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『ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン』(2025)/「最後のジェダイ」で失敗したスクラップ&ビルドだが「ミステリーの枠を破壊」を成功させた感。複雑すぎるが


原題:Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery 監督&脚本&制作:ライアン・ジョンソン 制作:ラム・バーグマンほか 撮影:スティーブ・イェドリン 編集:ボブ・ダクセイ 音楽:ネイサン・ジョンソン 制作会社:Tストリート・プロダクションズ。ラム・バーグマン・プロダクションズ 配信:Netflix 製作国:アメリカ 上映時間:140分 配信開始日:2025年11月26日 シリーズ:『ナイブズ・アウト・ミステリー』シリーズ第3作目

 

 

ライアン・ジョンソン監督xダニエル・クレイグ主演で名探偵ブノワ・ブランが事件を解く人気ミステリー映画シリーズ『ナイブズ・アウト』シリーズ第3作目。
2作目『ナイブズ・アウト:グラスオニオン』(2022)からNetflix制作で3作目まで作る事になって、本作で一旦終了。だがライアン・ジョンソンとダニエル・クレイグは「一生続けたい」とか言ってて、僕も続けて欲しい。
一作目『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)の時は、ライアン・ジョンソンと言えば『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)での絶不評が記憶に新しく、どうせつまんないだろうと思ったら面白すぎて驚いた。2作目『ナイブズ・アウト:グラスオニオン』(2022)も素晴らしかったし、最初に三部作と聞いた時は「こんな原作のない複雑なミステリーを一から書くとか三部作終わるまで10年くらいかかるんじゃ」と思ってたが結局2年に一本のハイペースだった。更に『ナイブズ・アウト:グラスオニオン』(2022)と本作の間に、ナターシャ・リオン主演で「他人の嘘が全てわかる超能力を持った女性チャーリー」が事件を解き明かすミステリードラマ『ポーカー・フェイス』〈シーズン1〉(2023)『ポーカー・フェイス』〈シーズン2〉(2025)と22話も制作してこれもまた面白いので驚いた。ナターシャ・リオンによるチャーリーも素晴らしいキャラだったし、もはや今となっては逆転して、スター・ウォーズがむしろどうでもよくてライアン・ジョンソンのミステリーの方が好きになった。『ナイブズ・アウト』シリーズはNetflixでも他社でもいいけどすぐ続けて欲しい。

今回はネタバレなし
……だけど後半の「Spoiler Alert!!」の後にちょっとだけネタバレになりうる事を書くので御注意。

 

 

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本作のもう一人の主人公とも言えるジャッド司祭(演:ジョシュ・オコナー)は実直で敬虔だが衝動的な青年。同僚のクソ司祭を殴ってしまい田舎の教会をサポートする事になった。
そこは独善的なウィックス司祭(演:ジョシュ・ブローリン)と、その右腕の修道女マーサ(演:- グレン・クローズ)がやっている教会。
教会の十字架は外されており、ウィックスは神の事より自分の事ばかり話していた、村人の話を聞かず逆に罵倒し、村人は怒って帰る。
何人かの信奉者だけが残った。各分野の……スランプの作家、妻に逃げられた医者、障がいを持つチェロ奏者、やりたい事があったが子供を育てることになってしまった女性弁護士。議員になれずネトウヨ系YOUTUBERになった男……人生が上手くいっていないが、その救いを外部に求めている者たちだ。
ウィックスは訪れた信者たちを罵倒する、そこで帰らなかった彼らは「こんな罵倒するってことは……逆にウィックスすげぇ!」と思う「逆に逆に思考」の奴らだし「皆が怒って帰るのに、敢えて残り続ける自分たちって逆にすごくね?」という思考になっていく。
要するに彼らは”陰謀論者”のメタファー。彼らは「◯◯は実はなかった!」「正しいとされている△△は実は悪の秘密結社だった」など枚挙に暇がない。常識を逆にして言うとハマりやすい。
そして教祖であるウィックスはカリスマ的な……そういうインフルエンサーね。
ウィックスを演じるのはジョシュ・ブローリン……サノスなので自信満々に荒っぽいことを断定的にまくし立て、それで大勢の信者は去るが、それでも残る者はウィックスの強烈な狂信者となる。怪しい人がメルマガとか始めて、外部に救いを求める人達がせっせとその詐欺師のために働く……よく見られる光景。
大勢にそっぽ向かれたとしても数人の金持ち狂信者がいれば、教祖はそれでやっていける。信者が少なければ狂信者はその状況により満足し、より金を払う。小さな忌まわしいサークルの完成となる。

そこにやってきたジャッド司祭、彼は10代の時にボクシングの試合で対戦相手を殺めてしまい懺悔で司祭となった。衝動的な面があるがそれ以外は実直な司祭。
異常な教会に来てしまったジャッドは、ウィックスや彼らと打ち解けようとするが上手くいかない。信奉者以外のまともな信者や神と向き合おうとしないウィックスに苛立ちを募らせ、度々口論していた。
そんな時に事件が起こった。
説法を終えたウィックスが少しの間、休憩する小部屋、教壇のすぐ脇にあるそのトイレの個室並の広さしかない小部屋で倒れた。ジャッドや皆が駆け寄るとウィックスは悪魔のナイフで刺されて死んでいた。教壇も小部屋も皆から丸見えだしYOUTUBER信奉者が撮影もしていた。小部屋の壁は堅牢な石壁で、隠し扉や仕掛けられた機械は何もない。
皆が見る密室殺人。不可能犯罪だ。
しかし、最初に駆け寄ったジャッドは10秒間くらいウィックスと二人だけだったし、二人の仲が悪く、ジャッドがウィックスに「がん細胞は排除する」と言う動画もまた信奉者YOUTUBERによって拡散され、村では「証拠はないがジャッドが殺したのでは?」という雰囲気になっていく。
村のジェラルディン警察署長(演:ミラ・クニス)は、数々の事件を解決して有名になっていた名探偵ブノワ・ブラン(演:ダニエル・クレイグ)を呼ぶ。
ブノワとジャッドは、ジャッドの疑惑を晴らすため「誰がどうやってウィックスを殺したのか?」を捜査していくが――

という話。



シリーズ過去二作では、前半で各登場人物を紹介し、中盤で凄いことが起こり、どんでん返しや先の読めない展開を繰り返しつつ何か大事なものを破壊するかのようなアナーキーな結末を迎える……という展開が多かった。それは本作でも踏襲されているが(一応)完結作だけあって、今回はいつもと毛色が変わっている。そして「破壊」するものが過去作と少し違う。
ブノワが登場するまで実に40分もかかるが、教会の人間模様が面白くて充分面白い。
ブノワがやってきてジャッドが犯人ではないとすぐに見抜いたブノワは、ジャッドとコンビを組んで捜査開始。
途中、手がかりを探して村人に電話したジャッド。
ジャッドは質問したいことがあるのだが、村人は何度もジャッドの質問に割り込んで「病気の母との接し方」という個人的な悩みについて話したがっている。村人本人にとっては重要なのだろうがジャッドとしては自分の容疑を晴らしたいのでイライラする。横のブノワもイライラするし「名探偵ブノワが華麗に謎を解くミステリー」を観たい視聴者の自分もイライラする。他の作品で喩えるとバトルもの漫画で主人公の戦いを止めたがるヒロインとか母親キャラが嫌われるのと同じだ。ただ物語を停滞させ、何も産まないからね。しかし通話中に村人が泣き出してしまい、ジャッドは捜査は一旦あきらめて仕方なく村人の話を聞く。ブノワはやれやれといった感じ。
そして次のカット……なんと数時間経って夜になっている。明らかに異常な展開。
何しろこの村人の「病気の母についての悩み」は事件や本編には一切なんの関係もないのだ。こうなるとイライラではなくワクワクしてくる。「何だこのシーン?目的がわからない。だが駄作とかいうわけじゃなく何らかの目的がある。しかしその目的がわからない」といった種類のワクワクだ。このシリーズは過去作でも先の展開が読めない構成でワクワクさせられたが、それはあくまでもミステリーの様式に沿った読めなさだ。だが、今は物語自体が揺さぶられている読めなさへと変わってきている。
そして事件は、過去二作同様に実に色んな真相、色んな展開、色んな隠された過去などが明らかになってくる。
それは「ネタバレしたくないから」とかじゃなくて、単純に文章にするのが面倒くさすぎるほど複雑なので書かない。本当に面倒くさいから。
「ウィックスが小部屋で誰にどうやって刺されたのか?」も二重三重の構造があり、「秘められた過去」も似たケースが複数絡み合っており、作中で続けて起こる事件なども「実際に誰が誰を殺したのか」なども二重構造になっており、僕が頭悪いのかもしれんが観てる最中に10分ごとに一時停止して「えーと、今誰が犯人だっけ?誰が誰の子供だっけ?」など、いちいち要約しないと理解できなかった。
更に最後まで観て「大体はわかったが細部がよくわかってない……」と曖昧な部分を海外のサイトとか観て、やっと全部腑に落ちる感じ。
「もうちょっとシンプルでも良くない?」と一瞬思ったが、最後まで先が読めない展開をしつつ最後の仕掛けを成立させるには、この複雑さじゃないと無理だし破綻はしてないし、やっぱこれしかないよな、と納得した。

 

Spoiler Alert!!

 

 

さきほど「ジャッド司祭が村人の悩みを聞く」というミステリーに全く関係ない場面が延々続く話をしたが、あの場面の後、ジャッドは村人の悩みを真摯に聞いたことで「あ、僕のすべき事はこれだった。捜査とかどうでもいい」という境地に達する。そしてブノワの捜査への協力を断る。なんという展開だ。この中盤以降「様々な展開!」といったミステリー的な面白さは続くが、大きな意味ではミステリー作品ではなくなっていく。
「終盤で何かを破壊する」ことが多いこのシリーズだが、どうやら本作は面白いミステリー作品を展開しながら、ミステリーのお約束を破壊し始めるようだ。
ブノワはジャッドに「君が協力してくれないと解決できない!」と言うのだがジャッドは「別に犯人だと思われててもいい。僕が殺してないのは神が知ってるし」「神や村人に奉仕しなければ。貴方の探偵ごっこみたいなゲームに付き合ってる暇はない」と言う。
ブノワは「これはゲームじゃない!」と言うがジャッドは「ゲームだよ、貴方はただ華麗に事件を解き明かして気持ちよくなりたいだけだ」と言う。確かに、そう言われたらそうだが身も蓋もないというか何というか……。
確かにジャッドが殺したわけではないので証拠はないし署長もジャッドが殺したと思ってないしジャッドは逮捕されない。そのジャッドが「犯人だと思われてても構わない、司祭としての本分を果たしたい」と言うので、これはもうブノワとしては何もできない。
この中盤で起きた「村人の悩みに乗る」というのが最初の”兆し”だった。
そしてさっきも言ったように、色んな先の読めない様々な展開が起きる。ジャッドは再び殺人犯になりそうになり、本人も自首しようとするのでブノワが車で攫う。どうやらジャッドは殺人犯ではないのだが自分が殺したと思うような展開に、何者かによってさせられたらしい。
そのようにジャッドを何度か救いつつ、ブノワはジャッドを初めとした教会関係者や信奉者や警察署長を集めて話をする。フーダニットものミステリー定番の「探偵による種明かしシーン」だ。
この種明かしシーンも、ブノワが「さぁいよいよこのブノワが始めるぞ~」って雰囲気を出すのだが、誰かに何度も話し始めを邪魔されてブノワがブチギレる。これは「本作はミステリーだけど、本作だけはいつもと違う感じだよ」っていう匂わせなんだろう。
怒鳴って皆を静かにさせ教壇で話し始めたブノワ。いつもの華麗な謎解きシーンだ。
だが佳境に入った時、教会に差し込む光を見てブノワは10秒くらい静止する。
そして「天啓を受けた」とか何とか要領を得ないことを言ったと思ったら「ごめん、この事件、私にはわからない」と言う。
異様なシーンだ。
しかし、ブノワがとっくに事件を解き明かしたことは誰の目に明らか。
元ウィックス信奉者の一人だったチェロ奏者シモーヌ(演:ケイリー・スピーニー)、いつも素敵なケイリー・スピーニー演じるシモーヌは「なんなの?わかってるんでしょ?教えて。真実はなんなの?」と訊くがブノワは「わからん、私には無理だ」の一点張り。皆は落胆して去り、その様子は信奉者YOUTUBERがUPしてブノワの名声は地に落ちた。
しかしブノワは真犯人も事件の全容も全てわかっている。
害悪な者に莫大な遺産が行かないようにするため、後がない真犯人に懺悔する機会を与えるため、そしてこの村の今後の幸福にとって必要な教会のレガシーを護るため。
そのためにブノワは探偵としての自分を捨てて、嘲笑われる道を選んだ。
やはり、中盤の「ジャッドが、事件と無関係な村人の悩みを聞いた後で、ブノワの捜査をゲームだと言ってブノワ自身もそれを認めたシーン」ここで流れが変わった。
一応最後までミステリー作品として様々な展開を迎えて面白く終わるのだが、ミステリー作品であると同時に人間ドラマになっている。
ブノワに「名探偵としての気持ちいい解決」だけを求めているミステリーファンの一部には受け入れがたい展開かもしれない。何しろブノワは探偵としての事件解決や「真実を詳らかにすること」など全てかなぐり捨ててしまうからだ。
その代わり、この教会や村にとって良いことのために犠牲となった。「この教会や村」というのは勿論「この世界」という事のメタファーでもある。
「真実の追求」よりも世界の幸福を取ったのは、人によっては「探偵失格」かもしれない。シリーズのファンである僕としてもブノワの大活躍、ブノワ無双を見たかった気持ちもあったが、自分を捨てて真実を闇に葬り去ったブノワは映画の人気キャラクターとして確実に一段階、上のレベルに上がった気がした。
ミステリーの形式に則って同時に上手くミステリーを破壊した。過去ニ作では御家とか権威ある芸術作品とか色々壊してきたが、それらはあくまでも「作品世界内」での事に過ぎなかった。本作は「ミステリー作品世界内のこと(次々に変容する事件の真相)」と「メタ的な破壊(ミステリーのお約束を色々と破壊)」を丁度いいバランスでやった、三部作簡潔にふさわしい作品だったと思う。
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)では「スター・ウォーズをぶっ壊す!そして新たなSWを……」を、やろうとして失敗した感はある(僕は大勢が言うほど嫌いじゃないけどね、でも完全に失敗だとは思う)。それを今回は得意のミステリーで上手く成功させたと思った。
ただ前述したが、ちょっと中盤からラストまで色々と複雑すぎた気もするけどね。でもそれは僕がアホなのかもしれないからさて置き……。
……自分を弁護させてもらうなら本作は「色んな要素を理解しきれないほど論理を要求される」構造になっていた。でもそれはライアン・ジョンソンが「ミステリーとして、そして同時に人間ドラマも成立する」ように誠実であろうとした結果こうなったんだろう。だけど同時に、その誠実さが産んだ複雑さがミステリーとしての形式の窮屈さを露呈させた。
しかし「娼婦と呼ばれた気の毒な女性」グレースは、数秒の回想と推測で大体分かるけど、もう少しガチの回想がほしかったな……というかグレースはメインキャラ……せめてサブキャラくらい出番がないと理解しにくいよね。
「娼婦と呼ばれた気の毒な女性グレース」は、ジャッドが始めた新しい教会の名前にこっそり紛れ込ませてたり、莫大な遺産が新調した十字架のジーザスの心臓部に隠されたり……など終わり方も丁度いい。ライアン・ジョンソンが本作を通じて、ただの面白いミステリーってだけじゃなくてアメリカや信仰などを上手く描いたと思う。
今後の仕事はよく知らないけど、やっぱミステリーばっかりして欲しい感じはある。
『ナイブズ・アウト』シリーズ続投してほしいし(「ナイフの館」は関係ないので”ブノワ・ブランのシリーズ”とか名称変えてほしいけど)『ポーカー・フェイス』シーズン3も観たいし、新作でも良い。

 

 

そんな感じでした。

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〈ライアン・ジョンソン監督&制作作品〉
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)/映画としてもSWとしても完全に破綻してるが初見時はその焼畑農業っぷりを楽しんだ部分もあった⭐ - gock221B
『ポーカー・フェイス』〈シーズン1〉(2023) 全10話/ライアン・ジョンソンxナターシャ・リオンの倒叙ミステリー傑作ドラマ。全話の感想 - gock221B
『ポーカー・フェイス』〈シーズン2〉(2025) 全12話/前後編のスペクタルサスペンスで締めたが実のところ通常回が一番面白い - gock221B

 


 

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Wake Up Dead Man (2025) - IMDb

Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery | Rotten Tomatoes

Wake Up Dead Man (2025) directed by Rian Johnson • Reviews, film + cast • Letterboxd

ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

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