gock221B

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『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』(2019)/物体X+ゾンビみたいなシンプルすぎる話ながら細かい描写や演出のこだわりが好き🧠

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原題:Color Out of Space 監督&脚本:リチャード・スタンリー
原作:H・P・ラヴクラフト『宇宙からの色』(1927)
製作国:ポルトガルアメリカ / マレーシア 上映時間:111分

 

 

 
H・P・ラヴクラフトの『宇宙からの色(異次元の色彩)』を映画化したホラー。
ラヴクラフトは何となくボンヤリ好きで、各種映像作品や朗読や漫画で有名な作品は大体知ってて好きだったりするんですが肝心の原作小説は殆ど読んでない感じです。だからクトゥルー神話について偉そうな事言えないので名状し難いほどのウンチクは書きません。漫画だと色んなラヴクラフト作品を現在進行系かつ精密な作画で漫画化してる田辺剛氏による『ラヴクラフト傑作集』がオススメです(本作の原作も出てる。リンクは一番下)。
クトゥルー神話は中高生の頃に創元推理文庫のカッコいい『ラヴクラフト全集』を読もうとしたんですが挫折した気がする。恐らく文体が読みづらかったのに加え、当時は思春期特有の万能感を持ってたから、人間が旧支配者や人外に成すすべもなく殺されるというヤラれ展開が嫌だったんだと思う(子供だね)。でも知らん間に、旧支配者や人ではないものに成すすべもなくやられてしまう展開に、思春期の頃とは全く逆でカタルシスを感じるようになった。多分、加齢のせいだと思う。たとえばエイリアンで言うと、子供の頃はエイリアン達をやっつける『エイリアン2』が大好きだったのに中年になったら、人間は完全生物ゼノモーフに全く太刀打ちできず何とか宇宙に放逐して逃走する……という『エイリアン』一作目が至高!と思うようになりました。そんな感じでクトゥルー神話の旧支配者やバケモノにもエイリアンと似た強さや美しさを感じるようになりました。Jホラーの幽霊も全く倒せないところが好きだし。
ネタバレあり(というかネタバレして困るところとか無いと思うけど……)

 

 


人里離れた〈アーカム〉という土地の農場で幸せに暮らしていたガードナー
ある日突然、庭に不思議な見た事のない色の隕石が落下したのを境に、ガードナー一家は不思議な〈色(カラー)〉に心身が侵食されていく……。
そんな話。ストーリーは上の一文で事足りる。それ以上でもそれ以下でもない、お母さんが風邪引いた日にお父さんが珍しく作ってくれた食事みたいにシンプルなコズミック・ホラー映画。やろうと思えば10分くらいの短編映画で充分語り終える事が可能な物語。さっき「ネタバレなんかどうでもいい」と書いた理由はそれ。「宇宙から飛来した隕石から出た〈色〉に田舎の家族が滅ぼされる」これだけ。
侵略してくる〈色〉という存在の名状し難い斬新さと魅力。あと物語がシンプルなだけに登場人物やそれを演じる俳優達の魅力が味わい深い。
逆に言うと本作を観て「この映画って一体、何が面白いの!?」と思う人も多そう。特に凝ったストーリーとか伏線回収とかどんでん返し等、口で説明しやすい面白さを求めてる人が観ても面白くないかもしれない。YOUTUBEの10分で全ネタバレする動画とか好んで観る人にはちっとも面白くない気がする。
このアーカムという土地はラヴクラフトの他の作品でも頻繁に出てくる架空の土地。バットマンに出てくる、ジョーカーを始めとする精神異常の犯罪者を収容する精神病院アーカムアサイラムという名前はラヴクラフトアーカムから取ったらしい。それにしても「アーカム」って本当に良い響きの名称だよね……。
ガードナー家の父親、ネイサン・ガードナーニコラス・ケイジ)は若い時は画家を志してたらしいが歳取って地元に帰ってきた中年男性。仕事は何してるかよくわからんが牧場主かな?どういう訳かアルパカをたくさん飼っていてアルパカの乳を絞ったり食肉にもするつもりみたい……いや食肉はジョークか?よくわかんなかった。「牛や豚じゃなくて何でアルパカ!?」と思わされるし監督の妙なこだわりを感じる。父ネイサンは割と早い段階で〈色〉に蝕まれる。数十年前から大袈裟な演技で人気のニコラス・ケイジ、最初は抑えた演技だったが後半は如何にもニコラス・ケイジって感じのデカい馬鹿演技で暴れまくる。
母親テレサ・ガードナージョエリー・リチャードソン)は、ネットで何か取引する仕事を在宅でしている女性。彼女は速攻で〈色〉に侵食される。ネイサンとテレサは愛し合っている。
長女ラヴェニア・ガードナー(マデリン・アーサー)は思春期の少女らしく、父にちょっとだけ反抗したり水質調査で来たカッコいい青年のワード氏が気になったりする普通の女の子。愛馬を可愛がっておりウイッカン(現代魔女術)的な儀式にハマってる女の子。本作は彼女の儀式によって始まる。ワード青年に色目を使ってるのをママに軽く指摘された後、部屋で号泣してる場面も「え?そんな号泣するような事か?」と意外だった。このシーンといいウイッカンといい、やはり妙なこだわりを感じて味わい深い。この娘は一番最後まで〈色〉の侵食に対抗できていた。魔術の儀式のおかげか?凄く童顔なので子役かと思ったら24歳の女優だった。
長男ベニー・ガードナー(ブレンダン・マイヤー)は愛犬と大麻と宇宙のゲームが好きな、全体的に良い感じの少年。ラヴェニア同様、凄く童顔なので子役かと思ったら26歳の俳優だった。

次男ジャック・ガードナー(ジュリアン・ヒリアード)は6~10歳くらいの男児。ママ同様、早い段階で〈色〉に侵される。
学者ワード・フィリップス(エリオット・ナイト)は地下水の調査で訪れた青年。ラヴェニアに好かれるイケメン好青年。彼の名前は原作者の本名ハワード・フィリップス・ラブクラフトに似てるのでラブクラフト本人をイメージしてるんだろう。「〈色〉に遭遇して、奇怪な事件を書き記す使命を帯びた」って設定なのかもしれない。差別主義者だったラブクラフトを黒人の俳優が演じてるのも意識的な面白さだと思った。
原作だとワードのポジションの学者が主人公ポジションだった気がするが本作はガードナー家メインで話が進む。
老いた変人エズラは、ガードナー家の近所に〈Gスポット〉という名の猫の住む老人。元ヒッピーっぽい雰囲気の変わり者。アメリカのエンタメ映画では、便利キャラとしてマジカル・ニグロ(白人に尽くすためだけに才能を持たされた黒人のキャラクター)とかマジカル東洋人などが居たが近年は差別的だから消えた。『(500)日のサマー』のクロエ・モレッツなどのマジカル幼女などもいるが基本的には老人が知恵を授けるマジカル役になりがち。最近は「雑貨屋やコンビニエンスストアの白人の老いた店長」とか「白人の老いたホームレス」がマジカル役やりがち。何故か猫を飼ってる事が多い。彼もまたマジカル老人で、割と序盤から真実を見抜いており終盤でも解説してくれる。このやり方が最高だったが後述する。
メイン登場人物はこれくらい。後は市長と警察官と動物しか出てこない。

 

 

 
ガードナー家の庭に落ちた隕石。そこから名状し難い〈色〉が漏れ出て、周囲の人間の心身、生物や植物などにも影響を及ぼして侵略する。なお隕石落下の周囲では電話線や電波、スマホWi-Fi、電子機器が全て狂ってしまう。
〈色〉はカラー映画の便宜上、ピンクにしか見えないが一応「一見ピンクだけど、よく見たら何色なのか見たことない色彩」という設定らしい。地球には無い異星の色彩なのだろう。
精神と肉体、どちらか片方だけ侵略する設定ならありそうだが2つ同時というのが面白い。人間や動物の肉体が変質してしまう様、それによって小さな一つのコミュニティが不和になっていく様などが、ジョン・カーペンター監督がクトゥルー神話に影響受けて作った傑作『遊星からの物体X』(1982)と似ている(というか本作はほぼ『遊星からの物体X』)。『物体X』の場合は本体がよくわからんものの〈寄生生物〉という物理的な生物なのだが、本作の場合〈色〉という物質じゃないところが面白い。まぁ、この映画を観てると〈色〉というより明らかに〈光〉とか〈ガス〉っぽい表現なのだが、〈光〉が異性生物なのはよくある(『コクーン』とか……)。本作の場合、侵略してくる存在が〈色〉っていうのが凄みのある面白さを産んでいる。というか〈色彩〉という形態を取った異星人なのか、異星の兵器なのか全くわからないところも良い。これが悪魔とか悪霊といったオカルト的な存在ではなく、あくまでも「異星から落ちてきた隕石から出てきた色」という三次元に確かに存在する、ここに見に来れば誰でも見れる〈何か〉だというところが凄く良い。霊とか悪魔とかオカルトは大好きだが、ことクトゥルー神話に限っては一部の人しか知覚できないオカルト的な存在ではなく、誰でも観測できる恐ろしい存在が驚異っていうのが物凄く良い。どうせならビジュアルも光やガスっぽいビジュアルじゃなく、本当に物から物へ〈色〉が移り変わる描写してほしかった。
この作品の何分の一かを占める魅力は、登場時が〈色〉としか呼ばないところ。ここに値千金のセンスを感じる。不思議な存在というものは、その真実の正体も大事だが結局は観測者がどう表現するかによって全てが決まる。その正体以上に大事なのが、誰かが冴えた形容する事によって生まれる幻想だ。我々が全員持ってるスマホだが、こんなの存在知らない人が突然見たら完全に魔法とかオーパーツとしか思えないわけで、だが正体を知ってしまうと只の機械だ。UMAとしか思えない動物もいっぱいいる。キリンや象も当たり前の存在だが、もしキリンや象がどこかの山奥に数頭しか居なくてそれを初めて見た人が喧伝しても「首や鼻がめっちゃ長い生き物!?いるわけねぇだろ!そんなもの」としか思われない。誰も知らなければ魅力がある。だが象やキリンが学術的に分析されてしまと只の愉快な動物でしかない。〈色〉も同じだ、正体の説明もなく近所の老人の戯言や終盤一瞬だけ幻視する異星の光景から何かを推測するしかない。ラヴクラフト氏は84年も前によく、こんな「色が侵略してくる」という凄い設定を思いついたよね。「宇宙から落ちてきた隕石から出てきた〈何か〉が地球を侵略」……とか、パッと聞いたら「よくある話じゃん」と思うかもしれない、だが84年前だからね。自分が84年前の作家になった気持ちに本気でなって想像すると、その凄さがわかる。絶対に思いつかない。というか他の作品の旧支配者とかクトゥルー神話のバケモノとか、見た目も能力も存在のデカさも、他のエンタメのモンスターとは全く違うオリジナリティありすぎる存在だ。それが未だに人を魅了し続けてるんだから凄い。
ガードナー家の近所を物理的に侵食した〈色〉は、更に動物たちやガードナー家や近所の変わり者老人エズラの精神をも侵し始める。
最初に〈色〉の奔流をモロに見てしまった幼い弟とメンタル弱そうなママが不調をきたす。そして愛犬とアルパカ。
パパも、本当に徐々に怒りっぽくなっていく。皆が変調していく様子をじっくり描いてるので(何しろこれしかストーリーがないので描きたい放題だ)。最初は「久しぶりにニコラス・ケイジ見たけど割と普通のパパ役だな」と思ってたけど後半になると、もういつものアホみたいなニコラス・ケイジに戻った。「まずい!まずい!」「うーん!なるほど!まずい!」とか言って桃を食い漁っては全力投球でゴミ箱に捨てる。「なるほど、後半のニコラス・ケイジ演技を引き立てるために前半では、わざと全力で自分を抑えて善良なパパ演技してたんだろうな」と思い知らされた。終盤だと「いい加減にせい!」ってくらいニコラス・ケイジ全開になるので「ひょっとして、これがやりたくて、この映画作ったのでは?」とすら思った。
昼だと思ったら夜になったり「時間の流れがめちゃくちゃになってる」という設定もワクワクする。だが、この土地の時間だけが他所より違ってるとも考えにくいので、この辺は「〈色〉に侵された人の精神がおかしくなって時間感覚も狂ってる」って事なんだろう。大麻でブリった人が時間感覚わかんなくなる感じなをイメージしたのだろう(僕は大麻の事よく知らないけども)。
他には、やはりウイッカを嗜むゴスっぽい長女ラヴェニアが、かなり良かった。この女優、本作で初めて観たけど躁鬱っぽい雰囲気がめちゃくちゃ良い。
〈色〉に捕まったママと末っ子が一体化して屋根裏部屋にとりあえず隔離して、末っ子と合体したママを診てる皆が衰弱していく様子や、パパがショットガンでママと末っ子を殺す……と見せかけて殺さなかったり、長女を差し出して物体X的な変態を遂げたママに食われそうになる辺りも非常に良い。この辺はゾンビ映画だ。そう、本作はゾンビ映画の要素もたくさんある。反抗気味で土地から逃げようとしてた長女なのにパパの悲劇的な最後に号泣して家に残る宣言する辺りも意外で良かった。まぁ、ラヴェニアも精神を〈色〉にやられて正常な判断できなくなってたんだろうけど。
……さっきから「良かった」と言うばかりで一体何がどう良いのか上手く説明できてない気がする。ストーリー自体はシンプルすぎる一本道なんだが、細かい描写や展開が、ステレオタイプでなく、登場人物が生きた感じして良い。わざわざアルパカ借りてきてるのも面白いし。では何故、本作の色んなところが良いかを上手く具体的に説明できない、まぁいいか……別に説明しなくても。
イケメン黒人学者ワードと警官が、壊滅したガードナー家を半ば諦めて、近所の変わり者じいさんエズラを尋ねると、老エズラ本人は椅子に座ったまま伊藤潤二的なミイラになっており、ジジイが吹き込んだ音声テープが「〈色〉の侵略」について滔々と述べる音声が再生され続けてる辺りもめちゃくちゃ良い。普通だったら狂いながらかろうじて生きてるジジイが口で説明してワード達に襲いかかって撃たれて死ぬ展開を描くはずだが、本人は既に死体になってて「〈色〉の侵略について語る録音テープが再生され続けている」っていう回りくどさが、たまらない。警官は狂った木に殺される。
ニコラス・ケイジ演じるパパはさっき一回死んだがワードが戻ってくると普通にカウチに座ってる。ワードが「あんた死んだはずだろぉぉぉ!」と絶叫するのも良いし、起き上がったニコラス・ケイジが、劇中、家族が言ってた台詞を家族の音声で喋るのも凄く良い。この辺り一帯に蔓延した〈色〉が、一帯で発せられた音声を記憶しており特に意図もなく機械的に再生しただけって雰囲気が良い。
また、前半の家族や動物達は魅力的かつ幸せそうだったので「皆、死んじゃって可哀相」と一抹の寂しさも感じた。
そして〈色〉の奔流がワード青年に見せたビジョン!
〈色〉の母星だと思われる異界の景色、玉座を思わせる岩……それをワードが幻視させられるシーンも非常にワクワクさせられた。そして、そのワードによるラストのシメも味があった。
この監督はラヴクラフト好きらしいし是非、制作費を積んで他のも映画化して欲しい。
本作のCGも、別にショボいわけじゃないけど割とマンガっぽかったし、本作は細かい描写が妙に上手かったから『狂気山脈』みたいな壮大なものじゃなく、僕が好きな『家のなかの絵』などの、本作同様に地味かつ観客に想像させる感じの作品が合ってる気がする。スティーブン・キングばっかり映像化するのもいいけどラヴクラフトも、もっとメジャーな映画化してほしい。そしていつの日かMCUみたいなクトゥルー・シネマティック・ユニバースが展開しだしたら最高だ。

何か、何ら具体的な褒めが書けなかったが、本作が合わなかった人に「ここがいいよ」と幾ら具体的に言っても多分まったく通じない気がするからこれでいい。
そもそも僕はジョン・カーペンターデヴィッド・リンチクリント・イーストウッド、それに昔のクローネンバーグやトビー・フーパー、あとホラー全般とアメコミ映画などB級映画(もしくはかつてB級だったジャンル)が一番好きなので本作は正にそんな感じで好きに決まってた。

 

 

 

そんな感じでした

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Color Out of Space (2019) - IMDb

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