
原題:Ford v Ferrari(ヨーロッパでは”Le Mans 66”) 監督&制作:ジェームズ・マンゴールド 脚本:ジェズ・バターワース。ジョン=ヘンリー・バターワース。ジェイソン・ケラー 製作:ピーター・チャーニン。ジェンノ・トッピング 製作総指揮:マイケル・マンほか 撮影:フェドン・パパマイケル 編集:アンドリュー・バックランド。マイケル・マカスカー 音楽:マルコ・ベルトラミ。バック・サンダース 制作&配給:20世紀フォックスほか 製作国:アメリカ 上映時間:153分 公開日:Nov 15, 2019(日本は2020年1月10日)
1960年代のスポーツカー耐久レース「ル・マン24時間レース」で覇者フェラーリに挑むフォードのレーシングチームの実話……を脚色した作品。
「実話を元にした映画」に共通して言える事だが、実在の人物とか実際に起きた出来事とは少しづつ違う(たとえば本作の劇中で、とんでもない悪役だったレオ上級副社長が実は立派な人だった、とか)。「実話を元にした映画」というジャンルは、ここがポイントで実話系映画はいつも「お、おい!事実と違うぞ!」とか言いだす人がいるのだがそんな事言っても仕方ない。
Top 10 Things Ford V Ferrari Got Factually Right and Wrong - YouTube※『フォード対フェラーリ』で正しかったことと間違っていたことトップ10
事実と違うのがそんなに嫌ならアマプラでル・マンでのフォードとフェラーリの競争を描いたドキュメンタリー『24時間戦争』(2016)でも見とれや。
Amazon.co.jp: 24時間戦争を観る | Prime Video
もっとも、ドキュメンタリーを観たところで現実の映像を元に監督が恣意的に編集したものなので本質的にはフィクションである劇映画と大差ないが……。
フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』(2010)とかリドスコの『ハウス・オブ・グッチ』(2021)とかは実在の人物をクソバカに描いてたし、『極悪女王』(2024)も実際あった事や出来事を大きく脚色している。面白くするためだったり、監督が言いたいことを言うために。それに対して「ちょっと!こんなんじゃなかったぞ!」と言えるのは本人や親族だけであって、観客は楽しんで観るか……まぁそれが気に入らなければ観るのをやめるか2つに一つだ。
というのが僕の実話系映画へのスタンス。
そういう事なんで以降は劇中にあったことを事実として感想を書くが、どこが事実と違うかとかは大体知ってるので「そこは違うぞ!」「レオ上級副社長はそんな悪い人じゃないぞ!」とか言われても……知ってて書いてるので、という事を最初に書いておきます。この辺の事は割と僕の心の琴線に触れる部分だと最近気づいたので、これについては今後もハッキリ言わず映画の感想ブログの形態を取りながら文章に潜ませて読者の心を酸のように侵していこうと思う。
ネタバレあり
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元レーシング・ドライバーのキャロル・シェルビー(演:マット・デイモン)は、1959年のル・マン24時間レースで優勝したが、心臓病でレースの世界から身を引いてカーデザイナー兼スポーツカー販売会社経営者をしていた。
現役レーサーのケン・マイルズ(演:クリスチャン・ベール)は自動車整備工場もしていたが偏屈な性格が災いして困窮しており、妻子を食わすためレースは卒業する。
1963年。アメリカの巨大自動車メーカー〈フォード〉。
副社長兼総支配人リー・アイアコッカ(演:ジョン・バーンサル)はブランドイメージを向上させて若い世代に訴求するためレースの世界に飛び込むことを提案。
ル・マン24時間レース4連覇した覇者〈フェラーリ〉を買収しようとするが、創業者エンツォ・フェラーリ(演:レモ・ジローネ)はフォードに身売りする気など最初からさらさら無く、フォード車とCEOのヘンリー・フォード2世(演:トレイシー・レッツ)を徹底的に口汚く罵倒。怒りのフォードは1964年のル・マンでフェラーリを叩きのめすことをアイアコッカに命じる。
当初の目論見通りになったアイアコッカはシェルビーを勧誘。そしてシェルビーはレーサーとして引退していたマイルズを勧誘。
果たしてシェルビーとマイルズはル・マンを制することができるのだろうか――
そんな話。
機能美
まずストーリーに触れる前に表面的な話をしよう。
単純に画面や音や人物や……ありとあらゆるものの快楽要素が高すぎる。
レースシーンのカッコよさや、クラシックな車体の無骨なメカニックやその音、60年代っぽくて妙にクラシックで大仰なテーマ曲『Le Mans 66』などどれも単純にカッコよくて、ドーパミンが出まくる。
そして快楽要素は別にレースシーンや車だけじゃなくて全編がそう。
まず主演のマット・デイモン、彼はクールなリーダーだが、しかしマイルズとのぶつかり合いやフォード社長やレオ副社長といった上層部との対決などでは奥に秘めた闘志を見せる。
クリスチャン・ベールは得意のカメレオン役作りで、マッチョで美しかったイケメンぶりを奥に引っ込めて、への字口で猫背気味の江戸っ子職人みたいなキャラを完全に作り上げている。このチャンベールの演技は、実写映画版『ウォッチメン』(2009) でロールシャッフを演じたジャッキー・アール・ヘイリーに似てるなと思った。彼が漆黒のグラサンかけて、への字口で「へへ、そうかい」と笑ったり、への字口でハンドリングする姿、父に憧れまくってる息子ピーターが書いたコースの画でリアタイ心境を語る姿、妻モリー(演:カトリーナ・バルフ)に詰められて慌てる姿などもいちいちたまらない……というか完全に浅草のお父さんだよね、この人。
他にもシェルビーの下についてるフィル・レミントン(演:レイ・マッキノン)。この人の顔がまた……めちゃくちゃ痩せてて顔も小さくて目と鼻が大きめなんで本当にハゲタカみたいなフォルムで見てるだけでmちゃくちゃ気持ちいい顔してる。その下の可愛い顔のメカニックもいいしな。
本作に出てくる登場人物は「美形」とかじゃなくて「機能美」と言いたい「めちゃくちゃいい形」した人間ばかり。機能美といえば速さだけを追求した結果、速さとは無関係な美しさも獲得していったレーシングカーのように、彼らレースに関わる者達も生身の人間ながら機能美を獲得したのだろうか?などと思えてくる。
覇者エンツォ・フェラーリがイタリア語でフォードを口汚く罵るシーンも『ロスト・ハイウェイ』(1997)の「交通ルールを守らない奴が許せなくて半殺しにするギャングのボス」みたいな感じでめちゃくちゃ気持ちいい。僕の2024年のナンバーワン映画が『フェラーリ』(2023)なんだが、この『フェラーリ』(2023)の約9年後が本作なので「あんだけ無茶苦茶な事が起きた後のフェラーリか」といった感じで、『フェラーリ』(2023)を前日譚、もしくは本作を『フェラーリ』(2023)の続編のように観ることもできる。『フェラーリ』(2023)を先に観て先日これ初め観たから僕は後者だね。
またフォード社長も、エンツォに罵られた事を聞かされて怒りすぎて無表情になっちゃってるのが最高だし、シェルビーの爆走説得の際に「わしを誰だと思っとる。GO!」と前を指差すポーズと彼の口の形!どれも最高。
クライマックスのル・マン66でマイルズと張り合うフェラーリのレーサーの顔も……なんか「昔の男前」って感じの、ヒクソン・グレイシーみたいな顔で最高!
そしてフォードのレーシングチームが研究してる空港みたいに広すぎる場所、そこが夜になって遠くに灯りが見える。レース前夜の雨で濡れたレース会場。フォードの発表会場、フォード本社の秘書が働いてる所、レース会場で並んだタイプライターを打っている記者たち、そもそも冒頭でシェルビーがマイルズを勧誘する如何にも60年代アメリカのダイナー!とか何もかも全編フェティッシュ。こんなに、いちいち一時停止して全カットをスクショ出来るものならしたくなりそうな映画だった。
撮影とか照明とか……そういう専門的なことって、どう書けば良いのか未だにわからないので、書きようがないがとにかく画面がずーっと素晴らしい。レースしてたら勿論だがレースしてなくても全編ドーパミンが出る。
……という表層的な話をどうしてもしたかった。それでようやく物語の話ができる。
STORY
シェルビーはレースの世界に未練があったので飛びつくがマイルズ。彼もまたレース命ではあるが妻子もいることだし巨大企業フォードを警戒してなかなかOKしない。
またマイルズは、シェルビーに誘われた「フォードによるル・マン参戦の発表会」でフォード車に触った息子に冷たい態度を取った上級副社長レオ・ビーブ(演:ジョシュ・ルーカス)に対してフォード車に対するありとあらゆる罵倒を叩きつける(今思えば「レース大好きで誘われてるのに大企業フォードを警戒して参加しないマイルズ」「フォード副社長をボロクソに言ったマイルズ」この時点で殆ど運命が決まっている。
この映画、フォードとフェラーリのレーシングカーの魅力、レースシーンのカッコよさ、シェルビーとマイルズの友情……なども勿論、作品の中心なのだが最後まで観た時、まず最初にレオビープ副社長の事で頭が一杯になって素晴らしいレースシーンは忘れてしまった。その後、何度も観ると全体的に楽しめるのだがとにかく本作においてレオの存在が物凄く重要だと思った。
話を戻して、フォードを警戒するマイルズを何とか勧誘したシェルビー。
だが、罵倒されたこともありマイルズを嫌っているレオ副社長は「粗野で高齢なマイルズはイメージアップを図るフォードにふさわしくない!」と、マイルズを排除したがる。
シェルビーも、フォードに雇われてるので逆らえず、何度も勧誘してやっと引き入れたマイルズにクビを言い渡す羽目になってしまう。
マイルズを欠いたチームはル・マンで惨敗……。
シェルビーはリスクを取った荒療治で、邪魔者レオをオフィスに物理的に閉じ込め!ヘンリー・フォード2世をレーシングカーで爆走しながら直接説得!(走り終わったらヘンリーCEOが号泣してるのか笑ってるのか、はたまたその両方を同時にやってるのか何度見てもわからないのが素晴らしい)。
この荒療治で、レーシング・チームのイニシアチブを再び自分に引き戻したシェルビーは、マイルズに謝罪して殴り合いした末、チームに復帰させる事に成功。
この大きな山を越えたチームはようやく一丸となり、力を合わせる。
……とか思ってたらマイルズが運転してたらブレーキが加熱してホイールが火山のように真っ赤になりクルマが爆発!(なんつー怖いシーン……)。見ていたマイルズの息子ピーターもこれには唖然……妻モリーは絶叫!
「え、あれっ?映画まだ中盤くらいだけど……マイルズ死んだ?」とか思ってたらマイルズは、ゴホゴホ言いながら炎上……というかほぼ大爆発し続けてる印象のクルマから出てきた。えぇ……大丈夫なのかよ。
レイ・マッキノン演じるハゲタカみたいな素晴らしいルックスのフィル・レミントンはピーターに「レーサーはレース用のスーツ着てるから炎上してる車から出れば大丈夫だよ。出れなければ死ぬけど」と語る。観てた俺もちょうどピーターと同じ疑問を持ってたのでフィルが教えてくれて助かった。
あまりに爆発や炎上がデカすぎて「マイルズは実はこの時死んでて以降はマイルズの幽霊なのかも……」と思って遊べるくらい凄い炎上だった。
そんな感じで切磋琢磨して、レオ副社長の度重なる邪魔も何とか退けて……ついに勝利!ここで対向車が爆発してたが……本当に昔のレースは恐ろしい。
そして色々勝って遂にクライマックス、全登場人物が見守る中、ル・マン'66で宿敵フェラーリと対決!
まぁ、それら中盤やル・マン66のレースシーンは本当に素晴らしい。だが、観れば一目瞭然なので改めて書くことは特にない。
社会という凄い死神
これまでもずっとそうだったが常にレオ・ビープ副社長が邪魔してくる。
そしてレオはとうとうレーシングチームの総責任者になった。
「飛ばし過ぎたらクルマが壊れる。6千回転までにしろ。全てのことは……回転数まで私が決める!」というレオだが、シェルビーはふざけんなとばかりに「7千回転でぶっ飛ばせ」とマイルズに指示を出し、そしてマイルズ大勝利。
レオは赤っ恥だが、フォードが勝利したので文句も言えず、ぐぬぬ……という複雑な表情。
とにかくレオは毎回、チームの足を引っ張ってくるがシェルビーは以前のように屈せず跳ね返す、そしてマイルズが勝つ!そういう流れ。
レオとしては自分のパワーを見せたい気持ち半分、そしてマイルズ憎し半分、だが会社のためになると思ってる部分も本気だったと思う。
フェラーリは自滅したり、マイルズにブチ抜かれて敗北、マイルズは圧倒的に一位。トップ3台は何とフォードだけになった。勝利も勝利、大勝利だ。
よろこぶヘンリー・フォード2世CEO。するとレオは何と「そうだ、うちのチーム3台揃ってゴールしよう!そしてそれを写真に撮らせて一面を飾らせよう!」などと言い出す。
つまり「マイルズはぶっちぎりで一位を先行しすぎてるのでスピードを落として、皆で一緒にゴールさせて」と言ってるわけで……これまでチームの皆は必死でフェラーリに追いつけ追い越せで車を改良して命がけで速さを追い求めて今遂に勝った。そんな彼らに「もう勝ち確だからスピード緩めて面白い勝ち方しよ!」というのは、幾らなんでも酷すぎる。ちょっと映画一杯観てきたけどこれはかつてないほど胸糞悪かった。「まさか、如何にも爽快そうな本作が実は胸糞映画だったとは……」と驚いた。驚きというか困惑だよね『トップガン マーヴェリック』(2022)とか『F1®/エフワン』(2025)とか『ツイスターズ』(2024)みたいな(奇しくも3本ともコシンスキーが絡んだ映画だ)どこを切っても爽快なだけの映画だと思ってたのに……これほどの胸糞はない。
だがシェルビーはこのふざけた申し出に当然激怒「舐めてんのかあんた?あ?」と珍しく掴みかかる。
よくある感じで、ふざけた上司を今まで通りスルーか、又はぶん殴るかしてスカッと爽快の流れか?
ピットに入ったマイルズはシェルビーが異様に苛立ってるので理由を訊くとレオ副社長のふざけた提案をマイルズに言って「だがこんなのやらなくていい、君の判断に任せる」と言う。
でも、この場面いま思えば変なんだよね。
もし僕が劇中の怒ったシェルビーだったらマイルズに言わないもん。あと少しでぶっちぎり優勝なのに嫌な話を聞かせたくないしどうせ社に逆らうならマイルズに聞かせず自分のところで止めとけば責任は自分だけ、マイルズには責任が行かない。
レオ副社長の提案を聞いたマイルズは呆れたような哀しいような複雑な表情になる。「俺の好きにしろって?」マイルズはレースに戻り、やはり想像通りぶっ飛ばす。レオは指示をまた無視されてイライラ……。
というかレオが足を引っ張ってきてシェルビーがやり返すくだり、もう何回もやってこのクライマックスのレースでは真剣な顔でレース見てるから「さすがのレオも改心したかな」とか思ってたらこれだものね。……いや、シェルビー&マイルズ目線で観てるから「レオは意地悪してきてる」と思ってしまうが、レオからしたら「そうだ!3台揃ってゴールすれば一面トップだ!めっちゃくちゃ売れるぞ!」と本気で思ってるだけなんだよね多分。彼になった気持ちで考えたら「もうマイルズはぶっちぎり1位、2位も3位もフォード」→「ワンツースリーフィニッシュ確定」→「確定してるんだから三台同時フィニッシュで売上倍増!栄光も儲けも全てGET!」と、こういう合理的かつ企業的な思考なんだよね。
映画のマジックでレオのことを「意地悪上司」みたいに描いてるから素直にそう観てたけど……実のところ多分そうではない、現実のレオも別に悪い人じゃなかったみたいだし。
では何が起きてるのかと言えばレオはあくまでもフォードという大企業の企業としての精神を一人に凝縮させたキャラクターなんだよね。というかもはや「一人の人物」というよりも「レオ=フォード全体」ひいては「レオ=社会全体」みたいなもんなんだ。そんなレオからすれば「速さを求めるチーム」これはまだ理解できる、勝利しないと若者にフォードが売れない。しかし、その中でも「純粋に勝ちたい」いや「純粋にレースがしたい」と思ってる男、つまりマイルズ。このマイルズがレオ(フォード=資本社会全体)からしてみれば理解不能の存在。「金も名誉もいらず速さだけを求める男」こんなものフォードは要らない。レオが散々(一番速いのに)マイルズを排除したり減速させようとしてたのはレオが意地悪だからじゃない。レオからしてみれば恐怖なんだ、マイルズのような男が。「速くなりたい!」「レースで勝ちたい!」マイルズ。「速くなってレースで勝って……有名になって大金持ちになりたい!」……と思っていないマイルズ。
そんなの、企業にとって絶対にいらない男。
フォードは。気持ちが悪い。だから消えてほしかった。
前半、一番最初にレオが遠慮がちにマイルズを排除しようとした時、「なんで彼を外したいんですか!?彼は必要です」と言うシェルビーに対してレオは「彼は純粋すぎる」と言った。この時すごい違和感あったんだよね、レオは初対面でボロクソ言われてマイルズが憎かったり、粗野なオッサンのマイルズじゃ広告塔にならんなぁとか思ってて、それらの気持ちもあっただろうが、だがそれよりも「マイルズは純粋だから外そう」これがピンと来なかった。嫌ってるのがバレたら恥ずかしいからレオはカッコつけてるのかなと思った。そうじゃない。純粋なマイルズは制御不能、だからフォードはいらないんだ。シェルビーもレオやフォードに楯突く、しかし何だかかんだ言って従う。さっきもマイルズにレオの提案を伝えて「君の判断に任せる」とマイルズに丸投げしたではないか。
マイルズは途中まで先頭でぶっ飛ばしまくり大笑い!このままゴールすると思われた。
だが周囲にもバックミラーにもフェラーリも他の奴らも誰もいない。マイルズは頂上に達してしまった。
マイルズは少し哀しそうな?いや、よく読み取れない複雑な表情になり。スピードを緩める。レオの三台同時フィニッシュを敢行するようだ。
TV中継を見ている息子ピーター同様、え?え?と僕も驚いた。
せっかくのぶっちぎり一位が……だけどさっき一周のスピード新記録も出したから、もう後はスピードゆるめても一位穫ればそれでいい……のか?
それに映画冒頭からマイルズは偏屈で他人と喧嘩ばかりしたり歩調を合わせられない男として描かれてきた。
あぁ、だから「頑固だったマイルズも最後に、勝った上に足並み合わせることも学んだっていうオチ?」と思った。確かにぶっちぎりで勝つだけでなく、そういう種類の勝利もある。
だがその発端はレオの胸糞悪すぎる提案だし(古い映画のレイプシーンとかより胸糞)、シェルビーもマイルズを護らず伝えた、だから今これが起こっている。
そしてスピードを緩めて、相当時間が経ってから(これまでの時間もまるで金をドブに捨てているかのような「あぁもったいない……」という嫌な気持ち)追いついてきた二台、3人は目で合図して3台ピッタリくっついてまぁまぁのスピードでゴールに向かう。
「あっ、何と!トップのフォード3台が並んでいます!3台同時フィニッシュだ!」
実況は盛り上がっている。確かにセンセーショナルだが……しかしカッコ悪い!
絶対に良いシーンじゃないよ。凄くハラハラする。
今まで命がけでスピードを追い求めたマイルズが、へらへらと曖昧な表情を浮かべて他の2台と肩を組んでゴール……「いや……これ”頑固だったマイルズも速さだけでなく最後に足並み合わせる協調性もGETした”みたいなハッピーエンドじゃないわ……どうなるんだろ?」と”嫌な気持ち”になった。
記者たちや観衆はフォードチームに殺到する。そしてマイルズを通り抜ける!
結果は……マイルズ2位!
なんと同時にゴールしたマクラーレン選手のスタート位置が「マイルズより20ヤード後方」だったため同時ゴールでも「より長い距離を走った」と判断されて1位になったのだ。
神妙な顔のシェルビー「すまん、俺のせいだ」。怒りっぽいマイルズにボコボコにされる覚悟の顔だ。だがマイルズは曖昧な笑顔を浮かべて殴らない、怒りもしない。
マイルズ「やられたな、これが現実ってわけか。でもまぁいいや、レースできたし。……ところで次のレースだけど……」なんと「ハメられたけど走れたから良い」と、この場を流して次の話を始めた。シェルビーもなんだかんだ「お、おう……」とマイルズに合わせる。
事実は、別にレオの策略でマイルズを二位に落としたわけではなくレオも想定外で「こんはずでは……」と狼狽して「マイルズも同率一位にしてくれ」と運営にかけあったという。こんな計算したとも思えないし策略ではないだろう。
だが、この映画は「レオがマイルズをハメた」と見れるように撮っている。だがレオはゴール以降一切画面に出てこないし「しめしめ」みたいな悪い笑顔もしたりしなかった。ただレオが一切出てこないから策略として描いてるというサインになっている。だって策略じゃないのなら事実と同じ様にレオに「こんなはずじゃ……」と言わせたり運営に掛け合うシーンを入れればいいだけだかrなえ。そういう事で本作の劇中に限って言えば「レオがマイルズをハメた」という事だと思った。
全くいうことを聞かない「純粋に速さを求める」という大企業にとって全く必要ではない不気味な男、レオはそんなマイルズの足を引っ張り続けて努力が実を結び、ようやく彼を止めることができた。
次のシーン。何年後か?後だがマイルズはチームや息子の前で唐突に事故死する。
実際にはル・マン66の後、何度も優勝したりなど大活躍をくりかしての事故死だったというのが史実だが、ここでは関係ない。
映画的に言えば「レオにハメられて死んだ」そういうことになる。
後日、シェルビーはレースを辞めカーデザイナー&自動車販売業に戻っている。
そしてまた時が飛び、いつものマイルズの家の前。マイルズの妻に会った後らしい。
ピーターが帰ってくる。
ピーター「シェルビーさん、お父さんの友達だったんでしょう?」
シェルビーはマイルズとの初対面で投げつけられ事務所に飾っていたレンチを息子に渡す。そしてマイルズのことを語る。語りながらシェルビーは泣き出す。美しかったりカッコよかったりするのではなく惨めなみっともない泣き方。
敗北の顔だ。その後、荒っぽく車を飛ばして帰り映画は終わる。すごい終わり方。
企業に適応できないマイルズは、だからレース大好きなのに参加するのを渋っていた。しかし家族のために金が必要だし参加した。そしてフォードによって人生というコースからはじき出された。そしてシェルビーは全くマイルズを護れなかった。
それどころか「ゴールをどうするかはお前に任せる」と、マイルズに丸投げしてしまった。マイルズは―彼にしては珍しく―速度を緩めてチームメイトと歩調を合わせた。
すると死んだ。
社会は往々にしてそういうもので、普段は譲らない者が珍しく譲ったりすると「わお、君にしては珍しい。ありがとう、気持ちだけで充分だよ」と、そうはならず「あっ!譲ってくれるの!?それでは遠慮なく~!」と場所を取られることがよくある。それによって道を奪われたのだ。
シェルビーは全部わかっていてそれで泣いてピーターに謝ったのだ。
ピーターは「シェルビーはパパの友達だったんでしょ?」と言い、妻モリーは(既に会った後だからではあるが)シェルビーの50m遠くにいて近づいてこない。別にピーターのところまで来て「今日はありがとう」とか言うラストにしてもよっさそうだが、そうではないという事はこの物理的な距離が心の距離なのかもしれない。
『フェラーリ』(2023)は暗黒の映画だったが『フォードvsフェラーリ』(2019)は、きっと『トップガン マーヴェリック』(2022)とか『F1®/エフワン』(2025)みたいな爽やかな映画だろう。と思っていたが、ある種わかりやすい『フェラーリ』(2023)より恐ろしい映画じゃないか?俺の考えすぎ?
後半までの痛快展開のまま終わりたいなら、最後のレースでレオ副社長を「邪魔ばっかしやがって!」てぶん殴って勝利して終わればいいだけじゃん。簡単だし(史実は置いといて)。大抵のフィクションではマイルズのような「企業の論理で動かない純粋な男」というキャラは、企業がコントロールできず企業が負けてしまう。でもそうはならなかった?現実みたいに。
レオ副社長はシェルビー&マイルズに何度やられてもやられても何度でも追いすがってきて……こんなしぶとい敵キャラ初めて見た。しかも本人は別にマイルズが憎いわけじゃなく―少しは憎かっただろうが―それよりもフォードのためになることをしたかっただけ。それがこの結果。
今にして思えばフェラーリとの因縁なんて薄いよね。
『マイルズvs世界』(2019)みたいな恐ろしい映画だった。
そんな感じでした
※本作の前日譚としても観れなくない
gock221b.hatenablog.com
※2020年で一番良かった映画に選びました
〈ジェームズ・マンゴールド監督作〉
『LOGAN / ローガン』(2017)/レイティングがあがってやっとまともに殺せるウルヴァリンとローラ役の子の魅力 - gock221B
『ナイト&デイ』(2010)/トム・クルーズ映画だと思って観たらキャメロン・ディアス映画だった - gock221B
Ford v Ferrari | Rotten Tomatoes
Ford v Ferrari (2019) directed by James Mangold • Reviews, film + cast • Letterboxd
フォードvsフェラーリ - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
