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『アメリカン・フィクション』(2023)/”白人が喜びそうな黒人っぽい小説”を望まれて仕方なく大衆が喜びそうな本を書いたら大ヒットしてしまった黒人作家のコメディ。本題と本題以外の人間ドラマが相互作用しあってて凄く楽しかった🧑🏾‍🦲


原題:American Fiction 監督&脚本&製作:コード・ジェファーソン 原作:パーシバル・エベレットの小説 『Erasure』(2001) 製作国:アメリカ 上映時間:118分 公開日:2023年12月15日(日本は2024年2月27日)

 

 

これ、最初に結論をいうとかなり面白かったです。
この映画のことは知らなかったが第96回アカデミー賞の賞レースに参加してたし「黒人作家が、特に書きたくないけど『白人が望む黒人っぽい小説』を戯れで書いたら大ヒットしてしまい悩む」という、一行のあらすじだけで既に多くの映画より面白いので観た。

本国アメリカでは話題作だが日本で劇場公開はなく、知らない間にアマプラで配信されていた。
アメリカではこんなに評価されてるのに劇場公開ないのか」……と思うが、(日本では)有名ではない俳優しか出ていないし、黒人作家のおじさんの人種問題のコメディというのでは客が入らないと判断されたのかもしれない。

第96回アカデミー賞で、作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞、作曲賞など数多くノミネートされ、脚色賞を受賞した。
監督はこれが初監督作。ブログに感想書いてないけど死後の世界を描いて面白かったドラマ『グッド・プレイス』(2016-2020)とか、黒人ヒーローのフーデッド・ジャスティスのオリジンやアメリカ史上最悪の虐殺事件だが歴史から長年消されていたタルサ暴動のくだりが凄かったドラマ版『ウォッチメン』(2019)などの脚本書いてた人。人種問題を面白く書く人という印象。
そんなコード監督がパーシバル・エベレットの小説 『Erasure』(2001)を読んで興味を持って映画化したのがこれ。

ネタバレあり

 

 

 

 

セロニアス・”モンク”・エリソン(演:ジェフリー・ライト)はもう何年も出版していない売れない作家。普段は大学教授として教鞭をとっており文学賞の審査員を務めたりもしておりちょっとした権威でもある。
その名前は、やはりジャズピアニストを想起させるみたいで”モンク”と呼ばれている。僕もセロニアス・モンクのCD持ってたわ。あと故ファラオ・サンダースも20年くらい前にブルーノートに演奏聴きにいったことある(握手したファラオの手は温かかった。あとメニューがめっちゃ高いのでビール飲むのが精一杯だった)。だがジャズは全く知らんのでこの2人のCDしか持ってなかったけど。
Thelonious Monk - Live At Berliner Jazztage (1969) - YouTube
モンクは出版社に「もっと売れそうな黒人っぽい話を書いてくれ」と言われる。
どうもモンクは神話を再解釈した感じの高尚なものを書いていたらしい。だから全然黒人っぽくない。日本のエンターテイメント作品がアメリカでウケるには「侍、忍者、ヤクザ、芸者、寿司、アニメ、任天堂、怪獣、原宿ファッション、東京の町並み、HENTAI」……そういうものじゃないとウケないじゃない。NYあるあるとかスタバあるあるなどの作品を描いたとしたら「いや、それ俺らできるから俺等が出来ない日本っぽいものを出してよ」となるだろう。こう書くとアメリカ白人が「売りやすいように黒人っぽいもの書いてくれ」というのもわからないでもないよね。しかし言われた黒人作家からしたら”黒人”という人種でしか見られてないという非人間的な扱いされてると感じ「自分は◯◯という作家、一人の人間だ!」と憤る気持ちもよく分かる。
モンクは久しぶりに帰省する。その途中で同じく黒人の女性作家シンタラ(演:イッサ・レイ)を見かける。シンタラは皆が読みたがっているような”黒人のリアル”を本に書いて人気を博していた。
そこでセロニアスはヤケクソになり如何にも白人が喜びそうな……暴力、発砲、貧困、ろくでもない父親、ドラッグ……等にまみれた小説を書き上げ出版社に提出。それは書いたモンク自身が「こんなものクソだ」と思ってるようなものだった。半ば冗談や嫌がらせのつもりで書いたのだが担当編集者は「ええやん!これ」と出版することを決めてしまう。
そこで絶対に出版してほしくないモンクは本のタイトルに「FUCK」と名付け、出版社の人たちは一瞬固まり最初は難色を示していた、モンクは「しめしめこれで出版はされないぞ」と思っていたが「……いや、その方が”リアル”かもしれない!タイトルは『FUCK』で行きましょう!」と出版が決まってしまう。
そんなつもりじゃなかったモンクは頭は抱える。そんな低俗な本を大学教授セロニアスとして出すわけにはいかないので「刑務所から出て執行猶予中に逃亡した黒人犯罪者」といった荒っぽい設定と偽名を持った「架空の黒人作家」を『FUCK』著者とした。


モンクが『FUCK』出版を断りきれないのは理由がある。
帰省して看護師している姉のリサ(演:トレーシー・エリス・ロス)に久しぶりに会うが、姉は持病かなんかで突然急死してしまう。そして高齢の母アグネス(演:レスリー・アガムズ)が軽い認知症だとわかる。夜間に海を徘徊したりして危険なのでお手伝いさんだけでは世話が無理なので介護施設に入れるしかない。しかも、なるべく良い所に……(ちなみにこのママ役はどっかで見たことあるなと思ったら『デッドプール』シリーズの、デップーの友達の盲目老婆ブラインド・アル役の人だった)。
だから大金がいるのだ。『FUCK』は最初から映画化も約束されており出版するだけで莫大な金が貰えるのだ。
『FUCK』出版、大ヒット、映画化決定……などと、モンクの思惑とは裏腹に「匿名低俗作家モンク」は「本当に書きたいものを書くモンク」とは裏腹に、面白いようにサクセスしていく。
この「モンクが乗り気ではないが要請によって書いた、白人が喜びそうな黒人っぽい本」という本作の核となるアイデアは本当にキャッチーなので、その事ばかり書いてるが本作を見ると本編の半分か、それ以上はモンクの私生活描写が描かれている。
モンクが帰省して会ってたら急死してしまった姉、認知症の傾向が見られる母、死んだ厳格な父は天才医師だったが秘密があり自死したらしいこと、ゲイの弟クリフ(演:スターリング・K・ブラウン)は陽気だが世間の目を気にして行けない場が多い、長年世話してくれてた家政婦ロレイン(演:マイラ・ルクレシア・テイラー)は町の優しそうな男性と結婚する。そしてモンク自身は実家の隣に住む弁護士の女性コラライン(演:エリカ・アレクサンダー)と知り合い付き合い始める。
てっきりモンクが偽名で出版した本を中心にしたコメディかと思ってたが「本:モンクの私生活」は割と5:5くらいで私生活の描写が多い。私生活6くらいあるかも。
で、これがめちゃくちゃ面白い。
こうやって並べると、何だかつまらない出来事が多そうに思えるが、凄く軽快だし台詞も面白く(姉の遺書も楽しかった)、楽しい場面は素直に楽しいし悲しい出来事もベタベタ描かずサラッと描いててとてもいい。僕メソメソした描写マジで嫌い、実人生でもウジウジした愚痴とか聞きたくないし(それを自分に聞かせるなら1万円ほしい)、だから邦画とか日本のドラマやアニメにも湿っぽいものが多いから嫌いなもの多いし(湿っぽくなければ好きなものも多い)。
とにかく、モンクの本についてのドタバタが楽しいのは勿論だが、モンクの人間ドラマが思いのほか面白かったのが嬉しい誤算でした。

そこで浮かび上がってくるのは、モンクの人生は楽しいことも悲しいことも人に言えない秘密や一言で言い表せないことなど実に様々という事。それが人間なので当たり前ですけどね。
ここで「誰がどんな物語を書くのを望まれてるか?」という本題に戻るが、そうなると「こんな色んな複雑さを持つモンクが書いたものよりも、モンクが思いつきで他人になったつもりで書き飛ばしたものの方が好まれる」という出版界、映画界、そしてそれぞれの読者や観客って一体なんなのか?というか全員なにもかんがえていないのではないか?という感じであらゆる問題を浮き彫りにしていく。

皮肉なことにモンクは本の賞の審査員も務めており、自分が書いた『FUCK』の審査もせざるを得なくなる。五人の審査員の中には、モンクが『FUCK』をヤケクソで書く切っ掛けとなった、大勢が求められる苛烈な黒人小説を書いて売れた黒人女性の作家シントラも居た。シントラは『FUCK』作者がモンクだとは当然知らないが「なんか、この本、低俗だしっぽくない?」と言う。
モンクは、自分と同じ立場に立たされ尚且つモンクがでっちあげた本だと看過したシントラに興味を抱いて色々質問する。
モンクは基本的には賢くて優しい男性だが、根本に自分より賢くない(とモンクが思ってる)他人を見下すところがある。ここまでも『FUCK』について悩んでて恋人コララインに「君レベルの人にはわからないよ!」みたいな事を言って怒らせたり、ゲイの弟と今まであまり仲良くなかったのもそれで、根本のところにクソ野郎としてのモンクも要て、そこが面白い。ママは夫が浮気してたことも知っていてモンクに似ているという「あんたは天才よ、パパもそうだったの。天才は孤独なのよ。わかってくれる人が居ないから……」とモンク寄りの事を言ってくれる。言ってる内容はそうだけどモンクの短所は只のクソ野郎要素なだけの気がするが……。
そういえば急死してしまったお姉ちゃんも、モンクが人の間違いを指摘したりする時に疑問形で「それしたら良くなるの?」みたいに、わざと訊き返す事によって相手の過ちを相手自身に悟らせようとする喋り方するのだが、そのやり口に対して「あんたのそういう他人を見下した態度マジで嫌いだわ。素直に『良くないと思う』って言えばいいやろ」と注意される。僕も、このわかってるくせに知らない振りして訊いて相手に悟らせる喋り方嫌いなのでお姉ちゃんに強く共感した。
シントラに対しても「君のヒットした本、あんなもん読んでないけどどうせ(僕の『FUCK』同様に)でっちあげだろ」と言って、シントラに「ちょっと待って?読んでないのに私の本を腐すわけ?」と至極当然の言い返しされたりして面白い。
そして『FUCK』はクソだとわかってるモンクとシントラは『FUCK』受賞に反対するが、残りの三人の白人審査員は「何言ってるんだ『FUCK』は最高だよ!」と多数決で負け、受賞してしまう。
喧嘩したままの恋人コララインにメールで謝罪するモンク。
そしてモンクは審査員として『FUCK』の授賞式に行く、恋人コララインも来る……そして……というところから時間が少し飛ぶ。

ネタバレ。この映画のラストでは映画化される『FUCK』の脚本を、監督によって「黒人っぽい小説書いて」と言われた『FUCK』執筆時と全く同じような事を強いられる。
このラストは多分、コップを揺さぶるように「誰がどんなものを創作するのを求められているか」といった問題を再び議題に上げる。
書きたくもない『FUCK』を書かされたモンクは、それを脚本にする際に更に「黒人っぽい結末」を書かされる。
ホラー映画のラストで、頑張ってバケモノを倒したのにラストで更に新しいバケモノが出てきて終わるようなオチにして、監督は「映画の脚本もこうだよ」と言いたいのだろう。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)のラストで「キスしてないけど編集者が望むから著作権をくれるならキスした事にしてやる」みたいなことを描いてた場面に似てるね。
集中してみてたので時間を飛ばさず普通に見せてほしかった気もするが、それって自分も劇中の”愚かな読者”と同じって事だよね。それを観てる人に味合わせるためのこの結末だったって事かな。

冒頭、モンクと喧嘩する大学教授役で『マルホランド・ドライブ』(2001)でダイナーの裏に住む恐ろしい顔の女の顔を見て即死する男の役、同じくデヴィッド・リンチ『ツイン・ピークス The Return』(2017)で何か悪い事してた男ダンカン役のアイツだ!と気付いた。調べたら凄い数の脇役してる人みたい。

 

 

 

 

そんな感じでした

🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲

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American Fiction (2023) - IMDb
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