gock221B

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『アイアンクロー』(2023)/呪われた若草物語?と思いながら観てたが思いのほか温かい着地してよかった。大好きなリック・フレアーのシーンは、短いが面白すぎて本編の内容どうでもよくなりかけたので映画の事を思えば無い方がよかったかも🖐️


原題:The Iron Claw 監督&脚本:ショーン・ダーキン 製作総指揮&ランス・フォン・エリック役:マクスウェル・ジェイコブ・フリードマン プロレス演出&ザ・シーク役:チャボ・ゲレロ・ジュニア. 製作&配給:A24 製作国:アメリカ 上映時間:132分 公開日:2023年12月22日(日本は2024年4月5日)

 


主に60~70年に活躍していた”鉄の爪”フリッツ・フォン・エリック、その息子たちフォン・エリック兄弟。不幸な出来事が相次いだため「呪われた一族」という異名で呼ばれた彼らを描いた実話ベースの映画。

父フリッツ・フォン・エリックの全盛期はさすがに生まれる前なので見てない。
漫画『プロレススーパースター列伝』に出てきたり、プロレスラーの逸話で語られるのを聞いたことあるだけ。
フォン・エリック兄弟たちも、アメリカンプロレスは日本で放送してなかったのでよく知らない。当時のアメプロもプロレス漫画で読んだりゲーセンのWWFアーケードゲームをプレイして憧れを抱いてた程度。
兄弟も全日本プロレスとかに来日してたそうだけど記憶になし……。
ということであまり知識ない状態で観た。この監督の過去作も観てないし。

〈プロレスの映画〉という視点ならダーレン・アロノフスキー『レスラー』(2008)はかなり良かった……けど、この破滅的なレスターの映画を観て帰宅したら三沢光晴が亡くなったりして考えさせられた。フローレンス・ピューがWWEのペイジの半生を演じた『ファイティング・ファミリー』(2019)……は、まぁ普通だったかな。そういえばWWF(現WWE)のレスラーのリング外の姿を捉えたドキュメンタリー『ビヨンド・ザ・マット』(1999)、これが一番面白かったかも。当時のイカれたビンス・マクマホンとか見ごたえしかなかった。
プロレス自体は子供の時から20代前半まで新日本プロレス全日本プロレスを普通に観てて、20代後半にWWEにはまった。その時はエディ・ゲレロクリス・ベノワという苦労人で渋い2人がチャンピオンになって、日本公演があったので武道館に観に行ってアンダーテイカーのワープとか観て盛り上がった。
……が、翌年あたりにそのエディ・ゲレロが若くして病死。そして少し後にクリス・ベノワが妻子を殺した後に自殺というとんでもない経緯で死亡。
クリス・ベノワ - Wikipedia
ベノワが悪人ならまだしも凄い人格者の苦労人として知られてたのでショックも大きかった。あとレスラーがやたらと若くしてポンポン死んでいくので色々考えさせられるし、WWE全部観てたらめちゃくちゃ時間かかるってのもあってプロレス観るの止めた。
WWEで活躍する日本人(中邑真輔、ASUKA、KAIRI SANE、IYO SKY)とか、ジョン・シナとかアンダーテイカーとか気になる人の試合をたまーーに観るだけで、もう殆ど観なくなってしまった。
……と、全然本作に関係ない話してるようだが要はプロレスラーは膝やら首やら身体がボロボロになったり(特に昭和は脳天から落とす技とかやってたし)ステロイドが能に与える影響とか、それらから逃れるためにコカインやったり(海外)、あと単純に極端な人格の人が多いせいか不幸になる人が妙に多い……最近は対処され始めてそんな不幸は減っていくだろうが2000年以前のレスラーはそんなイメージある。
ある時期、昭和のレスラーがバンバン死んだり不幸なニュースが多い時期があって、時間食うしプロレスあまり観なくなった。
そういう事で昔のレスラーは不幸になるイメージが強いってことで間接的には本作に関係あるかも。

ネタバレあり

 

 

 

 

1980年代初頭、次男ケビン・フォン・エリック(演:ザック・エフロン)、三男デビッド(演:ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(演:ジェレミー・アレン・ホワイト)……たち、エリック兄弟は、元AWA世界ヘビー級王者である父親鉄の爪フリッツ・フォン・エリック(演:ホルト・マッキャラニー)と母親パム(演:リリー・ジェームズ)によって”地上最強の一家”となるよう育てられた。

そんな話。
劇中のプロレスシーンは、フォンエリック家と同じく名門プロレス一家ゲレロ家出身のチャボ・ゲレロ・ジュニアが担当している。劇中の試合は80年代がメインなので現代のスピーディなものではなくじっくりした試合運びを振付して、ザック・エフロンを始めとした俳優たち本人がプロレスアクションを行っている。
冒頭で父である初代・鉄の爪フリッツが引退してプロモーターになる。
フリッツは自分が唯一穫れなかった〈NWA世界ヘビー級王座〉を息子の誰かに獲得させたい。
メインの主人公は次男ケビン。ザック・エフロンが物凄いマッチョに仕上げて演じている、というか本物のケビンより筋肉すごい。ちなみに四兄弟の上に実は長男が居たのだが幼少期に事故で既に亡くなってたらしい。だから今は次男ケビンが一番上。
ケビンは一番最初にプロレスラーになって活躍しておりプロレス的な技術は優れていたが、マイクパフォーマンスやら抗争など、プロレスには必要不可欠な”華”要素が苦手という弱点があった。
それを補うのがケビンに次いでプロレスラーになった三男デビッド。長身で体格にも優れたデビッドはケビンには無いマイクパフォーマンス能力があった。
ケビンに僅かな不満を抱いていた父フリッツはデビッドを推していく。
父の期待に応えるためプロレス一筋で生きてきたデビッドだが、彼は最初から「プロレスで天下獲る!」みたいな思想ではなく彼の本音は「みんなと楽しく暮らしていきたい」という心優しいもの。つまりケビンにとっては家族や仲間との愛情が一番であって、プロレスや王座はそれを実現するためのツールに過ぎない。ケビンにとっては尊敬する父フリッツに褒められたり、兄弟達と切磋琢磨したい。
父の期待がデビッドに移ったから……なんて単純なことからではないだろうが、この時期、ケビンは生まれて初めてできた恋人パム(演:リリー・ジェームズ)との間に子供が出来たので皆に祝福されて結婚する。
「兄弟と両親が健在」「愛する家族全員に祝福されて愛するパムと結婚」、この映画内の範囲だと、この辺が一番ケビンの幸福度が高い。
そして父や兄弟の期待を背負ったデビッド。しかしデビッドはケビンとパムの結婚式で吐血しケビンや我々観客に嫌な予感を感じさせる。映画の中の”嫌な予感”は、予感だけで終わりはしない。またぞろ出てきて、”嫌なこと”をするのよ。
デビッドは日本に試合しに行き、そのままホテルで内蔵不全で亡くなってしまう。ショックを受けるフォン・エリック家。
四男ケリーは陸上でオリンピックを目指していたが1980年、アメリカはモスクワ・オリンピックのボイコットを宣言したため、やる事がなくなったのでプロレスラーになる。総帥フリッツや兄弟の期待を背負ったケリーは”狂乱の貴公子”リック・フレアーを倒し、見事に父フリッツや故デビッドが志半ばで叶えられなかったNWA世界王座……への登竜門となる王座を勝ち取る。寝る前にバイクでドライブするケリー。
次のシーンは朝、目覚めたケリーは飲み物を飲むためキッチンに行くが右足の足首から下がない。バイク事故で切断してしまった数日後だったのだ。
バイクに乗るから事故るんだろうなと思ってたが事故のシーンはなく、後日の朝に足がないっていう、この見せ方は不意を突かれて「ひっ!」となった。
ケリーの事故だけ、事故の瞬間や家族のリアクションなどをスキップしてる演出が、映画として非常に良かった。毎回毎回、兄弟死ぬ悲しむを繰り返してたら実際に起きた悲劇とはいえギャグっぽくなりかねないしね。実際、フォン・エリック家には本当は六男もいて自死したそうだが五男マイクのエピソードに統合されたらしい。ケビン以外の兄弟が死んだり事故ったりが四回も連続で続くと嘘っぽくなるから一個減らしたのかな?よくわからないが、現実では死んだ兄弟が更に一人多かったというのが凄い。

 

 

劇中で起こること全部書いていっても仕方ないのでやめるが、兄弟の相次ぐ死や事故で最終的に兄弟はケビンと義足で復帰したケリーだけになってしまう。
ケビンとパムには息子が二人できたが、ケビンは世間で噂されている”エリック家の呪い”を信じ始め、愛する息子たちに「呪いが伝染しないように」と自宅に帰らなくなる。まぁ、兄弟のうち長男が生まれて間もなく死んで近年10年以内に三回連続で不幸に見舞われ(現実では四回)たら、そう思っても不思議じゃないよね。
一方、義足で復帰したケリーはWWFインターコンチネンタル王座を獲ったりして凄いのだが、痛みを紛らわせるため薬物を乱用したせいか気性が荒くなり不安定になっていく。
後半、ケビンは父フリッツや弟たち(デビッド、ケリー、マイク)も穫れなかったNWA世界ヘビー級王座決定戦に挑戦する。
対戦相手は弟たちとも抗争を繰り広げた”狂乱の貴公子”リック・フレアー(演:アーロン・ディーン・アイセンバーグ)。
試合前、ケビンはシリアスかつナーバスな表情で準備運動する。もはや「フォン・エリック一家、念願の王座が目の前」という事は頭にはない。前述した通り、ケビンの欲しいものは「兄弟や家族と楽しく暮らすこと」だけなのだ、それが半壊してしまっている今、ケビンにとってNWA世界ヘビー級王座などどうでもいいのだ。
虚ろな瞳でウォームアップを繰り返すケビン、彼の目はNWA世界ヘビー級王座を見ておらず自分の内面……一番大事だった兄弟の殆どを失ってしまった一家の呪いを見つめている。
……そんなシリアスなケビンとシンクロしてリック・フレアーによるTV用の、自己アピールのド派手なインタビューが流れる。

フレアー「俺様が他の奴らと違うのは頭のてっぺんからつま先までカスタムメイドだということだ。俺は街の一番大きな丘の上の一番大きな家に住んでいる……。……このジャケットも800ドルだ!(インタビュアーのスーツを嫌そうにつまんで)んん値段もわからんような物は恥ずかしくて着れん~~!(靴を脱いで手に持ちカメラ目線で)だから俺様はトカゲの靴を履き!(手首を上げて目と歯を剥いたキチガイの表情でカメラ目線)んんん時計はロレックス!俺様の全長1マイルのリムジンに乗り込んだ美女25人が俺様の帰りを今も待ちわびている!WOOO!!!!!
そしてフォン・エリック家の不幸を使ってケビンを煽る(というか励ましているようにも聞こえる)。
ハッキリ言ってフレアーのインタビューが面白すぎた。そこそこ似てたし。
昔の若フレアーのインタビューも大体こんな感じ「俺様は常に自分のジェット機を飛ばし!そこには大勢の美女がおり!」とか自慢をわめきちらすのが最高。
本物の昔フレアーのわめきちらし動画を貼るか……と検索してたら、ちょうど父フリッツと言い合いしてる映像があった。大体こんな雰囲気だ。元気が少ない時に観たら元気を貰えるかも。
www.youtube.com
フレアーのマイク・パフォーマンスに匹敵するマイク・パフォーマンスは松居一代の「おちんちんシール」くらいしかない。

www.youtube.com結論から言うと、試合は精神状態が不安定なケビンがフレアーを痛めつけすぎてしまい反則負けになる。ケリーは「どしたん?」と引き気味で、またしても期待を裏切られた父フリッツは呆れ気味。ケビンにボコボコにされて血まみれのフレアーがやってきて「ケビン、さっきの俺様への超暴力めちゃくちゃ良かった!またやってほしい!今から飲みに行こう!?」と笑顔。それどころじゃないケビンは「いや……俺はいい……」と断る。
ケビンの精神状態が危ういシリアスなシーンのはずなんだがハッキリ言ってフレアーのインタビューが面白すぎた。
ケビンvs.フレアーの試合も30秒くらい?の短いものだが、ケビンをコーナーに押し付けたフレアーがチョップして「WOOO!!!」(フレアーの雄叫び、客も真似をする)そこからのフレアーウォーク(相手を馬鹿にしてアホみたいな歩き方する。野性爆弾くっきーがお笑い向上委員会でよく真似している)。

というフレアーの得意ムーブが5秒くらい?流れるもんだから、さっきのインタビューと合わせて一気にフレアーの事で頭が一杯になってケビンの人間ドラマを忘れてしまった。
実のところは僕は全プロレスラーの中でリック・フレアーが一番好きで、一番良いところは強さ以上に受けの天才で「コーナポストに投げられて一回転してスタスタ歩き出す」という訳のわからんムーブも好きだが、

「敵の攻撃を喰らって平静を装って歩き出すが三歩で顔面から倒れる」など芸術作品。
敵の攻撃を平気なふりして顔面からぶっ倒れる……これ以上に尊い動きがあるか?

あと卑怯なキャラでもあったので「NO……NO……」と弱ったふりをしといて目潰し。ひざまずいて「NO……NO……」と許しを請うて油断を誘っといて敵のチンコを殴る……などもたまらない。
映画に関係ないのでやめるが僕はフレアーの自伝やDVDBOXも買ったし最も好きな有名人ベスト5に入る気がする(他には水木しげるジョン・カーペンターなど)。現在は娘のシャーロット・フレアーWWEで活躍している。
このフレアーの話は映画本編に直接関係ないとはいえ「若い時のフレアー完コピを1分近くも展開したら、そりゃ面白すぎて映画をさらってしまうだろう」という僕の意見がこのページにも反映されたと言える。
この映画のためを思うなら、フレアーはデビッドやケリーの時みたいに名前だけ出すとかTVで流れてるだけにしといた方が良かったと思う。フォン・エリック家のこと忘れて「フレアー自伝映画が観たい!」と思っちゃうからね。本作は人間ドラマに焦点を当てててプロレスの面白さ自体を描写するシーンは少ないのだが、どうやら監督がプロレス好きらしいから「フレアーだけはちょっと入れたい!」と思ったのかも。

 

気を取り直して話を戻そう。俺がこれを始めた。だから俺が終わらせよう。
そうこうしつつも起きてはいけない更なる悲劇が……起きてしまう。
ケビンが大切なにしていたものは全てなくなってしまう。
ケビンは生まれて初めて父フリッツに反抗して首を締める。
「アイアンクローって、確かにフォン・エリック家の必殺話だけど別に劇中で象徴的に使われるわけでもないから映画のタイトル『フォン・エリック』とかでも良かったんちゃうか?」とか思いながら観てたが、この父への首絞めはひょっとしてアイアンクローと被らせてて、だから映画のタイトルにしたのかも……と、少し思った。
父フリッツの描き方は「諸悪の根源」にも見える。しかし「DVしまくり」とかそれほど分かりやすい毒親ではない、普段は家族を普通に愛してるし浮気もせず妻とも仲が良い。ただここ一番の家族の精神的なピンチの時、1mmも寄り添う素振りがない、という事は一貫して描かれていた。「自分は出来るから他人もほっときゃ出来るだろ」と思ってるタイプ?最後に妻も家を出るとかはしないが仕事から帰ったフリッツに夕食を作らなくなり故マイクが興味を持っていた自分の事(絵画)を始めるという絶妙なかたちでフリッツ批判をしていた。フリッツもそれで逆ギレするわけでもなく受け入れてるし、全員をちゃんと人間として描いてる感じ。……とは言ったものの、兄弟が4人も(現実では5人も)死んでしまうというのは、弱みを見せた子供に一切寄り添わなかったり、すぐ目を離してしまうフリッツのせいとしか思えないよね。
そして死んだ後のフリッツ・フォン兄弟たちも実に暖かく描いていた。
「たったひとつの大切なもの、全て失った」と絶望したケビンだったが、彼には愛する妻子が居た。父フリッツの妄執を捨てたケビンは『機動戦士ガンダム』(1979-1980)ラストのアムロのように帰れる場所に帰っていった。
実際はどうだったかわかんないけどこの映画観た限りだと、ケビンが独身だったらケビンもそのまま死んでたんじゃないかという気がする。

そういう感じでしんみりしつつも最後は暖かくて良い映画でした。
……良い映画とは思うが、ちょっとしんみりしすぎかなという気もした。中盤から兄弟がどんどん不幸に見舞われていって、どうしてもしんみりせざるを得ないので前半はもっとめちゃくちゃ派手に楽しくしといた方が良かったかも?その方が死のショックもデカくなっただろうし。

 

 

 

 

そんな感じでした

🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️🖐️

The Iron Claw (2023) - IMDb
The Iron Claw | Rotten Tomatoes

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映画『アイアンクロー』再生リスト - YouTube

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