『アビゲイル』(2024)/アビゲイルや主演メリッサ・バレラやテンポの良さで楽しめはしたが、『スクリーム』リブート2作の時ほどの最高さは足りなかった🩰
原題:Abigail 監督:マット・ベティネッリ=オルピン&タイラー・ジレット 脚本:ガイ・ビューシック、スティーヴン・シールズ 制作:ジェームズ・ヴァンダービルトほか 音楽:ブライアン・タイラー 製作国:アメリカ 上映時間:100分 公開日:2024.4/19(日本は2024.9/13)
「誘拐した幼女がヴァンパイアだった」と説明が簡単な、この映画。
先週くらいに観たが、未だに『ツイン・ピークス:リミテッド・シリーズ』再見&再研究を続けてたからブログ更新も滞っていた。
監督のマット・ベティネッリ=オルピン&タイラー・ジレット、脚本のガイ・ビューシック、主演のメリッサ・バレラ、彼らは90年代に人気を博したスラッシャーホラー『スクリーム』シリーズの続編兼リブートとして『スクリーム』(2022)(※第5作目)続く『スクリーム6』(2023)が大ヒットして、シリーズは見事復活した。あとこの監督&脚本は、サマラ・ウィービング主演のホラー『レディ・オア・ノット』(2019)の布陣でもある(これはブログに感想書くの忘れてたから近く再見して書く)。
主人公は前述のメリッサ・バレラ、そしてその妹役は現在大ブレイク中のジェナ・オルテガが演じたカーペンター姉妹を新たに主人公として盛り上がった。
残念ながら日本ではビデオスルーになってしまったがめちゃくちゃ面白かった(というかもはや90年代の時より面白い)。
5、6と大ヒット、ジェナ・オルテガは大ブレイク……ということで第7作目も楽しみにしていたのだが、メリッサ・バレラがSNSで「西側諸国はイスラエル側の情報しか出さない」とパレスチナ支持を表明した事で『スクリーム』シリーズを制作していたスパイグラスはメリッサ・バレラを一発解雇。同日ジェナ・オルテガも辞退。数日後に次に監督するはずだった『ハッピー・デス・デイ』(2017)&『ハッピー・デス・デイ 2U』(2019)のクリストファー・B・ランドンも辞退。という事で『スクリーム7(仮)』は半壊した。昨年は大ベテランのスーザン・サランドンがパレスチナ支持して事務所を解雇されたりと、こういった事が多かった。
そんな中、『スクリーム』(2022)&『スクリーム6』(2023)の監督&脚本&主演が作ったのが本作なので「もうこれが『スクリーム7(仮)』みたいなもんだ」という気持ちの高ぶりと共に観た。
ネタバレあり
主人公ジョーイ(演:メリッサ・バレラ)を含む6人の男女の犯罪者集団が大富豪の12歳の娘アビゲイル(演:アリーシャ・ウィアー)を誘拐する。
チームを雇った首謀者(演:ジャンカルロ・エスポジート)は「身代金を受け取る明日まで、この屋敷で娘を見張れ」と廃屋となった豪邸で一夜を明かすジョーイ達と囚われたアビゲイル。
するとチームの一人が首を刎ねられて死んでおり、次々と犠牲者が増えていく――
みたいな話
……というか「アビゲイルが吸血鬼」であることは予告編で既に報されてるので「途中で映画のジャンルが変わった!?」といった新鮮な驚きはない。
作ってる方もそれ(アビゲイルが吸血鬼だと観客が知っているということ)はわかってるので割と早い段階で正体を現す。
その前に、まず映画はアビゲイルを睡眠薬で眠らせて誘拐するところから始まる。
誘拐チームは互いの素性も知らない。
主人公ジョーイはシャーロック・ホームズ的な分析でメンバーの過去を次々と言い当てていく謎の特技を披露。まぁキャラ紹介。このジョーイ役が前述の『スクリーム』(2022)&『スクリーム6』(2023)をイスラエル批判して一発解雇になったメリッサ・バレラね。
そうこうしてると元刑事のメンバー、フランク(演:ダン・スティーヴンス)が「アビゲイルの父が裏社会の大物」だということをアビゲイルから聞いてしまい、報復に怯えるチーム。
怯えつつも身代金を貰えるまでは粘って逃亡しようと監視に気合を入れる誘拐チーム。
しかし運転手役のメンバー(演:アンガス・クラウド)が何者かに首を刎ねられて死んでいた(このアンガス・クラウドは本作の完成前にオーバードーズかなんかで?亡くなってしまったそうだ。まだ若いのに)。
「アビゲイルの父の組織が放った殺し屋が既に屋敷内に!?」などと怯えるチーム。
そしてチームで一番まともそうだった元狙撃兵の黒人男性メンバー(演:ウィリアム・キャトレット)も知らないうちに殺されており捕食者の姿も見えぬまま、またたくまに四人にまで減らされてしまった誘拐チーム。
一行はアビゲイルに訊きに行くが、アビゲイルはヴァンパイアとしての正体を現し襲いかかってきた。ビビったチームはアビゲイルを再び部屋に閉じ込めて一旦、逃げる。
もうこの誘拐計画はめちゃくちゃだ!と逃げようとするが、屋敷の窓には分厚い鋼鉄製シャッターが降りており誰も屋外に出られない。
どうやら、自分たちはアビゲイルを誘拐したのではなく、アビゲイルが狩って吸血するための獲物だったと気づく誘拐チーム……。
中盤は、彼ら誘拐チーム vs.アビゲイルの戦いを中心に描かれる。
吸血鬼に対抗すべく、ヴァンパイアの弱点となる十字架、ニンニク、杭……など色々用意する。しかし吸血鬼であるアビゲイルには上手く杭を刺すことができず、他の弱点も全て……千年もの間に克服されていたか又は最初から効かなかったのか通用せず逆にボコられてしまい一行は再びアビゲイルを部屋に閉じ込めて逃げ帰る。
しかしアビゲイルは部屋の外に出ており、一行に襲いかかる。
そういえば、この辺で誘拐チームの筋肉担当(演:ケヴィン・デュランド)の背後の暗闇からアビゲイルがおずおずと歩み寄るショットは本作で一番カッコよかった。
あと単純にバレエのユニフォームに着替えたアビゲイルがバレエを踊りながら襲いかかってくるのが楽しかった。
アビゲイルの狩り場だし、部屋に抜け道があって閉じ込められたフリしつつ誘拐チームを一人づつ惨殺してたんやろね。
ちなみにアビゲイルの強さは……屈強な鍛えられた人間の男性より少し強いくらいの微妙な強さ。キャプテン・アメリカよりは余裕で弱い……熊より弱いかも?。他の映画に出てくるヴァンパイア映画のそれのように人間の手足を引っこ抜くほどの剛力はない。物理的な強さよりも「噛んだ相手を自在に操る」というヴァンパイア固有能力の方が強い。しかし弱点の陽光もまたヴァンパイアゆえの弱点(というかヴァンパイアって今思えば弱点多すぎね)。
そういえば、悪くはないがかといって良くもなく記憶に全く残っていない『M3GAN/ミーガン』(2022)も殺人幼女ロボット・ミーガンが踊る10秒間くらいだけ凄く面白かった。幼女モンスターがダンスを踊るというのは無条件に楽しいものかもしれない。
ハッカー担当の女性メンバー(演:キャスリン・ニュートン)は、どっかで観たと思ったら『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023)でのスコット・ラング/アントマンの愛娘キャシー・ラング役の、いじめっ子顔の女優さんだった。本作でもシャープかつ丸顔でポップな魅力が凄い出てて「lkおれはディズニーが獲得したい顔だわ」と思った。
誘拐チームは何度も敗れつつも再びアビゲイルを牢(古いエレベーター)に閉じ込めることに成功。
……しつつもアビゲイルは牢もブチ破り、また誘拐チームを狩りつつ主人公ジョーイ達に迫る。
で、後半は更に幾つかツイストを加えつつラストバトルを迎える。
キャラ紹介を素早く済ませて、いきなり本題に入り、予告編から想像する展開も中盤で終わって意外な後半に投入するのは、さすがの『スクリーム』(2022)&『スクリーム6』(2023)制作陣による現代エンタメ映画、と感心した。
……だけど『スクリーム』(2022)&『スクリーム6』(2023)は生身の人間オンリーで異常な展開(か弱い女性が何度も腹を刺されても元気に戦ったり)が繰り広げられる『スクリーム』(2022)&『スクリーム6』(2023)と違って、本作の場合ヴァンパイアものなので「ヴァンパイアが大暴れするにしてはおとなしいな……」と思ってしまった(まだ幼女のヴァンパイアだから、そこまで強くないというのもあるかも)。
同じ監督&脚本の『レディ・オア・ノット』(2019)や『スクリーム』(2022)&『スクリーム6』(2023)同様に、2人の女性キャラはやたら血塗れになったり汚れたりする。この監督は、この女性メッシー描写にこだわりありそうだね。
そんな感じで、出演者やアビゲイルのキャラや作品設定など、全体的に最後まで楽しめはしたけど、『スクリーム』(2022)&『スクリーム6』(2023)ほど最高じゃなかったなぁというのが正直なところ。
だけど、この監督&脚本やハリウッド干されかけてる主演メリッサ・バレラは今後も応援していきたい。
そんな感じでした
〈マット・ベティネッリ=オルピン&タイラー・ジレット監督作〉
『スクリーム』(2022)/もともと特殊なスラッシャーホラーを更に特殊なメタホラーにして同じキャラと町で無理矢理続けた結果もはや何もしてない日常シーンも全部おかしい異様な映画になってて可笑しい。あと”エレベイテッド・ホラー”なる新しい言葉🎭🔪 - gock221B
『スクリーム6』(2023)/前作同様にラストバトルが爽快で面白い新シリーズ。登場人物の身体がランボー並に頑丈🎭🔪 - gock221B
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Abigail (2024) - IMDb
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『ヒットマン』(2023)/一般人が暗殺者のフリして依頼人を逮捕する……という脅威の実話をリンクレイターとグレン・パウエルが映画化。おもろい!最高にアメリカ。理想の自分を演じれば本体もそこへ引っ張られる🦻
原題:Hit Man 監督&脚本&制作:リチャード・リンクレイター 主演&脚本&制作:グレン・パウエル 原案:スキップ・ホランズワースがテキサス・マンスリー誌に執筆した記事「Hit Man」(2001) 配給:Netflix 製作国:アメリカ 上映時間:113分 公開日:(日本は2024.09/13)
先月アマプラで『ツイン・ピークス』が配信開始されたから全30話+18話、あと映画版と、全部観返して記事にしようと色々しててブログの更新が停滞気味になってます。いま旧シリーズ全30話と映画と新シリーズ4話まで再見できたところ。このブログ一ヶ月で8回更新する目標でやってるので半月以上も停まっててヤバい。どれくらいの人が待ってるかは知らんが……今月は全体的にツイン・ピークス全体にかかりきりで更新少なめです、とあらかじめ言っておこう。
今かかってて評判いい映画といえば『エイリアン:ロルムス』(2024)、フェデ・アルバレス監督も好きだし。だが近所でやってない。休日に電車乗ってまで観に行くのはしんどい。代わりにもっと観たかった本作はやってたのでこっちを選んだ。『エイリアン:ロルムス』(2024)もきっと面白いだろうが、逆に言えば観なくても何となく内容は想像つくし。
”ヒットマン”といえばIOI(IOインタラクティヴ)の暗殺ゲーム『ヒットマン』がある。僕はこのゲームが死ぬほど好きで、この8年間くらい『ヒットマン』リブート三部作しかゲームしてないってくらい好きだが、本作には関係ない。本作も楽しみだが「じゃゲーム版の三回目の映画化の時にタイトル被るじゃん」と思ってたが本作の原作は2001年の記事なので、まさかのゲーム『ヒットマン』シリーズ(2009-)より先だった。
リチャード・リンクレイターが監督で、今ブレイク中のグレン・パウエルが主演しつつリンクレイターの友人でもあるので脚本や制作にも参加。
これまたリンクレイターの友人である有名な犯罪系ライター、スキップ・ホランズワースがテキサスの地元紙に書いた記事『Hit Man』(2001)を元にしたロマンチック・サスペンス・コメディ映画。
1980年代後半から1990年代にかけて一般人でありながらヒューストン警察のおとり捜査に協力して〈架空の殺し屋〉を演じて70人以上を逮捕に導いた大学教授ゲイリー・ジョンソン(1947-2022)。まるで映画のような彼の実話を元に映画化した。ちなみに本物のゲイリー・ジョンソンは本当に囮捜査していただけなので誰も殺していないし2022年に75歳で穏やかに亡くなったらしい。
監督のリンクレイターは日本では『スクール・オブ・ロック』(2003)が一番有名か?……と思ったが今となっては昔過ぎるので『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)が有名か、それにしても10年前だ。これは一人の子供を12年間撮影し続けたドキュメンタリーで話題になったが観てない。
あとロトスコープ技法で作られたアニメ映画『ウェイキング・ライフ』(2001)、『スキャナー・ダークリー』(2006)や、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995)、『ビフォア・サンセット』(2004)、『ビフォア・ミッドナイト』(2013)のビフォア三部作なども有名。この監督の映画をよく観てたのは2000年代で近年すっかり存在を忘れてたのでこのブログにあるリンクレイター映画の感想は『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)しかない。
アヴリル・ラヴィーンも出てた事しか覚えてない『ファーストフード・ネイション』(2006)で、まだ中学生だったグレン・パウエルを初めて起用し、前述の『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)で大人になったグレンと意気投合して友人になり、それで本作を一緒に書いたらしい。
グレン・パウエルは『トップガン マーヴェリック』(2022)でブレイクして『恋するプリテンダー』(2023)、『ツイスターズ』(2024)……とかヒット作ばかりに出ていて今「最も男受けするナイスガイ」と評判。
ネタバレあり
2匹の猫と静かに暮らすバツイチの大学教授、ゲイリー・ジョンソン(演:グレン・パウエル)。
彼は、大学で心理学と哲学を教える傍ら、副業として地元警察のおとり捜査に協力していた。暗殺の依頼人をしてくる一般人の好みに合わせた偽の殺し屋に扮し、何十人も逮捕へ導いていくゲイリー。
ある日、専業主婦のマディソン(演:アドリア・アルホナ)が支配的な夫の殺害を依頼してきた。ゲイリーは”セクシーな殺し屋ロン”に扮して彼女の事情を聞くうちに、逮捕させるはずのマディソンに同情して「暗殺は考え直して、この依頼金で家を出て新しい人生を送れ」と見逃してしまう。
これが切っ掛けで、ロン(ゲイリー)とマディソンは恋に落ちるが──
という話。
「一般人が副業で暗殺者を装って警察の囮捜査をする」っていう設定が驚きだが、実話なので仕方がない。
「エージェントやギャングの暗殺ではなく、”金さえ貰えば誰の依頼でも受け、誰でも殺す。”などという”映画に出てくるような暗殺者”は存在しない」という前提がある。しかし映画やドラマなどで毎日のように”暗殺者”を観ているアメリカ人からすれば「居てもおかしくない」と思う人が多いのだという。
確かに、こういう都市伝説っぽい”暗殺者”についてあまりまともに考えたことはない。でも、銃社会であるアメリカなら「何となく居るのかも~」とボンヤリ思ってしまう人がいてもおかしくないのかも。だが冷静に考えると、「殺して、死体を処分もする」なんて仕事、端金ではリスクが大きすぎて成り立たないだろう。
それでも「暗殺者はいるんだ!」と思い込んだ市民からの暗殺依頼はちょいちょいあるようで、依頼を受けたらゲイリーは依頼人をSNS等でリサーチし、依頼人が信じそうな”暗殺者”に扮装し、その扮装に合った演技をして依頼人に信じ込ませ、暗殺の依頼を口頭でバッチリ受け、殺人依頼の金を受け取る。
ワイルドなタフガイ、殺人学の教授、神経質そうな変態暗殺者、陽気なヒャッハー暗殺者……ゲイリーは、依頼人が「こいつはホンモノだ……」と思いそうな暗殺者キャラを作り上げて依頼現場に出向く。そして相手によっては恐ろしい作り話なども披露する。依頼人は元々、暗殺者を信じてるし更に信じたがってるものだから「やっぱり本当にこーいう感じの暗殺者は居たんだ!」とあっさり信じてくれる。
その音声が録音できて現金を受け取ってしまえば証拠はバッチリ。カフェから出た依頼者は”殺人教唆”で現行犯逮捕される。
本作の主人公ゲイリー・ジョンソンのモデル、本物のゲイリー・ジョンソン(1947-2022)は、これで70人以上を捕まえたというのだから驚きだ。
捕まえた依頼人は、裁判を受ける。その裁判には素顔のゲイリーも毎回訪れる。
依頼人に睨まれたり、依頼人の弁護士に口汚く罵られたりもするようだが、ゲイリーは割と平気。
最初は「こんな囮捜査とか怖くないのかな?」「殺しを依頼するような危ない奴を罠にかけ続けて、裁判で素顔も名前もバレて、恨まれて危険じゃないのかな?」と思ったが、殺しの依頼をしてくるような市民は大抵アホだし、ゲイリーを殺したら自分が恨んで殺しましたと言うようなものだし割と平気みたい。
またモデルとなった本物のゲイリーはベトナム戦争帰りの男だそうだしアホの市民など怖くはなかったのだろう。
この囮役は、汚職やDVなどで署でも嫌われ者の警官ジャスパー(演:オースティン・アメリオ)がやっていたが、問題を起こして停職になり、ある日突然ゲイリーが代わりにする事になった……というのが本作の冒頭。
急遽だったが、ゲイリーは本職である心理学を活かし、たまたま演技や機転も上手かったので上手くいき。この件に当たる他のスタッフもジャスパー嫌い、ゲイリー大好きなので問題なく、ジャスパーが囮をしていた時よりも逮捕率が上がった。
ゲイリーは「囮捜査は俺の舞台。犯人逮捕が観客の喝采さ」と確かな、やりがいを感じて次々と依頼者を逮捕していく。
グレン・パウエルが演じるゲイリーが次々とあらゆるタイプの暗殺者に変身し、次々と捕まる依頼者たちのマグショット(「ママを殺して欲しい」と格ゲー『モータルコンバット』を差し出す少年も)と、単純に面白い前半。
しかも、これが全て事実なんだからな。「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものでね。この記事を読んだリンクレイターとグレン・パウエルが「映画にしよう!」と意気投合したのも頷ける楽しさ。
ある日、「抑圧的な夫を殺して欲しい」というマディソン(演:アドリア・アルホナ)というセクシーな主婦の依頼を受けたゲイリー。
ゲイリーは、マディソンが好きそうだと思ったのか”ロン”というセクシーな色男系暗殺者に成りきっていた。
マディソンは束縛系の夫にありとあらゆる事を禁じられており悲壮感が漂っていた。
ゲイリーは同情したのか、金を受け取らず「家出して、その金で暮らせ」と言い、依頼を途中でキャンセルしてしまう。
「あんたはセラピストやカウンセラーじゃないんだよぉ?なんで途中で逃がしちゃうのさ」と仲間の婦人警官に注意されるゲイリー。
ロン(ゲイリー)の忠告通り、家を出て離婚を進めるマディソンは新しい生活を始めていた。マディソンとロン(ゲイリー)はすぐに惹かれ合い付き合い始める。
ゲイリーは「こんな事もあろうかとSEXの腕も磨いててよかった」とマディソンと連日SEXしまくる。なんか単純に本物の暗殺者じゃなくても、本物の暗殺者よりもある種の”超人”に思えてくるゲイリーだった。
マディソンは女の勘か「貴方、良い人すぎる。本当は殺し屋じゃないんでしょ?」と言う、僕だったらここで正体を明かした方がいいと思うんだが、ゲイリーは暗殺者ロンとしての演技を続けたまま交際を始めてしまう。「マディソンが好きなのはセクシー暗殺者”ロン”だから、ロンの仮面を脱いで物静かな猫好き教授ゲイリーの正体を明かしたら恋が終わっちゃうかも」と思ったのかもしれない。
……というところで本編の半分くらいで、あとはロン(ゲイリー)とマディソンの恋に、マディソンに捨てられた嫌な夫、ゲイリーに囮捜査の座を奪われた汚職警官ジャスパーなどが絡んでくる中盤。
そしてピンチ……をいつもの機転と演技ですり抜けた……と思ったら更なる大ピンチが!という終盤を迎えて上手いこと終わる。
大体の映画は前半でほぼ全ての面白い設定を吐き出し、中盤で上手くトラブルが大きくなり、そして意外性や示唆に満ちた終盤で如何に見事に終わるか。
この終盤で映画全体の良さが全て決まる。というか中盤くらいまで幾ら面白くても終盤がダメだと全部ダメになっちゃうんだよね印象が。逆に言うと終盤が良ければ途中がグダグダでも後から良く思えてくる……まぁ「後半良いけどそこまでがつまんなかった~」なんて殆ど無いけど、後半が良い映画は前半も大抵おもろいからね。
その点、本作は……面白かったですねぇ。さすが大ベテランのリンクレイター……といったところか。ねばり腰で、ストーリーを鷲掴みして振り回し続けて見事に着地させた感じ。多くのリンクレイター作品の中でもトップクラスに良いかも。去年から期待してたけど期待通り面白くて嬉しかったわ。
ちなみに本物のゲイリーは囮捜査において一人も殺さなかったそうで本作は「終盤だけちょっとフィクションにした!」だそうです。
前半、ゲイリーの別れた妻が「なりたい自分を演じているうちに、そのペルソナが本人に取って代わる」みたいな……アズイブの法則の話してたけどあれが正に本作のテーマなんだろう。僕もそういうことを最近考えてたところだったので、なりたい自分像を演じていき本体の自分を理想に近づけよう、と素直に思いました。
観に行く時間がなくても割とすぐNetflixに来るだろうから、来たら観てみたら?おもろいから。
そんな感じでした
〈リチャード・リンクレイター監督作品〉
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)/魅力を説明しにくいがとにかく傑作! - gock221B
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Hit Man (2023) - IMDb
Hit Man (2023) | Rotten Tomatoes
ヒットマン - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
『Chime』(2024)/45分間でサイコパスと幽霊どちらも楽しめる。今回の全く映さない幽霊表現いい🔪
監督&脚本:黒沢清 製作国:日本 上映時間:45分 製作:Roadstead 企画&配給:Sunborn 公開日:2024/08/02
新しい日本の謎のメディア配信プラットフォーム〈Roadstead〉のオリジナル作品第一弾として撮られた短編映画で、黒沢清ファンの間で「黒沢清の、どうやったら観れるかわからん新作」と言われてたやつ。
「まぁ、そのうち劇場で短期間公開されたりソフト化されたりRoadsteadが潰れて他のサブスクとかに売られるだろ」と思ってたら案の定、劇場公開された。
上映時間が短い(45分)せいか鑑賞料金は1,500円と安めだった。
「短編かぁ」と思ったが次にいつ観れるかわからんので観に行った。
そういえば11年前に『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』(2013)という短編映画(ストーカーしてくる柄本佑を主演女優が近接格闘技でやっつける不思議な映画)も観に行って楽しかったが全くソフト化されてないので行ってよかった……いま調べたら映画美学校の作品集に収録されてAmazonで売ってたからGetしとこう。
『ビュー……略』は売ってたが他の短編は全く売ってないので短編の類はやはり観に行っといた方が吉。
ネタバレあり
今回は完全に全部書く系のネタバレなので観る予定の人は御注意
料理教室の講師として働く主人公・松岡卓司(演:吉岡睦雄)。
ある日、生徒が「誰かがチャイムのような音を僕の脳に送ってきている」という言い、その日から松岡の周囲が狂い始める――
そんな話。
黒沢清作品の主人公は強力な意志を持った超人(役所広司、哀川翔とか)またはサイコパス(西島秀俊、香川照之とか)が多いけど、この主人公・松岡は過去の黒沢作品主人公のようなカリスマ性はない。
顔や髪型や全身のフォルムは、Dr.マシリトこと、故・鳥山明先生を育てた鳥嶋和彦元編集長の若い時……の似顔絵に似てるので『鳥山明物語』とかを作る時は是非、鳥嶋役をしてほしい感じのルックス。
声も、普段の声も大声出す時も妙に甲高い不快な高音で、主人公っぽい要素はない。
今までの黒沢作品だったら、ある日突然おかしくなって殺されたり又は自殺して消えてしまう脇役という感じ。そんな今までだったら黒沢映画の脇役だったであろう男を主人公にして短編にした感じ。
料理教室で一人ちょっと様子のおかしい男子生徒(演:小日向星一)がいる。いつも憤懣(ふんまん)やるかたないといった怒ってるかのような表情でぶすっとしており女性ばかりの他の生徒から少し離れている。
玉ねぎをみじん切りにしすぎて松岡に注意されたり、食材を炒めすぎて松岡に注意されてたりする。「大体わかるだろ」って塩梅が全部に対してわかってないので、こんな生徒教えるの嫌だろうな……という感じが強い。他の生徒から離れて調理してるので松岡に「こっち来たらどうせすか、皆で料理した方が楽しいですよ」などと言われる。こんな幼稚園みたいなこと言われてる時点でキツい。かと思えば突然、別に松岡が攻めてるわけでもないのに「僕だって試しに入学しただけで別に料理したくて来てるわけじゃないですよッ!」と激昂したりする。明らかに周囲に着いていく気もないくせに周囲の呆れムードだけは人一倍敏感に察知してキレるのだから手に負えない。こんな決定的にヤベえ奴と喋ろうと思う者は居ないのでより周囲と距離ができる悪循環だ。青年がおかしなところを見せる度に松岡は「……あぁそうですか、では先程の続きをしましょう」と機械的にスルーする。これはこれで青年みたいなタイプにしてみれば逆ギレしたくなる対応な気もするが、松岡からしてみても金払って来てる奴に「帰れ」と強く出るわけにもいかないしスルー以外に対処のしようがない。
こんなヤバそうな青年が包丁を常に手にしているのだから凄く嫌な感じ。
黒沢清の映画なので虫を顕微鏡で見ているような冷たい静謐さを伴った映像だし。
青年はある日「チャイムのような音が聞こえませんか?誰かが僕にメッセージを送っているんです」と統合失調症っぽい事を言い始めて「いよいよヤバい」という感じだが松岡は「そうですか?(耳を澄ますジェスチャー)……聞こえませんね、では先程の続きをしましょう」といつものようにスルーしようとするが、青年は「あー!先生、信じてませんね!?わかりました。いいです証拠を見せてあげます」と言って包丁を自分の首元に20cmくらいズブズブズブ~~と刺し即死、絶命する。
包丁で自害するシーンって首元でシャッと動脈を切り裂いて血がバーっと出るシーンが多いがそれはもう記号化した感がある。本作ではズブズブズブ~~と妙にリアルな速度で人体に金属を埋めていくというシーンは、よくありそうでない珍しい死に方だった。「人体に、そんなに深く刺さるもの!?」という驚きと生理的嫌悪感が湧いた。実際には骨とかが邪魔で、ある一定以上は刺さらない気がするが本作では信じられないほど深く刺さってた
恐怖で絶叫する松岡や生徒たち。
後で刑事(演:渡辺いっけい)も捜査に来るが普通に目撃者が多い自殺なので刑事にできる事は何もない。
しばらくは動揺していた松岡だったが夕方には「お疲れ様でした」と同僚に挨拶して料理教室を出て、レストランの一回目の面接を受け、帰宅して妻子と食事ながら談笑する松岡。教え子が鮮烈な自殺した事はすっかり頭から消えている。
松岡はなかなか良い家に住んでおり、妻や高校生くらいの?息子もいる。単純に「東京に妻子と一軒家に住んでて凄い」と思わされる。料理の先生がこんな家に住めるのか?という感じもするが実家または妻の実家が太いのかもしれん。黒沢清作品の登場人物は、どんな職業でも大抵いい家に住んでるのであまり考えても仕方ない。
別の日、松岡は女生徒(演:天野はな)にマンツーマンで鶏肉の捌き方を教えていた。
女生徒は鶏肉が苦手らしく「……やるんですか?」と不安そうに言う。
松岡は先生なので「とりあえず一回やってみましょう」と促す。
女生徒は「先生がやれと言うならやりますけど……笑」と言う。
何かおかしい。女生徒は「やりたくないのに松岡がやれと言うので仕方なくやっている」という空気ができた。
女生徒は捌こうとするが鶏肉と包丁を手放し「やっぱり苦手です!なんかブニブニしてるし……これ絶対やらなきゃいけないんですか?」と言う。
なるほど、確かに羽がむしられてブツブツした鶏肉は少し気持ち悪い感じもあり苦手だという人は多い。鶏皮食べたくない人とかね?僕は鶏肉大好きで主食にしてるので斬るのも喰うのも平気だが、鶏肉の調理は気持ち悪くて扱いたくないという人が居ても無理はない。
松岡は青年の時と同じように「……無理なら、そこは省略しましょう」と言い先に進もうとする。確かに、どうしようもないのでこれしか言いようがない。
すると女生徒は「えぇ!?省略されると馬鹿にされてる気になります!」と言う。
まるで怒ったかのように。まるで松岡がこの女生徒に理不尽な事でも強いたかのように。松岡を責めている声色、表情、仕草。
妄言を受け流したらキレて自殺した青年と同じように、この女もヤバい奴なのか?
これで、ここまではまだ普通だった料理教室の雰囲気が一気にざわっ……と変わった。
女生徒は「これをやらなきゃいけない理由を教えて下さい。私理屈で説明してくれないと納得できない性質なんで」と言い、鶏肉を持ち上げて「生きたままの鶏なら理解できますが……」と明らかに奇妙な事を言いシンクに投げつけ「中途半端に処理してあるから余計気持ち悪い」「手みたいな部分が羽だったとこですか?」「なんかじっと見てると人の死体みたい……」と、物理的精神的に鶏肉をディスり始める。
女生徒の理不尽な言動、態度や「食材を侮辱するのか!?」という日本人的な怒りによって観てるこちらの「この女、腹立つな」という気持ちが頂点になった瞬間。
松岡は文句を言い続ける女生徒の背中を包丁で深く刺す。
一発では死なないので女生徒は狼狽し悲鳴を挙げて逃げようとするが松岡は女生徒が絶命するまで刺して殺す。
青年と同じように女生徒が豹変して凶行に出ると思ったら松岡だったとは。
意表を突かれた面白さと同時に「『この女ブッ殺せばいいのに』とこちらが思ったタイミングにバッチリ合わせて虐殺させるとは……しかも巻き戻してもう一度観たいくらい殺人を快感に感じてしまっている……」と、自分の黒い欲望に気付いてハッと我に戻った。多分そう思わせるためのシーン。
見事にやられた。
松岡はどこかにぶつけたのか絆創膏を手に貼り、女生徒の死体を野原に埋めに行く。
松岡の妻(演:田畑智子)は、明朗快活な主婦だが、食事中ゴミの空き缶を庭に持っていき、全て踏んで潰して空き缶入れボックスに捨てる。
まず持っていく時から庭に出てからもずっと空き缶のガラガラ音が大きくて不快。
というか缶の量が多すぎるし(コンビニで出る1日分くらい多い)このシーンは短いスパンで2回もあるので「大量に溜めてまとめて捨てたのだろう」という線はない。理由はわからないが結果から見ると「とんでもない量の缶の飲料水を消費する三人家族」という事になる。
しかも食べ終わってゴミ出しすればいいのに、わざわざ食事中にガラガラと不協和音を出して庭に持っていく。鬼気迫る表情で空き缶を踏んでるし不穏。
出番が少ないのでわからないが松岡の妻も何か暗黒の感情を溜め込んでいることを予感させる。田畑智子は、真夜中にふと目が合った知らない野良猫みたいな顔してるので若い時から割と好き。
女生徒を殺した後もいつも通り料理教室に来た松岡。
同僚の女性A(演:ぎぃ子)と、死んだ女生徒の家族が失踪届を出した話をしてたら、同僚の女性B(演:川添野愛)が「女生徒さん来ました!教室で松岡先生を待ってますよ!」と呼びに来る。
女生徒は死んだはずだが……。
松岡と同僚の女性Bは教室に行き、同僚の女性Bは「あ、ほら。あそこです」で、画面の向こうからこちらを指差す。カメラが撮っている場所より後ろに女生徒がいるらしい。カメラが女生徒が居るとされる場所に急に素早くパンしたが、そこには誰も座っていない椅子があるだけ。
同僚の女性Bは「あれ?居なくなっちゃった……後ろ向きだったけど確かにあの女性だったのに」と言う。
同僚の女性Bが目視しながら指差して数秒後に居なくなったので、同僚の女性Bと松岡は「松岡に殺された女生徒が後ろ向きに座っている姿」を見たが、余所見とか瞬きとかしてる間に消えたのだろうか(眼の前でスーッと消えてたらもう少しリアクション取るだろうから)。
同僚の女性Bは「どこ行ったんだろ……?」とウロウロするが、椅子がガタッと音を鳴らす。同僚の女性Bはその方向を見て恐怖の表情を浮かべ悲鳴を上げて走り去る。カメラは恐怖の表情を浮かべる2人の顔を撮っているので椅子の所に何が居たのかはわからない。
2人のうち、殺した張本人の松岡が恐怖するのはわかるが、女生徒が殺されたことを知らない同僚の女性Bが恐怖したという事は、一目でこの世のものじゃないとわかる姿だったのだろう(血塗れとか)。
松岡も声にならない悲鳴をあげた後、走り去る。
肝心なのは、松岡だけが幽霊を見たのなら「殺人の罪悪感で幻を見た」と考えることが出来るが(というか映画なら、幽霊がモロに映ってたとしてもそう考えた方が正しい捉え方)、女生徒が死んだと知らない女性の同僚Bが、女生徒の幽霊を「生前のバージョン」「生きてない事が一目でわかるバージョン」の両方を見たので、これはもう「罪悪感のメタファー」などではなく「ガチで幽霊見た」という描写がされた事になる。
料理教室のあるビルを出る前に引き返して大きな鏡の前で自分をじっと見る。しばらく鳴っていた不協和音のBGMが急に止まる。何か実存的恐怖が湧いてるのか、松岡は再び取り乱して猛ダッシュする。
そこで行方方不明の女生徒の調査で訪れていた刑事と出くわす。
刑事は、刑事コロンボとか古畑任三郎的みたいに一旦別れた直後に松岡の手の甲の絆創膏を指摘する。松岡はとぼけるが、刑事は彼が犯人だと気づいたのだろう(というか不自然に大人が猛ダッシュしてるとこ見たし)。
短編なので刑事や松岡の殺人のくだりはここで終わり。もし長編なら刑事が更に追求して松岡か刑事のどちらかが破滅するのだろう。
松岡は、(高級だと思われる)レストランの面接を受けてハイテンションで自分の宣伝をするが面接官(演:安井順平)に「あなた自分のことばかり話し過ぎです……」とモロに呆れられて面接官は帰ってしまう。大人が、こんなに他の大人に面と向かって呆れられて、出した握手も無視されて足早に立ち去られたらどうやって生きていくねん、という感じだ。
その直後、松岡の背後で、青年が別の席の女性をフォークで刺そうとして取り押さえられた。世界が狂ってきている。
なんか映画ファンの人がSNSかなんか「『CURE』(1997)のラストで、伝道師によって殺人が蔓延した後の世界みたい」みたいな事言ってたのを見たが確かにそう連想させる。
帰宅した松岡は、息子(演:石毛宏樹)が全く話が通じないエイリアンのような存在なので愕然とする(思春期の子と父親とか割とそんなもんだろうが)。
妻は相変わらず庭で空き缶を潰している。
松岡は、各家庭の台所によくあるビーズのカーテンみたいなものに着目する。
昔よく出てた「半透明のカーテン」の新しいバージョンだな。微妙に向こうが見えるという嫌さで、そこを超えたら「別の領域に足を踏み入れた」と表現できる安上がり黒沢アイテム。
手前に立っている松岡にピントが当たり、遠くに見えるビーズのカーテンの中央にだけ光が当たり、まるで白い人影(幽霊)が立っているように見える。
ビーズのカーテンの向こう……台所でいいのか?台所(仮)には幽霊は居なかった。その代わり粗大ゴミやらガラクタが散乱していた。
なんと、あんなに毎日、妻がゴミ出ししてたのにまだ空き缶を詰めたゴミ袋がある!
非常に綺麗な家で妻もしょっちゅうゴミ出ししてそうなのに、こんなに一室にゴミがあるのが異様だ。単純に考えると奥にいやなものを溜め込んでる妻の心を可視化したものか。
家のチャイムが鳴り、ドアホンの映像を見ても映像が乱れてまともに見れない。
幽霊が訪ねてきたのか?松岡は頭を抱えて声にならない声をあげる。
家の外に出てあらゆる方向の通りを眺める。松岡が幽霊が見たのか見ていないのかは我々観客にはわからない。
松岡は自宅のドアを再び開けて、廊下の奥の暗闇を眺める。
……単純に考えると自分の内面の暗闇と向き合ってるのだろう。何かを決心したかのような松岡は家に入る。外の世界で起きている恐ろしいことを、松岡は家庭に持ち込むのだろう。
……と思わせて映画が終わる。
あらすじだけ追うと「松岡だけでなく凄く嫌な、よくない事が世界中に伝染してる」という話で極力一般化したら「なんか最近不安だよね」という何時でもあてはまるような結論になるのだろうが、そうやって観ると別に面白くないので単純に「今回はこう来たか」と撮り方とか音とかを味って楽しむ映画だと思う(本作に限らず割と全作そうなので黒沢清は一般的な人気は全く無い。これからも無いだろう)。妙に『CURE』(1997)とか『回路』 (2001)など初期の名作を思わせる不穏な作品で大変良かったです。
「最近の邦画の幽霊……なんか怖くないね……」と思ってたけど今回の「もう全く映さない」という幽霊の撮り方はベストかもしれない。何かよほど上手い人にしか撮れなさそうだけど……。本作で一番怖かったのは終盤、松岡が家に帰って台所のビーズカーテン見たり奥のゴミ見たりチャイムが鳴ってドアホンにめちゃくちゃな映像が映ったり最後の廊下の暗闇を見てるところが一番怖かった。頭おかしくなりつつ人の追体験してるみたいで……。
短編なので、肉まんの中身の肉だけ食った感じで良かったです。長編だとどうなっていったんだろうね。妻や料理教室の同僚とか刑事も追っていってたのかな?
先月の『蛇の道』(2024)もまだ観てないし9月末に『Cloud クラウド』(2024)もあるよ。
そんな感じでした
〈黒沢清監督作品〉
『岸辺の旅』(2015)/幽霊が黄泉平坂で宇宙の終りと始まりを語る場面が好きでした👫 - gock221B
『復讐 運命の訪問者』(1997)/エンターテイメント性高めな映画でした🔫 - gock221B
『893(ヤクザ)タクシー』(1994)/やとわれ仕事ゆえのエンタメ性と縛られた中での製作の姿勢 🚕 - gock221B
『クリーピー 偽りの隣人』(2016)/大変な怪作だが犯罪がテーマなのに現実感なくて好きになれなかった🏠🏡 - gock221B
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)/洞口依子の可愛らしさと大学のフワフワした感じ👩 - gock221B
『散歩する侵略者』(2017)/黒沢清映画のおかしな夫婦って好きですわ👉 - gock221B
『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)/本編は愛の話だったが、こっちは〈心の弱さ=悪〉という話かな 👉 - gock221B
『ダゲレオタイプの女』(2016)/本作のあらすじ同様、現実世界から隔絶されたような黒沢幽霊映画inパリ👱♀️📷 - gock221B
『彼を信じていた十三日間』(「モダンラブ・東京」第5話)(2022)/黒沢清への興味を失ってたが久々の名作!💔 - gock221B
『地獄の警備員』(1992)/今まで黒沢清作品の中ではあまり好きじゃなかったんだけど20年ぶりに観たらありとあらゆる清要素が入ってて良かった。地獄の警備員よりサラリーマンの方がキャラ強い👮 - gock221B
『復讐 消えない傷痕』(1997)/菅田俊演じる哀川翔大好きヤクザが良すぎてメインストーリーなどどうでもよくなってしまった感ある🕶️ - gock221B
『勝手にしやがれ!! 強奪計画』『勝手にしやがれ!! 脱出計画』『勝手にしやがれ!! 黄金計画』『勝手にしやがれ!! 逆転計画』『勝手にしやがれ!! 成金計画』『勝手にしやがれ!! 英雄計画』(1995-1996)/言っても仕方ないが1本でよくね?💴 - gock221B
『蛇の道』(1998)/セルフリメイクからカットしたらしい”コメットさん”と”宇宙の法則を教える塾”は今見ても面白いのだが、面白すぎて確かにメインストーリーの邪魔かも📺️ - gock221B
『蜘蛛の瞳』(1998)/90年代当時はおもろいけど意味わかんなかったが今見たら色々言語化しにくいサムシングが浮かんできて楽しかった👤 - gock221B
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roadstead.ioChime - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
Chime (2024) - IMDb
Chime | Rotten Tomatoes
『フォールガイ』(2024)/『ワンハリ』や『デスプルーフ』をもっと前向きに気取らず作った感じのスタントマン愛あふれる高橋留美子の漫画っぽい可愛い映画💥
原題:The Fall Guy 監督&制作:デヴィッド・リーチ 制作会社:87ノース・プロダクションズほか 主演&制作:ライアン・ゴズリング 脚本&製作総指揮:ドリュー・ピアース 原作&製作総指揮:グレン・A・ラーソンの制作ドラマ『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』(1981-1986) 製作国:アメリカ 上映時間:127分 公開日:2024/3/1(日本は2024/08/16)
スタントマンのコルト・シーバースが、スタントの腕を活かして賞金稼ぎとしても活躍するドラマ『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』(1981-1986)のリブート&映画化。
といっても古すぎてそんなドラマ今初めて聞いた。(本作の主人公2人がやたら水着がどうこう言ってたのは、このOPで昔のジョディがビキニ着てるからかな)
アクション俳優やスタントマン出身で現在はアクション映画監督のデヴィッド・リーチ監督作なのでスタントマン愛に溢れる映画だということは観る前からわかる本作。
この監督の映画は『ジョン・ウィック』(2014)、『アトミック・ブロンド』(2017)、『デッドプール2』(2018)、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)、『ブレット・トレイン』(2022)……と、このブログを始めた頃に『ジョン・ウィック』(2014)でブレイクしたせいか結構感想書いてる。どれもひとしきり面白いがあと半歩だけ何かが足りないという印象の監督だった。……が本作はその半歩を突破して心に響いた一番良かった映画だった。
ネタバレあり。
割とほぼ全部ネタバレしますが、まぁ映画好きな人なら始まった瞬間に最後までわかると思うのでそういう人にはネタバレとも言えないが、そうでない人にはネタバレなので注意でございまする。
腕利きスタントマンのコルト・シーバース(演:ライアン・ゴズリング)は、映画スターのトム・ライダー(演:アーロン・テイラー=ジョンソン)の代役として活躍し、映画監督志望の映画スタッフ、ジョディ・モレノ(演:エミリー・ブラント)と付き合っており幸せな日々を送っていたが、ある日スタントで大怪我をして一線を退く。
1年半後、コルトは傷が癒えても駐車場係で食いつなぎながら失意の日々を送っていたが、大物映画プロデューサーのゲイル・メイヤー(演:ハンナ・ワディンガム)からスタント復帰の依頼を持ちかけられる。
一度は断ったコルトだがジョディが映画監督として撮影中のSF大作だと聞き、すぐに撮影現場シドニーに駆けつけた。しかしゲイルの依頼はスタントだけでなく「失踪した主演トムの捜索」も含まれていた――
そんな話。
ぼんやりと「スタントマンが事件に巻き込まれて本当の事件に立ち向かう」と聞いてたが、割と結構な長い時間スタントマンとして撮影現場で物語を繰り広げるので「あれ?ひょっとして映画撮影の映画かな?どちらでもいいけど」と途中まで思ってた。
コルトは監督となった恋人ジョディの前からも黙って姿を消していた。
だから復帰してもジョディとの間がかなり長い間ギクシャクしている。ジョディは出演者やスタッフ一同の前でスピーカーで撮影の指示をする。しかしやがて台本を読んでいないコルトに向けてストーリーの説明をする。「SF恋愛ストーリー」である映画『メタル・ストーム』の内容……カーボーイの男と宇宙のプリンセスの恋愛模様を説明しながら、やがて「コルトが去って自分がどれだけ寂しかったか」としか聞こえない話になっていく。コルトを何度も爆発で吹っ飛ばしては遠回しな愚痴を繰り返す。スタッフと出演者は全員「ジョディ監督とコルトの恋愛のこじれ」を知っているので、男性スタッフは自分が責められてるかのように気まずいムードになり女性たちは「わかるわかる!」「もっと言ったれ!」と笑顔になる。あれ?楽し……。
ジョディは全体的にプリプリしておりコルトをまだ許していないのだが、互いに大好きなのが隠しきれず、コルトはジョディとの仲をダメにしてしまった事を悔いてテイラー・スウィフトを聴いてさめざめと泣くし、ジョディもコルトを許さないと言いつつ彼のことが気になって仕方ない……という様子が全編繰り返される。
アクションよりラブコメ要素が多い。こういう映画だったのね。
ジョディがアメリカ映画に出てくる中年の女性にしては異様に乙女チックな……少女漫画のヒロインみたいにヤキモチを焼いたりコルトを熱い視線で見つめたりする。本編がアクションを交えたコメディだし、コルトとジョディだけでなく周囲の仲間も皆、漫画のサブキャラっぽい態度を取るので、ものすごく高橋留美子の漫画みたいに見えてくる!(ということは「劇団☆新感線っぽい」も当てはまる)。
ジョディは勿論、コルトも、コルトの親友ダン・タッカー(演:ウィンストン・デューク……MCUの『ブラックパンサー』シリーズのエムバク役の人)や映画スタッフもみんな、物凄く可愛い。可愛い映画だ。本作は全編こういった可愛いくて楽しいムードで進む。
リアリティラインは低くて同じ監督でたとえると『アトミック・ブロンド』(2017) ではなく『デッドプール2』(2018)、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)、『ブレット・トレイン』(2022)とかに近い漫画っぽい描写や展開。
コルトは、ジョディとギクシャクしながらスタントの仕事をしつつ、大物映画プロデューサーのゲイル・メイヤー(演:ハンナ・ワディンガム)から「主演のトム・ライダー(演:アーロン・テイラー=ジョンソン)が見つからない。彼のマンションに行き連れてきてほしい。問題になったらいけないから誰にも秘密で」と頼まれる。
自分が代役を務めていたトムのマンションに忍び込んだコルト。そこに居たトムの恋人から貰ったヒントでクラブに行ったコルト。
そこで飲まされた酒にドラッグが入っており、コルトの視界が楽しくなりユニコーンが常に近くに現れるようになる。コルトはきまったまま襲いかかってきた売人の手下をやっつけ、逃げた売人を得意のスタントで追い詰める(ここのアクションは凄くカッコよかった)。
コルトは売人に貰ったヒントで、トムがいるかもしれないホテルの一室を訪れる。
ここでジョディから電話があり画面はスプリット・スクリーン(二分割)になる。
ここでジョディはコルトに映画『メタル・ストーム』について話す。しかし2人は撮影中の『メタル・ストーム』について話しつつも互いのことだけ考えているのは一目瞭然だ。そうして映画について話しながら遠く離れた場所にいるはずの2人の動作は同期している。2人は相性ぴったりなのだ。
……というかデヴィッド・リーチの映画で、アクションだけでなくこんな風にメインキャラの心理状態とシンクロさせるとは……デヴィッド・リーチの映画じゃないみたい。いや『デッドプール2』(2018) とか『アトミック・ブロンド』(2017)も少しはあったか?でも今回ほど上手くやってるのは初めて……な気がする。
コルトはバスルームのバスタブで氷水に浸かっている男性の死体を発見する。
コイルは、騒ぎを大きくせず映画撮影を続けたいゲイルの反対を押し切り警察を呼ぶが死体は忽然と消えていた。ユニコーンが見えるドラッグの幻覚だったのか?
コルトは撮影現場に戻る。
コルトとジョディは撮影を通じて徐々に元通り仲良くなっていく。少なくとも「親友」くらいの仲の良さには戻った。
この前半?中盤くらい?までのコルトが「昼はジョディと撮影」「夜は捜査(捜査したり戦ってる間にジョディから電話かかってきて結局1日中ジョディと接してる)」というパートはかなり楽しかった。特に夜の探偵パートが、昔のハードボイルドをコメディっぽくしたかのようで凄く良い。
ジョディの”カルォクィェ”(カラオケ)シーンも良い。
ライアン・ゴズリングは元々凄い演技できるし雰囲気あるイケメンとして有名だったが、近年のこの軽妙な三枚目イケメン度が凄いなと思った。
レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』(1953)……ではなく、それを巨匠の故・ロバート・アルトマンがタフガイ探偵フィリップ・マーロウを、とぼけた三枚目の探偵にしてエリオット・グールドに演じさせて映画化した『ロング・グッドバイ』(1973)の方ね(アルトマンの『ロング・グッドバイ』(1973)はオールタイム好きな映画ベスト10で『アルファヴィル』(1965)と共にベスト5位から9位までに20年以上位置していて3、4位の映画とかが時と共に消えたりしてる中で『ロング・グッドバイ』(1973)と『アルファヴィル』(1965)はずっと居るのでこのまま死ぬまでどかない気がする)
このライアン・ゴズリングならロバート・アルトマン版『ロング・グッドバイ』(1973)のリメイクも余裕で出来そうだと思った。
そんで真犯人はコルトが代わりにスタントをしていた、コルトの「映画上の顔」とも言える映画スター・トム(演:アーロン・テイラー=ジョンソン)だった。彼は自分にできないスタントをして意気揚々としてるコルトに嫉妬して故意に事故を起こしてコルトを殺そうとした(結局、重症で済んだ)。コルトが紹介した公認のスタントマンにもパーティで煽られたので乱闘になり勢いで殺してしまった、それがコルトがホテルで見た死体。トムに泣きつかれた映画Pのゲイルは、トムを守るためにコルトを呼び寄せて真犯人に仕立てようとした、ジョディが監督になれたのもコルトを呼び寄せるための餌だ。
面白おかしい感じの作風なのでサラッと見れてるが、立場が上の大物同士ゲイル&トムが、自分が嫉妬でした殺人を、自分が嫉妬で殺人未遂で殺そうとしたら生きてた立場が下のコルトにおっかぶせる、そして更に立場が下のジョディを利用……という物凄いドス黒い邪悪だったので後半、観ていてたまにぞわっと総毛立った。
コルトは、トム&配下の悪スタントマンに殺されかけるが、何とか死を偽装してジョディの元に辿り着き「コルト&ジョディ監督&親友ダンと善のスタントマン軍団&映画スタッフ」という立場が下の現場スタッフが結託して、トム&ゲイルを危険な撮影現場に放り込み自白させてボコって退治しコルトはついでにジョディに心の内を告白して復縁、映画は代役を立てて完成、ハッピーエンド……「人生にハッピーエンドなんてあり得ない」が口癖だったコルトとジョディは初めてのハッピーエンドを迎える。
という感じで非常に明るく楽しく前向きな、長年日陰に追いやられていたスタントマンへの讃歌だった。
コルトは「スタントマンのアカデミー賞はない」とぼやいていたが、ようやく検討され始めたらしいし。
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クエンティン・タランティーノが、『デス・プルーフ』(2007)や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)でスタントマン讃歌してたが、今思えばどちらもひねくれ過ぎてたよね(と言いつつ『デス・プルーフ』(2007)は観たあと10年間くらい全ての中で一番好き映画だったが)。タランティーノのそれら捻ったスタントマン讃歌に比べると非常に明るくて前向きだった感じ。
ED曲もモロにスタントマン讃歌だったので今調べたら原作ドラマ『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』(1981-1986)の主題歌だったみたい。
そーいう感じで、今までの「面白いだけ」「カッコいいだけ」ではなく、エモいテーマが本編の楽しい描写と全編常に結びついていて今までのデヴィッド・リーチ映画を一段飛び越えた快作だった。奇しくもタランティーノが『デス・プルーフ』(2007)で、それまでの面白くて映画オタク映画ってだけだった領域より上に行ったのと似てるね。
『ブレット・トレイン』(2022)に引き続き出演して嫌な悪役を演じたアーロン・テイラー=ジョンソンだが今回もカッコよかった。新ジェームズ・ボンド役の候補筆頭に名前が挙がってるが僕も彼にきまってほしいね。
そんな感じでした
〈デヴィッド・リーチ監督作〉
『ジョン・ウィック』(2014)/現実的な銃撃戦と幻想的で不思議な漫画っぽい世界の融合🧔🏻🐶 - gock221B
『アトミック・ブロンド』(2017)/誰も信じるなって事と、自分が触れることのできる現実感が大事👱🏻♀️ - gock221B
『デッドプール2』(2018)/面白かったし、メタなギャグはギャグのためのギャグではなく本編を円滑に進めるための整地なのが良かった❌ - gock221B
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)/本編シリーズよりこっちを応援する気満々だったが思いのほか大味だった👨🏼🦲👩🏻🦲 - gock221B
『ブレット・トレイン』(2022)/映画自体は面白かったし真田広之は活躍したけどホワイトウォッシュをごまかすための日本要素に複雑な気持ちになった🚝 - gock221B
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The Fall Guy (2024) - IMDb
The Fall Guy (2024) | Rotten Tomatoes
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