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「ブルージャスミン(2013)」ウディ・アレン/傑作。ジャスミンが話しかける虚空はどこに繋がっているのか

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原題:Blue Jasmine 監督:ウディ・アレン
製作国:アメリカ 上映時間:98分

実のところウディ・アレンは、旧作あまり観てなくて2000年以降の新作しか観てない
超多作なのに観てつまらないものが殆どないという打率の高い元プレイボーイの高齢監督というイーストウッドに似た印象。
今んとこ他に好きなのは「タロットカード殺人事件」かな。
本作は他の作品よりも濃度が濃いすごい傑作だった。


冒頭
ケイト・ブランシェット演ずる主人公ジャスミンが、旅客機の隣の老婦人に猛烈な勢いで自分が金持ちだということを自慢している。
動く歩道や荷物置き場などにカットが変わっても彼女は延々と婦人に喋りまくる。
だから「ああ、隣に乗り合わせた人に延々と自分の事話してるんだな。コメディ映画でよくあるシーンだよね」と思った。
空港に着き、老婦人は迎えに来ている夫の元に急いで逃げてこう言う
「大変だったわ!隣り合わせた彼女、延々と自分に向かって自分の事を話してるんだから!」「最初は私に言ってるのかと思った。でも違う、彼女は私に向かって話してないのよ!」
すごい台詞だ。
空気を読まずに延々と自分の事ばっか喋る奴の事を「自分に向かって自分の事を話し続けてる」と評する破壊力。
さすがイヤミの天才だなと思った。僕も早くこの台詞を使いたい。
‥とか思ってたが映画が進むと、ジャスミンが本当に誰もいない空中に向かってセレブ会話してる場面が何度もあるので、嫌味だけじゃなく本当にエア会話してたとわかった。
しかし俺が老婦人の嫌味だと誤解した台詞はそのまま使える事には変わりない。
それにしても、この変な女、ジャスミンとは何者か?

 

虫を見るような視線
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ジャスミンは、学生時代に実業家と結婚して一度も働いた事のない美人セレブだ。
すごい美人であること以外には何の才能もないし思いやりもない。
でもこれで頭が良ければ何とかなるのだがジャスミンは頭も悪い。
美人だが頭も性格も悪い女性がどうなるのかを冷徹に描く。
彼女の夫は実業家で大金持ちだったが、何者かのタレこみで詐欺していたことが発覚して逮捕され財産は全て没収され、ジャスミンはストリートに放り出される。
ジャスミンは、妹ジンジャーの家に転がり込む。
妹ジンジャーはジャスミンと違い至って普通の、金持ちではないが健康で思いやりがあって人生を楽しんでいる普通の一般市民。
しかしジャスミンの夫がした詐欺のせいで金を失い離婚した。
それでもジャスミンを迎え入れてくれる優しい妹。
ちなみにジャスミンはアホなので夫のせいで妹が離婚したことや、妹が優しくしてくれる事に対しても何とも思っていない。してくれて当たり前だと思っているのだ。
全編、まるで昆虫を観察しているかのような視線でジャスミンを追う。
見てると最初は「はは‥バカな女w」と笑えるが、10分くらい過ぎるともう笑えなくなってくる。っていうか怖い。それが延々と最後まで続く。

無一文になったが、ずっとセレブだったプライドが捨てられないジャスミンは周囲から完全に浮いている。
更に過去の回想が頻繁に挿入され、その度に既に哀れなジャスミンのメッキがどんどん剥がれていく。
ジャスミンは今まで自立したことがなくセレブになったので、自分の破綻しかかっている惨めな人生に向き合う事ができない。
ジャスミンも働かなきゃ。何して働くの?」と訊かれても「デザイナーになるわ!そのためにオンラインでデザインの資格を取らないと!‥でもパソコンが使えないから‥パソコン教室に通うわ!」とか言っている(もちろん彼女はデザインにもパソコンにも興味はない。彼女は自分が何となく良さげな職業だと思っている「デザイナー」になってデザイナーと呼ばれたいだけなのだ)
家賃を稼ぐために周りの人が職を紹介してくれて嫌々働き始めるが、社会に揉まれてないせいかうまくいかない。
彼女はしょっちゅう抗鬱剤や酒を飲みまくり、誰もいない空中に話しかけたり何もない空中を凝視したり、ありとあらゆる現実逃避しながら何とか平気なふりをする。
いまや彼女の人生の目的は「平気なふりをする」事のみ。
ひどい
ジャスミンは虚勢を張り続けないと死ぬ状態だが、誰もジャスミンが大丈夫だとは思っていない。そして、他人が自分をどう思っているかジャスミン本人も薄々気づいている。だからジャスミンは全力で「私にツッコまないでくれ」という雰囲気を発している。
妹は気を使って痛い部分には触れないでいてくれるが、その他の人たちは容赦なくズバズバと「ジャスミンって金ないのに何でそんな偉そうなの?いつも誰に喋しかけてるの?ひょっとして頭おかしいの?」とどんどんツッコんでいく。
その度にジャスミンは、精神が崩壊していきブッ壊れた顔をする。
これで賞を総なめにしたんだが、それも頷ける。ものすごく複雑な表情をする。
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ほぼ全部の事でジャスミンが間違っている。
嘘ばかりつくし利己的だし思いやりもないし努力もしないし金持ち以外の他人を全て見下しているし、全て自業自得。
だが愛嬌の様なものはあるし能動的に悪事を行うわけではないからか、何となくほっておけない感じはある。
だからと言って彼女が改心して良い人間になるかというとそんな事はない。
直視できない悲惨さが最初から最後まで続くだけので、観てるこちらの心も引き裂かれていく。
ジャスミンが現実逃避するたび、誰もいない虚空に話しかける頻度が増えていく。
まるで絶えずスマホを見て発狂を逃れている我々みたいに。
周りのまともな人達はそんなジャスミンに容赦なくツッコんでいき、彼女はどんどんどんどん悪化していく。そしてジャスミンは自分を守るために再び虚勢を張る。それをまた周囲の人が「嘘じゃん!」とツッコむ。
負のスパイラルの中で、もともと壊れていたジャスミンは更に壊れていく。
負のスパイラルの中心で、その負のスパイラルを作ってるのは彼女自身なのでデススパイラルは永遠に続く。
地獄だ


地獄だぞ
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白石晃士映画に出てくるキチガイ
キチガイが戯言を言っているように見えて、実は時間も場所も別次元をも含めた宇宙規模の視点で見たら実は真実を言っている」というネタがよく出てくる。
しかし神ではない常人では、どんなに賢くてもそんな巨大な‥時空をも超えた宇宙的なコズミック的な視点は持てない。
だから彼らは常にキチガイとして扱われる。
また彼ら、白石くん世界のキチガイは、その多くが何かの偶然で異界に飲み込まれ、時間と空間の概念のない異界で、名状しがたい苦痛を永遠にも近い間味わった末に何かの偶然で現世に戻って来れたのだと思うのでキチガイになっても無理はない。
キチガイ‥。どいつもこいつもキチガイ


デッドプール
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キチガイだと他のヒーローに思われているという設定のMARVELヒーローがデッドプールだ。
彼は狂っているが、自分がコミックの中のキャラクターだという真実を知覚しているというのが売りのメタヒーローだ。
彼には自分の周りにあるコマやフキダシも見えている。そして、たまに読者である我々に話しかけてくる。これを第四の壁破壊という。
それは彼のキャラクターの売りとなっていて、デッドプールは映画やアニメやゲームなどの他メディアに出ても、ユーザーや製作者に話しかける。
と言っても「フィクションのキャラが、自分の存在が何なのか知っている」「読者や視聴者に話しかける」というキャラはゴマンといるので別に新しくはない。デッドプールの場合「それもデッドプールの能力の一つ」と設定に組み込んでいるところが楽しいところなんだと思う。
他のMARVELヒーロー‥スパイダーマンキャプテン・アメリカやアイアンマン等のキャラクターは常人なので、彼デッドプールがそんな事を言ってもキチガイの戯言だとしか思っていない。
デッドプールが「俺たちを囲んでるこのコミックのコマの枠が‥」という真実を語っても他のヒーローは「またキチガイデッドプールがなんか言ってる‥」という感じだ。
しかしコミックを描いているMARVELのライターやアーティストや、コミックを読んで楽しむ我々は確かに実在していて、デッドプールのコミックを読む時、デッドプールの言う事は真実だとわかっている。
しかし当然ながら、コミックの中のデッドプールはただのインクの染みなので我々が言うことを知覚する事はできない(漫画のキャラに本気で語りかけ始めたらそれは我々がキチガイになってしまったという証だ)
とにかくフィクションの中のデッドプールが我々に話しかける時、通信の一方通行はできている。
我々は彼が我々に対して言う台詞を、現実の友人からのメールを読むのと殆ど同じように読むことができる。
しかし我々の方からデッドプールに対して語りかける事はできない(それが出来るのはMARVEL世界の神=MARVEL社の編集や制作に関わる人だけだ)。

(フィクションの中のデッドプール→三次元にいる我々→?)

という図になる。
この「我々」から伸びてる矢印の先にいる上位の存在は何か

幽霊
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それはずばり幽霊だ。
もしくは神と言ってもいいんだけど‥とにかく我々の世界より高次元のレイヤーに居る者だ(そういう世界が本当にあるのかないのかは別として)
神、悪魔、天使、精霊、妖精、妖怪、幽霊、異次元人‥なんでもいい、どれでも同じだ。
ここでは幽霊に統一させてもらう。
我々がいる この世界で狂った人が訳分かんないことを喋っているのも「彼ら狂人は本当は世界の真実を話しているんだけど、それは我々が居る三次元より上の世界の真実だから、それを確認できない我々は狂人が狂ってるように見えるだけかも」と思う事がある。
二次元のキャラクターが、三次元の我々の事を知覚できない様に、我々は自分のいる世界より高い次元の存在を感じる事ができない。
今まで目撃された幽霊や妖怪などが、もし本当にいたとして、そしてそれが高次元の存在だったとしても、それが幽霊なのか妖怪なのか判別する事は出来ない。高次元の存在が我々に「私は神だよ」「私は幽霊だよ」と告げたとしてもそれは確認と言えない。何故なら他人に「神が出てきて『私は神だ』と告げたよ」と言っても、キチガイ扱いされるだけだ。それを上手に言って周囲に信じ込ませたとしても、それはただ新興宗教になるだけだ。
我々が観測する事の出来ない存在は、宇宙の果てを見ようとしても無駄なのと同じように捉える事は不可能。
答えが出ないものを追求し続けるとやがて精神が失調してしまう(「未確認」飛行物体UFOはどこまでいっても未確認なのでUFOをマジで研究し続けるとやがて具合が悪くなる)
幽霊のことを、観測も捕獲もできないのだから、やがて気が狂う。
というか「ブルージャスミン」の感想を書いていたはずなのに何でキチガイデッドプールや幽霊の話をしているのかよくわからなくなってきた。
自分がどういう文脈のどの位置にいるのかわからなくなってきた。
ここはどこなんだろう


ジャスミン
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「ここってどこ?」ジャスミンは狂いそうになるたびに言う。
ジャスミンは自分から他人を遠ざけ、他人の方もジャスミンから去る。
ベンチで隣に座っただけの知らない人も、ジャスミンからいつもの調子で話しかけられ彼女から去り、とうとうジャスミンは一人ぼっちになった。
一人になった彼女はいつもの様に虚空に向かって意味のないことを喋り始めた

ここまで来たらもうジャスミンは現世に戻って来れない方が幸せかもしれない。
ずっと喋り続ける彼女に冷徹なカメラが寄っていく
それを見ながら「ジャスミンがずっと話しかけてる相手って、ひょっとして映画を観てる俺かもしれない」と思ったら

ゾッとした

 

そんな感じでした

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