原題:The Sacrament 監督&脚本&編集&製作総指揮:タイ・ウェスト 製作:イーライ・ロス 音楽:タイラー・ベイツ 上映時間:100分 製作国:アメリカ 公開日:2014年6月6日(日本は2015年11月28日)
これ実は以前観て「つまらなくはないがあんまり面白くないような……」というパッとしない印象だったけど、『X』シリーズでハマったので観れるものは観ようとしてこれはアマプラにあったこれを再見した。
1978年に人民寺院が起こした有名な事件を元にしたフィクション。
人民寺院 - Wikipedia
ジョーンズタウン - Wikipedia
ネタバレあり。割と殆どネタバレしてます
普通のメディアが取り扱わないニッチな取材対象を配信する映像メディア、VICEのレポーターのサム(演:AJ・ボーウェン)、ビデオカメラマンのジェイク(演:ジョー・スワンバーグ)、カメラマンのパトリック(演:ケンタッカー・オードリー)。
VICE Japan - YouTube
薬物中毒になっていたパトリックの妹キャロライン(演:エイミー・サイメッツ)が何やらカルト教団〈エデン教区〉の「理想郷」と呼ばれるコミューンで暮らしていると聞いた彼らは怪しいものを感じ、取材しに行く。
なお本作は取材のカメラを、彼らが撮ってたり時には教団の者が手に取ったりしてモキュメンタリー形式で進む。これによってカルトに潜入した嫌な気分が味わえる。
三人はヘリコプターでないと辿り着けないほど人里離れた場所にある「エデン教区の理想郷」に到着。
「理想郷」の入口には銃で武装した見張りがいた。
キャロラインと再会したパトリック。
サムとジェイクは信者たちを取材する。
元薬物中毒者や家族がおらず行き場がない高齢者などアメリカの一般社会に居づらさを感じている者たちが集まり、電話もインターネットもないこの地で生活している。
サムとジェイクが取材した者たちは幸福感を感じていたようだった。
2人は〈父〉と呼ばれているエデン教区の指導者のアンダーソン(演:ジーン・ジョーンズ)を取材する約束をキャロラインが取り付けてくれた。
しかしアンダーソンとのインタビューは一対一での取材ではなく集められた信者たちの目の前であり、アンダーソンは質問してもはぐらかしてばかり最終的にはインタビューしているサムに「もうすぐ奥さんに子供が出来るんだろう?私は何でも知っているんだ」などと脅しめいた圧力をかけてきて危険を感じるしまともなインタビューできそうにないのでサムはインタビューを切り上げた。
このインタビューのシーンは、アンダーソンの話術や圧のかけ方が実にリアルで、個人的に一番面白い本作の場面はここだった。
夜、パトリックはキャロラインの手引で女性信者と3Pしてるっぽいし、そのキャロラインもきまっておりジャンキーが治っておらずアンダーソンとSEXしてるっぽい。
他にも色々怪しいこともあるし、酷い目にあって脱出したがってる母子もいるし、教団のメンバーが集まって何かしようとしてるしでサムとジェイクは翌朝迎えに来るヘリで脱出することを決める。
そして翌朝、モデルとなった人民寺院もやった例の未曾有の集団自殺事件が起きる。
大爆破!とか全員銃殺!などのアッパーな事件ではなく集団で服毒自殺というものなので何とも嫌~な気持ちになる。しかも信者、子供とかお年寄りの方が多いからね。
タイトルになってる「サクラメント」とは聖餐、最後の晩餐のこと、つまり最後の集団服毒自殺の事を指してる。ここが撮りたくてこの映画作ったのかな。
昨夜、主人公たちが取材しに来て宴やってて皆元気にしてたやん何で?と思うが、アンダーソンは余裕ありそうな態度とは裏腹に疑心暗鬼に囚われているようで(ドラッグとかも常用してるみたいだし)
「取材された」→「はぐらかしたが疑われてたし色々書かれるに違いない」→「そうなると軍が捕まえに来る」→「かといってVICEを監禁したり殺したら捜索隊が来て結局軍がやってくる。だからもう詰んでいる」→「政府に捕まったり殺されるくらいなら全員で死のう」という思考回路らしい。
VICEが来て取材された直後に幹部を集めて集団自殺の準備を始めて翌朝には決行……というのは早すぎないか?それに、そんなに外部を恐れてるなら取材なんて入れなきゃいいのに。だからキャロラインが兄から寄付金をせしめたり兄も信者にするための独断なんだろうな。入れてしまったものは仕方ないから洗脳済みの信者ばかり取材させたり自分もはぐらかしたりして穏便にVICEを帰そうとした……が、あいつら疑ってるしもうダメだ!みたいな感じか?
実際の事件を調べてみたら決行の経緯は割と殆ど似た感じだった。
いや、しかし24時間たらずで集団自殺まで行っちゃうのはやっぱり急転直下すぎて変だね。自然な流れにするならラリって籠絡されたパトリックが残ることになり、しばらく経ってやっぱりパトリックを連れ戻そうぜとサムとジェイクが再訪してアンダーソンが「もうダメだ!」と決断に至る……とかそういうワンクッション欲しかった気もする。
でもまぁいいか。サムとジェイクは脱出を試みるが「理想郷」入口の警備係に銃撃されたりするが、パトリックや口がきけない少女を助けようと引き返して奮闘する。
ちょっと素人が引き返して他者を救おうとするのは危険すぎるが、サムとジェイクの正義感が異常に強い。こういう捨て身で他人を助ける強固な正義感描写は、製作総指揮のイーライ・ロスのテイストだなと思った。自作『ホステル』(2005)とか、本作同様に製作にまわって自身も俳優として出演してた『アフターショック』(2012)も異常にイーライ色が強くてイーライが演じるキャラの正義感も凄くて感動した覚えがある。本作で丸腰のサムとジェイクが銃で武装した「理想郷」に引き返すのは正にイーライ制作作品って感じした。
ここで追跡劇や殺戮が展開されるが、割とぬるい。教団側も素人なのでしょぼいしサムとジェイクも全体的に馬鹿という弱い者同士のバトルなのであまり盛り上がらない。
監督は、本当は緊迫感ある追跡とか得意そうだし、あらすじも割と現実の事件通りなのでリアルなものが作りたくてこんな感じになったのかも。だが、それならフィクションではなく実在の事件通りに70年代を舞台にして登場人物や教団名も実名にすべきで、本作のようにフィクションにするのならクライマックスではもっとエンタメ性の高いものにした方がよかったので、要は中途半端なものを感じた。
指導者アンダーソンもバケモノのような怪人物ではなく、ビジネスマンがたまたま教祖になり立場を利用してSEXやらしまくってる太ってギラギラした小狡いオッサン……という実に、観る気があまり起きなくなる嫌な感じのキャラ。
結末も書いちゃいますがサムとジェイクは意外と助かる(なお現実の取材班三人は全員銃殺されたっぽいので)。では、ついでに口がきけず虐待されてた少女だけは救出して脱出……すると思うじゃん、他のアメリカ映画なら十中八九助かってるはずだが可哀想な少女はサムとジェイクの奮闘も虚しく、娘を愛して逃がしたがってた母親がもうダメだと絶望して殺してしまうという……。
何とも嫌~な後味。母親がジェイクに預けてたら普通に助かってたというのが虚しさを募らせる。
でもタイ・ウェスト作品を色々観た今なら、可哀想な少女が更に可哀想に死んでしまう、割と助かるはずだったのによりにもよって自分はいいから娘だけ脱出させてくれと言ってた母親が殺してしまう、そしてサムとジェイクは普通に脱出。現実の取材陣は普通に殺されたんだから、それを超えたいフィクションならサムとジェイクも殺すはずだよね?いま書いてて気付いたがサムとジェイクが最後助かったのは「2人を助けたい」と思ったからではなく「母親が殺さずジェイクに任せてれば少女は助かったのに……」という後味の悪さを感じさせる、そのためだけに助けたんだなと今気づいた。作中のサムとジェイクは助かって良かったと思ってるだろうが観てる観客にしたら「現実と同じようにサムとジェイクも死んでしまう」よりも嫌な終わり方と言える。
ホラーあるある展開を微妙にズラして後に尾を引く展開させるのはタイ・ウェストっぽい良さだなぁと感じた。今思えば劇中に出てくるこの少女は、口がきけなかったり数m離れたところに立ってたりと、今思えばJホラーの幽霊みたいな撮られ方してたから最初から「死にます」と言ってたようなものか。
タイ・ウェストを意識して色々観たから気づいたわ。当時観た自分のTwitter検索してみたら「途中まで良かったけど後半つまんなかったわ」と書いてた。いや、なんなら今夜観た時も「前観たのと同様に、インタビューまでよかったけど最後イマイチだったなぁ」と思った。でも感想書いてるうちに評価が少し上がった。
というか最新の『Pearl パール』(2022)は観た人全員が傑作!と思う出来だったが、それまでのタイ・ウェスト作品は前述の良さが伝わらず過去作をネットで感想探したら殆ど駄作認定されてるもんね。
自分もそうだったからわかるけど監督が意図した後味悪くさせる終盤の展開って「◯◯が死んで残念だったなぁ」と寂しい気持ちにされるので「寂しくなった」→「つまらない」と短絡的に駄作認定してしまいがち、という事がわかってきた。で、そういった可哀想な女の子の可哀想な結末を、万人が傑作だと思うように昇華したのが『Pearl パール』(2022)のラストってわけだね。今思えば『X エックス』 (2022)に出てくるパールの切なさとか結末もそういったタイ・ウェスト的な魅力だったんだけど、まだわかりにくかった。自分もそうだが他の人や評論家とかも『X エックス』 (2022)に対しては「趣味いいし、そこそこ面白いんけど何が言いたいんだ?」とピンと来てない人が多かった。でも『Pearl パール』(2022)観たら僕も他の大勢もわかったよね、あぁこの人なんだかホラーを通して可哀想な女性のエモさを撮りたい人なんだって。
さっきまで「サクラメント再見したけど今回もイマイチだった、監督にハマってるから記事にするけど特に何も書くことないな」と思ってたけど書いてる間に理解が深まった。感想書くのって自分と会話してるようなもんだからね。ブログやってなかったら「今回もまたイマイチだった」で終わってたわ。
ますます「X」三部作完結編の『MaXXXine(原題)』 (2024)が楽しみになった。
そんな感じでした
〈他のタイ・ウェスト監督作〉
『Pearl パール』(2022)/製作&脚本もしてる主演のミア・ゴスと彼女が演じる主人公のどうしようもなさとタイ・ウェスト監督らの異常な真剣さに物凄く心が動かされた👩🏻🪓 - gock221B
『インキーパーズ』(2011)/死ぬほど低評価の何も起きないホラーだが自分には掛け替えのない一本になった変な映画。Xシリーズのタイ・ウェスト監督作品👰 - gock221B
『X エックス』 (2022)/公開時に観てピンと来なかったのだが傑作だった続編『Pearl パール』(2022)観たら思うところあったのでもっかい観て感想書き直した❌ - gock221B
『キャビン・フィーバー スプリング・フィーバー(旧題キャビン・フィーバー2)』(2009)/キモいホラー部分もそこそこ良いがタイ・ウェスト作品に期待する人間ドラマや目的のないヒロインのエモ描写がやっぱり良かった🦠 - gock221B
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