gock221B

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『ミッドサマー』 (2019)/映画全体の中では面白い方だが、この監督の新作という事を踏まえると田舎に行って以降の予定調和な展開では全く満足できない🌼

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原題:Midsommar 監督&脚本:アリ・アスター 制作:ラース・クヌードセン他
音楽:The Haxan Cloak 
制作会社:A24 製作国:アメリカ/スウェーデン 上映時間:147分

 

 

 

A24製作映画「ヘレディタリー / 継承 (2018)」で鮮烈な監督デビューをしたアリ・アスター監督。「へレディタリー」は自分の中で2010年代で一番面白い映画に決定‥どころか全部の映画の中でオールタイムベスト3に入るくらい気に入りました。「へレディタリー」以前に撮った短編映画もYOUTUBEに全部入り再生リストがあったのでいくつか観たりして‥やはり家族を通して何か受け継がれる要素を強く感じました。↓
🎥 ARI ASTER SHORT FILMS - YouTube
主演はネトフリ映画「呪われた死霊館 (2018)」で初めて観て、その丸顔フェイスや短め手足のちんちくりんボディやそれと相反する迫力ある演技などで「この子めっちゃ好き!」と一発で魅了されてしまい「この子は10年後、今のスカヨハとかエマ・ストーンのようにハリウッド女優トップ前線に躍り出るに違いない」と思ってたらWWEペイジの自伝映画「ファイティング・ファミリー (2019)」、いま来まくってるアリ・アスターによる本作、アリ・アスター以上に来まくってるグレタ・ガーウィグ「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 (2019)」など話題作に出まくり「若草物語」に至ってはアカデミー助演女優賞にノミネートされた。更に数カ月後には覇権MCU作品「ブラック・ウィドウ (2020)」 でも準主役と、10年どころか僅か2年という驚異的スピードでトップ女優前線に躍り出て驚いた。ほんの一年前は「フロレンス・ピューが好き?誰やそのアルバート・ピュンみたいな名前のやつw」って感じだったのに、今では色んな人がフローレンスピューをまるで以前から好きだったかのように振る舞うのをよく見かける。俺だけのピュー氏じゃなくなったのは寂しいがブレイクし始めたのは嬉しいのでOKです。
そんな両者の組み合わせに期待してたが日本では本国アメリカよりかなり遅れて公開された。本国ではとっくにBlu-rayとかがかなり前に発売されている。だが本作は「へレディタリー」の時のように単館上映みたいなんじゃなくて近所の普通のシネコンでやったので驚いた。という事はヘレディタリーは結構ヒットしたんかね?本作もヒットすれば次回作は本国と時差なく上映されるかもしれん。
アリ・アスター監督は、制作会社に「アメリカ人がスウェーデンの明るい草原に行くホラー」を作ってくれと言われ、その時アリ・アスターは恋人と破局寸前だったのでそういった失恋要素を盛り込んで本作を制作したらしい。
まぁまぁネタバレあり。

 

🌼

 

家族に起きた悲劇で情緒不安定な女子大学生ダニー(フローレンス・ピュー)が、破局寸前の彼氏クリスチャンや彼の友人たちと一緒にスウェーデンのホルガに出かける。
白夜によって日が沈まないホルガでは90年に一度行われるミッドサマー(夏至の祭)が行われるという。ダニーとクリスチャンそしてクリスチャンの男友人3人はホルガのミッドサマーへと出かける。
‥という話。
予告編を観たら「きっと『ウィッカーマン』みたいに自然豊かな平和の田舎に行ったら奇祭の生贄にされちゃう感じの話だろうな」と誰もが思うと思うが、全くもってその通りの話の繰り広げられる。
それよりまずホルガに行く前の冒頭の感想を書こう。映画が始まると民謡っぽい唄が流れる中、目的地のホルガには雪が積もっている(この冒頭は本編の少し前の描写)。そして主人公ダニーが住むアメリカの町にも雪が積もっている(凄く美しい)。
ダニーが留守番電話を吹き込んでいる実家の映像。実家にはダニーや妹の写真が飾られている。両親は寝ていて起きない。
ダニーが見ているパソコン画面には絶望しきった妹の不吉なメールが表示されている。
自殺を匂わせる内容、そして両親も連れて行くみたいな事が書かれているではないか。
ここでやっとフローレンス・ピュー演じる主人公ダニーが映る。彼女はその不穏なメールを見て見事な「ぐぬぬ‥」顔を浮かべる。
‥という3分くらい観て「やばい、今回も傑作に違いない」と期待が高まった。
そして両親が電話に出なかったことで妹への心配が晴れないダニーは、彼氏クリスチャンに電話する。どうやらダニーはしょっちゅうこういった相談をしているようでクリスチャンはそっけない。というかクリスチャンは本当はこんな話題ばかりなのにウンザリしている、だがそれが表に漏れないように喋ってるが‥はっきり言ってウンザリしてる様子がめっちゃ出ている。ダニーの方も自分がこういう話をしてばかりでクリスチャンがウンザリしてるのをわかってるので出来る限り不安を抑えて話している(電話で話してるのに嫌われないための作り笑いとかしていて痛々しい)。
結局、鬱の妹と電話に出ない両親への心配が晴れるどころか「クリスチャンにまた一歩、嫌われた」と不安がミルフィーユ状に重なったダニーは同性の友達にクリスチャンの相談をしている始末。
一方、クリスチャンと男友達。クリスチャンはダニーと、もう一年も前から別れたがっている事がわかる。男友達も「そんな女さっさと別れろ」と冷たい。
とか思ってると、クリスチャンに電話を再びかけてきたダニー、電話の向こうで叫びまくっている。
へレディタリー的な不穏な曲と共に、両親の実家に救急隊員だか消防員だかが突入する映像。心を病んだダニーの妹は、ガス自殺を図って両親もろとも無理心中したという凄惨な事態が明らかになる。
PCの前でホースを直接口に繋いでガスを吸い込んでダニーの妹は死んでおり、PCにはダニーに出した冒頭のメールが表示されておりダニーからの返信は開いていない。両親は寝てる間にガスを吸い込んで何も知らないまま無理心中させられたって事か?(冒頭に映った眠る両親は呼吸で胸が上下してたので生きていた)。
ダニーと一年も前から別れたいクリスチャンだが、こんな凄まじいことが起きて自分にすがりついて号泣するダニーを捨てる事はできない。かくしてダニーとクリスチャンの破綻した交際は更に引き伸ばされることになった。
‥という映画の本編が始まる前のつかみの冒頭10分くらい?がはっきり言って面白すぎる。へレディタリー的な面白さ。これで本編になったらどうなってしまうのか?というか充分面白いのでスウェーデンの奇祭とか行かなくてもいいんだが‥と少し思った。
そして一年くらい後?、クリスチャンがつるんでる同級生の一人ペレ、彼の人里離れた故郷スウェーデンのホルガにて90年に一度のミッドサマー(夏至の祭)が行われるという。文化人類学を選考しているクリスチャンたちは好奇心から行ってみることにする。クリスチャンに捨てられたくないダニーも着いていく。
車でホルガに近づいてきた道中、画面が上下逆さまになる。「常識が通用しない世界に足を踏み入れてしまった。そしてももう引き返すことはできなくなった」というわかりやすい合図。
ホルガに着いた一行は、何かドラッグで一服する。何なのかわからん‥多分キノコ的なもの。メンタルが安定しないダニーは断るが、ダニーが断ったら本当はきまりまくりたいクリスチャンもダニーを一応気遣うふりをしてきまる事ができない。その同調圧力に負けてダニーもドラッグ喰う。
案の定バッドに入ったダニー。村の物置だかトイレだかに入ると鏡にホースを咥えて自殺した妹が映る。振り返って鏡を観ると「リング」の心霊写真みたいに自分の顔が歪んで見えた(何しろバッドだから)失神するダニー。何か言いたそうに両親と座る妹がダニーを見ている。そんな悪夢を見るダニー。
なるほど、冒頭のめちゃくちゃ面白かった妹のくだりが、こういう感じでミッドサマーでの出来事とちょいちょい絡んで一点に集約するんだな?スウェーデンに来て残念だったがそれなら、面白くなるかもしれん。
と思ったが、妹の幻影はたまに出てくるけど特に本編の芯となる事はもうなかった。
どちらにしてもここまでの‥特にダニー妹の無理心中が判明する10分くらいの冒頭が良すぎた。多分「ダニーがメンタル崩壊寸前な理由」とか「ダニーがクリスチャンを頼ってしまう理由」とか「ダニーと別れたいクリスチャンだが別れにくい理由」などのちょっとした背景のために描いたんだろうけどはっきり言ってこの冒頭がホルガに出かけてから巻き起こる本編より面白すぎる。

 

 

 

その後は想像通り「一見楽園のような村での平和に見える村人たちの、自然崇拝から来る奇妙な習慣などに戸惑いつつも滞在するが、やがて恐ろしい事に巻き込まれていく」という展開が続く。凄く明るく美しい景色の中でグッチャグチャに損壊した人体をクッキリ見せてきたり、その強烈な前フリの後で「子供も死ぬ?!」と思わせてのスカしなどは確かに面白かったが、後は大体「こんな事が起きるんだろう」という事がずっと起きて終わる。
そしてダニーとクリスチャンの関係も悪くなっていく。最初から良いところのないクリスチャンだが、どんどん最低な部分が明らかになってやがて大喧嘩する。クリスチャンの内面は「ダニーなんかとは凄く別れたかった。正しい性格のダニーと居ると自分のカスっぷりを感じて自己嫌悪で辛い。そんなダニーに自分から別れを切り出すとますますカスになってしまうから出来ない。そして更に辛くなる」という、どうしようもないものであり。この世間体を気にして表面上はダニーの優しい彼氏を気取るがダニーも周囲も自分自身でさえ、クリスチャンが優しいとは思ってないって辺りが非常にリアル。監督が本作を製作中に現在進行系だったという失恋を盛り込んだ結果リアルになったんだろう。監督がクリスチャンみたいな心境だったのか、又は相手がそうだったのか、それとも二人共がそうだったのかはわからない。とにかくリアル。だが、ダニーとクリスチャンの関係は映画が始まる前から破綻していたので2人の失恋描写に対しても「クリスチャンの身勝手な意見がリアルだなぁ」という以外に面白いところはない。終盤では「マリッジ・ストーリー」のように本心を絶叫し合うが、真に愛し合っていた良い部分もたくさんあった「マリッジ・ストーリー」主人公夫婦と違って、クリスチャンは最初からカスとして描かれてるので本心を絶叫されても「改めて台詞で言わなくても全部わかってるから言わなくていいのに」とあまり盛り上がらない。だからクリスチャンが生贄にされても只のざまぁだからダニーが助けようとしないのは当然だろうと思うし「後は闇の祝祭的バッドエンドを迎えて終わりだな‥」と思った通り終わり、何だか盛り上がらない。
劇中、描かれたものは「へレディタリー」と似ていて「家族の崩壊」「信頼の崩壊」「映画開始の時点で既に詰んでいる」「ゴア描写でグチャグチャに損壊した人体をドアップでバッチリ見せる」「嫌な食卓」「女より男の方がアホ」「年寄りの裸は怖い」「明るい光の中で怖い事が起きる」「アイデンティティー崩壊」「闇の祝祭的に高い次元に上昇して終わるバッドエンド」‥など、こうして考えると似た要素が凄く多い。だから、これらが監督のパターンなんだろうね。しかし次にどうなるのかわからなかった「へレディタリー」と違って、本作は映画が始まって10分以降は全部想像通りの田舎ホラー的な出来事が起きるだけで凄く凡庸に感じられた。
といっても本作がつまらないわけではなく、そこらへんのホラーよりずっと面白い。映像も美しいし凝ってるし良好気分にもなれる、僕が好きな、いっぱい人が死んだりグチャグチャになるところも見れたしね。美しい映像で奇抜なことが色々起きてるにも関わらず平凡にしか思えなかったんですよね。「ホラー映画でよく起きること」も本来は好きなんですけど、アリ・アスターの実力がそれを凌駕しすぎてるので「こんなの撮ってる暇あったら、もっと凄いの撮ってくれ」という奇妙な気持ちというか‥。凄い料理作れる料理人が吉野家でバイトしてるのを見た気分というか「牛丼は大好きだけど誰が作っても同じ味になる吉牛をあんたが作る意味は?!」という気持ちというか。わかる?
観る前に「アリ・アスターの新作だ」と高まってた期待が、冒頭の面白い10分で更に天空までハードルが上がってしまい、その後に繰り広げられるのが凄く普通っぽい凡庸な田舎ホラーなので何だかションボリしたという感じ。
監督は制作会社に「アメリカ人達がスウェーデンの明るく平和な村に行って恐ろしい目に遭うホラーを撮ってくれ」と言われて「そんな話思いつかんぞ‥」と思ったらしいが自分のリアルタイム失恋体験を交えて撮り上げたらしい。
だけど結果的に本作で面白かった部分が「家族の不幸」「失恋」という監督の個人的な要素のみで頼まれて撮った村での奇妙な風習は凄く凡庸だった、起きる出来事や「途中に出てくる絵に後に起こる出来事が描いてある」とかの小ネタも特に深くもなくよくあるもので‥、それでいて本編の前フリとして作っただけのダニーの背景の設定が奥深すぎるので「もうスウェーデンの奇妙な村とか行かんでいい!最初の町でダニーの妹や両親について掘り下げてくれよ!」という思いが強かった。
ホルガの美しい映像や劇中起きるショッキングな出来事も悪くはないんだけど、わざわざアリ・アスターが撮らんでもA24の他のカッコいい映像の監督誰が撮ってもこうなるだろう、アリ・アスターにはこんな普通の話じゃなくて彼自身が撮りたいものを撮らせてやれよという思いが強かった。
こんな事なら、ダニー達が車に乗って「ミッドサマーに行くぞ!」ってところから始まってればよかった。それなら「雇われ監督作品だし二作目はこういう軽い感じもありかもね」と諦めもつくのだが冒頭で下手に才能の片鱗を見せてしまったがために残りの時間が全然楽しめなかった感じがする。
ちょっと短期間の間に思い入れ過ぎたせいで素直に楽しめてないだけって気がしなくもないが‥、それに文句ばかり言ったが一応最後まで楽しめるくらいは面白かったんですよ。だけど「もっと凄いはず」という思いが‥。
そういえば「へレディタリー」も、そこに着地しないと終わらないから仕方ないんだけど最後に悪魔が出てくる辺りで少しだけガッカリしたんだよね。そこまでのギスギスした人間ドラマが良すぎたから。本作でも冒頭の妹の自殺やダニーが終始見せる「ぐぬぬ‥」顔やクリスチャンのカスな性格‥そんなところばかり面白かったから次からはいっそのことホラー映画じゃない方がいいかも。ノア・バームバックみたいな人間ドラマの方がいいんじゃないか?言っとくけど僕は悪魔とかホラー映画とか大好きなんですけどね、アリ・アスターのホラーも大好きなわけだが、彼の映画のいいところが全部人間描写だからホラーじゃないほうがいいかもと思ったんですよね。でも確か「ホラー映画はミッドサマーでやめる」って言ってたし、そうなるかもね。
次回作はまだ未定だけど、次も期待。

 

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そんな感じでした

『ヘレディタリー / 継承』(2018)/今年の映画&ホラー映画で‥というか、ここ10年の映画の中で一番好き🤴 - gock221B
『ボーはおそれている』(2023)/楽しい場面は幾つかあるがメンヘラ主人公の夢みたいな主観描写が全編3時間続くのはしんどくて付き合ってられない。2時間でいいだろ👨🏻‍🦳 - gock221B

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Midsommar | A24
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Midsommar (2019) - IMDb
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