
原題:Anora 監督&脚本&編集&制作:ショーン・ベイカー 制作:サマンサ・クァン、アレックス・ココ 音楽:マシュー・ヒアロン=スミス 撮影:ドリュー・ダニエルズ 配給:NEON 製作国:アメリカ 上映時間:139分 一般公開日:2024.10/18(日本は2025.02/25)
第77回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、第97回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、編集賞の5部門を受賞した。ショーン・ベイカー監督は、アカデミー賞史上初となる単一作品で最多4つのオスカーを獲得(文句はないが少し獲りすぎ)。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)で一躍ブレイクした、この監督の映画、実のところ一本も観てなかった。「SEXワーカーとか移民とか貧困者を美しい映像で描く監督」という漠然とした印象はあったものの、なんか辛そうなので観てなかった。特に性の仕事してる人が映画出たら辛いこと言われたりするじゃん、どういうわけかそういう場面観たら異様に辛くなるので食わず嫌いしていた。
パルム・ドールとアカデミー賞が被るのも珍しいね。だがアカデミー賞ってかつては「きちんとしてるが保守的すぎて面白くない映画ばかり」ってイメージだったが近年……ここ8年くらい?刺激的な作品や多様性ブラウニー・ポイント稼ぎのせいか面白い映画が増えた。去年のアカデミー作品賞ノミネート作とかも全部観た。かつては考えられないことだが全部面白かった。レンタルビデオ→サブスク時代を経て映画好きは「自分が観たい映画」ばかり観るようになる(レンタル時代の前は、TVで勝手に放映するものを観るしかなかったので思わぬ発見があった)。しかしいくら好きでも似たようなものばかり観てたら面白くない。どんなにアメコミ映画やホラー映画が好きであろうと観過ぎたせいで、もはや観る前から映画の9.8割くらいは予想できてしまい、それを確認するだけみたいな鑑賞になってきた。その点、賞レース縛りで観ると普段自分が選ばないであろう作品を観る事になる。作品としてのクオリティも保証されてるので結果的に面白い鑑賞となる。
よく映画好きじゃない人などが「アカデミー賞なんて、政治的な理由で選ばれてるだけで内容が良いものが選ばれてるわけじゃない」と反発する人もいるのだが「え?そうだけど?」としか思わない。そんな当たり前のことは重々承知で、そういった政治的な選考なども含めて楽しめるものなんだと言いたくなる。というかそういった理由で選ばれることはマイナスではなくプラスで、作品に「(現代アメリカ)社会の今の流れ」という新たな味も付与されて面白さも増すと思う。
主演のアニー(アノーラ)役の俳優マイキー・マディソンは第97回アカデミー賞で主演女優賞を受賞してZ世代の俳優として初の演技賞受賞となった。マイキー氏は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)で一番大暴れしてたポランスキー邸襲撃犯役の人(ちなみに他のファミリー役、オースティン・バトラー、マーガレット・クアリー、ダコタ・ファニング、マヤ・ホーク、シドニー・スウィーニー……ダコタは子供の時からだが皆スターになった。しかも全員クールで最先端の俳優ばかりでタランティーノのキャスティングの確かさを再認識)。あとアメリカ本国では超大ヒットしたのに日本では劇場上映がなかったメタ・スラッシュ・ホラー映画シリーズの新作『スクリーム』(2022)(これ傑作。というかオリジナルシリーズより面白い)でジェナ・オルテガ演じる少女タラの友達役。……この2本で彼女がやった役は「美少女だが見ようによっては怖い顔にも見える」という彼女の特徴が活かされた役だった。顔出しの大作の過去作はこの2本だけなのだが3本目のこれでいきなりオスカー獲得。これもまた本作の主人公アニー/アノーラ感ある。
ネタバレあり。かなり殆どネタバレしとる。
👩🏻
NYでSEXワーカーをしながら暮らす若い女性“アニー”本名アノーラ・ミキーヴァ(演:マイキー・マディソン)は、客として訪れたロシアの御曹司イヴァン(演:マーク・エイデルシュテイン)と出会う。
アニーは「一週間1万5千ドルで恋人になる」という契約をイヴァンと結ぶ。不特定多数の客を相手するよりも億万長者の物腰の柔らかい少年の相手をして普段より多く稼げるのでアニーは大喜びで受ける。
贅沢三昧の日々を過ごした2人は締めくくりにラスベガスの教会で衝動的に結婚。幸せ絶頂のアニーだったが「息子が娼婦と結婚した」と知ったロシアの両親は猛反対。2人の結婚を阻止すべく部下3人を、アニーとイヴァンが住む邸宅へ送り込む。
アニーは自身の結婚生活を守る事はできるのか――
そういう感じで、
第一幕はアニーのSEXワーカーや生活と大富豪イヴァンとの贅沢な生活と衝動的な結婚が描かれ、第二幕はロシアから送り込まれたイヴァンのお目付け役たちとアニーの対決やイヴァンを探してうろつき回るコメディパート。でイヴァンやイヴァン両親を加えての第三幕で終わる。
全編面白かった。特に中盤のドタバタ展開はあっという間に時間がすぎるほど面白かった。映像もめちゃくちゃ美しく、2人がSEXを始めるとカメラがぐーっと回り込んで窓から差し込む美しい陽光が2人の結合部分を隠すモザイクになったりして、アホらしいシーンを無駄に洗練された映像テクニックで彩る様が良かったです。
アニーの仕事だがストリップクラブのようなところで働いており、SEXYなダンスして客に指名されたら個室に移動してラップダンス(客一人に絡みながらSEXYなダンスする)したりする。金払ったら性行為できるのか?など細かいことはよくわからない。
ある日、アニーはロシア語が少しできるという理由でイヴァンの相手して、彼女を気に入ったイヴァンはアニーを一週間1万5千ドルで彼女にする。
毎日パーティとSEXを繰り返すイヴァンとアニー(あとはイヴァンがTVゲームする)。
最終日あたりラスベガスで結婚する。アメリカ映画でよく観るやつだ、ラスベガスで盛り上がってノリで結婚しちゃうやつ。20年くらい前にお騒がせセレブがこれやって2ヶ月くらいで離婚したりするやつ。高揚感で突発的にタトゥー入れてしまう感じというか……悪く言うと自傷行為に近いというか。
イヴァンはアホっぽくはあるが、別に乱暴なことや悪意あることはせずアニーを見下す事も言わないので、アホなお坊ちゃんではあるが(中高生くらいの精神年齢に見える)特に悪い奴ではない。きれいな外見だし、それなら莫大な財産と合わせて満点であろう。さすがにアニーは最初「結婚?ふざけてるの?」と疑っていたがイヴァンが何度もマジだと言うので結婚した。
どうやらイヴァンはロシアに帰って、大富豪である父の家督を継がなければならずアメリカで羽を伸ばせるのはあと一週間なので遊びたがっていたようだ。彼は恐らく産まれてきてから死ぬまで大金持ちのままでカネにも仕事にも苦労することはないだろうが、1週間後から死ぬまでずっと自分の意志で行動できないということでもある。万人が羨む「大金持ち」という要素も、産まれた時から当たり前に大金持ちなので己の幸福を感じっられてはいないだろう。過去の人類がタイムスリップしてきて「風邪とか病気になっても治療できる!いいなぁ」「うまくいくかどうかは置いといて好きな職につけて好きな相手と恋愛できる、いいなぁ」「戦争とか紛争地域じゃなく深夜に散歩もできる!いいなぁ」などと羨ましがられても自分自身はピンと来ないのと同じだ。SNSなどでよくコントラストを上げてサイバーシティみたいに見せた東京の写真がアップされてるのを見て「こんな都市に住みたいなぁ……あ、住んでたわ。しかし実感できないな」と思うことがよくある。キスしてる間は凄く見たいはずの相手の顔は見れず、乳を吸ってたら乳を見ることはできないのだ。
結婚後、アニーはイヴァンに「結婚した私のこと御両親に話してくれた?」と訊くがイヴァンは「ぼんやりした顔」になり「その話はしたくない」と話を逸らす。
この辺でアニーの幸福な時間は終わり。
「イヴァンが売春婦と結婚した」という噂を聞いたイヴァンの母ガリーナ(演:ダリア・エカマソワ)は激怒。今すぐイヴァンの父ニコライ(演:アレックセイ・セレブリャコヴ)と共にアメリカに向かうという。
一足先に直属の部下トロス(演:カレン・カラグリアン)、その弟?っぽいガルニク(演:ヴァチェ・トヴマシアン)、屈強な青年イゴール(演:ユーリー・ボリソフ)を送り込み2人の結婚を破棄するよう命じる。
まずガルニクとイゴールが、イヴァンとアニーが住む(が両親に与えられている)邸宅に訪れる。アニーは、ガルニク&イゴール→トロス→イヴァン両親……と、三段階の敵に対峙しないといけない。2人を確保しようとするがアニーを置き去りにしたイヴァンに逃げられる。仕方なく叫び暴れるアニーだけでも確保しようとするがアニーは大暴れしてガルニクは鼻を折られる。
やがてトロスも到着し、アニーに「本気にしたのか。全部あのガキのお遊びなんだよ!あいつはこんなことばかりやってるんだよ」と説明し、結婚をなかった事にするためイヴァンを4人で探しに行く。アニーはもちろん離婚したくないしその前にイヴァンとちゃんと話したい。トロスはとにかく2人を確保して両親が着く前に2人の結婚を無効にしなければならない。
この中盤は一番おもしろい部分で、アニーはヒステリックに暴れて、トロスは「そんな風にしてたら何事もうまく行かないぞ」というくらい喚き散らしたり荒い行動をする。ガルニクはそんなアニーと兄貴に手を焼き、屈強なイゴールは全てに呆れている。ということでこの中盤はコメディになっている。
全キャラの行動や言動が「普通、そんな事するか?」といった感じでギアが上がり誇張され戯画化されたドタバタ展開が続く。
色んなセンシティブだったり悪趣味だったりする要素があるのでネットで感想見たら「全く笑えない……」と作品やショーン・ベイカー監督に否定的な人も結構いるが僕は単純に面白くて良いと思った。
トロスは、普段はラビをしているようでイヴァン母の電話で儀式の途中で抜け出してアメリカに向かう。一体どういう立場の男なんだろう?右頬に大きなホクロのあるこのトロスが出てきてからコメディ度が一気に上るのでオモシロ担当であろう。
イヴァンを追う4人。行く先々で「泥酔して迷惑だから追い出した」と言われているイヴァンは最終的には、アニーが務めていたストリップクラブ?的な風俗店で発見。アニーのライバルだった意地悪女子とイチャイチャしていた。ライバルのストリッパーは、アニーが御曹司と結婚して一抜けして嫉妬の塊で「持って2ヶ月だよ!」などと呪詛を吐いていたのだが、実際すぐアニー夫の御曹司が店に来たので大喜びで相手していた。
アニーはライバルストリッパーと殴り合いしつつ、トロスたちとイヴァンを連れ出す。
アニーはイヴァンと何がどうなってるのかとか色々話したいことは山ほどあるがイヴァンは泥酔しきっていてまともに話せない。というか結論を言うと映画が終わるまでまともに話せないし、たとえ酔っていなかったとしてもイヴァンとは今までも、これからもまともに話せなかっただろう。イヴァンは現実逃避だけに全力逃避しており、彼にとってアニーは、ドラッグや酒や風俗やTVゲーム同様に現実逃避の一環なのだ。飲んでる酒に「私のこと御両親に言ってくれた?」などと言われても「は?」としか思わない。
元々「アホの金持ちだし、ろくな事にはならんだろう」と思われたイヴァンだが、トロス達が来てアニーを置いて逃げた瞬間に「最初思ってたより更に酷いことになりそうだぞ」と思わされたが、想像以上のろくでもなさであった。
やがてイヴァン両親も到着。結婚を無効にするため一行はラスベガスに飛びアニーは金を貰う代わりに離婚の手続きをさせられる。
アニーも最初は、イヴァン母に「お母様、挨拶が遅れましたイヴァンの妻アニーです。貴女の家族になれて光栄です」などと虚しい努力をする。アニーは愛ではなく適者生存のためイヴァンの家に入ろうと必死だがイヴァンの家がそれを認めるわけがないのは明白だ。イヴァン母に「あなたは家族でもなんでもない。最下層の人間が。身分が違う」とビッシビシ言われてしまう。
イヴァンは徐々に酒が抜けてはきたが両親が到着したら言いなりになってしまう。泥酔がどうこうではなくアメリカにいる間すべては彼の逃避であり、家督を継がされる運命以外の責任には一切向き合う気がない、アニーとも目を合わせずサングラスをかけてしまう。
上級国民家族から一切、人間扱いされない屈辱からアニーは最後にイヴァンとイヴァン母を罵る。イヴァン父はその間、ずっと爆笑しているだけなのだが何気にこの父が一番ひどいと思った。イヴァンは遊び、イヴァン母は見下しという酷いかたちではあるものの一応アニーと「関わり」は結んでいたのだが、この父に至ってはそれすらもない。「真の非人間扱い」というものを感じた。たぶんアニーがイヴァン父を叩いたり水をかけたくらいではそれでも爆笑していそう。
最後は、イゴールが離婚したアニーを実家に送る。
イゴールは最初に取り押さえたことからアニーに嫌われていたが、彼は全体的に離婚の場でイヴァンに「アニーに謝ったらどうだ」と怒ってくれたり密かに結婚指輪を取り返してくれたりと無償の優しさを見せる。
イゴールが優しさを見せる度にアニーが困惑していたのが面白かった。
アニーを送る前夜の邸宅で
アニー「私を取り押さえた時、他に人がいなきゃレイプしてたよね?」
イゴール「レイプ?俺が?そんなことしない笑」
アニー「なんでしないの?」
イゴール「しないって何を?」
アニー「レイプ」
イゴール「だからレイプなんてしないって……」
アニー「なんでしないの?レイプ」
イゴール「……」
アニー「腰抜けだからしないの?(嘲笑)」
イゴール「……」
と、いう感じで「別にレイプなんてするつもりないけど、何か流れ的に……レイプしなきゃいけないの?した方がいいのかな」と思ってしまいそうな問答が面白かった。黒沢清『CURE キュア』(1997)で萩原聖人が「おまえはだれだ?」と延々と訊いて相手を殺人催眠術にかけるシーンに似ていた。
単純にアニーは、金銭やSEXなどの欲が絡まない無償の優しさというものが理解できないから、イゴールの親切に反発したりレイプ問答してたのかな?
でも実際のところ、イゴールの優しさはそのムーブや文言やタイミングがあまりにも「どしたん?話きこか?」的であるため
どしたん話聞こうか? (よのなかのほんしつ)とは【ピクシブ百科事典】
僕も一番ラストの車で送っていくシーンまではイゴールが善人なのか最後に悪い面を見せてくる男なのかわからなかった。
そういう意味では自分の中にもアニー(損得でしか知らない)もイゴール(無償の優しさ)もおり、イヴァン(なるべく現実逃避したい)やトロス(イライラ)……など色んなキャラを内包しているのだろう。人によってその割合が違うだけで……。
そんでラストのラストは、ようやくアニーにもイゴールの優しさがわかったが自分のやり方でしかレスポンスできず、その最中にもイゴールが優しさを見せたため「どうやら心の内を見せてもいい他人も世の中にはいて、この男がそうらしい」と思って泣いたのだろう、と単純にそう思った。
本編の主人公はアニーだが、ラスト数秒間で泣いてたのが本名のアノーラ……ってことなんだろう。
そんでブツッと終わって無音のスタッフロールは、凄く好みの映画の終わり方。
そういう感じで概ね面白かった。前半のパーティ三昧も中盤のドタバタも長いとは思わなかったしラストも良かったし概ね文句なし。別に超最高!死ぬほど感動した!……という事はないが、かなり良い加減……年間で観た映画のベスト10を決める時に4~6位あたりに入りそう感というか。
アニー役のマイキー・マディソンは前述でも書いたが、基本はスタイルが凄いし顔も小さい美女なんだが怒ったり悲しんだ時に三白眼が際立ってめちゃくちゃ怖い顔になったり可哀想な顔になったりして凄いなと思った。怒った顔がマジで怖いので今まで「美少女だと思わせて実は殺人鬼」みたいな役ばかりだったのもわかる気がする。今後も活躍しそう。
そんな感じでした
Anora (2024) - IMDb
Anora | Rotten Tomatoes
Anora (2024) directed by Sean Baker • Reviews, film + cast • Letterboxd
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