gock221B

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『デッド・ドント・ダイ』(2019)/死人のような空虚な気分にさせられるメタゾンビ映画🧟‍♂️

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原題:The Dead Don't Die 監督&脚本:ジム・ジャームッシュ
主題歌:スタージル・トンプソン 製作国:アメリカ 上映時間:104分

 

 

 

緊急事態宣言による自粛解除を受けて、この映画が凄く観たいわけでもなかったが「映画館に入ってみたい」という気持ちだけで観た。
ジム・ジャームッシュ のゾンビ」という邦題の方がぴったりだった気もする映画。
ネタバレあり。
アメリカの田舎町、地球の地軸がずれて死者が甦るお話。
警察署長(ビル・マーレイ)、警官(アダム・ドライヴァー)、婦人警官(クロエ・セヴィニー)、日本刀の扱いに長けた葬儀屋(ティルダ・スウィントン)……などを始めとしてジャームッシュ映画で見かける人がよく出てくる。世捨て人役はトム・ウェイツだったのを今知った(彼の顔って、あの特徴的な顔の輪郭を隠されると誰かわからなくなるもんだね)。コーヒー大好きゾンビでイギー・ポップが出てた(この人のルックスは20年経ってもたいして変わらないね)。
物語の展開的には死者がゾンビになって蘇り、奮闘する人あり普通に食われて死ぬ人ありで世界がめそめそと終わっていく……というゾンビ映画でよくあるやつ。
ただ、本作はただのゾンビ映画じゃなくてメタ的なゾンビ映画だったのが特徴。
割と映画が始まったばかりの時点でアダム・ドライヴァーが「この話はバッドエンドで終わる」「この展開は台本読んで知ったる」と言ったり、劇中で頻繁にかかる『デッド・ドント・ダイ』というカントリーソングを聴いて「この映画の主題歌だ」などとメタ的な台詞を言う。僕はフィクションやゲームで、そういったメタ的な台詞や展開が入ると凄く萎えるので本作も、言われるたびにテンション下がった。当然そんな台詞にも意図や意味はあるが、そもそもメタ的な台詞自体が好きじゃないってだけ。
ゾンビがまだろくに出現してない時から、アダム・ドライヴァー以外にもゾンビに備えて武装する人が増え(何故かと言うと台本を読んで知っていたから)、終わりが近づくにつれ、アダム・ドライヴァーのメタ的な台詞がどんどん増え、やがてビル・マーレイもそんな事を言い始める。ビル・マーレイは自分の出番しか台本を読んでないという設定なのでアダム・ドライヴァーと違って「終わる世界への理解」が浅かったので自分がどうなるのか知らなかった……という設定なのかもしれない。
クライマックスで無事だったのは、人間ではない存在だったティルダ・スワントンと施設から逃げた子供たち(子供が死なないのは未来を象徴する希望だからか?)、それと世捨て人トム・ウェイツだけだった(文明社会や人間関係から自ら逸脱した存在なので死なずに済んだ)。
ラストにはその世捨て人トム・ウェイツが「消費文明で魂を失った人は死人同然だ」とかなんとか説教して終わる。だけどそれはロメロが大昔に『ゾンビ』とかで散々言ってたことなので、何で改めてまたジャームッシュに言われないといけないのか、そしてジャームッシュも映画ファンはそれ知ってるはずだと知ってて何故改めて言ったんやろ、とよくわからなかった。
序盤からアダム・ドライヴァーがやたらとメタ的台詞を言ったり、いかにも活躍しそうな都会から来た素敵な女の子(セリーナ・ゴメス)がカット変わったら何のドラマもなく死んでたり、一人だけ町の状況を覆せる力を持った超人ティルダ・スワントンが何もせずに物語から離脱してしまったのは、本作にドラマを発生させずエンターテイメントなゾンビ映画として観客に消費させないようにするためだったんだろう。最後にロメロ的な消費文明批判を今更言い始めたのも、内容のある新しい立派なこと言われて「うん、良いメッセージだった!」などと、観客が感動したら良いゾンビ映画として消費されてしまうため、わざと使い古されたゾンビのテーマを一席ぶって終わったんじゃないだろうか(その場合、ロメロゾンビ観てない若い人がこれ観たら「それもそうだ」と普通に感動しちゃうのだろうか?)。ロメロのゾンビ映画の時点で人類への説教が完璧に終了してしまってるので「そんなロメロの説教に感じ入ってる事もまたダメだぞ」という被せた説教されても……という気分になる。公式サイトを見ると、この映画の構造を指して「新しくて自由なゾンビ映画」という方向で推しているが、自由とか新しいんじゃなくて思いついてもつまんないし不要だから誰も作らなかっただけなんじゃないかと思った。
序盤でアダム・ドライヴァーがメタ的な台詞をやたらと何度も言うのを見て「あぁ、これって、そういう映画かぁ……」とかなりテンション下がったまま最後まで観てそのまま終わりだるかったです。
きっと「ジム・ジャームッシュゾンビ映画」というエンターテイメントを消費する気満々で観始めたのに「そんなお前は死人同然だ」と説教された気分になったせいかもしれない。登場人物を食い尽くすゾンビが我々という構図。事実、観てる間も観終わった後も非常に空虚な気持ちになった。監督は観客をそんな気持ちにさせたかったんじゃないだろうか。全然そんな意図じゃなかったとしたら、俺がアホみたいだが多分そうだろう(そうじゃないと、ただのつまらないだけのゾンビ映画だったって事になる)。
一言で言うと「『消費する欲望を持ったお前らがゾンビだ』という『ゾンビ』のメッセージを消費する、お前らがゾンビだ」みたいな映画だったってことかな。
とはいえ純粋に楽しめた面白い場面もあった。殺人現場のダイナーにアダム・ドライヴァーがクソ小さい車で猛スピードで乗り付けてピタッと止まったのは楽しかったし、そこで「死体を見に行く→2体のおばさんの死体のクローズアップ→『野生動物の仕業かな?』と言う」という全く同じくだりが3回も繰り返されるのは純粋におもろかった、繰り返したのは多分ドラマとしてのエンタメの放棄だったんだろうが、それが逆に監督の意図に反してデヴィッド・リンチ作品みたいなノリになって面白くなっちゃったパターン。あとはティルダ・スワントンのコミックのキャラみたいな珍妙なキャラとかか?そういえばクロエ・セヴィニーのあのデコ全開ひっつめ髪に眼鏡というスタイルが凄く性的に好みな自分の新しい好みも発見した(子供の頃に伊丹十三の『お葬式』のエロいシーン観て興奮したせいかも)。自分はゾンビ映画の主人公だと自覚したアダム・ドライヴァーが、物語が進むとどんどん無感情になって殺す様も楽しかった(というかアダム・ドライヴァーは今や、ただ立ってるだけでおもろい男だが……)。
そんな感じで、僅かに面白いところもあったものの、観てる間や終わった後などは凄く空虚な気持ちで眠くなる映画だった。たとえば『スクリーム』や『キャビン』は観客をメタ的な構造で楽しませようとしたホラー映画だったが本作の場合は、それを社会や我々に向けた批判に使っているメタゾンビ映画だった。「確かにその通りだが今更そんな誰でも知ってること言われても……何故今頃になってそんな事を言いだしたの?」という気分にさせられた。特にそれが今、公開されるにふさわしいという感じもせず、本作が10年前や20年前に公開されてても全くおかしくない感じ。全く面白くなかったと言っても過言ではない、何か凄く90年代っぽかったわ。だけど、そんな感じでゾンビ映画に期待してた映画ファンをゾンビみたいな空虚な気持ちにさせるのが監督の意図だったので監督の狙い通りだったんだろうなというのが俺の感想。
はっきり言ってほとんどの時間まったく面白くなくて眠かったが、こうして感想を書いてると面白いので観てよかった気がだんだんしてきた(映画が面白くなくても面白くなかった映画の感想を書く事自体は面白いので映画ブログっていいよね)。この映画を見て面白がれるのは「ジャームッシュ以外の人類はアホだ」と思ってるジャームッシュの狂信的なファンか、または「『面白くない』ように感じさせるようにわざと作ってる事が斬新で自由で面白い」と思うような人くらいではないだろうか。ライトな一般層は、普通に面白くない事に戸惑って他人の感想を検索して読んで自分の感想を決めるタイプの映画かも。これは僕の勝手な想像だけど高校生から20代前半くらいの反抗期を引きずった若者はこの映画好きかも(自分がそのくらいの年齢だった時を思い出したら好きかも?と思ったので)。
それと、これはこの映画のせいじゃないんだけど、コロナ自粛期間中、世界に対して終末感を感じてたので、かつてないほどロメロのゾンビ映画にシンクロしてたのでゾンビ映画観るなら普通に純粋に抗うゾンビ映画を観たかったのにメタ的なゾンビ映画だったのでガッカリ度も高かったのかも。そしてコロナも終息していない上にアメリカで現在ブラックライヴズマタ-真っ只中であるためか、本作を観て「なんだか今さら随分のんびりとした……贅沢な悩みを描いた映画だね」と思った。

 

 

 

そんな感じでした

🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️🧟‍♂️🧟‍♀️
The Dead Don't Die (2019) - IMDb

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