
原題:Kinds of Kindness 監督&脚本&制作&出演:ヨルゴス・ランティモス 脚本:エフティミス・フィリップ 撮影:ロビー・ライアン 編集:ヨルゴス・モヴロプサリディス 配給会社:サーチライト・ピクチャーズ 製作国:イギリス、アイルランド、アメリカ 上映時間:164分 公開日:アメリカは2024.6/21、アイルランド&イギリスは2024.6/28(日本は2024.09/27)
『哀れなるものたち』(2023)が物凄く評価されたヨルゴス・ランティモス監督の、エマ・ストーンと再び組んだ新作。
この監督の過去作、映像とか撮影とかビジュアル面がめちゃくちゃカッコよかったものの内容がいまひとつピンと来なかったのだが、めちゃくちゃわかりやすい内容でアカデミー賞作品賞にもノミネートされた前作『哀れなるものたち』(2023)が素直に面白かった。なんとなくエマ・ストーンというキャッチーな主演女優が付いたのがデカいんじゃないかと勝手に推測した。
本作もそのエマ・ストーンだけでなく、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリー、ジョー・アルウィンなど、ランティモス監督の過去作に出てた人が多い。同じ俳優をよく使う人なのかな。
同じ俳優が3つの違う物語でそれぞれ違うキャラクターを演じるアンソロジー映画。『哀れなるものたち』(2023)がわかりやすくて観客動員数や賞レース狙いのキャッチーな作品だったが本作はうってかわって混沌とした自由な内容になっていた。
ネタバレあり
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3つの物語が語られるアンソロジー映画。
だが、三話とも同じ俳優がそれぞれ別のキャラクターを演じている。
主人公はエマ・ストーンかジェシー・プレモンスのどっちか。サブキャラクターはウィレム・デフォー、マーガレット・クアリー、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アティエ……彼らが3つの話で色んなキャラクターを演じる。
3つの話で唯一、同一人物のように見える重症で意識不明になっている男性R.M.F.役をYorgos Stefanakosという俳優が演じている。調べたら『哀れなるものたち』(2023)の娼館のシーンでエマ・ストーンとファックしてた役をしてた人みたい。
画面や音楽は、過去作同様めちゃくちゃカッコいい。
特にSEは、嫌な予感がしたらすぐさま不吉なピアノが鳴ったりして、その効果音だけで「ここでまたよくない事が起こるのかよ」といちいち笑える。
第1章「R.M.F. の死」
支配的な上司(演:ウィレム・デフォー)に人生の全てをコントロールされる部下(演:ジェシー・プレモンス)。。そんな話。
主人公のビジネスマンは上司から住む豪邸や乗る高級車を与えられ、食べる食事や読書する本まで決められていた。また主人公が数年間連れ添っている妻(演:ホン・チャウ)も、上司の筋書き通りナンパして結婚してSEXしていい日まで決められているばかりか、妊娠したら上司の与える薬を投与して堕胎させてもいた。
そんな日々だったが「ある男R.M.F.(演:Yorgos Stefanakos)の搭乗した車と交通事故しろ」という命令には逆らえず初めて反抗する。すると上司は、豪邸と車だけ手切れ金のように与えて自分の世界から部下を締め出してしまう。
部下は真実を妻に伝えると、当然妻は怒って出ていってしまう。
部下は、上司に切り離されると自分には何も残っておらず、また今までずっと上司の指示通り行きていたので急に自由になると何していいかわからず自分を見失う。
仕方なく、上司の指示通りナンパした元妻のように同じ店で同じ手口で女性をナンパする主人公。そこで親切な女性(演:エマ・ストーン)と知り合う事に成功。
するととある事に気づいて主人公は思い切った行動に出る……と、終盤までの流れはそんな感じ。最後まで観ると「なんなんこの話……」と思わされた。
しかし面白いのは確かだった。
教訓を、ひねり出そうとすれば出せるが、何となくそんなものは想定してなくておもろい不条理な話を書いただけという気がする。
第2章「R.M.F. は飛ぶ」
海難事故から奇跡的に生還した海洋研究家の妻(演:エマ・ストーン)と、帰還した彼女を別人だと疑う警官の夫(演:ジェシー・プレモンス)。そんな話。
※この話は全部ネタバレします。
始まると夫が、夫婦ぐるみで仲良くしているらしき同僚夫婦(演:ママドゥ・アティエ&マーガレット・クアリー)と食事をしている。どうやら主人公の妻が遭難したらしく、深く悲しんでおり同僚夫婦が夕食にやってきて慰めている。
主人公は「悲しくて耐えられない……あのビデオを見ていいか?」と再生するので、てっきり「妻や皆とホームパーティでもしてる思い出ビデオかな?」と思ってたら、
主人公夫婦と同僚夫婦がパートナーを交換してファックしまくってるスワッピング・ハメ撮りビデオだったので、意表を突かれてめちゃくちゃ面白かった。本作で一番面白いシーンだったかも。
エマ・ストーンとマーガレット・クアリーが互いに夫の友達にバックから突かれまくって喘ぎまくっている。ただ面白いだけで全くエロくない。エマ・ストーンは『哀れなるものたち』(2023)でも頻繁に全裸になってSEXシーン連発していたが、ガリガリの身体で少し引いた位置から虫でも観察するかのような撮り方されてて全くエロくなかった。『哀れなるものたち』(2023)でも本作でも、意見を言える立場だし自分から進んでそういう役をやっている。そんで全くエロくないオモシロ全裸SEXシ-ンを連発することによって自身の性的客体化を破壊している。そのエマ・ストーンの攻撃性が観ていて痛快だと思った。まぁ今思えばエマ・ストーンは『小悪魔はなぜモテる?!』(2011)の時から、そういう指向が感じられてたね。
だが、妻(演:エマ・ストーン)は帰ってきた。どこかの島でサバイバルしていたのをヘリコプターが見つけて連れ帰ったらしい。
しかし妻の様子がおかしい。以前は大嫌いだったチョコレートを食べるし、靴のサイズが合わなくなってるし、言動や性癖も以前と違う。
夫は「妻は、姿こそ同じだが別の何かが妻に化けているのでは……?」と、そんな事を思い始める。同僚に打ち明けるが同僚は「彼女は何日も遭難していたんだ。少しくらい前と様子が変わっても仕方ない」と言う。
やがて夫は頭おかしくなってきて街で取調べした若者の手を撃ってしまい精神科医に精神薬を貰って停職となる。
自宅待機になる夫だが相変わらず妻を信用できず彼女の作る料理にも手を付けず衰弱する。どうしたら食べてくれるのかという妻に夫は「君の指を食べたい」と言う。妻は自分の指を切り落とし調理して夫に出す、夫は「ますます妻は異常だ」と思う。
……というここまでの展開だと、疑心暗鬼の夫の頭がおかしくなったか、または妻が無人島で未知の存在に入れ替わられているというSFか、どっちかだと思うのが普通。だけど、そういう監督じゃないのでどうなるんだろう?という興味が尽きず引っ張られる。
夫のことを以前から気に入っていなかったらしき妻の父(演:ウィレム・デフォー)は夫をなじるが、妻は「私の夫をそんな風に言わないで!」と父を叱責してビンタする。どうやら妻または妻と入れ替わっている存在は、夫を本気で愛しているらしい。そもそも失神してまで指を切り落としてるからね。
そして妻は父に「遭難した私は、犬に助けられた。そこでは犬と人間の立場が逆転していた。私は犬たちに可愛がられてチョコレートを与えられた」と語る。何なんだろう……?
夫の要求はエスカレートし「君の肝臓を食べたい」と言う。
しかし夫は妻の肝臓を食べる気などさらさら無い。それどころか「こないだの指も食わずに猫に食わせたよ」と妻に言う。肝臓を取り出しても食わないのは明らかだ。
しかし翌朝、妻は肝臓を取り出して息絶えていた。
何かわからんが自分の命と引き換えに無償の愛を提示したな……と思ってると、妻の死体はそのままに玄関から遭難していた妻(演:エマ・ストーン)が帰ってくる。
「今度こそ本物の愛する妻が帰ってきた!」と抱き合う夫婦。横には肝臓を取り出して絶命した最初に帰還した妻の遺体が転がっている……というところで終わり。
そして、この第2話の固有エンドクレジットでは最初に帰還した妻が言っていた「犬の国」で犬が人間のように暮らしている映像が流れる。
何でしょうね、この話。
夫はパラノイアのような疑心暗鬼に陥るが(担当する精神科医もまるでいい加減すぎるのが可笑しい)、最初に帰還した様子が以前と違う妻も、以前と変わったとはいえ何故か夫への愛は本物だったと命をもって証明した。しかし二人目の本物認定の妻が帰ってきた。そして「犬の国」とは?最初の妻が本物で、次に帰ってきた”本物の妻”は本物ではないのではないか?もしくは一人目の妻が偽物だったとしても愛は本物で、二人目の妻が本物だったとしても真実の愛は持ち合わせていないかもしれない、なにしろラストでやっと劇中に帰ってきて本性を見せてないわけだから。「愛って何かね?」という話だったのだろうか。
そして冒頭の「主人公夫婦が同僚夫婦とスワッピングしてた」という設定が本編からするとあまりに要らなさすぎる要素なのに本編より面白かったのも可笑しい。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021)の中盤だけに出てくる〈アナ・デ・アルマス演じる、ボンドに靡かないボンドガール〉が、ボンド本人の本編での魅力が控えめなのに魅力的すぎて作品が破綻しかけているのと少し似ている。
この話が全3話のうち一番面白かった。
ひょっとして言いたいことや教訓などなく、ただおもろい話を作っただけなのかもしれない。僕は割と映画は観たまんま素直に受け取る鑑賞法なので、そういう感じで特にこれといった結論は無理にひねり出さないまま、次の話の感想へと移ろう。
第3章「R.M.F. サンドイッチを食べる」
主人公の女(演:エマ・ストーン)は、夫(演:ジョー・アルウィン)と娘と別れ、SEXカルト教団のため、死者蘇生能力を持つ教団の象徴となる女性を探し続ける。
主人公は夢で、プールで溺れた自分を助けてくれる双子の女性を幻視する。その女を探しているらしい。
いつも主人公は自動車移動しているが、どこに移動する時も信じられないくらい乱暴な爆速で運転する。単純に彼女はいつも冷静沈着だが「実際はイカれてる」という表現だろう。マジで全く急いでもいない場面でもとんでもない乱暴な運転をしている。
SEXカルト教団は、信者は教祖(演:ウィレム・デフォー)とだけSEXする。もし他の者とSEXしてしまったら「汚れてしまった」と判断されてサウナに入れられてそこで汗を流し、教祖の妻のような女(演:ホン・チャウ)が舐めて「浄化された/されてない」を判断する。浄化されてなければ追放される。サウナ入りすぎて死んでしまうと教祖2人が特製の器に涙を落とす、信者はその器から汲んだ水しか口にしてはいけない……といった感じのわかりやすいSEXカルト。
色々あって大ピンチに陥った主人公だが、遂に「片割れが死んで、死者蘇生能力を持った双子の女性」という教団の象徴となりうる女性(演:マーガレット・クアリー)を見つける。
その前に教団の象徴となりうる女性の双子(演:マーガレット・クアリー)が、姉妹が適格者になる条件を満たすよう行動するのもイかれてる。
そして、ここに至るまでの主人公は色々酷い目に遭ってるので若干同情心が湧いてくるのだが、教団の象徴となりうる女性は獣医であるため野良犬の脚をナイフで斬って自分の飼い犬だと嘘をつき女医に近づく。主人公に同情してしまってはブレてしまうので、この酷い行動で上手いこと主人公への同情を切ってくれたのが上手い。
ちなみに獣医が蘇らせる死体は全3話でどれも重症でずっと寝てた髭の男(演:Yorgos Stefanakos)。サブタイトルにもなってるし、こいつがR.T.F.なのか?全話通して同じ名前だし、マルチバースの中で変わらないキャラクターって事なのだろうか。彼がいなければ3章とも全く関係ない話だから、唯一3つの話を結びつける特異点として一応置いといた、そんな感じ。
ついに教団の象徴を見つけた主人公は、予告編で話題となった面白ダンス。そして一足先にエンドクレジットが被さる。ここは奇妙な爽快感と胸糞悪さが同時に来て希少な気持ちが味わえた。
これはエマ・ストーンがプライベートで自分が踊るのを監督とかに送ってたら「これいいやん」と、本作のクライマックスに持ってきたんだろう。エマ・ストーン本人は美人でスタイルも良いのだが一切の色気とかを排除した滑稽なダンス……というのがランティモス作品に出ている時の彼女とシンクロしている。
だが最初から描写されてた「全く必要のない乱暴な運転=主人公の精神の不安定さ」が原因で、邪魔する者など誰もいないのに一人で勝手に全部台無しにしてしまう。
ここも、主人公が即死してしまったらつまらないがそうはならないのが良かった。
映画が終わった後の主人公の絶望を思うと愉快な気持ちになった。
そういう感じで3章とも絶妙に嫌な感じのダーク・コメディといった感じの話だった。
他の作品同様に人を選ぶだろうが、僕は割と楽しめました。
とはいえ「あの映画、なんだったんだろうなぁ」感も非常に強いので何日かすると忘れてしまいそうだが、でもそういう感じを期待してたので、そんなものでいいだろう。
2つ目の話は若干、愛について考えてしまったが、他の2つ……いや三話とも絶妙に、あまり観客に安易に考えさせないように作ってて、そこが気に入りました。
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そんな感じでした
〈ヨルゴス・ランティモス監督作〉
『哀れなるものたち』(2023)/赤ちゃん並の知能でSEXにしか興味なかった主人公ベラが読書や知的な友人を得て自由意志が芽生えて精神年齢が一気に上がる豪華客船のあたりから一気に面白くなる!👩🏻 - gock221B
Kinds of Kindness (2024) - IMDb
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