製作総指揮:木谷高明 原作:岩谷麻優『引きこもりでポンコツだった私が女子プロレスのアイコンになるまで』(2020) 監督:ヨリコジュン 脚本:渡部辰城 配給:ブシロードムーブ 製作国:日本 上映時間:105分 公開:2024.05/17
世界最大の女子プロレス団体「スターダム」(2010~)のエース岩谷麻優の自伝本の映画化。
スターダムのことは2010年代「なんか可愛い選手が多いね」というボンヤリした認識しかなかった。というか2010年代とか日本プロレス暗黒期で全然観てなかった(WWEは観てた)。
でも2010年代後半に、世界最大のプロレス団体WWEに紫雷イオ(現IYO SKY)、宝生カイリ(現KAIRI SANE)などが行って活躍して世界的なスーパースターになったことで「えっ、スターダムってそんな凄かったの?」と思い観るようになった(ブシロード体制以降)。最近だとジュリアもNXT(WWE下部組織)行ったね。
昭和の人間なので「可愛くて細い=全女などと違って弱いに違いない」という偏見があったのだが実際試合観たら本当に凄いし展開の早さも面白いので先入観を持つ愚かさをを反省しました。一番好きな選手は吏南、あとコグマ&葉月、でも割と基本的に全員好きです、もちろん岩谷選手も。最初どういう選手か知らずに観ていって「この選手の試合良いな」と思って後から調べたらほぼ子供の頃からやってたりプロレスしたくてプロレスしてる子が多い。岩谷選手もそうだし、やはり本作で描かれてたようにイメージがバッチリ出来てるし思い入れも強いからだろう。
ネタバレあり
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他人が怖くなり不登校とねって2年間ひきこもりになって妄想だけしていた岩谷マユ(演:平井杏奈、モデルは岩谷麻優)はプロレスにハマり、自分がプロレスラーになって活躍する妄想ばかりするようになる。
そんなある日、元全日本女子プロレスの仕掛け人だったグッシー(演:竹中直人、モデルはロッシー小川)と元女子プロレスラーだった流香(演:向後桃、モデルは風香)が新しい女子プロレス団体「スターダム」を設立。
練習生を募集していたのでマユは3千円だけ握りしめて家出。レスラーになるべくスターダムの練習生となるが――
みたいな話。
運動どころか2年間で3回しか外出したことない岩谷は苦戦……するが何かヌルっとレスラーになる。これが前半。
しかし連敗続きで後輩に次々と抜かれる……が、妄想力を活かし「たわしーず」などの面白ギミックでヌルっと人気が出る。だが同期で一緒に頑張ったルームメイトの東子(演:ゆきぽよ、モデルは世志琥)が世間一般を悪い意味で騒がせた「凄惨マッチ」当事者となってしまい団体を去り、スターダムにも存亡の危機が訪れる。
他に行き場がない岩谷は大勢が去ったスターダムに残り、するとフリーの人気レスラー紫炎リオ(演:平嶋夏海、モデルは紫雷イオ、現IYO SKY)一度は去った後輩・海城タカラ(演:KAIRI本人、モデルは宝生カイリ、現KAIRI SANE)や羅月(演:朱里、モデルは花月)も参加。
スターダムは何とか持ち直し、いつの間にか岩谷はトップレスラーとなっていた。
……これが後半。
大体、こういう三幕で進む。
主人公・岩谷マユ役の平井杏奈は素直に主人公オーラが強くて素直に良かったです。
細部はともかく劇中で起きた出来事や出てくる人物も割とそのまんま。
中でも「異常に華奢でスタイル良いままなのに異常に打たれ強く、プロレス妄想ばかりしていたので練習しなくてもムーンサルト・プレスなどの高難易度な技も全部できてしまう」……という主人公「岩谷マユ」が「こんな奴、漫画の中にしか居ないやろ」って感じの人物なんだが、そんな岩谷が現実の岩谷麻優そのまんまというのが何気に一番すごい事だと思う。だが本作の人間ドラマパートが何か……単純にクオリティ低いので嘘っぽく見えてしまうのが勿体ないなと思った。
タイトルになってる「家出」も走りだした後はスキップしてスターダム寮に入ってしまってるし、『極悪女王』(2024)では一番面白かった練習生シーンもプロテストも何かヌルっと進んでしまう(というか割と全編ヌルっと進んでそのまま終わってしまう)。だから、もったいないなと思った。
はっきり言って「映画」というより「世界まる見え!テレビ特捜部」の再現VTRみたいで厳しい。スターダムファンなら「このキャラは◯◯だな」とか、そんな風に少しだけ楽しめる……かもしれない。
OPは主人公・岩谷が妄想する夢の世界「マユランド」の主人公マユと犬と猫をノートに落書きしてて、その簡単な絵柄が動き出すというOPで実際の岩谷麻優の入場曲「THE SAVIOR」が流れる。↓
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これがジェームズ・ガン監督の、僕も大好きな数少ない泣いた映画『スーパー!』(2010)のOPにそっくりで多分、参考にしてると思われる。
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というかこうして並べると映像だけでなく曲自体も似てるので岩谷入場曲「THE SAVIOR」自体もこのTsarの「Calling All Destroyers」(2000)を参考にしたのかも……と少し思った。
劇中には、くりぃむしちゅー有田哲平、レイザーラモン、バッファロー吾郎・竹若元博、古坂大魔王、浅越ゴエなどのプロレス大好き芸人、あとスターダム同様にブシロードの子会社となって共同イベントなどもするようになった新日本プロレスの天山広吉 など、いわゆる「身内」感あふれる人が多く出演して脇役を演じている。みんな別にタレントとしては好きなんだが本当に「身内」感が凄すぎる。
あとスターダムの選手がちょいちょい「スターダム若手」役で出てるのもまた身内感がすごい……というか世間一般でヒットするように作られた『極悪女王』(2024)と違って、どう観てもスターダムファンに向けてしか作ってない。だからこれでいいっちゃいい、のか?……と一瞬思ったが『極悪女王』(2024)のように世間一般に大ヒットした方が良いよね、どう考えても。もっとプロレス興味ない人が観ても映画として面白く作ってほしかった。
そういえばメインキャラの流香(風香)役を演じてるのが現実世界で岩谷麻優のユニットの後輩でもある向後桃で、主人公の後輩タカラ役がモデルになったKAIRI本人が演じてるのもなかなかややこしい。
だが向後桃が思いのほか風香に激似で演技も普通に上手いのでこれは良かったです。
岩谷の後輩・タカラ役KAIRI本人は、当時20前半くらい?の若カイリ役を現在のKAIRI35歳が演じてるので違和感が凄い。KAIRIさん本人はグッドシェイプで綺麗にしてるので観てて老けてるとかは別に思わないのだが「年齢不詳のスーパースターKAIRI」そのまんまで「若い未熟なレスラー」を無理やり演じてるので違和感がすごい。これもまた本作を映画じゃなくてPR映像みたいにしてる。そういう感じでこの映画は全体的にこういう部分が多すぎてだから観てるうちに映画を観てる気持ちじゃなくなっていく。せめて黒髪のもっさり若カイリにするとかすればいいのに髪とかメイクとかは現在のお金かけたスーパースターの風貌そのまんまだからね。でも映画終盤で彼女の必殺技インセイン・エルボーを地面に寝た視点から観れたのは何か得した気がしました。
イオ役の平嶋夏海は何故だか本人に凄い似てた。
そういえば岩谷役のオーディションで元アマレス選手のグラビアアイドル山岡雅弥があと三人のところまで残ってたが彼女の妹は、ロッシーが新たに立ち上げて風香も協力している新女子プロ団体「マリーゴールド」でデビュー直前の練習生・山岡聖怜だったりして何か無駄に背景がややこしい。
登場人物が『極悪女王』(2024)と違って仮名を使ったのは、凄惨マッチとかを扱ったせいなのかなと思った。東子と揉めるレスラーとか実際に良くなかったみたいだけど作中でも一から十まで悪く描かれてたからね。で、彼女も日頃から嫌味なレスラーとして二言三言台詞があっただけで東子(世志琥)との因縁とか全然描いてないので現実でのことを知らない人からしたら東子が試合中に「ブス」と言われたからキレて無茶苦茶してしまったようにしか見えない。
……というかそれ以前に劇中で「東子はブス」という事を何度も強調してたんだけど演じてるゆきぽよは普通に美人なので映画を観ていて意味がわからない事になってる。「自分をブスだと思い込んでる美人というキャラなのか?」という誤解が生じる。もっとワイルドな見た目の人をキャスティングするか、もしくは東子のコンプレックスを容姿以外にしないと成立しないだろと思った。これもまた「映画を観る人が世志琥を知ってる」という謎の前提で伏線を全然張ってないがために生まれた甘えた部分だと思った。
そういえば時折、妙にえげつないシーンがあるのも気になった。
冒頭の岩谷がひきこもりになる原因も下校の帰りに襲われかけたと言う岩谷マユが乱れた衣服で帰宅する。この演出、はっきり言って実際にレイプされたかのようにしか見えないので異常に心配させられる。されかけたと言うのなら襲われそうになるが間一髪逃げ出すシーンを入れてほしかった。
あとベテランのレフェリー村瀬(演:レイザーラモンHG、モデルは村山大値)が、凄惨マッチでスターダムが傾いた時に闇金で金を借りてきて「これ返さないと腎臓と網膜を取られちゃうからサ」などと言っていて、村山氏は元気にしてるので大丈夫だったわけだが、なかなか怖いシーンだった。
流香(風香)をセクハラしたり三人娘に枕営業を持ちかけるスポンサー役として有田が出てくる。で、彼の友人としてWWEに勧誘する人物(演:古坂大魔王)が出てきてイオとカイリは実際にWWEに行ってしまう。セクハラする有田はコメディチックな感じで描かれてるし後で改心して「岩谷だけは勧誘できませんでしたなぁ笑」といった感じで軟着陸させる。架空の人物とはいえWWEへと引き抜く人物へのパイプ役をセクハラ野郎として描くのどうなの?……と思ったがWWEの元会長ビンスがえげつないセクハラの人だからまぁ、いいか……。
映画終盤は岩谷と羅月(演:朱里)の一騎打ちで終わる。
……いや、ここは岩谷vs.東子(世志琥)をラストバトルにすべきだろ。
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前半で「同室の東子と励まし合いながら頑張った」中盤で「凄惨マッチで東子が去って団体が傾く」と、前半&中盤と2回も東子を描いてたやん!後半、成長した岩谷がスターダムを立て直した、そこで東子と戦うことで三幕も綺麗に終わるし東子の重荷も昇華されたっぽい事が描かれるやん。
ラスボスとなる羅月(=花月)、実際には岩谷と花月の因縁もさぞかしあったんだろうけど、そんなの知らんし。
あ、だけど試合らしい試合を最後に描きたいからスターダム現役レスラーの朱里による羅月戦で〆たってことか。……いや、それなら東子役を朱里にして岩谷vs.東子で〆ればいいだけだったんちゃう?と思った。
だけどリングや会場は本物なので、おっ本物……と思った。
岩谷役の平井杏奈もこの最終戦では凄くスターダムのアイコンとしてのオーラが本当に出てて凄く良かった。
そういう感じでメインキャラを演じてる俳優とか題材などはどれも良いのに肝心の映画がつまらないのが凄く惜しいなと思った。
「ひきこもっててプロレスの妄想ばかりしていた→そのせいで頭でイメージしたら大抵のことはできる」という漫画みたいな岩谷のキャラは面白いので、シリアスに撮らなきゃいけなかった気がする。折角の杞憂な題材をバラエティ番組の面白再現VTRみたいに撮るもんだから嘘っぽくなっちゃって勿体ないなと思った。
あ、そういえばラストシーンでブシロード社長も出てた。本当にとことん身内感が強いというか……やたらと社長本人が出てくる地方の土建屋のCMみたいだ。
WWEが自前で作った、ペイジ自伝を元にしたフローレンス・ピュー主演『ファイティング・ファミリー』(2019)も、本作ほどではないが自社を持ち上げて何だかフニャフニャしてる間に終わってしまう微妙な作品だった。本作と似てるな。やはり自社で作るとこういう感じで映画としての出来とかどうでもよくて自社を褒め称えてる間に終わってしまう作品になりやすいのかもしれない。
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そんな感じでした
スターダム✪STARDOM – 明るく、激しく、新しく、そして美しく!輝く女子プロレス団体「スターダム」公式サイト.