gock221B

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『PERFECT DAYS』(2023)/リアルな『ウィリーズワンダーランド』的な映画。全編小さな幸福を追求する孤立初老主人公を肯定したいが実際には緩やかな自傷行為🚻


監督&脚本:ヴィム・ヴェンダース 製作総指揮&主演:役所広司 脚本:高崎卓馬 撮影:フランツ・ラスティグ 美術:桑島十和子 スタイリング:伊賀大介 製作国:日本/ドイツ 上映時間:124分 公開日:2023年12月22日(ドイツは2023年12月21日)

 

 

公開日は昨年末だったみたいだけど近所の劇場では延々と上映し続けてるから観に行った。
ヴィム・ヴェンダース監督脚本の日本とドイツの合作。
ヴェンダースの映画ってあんまり観ないのだが検索してみたが最後に観たのってサラ・ポーリーとかティム・ロスが出てるという理由で観た『アメリカ、家族のいる風景』(2005)以来観てないから19年ぶりに観たことになるのか。
2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を撮ったり第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされたりもした。

「東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを世界的な建築家やクリエイターが改修するTHE TOKYO TOILET プロジェクト」とやらに賛同したヴェンダースが東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いたらしい。これが原因で一部で叩かれたりもしていた。

ネタバレあり

 

 

 

 

東京渋谷トイレ清掃員として働く独身中年男性平山(演:役所広司)。
毎朝持って帰った植物に水をやること、家の前の自販機でコーヒーを買ってトイレ清掃に出発すること、仕事が終わったら銭湯に行くこと、洗濯はコインランドリーでしている、カセットテープの音楽を聴くこと、古本の文庫本を読むこと、小さなフィルムカメラで木々の写真を撮って現像して保存すること、いつも決まった地下の居酒屋やスナックで食事すること……淡々とした同じ毎日を繰り返しているが彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちていた――

そんな映画。
もともと東京は好きだし、それがヴェンダースっぽい美しい映像で撮られている。
そして全編を通して、平山は上記のトイレ掃除とお楽しみルーティンを繰り返す。おじさんが日々のルーティンをこなす映像というのはYOUTUBEでもたまにあるが妙に中毒性ある。それをやってるのが役所広司だし撮ってるのはヴェンダースなので凄く心地良い映像で観ていて気持ちいい。
トイレ掃除も、劇中出てくるのは「THE TOKYO TOILET プロジェクト」とやらの凄く綺麗でハイテクなトイレばかりなので観ていて不快ではない。うんちとか付いてないからね(僕はどんなにリアリティのためでも映画の劇中にうんちとかゲロとかは出してほしくないタイプなので助かった)。
映画を観てたら「帰宅したら自部屋を掃除してお茶入れて読書したい!」という欲求が強烈に生まれてくる。
平山が寝る度に、その日あった事を夢で見てるんだけど、本当に平山が夢見てるシーンの回数が多すぎて面白かった。夢見るシーン10回くらいなかった?催眠にかかりそうだったわ。

 

 

役所広司演じる平山は極端に寡黙な男。だもんで台詞は極端に少ない(たまに口を開くと、あまりに発声してないせいか寝起きみたいな声になってるところがさすが役所広司と思った)。
平山には普段から会う恋人、家族、友人、ペット等は特にいない。……しいて言うなら5、6年通っているスナックのママ(演:石川さゆり)と少し良い雰囲気というくらいか。互いに淡い好意は抱いているようだが特に関係を進展させようとはしていない。そういったものをほぼ放棄しているのが平山。
あとは仕事の頼りない後輩タカシ(演:柄本時生)や行きつけの店の人達や、よく顔を合わすが会話をするわけではない舞踏ホームレス(演:田中泯)や、いつも平山が座るベンチの隣のベンチで弁当食べてるOL(演:長井短)、トイレに◯✕ゲームの紙を差し込んで平山と対局している誰だかわからない者……など「街のいつメン」くらい。
平山の年齢もよくわからない。演じている役所広司は検索したところ何と60代後半だった。だが役所広司はスタイルがよく髪ドフサのイケメンであるためハッキリ言って役所広司の容姿を見ただけでは平山の年齢がわからない。仮に60代としておこう。
映画は中盤……あたり?まで平山は労働や毎日繰り返してる趣味を楽しんでいるだけで人間ドラマは起きない。というか平山は無口なので台詞もほぼない。

 

 

柄本時生演じるやる気のないタカシが、狙っている金髪女子アヤちゃん(演:アオイヤマダ)を巡って平山の領域に(ほんの少しだけ)侵入してくるだけだ。
タカシはトイレ清掃の仕事に対してやる気がなく遅刻したりサボり気味だし金借りてきたりするので平山は少し白い目で見ている。しかしタカシは思いのほか温かみのあるところがありダウン症の少年でらちゃん(演:吉田葵)に自分の耳を自由に触らせている。これを見た平山は初めて笑顔を見せるので観てるこちらも嬉しくなった。
だがタカシはこの仕事をしたくないので映画後半で飛んでしまう。一人で夜までシフトしなきゃならなくなった平山は事務所に電話して声を荒げるし、でらちゃんは寂しそうな顔を見せるしで少し胸が傷んだ。だけど青年ってやつはバイトを飛ぶものだ。平山に電話一本入れただけマシと言えなくもない。タカシは若さゆえ自我が固まっておらず、ダウン症の子に優しくしたり良いことするのも、逆に平山にタカったり仕事飛んだりするのも、良くも悪くも純粋で空っぽゆえだろう。
また平山のカセットを無断で持ち出したアヤちゃんが平山にカセットを返しに来る。
車でもう一度だけ音楽を聞いて平山の頬にキスして去り、平山は驚く。
ここは、「中年男性~初老男性のファンタジー」って感じがして少し嫌だった。
まるで柳沢きみおの漫画『大市民』で、若者たちが妙に主人公おじを慕ってたような寒い展開だ。ただし平山は人柄や趣味が良いし演じてるのが役所広司なのでルックスも良いイケジジイなのでかろうじて成立していたが。
またアヤちゃんは少し泣いてた、タカシはアヤちゃんと上手くいかなかった的な事を行ってたしアヤちゃんは「タカシ何か言ってた?」と平山に訊いて少し泣く。少しだけ気になるが平山は突っ込んで訊いたりする性格ではないので結局タカシとアヤちゃんに何があったのかは全くわからない。
それにしてもタカシは「いい加減さ」「若者特有の厚かましさ」を誇張しすぎて若干、コントみたいなキャラになっていた。古本屋の店主(演:犬山イヌコ)もね。

 

後半くらい?平山がいつものようにアパートに帰ると少女が座っている。
少女ニコ(演:中野有紗)はどうやら平山の妹の娘……姪。家出してきたみたいで平山は最初ニコが誰だか分からなかったので何年も会っていなかったようだ。
ニコは平山文庫からパトリシア・ハイスミス『11の物語』の「すっぽん」を読んで感情移入する。支配的な母親と暮らす少年が反抗心を抱く小説らしいので、母と喧嘩したっぽい。
ニコは平山に懐いておりトイレ清掃に着いてきたり、平山と同じくカメラで写真を撮ったりカセットの音楽を聴いたり平山と自転車で銭湯に行ったり一緒に創作した歌を唄ったりして、かなり爽やかな時間が流れる。
ニコが言うには、母は「兄さん(平山)は住む世界が違う」と語り、それ以上は平山について話そうとしない事を語る。
それを受けた平山はこの世界の小さな色々を楽しんでいることを語る。
アヤちゃんの時はジジイファンタジーって感じで嫌だったが、ニコの場合は嫌じゃなかった。あとくどいようだが平山を演じてるのが優しそうな役所広司というのもデカい。それに本作をずっと観てたら、平山が死ぬ時に彼が行きた証が何もないまま平山が消えてしまう感じがして切ないので、せめてニコくらいは伯父さん(平山)の何かを受け継いでほしいと、ただの観客なのに勝手ながらそう思ってしまう。
やがて平山がこっそり電話したので、ニコの母親&平山の妹ケイコ(演:麻生祐未)が娘を迎えに来るのだが、運転手付きの車に乗っておりお金持ちだという事がうかがえる。
数年ぶりに会った平山とケイコの僅かな会話で、どうやら平山も金持ちのエリートだったっぽい雰囲気を感じた。そして平山と父は確執があり認知症になって曖昧になってしまった状態の父にさえ平山は会いたくない様子が伺える。
その後も、スナックのママの元夫(演:三浦友和)との触れ合い(これもまた影踏みとかしてかなりポエティック、だが日曜劇場ドラマみたいにおじ同士が具体的な事ばかりしても味気ないのでこれくらいは許してほしいきもちになった、三浦友和も長くなさそうだし……)

 

 

そんな感じで淡々とした平山の生活に、小さな人間ドラマが幾つか差し込まれ、いつものようにトイレ清掃に出かける平山のドアップの笑顔で映画は終わる。ただしその笑顔はやがて泣き顔に変わりそしてまた笑顔に変わり再び泣き顔になる……?すごい演技だが正直、役所広司の顔のドアップをずっと見せられてゲシュタルト崩壊気味になって平山が泣いているのか笑っているのかよくわからなくなってきた。
そういう狙いなのかな?
この最後の泣き笑いの平山の感情……というのは情けない話だが正直よくわからなかった。彼の笑顔や美しい朝日、そして流れる音楽などは正に「今日もまた彼のPERFECT DAYSが始まる……!」っていうポジティブな映像で終わるのだが、僕には逆の意味に思えた。
ニコママが平山を指して「兄さんは私とは住む世界が違う」というのは単純に、ニコママはタカシ達……つまり最大公約数的な殆どの人達と同じような幸福を追求しているが(なるべく多く儲けて、良い結婚して、良い子を育てる)、平山はそうではない、孤立しようとしてるし普通とは違う幸せに向かっている。一言で言うとニコママは兄を指して「世捨て人」と言いたかったのだろう。ラストシーンを観て、哀しみを感じたのは平山が泣いていたからではなく、そもそもラストよりずっと前の時間から……平山のささやかな小さい幸せを追求する生活を観ていても、観てると心地いい映像だし楽しかったが、全体的にこの映画は「PERFECT DAYS……ではないよ」と言ってるようにしか見えない。この映画タイトルは反語にしか思えないんですよね。
何か、父と何かがあって実家から離れ、極力人と会わない最低限の仕事をしている。だから迎えに来た妹は、否定するわけではないがアパート住まいやトイレ清掃してる事に驚いていたよね。
どう観ても、平山は別に給料の高い仕事はとても出来なかったりするわけではなく、本来は高い能力を持っていながら、わざと多くの人が嫌がりそうな単純作業に従事して安いアパートに住んでるようにしか見えない。こういう生活が悪い訳ではないが(……というかそういう僕もほぼ平山みたいなもんだし)単純に平山は、自分の小さな幸福を追求しつつも、自傷してますよね。だからケイコも平山本人も今まで目を逸らしていたその事実をまともに見てしまい、2人は泣いたのだろう。
平山は毎日働いて部屋も体型も服装も綺麗に保ち(ちなスタイリングは日本最高峰の伊賀大介)……そんな小さな幸福を追求する孤立生活で自己完結しても、姪が数日遊びに来て他人と関わらざるを得なくなっただけで崩壊する、それが平山の「パーフェクトデイズ」だったわけです。
平山は過去に何かあってこうなったらしいし彼の臨んだ幸福を否定する訳ではないですが、安易に平山に憧れるのは止めておきましょう(そういう人たまにいるらしいので……)。

ヴェンダースは小津のイメージだったらしいが小津というより、映画の方向性は全然違うんだけど僕は「厭世的な寡黙初老が単純労働して小さな幸福を追求して自己完結する」系映画としてニコラス・ケイジ主演の低予算ホラーコメディ、『ウィリーズ・ワンダーランド』(2021)に似てると思った。

 

 

 

 

そんな感じでした

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Perfect Days (2023) - IMDb
Perfect Days | Rotten Tomatoes

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