原題:Malignant 監督/制作/原案:ジェームズ・ワン 製作総指揮/原案/出演:イングリット・ビス 制作/原案:アケラ・クーパー 制作会社:アトミック・モンスター・プロダクション 製作国:アメリカ 上映時間:111分
低予算ホラー映画『ソウ』(2004)を監督&脚本で大ヒットさせて『ソウ』シリーズの制作で大成功。Jホラーやオカルト映画っぽい演出とアメリカンな事件解決展開を組み合わせた『インシディアス』(2010)&『インシディアス 第2章』(2013)と 『死霊館』(2013)を監督して大ヒットさせてシリーズ化やシネマティックユニバース化して大成功。そして人気シリーズ『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)を監督して超絶ヒット。DCヒーローの中でも比較的人気の少ない『アクアマン』(2018)を監督してDC映画で最大の超絶ヒット……という「一体何回成功すれば気が済むんだ」ってくらい大成功し続けてるジェームズ・ワンの監督最新作。もうホラー撮らないのかと思ってたがホラーに帰ってきた。
ジェームズ・ワン作品の特徴は、まず画面がめちゃくちゃ美しくアクションが非常に爽快で明快に終わるものが多い。そして絶対に「観て損した」って感じの作品は撮らずハズレがない……その代わりエンタメに全振りしすぎてエモいシーンが少ないせいか、めちゃくちゃ感動したり「今年のナンバーワンだ!」って感じの傑作も少ない(ただ『死霊館 エンフィールド事件』(2016)中盤の霊能者夫妻と霊障被害者家族が団らんして歌を唄うシーンだけやたらとグッと来る、ワン監督で唯一エモい場面だった)。「観て絶対に損はしなくて楽しいが、めちゃくちゃ良いわけでもない」という手掛ける全作品が70~80点って感じの印象。90点超えは少ないが70点より下にも行かない安心のワン監督。柵越えホームランは打たないが全打席で塁に出るし怪我もスキャンダルも無いタイプ。そんな人なかなか居ない。絶対に楽しめるし画面もカッコいい。しかもホラー映画作りのノウハウをスタッフに流通させているのかワンが監督せず制作しただけのホラーでもワン監督作に遜色ないくらい面白いものが多い(ワンが監督した時のプラスは新しいアイデアが足されてるところ)。最初は「優秀な監督が集まってるのかな?」と思ってたがジェームズ・ワン制作ホラーを監督して超面白かった監督なのに外部で監督したら全然ダメだったりするので「やっぱワンが作った制作システムが凄いんだな」とわかった。逆にワン制作ホラーではイマイチだったけど外部に出たら面白かった逆パターンは『シャザム!』(2019)の監督。
この映画は、赤を貴重としたビジュアルイメージや予告編を見て「よくわからんがいつも通りカッコいい画面のオカルト幽霊屋敷ホラーかな」と思ってたがワン制作オカルトホラーもあまりに作られすぎてネタギレ感があり、スルーしようとしてたが(同様に死霊館3もスルーしてしまっていた)公開されて妙に評判がいい。そして既に観た友達とかSNSの人らは「面白いけど内容を具体的に言えない!」と口々に言うので「『シックスセンス』みたいな仕掛けのある映画みたいだな」と気になってきた。予告だけ観ると、いつものオカルト路線に見えるがどうやら違うらしい。確かに、いつものオカルト幽霊屋敷ものなら『インシディアス』シリーズか『死霊館』ユニバースのどちらかに組み込むはずだもんね。
この映画の原案は、ジェームズ・ワンが制作した『死霊館』ユニバースの一本『死霊館のシスター』(2018)で知り合って結婚した女優イングリット・ビスのアイデアらしい、ちなみに彼女は本作でも警察署の備品係みたいな役で出てた。ロブ・ゾンビの奥さんシェリ・ムーンとかジェームズ・ガンの彼女ジェニファー・ホランドみたいに今後も出るんだろう。
仕掛けについては直接的なネタバレせずに書くけど、勘のいい人は読めばわかってしまうと思うので観てない人は大きな脳みそアイコン🧠以降は読まない方がいい。
1993年、僻地に建てられた古城を思わせる精神病院で、怪力と電気機器に干渉できる超能力を持った患者を医師たちが押さえつけ悪性腫瘍(Malignant Tumor)を除去した。
現在。過去に何度も流産している黒髪の妊婦マディソン(アナベル・ウォーリス)。今夜もDV傾向のある夫と言い争いになり夫は発作的にマディソンの頭を壁に叩きつけてしまう。夫は謝るがマディソンは寝室に引きこもって寝てしまう。
その夜、長い黒髪で奇妙な動きの痩躯の男が住居に侵入しマディソンの夫を惨殺。
その男の影を目撃したマディソンも失神。彼女が病院で目を覚ますと妹のシドニー(マディー・ハッソン)が看病していた。しかし、また流産した事がわかり号泣するマディソン。
妹の助けで退院したマディソンだが、眠りに落ちると知らない場所で件の怪人が色んな人々を惨殺するという凶暴な悪夢に苛まれるようになり、そして彼女が見た凶暴な悪夢は全て現実世界でも実際に起こっていた事が明らかになる。そして目覚める度にマディソンの後頭部に見に覚えのない血液が付着していた。
マディソンとシドニー姉妹、刑事たちはこの連続殺人鬼を追うが―
という話。
このストーリー、そしてマディソンと怪人の容姿が酷似していること、マディソンが悪夢で事件現場を見てる事などから「幼い頃に凶暴な精神病患者だったマディソンは二重人格で、眠ってる間に連続殺人を行っている」と観客に思わせようとしている。こんな早い段階からそう思わせようとしてるという事は当然そうではないのだが、しかし真相が思いつかない。
前半は、近年のジェームズ・ワン制作ホラーと似た感じで進む。具体的には、昔のオカルト映画のように「この屋敷には何か邪悪なものがいる」といった雰囲気で、怪人の影や気配に主人公が怯える描写(こういうオカルト描写に興味ない人が観たら退屈だと言いがちな部分)。だから『インシディアス』シリーズや『死霊館』ユニバースのように「悪霊や悪魔かな?」と思わせるようにしている。それにしても怪人の影にマディソンが怯えて家中を走り回り窓を締めたりする場面が本当に見事。……というか最後まで観終えた後で思い出すと「よく、こんな映画であんなテクニック使うなぁ」と違う意味でも驚かされる(色んなテクニックを、賞レースや高い評価狙いにではなく見世物小屋的エンタメ要素に全振りしてるジェームズ・ワンは今、最も信頼できる監督かも)。
そしてワンはアクションも得意なので奇怪な動きで飛び回る怪人を、とても明快かつ爽快感まである感じで描いている(わけのわからん動きで螺旋階段を垂直に降りていき地下で対決する刑事との鬼ごっこも楽しかった)。
マディソンと妹シドニー、刑事たちはそれぞれ捜査するうち、謎の怪人が殺害して回ってるのは冒頭の精神病院関係者ばかりという事が明らかになってくる。
そして怪人は、地下ツアーの人気ガイドの中年女性を、殺害ではなく誘拐するが、この女性だけ殺さなかったりする。
そんな感じで「わかるような、わからないような……」という感じで物語は進む、これが夢だったり誰かの頭の中の幻想だったら超ガッカリだがジェームズ・ワンはそんなガッカリ展開しないという信頼感を持ってるのでそういう心配はなかった。
後半になると真相が明らかになる。
🧠
確かに……想像してなかった。かなり豪腕の展開!
そして、この真相って……フランスやイタリアの古いホラーやサスペンスやジャーロが一緒くたになった珍妙なサスペンスホラーでありそうなトンデモ展開だな、と思った。いま具体的にタイトルが出てこないが、このブログだと……あんまり面白くなかった『イントルーダー 侵入者』(1999)とか?そんな感じだ。
何か衝撃的なシーンには昔のエクスプロイテーション映画のようなシンセサイザーの珍妙な音が鳴り響いたりする辺りも良い感じです。
そして観た現代の観客は皆、思いそうだが本作は殆どスーパーヒーローのオリジン。
ただ本作で暴れるのが連続殺人鬼だからサスペンスホラーってだけで、ちょっと設定変えれば何時でもヒーローものに仕立て上げられそう。
後半、怪人が警察署内で暴れて囚人や警官たちを皆殺しにする場面は、怪人が悪なのに、怪人に感情移入させられ皆殺しにカタルシスを感じながら観させられる。
「オイオイ何だよ、この展開!」といったとんでもない展開になっていく。「ホラーの新しい境地を切り開いた!」みたいな声もあるが僕はこれ、さっきも言ったように昔イタリアやフランスやアメリカのカルト作であったけど誰も顧みなかったような展開を、ワン監督が卓越したテクニックで現代に蘇らせた……そんで、そんな展開を大作で観たことない人が新鮮に思う感じじゃないだろうか?まぁ面白いからどっちでもいいけど。手塚治虫の『ブラックジャック』とかでもありそうな話だよね。もしくは二口女。
画面や構図の美しさ以外にも、女優かなんかの仕事をしてるらしい妹シドニーが面白かった。流産した姉マディソンを見舞う、まだ深刻な場面のはずなのに本編とは全く関係なく妖精みたいなアイドル衣装みたいなコスチュームを身に着けていたりして可笑しい。暗くて重い設定の中、瑞々しく爽快感ある抜け感を、このシドニーが一人で発揮してて本作で明るい気分にさせる数少ない要素だ。実際このシドニーはマディソンにとって希望の光である家族だという事が終盤描かれるので、それを表現したかったのなら充分、成功してますよね。
それと、さっき「スーパーヒーロー映画っぽい」と言ったけど、事件が解決した後、か弱い女性マディソンが「いや、私にもできるはず……」とか言って怪力を発揮する場面もまた可笑しい。封印師とでも呼びたいスーパーヒーローになっている。普通に終わるならマディソンが怪力を発揮するシーンなんか入れなくていい、ムード壊れるから。でもこれを入れたってのが、シドニーの愛らしいキャラクター同様、現在のワン監督の余裕なのかもな、と思った。
ワン監督の過去作の中では、近年大ヒットし続けてた『インシディアス』シリーズや『死霊館』ユニバースのような幽霊屋敷オカルト映画ではなく、最も観られてないと思われるトンデモホラー『デッド・サイレンス』(2007)に近いと思った。
オカルトは一通りやり尽くした感あるので今後は本作やデッドサイレンスのような、どんでん返し系トンデモホラーも作っていくのかもしれないね。ほぼ全作大ヒットしてるワンの映画のうち、あまりヒットしなかったトンデモホラー路線も埋まりワンの映画人生がより完璧に近づいた。
期待を裏切らないワン監督は今回もまた笑顔にさせてくれました。
そんな感じでした
〈ジェームズ・ワン監督作品〉
『インシディアス』(2010)、『インシディアス 第2章』(2013)/絶対2本続けて観た方がいい。時空の流れに逆らって悪霊退治👻 - gock221B
『死霊館』(2013)/Jホラーっぽい前半とアメリカ映画っぽい後半の組み合わせが良すぎる👻 - gock221B
『死霊館 エンフィールド事件』(2016)/横綱相撲みたいな洗練されきった貫禄ホラー!👻 - gock221B
『アクアマン』(2018)/明るくて中国の武侠ものっぽいヒーロー映画。シチリア島での地上戦と半魚人トレンチが好きでした🔱 - gock221B
『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)/「ワイルド・スピード ICE BREAK (2017)」ステイサム目当てで初めて観たけど面白かった🚗 - gock221B
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