gock221B

映画やドラマの感想ブログ 😺 おしずかに‥〈Since.2015〉

「スリー・ビルボード (2017)」憎しみの連鎖の円環から抜けた者だけが新しい状況を作り出せる🅰🅱🆎

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原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri 上映時間:116分

監督&脚本&制作:マーティン・マクドナー 製作国:イギリス/アメリ

 

 

 

「これは要チェックや」と思いつつも「娘がレイプして殺されたオバサンが南部のレイシスト警官とかの嫌がらせに遭う」というあらすじ読んだだけで重そうなので後回しにしてた。
だが実際に観てみると懸念してたような胸糞作品ではなく、どちらかというと全編愉快で何よりも傑作だったので早く観れば良かった。どちらかというとマジなだけではなくトラジ・コメディ(悲劇的要素で描写されてるが、その実、喜劇的要素が入り混じって可笑しくなるフィクション)的な映画だった。イーストウッド映画にコメディ要素を増量した感じの‥「へレディタリー/継承」がなければ2018年公開映画ナンバーワンだろう。シリアスで重い映画みたいにSNSで言ってた奴なんなんだよ‥SNSは何でもマジにしか取れない人がいるので自分で観たり読んだり信用できない。というか俺が勝手にそう思っただけか。何でもマジに取る架空の人ごめんね。‥自分で仮定の他人になった自分と会話すること自体が狂いかけてるみたいでやばいのに先に進もう、俺がこれ以上頭がおかしくなって話を続けられなくなるその前に‥。
ソフト出てかなり経つし、今回は久々にあらすじ観たままそのまま書くスタイルでいくので全部ネタバレだから、2つ目のBと書かれた赤い看板🅱まで読んで本作を観たくなった人は続き読むのを止めてレンタル等で視聴することをオススメする。絶対にあらすじ知らずに観た方が面白い。

 

 

🅰

 


未だレイシストの住民がいるアメリカ南部、ミズーリ州の田舎町。道路脇に立つ3枚の立て看板(スリー・ビルボード)に、地元警察署長を罵倒する辛辣かつ簡潔で赤い抗議メッセージが出現する。
娘をレイプされて焼き殺された中年女性ミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)が、7ヵ月たっても一向に進展しない警察の捜査に業を煮やして掲げたものだった。
この真っ赤な看板に大文字の黒ゴシック体で簡潔に三言だけ書かれたスリー・ビルボードが凄く良い。俺だったら「あれもこれも‥写真も‥」等と付け加えてるうちに、ごちゃごちゃ情報が増えて狂人の家みたいになってしまい「狂人の電波看板や‥こわ‥」と見て見ぬ振りされてしまうだろうが、こんなにモダンで簡潔に書かれると「正気で冷静な人が強い意思でしっかり考えてデザインして掲げた」と要素がモロに出ている、これでは優れたキャッチコピーのように無視できない。
名指しされた署長のウィロビー警察署長(ウディ・ハレルソン)は困惑しながらも冷静に対処しようとする一方、実家住まい独身でアホの部下ディクソン巡査(サム・ロックウェル)や町民は、スリー・ビルボードを建てたミルドレッドへの怒りを露わにする。ウィロビーは部下や町の人たちに慕われていたし、何と癌で余命半年なのだ。
「娘が殺されたのは気の毒だが‥長年いつも頑張ってる署長を指してアンタ‥」というわけだ。田舎っぽい人情論ではあるが、諸々把握しないと判断はできない先に進もう。
そんな冒頭数分を観て面白すぎる!と思った。
映画観るまではウディ・ハレルソン演じる署長も部下のサム・ロックウェル演じるディクソン巡査も胸糞だろうな~と気が重かったが、署長は普通に捜査している真面目な署長だった。ディクソンは予想通りのカスなのだがそれは前半の一面的な姿に過ぎず、最初は「カスの一枚の紙」に過ぎなかったディクソンも色んな面を見せて立方体のような人間になっていき俺を飽きさせない。ウディ・ハレルソンサム・ロックウェルも過去の映画で死ぬほど嫌なキャラを得意としていたので本作もきっとそうだろうそんなの観るの嫌だなと勝手に敬遠していた。僕はダメな人間ですね。
署長が嫌な奴ではなく、しかも余命幾ばくもない、というのが本当に上手い。これで「ただの勧善懲悪ではないな」とわかって開始数分で信頼できた。しいて言うなら、署長もミルドレッドの別れた元DV夫も、新しい妻が20前後の若すぎる美女というのが田舎の権力者っぽいカスさを感じたが、少なくとも同意の上なのでまぁ彼らの自由。いま断罪すべきはミルドレッドの娘を犯して殺した悪と差別主義者ばかりで流されやすい町民だ(この町の人というのは言うまでもなく我々のこと)。
ウィロビー署長は困惑するだけだが、署長を尊敬する部下のディクソンや町の人が、ミルドレッドに嫌がらせする(Twitterで言うと有名人の信者がファンネルとなって飛んでくる様を物理的に描写したようなものだ)。しかしミルドレッドおばさんも負けていない。署長の友人である歯医者が、歯の治療に訪れたミルドレッドに麻酔もせずドリルで歯の治療しようとする。「オバサンが危ない!」と思ってたらミルドレッドは素早く歯用ドリルを奪い取って歯医者の親指を貫通!やったぜ!どこからどう見てもミルドレッドによる過剰防衛にしか見えないのだが、野蛮な歯医者が医療パワハラというヤバい案件だし証拠がないので歯医者の手が滑ったことになった。
このシーンもそうなのだが本作は「次の展開はきっとこうなるんだろう」と、こちらが思った展開から常に2、3歩先を行く。「推測の2、3歩先を行く状態がずっと続く」のは一番面白い映画の要素だと思うので正に面白すぎる映画だった(だが映画が苦手な人は意外な展開で衝撃を受けたくないのでこれを嫌がったり先にネタバレ読んだりするらしい。この世を面白くなく過ごすことのできる才能を持った人たちだ)。
‥とか思ってたら署長は休日、女子大生にしか見えない若妻と可愛い娘たちとピクニックして草原で愛を確かめあい、その幸福な一日の最後に署長は厩戸で自分で自分の頭を撃ち抜いた。「今後半年間の辛い闘病生活を、愛する妻子への最後の思い出にしたくない。卑怯な俺を許してくれ」というのが妻への遺書だが、〈スリー・ビルボード〉によるプレッシャーや罪悪感もまた彼の背中を押したのかもしれない。少なくとも、町民にそう思わせようとしている。署長はミルドレッド宛に「ちゃんと捜査していたが犯人を見つけられずすまなかった」と謝罪しつつ「この自殺は君へのちょっとした悪戯心だ。殺されないように頑張れ」と書かれた手紙を寄越す。心からの謝罪と他者を煽る復讐、どちらも署長の本心だ。
尊敬する署長が死んで怒りの持っていきどころがないアホのディクソンは、〈スリー・ビルボード〉を設置した広告屋をボコって窓から墜落させて大怪我させ、それを避難した美しい秘書にも顔面パンチ。ホーリーシッ!だ(関係ないし文句あるわけでもないけど本作のチョイ役の若い女性は全員不自然なくらい美人揃い)。
書くの忘れてたが、出番少ないながらこの広告屋も良いキャラだ。
冒頭、彼が読んでいた本は(俺は読んでないし全く知らないが)文学部の学生の友人に聞いたところ女性の作家フラナリー・オコナー「善人はなかなかいない」だそうだ。 
フラナリー先生は本作同様にトラジ・コメディ的悲喜劇を得意とした作家らしく、本作には、ここで一瞬本が出てきただけではなく彼女の作品からインスパイアされた要素やキャラクターが他にもたくさんあるらしい。友人にそう聞いて興味を覚えたが俺自身は全く読んでないのでこの話はこれで終わりだ。それを書いたサイトとかあるだろうからそっちを読んでくれ。フラナリーさんの本は後日読んでみようと思った。フラナリー・オコナー全短篇〈上〉 (ちくま文庫)
話をもとに戻す。ディクソンによる広告屋への暴行を見た、ウィロビーの代わりに新しくやってきた黒人の立派な署長はディクソンを問いただすが、黒人への差別的感情を隠そうともしないアホのディクソンをその場でクビにする。やはりレイシストだが息子を愛している母と二人暮らしの家に帰宅したディクソンはどこかに出かける‥。その夜、何者かが〈スリー・ビルボード〉に火を放った。その夜ディクソンは署長から自分宛ての遺書を読みに夜の警察署で、それを読んでいた。手紙は「お前はアホで粗野だが、本心では良い警官になろうと思ってるの。署長、知ってるよ?」という優しい手紙だった。同時刻「アホのディクソンがスリー・ビルボードに放火した」と確信したミルグレッドは警察署に電話をかける。ディクソンはヘッドホンで音楽を聞きながら手紙に夢中なので電話に気づかない。無人だと思ったミルグレッドは安心して警察署に火炎瓶を数個投げて火を放つ。‥それにしても火炎瓶たった数個で警察署があそこまで炎上するとは‥火炎瓶の威力を思い知った(そしてオマワリに特別恨みがあるわけではないのだが警察署が燃えるのを見て何故か笑みを浮かべる自分をもう一人の自分が不思議そうに見ていた)。まぁとにかくディクソンは火だるまになって屋外に飛び出す。警察署は無人だと思っていたミルグレッドは驚く。まもなく消防車とパトカーが急行し新署長は当然、現場に居たミルグレッドを疑うが、ミルグレッドを応援していた小人症の男ジェームズ(ピーター・ディンクレイジ)が彼女を庇って罪には問われなかった。
全身火傷で入院したディクソンの隣には、彼が先日窓から落として重体に追いやった広告屋が寝ていた。ディクソンは泣いて謝るが広告屋は怒りでプルプル震えている。ディクソンは「やばい‥寝てる間に復讐されるかも‥」と怯えて半泣きになり弱者の気持ちを思い知る。
ここまでの‥いや全編を通して流れる衝撃的な展開の数々‥当人たちにとっては悲劇だがはっきり言ってかなり可笑しい。展開も間の取り方も全部コント。日本は知らんがアメリカの劇場ではきっと笑いに溢れてただろう。
 

 

🅱

 

 

「復讐の連鎖によるデススパイラルが止まらない‥!」と、思ってたら広告屋は怒りを抑えて手が動かせないディクソンのためにオレンジジュースを注いでくれる。てっきり復習されると思ったディクソンは半泣きで驚く。
流れが変わった。憎しみの連鎖を〈スリー・ビルボード〉を作成した広告屋が止めた。
ミルグレッドは〈スリー・ビルボード〉の黒人デザイナーが持ってきてくれた予備の広告を貼って炎上した〈スリー・ビルボード〉を修繕する。看板の費用は自殺した署長が出してくれていた、親切心だけではなく町民がミルグレッドを恨むようにという複雑な心境からだろう。ディクソンによるミルグレッドへの嫌がらせで逮捕されたミルグレッドの親友兼同僚も釈放されて駆けつける。先日、ミルグレッドの放火の罪を庇ってくれた小人症の男ジェームズも看板の修繕を手伝う。数は少ないがミルグレッドを応援する人たちが〈スリー・ビルボード〉の元に集まった‥。
そしてミルグレッドは助けてくれたジェームズと約束通りデートする。
店には別れた元DV夫と若すぎる新恋人がいた。元夫はミルグレッドと小人症のジェームズを侮辱し「スリー・ビルボードを燃やしたのは自分だ。ムカついたからな」と言い放つ。もともと仏頂面だったミルグレッドは爆発寸前。そしてジェームズもまた「君はずっと仏頂面だし、そもそも最初から最後まで小人の俺をずっと見下している!気のそんな態度には我慢ならん!」と涙ながらに訴え彼女の元から立ち去る。ミルグレッドは最初から無理解な町民に反抗する被害者だったからわからなかったが彼女も大正義というわけではなく、このレイシストばかりの南部の田舎町の住人の一人だったと判明する。ミルグレッドと他の町民との違いは娘が侵されて殺されたこと、そしてそれに対して泣き寝入りせず立ち上がったこと、その差は大きいが逆に言えばそれだけだ。元夫によって命の次に大切な〈スリー・ビルボード〉を感情的に燃やされ、自分を慕っていたジェームズにも立ち去られたミルグレッドは酒瓶を持ってフラフラと元夫とアホの若い恋人の元に行く。どちらかの頭をかち割るのかと思ったら彼女もまたディクソンを赦した広告屋同様、どうしようもなく自分をDVしてた元夫に酒を手渡して許す。別に元夫がこれで改心するとも思えない、だがそうしない事には改心する切っ掛けすらない、だからオバサンがしたのだろう。
またしても憎しみの連鎖が断ち切られ、これでもう完全に映画の流れが変わる。
退院して無職の子供部屋おじさんとなったディクソンは、バーにて「若い女性をレイプして燃やした」と言ってる「ミルグレッドの娘を殺した」と思われる、ろくでもない白人をバーで見かける。ミルフレッドの店にも嫌がらせで来た正体不明のカス白人だ。ディクソンは彼に絡んでボコボコにされるという自己犠牲によって、男のDNAと彼のアイダホの住所を入手してミルグリッドと自分をクビにした新署長に教える。
果たして、このクズ白人は本当にミルグリッドの娘を犯して殺した犯人なのか?
‥面白すぎて久々に「観た展開そのまんま書く」というアホみたいな感想を書いてるうちに終盤まで書いてしまった。
ここまで観て俺は「このクズ白人が犯人じゃなきゃいいな~」と思った。
もちろんこの白人が犯人でミルグリッドとディクソンがブッ殺して復讐したらスッキリする。だがスッキリしてどうする?本作はここまでの展開で、そんな勧善懲悪を遥かに超えたドラマを展開してきた。ここまで来て如何にもご都合主義的な解決方をしてしまったら、それこそスッキリして観終わって後日にはすぐ忘れてしまう勧善懲悪に堕してしまう。
‥とか思って観てると実にベストなラストで終わった。文句つけようのない傑作。
特に良かったところ。
まずさっきも言ったように先が読めないところ。
次に勧善懲悪ではなく、ミルグレッドですら問題あったりクズのディクソンが改心したり善悪両方の面を持つ署長など、一面的ではないドラマ。
一番大きいのは、ミルグレッドとディクソンと広告屋が勇気を出して〈憎しみの連鎖〉を断ち切って流れが変わったこと。
彼らはそうしたくしてそうしたし自分もそれが良いと思った。
だけど実際に被害を受けてどう思うのかは、その立場にならないとわからない。
家族を轢き殺したのに保身を図て警察もメディアにも忖度されてお咎めなし上級国民に家族を殺された者や、もしくは上級の息子だから数回レイプしてレイプした女の子は退学して鬱になったのに本人はお咎めなしで大企業に就職してやがては政治家になるだろう大学生に娘をレイプされた親などがどう思うのか、どうしたいのかは本人でないとわからないし、本人以外にはどうすべきか発言できない。
「自分の人生はどうでもいいから、とにかくあのカスをブッ殺したい!」と思うのかもしれない。多分そうだろう。それは違法だし大っぴらに賛成は出来ないが実際に裁かれるべきなのに裁かれない悪人に私刑を果たすする者がいたら、きっと黙認して応援するだろうなとは思う。だから劇中で憎しみの連鎖を断ち切ったキャラクターを僕は称賛したが、赦したとしても復讐したとしても、それはその人個人個人の事だから賛成も非難もしようと思わん。
そしてミルグレッドとディクソンは憎しみを断ち切って世界に光を見せて立派だったが、その上で彼らは新たな憎しみの連鎖を始めようとするところで終わる。
このラストが非常に良い!これがベスツ!
この後どんな結果になろうと観せない方が良い。続きは各々の胸の内にある。
ちなみに僕は「2人はあのろくでもない白人と仲間をブッ殺すが、黒人の新署長の捜査通り、やはりミルグレッドの娘の死とは関係なかった‥というか他人をレイプすらしてなかった、ただのイキり白人だった。ミルグレッドとディクソンは只の無実の男を殺しただけだった」という結果を期待する。その場合、あの男は無実の罪で殺されることになる。しいて言うなら世界に呪詛をばら撒いたことの数十倍返しで意図せずに殺されたことになる。正直そんな結果がいい(そして、このカス白人の息子とかがミルグレッドとディクソンを恨んで育つ。ループすな)。
映画の主人公になることが少ない中年のオバハン大暴れ映画としても良かった。
そんな感じで、観たかった2018年の日本公開映画これで全部やっと観た。一年遅れだが明日やっと2018年のベストが決められる。

 

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そんな感じでした

🅰🅱🆎🧓🏻👮🏻‍♂️👮🏻‍♂️🔥🅰🅱🆎🧓🏻👮🏻‍♂️👮🏻‍♂️🔥🅰🅱🆎🧓🏻👮🏻‍♂️👮🏻‍♂️🔥🅰🅱🆎🧓🏻👮🏻‍♂️👮🏻‍♂️🔥

Three Billboards Outside Ebbing, Missouri (2017) - IMDb

www.youtube.com

フラナリー・オコナー全短篇〈上〉 (ちくま文庫)

フラナリー・オコナー全短篇〈上〉 (ちくま文庫)

 

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