gock221B

映画やドラマの感想ブログ 😺🐱 殆どのページはネタバレ含んだ感想になってますので注意 😺 短い感想はFilmarksに https://filmarks.com/users/gock221b おしずかに‥〈Since.2015〉

「ヘイトフル・エイト (2015)」価値観を揺らされる感じと一切先が読めないという映画の2大快感要素があった⛄

f:id:gock221B:20161105101419j:plain
原題:The Hateful Eight 監督&脚本:クエンティン・タランティーノ
音楽: エンニオ・モリコーネ プロダクションデザイン:種田陽平
製作国:アメリカ 上映時間:168分

 

 

公開時にクソ長い感想書いたが保存に失敗してインターネットの狭間の虚空に消えてしまった。心が折れたのでDVDで再見した今また書く事にした。
そんな感じでネットの虚空に消えた投稿は幾つかある。書いてる間にテザリングの接続が消える事でよく起こる(投稿ボタンを押す寸前にオールコピーしとくのが大事)
そんな感じで劇場公開中ではないしソフトも出たわけなんだが、ネタバレしてないうちに初見で観る一度きりの面白さを損ないたくないのでネタバレほぼ無しで書くことにする。
それはまあいいんだが公開時にupできずに0.1%でも宣伝に貢献できなかった事だけが心残りだ。
本作は「ひょっとして普段観てる多くの映画は自分にとって、タランティーノの映画と新作映画の間の暇つぶしなのか?」と思ってしまうくらい面白かった。
レザボア・ドッグス+ジャンゴ+遊星からの物体X+死霊のはらわたといった感じ

 


タランティーノは18歳の時に一人暮らしを始めた時に「レザボア・ドッグス」でデビューして御多分に漏れず「パルプ・フィクション」で大好きになった。
大阪梅田で観たのだが旅行者なのか何なのか外国人ばかりの客席で、日本人が神妙に観がちなシーン(ユマ・サーマンオーバードーズになるとことか)で大爆笑していて、それで「ああ!なるほどね!」と彼らの受け止め方に気付いて雷に打たれたような衝撃を受けて映画がより楽しく観れるようになったしビデオで一年くらい毎日観てたので「パルプ・フィクション」は特別な思い入れがある(だけど心の奥で客観的に見たら実は大した映画じゃない気もしている)。
単純に作品が好きなだけではなく、一人暮らし開始以降、自分の生活と共に観ていて初の恋愛や初バイトや初就職や初の車の運転とか初失恋や初の失業‥など一本一本、自分の思い出とリンクしており「この作品の時こんな事あったな」とか「デスプルーフはバウスの爆音で観たが爆音過ぎてOP曲のベースの音で座席が震えてて震撼したな」とか「イングロは興奮し過ぎてバウスで観た後走って帰ったな」とか、その時々の思い出を否応なしに思い出すので好きというだけじゃなくかなり特別な監督だ(そしてそう思うアラフォーの人は多そう)
一番好きなのはデスプルーフ、次にイングロ次に‥パルプフィクションかな。
楽しかったけど全作の中で順位づけるとキルビルはあまり好きな方じゃないかもしれん。

 


タランティーノの8作目の劇場公開長編映画、ヘイトフル8。
前作ジャンゴに引き続き西部劇。
南北戦争終結から数年後の冬、猛吹雪のワイオミング山中。
馬が潰れて困っていた黒人の賞金稼ぎウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)は通りかかった馬車に乗せてもらい共にレッドロックの町を目指す。
馬車には賞金稼ぎルース(カート・ラッセル)と女盗賊の賞金首デイジージェニファー・ジェイソン・リー)が乗っていた。
途中で元略奪団で今からレッドロックの町で保安官になるという男マニックスウォルトン・ゴギンズ)も乗せた馬車は、猛吹雪をしのぐため一向は顔見知りの店「ミニーの紳士服飾店」に宿泊する事にする。
服飾店では店主のミニーを始めとする従業員達は旅行で留守にしていた。
代わりにメキシコ人の店長代理と3人の宿泊客が居た。
ここに8人の悪人(ヘイトフル8)が揃った。
彼らは第一印象からあからさまに怪しい。
ウォーレンとルースは「自称保安官のマニックスも含め、彼らのうち何人かはデイジーを奪還しに来たギャングではないか?」と半ば確信する。
彼らを野放しにして宿泊すれば寝首をかかれるかもしれない。しかし自称保安官もいるので証拠なしに&銃を先に抜かれたわけでもなしに撃ち殺せば自分が縛り首になってしまうので「疑わしきは皆殺し」というわけにはいかない。一体どうなってしまうのか?誰が本当の悪人なのか?そんな話。

 


このキャラ紹介完了までで一時間。ここまででは誰が悪人なのかはわからない。
誰もが怪しく見える。
主人公のウォーレンとルースも賞金稼ぎではなく悪人なのかもしれないし、デイジーも実は悪人ではなく義賊の可能性もある。
ここまででは全くわからない。
密室で疑い合って最後に撃ち合うんだろうな、というザックリ予感以外わからない。
映画を観ていて一番楽しい時はまず「意外性やショックを与えられて価値観をゆさぶられた時」次に「最期‥いや5分後どうなってるのか全然想像できない」という感覚だ。
だから両方兼ね備えている本作を観ている間、最高潮に楽しい時を過ごした。
タランティーノは変な顔してるけど全く期待を裏切られた事がないな~。

 

マーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン):賞金稼ぎ
主人公。元北軍騎兵隊少佐で南北共にかなり大勢の兵士を殺した。
黒人が生きにくい西部で生き残っただけあってかなり狡猾な人物。
独自の正義感や哲学を持っている一応ヒーロー的ポジションと言えなくもないが、ストレートな善人というわけではなく、悪人を殺す時は敵の大事にしているものや誇りや自尊心を踏みにじり、心身共に残虐に殺す。
彼の回想シーンは本当の事だったのか、それとも彼お得意のでっち上げだったのかは結局わからなかった。
リンカーン大統領から貰った手紙を大事に持っている。
サミュジャクは「パルプ・フィクション」「ジャッキー・ブラウン」「ジャンゴ 繋がれざる者」以来の登場。

 

”ハングマン(首吊り人)”ジョン・ルースカート・ラッセル):賞金稼ぎ
横暴で乱暴な賞金稼ぎ。ウォーレンとは一度会った事がある。
疑い深い男で他人の銃をすぐ没収し、デイジーの事もすぐに殴る。
賞金首はその場で殺さず連れ帰って絞首刑にするという主義のために”ハングマン”の異名を持つ。
このポリシーは最初「へえ」としか思わないが最後まで観ると本作のテーマだったんだなと気づく。いる時よりも、いない時の方が影響力がある不思議なキャラクター。
カート・ラッセルは「デス・プルーフ」以来の登場。

サンディ・スミザーズ(ブルース・ダーン):自称 元南軍将軍
元南軍将軍の物静かな老人。息子の墓参りに行く途中。黒人差別主義者で南北戦争時には多くの黒人を苦しめて虐殺した。
という酷いジジイだが、それは昔の話で酷い事をしてるところは劇中にも映らないし物静かな只のジジイに見えるようにわざと撮ってる感じ。
ジャンゴ 繋がれざる者」でも黒人差別主義者を演じていた。

クリス・マニックスウォルトン・ゴギンズ):自称 保安官
レッドロックの町で保安官になり行く途中だという人物。怪しい
元南軍兵士で略奪団のボスの息子。ウォーレンを嫌いスミザーズ将軍を尊敬している。
最初はウザい奴かと思ってたが中盤、最初の犠牲者が出た後、物凄くケロッとしているのを見て魅力を感じた。以降、こいつは面白い事ばかりするので本作中一番好きなキャラになった。
もしジョジョ三部が実写化される時はポルナレフ役をしてほしい。
かなりポルナレフ度が高い。。というかこいつは善のオーラが凄いわ。ケビン・ベーコンの後継者になれる器
この頭蓋骨みたいな顔した俳優は「ジャンゴ 繋がれざる者」でジャンゴを虐めるレイシスト白人をやってた奴。


ボブ(デミアン・ビチル):自称
「ミニーの紳士服飾店」店長代理
留守中に店を任されているメキシコ人。にも関わらず珈琲を淹れるのが苦手。
メキシコ訛りの喋り方と連射の仕方がカッコよかった。

オズワルド・モブレー(ティム・ロス):自称 巡回死刑執行人
イギリス訛りの紳士然とした男。独自の正義感を持つ死刑執行人。
クリストフ・ヴァルツが演じても一切変わら無さそうなくらいクリストフ・ヴァルツと同じ演技だった。
ティム・ロスは「レザボア・ドッグス」「パルプ・フィクション」「フォー・ルームス」以来だから久々だな

ジョーゲージ(マイケル・マドセン):自称 牧場主
クリスマスを共に祝うため母親の家に行く途中だった牧場主。
あからさまに顔や雰囲気がカタギではないので色んなキャラに怪しがられまくる
この人はタランティーノ映画では、いつも死ぬほどカッコつけたマッチョだがダメな男の役をしている。凄くかすれた声で喋り、死ぬほどマイペースにゆったりと相手の都合を考えない緩慢な動きをする。いつも寝てばかりの雄ライオンという雰囲気がある。
たぶんタランティーノの「こうなりたいカッコいい男性像」はマイケル・マドセンなんだろうなと昔から思っている。
マイケル・マドセンは「レザボア・ドッグス」や「キル・ビル1&2」以来の出演。

デイジードメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー):賞金首
1万ドルの賞金がかけられている女盗賊。ジョン・ルースに手錠で繋がれている。
ルースに何度殴られても減らず口や嘲笑を止めない様子が、低俗な悪魔や小鬼を連想させて若干恐ろしい。エクソシストで悪魔に憑りつかれたリーガンが憑りつかれたまま成長したような女。
しかし態度や言動があまりに自由なために、たまに幼女のように見える瞬間もある。
ルースといつも繋がれて喧嘩ばかりしているせいか2人はだんだん夫婦に見えてくる。
といっても
心の交流や相互理解などは一切ないのだが、中年男女がずっと一緒にいるとそれだけで夫婦に見えるんだなと思った。まあ手錠が籍のメタファーで、彼女ら2人は夫婦のメタファーだと観れなくもないが。。
初出演だと思うがタランティーノ映画に凄くはまっていた。この人は若い時から好き

他のサブキャラは、ウォーレン達が乗って来た馬車の御者O.B.ジャクソン。「ミニーの紳士服飾店」の善良な関係者たち。スミザーズ将軍の息子。謎の男等もいる
ナレーションはタランティーノ本人だそうだ。第4章「ドメルグには秘密がある」のメタ的ナレーションはカッコよかった
モリコーネが35年ぶりに西部劇のために作曲したそうだが、昔のドラマチックすぎる曲じゃなくて現代風になっていた。しかしこの映画の内容も色んな意味で現代的なのでピッタリ合っていて渋かった。サントラも買った(タランティーノのサントラだけはフォールームス以外全部買ってる)。一番最高のタランティーノのサントラは「ジャッキー・ブラウン」(これは当時印刷会社の営業の仕事を嫌々してる時にカーステで一年間毎日ローテしても飽きなかった)

www.youtube.com

特に↑この曲と、クライマックスの曲がカッコよかった。
この上の曲は、カレーや煮物料理を作る時に流してるとテンションが横ノリでゆっくり上がっていく。何かを準備する時に似合いそうな曲だ

f:id:gock221B:20160918204936p:plain
カッコいい「ミニーの紳士服飾店」のセットは、「キル・ビル」で青葉屋セットをデザインした種田陽平さんという日本人の方らしい。
製作費50億円!やりたい放題のタランティーノ新作、映画美術・種田陽平が秘話語る|極寒の山小屋で血みどろの惨劇!撮影はLAスタジオをまるごと冷蔵庫に - 骰子の眼 - webDICE
‥という公開時に書くような事を今書いてもあまり意味ないか。
しかしどうしてもネタバレ込みの感想を書きたくないので仕方ない。
前述したように、中盤以降の展開は全く読めなかった。一番最後のシーンになるとさすがにタランティーノ作品のキャラクターの傾向を考えれば誰が何をするかわかったが、別にわかったからどうこうではなく文句なく面白かった。。

前半でキャラ紹介が終わり、中盤から話がじっくりと蜜のように動き出すが、幼少期におじいちゃんとかから昔話を聞く時のように楽しみに観れた。
どうなるのか全く分からないので身を任せるしかない快感よ。
キャラが言い合いしまくる。
「キャラの言い合い」は、突然の事故やオチの付け方に並ぶタランティーノの売りの一つだと思う。
90年代に出たタランティーノ自伝によれば、彼は幼い頃GIジョーの人形を両手に持って、キャラに延々と言い合いさせてたという。
その光景を見たタランティーノのオカンは「普通、GIジョー人形なら闘いをさせるだろうに、この子はなんで言い合いばかりさせるのかしら?」と思ったらしい。
思えばタランティーノ映画の半分以上は言い合いがメインだ。くだらないお喋りも伏線になってるし。
前半‥最初の一時間は「タランティーノ映画というよりも割と普通の映画っぽいな‥」と感じたが、中盤の黒人問題のところは死ぬほどタランティーノっぽかった。
殺される悪人の方が可哀想に描くところとか。
本当は悪人サイドが圧倒的に悪いのだが、悪人の悪事を画面に見せず復讐する側の復讐をひたすらエゲツなく描くところが凄くイングロ(復讐するアメリカ人は野蛮で、ナチスは立派な人だと、わざと描いていた)を思い起こさせた。
イングロだけじゃなく、全体の構造的にはレザボアっぽくて懐かしかった。
女いじめ&逆に男が女に虐められるのはデスプルーフっぽいし、妙にわざと安っぽくしてあるスプラッターな残虐シーンはキルビルやイングロっぽいし、女性の暖かさの表現の上手さとか、終盤デイジーと相手が見せる本当に心から笑ってる様に見える自然な笑顔の描写はデスプルやジャンゴなど近作に多いし、ラストはレザボア+イングロって感じだし‥本作は本当に色んな過去作が合致したようだった。
いや有名映画監督の映画は大体そんなもんだから当たり前か(だけどそういう総集編要素が多かったように思う)。無駄話やフェチ描写は少なかった。
シチューが食いたくなった。西部劇といえばやたらと煮物が出てくるな。
ネタバレ封印したら、映画紹介みたいなつまらない文章になってしまった。
しかしまだ観てない人がこれを読んでたら観てほしいもんだ。
初見は先が読めない幸せを味わえるし、二回目以降は全然違う話のようにも観れる。
感情による正義と法に乗っ取った正義の違いについて描く割合が高いので、イングロやジャンゴ的な勧善懲悪を期待して見るとあてが外れるかもしれないのでその観方はやめた方がいいかも。
やろうと思えばイニャリトゥ監督の映画みたいに、普通のエンターテイメント映画をまるで高尚な映画であるかの様に見せかける事は簡単だろうが、それはしない辺りが本当に好きだなと思った。そういう事をしても文句ない程に素晴らしいテーマだと思うが不必要な頭がグシャグシャになる描写などを駆使して必死で「ただの面白い映画」に留まろうとしているように見えた。

特に文句はないが後半、脚本や展開が凝り過ぎてて心にグッと来るもの以上に興味や好奇心の方が勝ってしまい、感動したいのにも関わらず「デス・プルーフ」以降の作品の様に異常に感動できず、ただただ面白いだけだった。最後のパートはあそこまで面白すぎるものにはせず普通にやった方が考えさせ効果があったのではないだろうか。

しかし密室ミステリー風作品にも関わらず、佳境のシーンでいきなりそれまで影も形もなかった新キャラが出てきて大きな転換を起こすというのはどうなのと思わないわけでもなかった
そんな感じでした

gock221b.hatenablog.com

⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄⛄

www.imdb.com

www.youtube.com

「ヘイトフル・エイト」オリジナル・サウンドトラック

「ヘイトフル・エイト」オリジナル・サウンドトラック

f:id:gock221B:20170919132403g:plain

#sidebar { font-size: 14px; }