gock221B

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『ロード・オブ・カオス』(2018)/人が死ぬ事以外は紛れもなく青春映画。自らが生み出したファンタジーに殺される男📷

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原題:Lords of Chaos 監督&脚本&製作総指揮:ヨナス・アカーランド 原作:マイケル・モイニハン&ディードリック・ソーデリンド 『ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史』 製作国:イギリス・スウェーデンノルウェー 上映時間:117分

 

 

 

ノルウェーブラックメタルバンド〈メイヘム〉の青春を実録本『ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史』を原作に映画化したもの。メイヘムやブラックメタルに音楽としての興味はないが、起きた出来事には興味あったので本作は前から観たかった。
主人公ユーロニモスを演じるロリー・カルキンは『ホーム・アローン』でお馴染みのマコーレー・カルキン実弟。顔もそっくり。マコーレー・カルキンは面白おじさんになったが弟は顔も身体も美しい。
ネタバレあり。
本来のユーロニモスとかメイヘム自体はよく知らんので実物と比べてどうのこうのって感想は書けないし、あくまで本作を観てそれ中心の感想になります。バンドや各登場人物の事が知りたくなった人は原作を買って読んだり詳しい人の文章を読んだ方がいい。あとWikipediaが普通に面白いし各メンバーのページまであって妙に詳しくて面白い。
メイヘム - Wikipedia 

 

 

 

1984年のノルウェーノルウェーといえば映画でしか知らないが、とにかく自然が美しく豊かで平和。だが平和すぎて過激なものを求める思春期の少年少女が暴れる……という展開をよく映画で観る。僕が大好きなノルウェーのラブコメ映画『15歳、アルマの恋愛妄想』(2011)も平和過ぎる町で少女が性欲を持て余す話だったし、昔から現在に至るまでとにかくメタルバンドが多い印象。あとは北欧神話とかヴァイキングMCUのソーも祖国アスガルドを失って『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)ノルウェーに住み鬱屈した日々を送ってたな。とにかく「美しくて平和だが、そのせいで鬱屈をためた若者が衝動をどこにぶつければいいのか困ってる」という描写が映画内で描かれる事が多い印象。僕も思春期の時、過激なものを求める衝動を持っていたが、地元は緑が多く親切な人が多い田舎だったので気持ちが空回りしてどこにぶつければいいのかわからなかったので気持ちはわかる。
主人公の少年は〈ユーロニモス〉を名乗り、ブラックメタルバンド〈メイヘム〉を結成。やがてレコード・ショップを開店し、自分たちのレーベルも設立し、店に集まるブラックメタルバンドのメンバー達と〈ブラックメタル・インナーサークル〉という集団を構成する。
有神論的サタニストを自称していたユーロニモスは「教会を燃やせ!」などのアンチ・クライスト発言や「俺達は邪悪な者の集まりだ」といったムード作りで地元のブラックメタル界隈でカリスマとなり仲間が集った。
「何で全く金ないのにいきなり店が作れた?」という疑問もあるが台詞からすると親が金出してくれたっぽい。ブラックメタル界隈では邪悪なインナーサークルの総帥であるユーロニモスだが実家には優しい両親や可愛い妹がおりママに「ユーロニモスちゃん、あなたの好きなスパゲティ作ったわよ」などと言われたりバンドの練習してたら妹が入ってきて「ママ!こいつを部屋に入れないでよ!」などと言ったりと家族と普通に仲良くしている様子も描かれていた。こういう普通に私生活を過ごしてるだけで面白く見えてしまうのはメタルあるあるですね。
とにかく本作を観る限りでは、ユーロニモスは口八丁で邪悪っぽい雰囲気を作り上げ周囲の鬱屈した若者たちの人気を集めて皆が集まってライブしたり酒飲んだりSEXするブラックメタルのシーンを作り上げるのが上手かった感じ。
やがてメイヘムにネズミの死骸と共にカセットテープが送られてきた。その録音されたサウンドが良かったために、送り主の〈デッド〉という憂鬱な青年が加入する。デッドは死亡寸前までいった壮絶なイジメを経験して以来、死に取り憑かれており普段も野良猫を殺したり道で死んでる動物の死臭を嗅いだりしており、ユーロニモスに自分の頭を吹っ飛ばせと迫ったりもしていた。
死や邪悪な雰囲気を楽しんでいたインナーサークルだが、それはあくまで「俺ら邪悪だぜ~」というムードで楽しんでるだけだったのだが、ここに来て「ガチの人が来ちゃった」という感じ。というかデッドは完全に精神障害を持ってたとしか思えない。
やがて、デッドはある日、自分の両腕と首をナイフで深く切り裂いた上に頭をショットガンで吹っ飛ばして自殺した。
その現場に訪れたユーロニモスは、カメラで親友デッドの死体を撮影する。
「デッドの死体をアルバムのジャケットにしよう。それにデッドの頭蓋骨で作ったこのペンダントも皆で付けよう。これでメイヘムは邪悪なバンドとして有名になれるぞ!」と言うユーロニモスに、「ふざけるな!」と普通に怒って脱退するメンバーもいた。ちなみにデッドの頭蓋骨ペンダントは実はチキンの骨で作ったもの、ユーロニモスのハッタリだ。
しばらくしてユーロニモスに憧れるヴァーグという青年もやって来る。
ユーロニモスは最初、彼をバカにして門前払いにしていたが彼は親が金持ちだったのでアルバム制作の費用を出させ、ヴァーグはインナーサークルの仲間に入れてもらえた。
更にヴァーグは「教会を燃やせ!」というユーロニモスがいつも言っていた言葉を真に受けて、本当に教会に放火して「す、すげぇ……何て邪悪な奴だ……」と界隈のプロップスを集め、音楽的な実力もあったこともありインナーサークルの新ヒーローとなる。ユーロニモスは驚くが瞬時に「これは宣伝になる」と思い「……ヴァーグは俺の教えを守り、教会を燃やしたりして凄い!」と黒幕ぶるのが精一杯だった。
一件の放火では飽き足らず「我々の神オーディンを追い出したキリスト教の教会を燃やし尽くしてやる!」と次々と教会に放火していくヴァーグ。
ユーロニモスは「いや、確かに『教会を燃やせ!』とは言ったけど……本当に燃やす奴が来ちゃったよ」という困惑を浮かべる。デッドとはまた違う方向性の純粋でガチな人が来てしまった。ユーロニモスは、ヴァーグにカリスマ面も追い抜かれて焦る。「俺は……すごいよ?ん?」というハッタリによってカリスマとなっていたのに本当に邪悪な事を実行する奴が入ってきたらユーロニモスの立場がない。もはやユーロニモスは「ヴァーグはまたやった!本当に邪悪だな~!俺たちは!」などと、ヴァーグの犯行に乗っかるのが精一杯だった。
ユーロニモスはヴァーグに借りたアルバム制作資金を返さないし、また界隈からユーロニモスに匹敵する人気も得て自信をつけたヴァーグは「ユーロニモスは『教会を燃やせ!』と言ってたくせに全然燃やしに行かないな」と疑念を抱き「まさかユーロニモスはレーベルやバンドを成功させたいだけのペテン野郎なのでは!?」という欺瞞……というか普通の事に気づき増長し始める。
そんな折、サークルのメンバーが自分を誘ってきた同性愛者の中年男性を刺殺するという殺人を犯した。もはやサタニズムだとかサークルとか関係ない只の殺人だ。ユーロニモスは顔を引きつらせながら「ま、またしても新ヒーローの誕生だ!」と言い、警察に見つからないよう祈るしかなかった。
ヴァーグは更に決定的な事をしてインナーサークルの悪名を世間に轟かせようと大聖堂爆破を計画し、マスコミの人間を家に呼んでインタビューを受ける。
ヴァーグ「邪悪なインナーサークルの一員である俺は放火犯や殺人犯を知っている……」
マスコミ「君がやったん?」
ヴァーグ「そうだ。……あっ!いや違う俺じゃなくて……」
マスコミ「君じゃないなら取材する価値ないからもう帰るね(席を立つ)」
ヴァーグ「待って……俺がやった!」
マスコミ「ふむ……(席に再び座る)」
ヴァーグ「殺人は俺じゃないけど」
その後、剣を持って邪悪な目つきで色んなポーズ取らされて撮影されるヴァーグ。
帰り道のマスコミおじさんは「とんでもないバカだな!w」と笑い、ヴァーグは翌日、普通に逮捕される(当たり前)。
証拠がなかったのでヴァーグはすぐ釈放されるが、事件が元でユーロニモスはレコード・ショップを閉店せざるを得なくなる。
ユーロニモス「くそっ!あの馬鹿野郎!次にヴァーグに会ったら拷問して殺してやる!」
それを人づてに聞いたヴァーグは「えっ?ユーロニモスは俺を拷問して殺すって?じゃ、殺される前に奴を殺さなきゃ……」
そんな事で、またしてもユーロニモスのハッタリを真に受けたヴァーグはユーロニモスのアパートを訪ね、彼を滅多刺しにして惨殺する。

 

 

 

まぁユーロニモスも借りた金返さなかったり、自分は何もせずヴァーグの放火を自分の手柄にしたりとクソ野郎ではあったので積もり積もった怨みでヴァーグに殺されたと言えなくもないが、当たり前だがやりすぎだろう。それにユーロニモスはヴァーグを友達だと思って手紙を出したが全く伝わっていなかった。
「邪悪な自分たち」「教会を燃やせ」などはユーロニモスが作ったファンタジーであって、そのファンタジーをモロに真に受けたバカがやってきて、しかもそいつが実行力も音楽的実力も資金もふんだんに持っていたのが悲劇を生んだ。
冗談で「リア充爆発しろw」と仲間うちで連呼していた界隈があったとして、そこに加入してきた新人が本当に街のカップルを拉致して爆死させて「え?『リア充爆発しろ』って言ってましたよね?俺に嘘ついて騙したんですか?」と訊き返してくるような感じだ。こういうバカを周りに置いて適当な事を吹き込むのは危険だ。また、ヴァーグは純粋というところが厄介なところだ。純粋だからユーロニモスの言うことを真に受けてしまい(チキンの骨で作ったデッドの頭蓋骨ペンダントも本物だと思っていた)、そんな純粋な彼からしたら「ユーロニモスは口ばっかりの欲の深い卑劣な奴!粛清しなければ……」という事になりヘイトが溜まっていく。ヴァーグはブラックメタルだけでなくプロレスとかも観て育つべきだったな。
しかし24時間、死の事を考えてたデッドといい、何でも真に受けるヴァーグといい、ユーロニモスは純粋な奴が好きだったんだろうな。ユーロニモスはもっと山師というかビジネスマン的な感性の男だったのでデッドやヴァーグのような「本物」が好きだったんだろう。
前半のデッド自殺シーン前後のユーロニモスは、彼の死に何も感じずビジネスに利用しようとしてるだけみたいな描写されてたが、終盤のユーロニモスはデッドの遺体を見つけた時の事を思い出す。前半では描かれてなかったが親友デッドの遺体を前にしたユーロニモスは普通に号泣していた。カメラマンの彼女にも「彼のこと好きだったんでしょ?」と言われる。
実際の真実はどうだったのかは知らないが、ユーロニモスはずるいクソ野郎的な部分もあるが自分のバンドや界隈を盛り上げるのに熱心でデッドを真の意味で愛していた。ヴァーグも……まぁまぁ好きだったんだろう。
ユーロニモスが作ったファンタジーに乗ったバカが集まり、その同調圧力はやがてユーロニモス本人にも制御不能となり彼を滅ぼす……というホラー映画にも見えるが、人がやたら死ぬこと以外は紛れもなく青春映画だと思った。
特にデッドが自殺するシーンと、ユーロニモスが刺殺されるシーンの迫力は凄かった。
うわぁ痛そう……とも思うが不思議な美しさも感じられた気がした。
実際のユーロニモスはどんなだったかは推測するしかないがロリー・カルキン演じる劇中のユーロニモスは魅力的な人物に思えたので哀しい最後だった。そんなラストにユーロニモスのナレーションで「メソメソすんな。こんな雰囲気は嫌いだ」と言って映画は終わる。実際はデッドが死んだ時にメソメソしていたのはユーロニモス本人だった。つまりラストの台詞は生前のユーロニモス同様「自分やメイヘムの名声を高めるための、いつもの嘘、ハッタリ」って事だろう。そう思えばいいラストだった。

 

 

 

そんな感じでした

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Lords of Chaos (2018) - IMDb
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