gock221B

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『オッペンハイマー』(2023)/映画自体はノーランの中でも1番おもろかったくらい傑作だったが、オッピーもノーランもダウニーJrも……人類全体の未来といった漠然としたものや身内への愛はありそうだが他国のことは選択肢にも入らないレベルで意識になさそう🍄


原題:Oppenheimer 監督&脚本&制作:クリストファー・ノーラン 製作:エマ・トーマス、チャールズ・ローヴェン 音楽:ルドウィグ・ゴランソン 撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ 編集:ジェニファー・レイム プロダクションデザイン:ルース・デ・ヨンク 原作:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン 『オッペンハイマー』(2005) 配給:ユニバーサル・ピクチャーズ(日本はビターズ・エンド) 製作国:アメリカ 上映時間:180分 公開:2023年7月21日(日本は2024年3月29日)

 

 

クリストファー・ノーランの新作。
ノーランの映画は途中までかなり嫌いだったのだが『インセプション』(2010)くらいで「いや嫌いじゃないかも……」と思い始め『インターステラー』(2014)以降は普通に楽しみに観る監督になりました。

「原爆の父」ロバート・オッペンハイマー博士の伝記映画。
ロバート・オッペンハイマー - Wikipedia
先日の第96回アカデミー賞で13部門にノミネートされ。そのうち作品賞、監督賞、編集賞、撮影賞、作曲賞、主演男優賞、助演男優賞……など獲りまくり七冠達成した。

日本公開めちゃ遅れ
アメリカ本国での公開は去年の7月だったが日本での公開は遅れに遅れて、もうとっくにアメリカでは映像ソフトが発売されてかなり経つ今頃公開された。
内容は「決して原爆を肯定しているものではない」という情報は早くから聞こえていたが、単純に原爆だの日本軍だのを描いた映画を公開すると過去に、特定の社会的思想を持つ人達が、映画の内容は特に観ないまま抗議したり物理的な邪魔したりして上映中止運動するので、それを嫌った日本の大手映画配給会社は手をこまねき、結局、8ヶ月遅れでビターズ・エンドが公開する事になった(この遅れた理由は全部、推測だがアカデミー賞13部門ノミネートされて七冠を獲って大ヒットした、日本の映画ファンが大好きなノーランの新作が遅れに遅れた理由はそれしかない)。
ちなみに日本公開版ポスターも↓

こんな感じで「念には念を」ってことなのかアメリカ本国のポスター(左)には原爆だったり爆炎やキノコ雲などのどれかがポスターに必ずデザインされていたが、日本版のポスター(右)は日本の特定の社会的思想を持つ人を刺激しないようにかデザインから原爆は外されており原爆実験の時の鉄塔だけポスターにデザインされているのでオッペンハイマーのことを知らない人が見たら「鉄塔を発明したおじさんの映画かな」と思いそうなデザインになった。ポスター見ただけで抗議してくるような日本の特定の社会的思想を持つ人は「オッペンハイマー」の名前を知ってるので、そういう人を避けたいのであればデザインから原爆を除けただけでなく邦題も『おじさん』(2023)にすれば日本の特定の社会的思想を持つ人も「漠然とした素のおじさんの映画かな」と思わせることもできただろうに。どちらにしても間抜けな話だ。

バーベンハイマー
去年の夏、同時期に公開されて大ヒットした『バービー』(2023)と本作をコラージュしたミームバーベンハイマー〉が流行った。
原爆という深刻すぎる題材を扱った本作と、ジェンダー問題を扱った映画だがパット見はカラフルな服装の笑顔のバービーが活躍する『バービー』(2023)とを組み合わせちゃおう!というセンスはネットでありがちだし理解できる。
バーベンハイマー - Wikipedia
だが一般人がミームで遊んでるだけなら日本人たちも「こら~!はしゃぎすぎよ~」とΖガンダムのファみたいに腹を立てるだけで済んでたが『バービー』(2023)を配給するワーナーもX公式アカウントで無神経な感じで宣伝にバーベンハイマーを使ったことで「線越えたな?またぐなよオイ!」と本式に(本格的に)怒りだす日本人たちも増えて報道されたりして、遂にはワーナージャパンX公式アカウントまで怒りだし、アメリカの本家ワーナーX公式アカウントも「……なんか、ゴメンネ?」という非常にキョトンとした雰囲気で謝罪して幕を閉じた。
僕はというと「確かに不謹慎なことは間違いないし良い気はしないが、原爆を知らん人らの生み出したミームだしこんなもんだろ」という感じで特に何の感情も湧かなかった。
正直なところワーナーX公式アカやミームで遊んでた人たちも「え……?ミームに対して怒るの?電話やホームパーティを叱るママみたいに?……というか日本人が自分の意思を持って俺達に話しかけてくるとわー?笑」といった感じでアメリカ人同士が互いに顔を見合わせてクスクス笑ってる様が容易に想像できた。すぐ下のダウニーJrシカト事件とも繋がってくる話だが、不謹慎だからどうのこうのという以前の段階で、何かをする前に「これしたらあいつら怒るかも?」と、脳裏に浮かんで取捨選択する対象にすらなっていない感じするよね。

上流白人男性ダウニーJrが無意識にアジアン俳優キー・ホイ・クワンを超シカトした件
本作と第96回アカデミー賞といえば七冠達成という快挙以外にも助演男優賞を受賞したロバート・ダウニーJrのレイシスト疑惑も話題になった。前年受賞者でありダウニーJrの受賞を陽気で発表して呼び込んでくれたキー・ホイ・クワンが手渡すトロフィーを、まるでパーティ会場のウェイターからカクテルを受け取るかのように、ハグや握手はおろか目も合わせず受け取った。これが国内外で「えっ無視した?」と話題に。
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これ観たアジア系の人が「ああっ、これよく白人にやられがちな、透明人間みたいな扱いされるやつ!」と話題になった。個人的には、ダウニーJrがアジア人を嫌って「あっ汚らわしいアジア人だ。無視してやろう!」と故意にレイシスト的に無視する方がまだマシで、ついついキー・ホイ・クワンなど居ないかのように無意識に無視してしまった……というのがより哀しいものがある。
僕はダウニーJrはレイシストなどではなく、それ以前の問題……マジで「キー・ホイ・クワンが視えてなかった」んだと思った。いつものトニー・スターク的なカッコいいセレブ動作で動きつつスピーチを頭の中で反復していたのか、いつものクセが出た感じ。
ダウニーJrがキー・ホイ・クワンを無視する……と見せかけてキーを指さして「冗談だよ」と互いに笑いあってハグする場面を観たかったものだ(ダウニーJr的なムーブ)。
無視されたキー・ホイ・クワン本人は、子役スターだったがハリウッドでアジア人に役は無いので振り付けしたり保険証すら貰えないくらい困窮した状態になったりして数年後にアジア人ばかり主演した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 (2022)が作られて大ヒットして、オスカーもここ数年多様性がブームだったので「こいつらに賞あげようぜ」というノリで奇跡的に受賞できて「母さん、僕オスカー獲ったよ!」と号泣して皆の涙を誘ったし、今年の発表時も「受賞者は……はっロバ-ト・ダッ二ージュニアぁああ!」とハイテンションで迎え入れてくれたのに完全にシカトされる様、無視されたキー氏は場を盛り下げないように「行っちゃった!おめでとうダウニーJr!」といった感じで全力でニコニコし続けたりと居た堪れないものがあった。……同様にキーと夫婦役だったミシェール・ヨーもエマ・ストーンジェニファー・ローレンスに  無視されるかたちになったが後日ヨー様が「あれは2人が親友だから、私が引いただけだから誤解よ!」とフォローした。確かにそうだったんだろうけど白人は誰も言い訳すらせずキーとかヨーなどアジア人だけが全力で汗だくフォローする様が何かを象徴してるよね。そんでダウニーJrや他の白人俳優たちも皆レイシストとは思わないし熱心で良い人だと思うのよ。ただ、上記のバーベンハイマーの話の続きになるけど本当にアジア人とかが気に掛ける対象じゃなかっただけ、それが土壇場で出てしまった感じだろう。
ダウニーJrのファンやアカデミー賞を紹介する仕事をしている映画評論家やタレントの人らだけが「ダウニーJrはオスカー獲って緊張してただけだよ!」などと擁護していた。あと「賞が終わった後でダウニーJrはキーと握手したり記念写真撮ってるよ!」とか頑張っていたが「そりゃ握手したり写真撮ったりするだろ親の仇でもないんだから……それが普通だしそれも仕事なんだから……」としか思えなかった。あと「ダウニーJrはオスカー獲って緊張してたんだ!」という擁護もあったが「ダウニーJrがオスカー受賞のステージなんかで緊張するわけないだろ!」と思った。ファンの方がダウニーJrを低く見積もっててファンじゃない僕の方が彼を高く見積もってる状況が可笑しかった。
だが本作のダウニーJrが演じたストローズは嫌な奴だし、アイアンマンことトニー・スタークも身内や世界のために命をかけるヒーローだが割とマジでこういう事やりそうなキャラなので僕の中ではイメージダウンにはならなかった(『アイアンマン3』(2013)でも自分のファンの待ち合わせを無視してヴィラン化させてたし)。
無視事件は置いといても助演男優賞『バービー』(2023)でケンを演じたライアン・ゴズリングにあげて欲しかった気分もある(※だがこの感想ページの最後で、やはりダウニーJrで良かったという結論になった)。
『バービー』(2023)は本作よりも大ヒットしたが、どういうわけか今年のオスカーではうっすらコケにされる役割になって助演ゴズリングはノミネートされたが女性陣はノミネートすらされなかった(今年のオスカーは「女やマイノリティに賞あげるブームに異論を唱えるのをやめるのをそろそろやめようぜ!」という雰囲気を感じた)。
今年のアカデミー賞ものすごく色んな事がいっぱいあり映画より面白かったので幾らでも書けたので記事にすればよかった……3日以内に書かないと遅いので書く機を逃した。
割と関係ない話を本編の感想より長くしてしまったが、これも本編の内容に繋がってくる感想のうちなので宜しいですね?
オッペンハイマー本人について特別に詳しいわけでもないので、ただの感想。

ネタバレあり

 

 

 

 

理論物理学J・ロバート・オッペンハイマー(演:キリアン・マーフィー)の半生。
そしてマンハッタン計画原子力爆弾を開発しトリニティ実験するくだり。
そして戦後、赤狩りの中、ソ連スパイ疑惑を受けたオッペンハイマーが受けた聴聞
その数年後、オッペンハイマーと対立していた野心家の凡人ルイス・ストローズ(演:ロバート・ダウニーJr)の公聴会
大きく分けて、これらが時系列シャッフルで並行して描かれる。

 

この映画自体も、これの時系列シャッフルも全て「オッペンハイマーはどういう人物なのか?」という一点を描いてるだけなので特に難しいことはない、知識にない知らない話が出ることもあるだろうが、とにかくこれは原爆や第二次世界大戦よりも「オッペンハイマーという男」を描いてるだけなので、それに気付けば困ることはない。『エヴァンゲリオン』が「シンジ君の話、それだけ」というポイントを抑えてれば他の謎とか設定は全て飾りなので本筋を追うのに全く難解でもなんでもないのとよく似ている。

 

一番古い時間軸はオッペンハイマーが大学生の時、教授の机の上に置いてあるリンゴに青酸カリを注射する。翌朝、目が覚めたオッペンハイマーは「……いや、やべえええ!やべー事したああ!」と焦って大学に行ってリンゴを捨てる。その教授を憎んでたか?と思ったが、後に「いや、むしろ教授のことは好きだった」とか言い出すし、よくわからない。初っ端からオッペンハイマーのヤバいところを描いてくる。彼の〈死神〉的な側面を強調したかったのか?映画の序盤、オッピーとストローズの聴聞会やオッピーの反省がバラバラで描かれるので、まだオッピーのことを掴みかねてる時だったので何で教授のリンゴに毒をいれたのかピンとこなかった(また、アメリカ映画でリンゴといえば知恵の実がどうのこうの言うのはやめとこう。なんか恥ずかしくなってリンゴのように顔真っ赤になりたくないから)。

 

オッピー役のキリアン・マーフィ『インターステラー』(2014)主人公のマシュー・マコノヒーに顔がそっくりだった。主演と映画監督って顔がだんだん似てくるんだけど、ノーランもこの系統のユダヤ人っぽい白人俳優をよく出す印象あるね。他にもリーアム・ニーソンも似てる。なんかわかる?目の部分が少し窪んでる感じの顔の白人。

 

その後、本人が凄く鬱っぽいのに精神科医やってるジーン・タトロック(演:フローレンス・ピュー)と出会いから別れまでを数分で描いて、次に後に彼の妻キャサリンオッペンハイマー(演:エミリー・ブラント)となる学者兼人妻キティと出会って数分でキティが妊娠して離婚して結婚出産してキッチンドランカーになってすぐ治ったりする。この辺のスピード感があまりに早すぎて笑ってしまった。

ジー役のピュー氏はかなりモロなSEXシーンが何度かある、特に聴聞会で結婚した後のオッペンハイマージーンと会ってたって話してる時に正妻キティが、聴聞会で質問を受けているオッペンハイマーに全裸のジーンが跨ってFCKしてる幻視はかなり面白い(本作はこういう感じで漫画みたいに実にわかりやすい幻覚みたいなシーンが多くて楽しい)。またジーンは「花束が嫌い」というキャラでオッペンハイマーが花束を渡しても毎回2秒後にはゴミ箱に投げ捨ててしまう!だけど速攻で捨てるにも関わらずオッペンハイマーが花束を渡す時に嫌みを言いつつ嬉しそうなオーラを発散するので本当は嫌じゃないんだろう。「精神が複雑ゆえにオッペンハイマーの好意を素直に受けられないが内心は嬉しがっている」という性格を長ーい映画の中の序盤で数分で見せるには、この「花束即捨て、でも嬉しそう?」のアイデアはめちゃくちゃ冴えてるなと思った。
ただジーン役のピュー氏は生命力あふれすぎてて、とても自死する人物には見えなかったが……。

正妻キティは、オッピーと時に喧嘩しつつも最後までオッペンハイマーを支える。本物がそういう人物なのかどうかは知らないが殆ど笑ってる時がなく終始、曇り空のような不機嫌そうな顔をしている……というかこのキャラがエミリー・ブラント史上一番キレイだと思った。ことある毎にオッペンハイマーに「アンタ、なんで闘わないの!」と鼓舞したり、聴聞会をキティも受けさせられた時の、敵の意地悪弁護士みたいな奴とやり合う様がめっちゃカッコよかった。「その”言い方”が気に入らない。”共産主義との関係”とか訊いてくるけど共産主義との”関係”なんて初めからないんだからそんな事訊かれても困るし、だからそもそもその”訊き方”が気に入らないって話よ」みたいな台詞(うろ覚え)が凄いカッコよかった。トーンポリシング的な意味での”言い方”批判ではなく「お前の”言い方”での話に合わせると私が不利になるから、お前の”言い方”で話はしない!笑」という意味での”言い方”批判。僕もうかなり中年なんで映画の台詞を真似したくはあまりならなくなったが、これは久々に厨二病的な心が反応して真似したくなった。キティは「水爆の父」をめっちゃ嫌ってて終盤(将来の映像)顔を合わせた時に怒ったブルドッグみたいな表情で睨むところも最高だった。
というか、このオッピーの妻キティ、好きなタイプかも……。
だけどアカデミー賞の時にエミリー・ブラントは「このドレス、イケてない?原爆みたいで!」とか言ってた(この映画こんな話ばっかり)。

 

あと意外なキャスティングだと物理学者役してたジョシュ・ハートネット久しぶりに観た。最初は90年代に期待のイケメンとして出てきたが何故か長年B級映画みたいなのにしか出ない謎の俳優になってた(理由は知らん、何か問題を起こしたのかな?)久々に大作出てるの観た。
あと要所要所で出てくるアルバート・アインシュタイン(演:トム・コンティ)役、誰かと思ったら『戦場のメリークリスマス』(1983)のローレンス役の人だった。アインシュタインはさすがに浮世離れした妖精みたいな神秘的な人物という雰囲気で撮られていた気がする(それとも誰もが知ってるアインシュタインの格好を見たら、誰もが「特別な気分」になってしまうだけかも)。
あとはノーラン作品の常連とかノーランがキャスティングしそうな印象の人たちが多く出てくる。かなりメンツが豪華。

 

いよいよ〈マンハッタン計画〉に任命されたオッペンハイマー。この計画でのオッピーの相棒とも言えるレズリー・グローヴス准将(演:マット・デイモン)。2人は『七人の侍』(1954)よろしくマンハッタン計画メンバーを集め、オークリッジに計画のための工場や町を作り、皆で家族ごと住み、研究の日々……そしてトリニティ実験……。
マンハッタン計画 - Wikipedia
「僕らの国の市民の命が大量に奪われた大量破壊兵器”を開発してるシーン」というところに目を瞑れば「仲間を集めて→試行錯誤→大勝負に出て成功」……という映画の中で最も活気があって素直に面白い盛り上がるくだりだった。

 

そして御存知の通り、実際にヒロシマナガサキに投下され、終戦……。
ヒロシマナガサキに投下された惨状は画面には映らない。オッペンハイマーはただ投下の事実をラジオやレポートで聞くだけ。
最初は計画の成功や戦争の勝利に喜んでいたオッピーだったが、原爆の威力は作ったオッペンハイマー自身が一番良くわかっているためか徐々に罪悪感のような気持ちが酸のようにオッペンハイマーを侵す。
炭になった死体や、爆風で顔が剥がれていく女性の幻覚を見たりする。
その幻覚の死体がどれも綺麗なのは、オッペンハイマーヒロシマナガサキの惨状を直視しておらず想像してるだけだからなのだろう。スライドでヒロシマの惨状を見せられる時もオッピーは目を逸らす。誰しも、自分がした結果で何10万人もの何の罪もない人達が苦しんで死んだ様を具体的に直視したくはないだろう。
原爆投下された広島や長崎の惨状は劇中に出てこない。
ここに批判があったり、逆に「いや、これはオッペンハイマー主観で彼を描く映画であってヒロシマとかは主題じゃないんだよ」「原爆落とされた日本の描写はないがオッペンハイマーは後半原爆作った事をめちゃくちゃ気にしてる」という擁護もある。割とどれも一理あるし、どれも抜けている。
アメリカ人は原爆を喰らったらどうなるか知らない(というか興味がない)。ハリウッド映画に原爆出てくると大抵、カッと光って人がカッコよく骨になる。確かに爆心地は綺麗に蒸発するだろうがむしろ一瞬で死なない距離で被爆した人がどうなるか知らない。だから日本人としては被爆したオバサンとか少女が身体中にガラスが刺さって皮膚が垂れ下がりゾンビみたいに歩いて川に入って水飲んで苦しんで絶命するところを欧米人に見せたい気持ちもある。
僕は広島出身なので小学生の時に毎年、夏休みに集められ女の子がドロドロに溶けて死ぬ『はだしのゲン』とか『かわいそうな象』などの鬱映画を毎年見せられてめちゃくちゃトラウマだったせいか大人になるまで戦争のことは嫌だから思考停止するようになった(これはこれで逆効果な気もする)。
だけど擁護派が言うようにこれは原爆の悲惨さを伝える映画じゃなくてオッペンハイマーの映画であってヒロシマナガサキの映画じゃないんだよね。そんな圧倒的にグロい描写入れたらオッペンハイマーとかどうでもよくなっちゃうし映画の主題から外れてしまう、という意見もわかる。それが見せたければ見せたい人たちが大勢が見たがる原爆の映画作って大勢が観る状況にもっていく必要があるってことか。
というか、色々と批判も擁護もどっちも考えてみたけど、それ以前に直感的に「そもそもノーランはヒロシマナガサキ被爆者とか割とマジで興味ないんだろう」と思った。

 

終戦後、英雄となったオッペンハイマーだったがストローズに嵌められてスパイ容疑をかけられ聴聞会で丸裸にされる。実際に全裸のオッペンハイマーが椅子に座る幻覚シーンが視えたりして、この聴聞会シーンはどれも面白い。
これは裁判などではなくオッピーの敗北は最初から決まっているリンチ会みたいなもの。密室で一方的に色んな秘密を妻の前で暴かれ私刑で抹殺される。そしてオッピーを恨むストローズは「奴には敗北さえ与えん!」というクソデカ感情でもってオッピーを潰す。裁判などにかけると殉教者になってしまう、だから誰も見てない密室でリンチして「曖昧な敗北」を与える。……なんか腐女子が好きそうなキャラだなストローズ。ストxオピBLとか描かれそうだ。
オッペンハイマーは自分の名誉を護るためか?負けることが決まってる聴聞会に出続け、自分を売ってしまうかつての仲間とも握手したりする……この辺は、故吾妻ひでお先生が失踪したりアル中になった時に「ホームレスになったり肉体労働で歳下に使われても平気だったな、僕は漫画が描けるし確固たるプライドがあったから」と言ってたのを思い出しただけ、オッピーには別の理由があったのかも?たとえば原爆を作り出した罪悪感から、責め苦を敢えて浴びたがっている……とかそういうキリスト教的な考えがあったのかもしれん。実のところそのへんはよくわからなかった。
で、オッペンハイマーを逆恨みして嵌めるストローズは、あまりにしょうもない切っ掛けだったし最初から最後まで何してるかよくわからんおじだったし何か勝手に滅んでいくし終始「何だったんだろうあいつ……」という感じが拭えないキャラだった。
割とストローズは見たまんま、只のしょうもない人物なんだろう。
アインシュタインも言ってたけど、オッペンハイマーはストローズに嵌められなくてもアメリカ自体によって落とされ、落とされた後に上げられて遺恨を消して一件落着……という全く同じ結果になってただろうし、そうなるとますますストローズは居ても居なくても関係ない男に思える。自身が疑心暗鬼になってるのと同様、歯牙にもかけられてない感じが凄い。
ストローズにあるのは前述した分不相応な野望とオッピーへのクソデカ感情だけだ。
だからこの映画、「バットマンとジョーカー」みたいな感じの「オッペンハイマーとストローズ」って映画に一見見えるが、そうではなくて最初に言ったように本作は最初から最後まで「オッペンハイマーという男についての映画(その成果としての原爆)」であって、ストローズなんてものはオッペンハイマーの行動によって生まれた只の反作用……オッピーの影の擬人化にすぎないんだろう。
そして「オッピーとアインシュタイン最初の出会い(ついでにストローズ)」を寄りで再び回想し、2人が何を言ってたのかオッピーが何を思ったかで映画は終わる。
ストローズは2人が俺のこと無視する話してたに違いない!と小学生みたいな疑心暗鬼妄想してたが、天才2人は凡人ストローズなんかの話は全くしておらず、ストローズとは違って本当に大事な、未来の世界について話していた。2人が個人的な感情を捨てた「本当に大事な話」をしている背後に、ずっと自分のことしか考えていない卑小なストローズが遠くに突っ立ってるのを同じフレームに入れてるのも可笑しかった。まぁストローズは我々全員……しょうもない事ばかり考えて抜きん出た人の脚を引っ張るだけの「凡人」の集合体なんだろうな。
そう考えるとストローズはやっぱ重要な役だったね。
……というかこのページ書き始めた時はダウニーJrの無視事件や、劇中のしょうもない人格のせいでストローズに興味なかったが、この行まで書くとストローズの良さがどんどん自分の中で膨れ上がってきた!二回目見る時はストローズ中心に観よう。
やっぱり助演男優賞もゴズリングよりダウニーJrで良かった。
原爆による大気の連鎖反応とオッピーのドゥームズデイ・クロック的な懸念をシンクロさせるカッコいい感じで終わる。

 

一言で言うとかなり面白かった。キャストも撮影も素晴らしかったし。
ノーラン作品の中では『インターステラー』(2014)の次か……又は本作が一番良かったかも?
ただ自分が広島出身の日本人なせいか、ノーランの日本の被爆者への興味の無さが気になるのでアメリカ人と同じ勢いで称賛する気持ちにもなれないところがある。
ただ、この興味のなさって別にノーランに悪気は一切ないと思う。劇中で描いたように原爆誕生によって世界は「原爆がある世界」へと永遠に変わってしまった事を懸念しているし世界平和を望んでるだろうし普通に家族や友達に対しても善人だろうと思う。
ただ、本当に曇りなき感じでガチで興味ない気がする。
「原爆を投下した先のヒロシマナガサキの人達」という漠然とした集合体に対しての情はあると思う。だが「身体中にガラスが刺さって皮膚が溶けて水を飲んで苦しみ抜いて死んだ広島の少女」といった感じの具体的な被爆者への興味はゼロ……そういう塩梅ではないだろうか。意味わかる?要は「軍師目線」って事だよね。
徹頭徹尾、才能あるノーランが天才オッペンハイマーに感情移入して作った凄く面白い映画ってことなんだよね。
そんなノーラン=オッピー、「無視しようとしたわけじゃなく、ガチで視界に入ってなくてキー・ホイ・クワンを無視したダウニーJr」、「バーベンハイマーのミームを楽しむが日本人のことや原爆には興味ないアメリカ人」とか、くどくど書いてきたことが全部繋がってるように僕は感じられましたね。
ただ何度も書いたが「私達は、差別されてる犠牲者だ!」とか言いたいのではなく「そもそも、そう言って聞き入れられる段階にすら言ってないから、まずそれを自覚して未来のことを考えるべき」そんな事を思いましたね。
薄々感じてはいたが、あまり国外に出ないから気づかないふりしてた「欧米の白人が他国……特にアジア人に最も興味ない」って事実を考えさせられるよね。
直接関係はないけどウクライナとかパレスチナの問題とかも現在進行系だしね。
劇中のストローズの事を蔑んで書きましたが、凡人ストローズにすらなれてないという自覚を持って、ちゃんと聞き取れるような発信していくなど一歩一歩の前進が大事なんだと思った。
映画は総合的に確かに良かった、傑作と言ってもいい。ただ白人と同じようには盛り上がれない。そんな感じですかね。

 

 

 

 

そんな感じでした

『インターステラー』(2014)/今まで、この監督あまり好きじゃなかったがこれは文句なく面白かった🌌 - gock221B
『TENET テネット』(2020)/今どき珍しい純粋悪を倒す正義の味方という勧善懲悪アクション……そこに「逆行」をひとつまみ……🕛 - gock221B

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Oppenheimer (2023) - IMDb
Oppenheimer | Rotten Tomatoes

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