
原題:The House of the Devil 監督&脚本&編集:タイ・ウェスト 制作:ジョシュ・ブラウン、ラリー・フェッセンデンほか 撮影:エリオット・ロケット 音楽:ジェフ・グレース 制作会社:Glass Eye Pixほか 販売:MPI Media Group 製作国:アメリカ 上映時間:95分 発売日:Oct 30, 2009(日本は未発売)
※本作は日本未公開の映画ですがリージョンAの北米盤Blu-rayがAmazonで購入可能
「Are you the babysitter?」「No, I’m not the babysitter」(本編より)
タイ・ウェスト監督の、ファンの間で地味に人気あるがいつまで経っても日本で配信も発売もされない初期作品。なんかこのまま永遠にされないかもしれないので、こういうこと普段あまりしないが日本で観れるバージョンのソフト買って観た。
タイ・ウェストもA24とミア・ゴスと組んだおかげでメジャーになったし、メインキャストで今や巨匠になりつつある女優兼映画監督のグレタ・ガーウィグも出てるし日本で出してもいいのに。まぁ『インキーパーズ』(2011) と同系統の物凄く地味な作品なので殆どの人に「つまらない」と言われるのはわかるので出さない気持ちはわかるが。
『インキーパーズ』(2011) を面白いと思える希少な人、サタニック・パニック映画が好きな人は
かなりネタバレしまくりなので御注意。
そして本作はなるべく先を知らずに観たほうがいい映画なので、何とかして観る予定のある人は読まない方がいい、と、一応書いておこう。
🏚️
凄く簡単に言うと80年代が舞台で、とある屋敷に住み込みのバイトに行った女子が怖い目に遭う話。サタニック・パニック。
冒頭「1980年代、全米の70%の国民は悪魔を信じ、残り30%は陰謀論を信じていた……」と字幕が出て「それじゃ全員すぎるじゃないの」と言いたくなるが続く「これは実話に基づいた話である――」と同様に少し盛っているのだろう。「幽霊を信じますか?」と訊かれた日本人も三分の一くらいは心の何処かで信じてそうだしホラーだからそれを盛って数倍にしてもまぁいいだろう。そして本作は『ローズマリーの赤ちゃん』(1967)的な匂いもあるので「周りの誰が悪魔崇拝者なのかわからない、全員かも」といった雰囲気を増すために盛ったのかも。
冒頭、サマンサは「ここに引っ越したい」と思う物件を観てるのだが、まるでJホラーみたいな不気味な感じで撮られている(ファンの間ではこの家や大家も怪しいと言われているみたい)。
1983年。金欠の大学生サマンサ・ヒューズ(演:ジョセリン・ドナヒュー)は、引っ越し資金が必要でベビーシッターの求人広告に応募する。これが全ての始まり。
前半、サマンサがどうしても引っ越したいことを丁寧に描写する。
サマンサは友人とルームシェアしてるのだが、友人は男を連れ込んでばかりで気まずい、またサマンサは潔癖症なのに友人は散らかし放題だしSEXしまくりなのでサマンサはほとほと嫌になっている、ということを「わかった、もうわかった」と言いたくなるくらい念入りに描写する。
ほとほと嫌になったサマンサが共同トイレの便座にトイレットペーパーを敷き詰めて座り、全ての蛇口を開いて静かに泣く。もう彼女が潔癖症で同居人に嫌気さしている、でも性格的に強く言えないという事がこれ以上ないほど伝わる。
サマンサはベビーシッター募集の紙を大学で見て公衆電話から電話して留守番電話に希望の旨を告げる。すると公衆電話に折り返し電話がある。この時点で凄くおかしいのだがサマンサは割とフワフワしてるしカネが欲しいあまり何も思わない。しかし面接の約束に相手は現れなかった。
だが夜、すっぽかしたことの謝罪と共に「誰も応募してこなくて困っている君にお願いしたいがどうだろうか」と打診される。
サマンサの親友メーガン(演:グレタ・ガーウィグ)は「そんなすっぽかすような奴、普通じゃないって!」と反対するがサマンサはどうしてもカネが必要だというので付き添いで付いていく。メーガンの車内にはベビーシッター募集の紙が全部剥がしてあった。
サマンサを待ちぼうけさせたバイト募集者が、友だちとして許せなかったのだ。だからその話を聞いた時にメーガンは「バイト募集の紙ぜんぶ剥がしちゃおうよ」と言ったのだがサマンサはそんな思い切った行動できる性格でもない。だから代わりにメーガンが自発的にバイト募集の紙を剥がして友だちの仇への細やかな復讐を遂げたのだ。そして結果的に誰もバイト募集できなかったので自動的にサマンサがバイトできるようになった。
そういう感じでメーガンは、自分の得に゙ならなくてもサマンサのために行動するいい奴だという事がわかる。若グレタ・ガーウィグが演じてて凄く一緒に居て楽しそうだしサマンサより賢いしで「友だちになりたい感じの女の子」感を凄く出している。
バイト先はボルボが停まっている山奥の屋敷だった。
TVでは皆既月食ということで騒がれている夜。
チャイムを鳴らすとベビーシッター募集していた男、ウルマン氏(演:トム・ヌーナン)が出てくる―ここで焦らしてウルマンの顔が出てくるまでが異常に長い―サマンサは「メーガンは送迎してくれるだけだよ」と告げ、ウルマン氏は「実はベビーシッターじゃなくて義母が上で寝てるから異常がないように下で待機していて欲しい。恐らく何もないので朝まで座ってるだけでいい。『年寄りの世話』だと言うと募集する者がいなさそうだからベビーシッターだと嘘を言った。すまない」と告げる。ベビーシッターだと思ったのに急に要件が違ったことでサマンサは帰ろうとするがウルマン氏はバイト代を数倍に上げて懇願する。―それだけあればすぐ引っ越しできる―サマンサは仕方なく了承する。
2人が隣の部屋で話し合いしてる間、メーガンは屋敷のお菓子が思いのほか美味しいのでポケットに詰め込んでいた。メーガンはそういう娘。
バイトの真相を聞いたメーガンはサマンサのバイトに大反対する。
「待ち合わせもすっぽかすしバイトの内容も嘘ついてた奴とか信用できないって!」と至極当然のことを言って怒っている。サマンサはただ座ってるだけでもらえる高額のバイト代に釣られている。メーガンは知らないよ!と怒って車で走り去る(しかし怒っていても翌朝にはまた迎えに来てくれる娘なのだが)。
帰り道、煙草に火を点けようとするがライターが点かない。すると車の窓から火の点いたジッポライターがにゅっと入ってきてビックリするメーガン。
近隣の住人らしき男ヴィクター(演:AJ・ボーエン)だという。
すこし言葉を交わしヴィクターは「ベビーシッターの子?」と訊くので、さっきの屋敷の息子だと判断したのかメーガンは「あー違う違う、私は……」と答える。すると突然メーガンはヴィクターに頭を撃たれて即死してしまう。
ここまでの場面でメーガンは、楽しい性格、友人サマンサのために募集の張り紙を全て剥がす優しさと思い切り、フワフワしたサマンサよりは警戒心があるので「そっちに行ったら危ない」とツッコミがちなホラー映画視聴者が感情移入しやすいキャラ。あと単純にポップなルックス―それと今となっては楽しい映画を撮ったり演じたりするグレタ・ガーウィグと知っていることもあって―凄く悲しかった。なんか風の噂で「『House of the Devil』(2009)でグレタ・ガーウィグは殺されてしまう」と既に知っていたのだがそれでも悲しく、そしてその「現実の友だちが死んだ」かのようなエモくて瑞々しい哀しみはかなり映画後半まで続いた。
深夜の山奥で突然現れた中年男性。あまりに怪しすぎるので慎重なメーガンなら止まらず走りすぎてもおかしくはなかったのだが、いつでも車を発進できるとこいうことと煙草が今吸いたい気持ち(これはよくわかる)などから油断してしまった。屋敷の妙に美味しいお菓子をくすねるシーンからも「怪しいより一時の快楽に負けてしまう」性格が出ていた。そういうことか。
本作に雰囲気が似ている『インキーパーズ』(2011)の主人公、『キャビン・フィーバー スプリング・フィーバー』(2009)のヒロイン、『サクラメント 死の楽園』(2013)の「ここではないどこかに逃げたがっている教団の少女」、『X エックス』 (2022)や『Pearl パール』(2022)の「どこか行きたいがどこにも行けない」殺人老婆or殺人少女パール、などタイ・ウェスト作品には、哀しい運命を辿る少女が多く出てくる。といってもホラーに出てくる少女は十中八九、死んだり怖い目に遭うことは決まってるわけだが彼の映画の少女だけはいつも凄く何ともいえない「エモい気持ち」をもたらしてくれる。多分そこが彼の持ち味で、自分はそこが好きなんだろうなと思う。
もちろん自業自得もある、パールとか殺人鬼だし、しかしそんなことはどうでもいい。善悪を問う作品じゃないので正しいことをしてるかどうかは関係ない。
『インキーパーズ』(2011)とか死ぬほど小さい作品なのにどんな映画のメインキャラクターの死より心に残ったからね。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)のトニー・スターク/アイアンマンとかって登場から10数年間観てきた末の結末が描かれるが「まぁ、そういうこともあるだろ」「いい結末なんじゃない?」と、割と心が動いた度ゼロに近かったわけだが『インキーパーズ』(2011)の名前も覚えてないフリーター主人公の運命の方が数十倍エモーショナルだったからね。
さっき「ホラーだから大抵酷い目に遭うのだが」と書いたが、そのように映画の中である程度のキャラクターは、映画好きが想像する通りの運命を辿る。タイ・ウェスト作品の登場人物もそれは同じ。ステレオタイプな運命を予想してその通りになるわけだが、それでも胸に来るものがある。
これなんだろうなぁと前から思ってるが多分、そこまでの展開で凄くイキイキした良い部分も悪い部分もある感じで「人間」として描けているからなのかもしれない。本当にいつも友だちが死んだかのような気持ちになる。
その展開には「少女が酷い目に遭うのはいいぜ~これ」といったサディスティックな気持ちや、「善人だけど、ここで敢えて殺しちゃいました!それが”現実”ですからねw」といった意地悪な逆張りもない。「人間らしく生きてた◯◯が死んじゃったぁ」という純粋な悲しさ。そんで、それを逆手に取ってか最新作『MaXXXine マキシーン』(2024)では、めちゃくちゃいつでも死にそうなマキシーンが大暴れし続けて快感を感じたりと、とにかく好きです。
当然ながら人には好みがあるのでタイ・ウェスト作品全般的にそうだが「全くわからん」という人の方が多い。『インキーパーズ』(2011)とか僕は好きだが、たとえばFilmarksでの『インキーパーズ』(2011)の評価とか見たらわかるが圧倒的に「何も起こらんつまらん映画」としてしか見られてないし。割と人を選ぶと思う。そういう僕もタイ・ウェスト作品初見時「なんでしょうねこれは……」としか思わなかったし、でも割と魅力が伝わりにくいタイ・ウェスト作品群の中で唯一、誰が観ても傑作と思うタイプの『Pearl パール』(2022)を観た時に僕も「あぁ、なんかこの人のやりたいことわかってきたわ」と気づいて過去作観たら前と全く違う見え方してきたりね。
……話を戻して、メーガンが殺害されて初めて劇中でホラーな出来事が起こった。
サマンサは何も知らず屋敷で手持ち無沙汰にしているが、もうメーガンに電話しても来てくれない。山奥の知らない怪しい屋敷に一人ぼっちになったと視聴者に知らせる。
ウルマン氏が2階にいる妻を呼びに行くが全く違うところからウルマン夫人(演:メアリー・ウォロノフ)が現れるのも不気味。「毛皮を取りに地下に行ってたの」と言うがサマンサは一階で毛皮を見つけ「変だなぁ」と不気味に思うが、それだけ。
ウルマン夫婦は就寝するのかどこかに消えてサマンサが残されるが、サマンサが屋敷で手持ち無沙汰にしてる時間は異様に長い。「映画本編の殆どの時間は、サマンサが屋敷で手持ち無沙汰にしてるだけのシーン」と言っても過言ではない。本作が日本で配信されたら、やはり『インキーパーズ』(2011)みたいに「何も起こらん。つまらん。おもんない」と言われて☆3くらいになりそうな映画だ。
しかし、その間、窓の外からサマンサを撮ったり、クローゼットの中からサマンサを撮るカットが頻繁に挟み込まれ「なにかよくないもの」がサマンサを取り囲んで監視していることを匂わせる。
呑気なサマンサはスマホ……ではなく80年代なので懐かしのウォークマンでお気に入りの音楽を聴く。
音楽を聴きながら踊るサマンサ。本作の中で唯一開放的な楽しいシーン。
だが壺を割ってしまう、割れた壺を破片を掃除していると家に停まっていたボルボの前で笑顔でポーズを取る三人家族の写真を見つける。ウルマン夫妻ではない。
カメラは2階の「ウルマン義母が寝ている部屋」の中を映す。三人家族の死体が魔法陣の上に転がっている。やはりというか何というか、映画の最初に示唆されてるから当たり前だがウルマン夫妻は悪魔崇拝者だった。皆既日食の夜、サマンサを使って儀式を行おうとしている。そして邪魔が入らないようにメーガンは先んじて処分されたのだ。
サマンサは、ウルマン氏が「お腹減ってもこのピザ屋は配達してくれるよ」と置いてくれていたピザを注文する(というか他に食べるものないのでピザを頼むか我慢するかどちらかしかない)。
ピザが届くがピザ屋の男はさっきメーガンを銃殺した男ビクター。当然、ヴィクターはウルマン夫妻の息子だ。
そんな事は知らずピザを食べるサマンサ、しかしクスリが入っていて変な味がする。すぐ食べるのを止める。するとシンクの水道管から妙な音がする、さすがのサマンサも怪しいことばかりだと気付く。しかし何度電話しても帰宅しているはずのメーガンは出ない。包丁を持って2階を探索するサマンサ。
……といった感じで「本編の殆どはサマンサが屋敷で手持ち無沙汰にしてるだけの時間」と前述して、それは間違いではないのだが実はその間、後の展開の伏線を敷いている。後になれば「ああ、あれは実はそうだったのか」と、それがわかるようになっている。
大袈裟な序文や『ローズマリーの赤ちゃん』(1967)的な話の流れを観つにつけ、本作世界は恐らくサマンサとメーガン以外の世界全てが彼女たちを良くない方向へと導く傾向がある。だから最初にサマンサが内見した物件とか、サマンサが出ていきたくなる荒れた生活の同居人とそのボーイフレンドや、ベビーシッター募集の張り紙や公衆電話の位置など、全て最初から計画されていたような気もしてくる。何しろ悪魔崇拝者にとって重要な皆既日食の日はこの夜だけなんだから失敗は許されない。そして「この時期の世の中、悪魔崇拝者ばっかり」という世界観で作られた本作なのだから本当にサマンサとメーガン以外全員が(同居人や看護師さえも)サマンサが本作の結末に向かうよう動いていたようにも思えてくる(これは別にそう語られるわけではない、そう見えるように撮ってるよねというだけの話)。
こっから後半になるわけだが、まぁ全部書いても仕方ないのでもうやめるけど後半ようやくホラーっぽい展開になり色々あって終わる。
タイ・ウェストに求めるエモい女性キャラも充分見れたし、凄く丁寧に積み上げていく本編のホラーで面白かった。だが、それが丁寧すぎて『インキーパーズ』(2011)みたいに大多数の人には駄作と言われて終わるだけなのも予想つくけど。そしてタイ・ウェストも今はメジャーになったので本作や『インキーパーズ』(2011)みたいな作品はもう撮りたくても撮れないだろうし、だから最初にやっといて良かったねという感じがある。
これで観る手段のある長編&短編作品は全部観た……あ、西部劇『バレー・オブ・バイオレンス』(2016)だけ観てなかった、近々観ます。本作同様に日本で観れない初期作品があと2本あるがこれは本作のように評判も聞かないし、まぁ取り寄せてまで観なくてもいいかな……。なんか好きになった監督のめちゃ昔の訳わからんデビュー作って観るの迷いますよね。
本作は長いこと観たかったので観れてスッキリしました。でも本作に似てる『インキーパーズ』(2011) の方が個人的には好きかも。
そんな感じでした
〈他のタイ・ウエスト監督作〉
『Pearl パール』(2022)/製作&脚本もしてる主演のミア・ゴスと彼女が演じる主人公のどうしようもなさとタイ・ウェスト監督らの異常な真剣さに物凄く心が動かされた👩🏻🪓 - gock221B
『インキーパーズ』(2011)/ホラーではなくホラーの形式を使ったモラトリアム青春映画。国内外で低評価なのも納得の何も起きないホラーだが自分には掛け替えのない一本になった👩🏼 - gock221B
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The House of the Devil (2009) - IMDb
The House of the Devil (2009) | Rotten Tomatoes
The House of the Devil (2009) directed by Ti West • Reviews, film + cast • Letterboxd
The house of the devil(原題) - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

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