gock221B

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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 (2022)/ミシェル・ヨーが称賛された本作自体やアイデアは素晴らしいが本編は最後どうなるかわかってるのにパチスロ大当たり演出みたいな映像が延々と続くので疲れた👩🏻👁


原題:Everything Everywhere All at Once 監督&脚本:ダニエル・クワンダニエル・シャイナート 製作:アンソニー・ルッソジョー・ルッソ 製作&配給会社:A24ほか 製作国:アメリカ 上映時間:139分



 

監督は「遭難した青年がダニエル・ラドクリフ演じる水死体に乗って使ってサバイバルして脱出する」という、とてもキャッチーな映画『スイス・アーミー・マン』(2016)で長編デビューしたMV出身の二人組。
今回は「ミシェル・ヨー演じるアジア系中年女性が実はマルチバースを股にかける唯一無二の真の人間だった」という話で、二作とも共通してるのはキャッチーさで注目を集めて内容では平凡な人間ドラマを展開するというところでしょう。
スイス・アーミー・マン』(2016)の時は「『ハリー・ポッター』後に変な役ばかりしたがってるダニエル・ラドクリフ」を水死体役にして、本作は「映画界で黒人の出演者やクリエーターの地位が上がってきたから、その更に何倍も地位が低いアジア人主人公とメインキャラ」「LGBTQ+の娘との確執」などと同時代性がある。古くからアメリカ大作映画に出てはいたが「ステレオタイプの達人」役しかしてなかったミシェル・ヨーも本作では全編出ずっぱりでカンフーだけでなく様々な魅力や感情を見せて各映画の授賞式で受賞しまくっている。各映画の授賞式からしたら「ミシェル・ヨーが良かった」という単純な話だけではなく「よし!わしらもアジア人に賞獲らせてプロップスを上げるチャンス!」という仕組み(メカニズム)も働いている。あと本作には『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)、『グーニーズ』(1985)などスピルバーグ制作映画で一躍有名になった後に誰も使わなかった元人気子役キー・ホイ・クァンミシェル・ヨーの夫役で出演し、注目された。人気者が出てくると大慌てで適当な役にブッキングするMARVELスタジオがさっそく『ロキ』シーズン2(2023)に抜擢した(『ロキ』はマルチバースの話なのでそこまで適当でもないか)。本作によって思ったことを発言しても聞いてもらえるようになったキー・ホイ・クァンは色んな作品に出れるようになった。つまり昔で言うクエンティン・タランティーノ映画のように映画スター再生工場的な役割も担っている。
……といった感じで本作は内容以前に、あらゆる力が交錯する装置と化している本作そのものという「仕組み(メカニズム)」によって作品、監督、出演者の評価が相乗効果で上がり業界に活性化をもたらす作品になっている。
「内容そのものは地味なアジア人家族の人間ドラマ」という、誰も見向きもしないようなものなのだが、表層的にはMCUが地ならしして喉を通るようになった「マルチバース」という派手な要素で装飾してある(ここ数年間で皆が覚えたので忘れられた事実だが数年前は「マルチバース」の概念をどんなに説明されても一切理解できない人が多かった)。
そういう感じで、ありとあらゆるポイントでこの監督コンビはやり手ですよね。A24で制作&配給っていうのもまたイケてるように思えるし……。きっと今後も話題作を作るんでしょう。
ちなみに前作『スイス・アーミー・マン』(2016)は、このブログを始めたあたりで観たので感想も書いてたんだが正直、面白かったのは予告編で、本編もブログの感想もイマイチだったので消してしまった。最初に結論言うと本作も『スイス・アーミー・マン』(2016)よりはずっと面白いけど割とそういう傾向があります。

「ずいぶん感想の前ぶりが長いな」と思うかも知れませんが、本作で一番優れてるのは長々と語ってきた「本作の存在がもたらすもの」なので、ここまで書いた事が感想の本番で以下の本編の感想こそオマケなんです(何なら以下の感想は別に読まなくてもいい)。

ネタバレあり……だが観てない人が読んでも何言ってるかよくわかんないと思う

 

 

 

 

Story
コインランドリーを経営する地味なアジア系中年女性エブリン(演:ミシェール・ヨー)。夫は地味で気が弱いウェイモンド(演:キー・ホイ・クアン)、エブリンとうまくいっていないLGBTQ+の娘ジョイ(演:ステファニー・スー)、エブリンの厳格な父親ゴン・ゴン(演:ジェームズ・ホン)。
……というエブリンの家族。
エブリンは冴えない夫、反抗的な娘、徘徊する父、コインランドリー経営、天敵であるIRSアメリカ合衆国内国歳入庁)ディアドラ監察官(演:ジェイミー・リー・カーティス)……などに囲まれた生活に疲弊している。
ある日、夫が別のマルチバースの夫の意識と入れ替わり「全マルチバースを脅かす驚異に対抗できるのはエブリンだけだ」と伝えられる――

色んなマルチバースが出てくるが、本編のコインランドリーの地味な世界を「基本世界」と呼ぶなら、冴えない夫と入れ替わったカッコいいウェイモンドがいる世界は「アルファ」と呼ばれる。
アルファ・エブリンは死んでいるがマルチバースの同一の自分と脳を繋げて経験やスキルを繋げられる技術「バースジャンプ」を発明した。しかし自分の娘……アルファ・ジョイにバースジャンプをさせすぎたせいでアルファジョイは全ての自己と繋がって人間性を喪失してしまった存在「ジョイ・トゥパキ」となってしまい何千という世界のエブリンを殺して回っている。
そこで「どこの世界とも違う」基本世界の何の取り柄もないエブリンが、ジョイ・トゥパキに対抗できるのだと、アルファ・ウェイモンドに聞かされる。
バースジャンプによって、別のマルチバースの自分が持つ人生を追体験したりスキルを手にするには「やろうと思えばすぐ出来るが普段は絶対にやらないような事をわざとする」それによってバースジャンプを可能とする……アイデアが素晴らしかった。
バースジャンプは基本世界エブリンやジョイ・トゥパキだけでなく追手のエージェントも使う(ちなみにジョイ・トゥパキの配下はIRS監査官や警備員、コインランドリーの客などエブリンの周囲の人達の別のマルチバースの存在が多い)。劇中でも各人が「口紅を食べる」「嫌いな敵に愛してると言う」「頭に書類をホッチキスで止める」「指の股4つを紙で切る」「小便を自分自身にかける」「トロフィーを肛門に突っ込む」「緊迫した空気の中で踊る」「ソファーのクッションの隙間に座る」「柱を舐める」……など、やろうと思えば出来るけど普通はやらない行動を通じてマルチバースの自分と繋がる。
これは『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章』(2015)で、マルチバースから来た男(宇野祥平)が死者を甦らせるための4つの無茶なミッション(女性のパンツを奪って飲み込む、それを吐いて人形に詰める、指を詰める……など)に非常に似ていた。「やろうと思えば出来るけど普通はやらない(やりたくない)行動……によって次元間の突破を可能にする」というのは当時「超常的なんだけど何だか本当っぽいなぁ」という不思議な説得力があった。それに似ている。勿論ミシェル・ヨーに異常過ぎる事はやらせたくないだろうからマイルドではあるが。
エブリンは、バースジャンプによってカンフーの達人となり、アクロバットサンドイッチマンしてる世界の自分にジャンプしてパイプ椅子を振り回して武器にしたり、アクロバットな料理人の自分にジャンプして刃物を振り回したり、身動きできなくされると「小指が異常に強い世界の自分」にジャンプして小指だけで窮地を脱したり……と色々ある。ミシェル・ヨーなのでカンフースキルを基準にして色んな特技をオプションで付けていってる感じだ。
エブリンがバースジャンプを使いこなし始める中盤はアイデア満載だしミシェル・ヨーの魅力も満載、何より彼女がずっと出ずっぱりなので単純に楽しい。
前半、キー・ホイ・クアンが急にシャキッとしてポーチをヌンチャクにして暴れるところも、現在40~50代の人が小さい時に子役のキー・ホイ・クアンの事は皆が好きだったので彼の活躍は素直に嬉しかった。
娘ジョイを演じるステファニー・スーも、別に全く悪くなかったが元々この役はオークワフィナの予定だったらしく、オークワフィナはただ立ってるだけで魅力が凄いので「オークワフィナで観たかったな」と思ってしまった。この二人だとまるっきり『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)だね。「偉い日本人」は渡辺謙、「強い日本人」は真田広之これが数十年続いてる、しかもそんな彼らも主人公にはさせてもらえない辺りアジア人キャストの出番が如何に少ないかって事がよくわかる。
アルファ・ウェイモンドはエブリンに「たくさん夢を諦めてきた君の、試さなかった可能性は他のマルチバースのエブリンたちが実現させている。その代わり君には他のエブリンたちには出来ないことができる」と語る。
これは割と前半くらい?に言う台詞、「平凡な日々を送る君には出来なかった事を他の君はしてる、何故やらなかったんだ」という責めではなく「逆に言うと君にはこれだけの可能性があるんだよ。そしてやらなかった(出来なかった)からこそ君は、他の君には出来ないことができるんだ」という全肯定的な優しい意味として語られる。

 

 

バースジャンプを繰り返して人間性を失った別の世界の娘ジョイ・トゥパキやその配下と闘ううちにエブリンは、自分の世界の娘、夫、父、監査官やコインランドリーの客や町の人達……自分と周囲の人たちとの間にある問題と対峙していく。
最大の問題は娘ジョイとの不和。そして離婚寸前の気が弱い夫。若い頃に自分を見放して現在もエブリンを縛っている厳格な父など家族の問題に行き着く。
要するにアメリカに住む地味なアジア系中年女性が、自分の可能性を知って己の価値をつかみ取り三世代の家族間不和を修復し、ついでに周りの人達もハッピーにする……という非常に地味な、そのままだと誰も観ない小ぢんまりとした人情ドラマを、ミシェル・ヨーの魅力やマルチバースという味付けで観せていく映画。最初に書いたが、やはりこの部分は素直に素晴らしい。
第一幕が終わるくらい?の早い時点でエブリンがバースジャンプが出来るようになった時点で「大体そういう映画なんだな」というのは想像つく。そこからエブリンはマルチバース大横断!みたいな映像を10回くらい繰り返しながら「気づき」を得たり、ジョイ・トゥパキもベーグルだかドーナツだかを使った派手な映像でエブリンに気づかせたがったり、以降も派手なマルチバース大横断!映像と共に「夫はそう考えていたの!?」「元はと言えば父さんが!」「娘ジョイ……そうだったのね」などと普通、映画の最後の大クライマックスで派手な映像と共に主人公が悟る……そんな映像や展開が本編が終わるまで十数回も続くので疲れました。
マルチバースで飾ってるけど、エブリンが自分を掴み取って周りの人との壁を取っ払うんだろ!わかったよ」とこちらが既にラストまでの展開を大体了解してるのに派手な映像と共に「はっ!わかったわ!(そして和解)」というのを延々と何度も何度も繰り返すから「もういいから映画終了してくれよ」と思いました。金が貰えるわけでもないパチスロの大当たり!画面を延々と観てる気持ちというか。
普通「悟ってスーパー化する」のは終盤に一回ぅらいあるからカタルシスあるんであって十数回も悟るのは多すぎる。バースジャンプ出来るようになったのと、終盤に家族や周りの人の事を理解する……この2回だけみたいな描写にしてほしかったのに本作はパチスロみたいな画面が延々と続くので「悟ってないんじゃないか?」と思わせる。
家族の問題や周囲の隣人全てだけじゃなく、マルチバースのアライグマ料理人とかの問題まで全て解決しますからね。
「娘ジョイとの和解」だけに絞った方が良かったんじゃないか?そんでエブリンの冒険に付き合ってるうちに夫や父親も反省してついでに和解するくらいで。
そもそもエブリンも前半に冴えない生活を見せてあまり幸せではない女性……と思わせたいんだろうだが「店も家も家族も居て本人も夫もスリムで健康な美男美女だし素敵な生活じゃん」としか思わなかったし(どんどん日本が悲惨になってきてるせいか)。娘や夫や父との不和も「これくらいなら対話して修復できるなぁ」としか思わなかったので、エブリンの日常に対して「マルチバース移動しなければ改善できない辛い現実」と思えないというかね。ウクライナの戦争とか日本の貧困の人の事を日々ニュースで見てるとね。
前述の通り、ストーリーやアイデア自体は良いんですけどクドいんですよね。そういえば『スイス・アーミー・マン』(2016)も前半はまぁまぁ面白かったけど後半はマジでウンザリするしょうもない展開だった気がする、忘れたけど。
「全編クライマックスみたいな映画」というのは良い意味で使われるけど、本作の場合は悪い意味で全編がクライマックスでしたね……。良い意味だと『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)が「全編クライマックスみたいな映画」でしたかね。全編ラストバトルでラストバトルの中で話が進んでいくという……。

とにかく最初に書いたように「アジア人達が主人公で、ミシェル・ヨーが目立った上に称賛され、キー・ホイ・クワンが再生された」……そういう映画が公開されて起こった事が本当に良かったけど本編自体は、まぁまぁ面白い映画って感じでしたね。
あと一歩で感動できそうなので惜しい気がしました。
ミシェル・ヨー活躍描写で言うと、もう少しスローモーションじゃないカンフーシーンを増やして欲しかった。踊ってるだけだった『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)よりは勿論よかったけど、ちょっと少なかったですね。そういえばアナルにトロフィー挿してバースジャンプするハゲと若の二人組のカンフー良かったね。
そういえばミシェル・ヨーが受賞した時にジェイミー・リー・カーティスが我が事のように喜びつつゴリラのような咆哮を上げたほっこりニュースも良かったね。

そういう喜んでる出演者を観てると「なんか自分がイマイチだった水を指すような感想はあまり言いたくないな」と思わせるものがあった。出演者へのオファーも増えただろうし本当に本編以外が良い映画だわ。

 

 

 

 

そんな感じでした

👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻👁👩🏻
Everything Everywhere All At Once | A24
Everything Everywhere All at Once (2022) - IMDb
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