gock221B

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『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)/本編は愛の話だったが、こっちは〈心の弱さ=悪〉という話かな 👉

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監督:黒沢清 脚本:高橋洋黒沢清 原作:前川知大
製作国:日本 上映時間:140分 英題:Foreboding シリーズ:「散歩する侵略者」スピンオフ

 

 

「散歩する侵略者 (2017)」のスピンオフ。WOWOWで数回に渡って放送されたドラマを一本の長編映画にして公開したもの。
黒沢監督の盟友、高橋洋監督が脚本。このコンビの過去作は「蛇の道 (1998)」「復讐 THE REVENGE 運命の訪問者 (1997)」というどちらもめっちゃ嫌~な感じの黒沢映画。長澤まさみ主演の本編は、演劇を映画化したものだが、こっちは世界観は同じだが黒沢&高橋洋による完全オリジナル。本作が編集される前の連続ドラマ版は一応観てた。だけど僕が連続ドラマ嫌いなせいかもしれないが毎週一話づつ観ても面白くなかった。
それが後に長編映画に編集されて劇場公開されたのが本作。
長澤まさみ主演の方の映画が凄く面白かったし、本作もドラマじゃなく長編作品として一気に観たらきっと面白そうだと思ったので改めてこの劇場版を観た。
やっぱり、長編映画として観た方がずっと楽しかった。
それに、どう考えても最初から長編映画として撮ったものを無理やり数本にブツ切りにして放送してた気がする。。

ネタバレあり

 

 

Story
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主婦、山際悦子夏帆)は、勤め先の同僚みゆきから「家に幽霊がいる」と相談を受けた。
みゆきの家に行ってみると彼女が言う「幽霊」とは彼女の実の父親、普通の優しい父親だった。
悦子は、辰雄染谷将太)が務める病院の心療内科にみゆきを連れて行くと「彼女は『家族』という概念を欠落させている、だから父親が幽霊に見えた」という不可解な診断結果を聞かされる。
その後、悦子は外科医・真壁東出昌大)の存在に異常な違和感を抱き、彼と行動を共にする夫・辰雄が衰弱していく様に不安を募らせていく――

 

 

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長澤まさみ主演の)本編と共通しているのは、同じ世界で同時期に起きていた事件という事と一組のカップルが主人公ということ。あと東出昌大がどちらも出ている。
長澤まさみ主演の本編では30代の冷めた夫婦だったが、こちらは20代半ばの若い夫婦が主人公(看護士と工場のパートの夫婦が何故こんなに高級マンションに住めるのか?という疑問が浮かんでくるが、黒沢清映画での常識は我々の現実とは違うのでそんな細かいことに突っ込んでも仕方ない。それに本作とか他の黒沢作品での不思議な日常と比べると些細なものだ)
長澤まさみの方では夫が宇宙人となり妻がそのガイドとなるが、こちらでは夫が東出昌大演じる宇宙人のガイドとなる。では夏帆は何かと言うと「宇宙人が概念を奪うことの出来ない唯一の人類」という役どころ。
ちなみに東出昌大長澤まさみの方にもキリスト教の牧師役で出ている。
最初は同一人物かと思ったけど、あの牧師と本作の医師・真壁は別人のようだ(わざわざ同じ人間に演じさせたのには意図がある気がしなくもないがよくわからない)

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本編では、ジャーナリストの男性が宇宙人の侵略に巻き込まれる話以上に、冷めた主人公夫婦の夫が宇宙人と入れ替わって、妻が別人になった夫と愛を育み直すというインベージョン恋愛もの(‥という形の夫婦の愛の修復もの)という要素の方が大きい映画だったが、本作は宇宙人の恐ろしさの要素の方が大きいSFホラー。
長澤まさみ版では80年代SF風の劇伴が流れていたが、本作では「回路」の劇伴に似たJホラーっぽい怖い曲が流れる。
長澤まさみの方の松田龍平の可愛い宇宙人や殉教者っぽく描かれた青年宇宙人や凶暴なJK宇宙人、本作での恐ろしい東出昌大宇宙人(以下、真壁と表記)や夏帆の上司の妻宇宙人‥色々居るが、彼らを見る人間の視点やタイミングによって彼らの見え方が違う。そして宇宙人が人間から奪う「概念」によって個々の性格が大きく変わっていく。
前提として、この世界では宇宙人が地球を征服するために先鋒として数人が地球に訪れ、実体を持たない彼らは地球人に同化する必要がある。同化された人間は永遠に眠ったままになってしまう。

👉宇宙人は何も知らないので人類から「概念」を奪ってそれを理解する
👉概念を奪われた人間はその概念を永遠に失い、高い確率で廃人になる
👉宇宙人は概念を奪って学習しつつ誰かが宇宙人本隊を呼ぶ装置を作って呼ぶのが目的
👉宇宙人本隊が来てしまうと地球人は全滅、役目を終えた同化した宇宙人も死ぬ

本作の「真壁」は、ガイドに任命した染谷将太が個人的に選んだ生贄から「プライド」「過去」「未来」「命」「恐怖」などを奪う。
「命」の概念を奪うと当然死なせてしまうし、どれも人間を廃人にする恐ろしい場面で、自然と真壁は悪役になっていく。
長澤まさみ主演の本編では松田龍平(宇宙人)が、引きこもりの青年から「家」という概念を奪うと青年が引きこもりではなくなり活発な青年にしてしまったり、更に長澤まさみの嫌なセクハラ上司から「仕事」という概念を奪って廃人にして長澤まさみを救う‥という場面があった。別に松田龍平宇宙人は妻や引きこもり青年に良いことをしようとしたわけではないのだが、結果的に「良い宇宙人」に見える描き方をしていた。そして最終的に龍平はあるホットな感情を奪って完全に良い人間そのものになってしまうオチだった。宇宙人本隊を呼ぼうとする青年宇宙人も、実際は地球侵略のために奔走してただけだったが、まったく協調できない愚かな人類よりも崇高な殉教者みたいに描かれていた。
本作の真壁は、前述した宇宙人達と違って最初から最後まで邪悪な宇宙人に見える。たまたま長澤まさみ版の宇宙人達が純粋な奴に見えるように描いて、真壁は邪悪な宇宙人に見えるように描いているだけ‥のように途中までは進んでいくが、やがて真壁は実際に悪い宇宙人になっていく。
だが、似た話だが描き方が違う作品が2本あったことで複眼視点を持てて楽しかった。
具体的な説明は避けるが、最初から最後までめっちゃくちゃ優しい人‥が実はめちゃくちゃ悪い事してた過去があるのを後から知ったことが何度かあった。
常に何事も多角的な視点を持ちたい‥と、思いがけず両作を観て思えた。

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黒沢清高橋洋というコンビ。そして冒頭で夏帆の同僚が「幽霊がいる」というので黒沢清の幽霊のことがMARVELヒーローくらい好きな僕は色めき立ったが、彼女の言う幽霊とは優しい実の父親の事だった。
彼女は既に宇宙人によって「家族」の概念を奪われていて父の事を幽霊だと思ったのだ。
「家族」の概念を奪われた彼女が見る実父は「家に知らないオッサンがいる。だけど見覚えがある気がするし他人とは思えない」というものだった。
この「知らないオッサン」と、同じ血が流れてるので彼女の身体が「他人とは思えない」という体感が反発しあった結果、恐怖を産み父を幽霊だと認識して恐怖したようだ。
モノホンの幽霊ではなかったので最初はガッカリしたが、「家族の概念がない時に家族を見たら幽霊に見えて気持ち悪い」という描写は面白かった。
よく考えたら、心が通じ合ってない親族というのは「気持ち悪いけど、死ぬまで縁が切れない」という、ある意味、幽霊より気持ち悪い存在なのかもしれないと思った。

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夏帆の夫・染谷将太は真壁のガイドに任命られた。
真壁の言いなりとなって「概念を奪わせても良い人間」を生贄として差し出し、真壁に重大な「概念」を奪われた彼らは廃人となる(もしくは死ぬ)。
生贄が染谷に選ばれた理由は「染谷が個人的に嫌ってる、上司とか嫌だった教師とか目についた奴」とか、それだけの理由。別に凄い悪人を選んでるわけでもない。
だから「自分が個人的な理由で選んだ生贄が眼の前で廃人になったり死亡する」の目の当たりにした事が原因で、彼は罪悪感を抱き精神的要因から衰弱して片手が激痛を覚えていく。
染谷は「宇宙人のガイドは、宇宙人に対して心の底から服従せず反抗心を抱くと衰弱していく」と思い込んで衰弱していっている。
後で真壁本人に「君の思い込みだよ」と言われても、染谷の心の弱さのほうが勝っていたせいか手の痛みは治らない。
妻である夏帆は「宇宙人が概念を奪う事の出来ない脳波の持ち主」だった。
それは夏帆が非常に強い女性だった事をデバフ能力化したものだろう。
彼女は、愛する夫を護る事を宣言して真壁に立ち向かう。
この辺は、さながらブラック企業や日本社会の軋轢に潰された夫を立ち直らせるために立ち上がった強い妻のように描かれる。

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真壁のパワーは増していき、指で触れなくても周囲の人物の「概念」を奪えるようになっていく。
そして「ガイドが連れてきた人間の概念だけ奪う」というルールも守らなくなったので明らかに邪悪になっていってるように見える。
彼が変わっていったのは恐らく「恐怖」の概念を奪って以降だと思う。
フィクションに出てくる悪役には、生まれついての純粋悪とかサイコパスなどのピュアイーヴィルがいるが、多くの悪人は心の弱さを悪行に変えていく悪人が多い(ジョジョの悪役とか‥現実世界の悪人とか嫌な奴の殆ども心が弱いだけの奴だろう)
そして真壁は、概念を奪えない女性・夏帆に興味を抱いて三角関係となり、
染谷は、黒沢清高橋洋が如何にも好きそうな「動き出したら止められない機械」で真壁を潰し、更に「羊たちの沈黙」めいた夏帆 vs.真壁のラストバトルを迎え、何時ものように世界が破滅して終わる。(本当は本作が終わった後の世界は破滅しないのだが、本作だけ観た場合「破滅して終わった」でいいだろう)

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黒沢映画のキャラと言えば、混乱した人物、アスペっぽい態度の男性、もっさりした女性‥大体そんな感じ。どんな女優が黒沢清映画の出演しても皆同じ様なもっさりした雰囲気の女性キャラになるが夏帆の場合、黒沢映画に出てない時でも黒沢映画の女性キャラみたいな雰囲気なので当然はまってた。
かっこいい画面のこと描くの忘れてた。夏帆が病院に行ったり夏帆の友達が病院に行った時などの、病院でカッコいい場面展開が何度かあった。曖昧な説明だが見ればわかるからいいだろ‥。
面白かったが去年、連続ドラマで観たとき全然面白くなかったのは何故だろう。
殆ど同じなので、やっぱり連続ドラマっていう形態が嫌いなんだろう。
クリーピー」が強烈すぎて苦手になってたが(というか香川照之がイキイキしてる)2年ぶりに黒沢清好きになれた。
次回作を検索したところ‥日本とウズベキスタン合作で、TVリポーター役の前田敦子ウズベキスタンをウロウロする「旅のおわり、世界のはじまり (2019)」って映画を来年やるらしい。ジャンル映画じゃなさそうなのが残念だが、楽しみにしていよう。

 

そんな感じでした

gock221b.hatenablog.com

「岸辺の旅 (2015)」幽霊が黄泉平坂で宇宙の終りと始まりを語る場面に感動👫👻 - gock221B

「復讐 運命の訪問者 (1997)」監督の作品の中でもエンターテイメント性が高い映画でした🔫 - gock221B

「893(ヤクザ)タクシー (1994)」 縛られた中での製作の姿勢を感じました🚕 - gock221B

「クリーピー 偽りの隣人(2016)」大変な怪作だが毒気にあてられすぎてか好きになれなかった🏠🏡 - gock221B

「ドレミファ娘の血は騒ぐ(1985)」洞口依子の可愛らしさと大学のフワフワした感じ👩 - gock221B

「散歩する侵略者 (2017)」理由はよく分からんが黒沢映画の壊れた夫婦もの観ると物凄く胸に来る👉 - gock221B

「ダゲレオタイプの女 (2016)」本作のあらすじ同様、現実世界から隔絶されたような黒沢幽霊映画inパリ👱‍♀️📷👱‍♀️ - gock221B

 

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