原題:Pearl 監督&脚本&編集&制作:タイ・ウェスト 主演&製作総指揮&脚本:ミア・ゴス 音楽:タイラー・ベイツほか 製作&配給会社:A24ほか 製作国:アメリカ 上映時間:102分 シリーズ:『X』シリーズ第2作目
初っ端に書いとくが今回は本作と前作のネタバレたっぷりなので2作とも興味があって観たい人は、以降を読まずにネタバレなしの感想を読んだり動画で見たほうがいいです。
……とはいえ別に凄く複雑なことが起こるわけでもないのでネタバレされようがされまいがあまり関係ないっちゃ関係ない気もするけど。
以下、しばらくは感想の前の、本作を観るまでの話なんだが、このブログは映画観た感想以外も感想のうちなので話を続けさせていただく(感想は数行空いた後から)。
面白いかどうかは人によって全然違うので何とも言えません。僕は前作はそうでもなかったけど本作、めちゃくちゃ良かったし傑作だと思いましたが「マジで1mmも良さがわからん!」という人が居ても不思議じゃない感じでした。好みは人それぞれ……というのは常識ですが、人による評価がめちゃくちゃ変わりそうな映画でした。
タイ・ウェスト監督と主演ミア・ゴスが共同で作ったA24のスラッシャーホラー映画『X エックス』 (2022)。その続編がこれ。『X エックス』 (2022)の劇中に出てきた殺人鬼パールの若い時を描いた前日譚(だが同時にどれか一本だけ観てもOKなように作られている)。
主演の英国女優ミア・ゴスは妖しい容姿の美女だが、いっつも変な映画やホラーばかり選んで出ていた……というか変な映画にしか出てない印象。一時期Do Itおじさんこと変人シャイア・ラブーフと結婚してすぐ別れてたし相当、変な女優として……しかし演技力や妖しい魅力は確かなので気になる女優。そんな彼女が続編である本作では制作にも入って入れ込んでいる。一体何がそうさせるのか……気になる。
まず前作『X エックス』 (2022)ですが、まず如何にもA24映画って感じで映像がめちゃくちゃ美しくてカッコよかった。お話はというと「ミア・ゴス演じる主人公と仲間の若者が田舎に来てエッチな映画を撮影してたら殺人鬼に次々と殺される」……というスラッシャー映画そのまんま。ただし殺人鬼はパールという老婆パール。しかも若者たちの夢や若さを恨み、老婆なのに異常にセックスしたがっている……という非常に気まずいキャラクター。ネタバレだが主人公は老婆パールを返り討ちにしてめでたしめでたし……という感じでもない。何しろ自らの老いを嘆いてる老婆なので殺したら殺したで気まずい……。しかも主人公を演じるミア・ゴスは老けメイクで敵のパールも演じていた。「よくあるスラッシャーホラー映画だが、主人公と敵を同一人物が演じてるし、これ一体どう思えばいいんだろう……」と困惑しました。とにかく老婆パールが持つ、目を背けたくなる哀しさ……嫌さが凄かった。主人公と殺人鬼を同じ俳優が演じてることは当然、両者をシンクロさせてるわけだが「何のためにそんな事したの?」と困惑しました。更に「これは三部作の一作目」という事も最初に言いながら公開したので「一体どう続けるんだ?というかコレを三本も続ける目的って何だ?」とますます困惑しました。「ヒットしたから続編作る」というのはホラー映画でよくあるが、最初から三部作のつもりで作るホラー映画なんて聞いたことない。しかも実のないスラッシャーホラー。……あ、Netflixで『フィアー・ストリート』っていう三部作があったか。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)と『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(2019)も二部作だったね(しかも一本目がヒットしてようやく2本目の制作スタートした)。
監督とミア・ゴスのやりたい事はよくわからないながら、前作『X エックス』 (2022)は良作ではあった気がするがストーリー自体は平凡。だがパールのキャラの嫌な迫力と三部作構想の謎が引っかかった。続きを観ないと判断しかねるので「『X エックス』 (2022)は、よくわからない映画」として棚上げした。そういえば同じ年の暮れに『ウェンズデー』(2022) で大ブレイクしたジェナ・オルテガも、やられ役で出て素敵な顔芸を披露していた。ジェナ・オルテガも、少女のように小柄だが特徴的な濃い顔しててホラーや変な映画に出がちという意味でミア・ゴスの後輩的なイメージがあるね。
で、長いこと日本公開が決まらなかった本作だが「前作の殺人鬼パールばあさんの、スターになりたかった厳格な母と同居していた若い時を描く」という事は早くから知ってたが、住みたくもない田舎に棲み続けた殺人婆さんの若い時……とか哀しいだけで全然観たくない!スターになんかなれずに死ぬまで実家に住んで死んだのを観て知ってるし母親をブッ殺して終わる……という展開は前作同様に観なくてもわかるし「最初から楽しい時間がない、気まずい居心地悪そうな映画だろうな……」という香りがプンプン臭う。
だがアメリカ本国ではヒットしたし評価が異常に高かった。そしてマーティン・スコセッシが異常に褒めてたのも気になった。
本当に全然楽しくなさそうなので観たくなかったが近所で上映してて気になったので観た。すると確かに想像通り気まずい一品だったが驚くほど良かった。
前作『X エックス』 (2022)のSTORY
1979年、ムービースターを夢見る若い女性、マキシーン(演:ミア・ゴス)は映画製作の仲間達とテキサス州の片田舎に赴いた。老人ハワードと老夫人パールの夫婦の営む農場の離れを借りて撮影する面々。年老いても性や若さに固執する老婆パールは、実は殺人鬼だった。夫のハワードはパールの後始末をする。次々と殺されていくがマキシーンはパールを返り討ちにして逃走した――
そして本作『Pearl パール』(2022)
1918年のテキサス。スターを夢見る若く美しい女性(……そして61年間、若者たちを殺害し続けてたら返り討ちに遭ってブッ殺される未来が待っている)パール(演:ミア・ゴス)は、敬虔で厳しい母親(演:タンディ・ライト)と疫病で身体を全く動かすことが出来なくなった父親(演:マシュー・サンダーランド)と農場で暮らしていた。
パールは若くして金持ちの家の出である青年ハワード(演:アリステア・シーウェル)と結婚したが、彼は戦争へ出征中。
100年(!)近く昔のアメリカの田舎を描いた映画でよくある舞台設定。
性や風俗に潔癖すぎる親……特に母親に押さえつけられすぎた若い娘の不満が爆発する系の映画。ホラー映画なら『キャリー』(1976)とか『ブラック・スワン』(2010)などが有名か。この場合、主人公が青年なら押さえつけるのは父親になりがち(ロバート・デ・ニーロとかがその父親役を演じたりして……)。
パールは動けない父親や家畜の世話しながら気晴らしとして、こっそり母親のドレスを着て鏡を見たり、家畜相手にミュージカル・ダンスの真似ごとをして気晴らししていた。しかし厳しい母親は目ざとく見つけてそれすらも「汚らわしい」と禁ずる。
フラストレーションの行き場が無くなったパールは、家畜小屋に紛れ込んできた可愛らしいアヒルを農具のフォークでブッ殺す。そして近所の沼に住むワニにそれを喰わせて気晴らしする。
ここまでがアバン(タイトルが出るまでの冒頭)。もう既にパールは「気に食わないことがあると小動物を惨殺」するという”共感を許さない若い女”という事を示されて映画が始まる。自分より弱くて痛めつけられる存在が小動物しか居ないのだ。もうどうしようもない。
厳しすぎる母が一切の一人遊び程度の楽しみすら許さない締め付け……父の介護や家畜の世話……貧しい農家……帰らぬ夫……それら環境のせいか、はたまたパールはピュアイーヴィル(生まれついての邪悪な人物)なのか?それは本作を観ただけでは分からない。でも最後まで観た結果、僕は「パールに”そういう傾向”はあったかもしれないが母親の影響が多い」と推測した。これはどのようにも取れるように作られてるのでマジでわからない。本人もそう言ってるし「生まれついての邪悪」という可能性もある……だが、それを言ってしまうと我々も皆そういう傾向はある気がするが……現代社会に住んでいるため、その邪悪が目覚める機会がないだけだと僕は思う。
ちなみにパールが惨殺した哀れなアヒルを沼のワニに喰わせるが、このワニは『X エックス』 (2022)でも健在だった。パールが殺したものを喰って証拠隠滅する舞台装置だ。
ある日、買い物のついでに映画を観に行ったパールはイケメンの映写技師(演:デヴィッド・コレンスウェット)と知り合う。母親から「疫病が伝染るかもしれんから他人と喋るな」と言われていたが会話してしまった。映写技師は「いつでも映写室においで」と、屋根の下で食事ができる以外に何も良いことがないパールに優しくしてくれた。
その帰り道、パールは近所のカカシを押し倒してダンスを踊り、キスして跨がり騎乗位SEXの体制で自慰を行う。夫が帰って来ない欲求不満、母親の締付け……などのストレスが溜まり、さっき知り合ったイケメン映写技師でセックスへの欲求が我慢できなくなった。もはやパールは着火寸前の核弾頭だ。
なお、買い物のお釣りが足りないことに気付いた母親はパールの夕食を取り上げるのだった。
後日、映写技師を訪ねたパールは、彼がフランスで入手したという実際のSEXが撮影されたポルノ映画……の元となるような映像をこっそり観せてもらう。映写技師は「将来こういった映像も自由に撮れる時代が来るだろう」と言う(なお奇しくも61年後、パールの農場に来た若者たちがこういったポルノを撮影し、パールは彼らを殺して逆に殺されることになる)
。
そんな中、パールは夫ハワードの妹ミッチー(演:エマ・ジェンキンス=プーロ)から「地方を巡業するダンサーのオーディション」がテキサスにやって来ることを聞いた。
パールはミッチーと共に、つまらない田舎そして煩わしい実家……から脱出するためオーディションへの参加を決意する。
映写技師との会話で「いっそのこと両親が死ねば家を出られるのに……」と思うパール(幼い頃から母親に魂を支配されているパールは黙って家出する事はできない)。愛する父の車椅子を沼に押して行き、家を出ること今からパパをワニに喰わせることを囁くが母親に見つかり帰宅する。
だが当然、速攻で母親にバレて夕食の席で揉める。
今まで抑え込まれてきたパールは「実家に永遠に住んでもいいけどチャンスに挑戦しなければ一生後悔するからオーディション受けさせて!」と腹の中を叫ぶ。
しかし母親はそれを許さず「お前は何をやっても絶対に失敗する」と呪いの言葉を吐く。
そして母親は「私は全てを捨ててここで暮らしている。そもそも母親になどなりたくなかったし、お前は邪悪な娘だ」みたいな事を言う。
これは、ここまで観ただけではわからなかったが、どうやら母親はパールに愛情はなく「自分はやりたい事すべて捨てたからお前も全部捨てろ」とだけ思っている事が明らかになる(ひょっとして奥底にパールへの愛情があったかもしれないが描写されないので無いも同じだろう)。
パールと母親は揉み合ううちに暖炉の火が母親に着火し、彼女は致命傷になりかねない大火傷を負う。
パールは母親を地下に叩き落とし、恐れおののく父親を置いて家を飛び出し、映写技師に会いに行き抱かれるパール。
翌朝、映写技師に家に送ってもらうが、全体的に家やパールの様子がおかしいので映写技師は帰ろうとする。
するとパールは一瞬で最高潮に激怒して映写技師を農具のフォークで惨殺。
観ていてパールの豹変ぶりに呆気にとられた。
コミュ障気味のパールだが、愛に飢え続けていた彼女は「他人の心が自分から離れる」瞬間に異常に敏感で、映写技師が自分を見て”引いてしまい”もう二度と自分に興味を持たないことが瞬間的にわかった。だから速攻で殺してしまったのだろう(パールは一見、鈍感なコミュ障に見えるがアウトプットが苦手なだけでインプットはむしろ鋭い女性)。
それにしても、この映写技師はイケメンすぎるし最初から最後までパールに優しすぎたせいか、現実感がなかった。最初から最後まで「弱ったパールの心が作り出した架空のイケメン」と言っても通じる。……イケメンすぎると今調べたらジェームズ・ガンの『スーパーマン:レガシー(原題)』(2025)のクラーク・ケント/スーパーマン役やる人なんだね。確かに、素の状態で凄くクラークっぽかった……。
その後、義妹ミッチーとオーディションに参加したり、その後でミッチーに自分の秘密を全て語ったりする(このワンカットの独白が凄い)。
そうこうしつつ「自らと夫ハワード」以外の全てが壊れた(自ら壊した)パール。
戦争から帰ってきた夫ハワードが見たのは完全に気が狂った凄まじい笑顔を見せるパールだった。
最後まで観て、色んな解釈があるがと思うが、僕は心の弱いパールは誰からも……母親からも愛されず徐々に壊れていった哀れな女に思えた。本編を観た限りだと母親がパールに心を開く瞬間は最後までなかったように思えた(僕がわかんなかっただけならすんません)。それでいてパールは母親を苦しみ抜いて殺すが、殺したことで母親もパールのものになったのか、パールは母親に抱かれて子守唄を歌われる妄想をした。
夫のハワードも大きな家から出るのにパールがうってつけだっただけだしパールもまた貧乏な実家から出るのにハワードが都合良かっただけだ。
ただパールは最後まで動けない父親に対してだけは「愛してる」と言っていたので、ひょっとしたら動けた時の父親はパールに愛情があったのかもしれない(だが父がパールに愛情を向けた描写もないのでわからない)。
そしてパールは、自分を怪訝な目で見続けていた両親をブッ殺して死体にする事によって初めて一緒に居れる一家団欒を味わう(『ヘレディタリー / 継承』(2018)以来の良いホラー家族団欒シーンだった)。
パールにとって、母親に火が着いた時から……もしくは生まれつき?「ブッ殺す!」以外の「他人とのコミュニケーション」の取り方は無くなってしまっていた。
そういえば義妹ミッチーへのゴアシーンも素晴らしかった。
結局のところ本作もまた前作同様に、予告編を観て想像した通りの凡庸なスラッシャーホラーのストーリーが最後まで展開されただけだった。
だが「何でこんな映画で?」と、自分でも不思議なくらい感動した。
まずミア・ゴスの素晴らしいエモーショナルな演技があった。美人のミア・ゴスだが、最後の笑顔がめちゃくちゃ怖くて哀しいし、義妹ミッチーに恐ろしい独白するところは形相が凄くて美人どころかオッサンやジジイみたいな凄い顔になっていた。
で、平凡な内容の前作の前日譚である本作もまた、観なくても最後まで予想つくくらい平凡なストーリー、それにも関わらず不思議なくらい監督やミア・ゴスや皆が本気すぎるのが伝わってきたからかもしれない。エモーショナルすぎる。
それが一体なんなのかよくわからな。というか自分が一体何に感動したのかもよくわからない不思議な鑑賞体験だった。
2作通して感じた「老ミア・ゴスは、つまらない田舎で何一つしたいこと出来ないまま一生を過ごす」という、見方によっては最も恐ろしい事が描かれているからか。そして前作によって「老婆になるまで田舎に縛り付けられ、殺人しか生き甲斐はなかったが自分が殺された」という結果を先に見せられてるからね。『スター・ウォーズ ep3/シスの復讐』(2005)で最終的には息子の前で死ぬ事を既に観ているダース・ベイダーが手足を斬り落とされたり愛妻が死んで叫んでるのを観てるエモさとちょっとだけ似てるかも?
またパールの殺しっぷりが下手なんだよね。死体を放置して男に会いに行ったり。そしてそれ以上に自分の心の内を吐露するのが下手すぎる。オーディションも張り付いた笑顔だったし映写技師や義妹に心の内を吐露する時は……もう相手を殺すしかなくなるところまで行くし。もう何でも受け止めてくれるハワードしか居なくなるのもわかる。前作で老ハワードが何言ってたのか忘れちゃったけど結局、パールの心の崩壊に責任を感じて何でもしてくれる夫になっちゃって事?
そして映画製作とかただでさえ大変だろうに、こんなストーリーは平凡なのに異常にエモーショナルな映画を三部作構想で作る監督とミア・ゴスについて考えると、そのあまりの「真剣さ」に心打たれた部分もある(だってウケ狙いってだけならこんな内容にはならないからね)。しかしまさかこんな映画で深い感動するとは思わなかった。
スコセッシが感動するのも何かわかる、映写するシーンとか好きそうだしね。
そんでやっぱ凄く熱心だったからね。久々に映画観て「映画観た」って気分になった。
『ミッドサマー』 (2019)も良いけど本作も女性にヒットして欲しいと思ったし、この三部作はミア・ゴスの代表作になるなと思った。本当に好きだ。
観た時、ポカンとしてしまった『X エックス』 (2022)をまた観返そうかな。
本作の続きは現在、制作中の『MaXXXine (原題)』で完結する。
『X エックス』 (2022)のラストで愛を知らぬ哀しき殺人老婆パール(演:ミア・ゴス)をブッ殺したマキシーン(演:ミア・ゴス)、彼女が6年後の1985年のロサンゼルスを舞台にしたものらしい。一作目と二作目の殺人鬼パールは死んでしまった。恐らくスターになっているらしきマキシーン、最終的にはカルマが巡ってきて殺人者になって悲惨な感じで終わりそうだね。
そんな感じでした
gock221b.hatenablog.com
〈他のタイ・ウェスト監督作〉
『インキーパーズ』(2011)/死ぬほど低評価の何も起きないホラーだが自分には掛け替えのない一本になった変な映画。Xシリーズのタイ・ウェスト監督作品👰 - gock221B
『キャビン・フィーバー スプリング・フィーバー(旧題キャビン・フィーバー2)』(2009)/下品系ホラー部分も良いけどタイ・ウェスト作品に期待する人間ドラマや冴えないヒロインのエモ描写がやっぱ良かった🦠 - gock221B
『サクラメント 死の楽園』(2013)/前回観た時パッとしなかったがタイ・ウェストにハマって再見してもやはりイマイチだったが感想書いてる間に良さに一つ気付いて少し評価上がった。今回もまた本題以外の可哀想な少女で演出してた感🥤 - gock221B
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Pearl (2022) - IMDb
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