監督&脚本:黒沢清 制作:荒川優美ほか 編集:髙橋幸一 撮影:佐々木靖之 美術:安宅紀史 衣裳:纐纈春樹 音響効果:柴崎憲治 音楽:渡邊琢磨 照明:永田ひでのり 録音:渡辺真司 装飾:松井今日子 スクリプター:柳沼由加里 ヘアメイク:梅原さとこ 助監督:海野敦 音楽:渡邊琢磨 制作会社:日活 製作国:日本 上映時間:123分 公開日:2024.9/27
今年は3本も黒沢清作品が公開された。『Chime』(2024)、『蛇の道』(2024)どちらも面白かった。今年の3本はホラーやアクション成分が多くていいですね。
秋に公開されたばかりなのにアマプラに来てありがたい。観ました。
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10年に一回くらいの割合で起こる、なんかプロデューサーの人が黒沢清をヒットさせようと割と金かけて大作に仕上げ、でも特にヒットはせず黒沢清ファンは喜ぶが普段黒沢清あんま知らん人まで観て「なんだこりゃ」とポカンとするという黒沢清ファンと一般映画ファンとの間に断絶が起こる……という毎回見られる恒例行事。
ネタバレあり
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〈ラーテル〉のハンドルネームで転売屋の男、吉井良介(演:菅田将暉)。
昼間は工場で働き秋子(演:古川琴音)という恋人もいる吉井は、副業として人の足元見て安く買い占めて10倍くらい高く売る、本物のブランド品か偽物かなんてお構いなし、という空虚な転売屋。
工場の社長(演:荒川良々)に昇進させられそうになり、見下している転売の先輩(演:窪田正孝)もウザいので吉井は工場をやめて湖畔の一軒家に引っ越す。
フリーターの佐野(演:奥平大兼)を雇って新生活を再出発させた佐野だったが、彼の周囲で不審なことが起こり始める――
前半は割と普通の嫌な社会派っぽい感じで始まる。序盤から吉井の周囲には不吉な兆候がちょいちょい見られる。
中盤、吉井は引っ越してからも相変わらずギスギスした嫌な感じの私生活が展開する。やがて、どうやらラーテル(吉井)は悪どい転売屋やってたり他人に興味なかったり又は他人を見下しているせいで不特定多数の人間から恨みを買っている事がわかってくる。
で、その不穏さが後半、爆発して思いもよらぬ展開に突入して終わる。
まず前半。まず吉井は町工場の中年夫婦が開発したらしき機械をタダ同然で買い叩いて高く売りさばくところから始まる。中年夫婦は感情を出して涙ながらに吉井に追いすがるが吉井はセルロイドの人形のような顔で受け流す。
吉井は唯一の知人っぽい窪田正孝演じる先輩とちょいちょい会ってるが、完全に見下しており転売は絶対に一緒にやらない。先輩とボードゲームしても吉井はわざと負けている、しかしわざと負けているのは先輩に完全にバレている。「バレてんぞ」と言われたら吉井は無言……。吉井は一応、後輩として接してはいるがもう完全に先輩を見下している、そしてそのことを互いに理解しているので非常に気まずい関係。
家の前にネズミの死骸が置かれてたり、バイクで走ってたらピアノ線が張ってあり転倒したりする。しかし、まだそれは何者かが吉井を狙ったものなのか、それとも偶然なのかよくわからない。とにかく「吉井の周囲で不審なことが起こる」といった感じのことが言いたい不穏シーンが続く。
最終的には夜、吉井が夜、窓から外を見ると吉井が辞めた工場の社長が立っている。夜、自宅の近くでこっちを向いて立っていてほしくない人物、荒川良々。
社長は「能ある鷹は爪を隠す」的な吉井に執着していて自分の右腕にしたがっていた。その吉井が突然辞めたもんだから自宅にまで……。吉井は居留守を使うが部屋の電気が点いたり消えたりしてバレてしまう。しかし「もう辞めて会うこともないから居留守バレてもいいや」と社長が帰るまで無視する。しかし吉井のこういった態度が後のトラブルを引き起こす。
湖畔の一軒家に引っ越して恋人の秋子も同居する。
秋子は古川琴音が演じている。
引っ越した後、モコモコした服装の秋子が歩いてる様は『カリスマ』の洞口依子に似ていた。というか多分同じような私利私欲感やオンナ感の強いキャラなんだろうなと早くも予感させる。
古川琴音といえば岸井ゆきのとどことなく似てる事で有名。実際に顔見たら区別はつくのだがどっちがどっちの名前だったか、どの作品に出てたのがどっちか、いまひとつよくわかっていない………てことは区別ついてないってことか。
本作や『岸辺露伴は動かない』(2020-2024)、『幽☆遊☆白書』(2023)、『みなに幸あれ』とかが古川琴音。『予兆 散歩する侵略者』(2017)、『ケイコ 目を澄ませて』とかが岸井ゆきの。今日こそは覚えたい。
吉井は結婚を前提に秋子と大きな一軒家で同棲を始める。秋子は大喜び。
しかし他人に興味のない吉井は秋子をほったらかしにしてしまい秋子は徐々に不機嫌になっていく。吉井は嫌な奴ではあるが嫌な奴なりに秋子のことが好きなことは最後の方まで見ればわかるのだが、どちらにしても女に「愛されてない」と思われる程度でしか接していないのでどうしようもない。
そうこうしてると、この吉井の新居にも物が投げ込まれたり、それを地元のオマワリに言いに行っても東京モンへの敵意からまともに話を聞いてもらえない。というか宅配の人が警察に「なんかフェイクを売りさばいてる、反社ちゃうか?」とかチクっていて吉井は一気にこの田舎が嫌になる。
ウンザリした吉井が帰宅したら、バイトの佐野くんが投げ込み犯人を捕まえていた。近所の不良だった模様。
バイトの佐野くんは、吉井を慕ってるだけあって非常に空虚な若者だが、投げ込み犯人を捕まえたり、吉井の留守中に高く売れそうなリストをまとめたりネットでの評判を集めたりして有能な片鱗を見せる。しかし吉井は「それは君の仕事じゃないだろ、勝手なことすんな!」と佐野くんをクビにしてしまう。そして吉井にほったらかされている秋子は佐野くんを誘惑しようとするが佐野くんも相手にしないので出ていってしまう(この誘惑する秋子はスリップ的な……シミーズみたいなものを着ておもむろに脚にオイル的なものを塗りだすという昭和っぽい誘惑で「こんな女関わり合いになりたくねー」感が凄かった)。
だもんで、後半で吉井を襲うのは「吉井に見下されている先輩」「辞めて出ていかれた工場の社長」「構ってもらえない秋子」「色々手伝ってあげたのに解雇された佐野くん」又は、安く買い叩かれたり偽物を掴まされたネットの顧客たち、はたまたその全員なのか、今の段階ではまだわからない。
転売屋ラーテル(吉井)を憎む者たちがネットで、ラーテルを成敗するサイトを作って襲撃者が集っていた。
このラーテルやっつけ隊の中の「ネカフェに寝泊まりしている無能な青年」がいるが、彼の「いかにも無能で幼稚で未熟そう」という役作りが凄い。
また甲高い声の痩せた中年男性は、同じく2024年公開の面白かった中編映画『Chime』(2024)の主人公を演じてた俳優の人だった。なんなら本作のこのキャラも「『Chime』(2024)ラストでおかしくなった主人公のその後」みたいにも見えてくる。
そんで後半は、武装したラーテルやっつけ隊が吉井を襲う。吉井と彼らの追いかけっこ、拉致された吉井を救いに来る意外な援軍、そして突然始まる銃撃戦……など非常に面白くなっていく。
援軍は佐野くんなんだが、どうやら裏社会の住人だったことが匂わされ松重豊から武装をもらう。黒沢清と松重豊といえば『地獄の警備員』(1992)なんで、佐野くんではなく松重豊がバイト役だったパターンも想像したが、いかにも曲者って感じの松重豊よりも、空虚すぎて全く読めない佐野くんの方がやはり良かったのだろう。
黒沢作品の空虚キャラと言えば、過去作では哀川翔や西島秀俊がいたが彼らもやはり、何かが失われて空虚になってたり、あるいは「大したキャラだ」というオーラが充満していた。佐野くんの場合、本当にただ「何となく懐いた青年」ってだけの感じの青年なのでそんな佐野くんが突然武装して吉井を助けてくれる方が、より読めなくて面白い。
銃撃戦も、ジョン・カーペンター的というか……もっと古いアメリカ映画的な、弾数をちゃんとカウントしていたり、銃や弾が落ちてそれを拾って活用したり、撃つ者と撃たれる者の位置関係がハッキリしていたり……非常にクラシックで面白い銃撃戦だった。
武装して吉井を救いに来た佐野くんの一番面白いところは、救う対象の吉井が全く良い奴でもなんでもないし、別に佐野くんに良くしてくれてたわけでもないところだろう。だから佐野くんが救いに来たところまでは「まぁそういうこともあるか」と受け入れて観てたが、やがて「……というか何でよりによって吉井なんかを命がけで救いに来た?」と疑問が湧いてくる、そこが面白い。
結局、結末まで見ると佐野くんは限りなく悪魔的というか、一応「過去、有能な反社だったが今はたまたま吉井に懐いた青年」みたいな理由付けはしているものの、それよりも「佐野はもともとこういう存在」「そもそも人間じゃない」と言った方がしっくり来る。だから全く良い奴じゃない吉井に助太刀したとしてもおかしくはない。とにかく吉井は佐野くんに見込まれ契約してしまったがために、昨日までの日常は音を立てて崩れ、もう地獄への道先案内人である佐野くんによって動き出したら止まらない運命に乗せられてしまった……という結局、昔よく展開してた黒沢清作品のテーマに突入してしまっていた。こうなるともはや転売がどうとかなんて只のどうでもいいきっかけに過ぎないというかね。
なんか、この映画観た人の間でも、監督のファンとそうでない人とで割れてたっぽいけど……まぁそれはいつものことだしわかるような気もする。気に入らなかった人は多分「なんで佐野くんが吉井なんかを命がけで救おうとするのか?というか佐野くんって何なんだよ」とついて行けなくなったんじゃないだろうか?知らんけど。
途中まで現代日本社会を鋭く描く感じで展開しつつ、後半どんどん不条理で奇妙な黒沢清ワールドに入っていくという構成が何やら『トウキョウ・ソナタ』(2008)を思い起こさせた。『トウキョウ・ソナタ』(2008)もまた黒沢映画っぽくなる後半でホッとしたけど、別に黒沢清なんて好きじゃなかった当時の知人は「なに?途中から急にわけわからないつまらない感じになった」と言っていたから、やはりファンとそうでない者との断絶はこういったところなんでしょう。
今年の黒沢作品、『Chime』(2024)は割と黒沢ファン向けだったが『蛇の道』(2024)と本作は比較的、普通の人でも楽しめるようエンタメ寄りになってたと思う。それでもどちらも賛否ぱっかり割れてたから、やはり好きか嫌いか別れちゃうんでしょうね。
僕は『叫』(2007)でホラー卒業して以降は一応観るけどホラー時代ほどあまりハマれない感じでしたが、今年の三本はどれもジャンル映画っぽさもあり良かったです。特に本作はがっちり銃撃戦が堪能できて良かった。訳わからん工場みたいな場所で撃ち合いしながら、弾除けになる訳のわからんコンクリートの小さい壁みたいなのが2つもあったが「あの小さい壁なんだ?」と後で思い起こすと可笑しかった。
今後も期待です。
そんな感じでした
〈黒沢清監督作〉
『岸辺の旅』(2015)/幽霊が黄泉平坂で宇宙の終りと始まりを語る場面が好きでした👫 - gock221B
『復讐 運命の訪問者』(1997)/エンターテイメント性高めな映画でした🔫 - gock221B
『893(ヤクザ)タクシー』(1994)/やとわれ仕事ゆえのエンタメ性と縛られた中での製作の姿勢 🚕 - gock221B
『クリーピー 偽りの隣人』(2016)/大変な怪作だが犯罪がテーマなのに現実感なくて好きになれなかった🏠🏡 - gock221B
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)/洞口依子の可愛らしさと大学のフワフワした感じ👩 - gock221B
『散歩する侵略者』(2017)/黒沢清映画のおかしな夫婦って好きですわ👉 - gock221B
『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)/本編は愛の話だったが、こっちは〈心の弱さ=悪〉という話かな 👉 - gock221B
『ダゲレオタイプの女』(2016)/本作のあらすじ同様、現実世界から隔絶されたような黒沢幽霊映画inパリ👱♀️📷 - gock221B
『彼を信じていた十三日間』(「モダンラブ・東京」第5話)(2022)/黒沢清への興味を失ってたが久々の名作!💔 - gock221B
『地獄の警備員』(1992)/今まで黒沢清作品の中ではあまり好きじゃなかったんだけど20年ぶりに観たらありとあらゆる清要素が入ってて良かった。地獄の警備員よりサラリーマンの方がキャラ強い👮 - gock221B
『復讐 消えない傷痕』(1997)/菅田俊演じる哀川翔大好きヤクザが良すぎてメインストーリーなどどうでもよくなってしまった感ある🕶️ - gock221B
『蛇の道』(1998)/セルフリメイクからカットしたらしい”コメットさん”と”宇宙の法則を教える塾”は今見ても面白いのだが、面白すぎて確かにメインストーリーの邪魔かも📺️ - gock221B
『勝手にしやがれ!! 強奪計画』『勝手にしやがれ!! 脱出計画』『勝手にしやがれ!! 黄金計画』『勝手にしやがれ!! 逆転計画』『勝手にしやがれ!! 成金計画』『勝手にしやがれ!! 英雄計画』(1995-1996)/言っても仕方ないが1本でよくね?💴 - gock221B
『蜘蛛の瞳』(1998)/90年代当時はおもろいけど意味わかんなかったが今見たら色々言語化しにくいサムシングが浮かんできて楽しかった👤 - gock221B
『Chime』(2024)/45分間でサイコパスと幽霊どちらも楽しめる。今回の全く映さない幽霊表現いい🔪 - gock221B
『蛇の道』(2024)/オリジナル版の哀川翔やコメットさんや宇宙の法則を教える塾がないのは残念だが映画としてはこっちの方が好き🖥️ - gock221B
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