原題:Flawless 監督&脚本:ジョエル・シュマッカー 製作国:アメリカ 上映時間:111分 公開日1999年11月26日(日本は2000年9月2日)
4年前亡くなったジョエル・シュマッカー監督(2020年6月21日没)。
シュマッカーといえば『ロストボーイ』(1987)、『フォーリング・ダウン』(1993)、『バットマン フォーエヴァー』(1995)、『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997)、『フォーン・ブース』(2002)等が思い出深いが一番好きなのはこの映画。
あとはゲイを公言していたということくらいしか知らないシュマッカー監督。
「亡くなったから本作を観ようと思う」とこのページを下書き保存したのが4年前。
全く配信に来ないしBlu-rayにもならないので観るまで4年経ってしまった。知らない間にアマプラに来てたので観た。
ネタバレあり
ニューヨークのアパートに住む「アメリカ的な男らしさ」に誇りを持っているマッチョな警官ウォルト(ロバート・デ・ニーロ)は、保守的で女装者や同性愛者などを毛嫌いしているので、同じアパートに住むドラァグ・クィーンのラスティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)とは顔を合わせるたびに、口喧嘩が絶えない。
ある日、同じアパートの住人がギャングのカネを持ち逃げして押しかけたギャングに銃殺された。しかしカネの在り処はわからない。その夜、ギャングを倒そうとしたウォルトは脳卒中を起こして半身麻痺になってしまう。
絶望のあまり自殺も考えたウォルトだったが信頼する医師のおすすめでリハビリのため歌を習うことを勧められ、ウォルトは犬猿の仲だったラスティに仕方なく歌のレッスンを依頼する――
という話。
何気に始まった瞬間から終わるまで面白い。
こういう話なので当然、ゲイを毛嫌いしていた頑固なウォルトの心も、ラスティと喧嘩したり一緒に歌を歌ったり互いについて話し合ってるうちにほどけていく。そしてほどけきった瞬間に全て解決して映画が終わるので凄く気持ちがいい。
楽しいコメディのような雰囲気をベースに、下町人情ものみたいなムードの人間ドラマ、ちょっとだけサスペンス……という感じであらゆる要素が詰まっており観終わると「そういえば映画は”娯楽の王様”と呼ばれてたな」と思い出し満足感に包まれる。こういう映画よくあるようで意外とない気がする。
ウォルトも警官時代の仲間たちも皆、筋金入りのゲイ嫌いなのだが「ただ何となく」嫌っているだけなので、ウォルトがラスティに歌を習って自然とラスティや彼のドラァグ・クイーン仲間たちと顔なじみになっていくのを、仲間たちは最初笑ってたが知らない間にいつの間にか警官仲間たちもドラァグクイーン仲間たちと仲良くなっている。
「ゲイの奴らは……確かにバカにしてたが今はそんなことよりもウォルトの奴を元気づけるのが大事だ、だからゲイたちと一緒にサプライズ・パーティするぜ」といった感じで凄く自然な感じなのがリアル。「そういえば俺達は今までマイノリティである彼らをバカにしていた、それを恥じる」などと改まったものでなく自然とそうなってるのがいい、もしかして警官たちはまだゲイをバカにしてるのかもしれない(特にこの事について語り合ったりしないからわからない)。だが「ウォルトを元気づける」「ギャングを捕まえる」といった目先の大事な事があるので気にしてられず有耶無耶のうちにゲイと警官たちが仲良くなっているのがいい。
ウォルトへのサプライズ・パーティではドラァグクイーンの憧れの的であるピザ屋のマッチョ跡取り息子も訪れてゲイたちはおおはしゃぎする。
このアパートがまた、ウォルト(マッチョだったが半身麻痺になってしまった男)、ラスティ達(ゲイ軍団)、弾き語りの貧困青年、ギャングと繋がりのある受付係とボンヤリし始めたおばあさん……といった感じで微妙にマイノリティばかり集まってる感じがいい。
ラスティの私生活も、父がろくでもない奴でおとなしい母は父に尽くしてずっと「私を愛してる?」と訊くが返事はなく数十年後「愛してない」と答えたとか、ラスティの女装人生の始まりは学校の劇でトラブルがあり女王役の子が逃げたので己が王冠をかぶり以来唄い続けているとかエピソードがいちいち良い。
ラスティの性愛事情も出てきて、妻子のいる男と付き合っているが度々、嘘をついて金を巻き上げられている。ウォルトは「なんでそんな奴と、しかもカネ払ってSEXしてるんだ」と言うがラスティは「バカね、お金払わないと寝てもらえないわよ」みたいな事を言う(うろおぼえ)。そして愛人が乗り込んできてピンチになるがラスティの部屋にはパニックルーム(強盗などが侵入してきた時のために誰も入ってこれない籠城できる部屋のこと)がありラスティとウォルトは逃げ込んで何とか凌ぐのだった。
ウォルトは「自分はそんなことしなくても相手はいる」という半身不随になる前の気持ちでいた。しかし以前、遊んでいた女性にも金を払って相手してもらっていた。しかしウォルトの身体が悪くなるともう会ってくれなくなるのだった。ウォルトは「彼女は俺を愛している。それはそうと毎月生活費に困っているというから毎月金をあげてた」という認識だった。ラスティと同じような事をしてたのだが認めたくなかったウォルトだった。そして以前からウォルトの事が好きだったがウォルトが相手しない女性が居た。ウォルトは「娼婦は相手にしない」と言って相手にしてなかったが、ウォルトの具合が悪くなると遊んでくれてた女性も娼婦だよね?ウォルトは娼婦が自分を好きだと思いこんでたから2人は違うと思っていたのだろうか。しかしウォルトが娼婦といって蔑んでいた方の女性はウォルトが半身麻痺になっても以前と変わらぬ愛情を注いでくれた。皮肉にも身体が不自由になることで真実の愛を見つけたウォルトだった。
またギャングのカネも見つかっていないので度々ギャングが乗り込んでくる。
基本的に人情コメディみたいな雰囲気で進むのだが、このギャングはなかなか凶悪な奴で受付係の祖母を誘拐したり受付係母子のインコを殺したりする。
許せんな、とか思ってたら最終的にデ・ニーロがギャングの脳天をブチ抜いて倒すのでスッキリする。全体的に下町人情もの然とした映画だが意外と要所要所でリアルなバイオレンスが炸裂する感じもたまらない(そしてラスティのパニックルームがしっかり役立つのも楽しい)。
また本作のサブクエストみたいな感じで、ドラァグクイーン・コンテストみたいなのがある。ラスティの仲間の若くて可愛い感じのドラァグクイーンが出場して優勝する。対立していたドラァグクイーン軍団と小競り合いになって、大会運営者ゲイが警備員を呼ぶのだが、屈強な警備員はレズビアン軍団だったりして楽しい。
またラスティ達ドラァグクイーン軍団とは別で、妻子が居てスーツを着たゲイ軍団も居る。ラスティ達は「私達は丸出しで生きてるのよ」と言いクローゼットゲイ軍団は少しばつが悪そうにする。
そういえばラスティ役のフィリップ・シーモア・ホフマンは2014年にドラッグの過剰摂取で亡くなったが、この人いつも凄い迫力があったよね。ラスティは映画が好きで、いつも映画の中のカッコいい女性キャラクターを思い出し「こんな時『◯◯』の△△ならどうする?」と考えて気高く勇気ある行動をする。恐らく往年の女優を模倣していそうなマダムっぽい上品な喋り方しているが、冒頭の自分の店?でトークしてる様も異常にカッコいい。思えば、フィリップ・シーモア・ホフマンはゲイの役じゃなくてもこの神経を張り詰めて絞るような喋り方をしてたので割と神経ギリギリだった印象がある。この人は最初から最後までたっぷり太って生っ白い肌をしており髪も今にも禿げそうな生え際だった気がするが常にカッコよかったのが不思議だった。やはり才能とそれに裏付けされた自信がカッコよく見せてたのかなと度々思うことがあった。
ホフマンといえば遺作?のような『誰よりも狙われた男』(2014)をまだ観てないことに気づいたので観るのが楽しみだ。スパイものが観たくて色々調べてたらこれ観てないことに気付いた。
なんか割と若い時から何度も観てたせいか改めてキッチリ書いたり順序立てて書く気がなく、思考がそのままタイプされたような凄くまとまりのない感想になった。あんまり感想書く気がなかったとも言えるが長いこと好きな映画だったので何とか書いておいとかないとという気持ちがあったので、それが一つ終わってよかった。
タイトルの「Flawless」は「完璧」「完全無欠」といった意味らしい。一体なにが完璧なのか……という、こういう曖昧な言葉は割と何にでも当てはめる事ができるものだが、自分の場合ウォルトのサプライズ・パーティとか終盤のラスティとウォルトの共闘によるラストバトルが真っ先に頭に浮かんできた。不完全な(と世間で思われてるような)人間同士の連帯こそが「Flawless」と、sぷいうことなのかもしれない(そうじゃないのかもしれない)。
大体、頭から最後までシュマッカーにしか撮れない場面とかキャラとか要素ばかりだった気がする。なんでここまで全くといっていいほど知られてない映画なのかいまいちよくわからない。Blu-rayすら出てないしね。
そういうことで四年遅れたがシュマッカー追悼のページにさせてもらおう。
ラスティがマッチョを揶揄して「熊を殺せ!野グソをしろ!」と言う場面がめっちゃ好き。アマプラでは字幕ちょっと変わってたけど前のが良かったな。
そんな感じでした
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Flawless (1999) - IMDb
Flawless | Rotten Tomatoes
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