血と爛れる皮膚とチンコとゲロとションベンと堕胎……そんなのばっかりのエログロホラーなのだが。でも個人的にこの監督の人間ドラマやキャラクター造形は凄く刺さる。
このシリーズの本来の楽しみ方は、思春期の生々しい「生」と色んな気持ち悪い描写をシンクロして描くのがこのシリーズだからね。
タイ・ウェスト作品にはカッコいい映像とかホラー演出もそうだが、こういう人生うまくいかないやりきれなさを感じるタイプのエモさを求めてるので、このシーンで割と元は取れた気がする。
しかしスーツを着た政府のエージェントがジョンとキャシィを高校へと送り返す。政府は、学園の者は全員がウイルスに罹患したと見て、全員を校舎に閉じ込め、逃げるものは射殺して全員見殺しにするつもりなのだ。
ジョンとキャシィは大柄アレックスと合流し脱出しようとする。
プロムのパーティ会場は全員発症して血の池地獄になっている。
そんで前半のラッキースケベのせいで発症したアレックスとか、ジョンの過剰な治療法とか、キャシィの嫌な彼氏との決着とか色々ありつつ映画は終わる。
前作にも出てた声の高い不真面目警官は本作にも全編出ており、上手く使われている。
しかしジョンの過剰な治療法は、結局失血により逃げられなくなるし恐らくキャシィも罹患したであろうし、やんない方がよかったよね……。
色々下品に振り切ったメインのホラー部分は悪くないが、さすがにイーライの『キャビン・フィーバー』(2002)の方がいいかな?
自分的にはタイ・ウェストっぽいエモ描写&行き止まり系凡人ヒロインを期待して観たので、割と観たかったものはジョンとキャシィの言い合いのところで満足して後はオマケって感じだったが……この監督、Xシリーズ終わったらホラー以外の映画を観てみたいかも?

他のアマプラにあるタイ・ウェスト作品『サクラメント 死の楽園』『ゼム』を観るか、次は。

 

 

 

そんな感じでした
〈タイ・ウェスト監督作品〉
『Pearl パール』(2022)/製作&脚本もしてる主演のミア・ゴスと彼女が演じる主人公のどうしようもなさとタイ・ウェスト監督らの異常な真剣さに物凄く心が動かされた👩🏻🪓 - gock221B
『インキーパーズ』(2011)/死ぬほど低評価の何も起きないホラーだが自分には掛け替えのない一本になった変な映画。Xシリーズのタイ・ウェスト監督作品👰 - gock221B
『X エックス』 (2022)/公開時に観てピンと来なかったのだが傑作だった続編『Pearl パール』(2022)観たら思うところあったのでもっかい観て感想書き直した❌ - gock221B
『サクラメント 死の楽園』(2013)/前回観た時パッとしなかったがタイ・ウェストにハマって再見してもやはりイマイチだったが感想書いてる間に良さに一つ気付いて少し評価上がった。今回もまた本題以外の可哀想な少女で演出してた感🥤 - gock221B

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Amazon.co.jp: キャビン・フィーバー スプリング・フィーバーを観る | Prime Video

Cabin Fever 2: Spring Fever (2009) - IMDb
Cabin Fever 2: Spring Fever | Rotten Tomatoes

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『パスト ライブス/再会』(2023)/年取りすぎたせいか劇中の主人公2人ほどは入り込めなかったが映像の美しさと主演の演技やラストのエモさにはグッと来ました👩🏻🧔🏻‍♂️👨🏻


原題:Past Lives 監督&脚本:セリーン・ソン 配給会社:A24 製作国:アメリカ 上映時間:106分 公開:2023年6月2日(日本は2024年4月5日)

 

 

第96回アカデミー賞の作品賞と脚本賞にノミネートされた韓国人の男女の恋愛映画。

過激な作品がウケるカンヌ受賞作品の面白さに比べて、アカデミー賞ノミネート作品って割と真面目かつ白人中心でしょうもないイメージが何十年も続いていた。それでもノミネートに面白い映画が入ることが増えても結局つまんない方が作品賞に輝くことが多い。
だけど『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)くらいから、人種的だったり政治的要素があればエンタメ作品もノミネートされることが増え、韓国映画や邦画がノミネートされるようになり、ここ数年では「アカデミー賞にノミネートされてるから観てみよう」と思うくらい面白い作品が扱われるようになった(個人的に『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)はめちゃくちゃ嫌いなんだが、そういう話じゃなくて昔はこんな映画絶対に入らなかったし)。
そんでノミネートされる作品も面白くなったからなのか加齢のせいなのか、アカデミー賞内部で起こる政治性や事件なども面白いものが多かった。去年や今年のアカデミー賞とか、そこら辺の面白い映画より面白かったしね(記事書けばよかった、時事性が高すぎて当日に書かんと意味ないから後から書いてもアカン)。
今年のアカデミー賞作品賞ノミネート作品、今のところ全部面白いので、全部観ることにした。これも今までした事なかったね(ひょっとして観てなかっただけで今までのも面白かったのかもしれない)。
今のところ観たやつを好きな順に並べると、『落下の解剖学』(2023)『オッペンハイマー』(2023)『バービー』(2023)『哀れなるものたち』(2023)『アメリカン・フィクション』(2023)、本作……って感じか。感想書く前に最下位にはしてしまったが別に嫌いなわけじゃないけどね。
まだ未見のアカデミー賞作品賞ノミネート作品は『関心領域』(2023)、『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(2023)、『マエストロ:その音楽と愛と』(2023)、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023)……と4本なのでもう少しだ。この全部観るのは、ジャンルも違うし本来なら観ないような作品も観れてめちゃくちゃ面白いので来年からもやろうと思った。アカデミー賞自体はもう『オッペンハイマー』(2023)の圧勝で終わっちゃってるので全部観たうえで競馬みたいな楽しみ方することは出来ないが面白いのでOKです。
そういえばここ数年ノミネート作品観た時も面白かった。
劇場やレンタルやサブスクでは、何の映画を観るか決めるのは自分なのでついついお馴染みのジャンルを観てしまいがちで本来自分が観なさそうな作品を見る機会は昔より減りがち。昔ならばTVで映画を見る機会が多かったので放映するものを観ざるを得なかった。だがそれによって思いもよらぬ新しいものに出会える率も高かった。他には恋愛や同棲などしたら本来自分だけじゃ観なかったり読まなかったものに触れる機会が増える。「賞レースに入った作品全部観る」は、それらと似たような映画ロシアンルーレットが楽しめていいかもしれないな。🔫

監督のセリーンさんは、主人公同様に欧米に引っ越した韓国出身の女性監督。自分の経験を活かして長編デビュー作である本作を撮ったらアカデミー賞作品賞にノミネートされたって、すごいね。

ネタバレあり。今回は割と最後まで全部書いてるタイプの感想なので注意です……
でも観た時、酔ってたので記憶が少し曖昧meです

 

 

 

 

韓国・ソウルで同じ小学校に通う12歳の女児ノラと男子ヘソン
成績優秀な2人は互いに淡い恋心を抱いていたが、ノラの家族が海外移住することになり2人は離ればなれになる。

12年後ノラ(演:グレタ・リー)はニューヨークで作家を目指しており、ヘソン(演:ユ・テオ)は兵役を終えていた。2人は24歳
ヘソンはFacebook的なSNSでノラのことを探しており、そんなヘソンを見つけたノラは返信し、2人はモニター越しに12年ぶりの再会を果たす。
2人はしばらくビデオチャットを楽しんでいたが、恋心が募ったノラは「自分は作家になりたいとか明確に目標を持ってここで暮らしてるのだがビデオチャットやりすぎて四六時中あなたの事を考えて心が常に韓国に飛んでいる。もうチャットは辞めよう」と、電脳空間での逢瀬を辞める事を告げる。ノラは自己実現中だし韓国に住むつもりはない、ヘソンもいきなりアメリカに住む金もないしそもそも最初からそんなつもりがない。違う惑星に住んでるようなものだ。2人は再び互いを好きなまま離ればなれになった。
ヘソンは地元、韓国で常に同じ居酒屋でいつめんと飲んでいる。この居酒屋、韓国映画やドラマに昔からよーく出てくる居酒屋。なんか平屋で通りが見える全面ガラス張りで、鍋とか焼き肉をつつきながら透明のお猪口みたいなので飲む感じ。韓国の映画やドラマに出てくる庶民の……特に男が行く飲み屋ここ20年くらい、ずっとこれだな?

更に12年後36歳となったノラとヘソン。ノラはアメリカ人作家のアーサー(演:ジョン・マガロ)と結婚していた。ヘソンも12年前の別離の直後に同じ町の女の子と付き合い始めたが最近うまくいってないっぽい。
ヘソンは7年くらい前?に結婚する時、夫アーサーと韓国に訪れ、ヘソンとも会おうとしたがヘソンはそのメールに返信せず会わなかったようだ。
ヘソンは、はるばるニューヨークまで旅行しにきた。この旅行が、ノラに会うためなのか、たまたまなのか、恋人と上手くいってないから気晴らしの旅行なのかは、ちょっと劇場でトイレ行った時に見逃したのかしたたか酔ってたせいか、よく覚えていない。
とにかくニューヨークに来たヘソンはノラに再開する。24年ぶりに。
ヘソンと、生身と生身で24年ぶりの再会を果たしたノラは
「わぁー久しぶり……生のヘソンだ……。わァ……あっはははは……」と照れて笑ったり横を向いたりする。この場面の演技が本当にめちゃくちゃリアルで、一気に惹き込まれた。正直言って僕は40代後半という高齢者で主人公2人の干支一回り上なせいか、2人の恋模様に今ひとつのめり込めてなかったのだが、この時のノラ役の女優の演技が上手すぎて、観てる自分がノラでありヘソンでもあり家でノラが盗られるんじゃないかと心配している夫アーサーでもあり……と思えるくらいVR的な感じで三人のキャラの中に引っ張り込まれた。忘れてたけど自分もこういった場面が20、30代の時にあったな?とか無理やり引っ張り出される感じ?これが本作の長所だろうと思った。
その他、単純に映像とかカット割りとか物語の進み方も単純に良かった。だけど、そーいう映像の良さを具体的にどう語っていいのか、映像のボキャブラリーがなさすぎて上手く語れない。とりあえず美しくて観ていたくなる映像でした、それ以上に上手く言う専門的な言い方を知らない。
ヘソンは24年前の子供の時に、ノラが突然引っ越して行き場のない怒りに囚われたこと、12年前に後先考えずネットで初恋のノラを探してチャットできるようになったが後先考えてなかったので繋がりがすう消えてしまったこと、自分が現在の彼女と上手くいってないこと、彼女は良いとこの子だし自分はもっと金持ちにならなければ彼女に釣り合う男だとみなされない、と悲痛な叫びをノラに聞かせる。
ノラとヘソンは2人でNY観光しノラはヘソンを伴って帰宅。ヘソンは夫アーサーに丁寧に挨拶してホテルに帰宅。デジャブ。
帰宅したノラはヘソンのことを「良い男性だけど欧米の目から見れば少し前時代的な典型的な”韓国の男”だ」と語る。
ノラの夫アーサーは「君がヘソンに盗られるんじゃないかと不安だったよ。僕には君たちのような韓国人同士の意思疎通もなければ24年に渡る時の重さもない」的なことを冗談まじりに語る。
ノラは「私が今更あなたを捨ててヘソンと逃避行を?そんな……ありえないわよ笑」と、夫アーサーを安心させる言葉を言う。
翌日はノラ&アーサー夫婦とヘソンが三人で街で過ごす。
色々回って、ヘソンが韓国へと帰国する時が近づき、ノラの夫アーサーは妻を信じて帰宅。ノラはヘソンをタクシー乗り場まで送る。2人は見つめ合う。
ノラとヘソンは互いを24年前から現在まで想いあっている。だが2人の状況が互いを結び付けなかった。2人が24年ぶりに過ごしたこの2日も、2人は言葉をなくして何度か50秒くらい無言で見つめ合ったりした。今もしている。
……自分がノラの夫アーサーだったら、自分の妻が百回不倫SEXするよりも、この”本気の”見つめ合い数回の方がキツいと思う(だってお互いが本気だから)。
ノラは勿論、ノラに「いかにも韓国って感じの男らしい男」と評されたヘソンも、馬鹿じゃないので結婚しているノラの夫アーサーを無視して不倫などはしない。その代わり2人は互いが結ばれない今世を冗談交じりに嘆いて笑う。
タクシーが来て2人は24年前と同じ構図で、いつものように互いに何も干渉しないまま離れ離れになる。

自分がヘソン君の年齢の時……を思い起こすと、こんなやっても仕方ないことはしなかったなとは思うが一応気持ちはわかる。
「ヘソン、お前は24歳の時に全てを捨ててノラを追って渡米しとけ!それがダメなら二度と恋心を見せず只の幼馴染の友人に徹しとけ!」……と、言うことは簡単だ。自分はヘソンじゃないし自分のマインドをコントロールできるようになったヘソンより一回り年上のおじ(中年男性)だからね。だがヘソンに寄り添って考えるなら、どうしてもノラと物理的に逢って自分の気持ちをぶつけないことには前に進めなかったのだろう。そして二人共常識や思いやりがあるのでアーサーをないがしろには出来ないので不倫などはせず別れる(とはいえ、どっちか片方がグッ!と来たら、もう片方はそれを容易に受け入れてたとは思う)。
ノラは帰宅する。そしてアーサーに縋り付いて声を出して号泣する。
そこでノラの気持ちが観てる僕の中に入ってきて凄く釣られて泣きたい感情が湧いた。

主人公2人と同じ様に、24歳または36歳くらいだったらもっとグッ!……と来てた気がする。残念ながら今の僕は40代後半の初老なのでそこまで来ず「不倫するなら不倫、綺麗な思い出を残しておきたいなら最初から会うな!逢ったとしても30秒間見つめ合ったりすな!それってSEXより良くないから」としか思えなかったのが残念だ。だけどそんな事は言いたくない。劇中のヘソンやノラは真摯に互いの運命に向き合ってるからね。……とは言いつつ「ヘソンは36歳にもなってあまりに無邪気すぎないか?」とか「奪い取る気持ちもないんだから幸せに暮らしてるノラ夫婦に近づいてノラと数十秒間見つめ合うという視線FUCKすなよ、というか最初からNYに会いにくるな!こんな時間あるなら地元の自分の彼女と上手くいくよう動け」……と言いたい気持ちもあったけど、まぁ映画だしよしとしましょう。
だけど、24年ぶりに再会して照れるノラの仕草、そしてラストのノラの号泣。これはさしもの(さすがの)僕もグッ!と心臓を掴まれました。

ノラや監督同様の女性?または24歳か36歳くらいの似た想いをした人なら全編良かったかもしれない。僕は、加齢により、良かったのは映像と2つのシーン(24年ぶりに逢って照れるノラ、三度目の別離をして夫に縋って号泣するラストのノラ)だけでしたね。
もっと一回り又は二周り若い時に観たかったな、とは思ったけど客観的に考えるとなかなか良かった気もしました。

まだ未見のアカデミー賞ノミネート作品は、『関心領域』(2023)、『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(2023)、『マエストロ:その音楽と愛と』(2023)、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023)……残り4本なので全部見て順位を決めたい。残りの4本で一番観たいのは再来月公開の『関心領域』(2023)ね。

 

 

 

 

そんな感じでした
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Past Lives (2023) - IMDb
Past Lives | Rotten Tomatoes

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『オッペンハイマー』(2023)/映画自体はノーランの中でも1番おもろかったくらい傑作だったが、オッピーもノーランもダウニーJrも……人類全体の未来といった漠然としたものや身内への愛はありそうだが他国のことは選択肢にも入らないレベルで意識になさそう🍄


原題:Oppenheimer 監督&脚本&制作:クリストファー・ノーラン 製作:エマ・トーマス、チャールズ・ローヴェン 音楽:ルドウィグ・ゴランソン 撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ 編集:ジェニファー・レイム プロダクションデザイン:ルース・デ・ヨンク 原作:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン 『オッペンハイマー』(2005) 配給:ユニバーサル・ピクチャーズ(日本はビターズ・エンド) 製作国:アメリカ 上映時間:180分 公開:2023年7月21日(日本は2024年3月29日)

 

 

クリストファー・ノーランの新作。
ノーランの映画は途中までかなり嫌いだったのだが『インセプション』(2010)くらいで「いや嫌いじゃないかも……」と思い始め『インターステラー』(2014)以降は普通に楽しみに観る監督になりました。

「原爆の父」ロバート・オッペンハイマー博士の伝記映画。
ロバート・オッペンハイマー - Wikipedia
先日の第96回アカデミー賞で13部門にノミネートされ。そのうち作品賞、監督賞、編集賞、撮影賞、作曲賞、主演男優賞、助演男優賞……など獲りまくり七冠達成した。

日本公開めちゃ遅れ
アメリカ本国での公開は去年の7月だったが日本での公開は遅れに遅れて、もうとっくにアメリカでは映像ソフトが発売されてかなり経つ今頃公開された。
内容は「決して原爆を肯定しているものではない」という情報は早くから聞こえていたが、単純に原爆だの日本軍だのを描いた映画を公開すると過去に、特定の社会的思想を持つ人達が、映画の内容は特に観ないまま抗議したり物理的な邪魔したりして上映中止運動するので、それを嫌った日本の大手映画配給会社は手をこまねき、結局、8ヶ月遅れでビターズ・エンドが公開する事になった(この遅れた理由は全部、推測だがアカデミー賞13部門ノミネートされて七冠を獲って大ヒットした、日本の映画ファンが大好きなノーランの新作が遅れに遅れた理由はそれしかない)。
ちなみに日本公開版ポスターも↓

こんな感じで「念には念を」ってことなのかアメリカ本国のポスター(左)には原爆だったり爆炎やキノコ雲などのどれかがポスターに必ずデザインされていたが、日本版のポスター(右)は日本の特定の社会的思想を持つ人を刺激しないようにかデザインから原爆は外されており原爆実験の時の鉄塔だけポスターにデザインされているのでオッペンハイマーのことを知らない人が見たら「鉄塔を発明したおじさんの映画かな」と思いそうなデザインになった。ポスター見ただけで抗議してくるような日本の特定の社会的思想を持つ人は「オッペンハイマー」の名前を知ってるので、そういう人を避けたいのであればデザインから原爆を除けただけでなく邦題も『おじさん』(2023)にすれば日本の特定の社会的思想を持つ人も「漠然とした素のおじさんの映画かな」と思わせることもできただろうに。どちらにしても間抜けな話だ。

バーベンハイマー
去年の夏、同時期に公開されて大ヒットした『バービー』(2023)と本作をコラージュしたミームバーベンハイマー〉が流行った。
原爆という深刻すぎる題材を扱った本作と、ジェンダー問題を扱った映画だがパット見はカラフルな服装の笑顔のバービーが活躍する『バービー』(2023)とを組み合わせちゃおう!というセンスはネットでありがちだし理解できる。
バーベンハイマー - Wikipedia
だが一般人がミームで遊んでるだけなら日本人たちも「こら~!はしゃぎすぎよ~」とΖガンダムのファみたいに腹を立てるだけで済んでたが『バービー』(2023)を配給するワーナーもX公式アカウントで無神経な感じで宣伝にバーベンハイマーを使ったことで「線越えたな?またぐなよオイ!」と本式に(本格的に)怒りだす日本人たちも増えて報道されたりして、遂にはワーナージャパンX公式アカウントまで怒りだし、アメリカの本家ワーナーX公式アカウントも「……なんか、ゴメンネ?」という非常にキョトンとした雰囲気で謝罪して幕を閉じた。
僕はというと「確かに不謹慎なことは間違いないし良い気はしないが、原爆を知らん人らの生み出したミームだしこんなもんだろ」という感じで特に何の感情も湧かなかった。
正直なところワーナーX公式アカやミームで遊んでた人たちも「え……?ミームに対して怒るの?電話やホームパーティを叱るママみたいに?……というか日本人が自分の意思を持って俺達に話しかけてくるとわー?笑」といった感じでアメリカ人同士が互いに顔を見合わせてクスクス笑ってる様が容易に想像できた。すぐ下のダウニーJrシカト事件とも繋がってくる話だが、不謹慎だからどうのこうのという以前の段階で、何かをする前に「これしたらあいつら怒るかも?」と、脳裏に浮かんで取捨選択する対象にすらなっていない感じするよね。

上流白人男性ダウニーJrが無意識にアジアン俳優キー・ホイ・クワンを超シカトした件
本作と第96回アカデミー賞といえば七冠達成という快挙以外にも助演男優賞を受賞したロバート・ダウニーJrのレイシスト疑惑も話題になった。前年受賞者でありダウニーJrの受賞を陽気で発表して呼び込んでくれたキー・ホイ・クワンが手渡すトロフィーを、まるでパーティ会場のウェイターからカクテルを受け取るかのように、ハグや握手はおろか目も合わせず受け取った。これが国内外で「えっ無視した?」と話題に。
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これ観たアジア系の人が「ああっ、これよく白人にやられがちな、透明人間みたいな扱いされるやつ!」と話題になった。個人的には、ダウニーJrがアジア人を嫌って「あっ汚らわしいアジア人だ。無視してやろう!」と故意にレイシスト的に無視する方がまだマシで、ついついキー・ホイ・クワンなど居ないかのように無意識に無視してしまった……というのがより哀しいものがある。
僕はダウニーJrはレイシストなどではなく、それ以前の問題……マジで「キー・ホイ・クワンが視えてなかった」んだと思った。いつものトニー・スターク的なカッコいいセレブ動作で動きつつスピーチを頭の中で反復していたのか、いつものクセが出た感じ。
ダウニーJrがキー・ホイ・クワンを無視する……と見せかけてキーを指さして「冗談だよ」と互いに笑いあってハグする場面を観たかったものだ(ダウニーJr的なムーブ)。
無視されたキー・ホイ・クワン本人は、子役スターだったがハリウッドでアジア人に役は無いので振り付けしたり保険証すら貰えないくらい困窮した状態になったりして数年後にアジア人ばかり主演した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 (2022)が作られて大ヒットして、オスカーもここ数年多様性がブームだったので「こいつらに賞あげようぜ」というノリで奇跡的に受賞できて「母さん、僕オスカー獲ったよ!」と号泣して皆の涙を誘ったし、今年の発表時も「受賞者は……はっロバ-ト・ダッ二ージュニアぁああ!」とハイテンションで迎え入れてくれたのに完全にシカトされる様、無視されたキー氏は場を盛り下げないように「行っちゃった!おめでとうダウニーJr!」といった感じで全力でニコニコし続けたりと居た堪れないものがあった。……同様にキーと夫婦役だったミシェール・ヨーもエマ・ストーンジェニファー・ローレンスに  無視されるかたちになったが後日ヨー様が「あれは2人が親友だから、私が引いただけだから誤解よ!」とフォローした。確かにそうだったんだろうけど白人は誰も言い訳すらせずキーとかヨーなどアジア人だけが全力で汗だくフォローする様が何かを象徴してるよね。そんでダウニーJrや他の白人俳優たちも皆レイシストとは思わないし熱心で良い人だと思うのよ。ただ、上記のバーベンハイマーの話の続きになるけど本当にアジア人とかが気に掛ける対象じゃなかっただけ、それが土壇場で出てしまった感じだろう。
ダウニーJrのファンやアカデミー賞を紹介する仕事をしている映画評論家やタレントの人らだけが「ダウニーJrはオスカー獲って緊張してただけだよ!」などと擁護していた。あと「賞が終わった後でダウニーJrはキーと握手したり記念写真撮ってるよ!」とか頑張っていたが「そりゃ握手したり写真撮ったりするだろ親の仇でもないんだから……それが普通だしそれも仕事なんだから……」としか思えなかった。あと「ダウニーJrはオスカー獲って緊張してたんだ!」という擁護もあったが「ダウニーJrがオスカー受賞のステージなんかで緊張するわけないだろ!」と思った。ファンの方がダウニーJrを低く見積もっててファンじゃない僕の方が彼を高く見積もってる状況が可笑しかった。
だが本作のダウニーJrが演じたストローズは嫌な奴だし、アイアンマンことトニー・スタークも身内や世界のために命をかけるヒーローだが割とマジでこういう事やりそうなキャラなので僕の中ではイメージダウンにはならなかった(『アイアンマン3』(2013)でも自分のファンの待ち合わせを無視してヴィラン化させてたし)。
無視事件は置いといても助演男優賞『バービー』(2023)でケンを演じたライアン・ゴズリングにあげて欲しかった気分もある(※だがこの感想ページの最後で、やはりダウニーJrで良かったという結論になった)。
『バービー』(2023)は本作よりも大ヒットしたが、どういうわけか今年のオスカーではうっすらコケにされる役割になって助演ゴズリングはノミネートされたが女性陣はノミネートすらされなかった(今年のオスカーは「女やマイノリティに賞あげるブームに異論を唱えるのをやめるのをそろそろやめようぜ!」という雰囲気を感じた)。
今年のアカデミー賞ものすごく色んな事がいっぱいあり映画より面白かったので幾らでも書けたので記事にすればよかった……3日以内に書かないと遅いので書く機を逃した。
割と関係ない話を本編の感想より長くしてしまったが、これも本編の内容に繋がってくる感想のうちなので宜しいですね?
オッペンハイマー本人について特別に詳しいわけでもないので、ただの感想。

ネタバレあり

 

 

 

 

理論物理学J・ロバート・オッペンハイマー(演:キリアン・マーフィー)の半生。
そしてマンハッタン計画原子力爆弾を開発しトリニティ実験するくだり。
そして戦後、赤狩りの中、ソ連スパイ疑惑を受けたオッペンハイマーが受けた聴聞
その数年後、オッペンハイマーと対立していた野心家の凡人ルイス・ストローズ(演:ロバート・ダウニーJr)の公聴会
大きく分けて、これらが時系列シャッフルで並行して描かれる。

 

この映画自体も、これの時系列シャッフルも全て「オッペンハイマーはどういう人物なのか?」という一点を描いてるだけなので特に難しいことはない、知識にない知らない話が出ることもあるだろうが、とにかくこれは原爆や第二次世界大戦よりも「オッペンハイマーという男」を描いてるだけなので、それに気付けば困ることはない。『エヴァンゲリオン』が「シンジ君の話、それだけ」というポイントを抑えてれば他の謎とか設定は全て飾りなので本筋を追うのに全く難解でもなんでもないのとよく似ている。

 

一番古い時間軸はオッペンハイマーが大学生の時、教授の机の上に置いてあるリンゴに青酸カリを注射する。翌朝、目が覚めたオッペンハイマーは「……いや、やべえええ!やべー事したああ!」と焦って大学に行ってリンゴを捨てる。その教授を憎んでたか?と思ったが、後に「いや、むしろ教授のことは好きだった」とか言い出すし、よくわからない。初っ端からオッペンハイマーのヤバいところを描いてくる。彼の〈死神〉的な側面を強調したかったのか?映画の序盤、オッピーとストローズの聴聞会やオッピーの反省がバラバラで描かれるので、まだオッピーのことを掴みかねてる時だったので何で教授のリンゴに毒をいれたのかピンとこなかった(また、アメリカ映画でリンゴといえば知恵の実がどうのこうの言うのはやめとこう。なんか恥ずかしくなってリンゴのように顔真っ赤になりたくないから)。

 

オッピー役のキリアン・マーフィ『インターステラー』(2014)主人公のマシュー・マコノヒーに顔がそっくりだった。主演と映画監督って顔がだんだん似てくるんだけど、ノーランもこの系統のユダヤ人っぽい白人俳優をよく出す印象あるね。他にもリーアム・ニーソンも似てる。なんかわかる?目の部分が少し窪んでる感じの顔の白人。

 

その後、本人が凄く鬱っぽいのに精神科医やってるジーン・タトロック(演:フローレンス・ピュー)と出会いから別れまでを数分で描いて、次に後に彼の妻キャサリンオッペンハイマー(演:エミリー・ブラント)となる学者兼人妻キティと出会って数分でキティが妊娠して離婚して結婚出産してキッチンドランカーになってすぐ治ったりする。この辺のスピード感があまりに早すぎて笑ってしまった。

ジー役のピュー氏はかなりモロなSEXシーンが何度かある、特に聴聞会で結婚した後のオッペンハイマージーンと会ってたって話してる時に正妻キティが、聴聞会で質問を受けているオッペンハイマーに全裸のジーンが跨ってFCKしてる幻視はかなり面白い(本作はこういう感じで漫画みたいに実にわかりやすい幻覚みたいなシーンが多くて楽しい)。またジーンは「花束が嫌い」というキャラでオッペンハイマーが花束を渡しても毎回2秒後にはゴミ箱に投げ捨ててしまう!だけど速攻で捨てるにも関わらずオッペンハイマーが花束を渡す時に嫌みを言いつつ嬉しそうなオーラを発散するので本当は嫌じゃないんだろう。「精神が複雑ゆえにオッペンハイマーの好意を素直に受けられないが内心は嬉しがっている」という性格を長ーい映画の中の序盤で数分で見せるには、この「花束即捨て、でも嬉しそう?」のアイデアはめちゃくちゃ冴えてるなと思った。
ただジーン役のピュー氏は生命力あふれすぎてて、とても自死する人物には見えなかったが……。

正妻キティは、オッピーと時に喧嘩しつつも最後までオッペンハイマーを支える。本物がそういう人物なのかどうかは知らないが殆ど笑ってる時がなく終始、曇り空のような不機嫌そうな顔をしている……というかこのキャラがエミリー・ブラント史上一番キレイだと思った。ことある毎にオッペンハイマーに「アンタ、なんで闘わないの!」と鼓舞したり、聴聞会をキティも受けさせられた時の、敵の意地悪弁護士みたいな奴とやり合う様がめっちゃカッコよかった。「その”言い方”が気に入らない。”共産主義との関係”とか訊いてくるけど共産主義との”関係”なんて初めからないんだからそんな事訊かれても困るし、だからそもそもその”訊き方”が気に入らないって話よ」みたいな台詞(うろ覚え)が凄いカッコよかった。トーンポリシング的な意味での”言い方”批判ではなく「お前の”言い方”での話に合わせると私が不利になるから、お前の”言い方”で話はしない!笑」という意味での”言い方”批判。僕もうかなり中年なんで映画の台詞を真似したくはあまりならなくなったが、これは久々に厨二病的な心が反応して真似したくなった。キティは「水爆の父」をめっちゃ嫌ってて終盤(将来の映像)顔を合わせた時に怒ったブルドッグみたいな表情で睨むところも最高だった。
というか、このオッピーの妻キティ、好きなタイプかも……。
だけどアカデミー賞の時にエミリー・ブラントは「このドレス、イケてない?原爆みたいで!」とか言ってた(この映画こんな話ばっかり)。

 

あと意外なキャスティングだと物理学者役してたジョシュ・ハートネット久しぶりに観た。最初は90年代に期待のイケメンとして出てきたが何故か長年B級映画みたいなのにしか出ない謎の俳優になってた(理由は知らん、何か問題を起こしたのかな?)久々に大作出てるの観た。
あと要所要所で出てくるアルバート・アインシュタイン(演:トム・コンティ)役、誰かと思ったら『戦場のメリークリスマス』(1983)のローレンス役の人だった。アインシュタインはさすがに浮世離れした妖精みたいな神秘的な人物という雰囲気で撮られていた気がする(それとも誰もが知ってるアインシュタインの格好を見たら、誰もが「特別な気分」になってしまうだけかも)。
あとはノーラン作品の常連とかノーランがキャスティングしそうな印象の人たちが多く出てくる。かなりメンツが豪華。

 

いよいよ〈マンハッタン計画〉に任命されたオッペンハイマー。この計画でのオッピーの相棒とも言えるレズリー・グローヴス准将(演:マット・デイモン)。2人は『七人の侍』(1954)よろしくマンハッタン計画メンバーを集め、オークリッジに計画のための工場や町を作り、皆で家族ごと住み、研究の日々……そしてトリニティ実験……。
マンハッタン計画 - Wikipedia
「僕らの国の市民の命が大量に奪われた大量破壊兵器”を開発してるシーン」というところに目を瞑れば「仲間を集めて→試行錯誤→大勝負に出て成功」……という映画の中で最も活気があって素直に面白い盛り上がるくだりだった。

 

そして御存知の通り、実際にヒロシマナガサキに投下され、終戦……。
ヒロシマナガサキに投下された惨状は画面には映らない。オッペンハイマーはただ投下の事実をラジオやレポートで聞くだけ。
最初は計画の成功や戦争の勝利に喜んでいたオッピーだったが、原爆の威力は作ったオッペンハイマー自身が一番良くわかっているためか徐々に罪悪感のような気持ちが酸のようにオッペンハイマーを侵す。
炭になった死体や、爆風で顔が剥がれていく女性の幻覚を見たりする。
その幻覚の死体がどれも綺麗なのは、オッペンハイマーヒロシマナガサキの惨状を直視しておらず想像してるだけだからなのだろう。スライドでヒロシマの惨状を見せられる時もオッピーは目を逸らす。誰しも、自分がした結果で何10万人もの何の罪もない人達が苦しんで死んだ様を具体的に直視したくはないだろう。
原爆投下された広島や長崎の惨状は劇中に出てこない。
ここに批判があったり、逆に「いや、これはオッペンハイマー主観で彼を描く映画であってヒロシマとかは主題じゃないんだよ」「原爆落とされた日本の描写はないがオッペンハイマーは後半原爆作った事をめちゃくちゃ気にしてる」という擁護もある。割とどれも一理あるし、どれも抜けている。
アメリカ人は原爆を喰らったらどうなるか知らない(というか興味がない)。ハリウッド映画に原爆出てくると大抵、カッと光って人がカッコよく骨になる。確かに爆心地は綺麗に蒸発するだろうがむしろ一瞬で死なない距離で被爆した人がどうなるか知らない。だから日本人としては被爆したオバサンとか少女が身体中にガラスが刺さって皮膚が垂れ下がりゾンビみたいに歩いて川に入って水飲んで苦しんで絶命するところを欧米人に見せたい気持ちもある。
僕は広島出身なので小学生の時に毎年、夏休みに集められ女の子がドロドロに溶けて死ぬ『はだしのゲン』とか『かわいそうな象』などの鬱映画を毎年見せられてめちゃくちゃトラウマだったせいか大人になるまで戦争のことは嫌だから思考停止するようになった(これはこれで逆効果な気もする)。
だけど擁護派が言うようにこれは原爆の悲惨さを伝える映画じゃなくてオッペンハイマーの映画であってヒロシマナガサキの映画じゃないんだよね。そんな圧倒的にグロい描写入れたらオッペンハイマーとかどうでもよくなっちゃうし映画の主題から外れてしまう、という意見もわかる。それが見せたければ見せたい人たちが大勢が見たがる原爆の映画作って大勢が観る状況にもっていく必要があるってことか。
というか、色々と批判も擁護もどっちも考えてみたけど、それ以前に直感的に「そもそもノーランはヒロシマナガサキ被爆者とか割とマジで興味ないんだろう」と思った。

 

終戦後、英雄となったオッペンハイマーだったがストローズに嵌められてスパイ容疑をかけられ聴聞会で丸裸にされる。実際に全裸のオッペンハイマーが椅子に座る幻覚シーンが視えたりして、この聴聞会シーンはどれも面白い。
これは裁判などではなくオッピーの敗北は最初から決まっているリンチ会みたいなもの。密室で一方的に色んな秘密を妻の前で暴かれ私刑で抹殺される。そしてオッピーを恨むストローズは「奴には敗北さえ与えん!」というクソデカ感情でもってオッピーを潰す。裁判などにかけると殉教者になってしまう、だから誰も見てない密室でリンチして「曖昧な敗北」を与える。……なんか腐女子が好きそうなキャラだなストローズ。ストxオピBLとか描かれそうだ。
オッペンハイマーは自分の名誉を護るためか?負けることが決まってる聴聞会に出続け、自分を売ってしまうかつての仲間とも握手したりする……この辺は、故吾妻ひでお先生が失踪したりアル中になった時に「ホームレスになったり肉体労働で歳下に使われても平気だったな、僕は漫画が描けるし確固たるプライドがあったから」と言ってたのを思い出しただけ、オッピーには別の理由があったのかも?たとえば原爆を作り出した罪悪感から、責め苦を敢えて浴びたがっている……とかそういうキリスト教的な考えがあったのかもしれん。実のところそのへんはよくわからなかった。
で、オッペンハイマーを逆恨みして嵌めるストローズは、あまりにしょうもない切っ掛けだったし最初から最後まで何してるかよくわからんおじだったし何か勝手に滅んでいくし終始「何だったんだろうあいつ……」という感じが拭えないキャラだった。
割とストローズは見たまんま、只のしょうもない人物なんだろう。
アインシュタインも言ってたけど、オッペンハイマーはストローズに嵌められなくてもアメリカ自体によって落とされ、落とされた後に上げられて遺恨を消して一件落着……という全く同じ結果になってただろうし、そうなるとますますストローズは居ても居なくても関係ない男に思える。自身が疑心暗鬼になってるのと同様、歯牙にもかけられてない感じが凄い。
ストローズにあるのは前述した分不相応な野望とオッピーへのクソデカ感情だけだ。
だからこの映画、「バットマンとジョーカー」みたいな感じの「オッペンハイマーとストローズ」って映画に一見見えるが、そうではなくて最初に言ったように本作は最初から最後まで「オッペンハイマーという男についての映画(その成果としての原爆)」であって、ストローズなんてものはオッペンハイマーの行動によって生まれた只の反作用……オッピーの影の擬人化にすぎないんだろう。
そして「オッピーとアインシュタイン最初の出会い(ついでにストローズ)」を寄りで再び回想し、2人が何を言ってたのかオッピーが何を思ったかで映画は終わる。
ストローズは2人が俺のこと無視する話してたに違いない!と小学生みたいな疑心暗鬼妄想してたが、天才2人は凡人ストローズなんかの話は全くしておらず、ストローズとは違って本当に大事な、未来の世界について話していた。2人が個人的な感情を捨てた「本当に大事な話」をしている背後に、ずっと自分のことしか考えていない卑小なストローズが遠くに突っ立ってるのを同じフレームに入れてるのも可笑しかった。まぁストローズは我々全員……しょうもない事ばかり考えて抜きん出た人の脚を引っ張るだけの「凡人」の集合体なんだろうな。
そう考えるとストローズはやっぱ重要な役だったね。
……というかこのページ書き始めた時はダウニーJrの無視事件や、劇中のしょうもない人格のせいでストローズに興味なかったが、この行まで書くとストローズの良さがどんどん自分の中で膨れ上がってきた!二回目見る時はストローズ中心に観よう。
やっぱり助演男優賞もゴズリングよりダウニーJrで良かった。
原爆による大気の連鎖反応とオッピーのドゥームズデイ・クロック的な懸念をシンクロさせるカッコいい感じで終わる。

 

一言で言うとかなり面白かった。キャストも撮影も素晴らしかったし。
ノーラン作品の中では『インターステラー』(2014)の次か……又は本作が一番良かったかも?
ただ自分が広島出身の日本人なせいか、ノーランの日本の被爆者への興味の無さが気になるのでアメリカ人と同じ勢いで称賛する気持ちにもなれないところがある。
ただ、この興味のなさって別にノーランに悪気は一切ないと思う。劇中で描いたように原爆誕生によって世界は「原爆がある世界」へと永遠に変わってしまった事を懸念しているし世界平和を望んでるだろうし普通に家族や友達に対しても善人だろうと思う。
ただ、本当に曇りなき感じでガチで興味ない気がする。
「原爆を投下した先のヒロシマナガサキの人達」という漠然とした集合体に対しての情はあると思う。だが「身体中にガラスが刺さって皮膚が溶けて水を飲んで苦しみ抜いて死んだ広島の少女」といった感じの具体的な被爆者への興味はゼロ……そういう塩梅ではないだろうか。意味わかる?要は「軍師目線」って事だよね。
徹頭徹尾、才能あるノーランが天才オッペンハイマーに感情移入して作った凄く面白い映画ってことなんだよね。
そんなノーラン=オッピー、「無視しようとしたわけじゃなく、ガチで視界に入ってなくてキー・ホイ・クワンを無視したダウニーJr」、「バーベンハイマーのミームを楽しむが日本人のことや原爆には興味ないアメリカ人」とか、くどくど書いてきたことが全部繋がってるように僕は感じられましたね。
ただ何度も書いたが「私達は、差別されてる犠牲者だ!」とか言いたいのではなく「そもそも、そう言って聞き入れられる段階にすら言ってないから、まずそれを自覚して未来のことを考えるべき」そんな事を思いましたね。
薄々感じてはいたが、あまり国外に出ないから気づかないふりしてた「欧米の白人が他国……特にアジア人に最も興味ない」って事実を考えさせられるよね。
直接関係はないけどウクライナとかパレスチナの問題とかも現在進行系だしね。
劇中のストローズの事を蔑んで書きましたが、凡人ストローズにすらなれてないという自覚を持って、ちゃんと聞き取れるような発信していくなど一歩一歩の前進が大事なんだと思った。
映画は総合的に確かに良かった、傑作と言ってもいい。ただ白人と同じようには盛り上がれない。そんな感じですかね。

 

 

 

 

そんな感じでした

『インターステラー』(2014)/今まで、この監督あまり好きじゃなかったがこれは文句なく面白かった🌌 - gock221B
『TENET テネット』(2020)/今どき珍しい純粋悪を倒す正義の味方という勧善懲悪アクション……そこに「逆行」をひとつまみ……🕛 - gock221B

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Oppenheimer (2023) - IMDb
Oppenheimer | Rotten Tomatoes

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『アメリカン・フィクション』(2023)/”白人が喜びそうな黒人っぽい小説”を望まれて仕方なく大衆が喜びそうな本を書いたら大ヒットしてしまった黒人作家のコメディ。本題と本題以外の人間ドラマが相互作用しあってて凄く楽しかった🧑🏾‍🦲


原題:American Fiction 監督&脚本&製作:コード・ジェファーソン 原作:パーシバル・エベレットの小説 『Erasure』(2001) 製作国:アメリカ 上映時間:118分 公開日:2023年12月15日(日本は2024年2月27日)

 

 

これ、最初に結論をいうとかなり面白かったです。
この映画のことは知らなかったが第96回アカデミー賞の賞レースに参加してたし「黒人作家が、特に書きたくないけど『白人が望む黒人っぽい小説』を戯れで書いたら大ヒットしてしまい悩む」という、一行のあらすじだけで既に多くの映画より面白いので観た。

本国アメリカでは話題作だが日本で劇場公開はなく、知らない間にアマプラで配信されていた。
アメリカではこんなに評価されてるのに劇場公開ないのか」……と思うが、(日本では)有名ではない俳優しか出ていないし、黒人作家のおじさんの人種問題のコメディというのでは客が入らないと判断されたのかもしれない。

第96回アカデミー賞で、作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞、作曲賞など数多くノミネートされ、脚色賞を受賞した。
監督はこれが初監督作。ブログに感想書いてないけど死後の世界を描いて面白かったドラマ『グッド・プレイス』(2016-2020)とか、黒人ヒーローのフーデッド・ジャスティスのオリジンやアメリカ史上最悪の虐殺事件だが歴史から長年消されていたタルサ暴動のくだりが凄かったドラマ版『ウォッチメン』(2019)などの脚本書いてた人。人種問題を面白く書く人という印象。
そんなコード監督がパーシバル・エベレットの小説 『Erasure』(2001)を読んで興味を持って映画化したのがこれ。

ネタバレあり

 

 

 

 

セロニアス・”モンク”・エリソン(演:ジェフリー・ライト)はもう何年も出版していない売れない作家。普段は大学教授として教鞭をとっており文学賞の審査員を務めたりもしておりちょっとした権威でもある。
その名前は、やはりジャズピアニストを想起させるみたいで”モンク”と呼ばれている。僕もセロニアス・モンクのCD持ってたわ。あと故ファラオ・サンダースも20年くらい前にブルーノートに演奏聴きにいったことある(握手したファラオの手は温かかった。あとメニューがめっちゃ高いのでビール飲むのが精一杯だった)。だがジャズは全く知らんのでこの2人のCDしか持ってなかったけど。
Thelonious Monk - Live At Berliner Jazztage (1969) - YouTube
モンクは出版社に「もっと売れそうな黒人っぽい話を書いてくれ」と言われる。
どうもモンクは神話を再解釈した感じの高尚なものを書いていたらしい。だから全然黒人っぽくない。日本のエンターテイメント作品がアメリカでウケるには「侍、忍者、ヤクザ、芸者、寿司、アニメ、任天堂、怪獣、原宿ファッション、東京の町並み、HENTAI」……そういうものじゃないとウケないじゃない。NYあるあるとかスタバあるあるなどの作品を描いたとしたら「いや、それ俺らできるから俺等が出来ない日本っぽいものを出してよ」となるだろう。こう書くとアメリカ白人が「売りやすいように黒人っぽいもの書いてくれ」というのもわからないでもないよね。しかし言われた黒人作家からしたら”黒人”という人種でしか見られてないという非人間的な扱いされてると感じ「自分は◯◯という作家、一人の人間だ!」と憤る気持ちもよく分かる。
モンクは久しぶりに帰省する。その途中で同じく黒人の女性作家シンタラ(演:イッサ・レイ)を見かける。シンタラは皆が読みたがっているような”黒人のリアル”を本に書いて人気を博していた。
そこでセロニアスはヤケクソになり如何にも白人が喜びそうな……暴力、発砲、貧困、ろくでもない父親、ドラッグ……等にまみれた小説を書き上げ出版社に提出。それは書いたモンク自身が「こんなものクソだ」と思ってるようなものだった。半ば冗談や嫌がらせのつもりで書いたのだが担当編集者は「ええやん!これ」と出版することを決めてしまう。
そこで絶対に出版してほしくないモンクは本のタイトルに「FUCK」と名付け、出版社の人たちは一瞬固まり最初は難色を示していた、モンクは「しめしめこれで出版はされないぞ」と思っていたが「……いや、その方が”リアル”かもしれない!タイトルは『FUCK』で行きましょう!」と出版が決まってしまう。
そんなつもりじゃなかったモンクは頭は抱える。そんな低俗な本を大学教授セロニアスとして出すわけにはいかないので「刑務所から出て執行猶予中に逃亡した黒人犯罪者」といった荒っぽい設定と偽名を持った「架空の黒人作家」を『FUCK』著者とした。


モンクが『FUCK』出版を断りきれないのは理由がある。
帰省して看護師している姉のリサ(演:トレーシー・エリス・ロス)に久しぶりに会うが、姉は持病かなんかで突然急死してしまう。そして高齢の母アグネス(演:レスリー・アガムズ)が軽い認知症だとわかる。夜間に海を徘徊したりして危険なのでお手伝いさんだけでは世話が無理なので介護施設に入れるしかない。しかも、なるべく良い所に……(ちなみにこのママ役はどっかで見たことあるなと思ったら『デッドプール』シリーズの、デップーの友達の盲目老婆ブラインド・アル役の人だった)。
だから大金がいるのだ。『FUCK』は最初から映画化も約束されており出版するだけで莫大な金が貰えるのだ。
『FUCK』出版、大ヒット、映画化決定……などと、モンクの思惑とは裏腹に「匿名低俗作家モンク」は「本当に書きたいものを書くモンク」とは裏腹に、面白いようにサクセスしていく。
この「モンクが乗り気ではないが要請によって書いた、白人が喜びそうな黒人っぽい本」という本作の核となるアイデアは本当にキャッチーなので、その事ばかり書いてるが本作を見ると本編の半分か、それ以上はモンクの私生活描写が描かれている。
モンクが帰省して会ってたら急死してしまった姉、認知症の傾向が見られる母、死んだ厳格な父は天才医師だったが秘密があり自死したらしいこと、ゲイの弟クリフ(演:スターリング・K・ブラウン)は陽気だが世間の目を気にして行けない場が多い、長年世話してくれてた家政婦ロレイン(演:マイラ・ルクレシア・テイラー)は町の優しそうな男性と結婚する。そしてモンク自身は実家の隣に住む弁護士の女性コラライン(演:エリカ・アレクサンダー)と知り合い付き合い始める。
てっきりモンクが偽名で出版した本を中心にしたコメディかと思ってたが「本:モンクの私生活」は割と5:5くらいで私生活の描写が多い。私生活6くらいあるかも。
で、これがめちゃくちゃ面白い。
こうやって並べると、何だかつまらない出来事が多そうに思えるが、凄く軽快だし台詞も面白く(姉の遺書も楽しかった)、楽しい場面は素直に楽しいし悲しい出来事もベタベタ描かずサラッと描いててとてもいい。僕メソメソした描写マジで嫌い、実人生でもウジウジした愚痴とか聞きたくないし(それを自分に聞かせるなら1万円ほしい)、だから邦画とか日本のドラマやアニメにも湿っぽいものが多いから嫌いなもの多いし(湿っぽくなければ好きなものも多い)。
とにかく、モンクの本についてのドタバタが楽しいのは勿論だが、モンクの人間ドラマが思いのほか面白かったのが嬉しい誤算でした。

そこで浮かび上がってくるのは、モンクの人生は楽しいことも悲しいことも人に言えない秘密や一言で言い表せないことなど実に様々という事。それが人間なので当たり前ですけどね。
ここで「誰がどんな物語を書くのを望まれてるか?」という本題に戻るが、そうなると「こんな色んな複雑さを持つモンクが書いたものよりも、モンクが思いつきで他人になったつもりで書き飛ばしたものの方が好まれる」という出版界、映画界、そしてそれぞれの読者や観客って一体なんなのか?というか全員なにもかんがえていないのではないか?という感じであらゆる問題を浮き彫りにしていく。

皮肉なことにモンクは本の賞の審査員も務めており、自分が書いた『FUCK』の審査もせざるを得なくなる。五人の審査員の中には、モンクが『FUCK』をヤケクソで書く切っ掛けとなった、大勢が求められる苛烈な黒人小説を書いて売れた黒人女性の作家シントラも居た。シントラは『FUCK』作者がモンクだとは当然知らないが「なんか、この本、低俗だしっぽくない?」と言う。
モンクは、自分と同じ立場に立たされ尚且つモンクがでっちあげた本だと看過したシントラに興味を抱いて色々質問する。
モンクは基本的には賢くて優しい男性だが、根本に自分より賢くない(とモンクが思ってる)他人を見下すところがある。ここまでも『FUCK』について悩んでて恋人コララインに「君レベルの人にはわからないよ!」みたいな事を言って怒らせたり、ゲイの弟と今まであまり仲良くなかったのもそれで、根本のところにクソ野郎としてのモンクも要て、そこが面白い。ママは夫が浮気してたことも知っていてモンクに似ているという「あんたは天才よ、パパもそうだったの。天才は孤独なのよ。わかってくれる人が居ないから……」とモンク寄りの事を言ってくれる。言ってる内容はそうだけどモンクの短所は只のクソ野郎要素なだけの気がするが……。
そういえば急死してしまったお姉ちゃんも、モンクが人の間違いを指摘したりする時に疑問形で「それしたら良くなるの?」みたいに、わざと訊き返す事によって相手の過ちを相手自身に悟らせようとする喋り方するのだが、そのやり口に対して「あんたのそういう他人を見下した態度マジで嫌いだわ。素直に『良くないと思う』って言えばいいやろ」と注意される。僕も、このわかってるくせに知らない振りして訊いて相手に悟らせる喋り方嫌いなのでお姉ちゃんに強く共感した。
シントラに対しても「君のヒットした本、あんなもん読んでないけどどうせ(僕の『FUCK』同様に)でっちあげだろ」と言って、シントラに「ちょっと待って?読んでないのに私の本を腐すわけ?」と至極当然の言い返しされたりして面白い。
そして『FUCK』はクソだとわかってるモンクとシントラは『FUCK』受賞に反対するが、残りの三人の白人審査員は「何言ってるんだ『FUCK』は最高だよ!」と多数決で負け、受賞してしまう。
喧嘩したままの恋人コララインにメールで謝罪するモンク。
そしてモンクは審査員として『FUCK』の授賞式に行く、恋人コララインも来る……そして……というところから時間が少し飛ぶ。

ネタバレ。この映画のラストでは映画化される『FUCK』の脚本を、監督によって「黒人っぽい小説書いて」と言われた『FUCK』執筆時と全く同じような事を強いられる。
このラストは多分、コップを揺さぶるように「誰がどんなものを創作するのを求められているか」といった問題を再び議題に上げる。
書きたくもない『FUCK』を書かされたモンクは、それを脚本にする際に更に「黒人っぽい結末」を書かされる。
ホラー映画のラストで、頑張ってバケモノを倒したのにラストで更に新しいバケモノが出てきて終わるようなオチにして、監督は「映画の脚本もこうだよ」と言いたいのだろう。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)のラストで「キスしてないけど編集者が望むから著作権をくれるならキスした事にしてやる」みたいなことを描いてた場面に似てるね。
集中してみてたので時間を飛ばさず普通に見せてほしかった気もするが、それって自分も劇中の”愚かな読者”と同じって事だよね。それを観てる人に味合わせるためのこの結末だったって事かな。

冒頭、モンクと喧嘩する大学教授役で『マルホランド・ドライブ』(2001)でダイナーの裏に住む恐ろしい顔の女の顔を見て即死する男の役、同じくデヴィッド・リンチ『ツイン・ピークス The Return』(2017)で何か悪い事してた男ダンカン役のアイツだ!と気付いた。調べたら凄い数の脇役してる人みたい。

 

 

 

 

そんな感じでした

🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲

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