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『首』(2023)/北野武映画史上最もカッコつけてるシーンがなくエンタメに徹し尽くしてるので今までで一番カッコよくて好きな作品でした💀


監督&脚本&制作&原作&主演:北野武 特殊メイク&特殊造形スーパーバイザー:江川悦子 製作国:日本 上映時間:131分 初公開日: 2023/11/23 英題:Kubi

 

 

北野武監督作19作目。
カンヌに出品された時に、カドカワ取締役が海外カメラマンに「誰やお前!どけ!」と、どかされた記憶も新しい期待の新作。
たけし映画の集合写真に映り込もうとして追い出される夏野剛:ロマン優光連載241 (2023年5月26日) - エキサイトニュース

Wikipediaを見てみたら北野映画は『Dolls』(2002)以外、全部観てる事に気付いた(『Dolls』は、昔からよく語っていた浅草の繋がり乞食カップルやら失明したアイドルの恋愛やら……何だか辛気臭そうで観てなかったが、観てないのこれだけだとわかり折角だから近々観てコンプリートしようと思った)。
※翌日観た Dolls ドールズのgockの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画
幼児の時に漫才ブーム、小学生の時に『オレたちひょうきん族』『ビートたけしオールナイトニッポン』(1981-1990)、〈フライデー襲撃事件〉(1986)、中学生の時に映画初監督作『その男、凶暴につき』(1989)、高校卒業して一人暮らしして『ソナチネ』(1993)を観客ゼロの劇場に二回観に行ったり久石譲のサントラ買ったり彼女と一緒に観て「こんなの映画じゃない」と酷評されたり……(多分この辺が最もガチ勢だった時)、翌年〈バイク事故〉(1994)があったりカンヌで『ソナチネ』が大評判になったり……このカンヌで大評判になった時たけしが世界的に評価されていくことを感じ、それまではお笑い芸人としては人気だったが映画は全く人気なかった。芸人ビートたけしのファン、映画好き、どちらからも人気なかった。カンヌで評価されたら急に前から好きだったと言い出す奴が急増した記憶。しかし世界的な評価を得たことで「自分だけが応援してる」と思ってた肩の荷が降りて以降はライトなファンくらいに落ち着いた(実際には「自分だけが応援してる」と思い込んでた孤独な魂がいっぱい居たのだろうが、当時はインターネット等が無かったので社会現象を起こしてないレベルの人気のエンタメに対して精神的な連帯が持てなかった時代)。

映画的には、初期の「淡々とした撃ち合い」「お笑いの間で唐突な暴力が描かれる」「極力減らした台詞と美しい風景」といった世界的に評価されつつも客は全く入らなかったのだが、それらの「静かすぎる美しい風景の中で唐突な暴力が起きる詩情あふれる寡黙な作品」といった作家性を2000年代初頭、『座頭市』(2003)で突然かなぐり捨てて初めての大ヒット。『TAKESHIS'』(2005)、『監督・ばんざい!』(2007)、『アキレスと亀』(2008)の、たけしが迷ってる感じの三部作の後、再び台詞で思ってること全部言うので馬鹿でも内容全部わかる『アウトレイジ』三部作(2010-2017)が国内外で大ヒット。
初期の「静かすぎる美しい風景の中で唐突な暴力が起きる詩情あふれる寡黙な作品」路線の時は、その「説明のない描写やケレン味のない銃撃」や「世間で誰も観てないし評価もしてない」といった状況が当時の僕の思春期の捻くれた精神にピッタリ合ってドハマりしていた。……しかし、たけしの異常に照れ屋な部分も作品内に刻み込まれてて、恋愛描写やドラマチックな場面や心情の吐露などが恥ずかしいのか、それらの場面を全力で避けたり変な風に撮ってみたりしてたが、それが逆に幼少期からたけしを見てた俺の脳に「照れてるたけしの魂」が直接、撃ち込まれて観てるこっちもめちゃくちゃ恥ずかしくなるのが嫌だった。
そして大衆にもわかりやすくした『座頭市』(2003)や『アウトレイジ』三部作(2010-2017)等は、確かにキャラが思ってることや状況説明などを全部大声で言ってくれるので、初期の黒澤明が「ビートくんの映画は説明しないからいいね」と言っていた映画玄人的なカッコよさはなくなったが、初期の作品にあったナイーブな少年みたいな照れ隠し等も同時に無くなってくれたおかげで、割と観やすいので助かる、そんな感じです。

本作は「構想30年」とか宣伝されてるが、たけしは昔から「侍が汚くて全然カッコよくない戦国ものを撮りたい」とオールナイトニッポンや『北野ファンクラブ』(1991-1996)で何度か語ってたから、それをいよいよ撮ったんだなと思った。
視力が0.02くらいしかなく乱視もあるのに眼鏡を忘れてしまったが後日また出直すのは面倒だし、せっかく初日に見る機会だから最前列で観た。それでも解像度で言うと240p以下の鮮明度だったが、各人の顔は覚えてるしオッサンばっかりばかりだからとりあえずこれでもいいやと思って観た。どうでもいい話だが観終わって劇場から出たら、同じ回を観てたのか岡田斗司夫が居た。
全然知らんかったがたけしが4年前すでに原作小説を出版してたらしいが読んでない、あと戦国の歴史についても大雑把な事以外は知らんので、史実と照らし合わせて感想書くのは無理。あくまで「北野武の戦国映画」として捉えた。

ネタバレあり

 

 

 

 

Story
天正六年(1578年)、天下統一を目指す織田信長(演:加瀬亮)は、毛利、武田、上杉、京都の寺社勢力らと激しい戦いを繰り広げていた。

その最中、信長の家臣・荒木村重(演:遠藤憲一)が、長年に渡る信長からの”可愛がり”に堪忍袋の緒が切れて謀反を起こすが敗れて落ち延びる。
信長は家臣たち、羽柴秀吉(演:北野武)、明智光秀(演:西島秀俊)らを一堂に集め自身の〈跡目相続〉を餌に〈村重の捜索〉を命じる。

秀吉同様に百姓から侍大将にのし上がりたいあまり仲間すら殺す百姓難波茂助(演:中村獅童)と、元甲賀の忍の芸人曽呂利新左衛門(演:木村祐一)は逃亡中の村重を捕獲、秀吉に引き渡して家来となる。
秀吉の弟・羽柴秀長(演:大森南朋)……は只の腰巾着だが、有能な軍師黒田官兵衛(演:浅野忠信)の計略で、捕らえた村重を光秀に引き渡す。しかし光秀は恋人だった村重を殺さず匿う。
村重の行方が分からず苛立つ信長は家臣たちへ疑いの目を向け始める。
だが、それらは全て仕組まれた罠だった。権力争いの行方は?――

そんな話。

「村重の反乱」から始まり「本能寺の変」が起こり、その顛末までを描く。その陰で秀吉がズル賢く暗躍してた、みたいな流れ。
北野映画的には一言で乱暴に言うと、予告編を見て誰もが感じたであろう「戦国版アウトレイジ」という感じ。内容や描写も、『座頭市』(2003)や『アウトレイジ』三部作(2010-2017)等、近年のエンタメ北野映画同様に、キャラが思ってることや状況説明などを殆ど大声で言ってくれるので、もう国民全員が楽しめるエンタメ大作となっている。
たけし演じる秀吉が「光秀うまくやれるかなあ~っ!?」等と思ってる事をすぐ口にするが邦画に対してよく思う「観ればわかることを全部口にする」という悪い意味でのそれではなく「誰でもわかるようにそうした」という印象が強くて悪感情は抱かない……というのも「監督デビューして10年以上、説明のない映画を撮り続けて客が全く入らなかったにも関わらず折れずに世界的評価を得て、世界的評価を得たからそれを続けても誰も文句言わない状況になった後で、シネフィル的な評価が下がりそうな、わかりやすエンタメ路線に舵を切った」という経緯を観てきたから、それによって文句が全く出ず素直に楽しめるのかもしれない。
今まで通り血なまぐさい暴力描写が多い。ヤクザ映画だった『アウトレイジ』三部作(2010-2017)は拷問や変わった殺し方大喜利が多かったが、本作は戦国ものなので変な殺し方よりシンプルな斬首などが多い。そして今まで通りたけしっぽいベタなギャグが満載。神輿に乗せられて川を嫌々渡らされる秀吉などは『お笑いウルトラクイズ』で自ら身体を張ったビートたけしを思わせる。

今までの北野映画や戦国ものではあまり描かれなかった要素として「衆道(武将による男色の契り)」が多く描かれてるのが特徴。
これは「ポリコレに屈した」勢がよく言う「ポリコレに屈した!」というわけではなく実際に名のある武将の殆どは男色を嗜んでいたので、今までの戦国ものが正しくなくて本作が正しいと言える。なお主人公である秀吉は「女にしか興味のない変態」だったらしいし本作のたけし演じる秀吉も「そっちはサッパリで……」みたいな事を言っていた。
たけしは以前「男ばかりで命のやり取りしてたら自然と絆が強くなるよ」みたいな事を何度か言ってた気がするし過去の北野ヤクザ映画なども、主人公たけしと舎弟(大杉漣寺島進椎名桔平中野英雄)などの関係も、絆が強すぎて腐女子の人が見たらBL認定しそうな要素が強かったので、本作でガチで男同士のキスやSEXや信長の性的な拷問が出てきてもあまり驚くようなものでもなかった。ましてや「衆道」があった戦国ものなので「これが自然か」と素直に受け止めた。
狂王の信長は、常日頃から家臣を馬鹿にした名前で呼んでたり殴る蹴るの暴行を加えていた。また本作の信長はかなりのサディストらしく日頃から”可愛がっていた”村重を特に痛めつけており、本作冒頭の〈村重の乱〉も、ついに堪忍袋の緒が切れた村重が爆発して戦になったのが本作のスタート。
刀に刺した饅頭を村重に食わせて刀をグリグリやって口中血まみれになった村重に信長が「おみゃあ~はどんだけ可愛い奴なんだぎゃ~!w」と絶叫してディープキスしまくるシーンは本作のハイライトだろう。
あと今までの北野映画で活躍する女性キャラは滅多に居なかったが本作は戦国ものなので輪をかけて出てこない。目立った女性キャラは強いて言うなら、醜女好きの徳川家康が夜の相手として連れてこられた若い処女たちを皆帰らせて相手に選んだやり手ババア(演:柴田理恵)くらい。あとは甲賀の狐面スピーカー女とか一族郎党皆殺しにされる村重の家の女や知らん間に殺されてた中村獅童の家族などしか出てこない(しかも皆、人権なさそう)。

 

基本的には武将や侍がみっともないものとして描かれてるのがいいです
北野映画はデビュー作『その男、凶暴につき』(1989)からずっと「銃撃戦や戦闘、刑事や剣豪やヤクザ」等の映画でカッコよく描かれる事が多かった要素を、わざとショボかったり淡々としてたりみっともなく描く事が多く、ファンはそれを観て「逆にカッコいい!」と熱狂していた(おかげで10代~20代前半の時は普通のハリウッド映画のアクションを普通に楽しめない時期があった。タランティーノにもハマってたし)。だがそれでも「淡々と撃ち合って、流れ弾で関係ない通行人が死んでカッコいい!」とか「たけし演じる主人公や寺島進や故・大杉漣が仁義を通してカッコいい!」みたいな場面や「色々頑張ってたが死にたがってるたけしが最後には全滅してカッコいい!(これは今思い返すと別にカッコよくない)」などと、カッコいい場面もあったが、本作は軽々しくサムライをカッコよく思われないように尽力しているのを感じた。「みっともなさ」を前面に出している。「傍若無人だが魔王としてのカリスマ」があると思われた信長も「結局は人の子か!」と光秀に見限られ、”タヌキ”として暗躍する秀吉や家康も「かっこいい策士」というよりは単純に「プライドがゼロのズルいジジイ」みたいな描かれ方している……まぁそれらを「逆にカッコいい!」と思えなくもないが……今言ってるのは「ヒロイックな英雄っぽさが皆無」っていう意味での「カッコよくないように描いてる」って意味ね。
強いて言うなら浅野忠信演じる策士・黒田官兵衛は割と素直にカッコいいキャラと言えなくもない。
あと前述で汚いジジイと言った秀吉と家康だが本編中で勝ちっぱなしのまま終わるので「プライド皆無のズル賢いジジイ」という要素がカッコよく見えてしまう面もあった。そういう勝ち逃げ的なキャラだと他には千利休(演:岸部一徳)とか利休に仕える間宮無聊(演:大竹まこと)も、カッコいいまま終わったキャラと言える。

「武将や侍ってカッコいい!」というのは、あくまでも「自分が権力者」だった時または、自分の立場を分不相応にも忘れた上で「武将や侍に感情移入した時」のみに感じられる感情なので、基本的には民衆が武将や将軍などに感情移入するのはあんまり良くない気もします。法整備された現代でも政治家が無茶苦茶してるのに、権力と武力を併せ持った武将とかが良い人なわけないからね。
だから武将や侍や将軍は本作のようにみっともなく描かれてる方が僕は好きです。手塚治虫原作漫画『どろろ』のアニメの主題歌……2019年版のアヴちゃんの「火炎」……も名曲だけど、今はそっちじゃなくて白黒アニメだった頃の『どろろ』(1969)の主題歌が「民から見た侍(権力者)の虚飾」を歌っていてアニメ主題歌の中でもかなり好きです。

www.youtube.com
藤田淑子 どろろの歌 歌詞 - 歌ネット
1969年って中年の僕も生まれてないから観てないですけどね。大人になってYOUTUBEで主題歌聴いて感動した口です。
燃える鎧に燃える馬、天下めざして突き進む……とぼけちゃいけねえ知ってるぜ、お前らみんなほげたらだ」といった感じで「カッコつけてるけどクズばっかじゃねえか」って歌。「ほげたら」という聞き慣れない蔑称?も、民衆がクズだのカスだの言ってるの侍に聞かれたら斬られるかもしれんから隠語で悪口言ってるのかな?と思わせる感じも泣ける。岡本喜八の『赤毛』(1969)で幕府に犠牲を強いられてる民衆が、直接抗議したら斬られるかもしれんから抑圧されたエネルギーを「ええじゃないか」踊って爆発させるラストシーン……を思わせる歌詞。
そういう感じで武将や侍をダサく描いてる方が基本的には好みですが、時には黒田官兵衛とか諸葛亮孔明などの軍師に感情移入して読んだりします(だって、そーいう作品の民衆とかって、ただ道に転がってる死体でしかないから話がつまらないからね)。
しかし本作は、民衆代表の茂助がどうしようもないカスだから「侍をクズだと笑う民もまたクズ」みたいな全方位的に尖っていて美しかったですわ。これで「茂助だけが心清らかな、秀吉にならなかったバージョンの百姓」として物語を描いてたら凄いダサくなってたから茂助をカスにしてくれてよかった~。


欧米ウケしそうな内容
あと本作は今までの北野作品以上に「欧米ウケする日本」描写が多い。これはもうかなり意図的だろう。
「サムライ」「合戦」「策謀」「ニンジャ」「クノイチ」「黒人サムライ弥助の活躍」「訳のわからんジャバ・ザ・ハットめいた呪詛師みたいな奴と連動している狐面のスピーカー女(こいつらが何だったのかわからんし眼鏡忘れて字幕読めないので誰か未だにわからん)」「斬首」「ハラキリ」……本当に「衆道」以外は欧米ウケする要素が多い。いや「衆道」はヨーロッパうけするか……。
※追記:呪詛師みたいな奴は後で、甲賀の首領だとわかった

弥助と森蘭丸
信長に気に入られて家臣となった元黒人奴隷・弥助(演:副島淳)は、演じてる副島淳氏は日本とアメリカのハーフの俳優らしい。
弥助は「信長に仕えたが消息不明になったブラック・サムライ」という漫画みたいなキャラが度々、欧米のネット上で話題になったりアニメになったり、故チャドウィック・ボーズマン主演で実写映画化も進んでた人気キャラ。日本が舞台の『アサシン・クリード コードネーム レッド』(2024)の主人公も弥助だっけ?
弥助は「黒人奴隷」という非常にセンシティブなキャラなので慎重に扱われていた。
信長は美少年の小姓・森蘭丸(演:寛一郎)を「蘭丸~!気持ちええか~!?」と乱暴にFUCKしまくって「次は弥助!来い!」と言うので「弥助のことも掘るのか?危険なシーンだ」と思ったら弥助が上に乗る。「弥助が掘る側か、それでも危険なシーンだな」と思ったら、弥助は信長を指圧する……というズッコケシーン。センシティブさで観客を弄んでる感じ?指圧された信長は噛み癖がある女性のように弥助に噛み付き弥助は「ああっ痛っこのクソ野郎!」と喚く、英語なので信長にはわからない。本当は信長が弥助をFUCKするシーンだったが、危険だからやめて噛む事で妥協したシーンだと思ったがどうか?
また信長は秀吉に「弥助の身体で白い部分を当てぃろ!」と言うが、弥助は歯や手のひらや足の裏を黒く塗っており秀吉OUT!みたいなギャグシーンもあった。なかなかセンシティブ。
最後、本能寺の変で死を悟った信長は愛する蘭丸を介錯(斬首)してやると言い、光栄に思った蘭丸は大喜び、信長は蘭丸にディープキスかまして派手に斬首。鮮血を迸らせる蘭丸。
次に弥助にも同じように介錯しようとするが、弥助は普通に「黄色いクズが!」みたいな事言って信長を斬首、そして何故か首を持ち去り歴史の狭間に消えていく。
ナンバーワンの信長の首を斬って持ち去るという破格の扱いでセンシティブさを上手く誤魔化した感じ?
脳内のたけしが「弥助の扱いは難しいナ……よし!代わりに蘭丸めちゃくちゃするか」とあの声で言う様が目に浮かぶ。『戦場のメリークリスマス』(1983)で映画初主演のたけしが当時、怒鳴りまくる事で有名だった大島渚監督に「僕はじめてなんで1回でも怒鳴られたら辞めますよ」と言ったら、たけしがNG出す度に大島渚がたけしの近くのADを怒鳴りまくったエピソードが有名だが、弥助に荒い扱いしたらヤバそうだから蘭丸めちゃくちゃしてる様を見てたら何か思い出したわ。
これはこれで「蘭丸には何してもいいのか」とか「黄色いクズ」みたいな事言うのはどうかという別の問題も起きそうだが僕は割と普通に面白シーンとしか思わなかったので、問題あるシーンとして考えるのは他の人に任せるぜ。ショットガンセックスはチンポを痛めるぜ。

忍者
特に忍者のサービス。後述する木村祐一以外の忍者、伊賀忍者服部半蔵(演:桐谷健太)、般若の佐兵衛(演:寺島進)などは世界的にも老若男女的にも「万人受けするカッコいいイケメンのニンジャ」だったと言える。
終盤、半蔵と般若の左兵衛の二人だけ突然、上空に舞い上がって空中でキンキンキンキン!とエリアルレイブ斬り合いするのは「みんな~ニンジャだよ!」という、たけしの謎のサービス精神を感じた。『座頭市』(2003)で主人公の市が斬鉄剣みたいに灯籠を仕込み刀で切断したシーンみたいなノリね。
だが服部半蔵は只強いだけで何のドラマもないイケメン……って事で『アウトレイジ ビヨンド』(2012)の花菱会ヒットマン高橋克典)みたいなものか。北野映画に出てくる若いイケメンというのは「50歳以下」って感じで特に若くもないイケメンもあまり活躍しない事が多い。だから『アウトレイジ』(2010)椎名桔平は「こんな若いイケメンが北野映画で大活躍するとは」と少し驚いた。しかし半蔵役の桐谷健太『アウトレイジ ビヨンド』(2012)では瞬殺されるチンピラだったのでドラマがないとはいえほぼ最強である服部半蔵役だったのは出世したと言える。
大杉漣亡き今、北野映画の古参の常連俳優と言える寺島進は、甲賀忍者・般若の佐兵衛を演じる。メインキャラの一人、新左衛門の兄貴分だった?らしきキャラ。北野映画にしてはかなりカッコよく上空から舞い降りて新左衛門を救ってエリアルレイブしたり優遇されている。最後は光秀だったか?に斬り殺されるが何度斬られても立ち上がって襲いかかってくるゾンビっぷりが良かった。先日たけし達が番宣で出演したTV番組で西島秀俊が「寺島さん、何回も蘇ってくるから焦りました」と言ってたので、なかなか死なないのはアドリブみたい。たけしの漫談で「撃たれても斬られても何回も蘇ってくる俳優」ネタがよくあるが、そのたけしの漫談を再現したかのようで楽しかった。
「万人受けするカッコいいイケメンのサムライ」キャラは光秀に仕える斎藤利三(演:勝村政信)か?利三は愛する主君・光秀が口のうまい村重を匿っている事にムカついてたらしく最後にキレまくっており、ここもまた腐女子が湧きそうなシーン。

 

実は主人公?曽呂利新左衛門。間宮無聊
で、服部半蔵や般若の左兵衛は「大勢が見たがるからサービスで出したニンジャ」キャラだとすると、木村祐一演じる曽呂利新左衛門(そろりしんざえもん)は「たけしが本当に出したかったニンジャ」という雰囲気を感じた。
というか、この新左衛門って、秀吉、光秀、信長らに並ぶくらい活躍するし出番も多くて驚いた。
元ニンジャだったという設定が付与された芸人で、面白い話や武将が喜びそうなヨイショ噺をして喜ばせて懐に入るキャラ。「最初の落語家」と言われてるが実在したのかどうかが謎の人物らしい。
秀吉を始めとする強者を渡り歩き活躍しすぎて黒田官兵衛に消されそうになると「ここらが潮時か」と姿を消す世渡りが上手いキャラ。秀吉と並んでたけしが自分を投影してる気がした。
甲賀忍者だったが辞めた」という設定なので普通に強い。強いと言っても半蔵や兄貴分の般若の左兵衛みたいに空中に飛んでエリアルレイブするようなファンタジー的なスーパー忍者じゃなく、情勢を読んで口先で上手く立ち回り、命を駆けなければどうしようもなくなった時だけ刃を使う……というリアル忍者。『スーパーロボット大戦』みたいに一つの作品の中にスーパー忍者とリアル忍者どっちもいるのが面白かった。
というか新左衛門は殆ど影の主人公だよね。木村祐一のことは……お持ち帰りした女性がヤラせてくれないから凍った巨大な鶏肉投げつけたりとキレる話が嫌なものばかりだったので90年代から好きじゃなかったけど演技も良かったし、このキャラは素直に良かったと認めざるを得ない。話術も世渡りも上手いキャラだったが口が災いするのも良い。
それにしても間宮無聊を演じてるのが大竹まことというのは帰宅して調べるまでわからなかった。眼鏡かけてなかったからね。そもそも間宮無聊も架空の人物みたいだし出番も殆どなかったので誰かわかんなかったので、ここで新左衛門と対峙するのは普通に岸部一徳演じる千利休で良かった気がする。何で間宮とかいうオリキャラをわざわざ作ったのか?「旧知の大竹まことを活躍させたかった」以外の理由が思い当たらないね。
劇団ひとりは、前半の新左衛門がイカサマして怒る百姓役で出てたのすぐわかった。

 

織田信長羽柴秀吉羽柴秀長明智光秀黒田官兵衛、難波茂助
なんか話の流れでサブキャラから先に話してしまった。
信長は、加瀬亮『アウトレイジ ビヨンド』(2012)で演じてた傍若無人となった岩原若頭……あれを10倍くらいにした感じ。殆どハリウッドザコシショウによる「誇張したアウトレイジ加瀬亮」状態。発言の殆どは絶叫、ちょっと目を離したらすぐ飛び蹴りしたり家臣にディープキスしたり小姓をFUCKしてたりする。静かにしてると「珍しいな」と思うようなキャラ。あと名古屋弁で常にみゃーみゃーぎゃーぎゃー叫んでいる。
いつも酷い目に遭わされてる信長の家臣からしたら
「あんちゃん、うるせぇだけで何も面白くねぇなぁ」とミキに対してみたいに言いたいところだろうが、加瀬亮なので普通に面白い。どうやらサディストで、お気に入りの者ほど痛めつけたい、それがノッブの愛、そんな傾向が見える。
しかも「うおお!こいつ好き!痛めつけたい!バーン(蹴り)」といった感じの単細胞系サディストで「こんな奴いるか?」という気がしなくもない。サディストって割と普段は常識的なはずだが……だから信長はサディストというより成金IT社長的な「単純に荒い奴」というだけかもしれない。荒い陽キャで「俺ってSだから」と自称するが実際は只、荒いだけの奴とかいるじゃん、それが信長なのかも?
たけしは、日本人が何度も見たあの信長の肖像画を見て「ヒョロガリやん」と思い、同じく白くて細い加瀬亮に演じさせたっぽい。『アウトレイジ ビヨンド』(2012)があったからどんな感じになるか撮る前から想像つくだろうしね。
信長は無茶苦茶だが、無茶苦茶故に世襲制ではなく有能な部下に「尽くしたら跡目を譲ってくれる」と言ってたので家臣たちは「あんちゃん、売れたら使ってくれよな」的に従ってきた。これだけ無茶苦茶なんだからそれはそうするだろう、と、しかし信長は普通の武将のように息子に跡目を継がせて秀吉、光秀、家康などの有能な家臣は、危険視して消したがっていた。
それを知った光秀は、恋人村重同様に、今まで信長に耐えていた我慢が限界に達して〈本能寺の変〉を起こす。
だけど、その信長の手紙って本物って事でよかったんだっけ?秀吉が用意したものじゃなく?細かいディティールで自信ないとこ多々あるわ。
本作の信長は「自分は狂ってるように他人に見せたい」と思ってるだけの荒い奴だと思ってたけど終盤、舞いを観ながら突然「この国の人間みんな血祭りにあげてやるに……」と言ったのは「えっ!?本当にヤバい奴だったん?」と思わせてくれたので、このシーンはかなり好きでした。
この加瀬亮の信長は、好きな人結構いる気がする。特に女性。
超然としたサディストじゃなく、名古屋弁の成金IT社長的な荒いキャラにしたのが、さすがたけしという新しい信長像で良かった。
ダンカン!あんちゃん……キスがうめぇな……。

たけし演じる秀吉は前述通り周囲にツッコミまくるコメディリリーフ的な司会進行っぽい役割。実際たけしは秀吉が好きらしいが俳優として出演するつもりはなかったらしく、そのせいか秀吉はカッコいい場面は少なく思ったことを何でも口にしてツッコむのが殆どだった。……しいて言うなら「カッコいい場面を演じず、プライドがゼロのコメディリリーフとしてアホなシーンばかり演じててカッコいい!」と、一番カッコいい役だと言えなくもないが。最後の一言もたけし!

西島秀俊演じる明智光秀は、後半評されてた通り「辛気臭い面白みもない男」として描かれる。
熱烈な恋人だった村重を殺せず匿い、その間、光秀命の利三はジェラシー。やがて信長の手紙を秀吉に読まされて乗せられ本能寺の変を起こす決意をする……ここまではイケメンだが確かに「辛気臭い面白みもない男」だったのだが最後の最後に村重を見捨てて処刑する。光秀は「お前を愛していたのは本当だ。しかし性愛より天下の方が大事だ」と言って村重は崖に突き落とす。ここでやっと「光秀もおもしれぇ奴だったか!」と思えた。
「天下のために村重を利用してたので裏切った」……わけではなく「村重を愛してたが、村重が生きてたら困るし天下の方が欲しいから死ね」というのは、ありそうでなかなか描写で、真面目なイケメンってだけの光秀が急に面白くなった場面だったので、本作の中では好きな場面だった。
利三は「口が上手いから信用ならん」と言ってたが、それは「光秀様は村重なんか好きじゃないやい!」と思いたいからそう言ってただけで、本当は光秀は実際に村重を好きだったと思うんだよね。その方が面白いから。
とにかく作中で常識人っぽく振る舞ってた、我慢に我慢を重ねて遂に謀反を起こした光秀もまた静かに天下に狂ってたという描き方は良かったです。それがなければつまんないキャラになってましたよね。

大森南朋演じる秀吉の弟・秀長は只の太鼓持ちのアホキャラ。女性が観たら可愛くて好きかも。大森南朋『アウトレイジ 最終章』(2017) でもたけし演じる主人公の弟分だったよね。何かあるんだろうか?大森南朋は前髪下ろしたジャガイモっぽい顔で、たけしが「若い時のオイラに似てるなぁ」と思ったので自分のキャラの弟役をよく当てるのかな?

浅野忠信演じる黒田官兵衛は前述の通り、ただただ最初から最後までカッコいいだけの役だったので、本作で一番好きなくらいだが特に書くことがない。
浅野忠信自身も同い年だし好きです。『モータルコンバット2』のライデン役も楽しみだね。
秀吉の無理難題や羽柴兄弟へのツッコミで終始、困ってたのが魅力的でした。

中村獅童演じる難波茂助は百姓出身だし、『TAKESHIS'』(2005)の大物芸能人たけしとフリーターの売れない役者たけし……みたいな感じで「アホで成り上がれなかったバージョンの秀吉」みたいな鏡合わせのキャラだったのかな?
家族が戦で死んでも「これで心置きなく戦に行ける!」と言ったり、先に敵の首獲った仲間の為三(演:津田寛治)を殺して奪い出世の足がかりにする。だから茂助は滅びた……という勧善懲悪ではないと思う。茂助は何度か為三の幽霊を見ており、最後も自分が為三に対してやったように大将首(手柄)を獲ったところを殺される。そしてその自分を殺した者の顔は、茂助は為三に見えて死ぬ。要するに茂助は罪悪感を捨てきれず、戦で自分を酔わせて突き進んでいたが、ついに「為三を殺した罪悪感」という冷徹な現実に追いつかれ、だから死んだのだと思った。勧善懲悪ではなしにね。

 

 

思春期~20代の時にハマってた詩情あふれる初期作品や『座頭市』や『アウトレイジ』三部作(2010-2017)のエンタメ北野よりも本作の方が好きかな?
ドライでクールで死に向かうナルシスティックでカッコいいたけしが出てくる初期作品を未だに良いと思ってる感じの人とか最近、北野映画を好きになった人は気に入らないかもしれないが僕は本作が北野武映画で一番良かったです。
何より昔の北野映画でよくあったカッコつけるシーン皆無で、まるで『みんな~やってるか!』(1994)並のカッコつけなさなのがカッコよかった。あとは狂気のカリスマ……と思わせて息子に跡目を継がせるダサい男……と思わせて誰に聞かせるでもなく「この国の人間、皆殺しにしたるに……」という怖い独り言、あと魅力なかった光秀が村重より天下を選ぶ嫌らしさを見せたらすぐ死ぬところ、これらが特に良かった。満足しました。続編『首ヨンド』を作ってくれてもいい。
そんな感じで今までの北野映画の良い要素やたけし人脈の良いところばかり集まってて、そして個人的に要らない部分(たけしがナルシスティックに死にたがるところやヒーローになりたがるところ。照れ隠しみたいなところ)がなかったので今までで一番好きでした。自分も思春期だった時に観た初期の『その男、凶暴につき』(1989)~『BROTHER』(2001)ぶりに好きになったかも。あと当時は「たけしがカッコつけなくなった!」と思ってた『アウトレイジ』三部作(2010-2017)とかって今思えばまだまだ充分カッコつけてたなと思い知った。『アウトレイジ』(2010)はまだ主人公たけしが無様であろうとしてて良かったけど『アウトレイジ ビヨンド』(2012)でヒーローみたいにカッコいい性格に生まれ変わり、『アウトレイジ 最終章』(2017)で昔みたいなナルシスティック死にたがりたけしになってしまい「あぁ、せっかく『アウトレイジ』(2010)で新境地に行ったのに元に戻っちゃった」とガッカリしました。今度こそ新境地に行ったと思った。だから次も楽しみです。
もういい!木村、帰ろう

 

 

 

 

そんな感じでした

『龍三と七人の子分たち』(2014)/なかなか良かったです/たけしの思い出 👴 - gock221B
『アウトレイジ』(2010)、『アウトレイジ ビヨンド』(2012)/キャラ名を把握して再見したら、より面白かった🔫 - gock221B
『アウトレイジ 最終章』(2017)/わかりやすさが加速してとうとう因縁が数値化された中盤が凄く面白い🔫 - gock221B

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映画『首』 大ヒット上映中 - YouTube

 

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