
監督&脚本&主演:北野武/ビートたけし 音楽:清塚信也 製作会社:Amazon MGMスタジオ 配信サービス:Amazon Prime Video 製作国:日本 上映時間:62分 配信開始日:2025.02/14
たけしが1時間前後のアマプラ中編映画を撮ったもの。
北野映画はなんだかんだ言って全部観てるが、中学生の時に『その男、凶暴につき』(1989)で始まって、4作目『ソナチネ』(1993)あたりが一番熱中していた感がある(2回観に行って2回とも客が自分一人だったのもまた熱中度が高まったし今にして思えば凄く貴重な時間だった)。その後カンヌでパルムドールを獲ってヒットはしないものの徐々に評価され始め、だが「シネフィルとヨーロッパの人だけ褒めるが全くヒットしない。しかしたけし本人は常に国民的芸能人」という歪な状況が続いていたが、後に『座頭市』(2003)や『アウトレイジ』三部作(2010-2017)などで遂に興行的にもヒット。特に『アウトレイジ』三部作は世間一般の一般人レベルで人気が出た。
で、10代~20代前後の頃は初期作品群……『HANA-BI』(1998)あたりまでをカッコいい!と熱中してて、別に今でもカッコいいと思うけど年取ってくるとたけしの過剰にニヒリスティックな描写をしたがったり死にたがる様が、それは本心なのだろうがナルシスティックに見えてきて、嫌いではないものの他人の日記を読んだ時のような恥ずかしさを感じるようになった。しかし初期作品によく見られた「カッコいいけどナルシスティックで照れくさい」要素とか「たけしの照れ隠しが垣間見える様を観て釣られて、こちらも照れくさくなってしまう」といった「ここだけはちょっと恥ずいな」と思ってた部分も作品を重ねるうち徐々になくなっていき、とうとう前作『首』(2023)ではほぼゼロになって個人的には今一番良いかもしれない。
本作は、公開当時ですら北野映画好きな人でさえも戸惑っていた『みんな〜やってるか!』(1995)、『TAKESHIS'』(2005)、『監督・ばんざい!』(2007)ラインのコメディ作品。僕もこれらは当時「なんやこれ……どう思えばいいんや」と困惑していたが、年月が流れて最近観たら何周かして凄く面白かった。特に『TAKESHIS'』(2005)などは、当時はよくわからなかったが今ではデヴィッド・リンチっぽさもあって凄く好きになった。
「同じ話が2回繰り返される」というコンセプトの本作には『TAKESHIS'』(2005)的な作品を予感させられており密かに楽しみにしていた。ちなみにコメディ作品の場合、俳優名が〈北野武〉ではなく〈ビートたけし〉になる。人気映画監督兼俳優の北野ではなくお笑い芸人・ビートたけしでいくぞ、という事なのかも。
ちなみに出演者は前作『首』(2023)でもたけしの部下役をしてた浅野忠信と大森南朋といった近年の北野映画の常連や、第二の大杉漣みたいになってほしいと思いつつ何十年も経ってしまった國本鍾建などの古参も出ている。それとコメディ作品だからか錦鯉・長谷川や鈴木もぐら、劇団ひとり、馬場園梓など芸人の出演が多かった。プロレスラーの秋山準が出てたのはプロレスラーゆえのリアクションのためか?
ネタバレあり。
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”M”という謎の人物からの依頼で暗殺を生業としている男"ねずみ"(演:ビートたけし)。ある日ねずみは刑事の井上(演:浅野忠信)と福田(演:大森南朋)に捕まり「釈放する代わりにヤクザの親分・金城(演:中村獅童)と若頭・富田(演:白竜)の組に潜入して逮捕できる証拠を見つけてこい」という潜入捜査を持ちかけられた――
という話が2回繰り返される。
まず一回目、たけし演じるねずみが慣れた手つきで冷徹に暗殺業を2回こなす。そして用心棒としてヤクザに潜入してからも組長や若頭を狙うヤクザを確実に仕留めて認められていく。そして刑事に提案された揺さぶりでヤクザが麻薬の違法取引している尻尾を出させ、警察が突入してきて無事に一網打尽。ニヒルに笑うねずみ……で一旦終わり。
ここで「Spin off」と表示されて2回目、同じ物語が繰り返される。
「1回目はシリアスで、2回目はコメディ」とは聞いてたがどうなるのかなと思ったら、1回目と展開や登場人物はほぼ同じだが「ねずみが階段で足を踏み外す」「ドアを開ける時に頭にぶつけて『イテッ』と言う」など、たけしが40年前から(!)やってる、例のノリがいちいち挟み込まれながら物語が進んでいくので「やっぱ、こういうやつかぁ~!」と思った。
『みんな〜やってるか!』(1995)、『TAKESHIS'』(2005)、『監督・ばんざい!』(2007)ラなど、北野映画ファンにもイマイチ人気がないコメディ作品群もほぼそういったたけしの例のノリなのだが、そもそもたけしのそういったノリは40年前の時点で既に面白いとか面白くないとかとも関係ない「またたけしがやってるなぁ」と思うだけのもので、前述の北野コメディ映画の時には「まだやってるよ、素直に面白くないな」と思っていたがさすが40年もずっとやってると狂気を帯びてくる。近年、前述の北野コメディを見返した時も、たけしの面白いとか面白くないをとっくに通り過ぎたギャグと、それを撮る北野映画の画面の異常な静謐さが加わって、単純にシリアスで人気が高い北野バイオレンス映画よりよほど恐怖や狂気を感じるようになってきた。
本作も、そういう感じで刑事に「おい、ねずみ!」と言われてカメラがたけしを映すと、ネズミのコスプレしたたけしが「チュー」と言ったりする。大体全体的にこういったノリ。いちいち挙げていっても仕方ない。こういうものだとわかりきって、それを期待して観ているがそれでも戸惑いを感じる。そしてその戸惑いを感じる自分自身が可笑しくなって笑えてくる。そういう狙いなのか?いや、よくわからない……。たけしのノリを知らない若者や外国人が観たらどう思うのかなども全く想像できない。その想像できなさもまた面白い。しかしそれはたけしが生み出した面白さなのか、それともそう思っている俺自身の感じ方が面白いのかもはやよくわからない。
またが再生が止まって(という演出)視聴者の心境がSNSのように次々と映し出されるというギャグが2、3回ある。それは別に直接面白くはないのだが(というかはっきり言って本作のギャグは別にどれも直接ぜんぶ面白くない。しかしそれが面白い)このSNSギャグの部分ではやたら「禿同!」と連呼されていて、あまりに古いネットミームだがたけし本気で「禿同」と言わせてるのか、それとも「古い言葉を言わせたれ」というギャグなのかが撮ってるたけし本人がジジイなのでわからない、という辺りが良かった。これもまたたけしの手柄なのかそう思った俺自身の”想い”の手柄なのかよくわからない。
霧の中を歩いているようだ。
そうこうしつつ、誰も求めていなかった秘密が明らかになって映画は終わる。
最初は「もう1時間増やして映画にすればよかったのに」と思ったが、これ1時間でも結構長かったわ。たけしの例のノリが30分続くのはさすがに長い。
そして笑いとは「緊張と緩和」と言う。もちろん前半のシリアスな犯罪ドラマが「緊張」にあたる部分で後半の腰砕けコメディが「緩和」なのだが、その前半のシリアス犯罪ドラマが「後半のコメディのためのフリですよ~」といった雰囲気があまりにも充満しすぎてて最早、前半も別に緊張するシリアス犯罪ドラマでもなんでもない!ここが一番面白かった。後半の空虚な腰砕けコメディ展開を観ながら前半を思い出して「前半、あまりにもフリすぎるだろ!」という事が可笑しくて仕方なくなった。あまりに事務的すぎて、免許センターや派遣バイトで見せられる教則ビデオのようにも思えてくる!
そういう意味で、前半のシリアス部分が一番笑えたと言っても過言ではない。
また、後半のたけしが40年以上続けてる面白いとか面白くないとか何も感じさせない、たけしの例のノリ100連発みたいな部分も。これはこれで北野コメディ映画でしか観れないので非常に希少で有り難いもののようにも感じてくる。
たけし本人の記憶が消えた50年後の人とかがこれを観たらどう思うのだろう?鈴木清順とか寺山修司のシュールな映画みたいな感じで観られるのだろうか?
以前の北野コメディ映画には少なかった要素としては、たけし本人がギャグを言ったりふざけた展開を演じながら「自然な笑い」を見せて笑ってたり、笑ってるカットをわざわざ挟み込んで誘い笑いするカットが多いところだろうか。この「自然な笑い」は何げに難しくてタランティーノなどの限られた監督にしかキメることは難しい印象だが、たけしも上手いなと思った。
先日、大好きな監督デヴィッド・リンチが亡くなったが、本作もたまたま『ロスト・ハイウェイ』に似た二部構成映画となってどことなく『ロスト・ハイウェイ』っぽさも感じる。家も燃えるし。というかたけしもデヴィッド・リンチ好きなんだが(大昔『ワイルド・アット・ハート』とか観てシンパシーを感じていた)『TAKESHIS'』(2005)、『監督・ばんざい!』(2007)などの北野コメディ映画にもリンチっぽいシュールな画面あるよね。リンチ亡き今たけしは今後、シュール方面に行ってほしい。もうバイオレンスとかやりきった感あるし……。
というかよく考えたら『TAKESHIS'』(2005)、『監督・ばんざい!』(2007)もどっちも『ロスト・ハイウェイ』っぽい映画だったわ。だから今後はこれらのコメディ版『ロスト・ハイウェイ』っぽい映画を多く撮ってほしい。
映画本編でのギャグ自体は全く面白くないのだが、本当に凄く楽しめた。さっきから何度も言っているがそれが狙ったものなのか自分の感じ方の問題なのか全くわからない。
あまりオススメはできない。「これは素人にはわからんですよw」とかそういった上から目線の意味ではなく「面白くない」と感じるのがデフォルトのような映画だと思う。35分経過あたりで「なんだよこれ!映画好きでいっぱい観たけどやっぱり駄作だ」と思って観るのをやめてもそれはおかしくないと思う。本当にたまたま何かのタイミングで何かが何かにハマった人だけが偶然楽しめる。それがこの作品なのだと思う。
そんな感じでした
〈北野武監督作〉
『龍三と七人の子分たち』(2014)/なかなか良かったです/たけしの思い出 👴 - gock221B
『アウトレイジ』(2010)、『アウトレイジ ビヨンド』(2012)/キャラ名を把握して再見したら、より面白かった🔫 - gock221B
『アウトレイジ 最終章』(2017)/わかりやすさが加速してとうとう因縁が数値化された中盤が凄く面白い🔫 - gock221B
『首』(2023)/北野武映画史上最もカッコつけてるシーンがなくエンタメに徹し尽くしてるので今までで一番カッコよくて好きな作品でした💀 - gock221B
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