監督&脚本&キャラクターデザイン:押山清高 原作:藤本タツキ『ルックバック』(2021.07/19) 撮影:出水田和人 編集:廣瀬清志 美術監督補佐:針﨑義士、大森崇 色彩設計:楠本麻耶 音響監督:木村絵理子 アニメーション制作&制作会社:スタジオドリアン 制作会社:Amazon MGMスタジオ。集英社ほか 音楽:haruka nakamura 主題歌:urara 「LIght song」by haruka nakamura 製作国:日本 上映時間:58分 公開日:2024.06/28
漫画家・藤本タツキが週刊少年ジャンプでの『チェンソーマン』(2019-2021)の連載を終えてしばらくして突然発表された読み切り長編漫画のアニメ映画化。58分だから中編映画ってところか。
ルックバック - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+
ちなみに藤本タツキはウェブコミック配信サイト〈少年ジャンプ+〉で初連載した『ファイヤーパンチ』(2016-2018)で知り、それは凄く面白い部分と荒い部分がごちゃまぜになってた印象だった。エンディングがとにかくクドいので「いいから早く畳んで次の連載に行けよ!」と強く思った印象。何か自分の中にある描きたいものを次々と薪をくべるかのようにファイヤーパンチの中に全部ぶち込んだからそうなった印象。とにかく才能ある人がやる気満々な感じが伺えて好感を持った。次に満を持して少年ジャンプで『チェンソーマン』第一部(2019-2021)が始まり、最初はどんなもんか静観してたけど前半のvs.永遠の悪魔のところから化けた印象でそっから最後まで完璧に面白かった。
その後、週刊少年ジャンプからネット連載の〈少年ジャンプ+〉へと掲載の場所を変えた『チェンソーマン』第2部の連載が始まった。第2部は第一話こそ今まで通り完璧だったが、主人公の唯一の友人がすぐ死んでも大して描いてないから何とも思わなかったりして少し変だなとは思いつつ水族館編で「やっぱ面白いわ、一部も永遠の悪魔で加速したもんね」とか思ったが、同時期に『チェンソーマン』第1部(2019-2021)が途中までTVアニメ化されたのが始まった。ここでアニメの感想言うと長くなるのでやめるが、米津玄師の主題歌とOP、あと本編の作画が綺麗なこと以外その他全部かなりガッカリな出来だった。
チェンソーマンのgock221Bのアニメレビュー・感想・評価 | Filmarksアニメ
すると2部の漫画も「これ本当に『チェンソーマン』第一部(2019-2021)と同じ作者?」というくらいつまらなくなった。たまに思い返したように面白い回があったりするが2、3週もすれば再びつまらなく……というのを5回くらい繰り返し、起爆剤的に第一部で人気あったキャラを再登場させても2週も持たずつまらなくなるので「もう第一部の魅力あるキャラ出さないでくれ」と思うようになった。それくらいつまらないのに隔週連載くらい休載だし、それなのに作画も乱れて「大丈夫かな」と心配になった。作画は『ダンダダン』の人がアシスタント抜けたかららしいが漫画に絵の巧さは殆ど関係ないと思ってるので絵の粗さは別に良い。単純に内容が本当に面白くないのがヤバいと思った。「つまらない」というのは主観的な感想だが、実際にコミックス最新刊の売上は第11巻(第一部ラスト)に比べて四分の一くらいまで落ちてるのであながち僕だけの主観的な感想ではないと思う。だが悪いことばかりだけではなく、第一部終了→原作漫画の『ルックバック』というコンボで、SNSでエモい考察とか「考察」に励む感じのファンが爆増して何か気持ち悪かったのだが、そういった人達の殆どが、消えたのか?屠殺された豚のように静かになった、それだけは良かった。
そして「TVアニメ版の続き『レゼ編』を劇場アニメにする」というニュースで嫌な気持ちになったりしつつ、特に期待してなかった本作『ルックバック』(2024)が公開されたら……もう物凄い絶賛と客入りだった。すると、つまらないのが常態化してしまっていた2部の原作はピッタリと本作『ルックバック』公開以降、前より面白くなった。
「TVアニメ版がつまらないのが漫画に悪影響をもたらし、本作『ルックバック』が良かったから漫画も少し回復した」……と、人間そんな単純なものではないと思うが、毎回どんなにつまらなくなってもねばり強く連載を読んでたら個人的にはそんな風に感じられた。
ちなみに原作者・藤本タツキは、本作『ルックバック』(2024)の感想として「自分の作品に対してここまで真摯に作ってもらえる事が人生でもうないのではないかと思い泣いてしまいました」と言っていたそうです。
どう思う?
「映画『ルックバック』(2024)、ガチな感じで評判いいからきっと良いんだろう。だけどもう読んだし長編映画でもないから配信に来たら観よう」とスルーした。
で、先日、日本のインフラともいえるアマプラ独占で配信された、つまりタダってことだ。それで先週観た。その感想をそろそろ書かなきゃなと思い書いているというわけよ。
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ネタバレあり
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漫画を描くのが好きな女子小学生・藤野(演:河合優実)が、同じく漫画の背景画が上手い引きこもり女子小学生の京本(演:吉田美月喜)と、卒業式の日に出会う。
2人は「漫画家・藤野キョウ」として漫画を共作する。そして――
という話。
藤野と京本、2人が描いた4コマ漫画が互いを動かし人生の方向性を決定づける。
やがて2人は一つになり互いに素晴らしい世界を見せ躍進し続ける。
だが、そういった良い面だけではなく、他者へ与えた影響によって、大事な人間、二人一緒なら何でもできるはずだった相手に図らずも破局を迎えさせもする……というところも同時に描いたところが凄いね。しかも「方向性の違いから喧嘩する」とかそういうありきたりな要素じゃなくね。
これは藤野と京本、2人の話なんだけど個人的には作者・藤本タツキが投影されていそうな藤野一人だけの話として観たところもある。京本は、どこか妖精のような非現実的な雰囲気もあるし何よりも一人の作家の奥底にある純粋なクリエイティビティの擬人化のように思えたので割とそのように観た。
「藤野」という自分本体と「京本」という自分の奥にある「漫画を描きたいという自分の夢」それを世界に拡散していった結果、社会から「想定外のネガティブなもの」を寄せ付けてしまい、自分の中の純粋なクリエイティビティ(京本)が一旦、失われてしまった。だが描くことしかできない藤野は再び描き始め、描くことによって己を回復させていく。そうすることでしか生きていけないし描くのを辞めると死んだも同然なのでそうするしかない。それによって「自分自身(藤本)を力強く後押ししたい、自分を無心で信じて応援してくれる内的な純粋な自分(京本)」は息を吹き返し、また「漫画を描く」という地味で辛い作業をしている時だけ藤野は再び京本に逢える。
……と、そんなお話だと受け取った。
この作品は漫画原作、映画ともに「何か真剣に創作した者じゃないと、その価値がわからない」とよく言われたりする(クリエイターによる一般人へのマウントじゃなく、うまく感動できなかった人が自分を慰めるためによく言っている印象)。
自分は別に漫画家でもクリエイターでも何でもないけど「自分の中の大事なものを失うが、それをすることによって回復し、またそれをしている間だけ再びいつでも自分の中の大事なもの(京本)に逢える」といった本作の(僕個人がそうだと思った)内容は、割とクリエイター関係なく、あらゆる人の人生や各個人にとっての大事なものと同じだと思うんですよね。だから割と誰が観ても感動できると思いますわ。
もちろん好みはそれぞれなので「何も感動しないし自分の人生には当てはまってないぞ」と言われたらそれはそれでその人の大事な感想だと思うし、そういう人はそれでいいわ。
本作は、絵柄や展開だけなく藤本タツキ漫画そのままアニメ化できすぎていた。
藤野が学級新聞に描いた4コマ漫画は簡単なギャグアニメとして表現されている。「漫画」がテーマなので本当は四コマも、そのまま表示して読ませるという手もあるのでそれも考慮したかもしれないが、これはアニメという表現形式なので簡単なアニメにしたんだろうなと思った。
中でも、藤野と京本の声優が一番凄いと思った。
二人とも、若手女優だったりモデルだったりでアニメ専門の声優じゃない。つまりジブリなどでよくある、アニメ声優じゃない女優などが声をあてるパターン。これが凄く上手くハマってる。
特に京本の方。藤本タツキ漫画でよくある、コミュ障っぽい女性が出す「あ、ああぁ……う、うわああぁ……」みたいな声が本当にハマりすぎてる。アニメ専門声優だと良くも悪くも「コミュ障の役を、アニメでの演技が達者な人がやってますよ」感が出てしまうので、若手女優的な「演技はできるが、アニメに芝居を当てると少しアニメ浮いてしまっている」感じが「世間から少し浮いている藤野と京本」に凄くマッチしてる。
実のところ『チェンソーマン』のアニメも放送前こーいう感じで「アニメ声優じゃなくて、俳優が声を当てたら藤本タツキっぽくなるのでは?」と思った。
だけど実際の『チェンソーマン』アニメは「バリバリのアニメ声優を集めて、聞き取りにくい抑揚のないボソボソ喋りをさせる(何故なら邦画っぽいから)」という最悪のやり方をやっててガッカリしました。アニメ『チェンソーマン』の監督は「アニメっぽくしたくない」「映画みたいにしたい」と思ってそうしたのだが、よりにもよってそれを物凄く表層的で良くない方法でやってしまった印象(ちなみに吹き替えだけでなくあらゆる部分で同様の良くない選択をしていて、そういった文句を言い始めると肝心の『ルックバック』感想の五倍くらいの長さになってしまうのでやめておきます)。
そーいうわけにはいかんだろうから無いだろうが、本作の監督に『チェンソーマン』のアニメ最初から作り直してほしいわ。この監督が描く「vs.永遠の悪魔」「カースがコマの外から指で弾いてくるところ」「vs.闇の悪魔」「vs.サンタクロース」「パワーvs.マキマ」「パワーがお別れを言うところ」「コベニが『それが普通でしょ……ヤな事がない人生なんて……夢の中だけでしょ……』という場面」……とか観たいなぁ。
でも本作のアクションというと雨の中を喜んで疾走する場面と、飛び蹴りの止め絵しかないのでアクションやハイテンションなシーンがどんな感じか、どう上手くいくのかは上手く想像できない。その代わり本作の内容のせいかダウナーなシーンは容易に想像つく。とりあえず京本役の女優さんにはそのまま似た演技でコベニ役してほしい。
せっかくだから、もう20~30分くらい上映時間を延ばして1時間20~30分くらいの長編映画にして欲しかった気がしなくはない。理由は特にない。自分は映画が好きだし中編より長編の方が凄いと思われそうだし賞レースに参加しやすそうだから?「藤野と京本のまんが道」「藤野が一人で『シャークキック』描くところ、並走して京本が美大で頑張るところ」などを膨らませれば20~30分増やせた……かな?最後に「藤野が復活するところ」は伸ばすわけにはいかん。京本の部屋の前で一気に終わった方がいいだろうし……。
だけど原作漫画も、この映画の監督もこれが適切な長さだと思ったからこれでいいんでしょうね多分?
なんか、長い映画観ること自体が苦手そうな若者も「一時間以内だから見やすい」というのもあるかもしれないし(想像)。
それにしても前半、中盤、終盤の要所要所で、絵の勉強したり藤野が色んな表情で漫画を描いたりおにぎり食べながら漫画描いてるモンタージュが本当に良かったね。
素直に良かったです。
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そんな感じでした
ルックバック - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
Look Back (2024) - IMDb
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