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『蜘蛛の瞳』(1998)/90年代当時はおもろいけど意味わかんなかったが今見たら色々言語化しにくいサムシングが浮かんできて楽しかった👤


監督&脚本:黒沢清 音楽:吉田光 製作&配給:大映 日本:83分 初公開日:1998/04/11 旧題:修羅の狼 〜蜘蛛の瞳〜 英題:Eyes of Spider シリーズ:新島直巳の復讐シリーズ第二作目

 

 

先月辺りから90年代黒沢清を観返してる僕。
新たな発見があったり逆に「今見たらこれパッとしないな」という事もあり。
今のところ新たな発見のほうが多い。
これは現在劇場公開中の『蛇の道』(2024)のオリジナルである『蛇の道』(1998)の一応続編。一応というのは『蛇の道』(1998)の脚本を高橋洋が書き上げるのが、黒沢清が本作の脚本書くより遅かったせいか、繋がってるような……繋がってないような……という微妙な続編となっている。これは本作同様に一作目が高橋洋脚本の陰惨な話で続編が黒沢清の虚無な続編だった『復讐 運命の訪問者』(1997)『復讐 消えない傷痕』(1997)の関係に似ている。というか『復讐 消えない傷痕』(1997)と本作は北野映画っぽい描写や出演者や虚無としか言いようのない内容含めて二作は呼応している作品だが、極端に言うとほぼ同じ内容の作品とまで言える。

ネタバレあり

 

 

 

 

新島直巳(演:哀川翔)は自分のを殺した最後の関係者(演:寺島進)を拉致監禁して三日目に衰弱したので銃で撃って埋める。途中、新島は「パラシュート無しで飛行機から飛び降りた男の格言」のような話を寺島進に聞かせる(この話がめちゃくちゃ嫌な話なので是非実際に聞いて欲しい)。男を埋めると背後には新島の、娘や復讐や空っぽになった自分自身の表層風景なのか布をかぶった何かが立っている。

新島は妻と一人暮らししており、殺された娘の部屋はそのままになっている。
街でかつての同級生らしき岩松(演:ダンカン)と再会。復讐を終えてやることもない新島は岩松の小さな会社に流れで入る。
会社では延々と紙にハンコを押す作業をさせられる(黒沢清の「つまらない仕事」のイメージか?)。しばらく続けたあとで「やめる。おれはこの仕事に向いていないようだ」と哀川翔があの甲高い声で言うのがたまらない魅力がある。しかしこの会社の本当の仕事は暗殺の下請けのようなものだった。
これまた流れで暗殺家業をする新島。
岩松は新島に懐き兄弟の盃を交わしたり、やたらと話しかけたり一緒に居たがる。これもまた『復讐 消えない傷痕』(1997)菅田俊が演じてた寂しがりヤクザと殆ど同じキャラと言える。しかし岩松は上の組織がくだす暗殺命令だけをこなしているわけではなく大手のヤクザと秘密裏に繋がりを持とうとしていた。これもまた菅田俊のキャラと似ているし岩松は、漠然とのし上がろうとはしているが本気でそれがしたいしょうにも見えず、菅田俊のキャラと同じで神経が細く破裂寸前でぼーっと断崖絶壁に向かって歩き続けている不穏さがある。
普段の新島と岩松組は、暗殺業をこなしながら釣りだとかいった朴訥とした遊びを淡々とつまらなさそうにして時間を潰している。……という感じなのでダンカンが出ていることもありどうしても北野武の『3-4X10月』(1990)や『ソナチネ』(1993)での虚無的かつ朴訥とした遊びの描写を思い起こさせる。
今回『復讐 消えない傷痕』(1997)と違うのは、上の組織は岩松の動きを察知しており、岩松組の上に位置する中間管理職のような依田(演:大杉漣)は新島に岩松の秘密調査を依頼する。
途中、新島が歩いてたら大杉漣が車で並走して調査を急かす。新島がダッシュ大杉漣の車に追いつこうとするとスーッとスピードを上げてどっか行く。そして新島がまた歩きだすとまたバックしたり又はスピードアップして並走して説教してくる。
何度か繰り返すうちに大杉漣はサンルーフから上半身だけ出して並走しながら前を向いたままで説教してくる。

新島はその度に追いかけるがその都度逃げられる。このシーンの可笑しさは半端じゃなくて、全黒沢清作品の中でもトップ3に入る可笑しさだ。また新島と初めて会った時の依田が電気スタンドを向けて尋問(新島に意志があるかどうかをはかるような尋問)も可笑しかった。本作の大杉漣はかなりオモシロと魅力が凝縮したキャラになっている。
新島は大杉漣の執り成しで組織のトップ・日沼(演:菅田俊)と会う。日沼は広大な採石場のような場所で化石掘りを趣味にしている男で、面接中に「おい、おれを捕まえてみろよ」と言って走り出し、2人は池もある不思議な地形である採石場のような場所で追いかけっこする様を上空から撮る。

これもまた可笑しさもありつつ異様なシーンで、これらの不思議なシーンが一番の魅力で、これらのシーンがあるおかげで『復讐 消えない傷痕』(1997)より上回ってるなと感じさせる。また90年代当時は初期・北野映画にかなり夢中だったので『復讐 消えない傷痕』(1997)や本作に対して「北野映画のパクリっぽさあるな」と思ったりもしたけど(若者特有の器の狭さですぐそういうこと思いがち)、近年だと初期・北野映画のたけしのナルシズムが小っ恥ずかしく感じるようになったので寒々しいまでの虚無さを全開にしてナルシズムが少ない本作の方が今では初期・北野映画より好きだな。
追いかけっこの末、新島は化石を手にして日沼に褒められる(ここは本作で唯一明るく爽やかな風が吹いたシーンだった)

新島は上のものに頼まれたから調査してるだけで岩松を落としたいわけではないので、岩松に何してるか訊かれたら全部言う。
しかし岩松の方が新島を裏切って陥れようとする。岩松は部下(演:その一人は若き阿部サダヲ)に依田や日沼を暗殺させ、更にその部下が報復で殺されるのも織り込み済みで見捨てる。新島は逃亡中の岩松を見つけてもしばらく釣りをしたりじゃれ合いをしたりして友達ムードを保っていたが岩松の悪さが看過できなくなったのか、彼の恋人ごと岩松を殺す。
再びやることがなくなった新島は家に帰る。
家では妻が「娘の幽霊がいる」と震えている。新島が死んだ娘の部屋に入ると娘の幽霊はスーッと水平移動して、冒頭の布がかけられた棒になる。そしてすぐ棒は消える。
復讐を終えようがヤクザたちと戯れて現実逃避していても、妻同様に内在化した娘を消化できておらず狂いかけているのだろう。
そして新島は街で、復讐して殺して埋めたはずの男(演:寺島進)が車椅子に乗って生きているのを見かける。
男を埋めた場所に行くと穴が空いている。……という事は死んだと思ったけど実は生きて土から這い出たということだろうか。
背後に再び布がかぶさった棒のようなものがあるので今度は布をめくる。そこには丸太のような棒が立っているだけ。で、映画は終わる。

この棒が何なのかと訊かれても知らんが、やはり復讐したり現実逃避(岩松組での日々)しても、この新島の中の嫌なもの(哀しみ、怒り、虚無)はビクともせず一切解決していなかった。そして人生はまだまだ続くのだからこれからずっとこの忌々しい”棒”と対峙したり無視したりを繰り返し、その間にもずっと棒は有り続ける。それに耐えられなくなると妻のように恐怖で狂っていくしかない。しかし新島は狂うことすらできない、ここで冒頭、寺島進に話していた「飛行機からパラシュート無しで飛び降りた男の嫌な話」が効いてくる・上空から落下中に気絶して目を覚ましたら、もう地面に激突するまで気絶することができない。地面におちて砕ける自分を知覚するまで狂うこともできず落ちていくだけ。
……という、そういった種類の恐怖を描いたのが本作ではないだろうか。
こうして言葉で書くと実に陳腐だし、実際にはもっとグラデーションのある他の色んな感想が頭の中に浮かんでいるのだが、言語化しようとするとこれらの陳腐なものだけ選んで書き記すしかない。
実際のところはよく知らないが今はこう思う。当時観た時は「何か面白いし凄そうだがさっぱりわからんな」としか思わなかったのだが今は陳腐ながらも言葉にできたり、又それ以外のまだ言語化できない感想も色々と浮かんでいるので成長かもしれないし、いい歳して、こんな感想ブログばかり書いていて退化だということもできるだろう。
とりあえず、これは昔観た時より面白くなっていた一本だった。

 

 

 

 

そんな感じでした

黒沢清監督作品〉

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Eyes of the Spider (1998) - IMDb
Eyes of the Spider | Rotten Tomatoes
蜘蛛の瞳/修羅の狼 蜘蛛の瞳 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

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