
原題:三体/Three-Body 原作:劉慈欣『三体』(2008) 監督:楊磊〈ヤン・レイ〉 脚本:田良良〈ティエン・リャンリャン〉、陳晨〈チェン・チェン〉 制作会社:霊河影視制作(上海)有限公司 配信サービス:腾讯视频〈テンセント・ビデオ〉(日本ではWOWOW、U-NEXT、Amazonプライムビデオ) 製作国:中国 上映時間:各話約40分前後。全30話 配信日:2023年1月15日~2月20日(日本では2023年10月7日~12月10日) シリーズ:テンセント版「地球往事」三部作ドラマ化の第一作目
最初に書いとくけど今回、異常に長くなった(普段の三倍くらい?)。
あまりに長くなったので興味ないキャラとか「ネトフリ版との比較」とかは端折った。
感想全体の構成的には
前置き→「良かったとこ」→「悪かったとこ」→「観て良かったと思った最終話」
という感じになっている。
劉慈欣のSF小説『三体』(2008)をテンセントがドラマ化したもの。
『三体』(2008)は「地球往事」三部作の第一部。原作既読ではっきり言って大好き、ネトフリ版のドラマも楽しんだ。
ネトフリ版は、異なる時代の三部作の主人公たちの人種や名前を変え、最初から全員活躍するという、原作からあまりに大胆な改変をしまくったもので、そういうのって大抵失敗するものだがこれは納得の改変で文句もなかった。……のだが観終わって半年くらい経つと「素晴らしい改変だったのだが、それは置いといて改変しなくてもよかったよね」とも思った。また原作者の劉慈欣も言っていたが「長い時間をかけて異星人と戦う中心人物達が全員『たまたま大学の同じ仲良しサークル』ってあまりに世界が狭くない?」と言ってたが確かに……と思った。そこ以外は文句ないが、では「製作者が作者をリスペクトしすぎていて殆ど改変していない」と言われる、このテンセント版はどうだろう?と思ってU-NEXTで観た。とにかく話数が多いんで今月は他の映画とかの更新まったく出来なかったぜ。
ネトフリ版のドラマの時に丁寧に感想書いたし、ストーリーとか全部説明したら長くなるのでその辺は端折って感想だけ書く。
ネタバレあり
🌞🌞🌞
Story
2007年、北京オリンピック開催間近の中国。ナノ・マテリアルの研究者・汪淼〈ワン・ミャオ〉は、警官の史強〈シー・チアン〉に招集され、世界各地で相次ぐ科学者の連続自殺事件、そして顔見知りの物理学者・楊冬〈ヤン・ドン〉も自死した事を知る。
汪淼と史強は事件に関係すると目される学術組織“科学フロンティア”へ潜入したり、真相に近づくべくVRゲーム『三体』にログインして秘密を探る。
すると、楊冬の母である元物理学教授・葉文潔〈イエ・ウェンジエ〉が事件の、あらゆる要素に絡んでいるのを見つけるが――
📡全体のざっくり感想
まぁ、ほぼ原作通り。
最初に結論を言うと、序盤は凄く楽しんでたが第10話から最後まで凄い苦痛でしたね。
この『三体』第一部は「第二部『三体 黒暗森林』の前振り」扱いされがちだが僕はこの『三体』第一部もめちゃくちゃ好きなんだがこのドラマ中盤観てたら「もういいかな」と『三体』第一部があまり好きじゃなくなるくらい苦痛だった。
だが不思議なことに最終話を観ると、あまり感じたことのない感動があり結果的に「観てよかった」と思うに至った。僕はこのブログで映画やドラマの感想というかたちで自分の考えなどを書いているわけだが、感想を書く時は「視聴体験」みたいなことを書いている。なんで観る気持ちになったのか、観てる間に気持ちはどのように変遷していったのか、など。その点、本作はかなり奇妙な”視聴体験”だった。何しろつまらない中盤~後半が幾ら何でも長過ぎるからだ、それプラス物凄い致命的な短所もある。だが良いところもある。だが質量的には短所の方が多いのに「つまらない時間があまりに長すぎたけど観て良かった」と感動さえさせられた、これはなかなか珍しい体験だった。
序盤は、ナノ・マテリアル開発者・汪淼〈ワン・ミャオ〉(演:張魯一〈チャン・ルーイー〉)と刑事・史強〈シー・チアン〉(演:于和偉〈ユー・ハーウェイ〉)が、楊冬〈ヤン・ドン〉(演:何杜娟〈ハー・ドゥジュエン〉)を始めとして自殺した物理学者たち一連の事件に繋がるとされる団体・科学境界〈フロンティア〉の申玉菲〈シェン・ユーフェイ〉(演:李小冉〈リー・シャオラン〉)を探ったり謎のVRゲーム『三体』をプレイして事件の真相に迫る。
中盤は、現代パートではゲーム『三体』を進めながら、過去回想では元天体物理学者・葉文潔〈イエ・ウェンジエ〉(青年=王子文〈ワン・ズーウェン〉/演:老年=陳瑾 〈チェン・ジン〉)の過酷な過去を描写する。
後半は、引き続き葉文潔の過去回想で葉文潔がやったことと恐るべき”三体”の全貌が明らかになり各国の軍隊が力を合わせて敵と戦う。
たまに原作では無い展開もあるが、それも原作に数ページ出てるキャラを膨らませて出番を増やしたりしている。このドラマの制作者は原作ファンらしく、あまり逸脱しないようにしており原作者が「もっと変えてもいいよ」と言っても「もっと原作を大切にしてください」と怒ったりするくらい。全くの新キャラもいるがそれらもストーリーに沿って不自然ではない新キャラを作っている。これらの”膨らませた脇役や新キャラ”はドラマを面白くするナイス膨らみが多いが逆に欠点になっているものもある。
キャラクターの配役も「これ本物だろ」というくらい全員が原作のイメージぴったり。
そんな感じで本作は大胆な改変しまくりだったネトフリ版のドラマとは違い”原作準拠”の傾向が強い。
📡本作の良い部分(キャスティング、VRゲーム「三体」)
さっきも書いたが、配役が全員「おぉ、本物だ」てくらいピッタリ。気になるキャラや要素について書いていこう。
・汪淼〈ワン・ミャオ〉と史強〈シー・チアン〉
人気NO1の史強〈シー・チアン〉(演:于和偉〈ユー・ハーウェイ〉)の人が素晴らしい。神経質で常にピリピリしているナノ・マテリアル研究者・汪淼〈ワン・ミャオ〉(演:張魯一〈チャン・ルーイー〉)とバディを組んで物理学者連続自殺事件を探る。
最初は史強を嫌っている汪淼は史強に当たりが強いが、百戦錬磨の史強は汪淼に小難しいクレームをつけられると、まるで「難いことわかりませーん」といった感じでハァ?って表情をする(勿論、そういうフリだ)。埒が明かなくなって汪淼がキレて声を荒らげて を怒鳴ったり罵るとウヘヘヘ……と輝く笑顔で乗り切る。この対応が本当に好感持てるしかっこいい。普段はそのようにふざけた態度なのに汪淼がガチでヤバくなると肩を掴んで真剣に「おい!大丈夫か!?」「俺ならここにいるぞ!」「最後まで一緒だ!」と檄を飛ばす、これは好きにならざるを得ないでしょう。
原作よりもドラマで好きになったのはこのキャラでしたね。
汪淼の娘の送り迎えして、娘に汪淼の家庭では禁止されている脂っこいものとかアイスクリームとか食べさせまくったりアイススケートさせてあげる新規シーンなどは、ストーリーとは全く関係ないがあまりに微笑ましくてずっと観ていたくなる。
ラストで感動的な”虫けら演説”するが勿論すばらしい、しかし、ここは誰が見ても分かりやすく素晴らしいので改めて言うまでもなく省略。
汪淼&史強バディは、主要キャラを大きく改変したネトフリ版では見れなかったので……というかネトフリ版はエリートの研究者グループが主人公となっていて彼ら同士で慰め合うので史強が緊張をほぐす役割がなかった。今思えば史強は一般市民が感情移入して見れる唯一のキャラなので、この役割を無くして主人公グループをエリートだけにしたのは間違いだったと思う。事実、ネトフリ版は視聴者数はそこそこあったが公式アカウントなどを見ると人気の大学生よりもフォロワー数やイイネ数がない、つまり人気が全くない。これは難解なストーリーで主人公もエリート達ばかりで更にとっつきにくかったからではないか?と今は思う。
・楊冬〈ヤン・ドン〉と丁儀〈ディン・イー〉
楊冬〈ヤン・ドン〉(演:何杜娟〈ハー・ドゥジュエン〉)と丁儀〈ディン・イー〉(演:王伝君〈ワン・チュアンジュン〉)のカップルは、個人的な印象だが「京都の芸大とかにいるカップル」感が凄い。
楊冬は母・葉文潔が「あの娘は天才だった。そして純粋すぎたゆえに死を選んでしまった」と語ったり、葉文潔が娘のことを”冬冬(ドンドン)”という可愛い名前で呼んでいたり、出産直後に村人たちと共に楊冬を育てている回想や、「物理から離れて丁儀のプロポーズを受け取り買い物とかして普通の女性と暮らそうとしていた」などといった新規のエピソードが付け加えられた事で、原作では「なんだか物語開始前に死んでいた」という印象しかなかった彼女がドラマで立体的になったこと、また彼女の野に咲く花のような儚いルックスと相まって切なくなった。母がラップトップの管理をちゃんとしとけば……しかしそんなもの見たのは、昔から母は少し変だなと勘づいてたのかも。丁儀は序盤とラストしか出番がない、VR三体攻略チームに入れても良かった気がする。居ても汪淼と被るから意味ないか。今年『三体 球状閃電』のドラマが中国本国であるそうだが制作会社がテンセントとは違うので丁儀役は本作の俳優とは別の俳優がやる。本作のラストで丁儀がファンサービス的に『三体 球状閃電』のヒロインの写真見せて話するからてっきり同じテンセントの同じ世界線のドラマかと思ったら違うんかい。まぁ観ない理由が出来て良かったか。
・李瑶〈リー・ヤオ〉
序盤で、汪淼がカウントダウンに悩まされてる時、原作でほぼ出番のない”汪淼の妻”李瑶〈リー・ヤオ〉(演:劉丹〈リウ・ダン〉)も多く出てくる。汪淼の奥さん役は凄く知的な美女で、あからさまに様子のおかしい汪淼に、そのものズバリ「何?それ何なの?」などとダイレクトに訊いたりせず「暗室のドアを閉めないで」という婉曲的な言い方で「(今言えないことは言わなくていいけど私に対して心を閉ざさないでよ)」と伝えたりするのが「凄く知的な妻の怒り方」って感じで良かった。彼女の出番は、序盤の汪淼がカウントダウンに悩まされてる時くらいだが少ない出番で「なんて良い奥さんだ」と思わされる素晴らしさがあった。本当に好き。
・徐冰冰〈シュー・ビンビン〉
また原作では数ページしか出てこなかったけどアニメキャラみたいな愛嬌で魅力のあった史強の部下・徐冰冰〈シュー・ビンビン〉(演:李則慧〈リー・ゼフェイ〉)もサブキャラとして多く出てくる。本作ではスタイル抜群でショートカットで10人力の有能な刑事役で宝塚の男役的な魅力がある。検索したらやはり人気あったみたい。
彼女は史強の手足として捜査したりVRゲームに協力したりする。史強はインテリ方面はサッパリなのだが徐冰冰は知識面でも汪淼に着いてきたり終盤で史強の境遇に涙したりと他人から好かれる良い面しかないキャラで、その美貌と合わせて人気出るしかない美味しいキャラだった。
そういえば床掃除をしていた徐冰冰が汪淼のVRゲーム「三体」に協力できるほど頭が良い発言をした時に、インテリ面はサッパリな史強は「よこせ!」と徐冰冰が持っていたモップを取り上げ「汪淼を手伝え、モップがけは俺がする!」と自ら床掃除を始めて「本当に史強はかっこいいな」と思った。
・沙瑞山〈シャー・ルイシャン〉
汪淼が”宇宙の瞬き”を目撃する電波天文観測基地の代表である沙瑞山〈シャー・ルイシャン〉博士(演:孔連順〈コン・リエンシュン〉)、彼も原作ではチョイ役だが、宇宙の瞬き現象のあり得なさを視聴者にわからせるため再度出てきたりVRゲーム「三体」プレイヤーとして一瞬参加したり”飛星”の謎に迫るなど盛られている。冷え冷えとしたストーリーの中で、明るい魅力を放っているのは史強だけだが、この沙もコミカルな魅力で殺伐ストーリーの清涼剤となっていた。
・申玉菲〈シェン・ユーフェイ〉
科学境界〈フロンティア〉の申玉菲〈シェン・ユーフェイ〉(演:李小冉〈リー・シャオラン〉)は「正体不明の黒幕を知ってそうだけど端っこしか教えてくれないミステリアス美女」として、視聴者の好奇心を刺激してドラマ前半のミステリーを引っ張ってくれる。原作の彼女はあまりに不自然なほどクールすぎて好きだった。このドラマでもクールなのだが、前半のドラマを進行する役割でもあったので結構、汪淼に説明してくれたりリアクション取ったりするので「常識の範囲内のクール美女」って感じに落ち着いて、正直ドラマ版の彼女はあんまり興味ないかも。原作だと汪淼に質問されても「……」と殆ど「こいつヤバい!」ってくらい無言だったり、返事の代わりにメール出してきたりして「無口というレベルを遥かに超えてる!」って感じで、だからエヴァンゲリオンの綾波レイみたいで好きだったんだけどドラマ版では前述の通りドラマの進行役だったので割と普通の人になってしまい残念。あと演じてる女優さんも、当然美人なんだけど原作ではもっと非現実的なアンドロイドみたいな美女を想像してたので態度と合わせて「結構、普通の人間になっちゃったな」感があったね。まぁ仕方ない。
・魏成〈ウェイ・チェン〉と元科学者の隠者
数学の天才である彼女の夫・魏成〈ウェイ・チェン〉(演:趙健〈ジャオ・ジェン〉)、彼は原作でのイメージ通りでした。もう彼の表情や姿勢や仕草すべてが「数学の天才だがそれ以外は何もできないし他人にも興味ない」と物語っていて完璧でした。彼のオリジンや申玉菲と結婚するくだりは一つの短編小説のような面白さがあったが(実際『三体』は劉慈欣の色んな短編小説的なアイデアを一つの話に集約させた趣がある)ネトフリ版ではこのキャラ出てこないから本作で観れてよかった。
原作では途中から出なくなったが本作では元気に計算を続けているエピローグが見れた。生活……は科学境界もなくなるんじゃないか?と思ったが魏成が暮らせるように申玉菲が何とかしてくれてるのだろうか?と思った。
申玉菲は三体問題を解決するため、数学の天才である彼を計算だけに専念させるため結婚した。そして普通の夫婦生活というものは原作でも伺いしれなかった。ドラマでも史強たちに何度も「あの2人には普通の夫婦愛はねぇな」と何度も言われていた。申玉菲が亡くなった時も、どうするのかと思ったが彼女に被せられた白い布を剥ぎ取って計算を再開した。エピローグも地面に計算を書き続けていた。全く彼女を顧みないんだなぁと素直に思ったが次に「だが彼女は魏成に計算だけして欲しかったわけだし、もし魏成に愛情があったとしたら、それに彼女の願い(三体問題の解)に報いることが愛情表現……といえなくもない」と思った。実際のところは材料が少ないのでマジでわからない。彼が生涯かけても三体問題は解けなかったことはわかってるけど、しかしそういう問題ではなく次の公式に取り掛かり続けることが大事だからそれでいいのだろう(それはつまり生きるということ)。
そういえば科学から離れて(恐らく三体による”物理学の死”を食らって)科学境界に身を寄せてる、ニワトリを飼ってる元科学者の隠者が居た。このキャラは原作にも居なかったし続編にも出てこない。しかし沙や”汪淼の妻子”などと並んで最終話ラストの「生き残った登場人物のエピローグ」でこのおっさんも映ってた。「何の役割もないのに、何でこのおっさんピックアップするんだろう?」と思って考えたが「科学から離れたが汪淼のようにパニクったり楊冬のように死を選ぶわけでもなく”ただ生きる”を選んだ人類」という表現だったのかも?ラストで史強が感動的な虫けら演説するわけだが、このおっさんは「三体の工作を喰らっても滅びるわけでもなく、ただ漫然と生き延び得る人類」つまり駆逐できそうだが出来ない虫けらを表現したオリジナル・キャラクターだったのかも。
・思考実験「射撃手と農場主」
全30話もあるのでじっくり展開する。
序盤の「主人公・汪淼が謎のカウントダウンに悩まされる」というだけの展開で4話も使ったりする。とはいえその辺の展開は大好きで何度でも観たいし話数が少なかったネトフリ版では第一話で宇宙の明滅まで行ってしまうので「どうぞどうぞ、幾らでもカウントダウンや”射撃手と農場主”の話や宇宙の明滅とかゆっくり描写しておくれ」と肯定的に観ていた。
本作は非常にゆっくり展開して繰り返し説明する新規シーンが多い。
物理や天体の話、「謎のカウントダウン」「射撃手と農場主」「宇宙の明滅」など……、国民的ドラマなのにも関わらず出てくる要素に、とっつきにくいSF要素が多いので「田舎のキッズにもわかるように……」とそうしたのかもしれない。これはまぁわかる。
”射撃手と農場主”も原作で大好きな話だったので「何度でも聞きたい」と好意的だったのだが何回も……6回くらい話すし汪淼が一話のうちに妻に二回も話したりするので「さすがに農場主もういいぞ」と思わされた。だが最初に「宇宙には神のような存在がいて、我々は虫みたいなもの」という本作の世界観を序盤で強烈に印象付けたかったのだろう。最初に話す時に”射撃手と農場主”の3DCGをわざわざ作って語られる。そしてパッと聞いてすぐイメージしにくい”射撃手と二次元生物”部分は途中から語られなくなり”農場主とニワトリ”部分だけ語られるようになる。これも2次元生物という概念的存在よりニワトリの方がわかりやすいので納得だな。本作の後半辺りまで史強と汪淼は「正体不明の事件の黒幕(三体人)」のことを”農場主”と仮の名で呼び、無力な地球人を自虐して「俺達はニワトリだからな」と多用される。そのように多少クドかったが”農場主とニワトリ”は敵の正体がわからない序盤において「自分たち人類と遥かに上位的存在である敵」との関係性を一言で語れる非常に有効なツールだった。
・VRゲーム「三体」
ネトフリ版では地球の科学を遥かに超越した機械によるフルダイブVRゲーム機を豪華な実写映像で描写していたが、本作は原作同様にVRゴーグルや触感グローブやVRトレッド・ミルなどを使った実現可能なVRゲーム(今考えるとネトフリ版での地球の今の科学では開発不可能な三体の科学力で作った凄いゲーム機ってありえないよね、地球人に研究されちゃうから)。ドラマが描写したゲーム画面も、出演者の顔のテクスチャが貼られたプレイアブル・キャラクターとして描写されていた。まぁ三体の過酷な環境で地球人を”教育”するのがこのゲームの目的なのだから超技術のネトフリ版よりこっちの方が理にかなっている。
ゲーム開始直後の汪淼は、惑星・三体の環境を知らないので「今、深夜だからしばらくしたら陽が昇るでしょう」と極当たり前の事を言うとNPC文王に「また、予言者ぶって……」「予言者気取りはやめろ」などと言われる。ここは原作を読んでる時にめちゃくちゃ面白かった部分。ごくごく当然の日の出について”常識”を話しただけなのに「予言者のフリか?」などと笑われるのが凄く可笑しかった。そして三体による予測不能の環境を目の当たりにした汪淼は、地球での太陽の動きという「常識」がここでは全く通用しないことを知り、やがて墨子やアインシュタインなどといった過去の偉人NPCが様々な方法で三体問題を解こうとするが叶わず、文明崩壊のたびに人々(地球人姿で描写された三体人)は脱水や復元を繰り返し滅亡を乗り切る。これによってプレイヤーはこのゲーム「三体」の舞台(三体惑星)がどういう惑星なのか教育されていく。説明が延々と続くのだと飲み込みづらいが、汪淼と共に段階を追って三体惑星を知っていける秀逸な設定。
📡本作の良くない部分(自主規制。長すぎる回想)や謎の設定
そんな感じで最初の9話くらいまでは「大好きな『三体1』が丁寧に描かれて今後も20話も観れていいぞ」などと思っていたのだが葉文潔の過去回想が本格的に始まる第10話あたりから雲行きが怪しくなってくる。
人類滅亡の発端となる「大学教授だった葉文潔の父・葉哲泰が妻と娘(葉文潔の妹)の裏切りで撲殺される文化大革命の描写がカットされているのは最初から知ってたのでまぁいい。ちなみに「文革自体を”失敗だった”と否定的に描くこと自体は別にいいけど、だがそもそも政権批判がNG、そして実際に検閲されるかどうかという以前に、各企業はそれぞれ自主規制で最初から描かない傾向がある」という感じっぽい。先日、日中の関係悪化に伴い日本人歌手が中国でライブしてたら、わざわざ歌唱中に演奏止めて放り出される事件があったが、あれも政府にそうしろと言われたわけではなく各企業が自主規制したり政府に対して「日本の奴にこんなんしたりましたよ」と自発的に行うわけだ、あの事件を思い出せば象徴的でよくわかるよね。そういう感じで本作も文革は勿論、政府を悪く見せる描写などが尽くカットまたは改悪されている。
本作の良くない部分は自主規制、または自主規制に端を発する崩れた部分、中盤の異様に長い回想……など。ほぼ自主規制絡みが多い。
中でも大きく落胆した改悪、悪いとまでは言わないがよくわからない要素を挙げる。
・白沐霖〈バイ・ムーリン〉
大興安嶺山脈にある架空の山・斉家嶺〈チージアリン〉通称「雷達峰(日本語でレーダー峰)」 にある紅岸基地。
既に長くなってるから端折るが、この「レーダー峰」という東芝のエアコンみたいな邦訳が大好きだ。僕は海外作品が邦訳される際に異常に平易なネーミングになってしまうのが好きで、このレーダー峰は最たるもので、人から借りて面白いのかなと思いながら読んでて「レーダー峰」という名前が出てきて「レーダー峰!?」と姿勢を正して読んだくらい好きな名前だ。「科学フロンティア」とか汪淼の会社名とか、どれも平易すぎるつまらない名称で、平易なネーミング好きの僕は好みのものが多かった。
父が惨殺されて強制労働させられていた若き日の葉文潔。そこで彼女は記者の白沐霖〈バイ・ムーリン〉(演:白客〈バイ・コー〉)と知り合う。
白はリベラル寄りの理想に燃えるインテリ層でいわば葉文潔からすれば「同志」。しかもインテリのイケメン。傷ついていた葉文潔は傷ついた羽を癒やす止まり木として白と「魂の共鳴」をして仲良くなる。
しかし白は「葉文潔に代筆してもらった政府への抗議の手紙」や「葉文潔に貸していた環境問題の本『沈黙の春』」が政府に見つかり追求され、そして「手紙は葉文潔が書いたし、その本は彼女のものだ」と裏切る。
葉文潔からすれば政府のような圧政や紅衛兵などのキチガイ、保身から父を売った母や妹などよりも酷い奴。白は彼らとは違い自分と同じ思想や知的レベルを持っており「今は辛い立場を耐えて共に頑張ろう」って感じで心を開いてたのに裏切られる……という、僕は作中でこの白が一番悪いと思う。そして最も胸糞悪い、その理由は「同志を平気で裏切る白=最も私たちに近いキャラ」だからだ。私たちも恐らく自分が破滅しそうな土壇場では、このように葉文潔のように同じ考えの立場の弱い者も売ってしまうだろう(そんなことしないとしても平時では「土壇場では自分も含めてそうしてしまうもの」という前提で暮らすことが大事だと思う)。
中国政府の訳わからん文革や母妹の裏切りで最愛の父が理不尽に殴り殺され自身は強制労働送りとなった葉文潔。そんな傷ついた葉文潔が一瞬息継ぎできたのが「魂の共鳴」したのかと錯覚した白との触れ合いだったが、白は我が身可愛さで卑小な裏切りで葉は再び窮地に。うーんやっぱこいつが一番腹立つかも。
そういう感じで白の裏切りは非常に素晴らしい要素なのだが、原作だと「静かに葉文潔を裏切る」みたいな感じだったと思う、それで充分だし。しかしドラマでは「これはお前の本か?」と訊かれた葉文潔が「白に借りた」と言う。すると白は激昂して葉文潔を罵りまくる。え?何これ。終いには『沈黙の春』を葉文潔に投げつけ、葉文潔の額からツーっと流血が……。なんすかこれ……ここで、めっちゃ醒めました。
だが、この白の喚き散らし&暴力は何で付け足したんだろう?今考えて思ったのだが、
”中国政府という逃げ場のないシステムが、善良な人間を極限まで追い詰めて魂を売らせる!”という描写は、現政権下の中国ではセンシティブ。故にそういったメッセージを弱めるために「白沐霖は元々クソ野郎で、この土壇場でそれが顕になっただけ」といった雰囲気にしたくて、それで白沐霖が突然発狂して大暴れして折角の良い場面を台無しにしたんだと思った。
・水かけ兵士が水かけない
白沐霖の裏切りで、冷たい部屋で中国政府の尋問を受ける葉文潔。
中国政府の女性兵士は「寒いでしょう」と言って火鉢を持ってきてくれる。そして「父・葉哲泰は政府に反乱を企てていた」的な書類にサインさせようとする。殴り殺された上に今度は葉文潔の墓を暴いて死体も損壊するかのような卑劣さだ。
政府の女は「サインさえすればこんなとこすぐ出れるわ」と甘く囁くが葉文潔は当然拒否。次のカットでは風邪引いた葉文潔が天文学の知識を見出されて紅岸基地に運ばれている。原作だとサインを断った葉文潔に政府の女が腹いせに水をかける。極寒の部屋で水をかけられて放置されたもんだから葉文潔は風邪ひいて凍死しかけるのだが「政府の女の水かけ」がカットされている。
これも単純に政府の人間の蛮行カットで落胆したのだろう。水をかけて凍死させかけたどころか見方によっては「火鉢を持ってきてくれた優しい政府の人」にも見えかねないのがばかばかしかった。
第11話は、この酷いのが二連続で続いて「どうやら、このドラマは『最高!』という神作品にはもうならないな」と思った。
ただ、少し希望もある。紅岸基地に輸送される葉文潔が風邪をひいてボロボロになっていたからだ。政府の女が水をかけたのを本気でカットしたいのなら葉文潔が風邪をひいている描写もいらない。だから「自主規制で流せませんけどカットがかかって映ってない場面で水をかけられて葉文潔は風邪ひきました。原作を読んで知ってるでしょうけど」という目配せだろうと思った。
そういった感じで「自主規制絡みで台無しになってるシーン」は以降も続くが、面白いシーンは凄く面白いし、自主規制も本気ではなく仕方なくやってる感じが伝わるので制作者への信頼は損なわれなかった。
・陳雪〈チェン・シュエ〉と登場しない葉文雪〈イエ・ウェンシュエ〉
ETO〈地球三体協会〉の工作員、陳雪〈チェン・シュエ〉(演:荘嘉敏〈ジュアン・ジアミン〉)、彼女は最初は全然でてこなかったが後半、紅岸を訪れたりETOの集会に来た葉文潔の護衛として多く出てくる。最終的には小型核爆弾で史強を脅すので、原作で同様の活躍をした「ETO工作員の女性」と同じ役割になる(ネトフリ版ではタチアナ)。
そしてETOの過激な降臨派・潘寒〈パン・ハン〉が、史強に情報を流そうとしたレポーター慕星〈ムー・シン〉を暗殺するために差し向けた。
このキャラは原作に存在しない、というのも陳雪は葉文潔の妹・葉文雪〈イエ・ウェンシュエ〉(演:于歆童〈ユー・シントン〉※出演場面カット)の娘なのだが、葉文雪は原作では文革で戦死しているからだ(しかも死体を射撃の的にされるという異様に残酷な扱い)。
上の画像は最終話のスタッフロールでのみ見れる画像だが「葉文潔が若い時の実家」を緊迫した表情の少女たちが強襲して手前の葉文潔が驚いている。妙に美人だし「あ、これが葉文雪?」と思って調べたら中文Wikipediaにも書かれてたし間違いなかった。
この妹・葉文雪は文革を生き残ったが結局、最後まで出てこない。妹と同じく夫を売って生き延びた母・紹琳は出てきて原作通りの寒々しい再会を果たす(このシーンは素晴らしい)。
その後、史強や徐冰冰が「レポーター慕星を暗殺した刺客は葉文潔の妹の娘・陳雪だ」と突き止めたところで少しだけ話しに登る。
「陳雪が受験した大学の教授が葉文潔だった、すると陳雪の母・葉文雪は突然、受験中の娘をおいて行方をくらましてしまう。そして葉文潔が陳雪を引き取って娘のように育てた」というオリジナル設定になっている。
原作では回想の時点で既に死んでいた葉文雪が父を捕まえに来てて「妹は父を売った」と語られている、そして現在でも生き残っている。
原作で、父を撲殺した紅衛兵の少女が三人出てきて「紅岸基地時代の既に送信し終えた葉文潔と再会するが全く悪いと思っておらず、紅衛兵時代の制服を来て葉文潔と睨み合うが過酷な労働で隻腕になっており当時のような覇気もなく生きながらにして罰を受けているような状態だった。”私は既に全人類への復讐を済ませてある”と考える葉文潔は彼女たちに仕返しすることもなかった」という名場面があったが本作にはなく残念だった(ネトフリ版では観れるので文革関連はそちらで見れば良い)。
まぁとにかく、それらの紅衛兵の少女のキャラクターを葉文雪に統合したんだろうなと思った。だが前述の自主規制で文革関連は全カットしたので于歆童演じる葉文雪は出番なし。そして「気まずい再会」も出番なし。
というか文革とか紅衛兵(葉文雪?)との絡みもないんじゃ凄く抜け落ち感が強いね。文革は無理でも再会シーンは入れてほしかった。
そして受験中の娘を置いて蒸発してしまうのもよくわからない。葉文潔と顔を合わせられないにしても娘を連れて逃げればよくない?なんで娘を置いて逃げるの?別に葉文潔が娘を欲しがってたわけでもないし。一瞬、葉文潔が暗殺したのかなと思ったが葉文潔は「送信したことで全人類に復讐し終えている」と思ってるので、妹にわざわざ直接的な復讐をしたとも思えない。同じく父を裏切った母にも何もしてないし楊冬が母に会うのも止めてなかったし。何があったのか説明して欲しかった。
そして葉文潔に拾われた陳雪は、葉文潔によって進学させてもらいETO工作員になる。
で、核爆弾で葉文潔を護るが史強の活躍で、原作の無もなき工作員同様に死亡する。
この時に史強は陳雪に隙を作るために「お前の母からの手紙を持ってきた」と言う。しかし陳雪は爆死したので手紙の中身はわからない。ハッタリだったのかもしれないが、それならハッタリだと言って欲しいし、ハッタリではないのなら中身を教えて欲しい。
陳雪は葉文潔に拾われて進学させてもらったので娘みたいなものか?とも思ったが楊冬には三体の事を一切教えてない、そして陳雪が死んでも葉文潔は悲しむそぶりも台詞も一切ない。こうなると、陳雪に対しては愛情というよりは「妹への復讐」的な意味合いで殺人マシーンにしてしまったってことなのかな?
ごちゃごちゃ書いたけど実のところ陳雪にも葉文雪にも大して興味ない。では何が言いたいのかと言うと、葉文雪を生かして娘という新キャラを出すならちゃんと葉文潔との人間ドラマを描けよってこと。新キャラにしては「葉文雪の娘」というのは存在がでかすぎて、只の殺人マシーン扱いするのは不自然なわけ。現にこのように葉文雪への疑問が色々湧いてるし。で、このように描かないのであれば陳雪は原作やネトフリ版のタチアナのように「ただの工作員」キャラとして出せば良かった。「葉文雪の娘」という気になりすぎるキャラを作ったのに人間ドラマを描かず「ただの工作員」としてしか描かないのであれば葉文雪なんて関係ないキャラとして出すべきだった、そういう話。無駄に気になるからね。
・紅岸基地いいかげんにしろ
多分、観た人の多くが感じると思うが中盤、紅岸基地での葉文潔の回想が、幾ら何でも長すぎる。
ここでの主なイベント、「太陽を増幅機にする事を思いついて怒られる」「三体との送受信」「雷と夫殺害と出産」これだけしかないからね。観てるこちらも葉文潔にシンクロして「地獄に落ちろ人間ども!」と思える「三体への送信」シーンは爽快だけどそれ以外はマジでつまらないからね。
だから観る前は1話くらいで済ませてくれると思ってた。いや全30話だから2、3話はあるかな?とか思ってたが、その2倍?3倍?あって、とにかく着任するだけで1話、紅岸基地の真の目的がわかって1話……といった感じで観ても観ても終わらない。そしてヤング葉文潔役の女優さんは魅力あるけど、とにかく寒々しい紅岸基地が舞台で閉塞感が強く、他のメインキャラが上官の雷志成〈レイ・ジーチョン〉と夫となる楊衛寧〈ヤン・ウェイニン〉なのだが、こいつらがマジで魅力ない。
そして、どういうわけか音楽が流れてのスローモーションや風景などの描写が妙に多くて、本当に白目になりながら「いま観るのやめたら二度と続き観なくなりそうだ!」と思い、無理やり数話づつ観たくもないのに無理やり観て……それでも終わらなくて現代パートにいってホッと楽しい時間で息継ぎしてたら、再び紅岸基地の回想に戻りウンザリして……というくだりを二回くらい繰り返して、結局終盤近くまで紅岸基地の回想があって、本当に最低だったな。この『三体』第一部は大好きだったんだけどちょっと嫌いになったもんね。感想書こうと思ってたから無理やり歯を食いしばって観たけどブログなんてやってなかったら絶対10数話の時点で観るのやめてたね。
かなり早い段階でエピソード・リスト見たら「うわっ!1、2話どころか、まだまだ紅岸基地あるじゃん!」というのが見えてしまったので絶望的な気持ちで観てたし。
「でも大してイベントのない紅岸基地でこんなにやるんなら、終盤にある楽しい古筝作戦とか”三体の秘密”とかも何話もあるのかな?と思ったら、それらは一話づつしかないというね。わかるよ、それらのシーンは金かかりそうだから紅岸基地で時間潰ししたんだろう。
後で思ったけど、葉文雪の使われなかったSTILL写真でわかるように多分「文革や葉文雪のエピソード」も盛り込むつもりだったんじゃないかな?だけどセンシティブだから全カットして……それで紅岸基地の素材全部使って何とか全30話になるように水増ししたんじゃないだろうか。風景や唄が多いのもそうだけど後半になると、前半にはなかった「前回までの三体は」みたいな映像が冒頭に付いたりしてたもんね。全30話になるように何とか水増ししたんじゃないだろうか、それがこの「異様に長いし退屈な回想」の秘密じゃないだろうか?全部僕の推測だけど合ってる気がする。
観る前から思ってたけど全30話は多すぎる……中国では長いドラマが主流らしいけど、3分の2の全20話……いや、全15話なら神作品だっただろう。
あ、そんな嫌いな紅岸基地の回想だが、雷を殺す時に夫と出くわして安心させようと笑顔を見せる、このシーンは胸に来た。というのも過酷な事が多すぎた葉文潔は殆ど笑うシーンがなかったので「ほぼ初めて笑ったと思ったら、こんな笑顔かぁ」というのが胸に来た。そういうことで回想の中でも良い場面はちょいちょいあったんだよ、ただ苦痛の時間が長すぎてそれしか印象に残ってないくらいで。
・古筝作戦
ETOの最高幹部マイク・エヴァンス(演:ケン・デ・ブー)が根城としている6万トン級タンカー「審判の日〈ジャッジメント・デイ〉」号にある「三体との通信記録」。
ETO信者に気づかれて記録を消去されないように船の信者を一瞬で皆殺しにしなければならない。しかもデータを回収できるかたちで。
それでパナマ運河を通過するジャッジメント・デイ号の進路に、汪淼のナノ・マテリアルによる極細の硬繊維「空刃〈フライング・ブレード〉」を設置して斬り裂く作戦「古筝作戦」を史強が発案。
……という展開。汪淼は、人類のためとはいえ「僕は現代のオッペンハイマーになってしまうのか」と絶望感あふれる面持ち。
汪淼は古筝作戦の開始直前、隣りにいた作戦指揮官スタントン大佐(演:ジュリアン・サンズ)に「あの船には罪のない人たちも乗っているんでしょうか……」と訊く、当然乗ってるので原作ではスタントンが無駄話をして汪淼の気持ちをほぐす場面だが、本作では
スタントン「ああ、あの船は凶悪な犯罪者だらけだ」と言う。
しかも「スタントンの息子を惨殺した傭兵が乗っている」と言う、その息子は汪淼の娘とたまたま同じ歳なので、つまり「気にせずブッ殺そう」とでも言いたいのか。
更に「他にも海賊や連続殺人鬼が乗っている」とか言い始める。
「主人公たちヒーローや政府のやる古筝作戦は大量殺戮ではあるけど船にいる奴らは極悪人なんだ、だから皆殺しにしても気にするな」と汪淼に……というか視聴者に言いたいのだろう。ここは、大勢殺す事になっても汪淼がそれを背負って生きていく覚悟で作戦に望むのがいいのに……「悪い奴らばかりだから皆殺してOK」ってクソしょうもない。
しかも丁寧に、甲板で悪そうな奴が血のついたナイフを舐めてたりマストから吊るされた死体がぶら下がってたり「毎日誰かが殺されて」たり……これコントですか?
ここは文革同様にネトフリ版の圧勝ですね。なにしろネトフリ版は「罪のない人たち」どころか無垢な幼児がいっぱい乗ってたし作戦終了後には幼児の足が落ちてたし……。
だが敢えて制作者サイド寄りの観方をするなら「スタントンの息子を惨殺した傭兵がたまたま乗ってたり、毎日殺人が起きてたり、海賊や連続殺人鬼ばかり乗ってる」なんてのは明らかにやりすぎだから「こうせざるを得ないから敢えてやりすぎた設定にしとくね」というウインクかもしれない。だって傭兵とか海賊はまだ暴力装置としてわかるけど連続殺人とか乗せてる意味とかないもんね。
ちなみに古筝作戦自体の描写は素晴らしかったネトフリ版に負けず劣らず素晴らしいものだった。それだけに、この謎の設定が残念だったね。
・そういう感じで
こうしてまとめて書いても明らかなように本作の欠点は、中国政府を気にした自主規制、そしてそこから来る作品の歪み、そればかりでしたね。
「紅岸基地のクソ長くてつまらない回想」も文革や葉文雪の全カットで空いた時間を埋めて全30話にしなきゃならなくて水増ししたせい(これは僕の推測)だろうし全ては同じ理由から派生した歪みな気がするね。
それ以外は普通にクオリティ高くて良いドラマなので、このドラマ見ながら「もっと時間が半分でもっとこうすれば……」と、存在しない「本作の完成形」を想像しながら観てました。
・人類の落日
そんな感じで、クソつまらない中盤を耐えて観た、楽しいはずの古筝作戦も、描写はいいが訳わからん設定でズッこけてしまい床に倒れたまま最終話に突入。
”素子〈ソフォン〉や三体の秘密”が明らかになり三体のメッセージ”お前らは虫けらだ”。これらはどれも大好きな要素なのだが、あまりに苦痛な時間やズッコケてしまう自主規制由来で台無しになったシーンを観てる時間が長すぎて「そうですか……」とあまり熱のない状態で観てたが、無期懲役となった葉文潔が徐冰冰たちの見張り付きで紅岸基地の跡地を最後に訪れる。
紅岸基地があった場所に沈む太陽を見つめる現在の老いた葉文潔と、レーダー峰を見つめていた若い時の葉文潔の姿、それらが交互に映る。
ここで急に物凄く感動した。よく種類のわからない感動をしながら「えっなんで感動!?w」と笑ってしまう唐突さだった。
これも推測だが、恐らく散々文句を言ってきた「中盤のクソ長くてつまらない回想を経てこの夕陽を観ている俺」が「過酷な事ばかりだった葉文潔の半生」が重なって、レーダー峰跡に沈む夕陽を観る葉文潔の心が俺の中にぐわーっと入ってきたのだろう。
そして、若と老の葉文潔が交互に映る演出で「基地の後、出産して村での楽しい子育てや大学への復学、ETOの総帥になった」とか色々「良いこと、盛り上がったこと」もあったはずだが「葉文潔のコアの部分、真の葉文潔」は若い時に失われており、彼女の時計の針は紅岸基地で止まったままなんだ……と思った。そーいう感じが一気に来て感動したのだろう。
原作やネトフリ版での葉文潔は、彼女の静かな復讐に盛り上がったり終盤の彼女の落日にも盛り上がったりと、とにかく「面白さ」だけで観ていた感があり、そういう意味では原作やネトフリ版では面白さにかまけて葉文潔に寄り添っていなかったが、本作の長い回想によって初めて我がことのような恋人のような母のような……まるで家族のように寄り添って観れたのは初めてだと思った。
だが、それも中盤のクソつまらない回想を観ていた反動から来る感動だろう。
とはいえ勿論それは制作者も意図していない偶然のシンクロによる感動だろう(だってラストのために中盤の大部分をクソつまらなくするわけがないからね)。
このラストで感動した体験は「何だか辛いことばかりだったな、しかし良い時もあったし、諸々を経てのこの夕陽(最終話)は綺麗だし、観て良かったよ」と思えた。
何だか結婚生活を思い出す老人の気持ちというかね……。
だから不必要にクソ長い中国ドラマも、たまには良いかもしれないと思った。
一度きりで終わるなら。
※追記(2026.2/4):なんか本作と『三体 黒暗森林』(2028?)の間をオリジナル展開で繋ぐ『三体 大史』(2026)が今年、放映されるらしい。
「白血病を患った大史こと史強と汪淼が再びコンビを組み、謎の組織に盗まれたナノ・マテリアルを取り返す話」っぽい。これは当然、徐冰冰も出るだろうし……なんだかETO降臨派の残党と小競り合いするだけみたいに聞こえるあらすじだが……きっとSF展開も盛り込んでくれるだろう(でも別にこの三人がただ追うだけでも別にいいけど)。
そんな感じでした
三体 | Filmarksドラマ
San ti (TV Series 2023– ) - IMDb
Amazon: 三体2 黒暗森林 上 (ハヤカワ文庫SF)
Amazon: 三体2 黒暗森林 下 (ハヤカワ文庫SF)
Amazon: 三体3 死神永生 上 (ハヤカワ文庫SF)
Amazon: 三体3 死神永生 下 (ハヤカワ文庫SF)
Amazon: 三体0【ゼロ】 球状閃電 (ハヤカワ文庫SF)

