
原題:Licorice Pizza 監督&脚本&製作&撮影:ポール・トーマス・アンダーソン 製作総指揮:ジョアン・セラーほか 音楽:ジョニー・グリーンウッド 編集:アンディ・ジャーゲンセン 製作国:アメリカ 上映時間:133分 公開日:2021年12月25日(日本は2022年7月1日)
監督がMVも何本も監督してる人気バンド"HAIM"のギターのアラナ・ハイムに当て書きして主演俳優デビューさせた青春映画。家族ぐるみの付き合いをしてるそうなので残りの2人もアラナの実姉妹役、ついでに実の両親も両親役で出ててハイム家ムービーみたいになってる。もう1人の主演のクーパー・ホフマンはこれまた監督の親友だった故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子。
本作はいつか見ようと積んでたがアラナ・ハイムの顔を見る度に「バリバリと映画に出る俳優じゃなくて他業種の人っぽいな」と前から思っていた。真面目そうでいてそれでいてどことなく”地元に住んでいるお姉さん”という”ザ・人間”という印象が強い。『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025)に「真面目な顔の過激派」の役で出てきた時も「あっ『リコリス・ピザ』の地元っぽい顔の女性だ」と気になった。
PTAは観てたが最近初めてハマって最初から観返してるが、とにかく長年ファンじゃなかったのでクーパー・ホフマンのことも知らなかった。
なんかエゴの強い主演の大作数本がコントロールしきれず疲れたので地元に身内とお店を出した感じのさりげない爽やかな作品だった。
実在の人物が出てきたり実話を元にしたエピソードが多く出てくる。
ネタバレあり
Story
1973年、ロサンゼルス。
25歳の女性アラナ・ケイン(演:アラナ・ハイム)は写真撮影助手のバイトで高校を訪れる。
そこで10歳年下の高校生ゲイリー・ヴァレンタイン(演:クーパー・ホフマン)に一目惚れされる。付き合いはしないが悪い気はしないアラナ。
2人の付かず離れずの微妙な関係が続く――
子役俳優をしているゲイリーは、アラナに言い寄るが年下すぎて相手にされない。それはそれとしてゲイリーはウォーターベッド販売、ピンボール遊戯場経営など次々と新しいビジネスチャンスを成功させる。
ユダヤ系女性アラナは特にやりたい事はないのだが自己実現のため女優で映画の世界、市議会議員のボランティアスタッフになって政治の世界、など「自分を向上させてくれそうな世界」に飛び込み飛躍しようとする。
アラナは、関連人物が少年たちや家族だけなので「威勢のいい若い女性」っぽく振る舞ってるキャラだが、見てると中年の権力者には下から行くし年の近い友達とかボーイフレンドは1人も居ない、そのせいか自己評価が低い、一方でプライドが妙に高い。
ゲイリーは若すぎるが好いてくれる事は内心嬉しい、しかしガキすぎるので付き合うのは……かといってゲイリーが他の少女と仲良くし始めるとイライラする、だが自分が彼を相手にしていないっていう態度を取ってるので嫉妬するわけにもいかんという感じ。
なんか全体的な雰囲気とか性格とかが昔つきあってた女性に凄く似ていて懐かしい気持ちになった。
ゲイリーも「基本的にアラナが一番好きだが全然相手にしてくれないし自分の子役仲間と付き合おうとしたりするし」という感じで同世代の美少女と付き合ったりする。ゲイリーはフィリップ・シーモア・ホフマンに、基本的には似てないが特定の画角で異常に似てる瞬間があったりして「おおっホフマンの血……」と感慨深いものがある。
ハリウッド映画は、極端に言うと何個かの型があってその組み合わせを変えてるだけだ。
この映画を観る際、僕は無意識にアメリカ映画によくある「型」型にハメて観ていた。かつては特に執着のなかったPTA作品に、なぜ最近これほど惹かれるのか。それは、彼が意図的に”型”から外れ、観客に新鮮な違和感を与え続けてくれるからに他ならない。
映画好きはもれなくPTAが好きだが、こういうところも映画好きに好かれる理由の一つだろう。そして大手スタジオに雇われた監督にはそんな事ほとんど許されない。だから、こういった作家性の強い監督はますます貴重に思えてくるのだろう。こう言うと、なんだか基本的な話のようだが今まであんまり認識してなかったかも。
本作で人気ありそうなキャラ、名優ウィリアム・ホールデンをモデルにしたジャック・ホールデン(演:ショーン・ペン)の大暴れ、または実在する映画製作者ジョン・ピーターズ(演:ブラッドリー・クーパー)の大暴れ……などは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)のダニエル・デイ・ルイスやポール・ダノの大暴れを思わせる濃厚こってりラーメン的な分かりやすい大暴れで、ここはPTAの中でも自分があまり興味ない要素かもしれない。だが大暴れし終わったジョン・ピーターズがその後もゴジラみたいに相手が居ない場所でも暴れ続けて街を破壊して回ってたり、事前に裏切ったアラナと出くわしても気が付かず本来なら慌てるであろうアラナも間近で街を破壊するジョンを全く気にしなかったり……こういう微妙な味付けのPTAっぽさこそ自分が「あっ、これこれ」と大好きな部分だと思った。ホールデンのバイクスタントとか「爆弾魔を思わせる男」など、明らかに誰か死ぬ!?と思わせる緊迫したシーンの連続やその結果なども凄く好みのズラし加減だった。
話をゲイリーに戻すが、本作で言うなら「ゲイリーはやはり父ホフマンが昔やってたようなモテない孤独少年なんだろう」と思い込んで型にはめて観てたが、実際のところゲイリーは本作で一番美人のCAに話しかけられたり、ウォーターベッド販売会で同級生の美少女と話しかけられしばらく付き合ってたり?と、基本的にモテている。
そもそも高校生のくせに胡散臭いビジネスを次々と当ててるし。
だから彼は「モテない孤独な少年がたまたま出会った年上のアラナに執着している」わけではなく「自分で稼いでるし普通にモテるけど常に若い美少女よりアラナの方が好き」ということが強調される。ゲイリーは「アラナに相手にされないから美少女とイチャついた」り嫉妬してアラナを邪魔したりババア扱いしたりしてムカつく事もあるが、それらもアラナに相手されず見下されてるからという理由があることではあるが基本的にふてぶてしいホフマン面でアラナを”酸っぱい葡萄”メンタルでババア扱いして拗ねたりでイラッとさせるガキではあるのだが、何度か訪れるアラナが大ピンチに陥って傷ついた時は、まるでこの世に自分とアラナしか居ないかのように全力疾走して彼女を助ける。
対するアラナもゲイリーが気にはなるがやはり歳下すぎるし、どういうわけか彼女にはゲイリーに対する訳のわからないライバル心もありゲイリーを「ピンボールで一攫千金?アンタまだそんなしょうもない事やってんの?私は政治(事務所の雑用)で世界のこと考えてるのよ」と見下す、しかも定期的に。だけどゲイリーと同じ様に彼の大ピンチでは全力疾走して助けに行く。
そういう感じで「普段はどうかと思う部分が多いリアルな2人だけど、互いを想う心は本物なんだな」と、こちらがそれを忘れた頃にしっかりと全力疾走描写で再確認させてくれる。普段は凸凹カップルだが、互いが大ピンチになった土壇場でだけ普段は取り繕っている「自分」をかなぐり捨てて相手を助けようとする。これって普通、世間一般の多くのカップルは”逆”だからね。日常では仲良しで互いを尊重しあったように見せてる癖に有事では相手を置いて逃げ出す……。
震災とか紛争でヤバい状況になっても2人は互いを助けあうだろう。
しかし普段はそんな事ないから付き合い始めたり結婚してもどちらかが(あるいは双方の)浮気で別れたりめちゃくちゃ今にもしそうだけど。だが別れたとしても一方が大ピンチになったら持ってるものを投げ売って駆けつけるだろう。
色んなことがある人生だけど結局はそれだけあればいいのかもしれない。
そんな感じでした
〈PTA監督作品〉
『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025)/他人と一切共有したくないという希少な感動があり、書くことがない - gock221B
『インヒアレント・ヴァイス』(2014)/崩壊した現実のアメリカを尻目に”心のアメリカ”を建て直そう - gock221B
『ハードエイト』(1996)/悪徳の街で無償の善行という悪事を行う聖なる悪魔の話 - gock221B
『ブギーナイツ』(1997)/偽りのエデンと疑似家族、ただし血が通っているかも - gock221B
『マグノリア』(1999)/久々に観たが長すぎて精神が筋肉痛を起こした。でもクイズ少年には心が動いた - gock221B
『パンチドランク・ラブ』(2002)/当時も好きだったが久々に観ると姉の設定が絶妙だったのが新たな感想だった - gock221B
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)/再見したら、寄生する気力しか残ってない兄ヘンリーが印象深かった - gock221B
Licorice Pizza (2021) - IMDb
Licorice Pizza | Rotten Tomatoes
Licorice Pizza (2021) L/////eoxd
リコリス・ピザ | Filmarks映画
