gock221B

映画やドラマの感想ブログ Filmarks: https://filmarks.com/users/gock221b Letterboxd: https://letterboxd.com/gock221B/ https://vir.jp/gock221B〈Since.2015〉

『ブギーナイツ』(1997)/偽りのエデンと疑似家族、ただし血が通っているかも


原題:Boogie Nights 監督&脚本&制作:ポール・トーマス・アンダーソン 製作総指揮:ローレンス・ゴードン 制作:ジョアン・セラー 撮影:ロバート・エルスウィット 編集:ディラン・ティチェナー 音楽:マイケル・ペン 制作会社:ローレンス・ゴードン・プロダクションズ、グーラーディ・フィルム・カンパニー 配給会社:ニュー・ライン・シネマ 製作国:アメリカ 上映時間:155分 公開日:1997年10月10日(日本は1998年10月10日)

video-share.unext.jpPTAが18歳の頃に撮ったポルノ業界についての短編モキュメンタリー『The Dirk Diggler Story』(1988)を長編に作り直したのがこのデビュー作。ヒットしてアカデミー脚本賞にもノミネートされた。すごい、というか『The Dirk Diggler Story』みたいな俯瞰した群像劇撮ってた時点で凄い。多くの同年代映像作家志望の心を折っただろう。
これは当時観たし以降のPTA作品も漠然と観てたのだが、あまり芯を捉えられてなかった。というか当時から、自分が観て判断する前に映画批評家や年上の映画好きなどが声高に褒めすぎるのでノイズになり敬遠していた、が、昨年『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025)観たのを皮切りに「そういえばPTAって居たな、自分も歳取ったから色々と丁度いいや」と思い20年越しにPTA全作振り返り期間に入っていて本作で半分くらいか。これも20年ぶりくらいに観たら加齢のおかげで当時より面白かった。前身となった『The Dirk Diggler Story』も以前観たことあるので併せて考えてみよう。

ネタバレあり

 

 

Story
1977年
カリフォルニア州トーランスに住むエディ(演:マーク・ウォールバーグ)は、高校中退して働いていたナイトクラブでポルノ映画監督ジャック・ホーナー(演:バート・レイノルズ)に「才能(巨根)」を見出されポルノ業界に入る。
期待の新人ポルノ男優”ダーク・ディグラー”となったエディは、ジャック監督の元に集ったポルノ女優、ポルノ男優、スタッフ……ジャックのポルノファミリーと疑似家族を形成。ダークはすぐにポルノ・スターへと登り詰めるが――

そんなロバート・アルトマン映画めいた群像劇。
こういう成り上がりもの(芸能映画やギャング映画やビジネスサクセス映画など)のお決まりで、主人公たちは第一幕で集合し一気に頂点に登りつめる……だが第二幕で調子に乗った主人公たちが挫折し、第三幕で破滅(破滅からの復活することもある)……と、大体の成り上がり系映画はそういう構成、本作も勿論それ。……というか別に成り上がり系映画じゃなくて神話だろうが現代劇だろうがヒーロー映画だろうが殆ど全部そうか。まぁとにかく成り上がり物語にはその傾向が顕著だってことで。

ダークことエディはすぐ家出してジャック監督のもとに行って二度と帰らないが、その前に彼の家庭が気になる。「大酒飲みの無職の父がDVしてくる」とかそういうわかりやすい駄目な実家じゃなくて割と普通の幸せそうな中流家庭。父も働いてるし母も普通にご飯作ってくれるし家も綺麗。エディの部屋も趣味のものが買い与えられてて幸せそう。だがエディが遊んでばかりで高校中退して?母がおかしくなった感じかな。描写が少ないので推測するしかないが「母が過干渉気味+父が育児放棄気味+一人っ子」と、提示されてる事実だけ並べてみると日本でも典型的な「子供を駄目にする組み合わせの家庭」。家出の日、キレた母がエディの部屋のブルース・リーやファラ・フォーセットなど当時の70年代スターのポスターを「こんな連中に憧れて!お前みたいな馬鹿が!」と破り捨てエディは「僕をいじめないで!」と子供の表情で号泣。これは当時観た時も今観てもすごく胸が痛くなるシーン。両親の愛を感じられず70sスターのポスターをたくさん貼った自分の部屋を心の拠り所にしてたわけでしょ(あと自分の巨根)、それを破壊されて「この部屋のものは全部私の金で買ったものだ!」などと……全否定。まぁ高校まで行かせてくれたのに勉強もせずフリーターになったエディも良くないが、こんな風にエディのコアを全否定されたら心の居場所はなくなる、それでプレイボーイ青年の仮面の裏に隠れていた「愛されたい少年」が出てきたがそれも母は否定する、自分が望んでいた優等生ではないので。だからエディは出ていくしかない。貧困DV家庭とはまた違う地獄。いや、わかりやすく反抗心を持てる貧困DV家庭の方がまだマシかも?
そしてエディを拾ったジャック監督は、母が全否定したエディの好きなもの(虚構の世界)を全て肯定する――というかジャックは虚構の世界の住人だ――ジャックはエディの特技(巨根)でエディという存在を肯定し居場所を与えてくれる。父性に飢えていたエディはジャックを本当の父として懐いてしまうのも無理はない。
ポルノ男優デビューしたエディは自分に”ダーク・ディグラー”という自分がカッコいいと思う名前を付け、普段から周囲にそう呼ばせる。恐らく親が付けたエディという名前はもう名乗りたくなかったのだろう。

 

 

中盤での挫折ゾーン。
多くの映画もそうだが本作もまた「自業自得」が凄く多い。
外部から敵が攻めてくるわけではなく、単純に馬鹿なことしでかして、又はジャックのポルノ一家が外部に出た時に”ポルノの人”という属性で足を引っ張られる。
挫折パートの最初は、ジャック監督に出資してくれてたジェームズ大佐(演:ロバート・リッジリー)。大佐は未成年とSEXして捕まり家宅捜索でロリコン・ビデオをたくさん所持していて罪が重くなる。「偉い人はペドフィリア」というのはいつの時代もそのようだ――それにしても何故偉くなると子供とSEXしたいのだろうか?先日のエプスタイン文書の件で改めて考えさせられた。「生まれつき」と言われたら返す言葉もないが、これは最大のタブーなのでそれをする事で「子供を犯せるくらい偉いんだぞ」と実感したいからではないだろうか?痴漢常習犯も「性欲じゃなくて加害したい」と思って触るらしいし、それと同じなんじゃないかというのが僕の結論。
――話を戻して、大抵のことは許すジャック監督だが大佐のロリコン趣味を聞いたとたん助けを求める大佐をサッ……と切る、永遠に。映画のラストで大佐は同房の受刑者にボコボコにされ血まみれでメソメソ泣いているという惨めな結末。「ペドフィリアは許せん」というPTAの意思を感じる(今後の映画も楽しみだ)。ちなみに大佐役の人は『The Dirk Diggler Story』ではジャック監督役だった。
ダークはポルノスターに登りつめたのだが自己肯定感の低さから来る承認欲求の高さからドラッグに溺れてエゴが増大しジャック監督と対立する。まぁ単純に「わがまま言って解雇された」ってだけなので非常にしょうもない。だが今思えば両親が育児放棄っぽかったから、初めてまともに相手してくれる”父”が出来たので試し行為して甘えただけか。ダークは「自分をスター扱いしてくれて天職も大金もくれる環境」「家族のような仲間たち」全てを己に与えてくれていたエデンの園のような場から飛び出してしまう。「俺様は自分一人の才覚でスターになったんだ。お前らなんかいらない」と増長してしまったわけですねぇ。なんかこう書くと神話で何回も聞いた普遍的な話だな。
「外部」に出たダークは珍妙な歌をレコーディングする……ちなみに、この「増長して監督と大喧嘩」して飛び出て「変な歌をレコーディング」、どちらも『The Dirk Diggler Story』に丸々あった。そして「ベースの音が大きい。俺の声を大きくしろ」と無理難題を言うくだりもそのまんまあったので「増長したダークが勝手に自滅する部分」が本当に描きたい核なんだなと思った。ダークはレコーディングスタジオで、ジャック監督の元にいた時のようにわがまま言うが外部では通用しない。彼を暖かく包んでくれていた村から外部に出たらわがままが全く通用しない……それが凄くわかりやすく描かれる。そのままダークはどんどん転がり落ちていく。
息子に会わせてもらえずダークを息子扱いしていたベテランポルノ女優アンバー(演:ジュリアン・ムーア)や、スタッフのバック(演:ドン・チードル)は「ポルノをしていた」過去のせいで外の世界に出られない。彼らは必然的にファミリーと共にポルノを作る以外に生きるすべがない。
彼らもダークもそうだが、ジャックのポルノ一家に居る限り幸せに暮らせるが、そこから一歩でも「外」に出れば暮らしていけない。社会の構造がそうなっている。
ジャック監督はファミリーの中では常識人で才能さえあれば愛を与え続けてくれるが、時代に取り残されて未来を作れない古い人間として描かれる。1980年代に入り新たな出資者フロイド(演:フィリップ・ベイカー・ホール)に「これからのポルノはビデオになる」とビデオへの転向を勧められる(それまでのポルノは映画のようにストーリーのあるエッチな映画をフィルムで撮って劇場で流すものだった)。「そんな即物的でクリエイティビティのないもん撮れるか!」と反対するが時代の流れには勝てずダークが出ていったあとポルノビデオに手を染める。素人を車に呼び込んでポルノ女優ローラーガール(演:ヘザー・グラハム)とSEXできる企画を始めるが、呼び込んだ男子大学生は同級生だったローラーガールを馬鹿にしていた男子生徒だった。SEXの仕方が荒いので中断すると逆ギレした彼はローラーガールとジャック監督を侮辱する。ジャックとローラーガールは激怒して大学生を半殺しにする。このローラーガールが大学生に侮辱されるシーンは序盤のエディが母親に全否定されるシーンと同じくらい胸が痛む。同じ国の同じ人種の者に職業で差別されるあってはならん展開。変わり者が多く出てくる本作だが一番ムカつくのはこのローラーガールを侮辱する男子だ。そして本作の登場人物で我々(一般視聴者)が最も近いキャラクターは、認めたくないがこの男子大学生だ(またはバックへの融資を断る銀行員)。それがまた嫌な気分にさせる。
ステレオ専門店を開くため銀行で融資を受けようとしたバック(演:ドン・チードル)は行員に「ポルノの人にはお貸しできません」と断られる。バックは融資を受けられなかったことよりも過去の職業だけで記号的に拒絶されたことにショックを受ける。いつも温厚だったバックが「何で俺を”ポルノの人”と呼ぶ?”ポルノの人”と言うのをやめろ!」と感情を顕にする、ここも胸が痛い。
ダークは増長してわがままだったので差別主義者に街でリンチされても「可哀想だが自業自得でもある」って感じだが、ジャック監督とローラーガールとバックはファミリーの中でも礼儀正しい常識人だったので「良い奴らだがポルノというだけで差別される」と感じさせられる。観てて可哀想になるキャラを選んでるよね。

 

 

ダークは情緒不安定な子供で、色んな無茶するのだが女にハマって酷い目に遭うというよくある展開は無い。『The Dirk Diggler Story』でダークはバイセクシャルだった。本作では親友を超えて共依存の恋人同士のようだった男優リード(演:ジョン・C・ライリー)(演:ジョン・C・ライリー)は『The Dirk Diggler Story』にも出てきてそこではリードはダークの一番の恋人だった。「だから本作でもそうだ」と短絡的に結びつけたいわけではないが「本作のダークもバイセクシャルなのでは?」と思った。男娼に身をやつして同性愛嫌悪の集団にリンチされたりと、そういう方面の描写が妙に多い。本作はPTAも当初「こんなポルノ業界を描いた映画はメインストリームでは受け入れられないだろう」と思ってたらしいし、そこに「主人公ダークは巨根のポルノ男優でバイセクシャル」というキャラを追加すると、要素が多すぎて一般客の目はバイ要素にばかり注視されてテーマが分散されてしまう(現在でも「LGBTQ+がテーマの映画」ではないのに主人公がゲイとかバイセクシャルのキャラだった場合それは伏せられがちだし)。だからダークのセクシャリティはどのようにも見えるような曖昧な描写になった……そういう解釈も成り立つ。
だが実のところ「水面に映った自身の姿に心奪われて死ぬナルキッソス」のようにダークが一番好きなのは自分自身なのは間違いない(本作の最後の見せ場は正にそれ)。だから実は彼のセクシャリティは大した要素ではないが。ダークでバイ要素を描くのはやめて代わりに録音技師スコッティ(演:フィリップ・シーモア・ホフマン)で「ゲイの失恋シーン」を描いてそういう要素を分散させたのかも。
『The Dirk Diggler Story』ではダークはオーバードーズで死んでしまう。本作のダークは2回死にかけるが間一髪助かって元の鞘に戻る。

このラストがハッピーエンドなのかどうかはよくわからない。ダークはジャックに謝罪するが成長したというより困りきって父親代わりのジャックのところに戻っただけ、ジャックはダークとポルノを再び撮るがポルノビデオに適応できないままだしゆっくりフェイドアウトしていきそう。しかしアンバーは息子には会えないままだが少しづつ映像を撮り始めるし、リードはマジシャンになる、バックは子供が生まれて夢だったステレオ店を開店(盗んだ金だが)、モーリス(演:ルイス・ガスマン)はナイトクラブ開店、ローラーガールは高校卒業同等資格を取ろうと勉強……この結末の1年後には破滅してるキャラがいそうだが、しかしこうして見るとやはりハッピーエンドかも。
過去や現状にしがみつく仲間が多い中、「勉強」という外界に出れる具体的な手段を取ったローラーガールが一番明るい未来を感じた。そして彼女が自分の過去を否定してポルノ業界と縁を切って勉強……するんじゃなくて、ジャックのポルノ一家とは仲良くしたまま、それとは別に勉強してるっていうのがバランスが良いと思った。
しかし「1年後、どうなってるか……」というのは、この世界に生きる我々も変わらない。つまるところ、何か自分にできることをするしかない、それが人生だ。
はたして、君は1年後も破滅せずに居られるのかな?

 

 

そんな感じでした

〈PTA監督作品〉
『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025)/他人と一切共有したくないという希少な感動があり、書くことがない - gock221B
『インヒアレント・ヴァイス』(2014)/崩壊した現実のアメリカを尻目に”心のアメリカ”を建て直そう - gock221B
『リコリス・ピザ』(2021)/作家性の強い監督の映画の良いとこって型通りの展開じゃないとだな、と今更気がついた - gock221B
『ハードエイト』(1996)/悪徳の街で無償の善行という悪事を行う聖なる悪魔の話 - gock221B
『マグノリア』(1999)/久々に観たが長すぎて精神が筋肉痛を起こした。でもクイズ少年には心が動いた - gock221B
『パンチドランク・ラブ』(2002)/当時も好きだったが久々に観ると姉の設定が絶妙だったのが新たな感想だった - gock221B
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)/再見したら、寄生する気力しか残ってない兄ヘンリーが印象深かった - gock221B

 


 

Boogie Nights (1997) - IMDb
Boogie Nights | Rotten Tomatoes
Boogie Nights (1997) Letterboxd
ブギーナイツ | Filmarks映画

www.youtube.com

#sidebar { font-size: 14px; }