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『ミッキー17』(2025)/脇役の科学者ドロシーが最もポン・ジュノだった。あとミッキー18


原題:Mickey 17 監督&脚本&制作:ポン・ジュノ 原作:エドワード・アシュトン 『ミッキー7』(2022) 製作総指揮:ブラッド・ピットほか 撮影:ダリウス・コンジ 編集:ヤン・ジンモ 音楽:チョン・ジェイル 製作会社:プランBエンターテインメント 製作国:アメリカ 上映時間:137分 公開日:2025年3月7日(日本は2025年3月28日)

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前作『パラサイト 半地下の家族』(2019)で第92回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞を受賞したポン・ジュノエドワード・アシュトンのSF小説『ミッキー7』(2022)を映画化した新作。
その辺の凡庸な作品より面白くてテーマも共感できるのは確かなんだけど、ポン・ジュノアメリカ映画は韓国映画を撮った時の面白さがめちゃくちゃ薄まってるように毎回思う。この理由を探っていきたい。

ネタバレありにつき注意。

 

Story
2054年
クローン技術や宇宙進出が可能となった近未来。
自己肯定感が低いミッキー(演:ロバート・パティンソン)は借金から逃れるため宇宙に出稼ぎに出た。

ミッキーは誰も就きたがらない職〈エクスペンダブル〉に軽い考えで就いた。それは、命を落としかねない危険な任務や人体実験を行われ、ミッキーが死んだら人体3Dプリンターで新たなミッキーのクローンが製造され、それは死ぬ直前までのミッキーの記憶がダウンロードされているので、実質的にミッキーは「何度死んでも蘇る男」として使い捨て(エクスペンダブル)の肉体労働をさせられ続ける地獄だ。
同時に2体存在してしまえば〈マルチプル〉という違法行為に当たり処分される。
ミッキーが乗っている宇宙船はケネス(演:マーク・ラファロ)とイルファ(演:トニ・コレット)という傲慢な上級市民マーシャル夫妻が、人類が新たな移住先を発見して繁栄する目的の艦に乗っていた。ミッキーはそこで危険な任務によって16回死亡して今はミッキー17(演:ロバート・パティンソン)。
ミッキー17は有能な兵士ナーシャ(演:ナオミ・アッキー)と恋人になり、死ぬのが辛いってこと以外は2人でそれなりに楽しく暮らしていた。
宇宙船が辿り着いた惑星には、巨大なゾウムシのような先住民族クリーパー〉が住んでいた。そこでミッキー17が死んだと勘違いされてミッキー18(演:ロバート・パティンソン)が製造され、重大な違法行為〈マルチプル〉状態に陥る。
そしてミッキー18は今までの気弱なミッキーと違い攻撃的だった――

 

 

……という話。
第一幕はミッキー17や世界の設定説明。第二幕はミッキー18とのマルチプル事案に右往左往したりミッキーがこんな状況になるきっかけを作った幼馴染ティモ(演:スティーヴン・ユァン)に命を狙われる展開。第3幕は高慢で非情なマーシャル夫妻が先住民族クリーパーを殲滅しようとするがクリーパーは高度な知能を持った平和的な種族であったため2人のミッキーは恋人ナーシャや、マーシャル夫妻のクズっぷりに呆れていた幹部のカイ(演:アナマリア・ヴァルトロメイ)や科学者ドロシー(演:パッチー・フェラン)やその他の人らと結託してマーシャル夫妻に反抗してクリーパーを助けようとするクライマックス、そんな流れ。

ポン・ジュノの以前のアメリカ作品『オクジャ / okja』(2017)『スノーピアサー』(2013)同様に、基本アメリカで韓国や自分の要素を少し混ぜた風刺SFをやった感じ。確かに韓国に住んでる韓国人ポン氏がモロにアメリカ社会を描くのは不自然だしSFにするのが一番ちょうどいいのだろう。
『オクジャ / okja』(2017)『スノーピアサー』(2013)同様に、確かにそこら辺の映画より遥かに面白いし作品が言いたいテーマも完全に共感できるのだが毎回「韓国映画のポン作品から面白さが目減りしてるなぁ」と思ってしまうのは何でだろう。別に内容に文句あるわけではないのに何故そう思うのかよくわからない。
マーク・ラファロトニ・コレットは極端に酷い人物を好んで良くするよね。『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025)ショーン・ペンもそうだが、リベラルだと広く知られてる俳優って「俺が嫌いな奴をやればいいんだな」と、よくわかってるせいか、こういったトランプ的な差別的で傲慢な嫌な奴を演じるのが凄く上手いね。『スノーピアサー』(2013)ティルダ・スウィントンも出っ歯メイクしてたが本作のマーク・ラファロも妙に歯を剥き出しにしたりしてたので「きっとポン・ジュノの思い描く嫌味な金持ちは出っ歯キャラで、そう演出してるのかも」と思った。
ミッキーや世界の設定説明する第一幕は割とおとなしい印象。というのもミッキー1~17が「自分は死んで当然だ」と思い込んでる非常に自己肯定感の低い主人公のせいかもしれない。そのくせナーシャやカイといった船内カースト最上位の女性たちに好かれるという、なろう作品的な展開も違和感がある……ミッキーは実際には、心が優しいし勇気もある人物になる成長型主人公なのだが後半までは本当に抑うつ的なだけの底辺キャラなので、そしてナーシャがどういう女性なのかもクライマックスでようやくわかるので途中までは「なんでナーシャがミッキーを?」ということが気になる。
そういう感じであまり盛り上がらないが映画自体は面白いので観てたら、凶暴なミッキー18が出てくると、彼はすぐ暴れたがるので面白くなった。
ミッキーのクローンは少しづつ正確が違うらしいが基本的には全て抑うつ的ミッキーだったのだがミッキー18だけ特別変異で異常に好戦的な性格をしている。子供の頃からミッキーが自分の奥に隠し続けてきた「怒りのミッキー」がただそれだけの純粋な怒りミッキーとして複製されたのだろう。ナーシャがミッキー17と18どちらも平等に愛するが、それは彼らがクローンだからという物理的な理由だけでなく攻撃的なミッキー18もミッキーそのものだからだ。
アクティブに「マーシャル夫婦ムカつくなぁ……よし殺そう!」とすぐ殺そうとしたり、映画が急に受動的なものから能動的なものに変わるので自然と面白くなる。
後半は、ゾウムシのようなクリーパーの赤ちゃんが串刺しになってクリーパーの群れを煽るなどわかりやすい『風の谷のナウシカ』オマージュ。
そしてナーシャも凄く英雄的なキャラだとどんどんわかって主人公的な活躍をする。
本作で一番「ポン・ジュノっぽい瞬間」は、割と最初からミッキーに協力的でクリーパー翻訳装置をいつの間にか開発していた脇役の科学者ドロシーだろう。
ポン・ジュノの映画に出てきそうな、少し不思議な感じの魅力を持つペ・ドゥナ的な雰囲気の女性だった。ドロシーが突然、ミッキーの近くに来てクリーパーの鳴き真似して「ね、これでしょ!?」と言って世界で一番面白いものを見つけたような表情をした時に「あ、そういえばこれ面白い監督ポン・ジュノの映画だった!」と思い出した。
そんな感じでドロシーが良かったので「このドロシーとカイ、2人にする意味ないし、カイの役割(ナーシャとミッキーを取り合う上級乗組員)とドロシーの役割(クリーパーとの和解をサポートする)を一緒にして同一人物にすればよかったのに」とも思った。最初に使い捨てクローン「エクスペンダブル」に志願したミッキーに言い含める役目はカイだが、クローン技術の話なんだからその役目はドロシーの方が自然じゃない?別にカイに文句があるわけではなくカイ役の俳優さんも魅力的なんだけど単純に「この二人のキャラ、一人でよくね?」と思っただけ。
……いや、むしろナーシャのキャラも合体して、3人合わせて一人のヒロインでも良かった気さえしてきた。

マーク・ラファロのキャラの結末、彼は常に喚き散らしてるキャラなのに最後だけ急にドライになって呟くので何か変だな……と思ったら決着後、トニ・コレットのキャラがクローン製造機で夫を複製してるので「ああ、夫婦もクローンだったの?」と思わされたが、トニ・コレットは手から出血している。そしてポン・ジュノが好きな黒沢清がよくやる「ゆっくり近づいてくる幽霊」の動きでトニ・コレットが近づいてくる。
そしてミッキーは以前の自分じゃないから怖くない的なことを言って平和的なラストに繋がるので「ミッキーが反抗を通じて心の弱さや自罰的な性格を乗り越えたことを示すシーンだったのか」と思った。てっきり「夫婦もクローン?」と最初思わされた。
このトニ・コレットのシーンもまたポン・ジュノ的で良かった。
だが映画全体は『オクジャ / okja』(2017)『スノーピアサー』(2013)同様に「基本的には面白いしテーマにも共感なんだけど、何かいまひとつポン・ジュノ韓国映画の足元にも及ばない程度の面白さなのは何故だろう?」と前述でも書いたことを繰り返さざるを得ない。
個人的には、本作のマーシャル夫妻や『スノーピアサー』(2013)ティルダ・スウィントンなどの「悪い金持ち」キャラが、やることも言うことも態度も顔つきも全部「わるもの感」を出しすぎてるのが気になる。なんか絵本のわるものみたいなんだよね。
その悪さがあまりにも一面的すぎて退屈に感じてしまうのかも。
だが同じ悪役だが、ミッキーをギャングに差し出して助かろうとするスティーヴン・ユァン演じる幼馴染は後に更生?したりと多面的なキャラなので面白かった。だから次からはラスボスもこんな風に戯画化されすぎた絵本のような悪役じゃなく、多面的な悪役キャラにした方がいいんじゃないかな。
そういう感じでこのトニ・コレットがスローで歩く黒沢清の幽霊っぽいシーンとドロシーのキャラ、この2つは「ポン・ジュノ映画で観たいポン・ジュノ的要素」だった。
あとミッキー18ね。18が主人公だったら……それなら映画がすぐ終わってしまうか。17が自分に勝つ話だったからね。
多くの人がポン・ジュノに期待してるのは観てる途中まで「……これ一体どういう話!?」と思わされつつ最後まで見ると圧倒されていたという、彼だけの奇妙な味わいのポン作品だと思うし、次アメリカで撮る時はもっと好き勝手やってほしい。

 

 

そんな感じでした

ポン・ジュノ監督作品〉
『オクジャ / okja』(2017)/子供向けアニメっぽい話が始めるが終わりの方では何なんこの話‥と不思議な気分にさせられる - gock221B
『スノーピアサー』(2013)/楽しかったがポン・ジュノの良さがアメリカナイズドで薄くなってた気もする - gock221B
『パラサイト 半地下の家族』(2019)/想像通りの事が起きるが常に少しその上を行き続けて凄く面白い - gock221B

 


 

Mickey 17 (2025) - IMDb

Mickey 17 | Rotten Tomatoes

Mickey 17 (2025) • Letterboxd

ミッキー17 | Filmarks映画

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