原題:Devs 監督&脚本&製作総指揮&企画:アレックス・ガーランド 撮影:ロブ・ハーディ 編集:ジェイク・ロバーツ 音楽:ベン・ソーリズブリー、ジェフ・バーロウ、ザ・インセクツ 制作会社:FX 配信サービス:Hulu(日本ではDisney+) 製作国:イギリス / アメリカ 配信時間:43~57分、全8話 配信開始日:2020.03/05~04/16(日本は2022.09/21)
現在公開中の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024) が良かったので、同じくガーランド監督の観てなかった『MEN 同じ顔の男たち』(2022)を観て、するとTVドラマの本作があることを知ったのでついでに観た。
監督の全作に出ているソノヤ・ミズノが主演(こんなにお気に入りなら映画でも主演させたれよという気持ちもあるが)。
他にもお気に入りの俳優をよく使うガーランド監督らしく『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024) にも出てたケイリー・スピーニーや大柄メンター役してたスティーブン・マッキンリー・ヘンダーソンも出てる(ケイリー・スピーニーはボーイッシュな格好してたから少年役だと今まで思ってた)。
日本ではDisney+で配給(欧米ではHulu)されてたのだが、こんなドラマの事は1mmも知らなかった。Disney+は自社製品(特にスター・ウォーズ、MARVEL)の宣伝は頻繁にするものの他の作品は全然宣伝しない(どういうわけか肝心のディズニー作品も、検索してもまともに検索窓に出てこない始末)。
ネタバレあり。かなりネタバレしてるが、ちょっとよくわかってない部分があるのでネタバレにはなってないところもあると思う。
🧒🏻🧔♂️
リリー・チャン(演:ソノヤ・ミズノ)はシリコンバレーのIT企業AMAYAのエンジニア。
同じくAMAYAで働いていたリリーの恋人セルゲイ(演:カール・グルスマン)が極秘開発部門“DEVS”に配属となった日の夜に不審死した事を切っ掛けに社内で何か良くないことが起きていることを確信する。
リリーは独自に調査を開始、一連の黒幕はCEOのフォレスト(演:ニック・オファーマン)と“DEVS”であることを突き止める。
真実を追究していく過程で“DEVS”の恐るべき陰謀が明らかになる――
そんな話。
第一話で主人公の彼氏セルゲイは今までやっていたAI研究が認められ家族にも誰にも内部のことを言ってはいけない極秘部門DEVSに転属になる。
DEVSの特徴的な建物。本社から少し離れた森の中の原っぱにある窓のない建物。入口は電磁波で浮いた直方体に乗って入る。建物の中に、入れ子構造のようにまた建物がある。その建物は「メンガーのスポンジ」そっくり。中心には巨大な量子コンピューターがあり職員が何人か働いている。
セルゲイが招かれたのはDEVSの中でも更にメインのチーム。
他には、CEOフォレストの公私共にサポートしている天才ケイティ(演:アリソン・ビル)。高給取りなのにトレーラーハウスに住む変わり者の天才スチュワート(演:スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)、ボーイッシュな天才少女リンドン(演:ケイリー・スピーニー)など。
ここでは各自のモニターを見て何かを調整するらしい。
セルゲイはモニターに表示される数値や文字列を見て、何を研究しているか悟りトイレで吐く。そして腕時計に仕掛けられている小型カメラでモニターに表示されている文字列を盗撮する。
その帰り、CEOフォレストが待ち構えており、元CIAのAMAYA警備主任ケントン(演:ザックグレニエ)によって窒息死させられる。どうやらケントンはフォレストとDEVSにとって都合の悪い存在を消す暴力装置のようだ。
そして彼らは一夜のうちに「フォレストの死んだ娘を模した巨大像の前でセルゲイが焼身自殺した」というフェイクビデオを作成。翌朝、主人公リリーはそのビデオと黒焦げのセルゲイの焼死体を見せられショックを受ける。かくしてセルゲイは自殺として片付けられた。
しかし朝まで楽しく元気に共に暮らしていたセルゲイがDEVS出勤の夜に突然自殺した。あまりにも不審死すぎて怪しむリリーは、セルゲイのスマホにある謎のアプリの解析を、ITに詳しい元彼ジェイミー(演:ジン・ハ)に頼む。
……そんなショッキングな第1話。
リリーの家の前にずっと座っているホームレスのピート(演:ジェファーソン・ホール)も含めて、さらっとメインの登場人物も全員出して何となくのキャラ立てもしてて「DEVSが何をやっているのか」「彼らの狙いは何か」など続きが気になる非常に優れた第一話だった。
元彼ジェイミーは別れた後もリリーに未練たらたらで彼女の役に立ちたくて仕方ないので一回は断るが結局リリーを手伝う。
リリーとジェイミーはセルゲイの死因を調査しはじめ「実はセルゲイはロシアのスパイでDEVSへの潜入が目的でAMAYAに入社していた」事がわかった。
恐らくフォレスト達はセルゲイがスパイだと怪しんでてわざとDEVSに引き入れて盗撮させたんだろうな多分。
しかしリリーがセルゲイ調査をしたことをDEVSの暴力装置ケントンが察知し、あの手この手で調査をやめさせようとしたり果ては殺害しようとしてくる。
賢いリリーはジェイミーのサポートもあり、ケントンに狙われる度に上手く切り抜ける……車で拉致されそうになった時に咄嗟に自分もろとも交通事故に遭って逃げるという北野武みたいな攻撃はスカッとしたしカッコよかった。
またDEVSが量子コンピューターで何をしようとしているのかは話を追うごとに徐々に明かされていく。
まぁ、フォレストの事故死した娘アマヤが巨大像になって立っていることから、量子コンピューターを使って現実世界に何かを干渉して「死んだ娘に会いたい」とかそんな人類補完計画したがってた碇ゲンドウみたいなしょうもない目的なんだろうな、という事は第一話で大体想像がついた。
実際には少し違って、まずDEVSのコンピューターは過去や未来の光景を見たり聞いたりできるという事がわかる。キリストの磔刑や魔女裁判やケネディ暗殺の真相やマリリン・モンローのSEXや人類創世記、やがては地球誕生まで見れるようになる。
だがフォレストの目的は死んだ妻娘、フォレストは妻と娘と住んでいた家や車を維持し続け、DEVSでは在りし日の娘が遊ぶ映像を見続けている。完全に過去だけに生きている男で、それを取り返すためなら他人の命などゴミのように扱う……ただでさえ過去に生きる人間に嫌悪感があるので神のように超然として傲慢に振る舞うフォレストはかなり嫌いなタイプの敵だった。
ケントンに追われてどうしようもなくなったリリーとジェイミー。
……そういえば劇中で散々賢いと言われているリリーは、確かに賢くて警戒心もあるのにケントンに殺されそうなって反撃して逃げた後に警察に電話してまんまとケントンに捕まって精神病院に入れられてしまうのは何か釈然としないものがあった。まぁいいか。
ジェイミーはケントンなどに「お前はリリーの子犬だ」と何度も煽られて、確かにその通りなのだがリリーのために命がけで救出に行く。犬は犬でも騎士道に通じた勇敢な犬だった。
ケントンに追いまくられてどうしようもなくなった2人はフォレストの自宅に直接赴く……。
その頃にはリンドン達の努力で”DEVS”は完成に近づき、地球誕生から少しの未来も見れるようになっていた。
しかし「未来を視る」ことは様々なトラブルを伴うためDEVSでは未来を視ることを禁じていた。しかしフォレストやケイティやスチュワートはこっそり見たりしていた。
リンドンは多世界解釈をシステムに組み込んでDEVSは精度が格段にUPした。しかしフォレストは決定論的なDEVSを理想としていたので激怒し何とチームで最も天才のリンドンを解雇してしまう。フォレストが多世界解釈を嫌い決定論を重視するのは今ひとつよくわからなかった、彼が大事なのは死んだ娘であるから多世界解釈だと娘が死ぬ世界、娘がもっと死ぬ世界などネガティブなマルチバースも無数にあるためそれが嫌なのか?または運命が定められた一つしか無い決定論ならば「娘が死んだことも運命だ」というかたちで納得がいくからか?そんな気がする。「あの時妻と電話してなければ妻と娘は生きてた」などと思うのが辛い、だから多世界解釈を嫌っていたのではないか?
しかしDEVS内部やフォレストと付き合っているケイティでさえ「フォレストは狂ってるし間違っている」と言っている、恐らくそうなのだろう。
乗り込んできたリリーにはフォレストの代わりにケイティが話す。それは決定論を前提とした「何が起こるかは全て事前に決まっている」という話。実際にフォレストとケイティはDEVSを見て、リリーとジェイミーが今夜訪ねてくること、彼女らが言う台詞、21時間後にリリーがDEVSに来ること、リリーが倒れてそこから先の未来が見えなくなった事などを話す。自由意志を否定されたリリーは憤慨して帰る。
その前に、予知ができるDEVS(正確には予知ではなく未来の事実を見てる)の説明のためにケイティが話していた「この宇宙で起きる出来事には全て理由がある。ランダムな要因は何一つない」という話は面白かった。
翌朝、リリーは「DEVSの目論見を外してやろう。私たちが家でゴロゴロしてれば未来映像の事象は勝手に外れる」とくつろいでいたが独走したケントンの襲撃を受け、リリーはDEVSの予知通りDEVSに赴く事になる。
「自由意志はない。自分で考えているようでいて人間は実は考えていない」みたいな理論が最近あるけど、それも入ってる。結局DEVSの未来映像通りの行動をしている自分に戸惑うリリー。リリーが来ることも、彼女が言う台詞も、数分後にリリーが自分を撃つことも全てDEVSで見て知っているフォレスト。リリーもその映像を視る。自分が数分後に死ぬとわかっていても、その通りに行動してしまうリリー。
やはり、この夜は決定論で出来ていて「見えない一本道を歩かされているだけなのか?」と思ったら、リリーは最後にDEVSの映像とは違う行動を取る。
驚き、慌てふためくフォレストとケイティ。これは彼らにとって滝が下から上に流れるも同然なのでそれは慌てる。さっきまで「救世主は死の後に復活する」とまで言い切り早く自分を撃つように挑発する余裕があった超然としたフォレストが慌ててるのはここだけなので少しだけスカッとした。
だが「システムを止めなければ」という使命感を持ったスチュワートによって、結局DEVSの未来映像通りの結果になってしまう。
「リリーが事実と違う自由意志を行って、運命がズレた」という少年漫画のようなスカッと展開だったのが結局運命通りになってしまった。
どうなるんだろう?
と思ったらリリーはセルゲイがDEVSに出勤する日の朝だった。AMAYAに出社しても劇中で死んだキャラなども全員健在だった。
混乱したリリーはDEVSに行く。しかしDEVSは無くフォレストが死んだ妻子と遊んでいた。フォレストが言うには、ここはあのDEVSで見てた映像……つまり我々が死んでなくてフォレストの死んだ妻子が生きている幸せな世界をDEVSで作って我々はその中にいる、君の友達も皆生きているから君もこれから好きなように生きろ、という話。
つまりこの世界は現実の物理世界ではなく、DEVSが作ったシュミレーションということ。しかしDEVSが作ったシュミレーションは現実の世界となんら変わりない。リリーとフォレストには死ぬまでの”現実世界”の記憶がある。だからこの世界がシュミレーションであることを知ってしまっている、それが自分たちの背負った十字架であって、それに目を瞑ればこのシュミレーション世界も現実と変わらない、しかも楽園のような現実だと。
我々が住むこの世界も作られた世界だと考えたほうがつじつまが合うという「シュミレーション仮説」があるが、我々が住むこの三次元世界が本当にシュミレーション世界だったとしても我々にはそれを知覚する方法がない、だからたとえこの現世が仮想現実だったとしても現実となんら変わりない。それと同じだ。
リリーとフォレストはこのシュミレーション世界で新たに幸せな人生を生き直す感じで終わる。フォレストが言ってた「救世主は死んだ後蘇る」と言っていたのはこのシュミレーション世界での第二の人生の事だった。
しかしリリーとフォレストの楽園はDEVSが運営し続けなければならない。さっきまでの「現実世界」に残されたケイティは、DEVSに働きかけていた議員にDEVSを動かし続ける事をお願いする。ここで終わるので多分DEVSは運営し続けるのだろうが、しかし国が、自分たちに特に得がない莫大なリソースを必要とする”楽園世界”を維持させてくれるだろうか?よくわからない。とりあえずフォレストの心の平穏を願っていたケイティが生きている間は運営し続けるのだろう。まぁ消されたとしてもPCの電源を消すみたいにブツッと切れるだけでリリーとフォレストは自分が死ぬことも知覚できないだろうから別にいいのか……。
そもそも、何で現実世界で死んだフォレストとリリーが、この楽園世界に来たのか?DEVS内で死んだらDEVSがどうにかして2人の身体からデータと記憶を取って楽園世界に2人を形成したのか?多分そうだな、それしかないから……。リリーが銃を捨てたらフォレストが焦りまくってたのは「やばいここで殺されないと、ただ死ぬだけや!」という意味でビビってたのかも。
それにしても「システムを止めなきゃ」とスチュワートが移動通路を落としたのはどういうこと?ケイティが継続するのでDEVSはそんなことでは止まらないわけだし、スチュワートは事前に「過去をよく知らんフォレストには神のように振る舞う権利はない」的な感じで怒ってた気がするがフォレストの「転生」に協力してしまったのはいいのか?そんな事になるとは思わず、普通に殺さなきゃと思っただけなのかな?多分そうだな。
それにしても劇中、フォレスト憎いな~と思ってたので、リリーはともかくフォレストが最後にめちゃくちゃ幸せになられたら何か釈然としないものがあったなぁ。
ジョジョだったら絶対ボコられて終わる敵だよね。しかし妻子と暮らせて優しくなるのならそれでいいのか?だが、それにしては「現世」でゴミのように殺された若者たちが頭によぎって……やっぱフォレストがこんなに幸せに終わるのはちょっと嫌かな。DEVS内で生きるにしてもリリーと違って”現世”の記憶がないなら、まだいいんですよ。それは以前のフォレスト、別人みたいなもんだから。リリーは前の記憶があるからセルゲイと別れてジェイミーとやり直せた、それはいい。やっぱフォレストは”現世”で司法で裁かれるか、もしくは妻子に会えない無限地獄に落ちて欲しかったところ。
まぁ「決定論」「多世界解釈」「シュミレーション仮説」どれもこれも一朝一夕には語れないものばかりで、それを一気に語られたら感想に困るね。
まぁ、フォレストの罪同様に、そんな風に色々思考したり観た人同士でああだこうだと話すための作品なんだろうから、それでいいのかもしれない。フォレストをわかりやすく罰したら「ざまみろ」と思って終わりだからね。だから色々とグレーな方がいいのかもしれない。倒してザマミロはレントンでやったわけだし。
第3話から最終話まで一気に観れたし面白いことは間違いない。
内容に対する結論は、ちょっとすぐには出ないし観た人で意見が凄く分かれそう。
……まぁ映画やドラマどれでも観た人によって感想が違うわけだが……本作は輪を掛けてそうなりそう。ガーランドの『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)以外の映画よりは面白かったかも。
とりあえずこれでアレックス・ガーランド作品全部観て感想書いてスッキリした。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)よりおもろいのはなかったが、でもどれも面白いところがあり一見の価値ありましたね。次はヨルゴス・ランティモスだ。
🧒🏻🧔♂️
そんな感じでした
〈アレックス・ガーランド監督作〉
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Devs (TV Mini Series 2020) - IMDb
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