gock221B

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『ボーはおそれている』(2023)/楽しい場面も多くあるがメンヘラ主人公の夢みたいな主観描写が全編3時間続くのは正直しんどい。2時間でいいだろ……と個人的な好みじゃなくても監督にはまだ好きなように暴れて欲しい気持ちも共に我に有り👨🏻‍🦳


原題:Beau Is Afraid 監督&脚本&制作&原作:アリ・アスター 製作:ラース・クヌーセン 音楽:ボビー・クーリック 撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ 編集:ルシアン・ジョンストン 製作&配給会社:A24 製作会社:スクエア・ペグ 製作国:アメリカ 上映時間:179分 公開:2023年4月21日(日本は2024年2月16日)

 

 

アリ・アスター長編映画第3作目。
原作?……というか元になったのはアリアスター本人が昔撮った短編映画『Beau』(2011)。今見たら公式のものはYOUTUBEに残ってないっぽいが「Beau 2011」とかで検索すれば違法のもの?なら観れるかも。
元になった『Beau』(2011)は昔、第一作目『ヘレディタリー / 継承』(2018)に激ハマりした時に観て、そのツカミが凄く気に入ったんだですが序盤と言いたい内容だけ一緒で後はかなり変えてる印象だった。
アリ・アスター監督は長編デビュー作の『ヘレディタリー / 継承』(2018)がめちゃくちゃ好きでした(2010年代の全て映画の中で一番好きだし好きな映画10本挙げる時も入れる)。
第2作目『ミッドサマー』 (2019)は普通に面白い映画だしキャッチーなので『ヘレディタリー / 継承』(2018)よりも数倍の大人気を誇ってるのはよくわかるが、僕は『ミッドサマー』 (2019)の良かったのはアメリカに居る冒頭だけで後は『ウィッカーマン』(1973)的な出来事が起こるだけで凄く退屈でした。現状や社会に不満を持つ女性の観客が主人公に感情移入して観たらエモーショナルだった……という事らしいが、僕は男性だし『ヘレディタリー / 継承』(2018)のように先がわからん恐怖を観たかったせいか全く乗れませんでした。

ネタバレあり

 

 

 

Story
異常に神経質なアラフィフの男ボー(演:ホアキン・フェニックス)。ある日、が住む実家に帰る日、家の鍵を無くしてしまい飛行機に乗り遅れる。翌日、家に電話したら何と母は事故死したという。
実家に帰ろうとするボーの現実は大きく変貌していく――

映画の冒頭、画面は見えないが風呂場で子供が頭を打って母親が動揺している声がする。
次に中年男性ボーがセラピストにセラピーを受けている。このセラピストがかなり大柄で少し異様な雰囲気がする。アリ・アスター黒沢清好きだし、この大柄セラピストは黒沢清『CURE』(1997)冒頭に出てくる、役所広司の妻の大柄セラピストのオマージュなのかな。
ボーが家に帰る時、街は異常に騒がしく暴動のような争いが起きており殴り合いが起きてたり自殺しようとしている奴がいたりする。
これでちょっと嫌な予感した。
幻覚なのか夢なのか、恐らく「社会を恐れるボーには、現実世界の普通の光景がこんな感じで恐ろしく見えている」っていう表現なんだろう。
それで「こんな冒頭からもう幻なのかよ……これが最後まで続くどころかエスカレートしていくんだろうな」と思った。冒頭から映画のラストまで大部分は夢か幻か判断つきにくい描写が延々と続くであろう……ってことが最初にわかってしまうのはしんどい。このパターンの映画は観てて疲れるんですよね。デヴィッド・リンチ作品は幻想的な場面が多いが、大部分は普通に描写してて合間合間に幻覚が入ったり異界に迷い込むくらいだったり、リアクションが良かったりして自分には丁度いいんですけど幻想的な場面があまりに多い「全編、夢みたいな映画」は正直しんどい事が多いです。

家を出る時に鍵をかけようとして2階に忘れた物を取りに行って、玄関に戻ってきたら鍵がなくなっていた。もう強盗が怖くて外出できなくなった……」というツカミの部分は、元になった短編映画『Beau』(2011)観た時は「この始まりかた最高!」と爆笑して気に入った。本作もほぼ同じシーンがあるんだが、短編の場合そこまでは割と普通っぽい描写だった気がするけど本作の場合、映画が始まった瞬間から既に幻想的すぎたので短編『Beau』(2011)よりも、この鍵のくだりのインパクトが薄くなってしまった感があった。
ボーはその夜、静かにして寝てたのに「音楽の音を下げろ!眠れない!」みたいな差紙が何度も玄関の下から差し込まれる。最終的には玄関ドラの下から差し込まれた差紙がサーーーーーーーーーーッと床を滑り続けて寝てるボーのベッドの眼の前でピタッ!と止まったりする。幾ら何でも紙が滑り過ぎで、これはめちゃくちゃ面白くて一番好きな場面だったかも。
あとバスタブに浸かって天井見たら何故か知らないオジサンが天井に張り付いててバスタブに落ちてきちゃう……という一悶着もあったり、一回外出したら外にいる街の暴徒が全員ボーの部屋に入って大暴れし始めて、ボーが自部屋に入れなくなり屋上みたいなところで一夜を明かす羽目になる……という北野武映画のギャグシーンみたいな展開も面白かった。「家を出て旅立つまでの前半は後半より面白い」という意味では『ミッドサマー』 (2019)と似た感想を抱いた。全身入れ墨でコンタクト入れてるインパクトありすぎる男が街をウロウロしてたり、そいつが知らん間に自部屋の前で死んでるのも笑った。
色んなトラブルが連発してボーはなかなか実家に帰れない。
これらのトラブルは「ボーは本心では、支配的な母親がいる実家に帰りたくない」って事の表現なのかなと思った。「刃牙」で、護身を極めた渋川剛気が自分より強い奴がいる場所に戦いに行こうとしたら巨大な扉や地割れの幻覚が見えてなかなか先に進めない……という表現があったが、それと似たようなもんだ。しかし帰省する約束をしてしまっているので帰りたくないのに帰らざるを得ない……そんなことの劇映像化だと思うと何だか可笑しい。
そう思ってたら、母の携帯から電話があり通話ボタンを押すと知らない人が出てきて「事故で君の母の首が取れて死んだ。葬式するからすぐ帰って来い」という衝撃的な報せを受ける。これも予想外でワクワクした。交通事故とかありがちな事故でなく「天井の空調のファンが落ちてきて首が取れた」という唐突で無茶苦茶すぎる事故はデヴィッド・リンチ的で好きだ。
短編映画『Beau』(2011)では確か最後まで自分の家に居た気がするが、本作では家を出る。しかし外に出たボーは車に轢かれてしまう。

目覚めると医者の家族の家で、ボーはその家のハイティーンくらいの娘の異常に可愛い部屋に寝かされていた。庭には大男がいる。
ここでも夢か現実かわからない不思議な時間をしばらく過ごす。2、3日モタモタしてたら、ボーが借りてる可愛い部屋の持ち主であるハイティーン少女が突然ペンキをがぶ飲みして昏倒。嫌な出来事!怒ったママは庭の大男をボーにけしかけてボーは逃走。
この「医者家族と大男」は最後まで観ても何なのか、よくわからなかったが後で話に出てくるので「車に轢かれて、娘の部屋で看病してもらってる」のは恐らく現実に起きた出来事だったと思った。娘に車に乗せられてたのも多分現実で、娘は自分の部屋を占領する邪魔なオッサンを追い出したかったのだろう。
庭に居て奥さんの号令で殺しに来る飼い犬のような大男は、この後も出てくるがどう見ても現実の存在とは思えないので「気が進まないが母がいる実家に帰らなければいけない」という「今は無理に考えないようにしてるが、いずれは直面しなければならない辛い現実」の象徴なのだろう。もしくは本当は単純に犬だったのかも……。

次にボーは森に立ち寄り「傷ついた心を慰めあう人達のコミュニティ」に入る。彼らは演劇の準備をしている。
森での演劇を観たボーは、「これは自分の話?」と思い、そうすると演劇の主人公がボーに代わり、ボーが女性と出会って三人の息子を誕生させ災害で離れ離れになり年老いて衰弱死寸前になって息子三人と再会する……という劇中の主人公の人生を追体験する。だけどやはり勘違いだったみたい。ボーは母に捧げるつもりで家から持ってきた母子像を、森で親切にしてくれた妊婦にあげる。また、母から「お前の父は、お前が生まれる前に死んだ」と聞かされていた父親らしき老人とその森で出会う。この痩せた「父親らしき老人」は妙に優しくて「自分をわかってくれそうな雰囲気」に満ちている。この父親はボーの妄想だと思った。
ここで医者家族の庭からボーを追いかけてきてた大男が登場し自爆、ボーは再び逃走。
この森での幻とか演劇。「幼い頃の母との記憶」はボーの本当の思い出だとして「まだ体験していない年老いたボー」とか「生まれてない息子との別れと再会」とか、一体何の暗示なのかよくわからない。一瞬「本当のボーはジジイで今まで見てきた中年のボーは昔の姿なのか?」「それとも少年たちの方がボーの過去なのか?」などと思ってたら全部どうやら勘違いだったみたい。そういう感じでこの森での演劇や幻覚は、強制的に色々考察させられる感じで何かもう疲れてきた……。
この森の人達は皆優しかったし、「実家に帰らなきゃいけない」という強迫観念のメタファーっぽい大男が大暴れして実家に帰らざるを得なくなるしで、この森での出来事は大部分はボーの現実逃避の妄想かと思った。
だが「ボーが母子像をあげた親切な妊婦」は後でも言及されるから、この妊婦は道中で本当に出会った優しいおばさんなのかな。
この森でのくだりは「こんなに長くやる必要ある?」ってくらい長い。
映像作品で意味なく撮ってるシーンはないのでここも何らかの意味があるんでしょうけど、わからないっていう事もあって「この森のくだり全部なしで時間短くしてくれや。そこまでボーに興味ないんだよ」というやさぐれた気持ちになってきた。

 

森を出てボーはあっという間に実家に着く。ほんとに一瞬で帰るので「よほどボーは実家に帰りたくなくてわざとLOSTして遠回りしてたんだろうな」と思った。
豪華な実家に着くと母の葬式が終わったところだった。
この実家は、木に囲まれた静かな場所で、『ヘレディタリー / 継承』(2018)の家を思わせる。アリ・アスターの実家もこんな感じなのだろうか。
ボーの母は大企業の社長だったらしい。そして現在のボーは世捨て人の中年ニートみたいになってるけど母と二人暮らしで大事に育てられて若い時までは優秀だったっぽい写真が飾られている。しかし言う事聞かなければ屋根裏に閉じ込められてたこと。辛い折檻を受けてた幼少期、そんな時にもボーは「折檻を受けてるのは自分じゃない」と自己を分裂させていたこと……等がわかってくる。それがボーの脆いメンタルの理由?
ボーがうたた寝していると夜、中年女性が訪ねてきた。葬式に遅れたらしい。
その女性はボーの回想に出てきた、少年時代に海水浴で出会った初恋の女性だった。
二人は久しぶりのドラマチックな再会を喜ぶ。
幻である初恋の女性が「あなたの母の会社には先週まで居た」と言って、ボーが「先週まで……?」と聞き返すシーンは何か意味ありそうでよくわからなかった……なんで「先週まで居た」と言ったらボーは不思議そうにしたんだろう。
どういうわけか「彼女は母の会社で働いていた」事がわかったり、再会して数分でベッドインしたりと、あまりに展開が早いので何だか夢っぽいなと思ったらやはり夢だった。
彼女は動かなくなり、死んだはずの母が立っている。
再会してすぐ自分を好いてくれた初恋の女性(ボーにとっての都合のいい妄想)が、母という「ボーにとって不都合で圧倒的な現実」の登場によって消えた。
母は、どうやらボーを帰ってこさせるために死を偽装したらしい。
だが「自分の代わりに家政婦を代わりに殺した」とか言ってて、死を偽装するためにそんな事する必要ないので相変わらず夢と現実が混じり合ってるのかな。
これ以降のシーンは相変わらず幻も混じるが、「母」というボーにとっての強力な現実の象徴が登場したことで「母」という存在が文鎮のように頼もしい感じで映画全体を抑えているため、これまでの時間よりも観やすくなった。ボーの母は存在感があるだけでなくボーにとって都合が悪いので幻覚では実在の存在感があるからだ。
冒頭に出てきた、ボーを担当してる大柄セラピストは実は母とグルで、セラピーの結果を全て母に送っていた。これは現実の出来事かなと思った……いや、もしくは「母には自分の考えが全て筒抜けだ」というボーの被害妄想を表現したものかな。どちらにしてもボーが母に敵わないと思ってる表現だし、どっちも似たようなもんだ。
あと「お前の父の真実を見せる」と母に屋根裏部屋に入れられたら巨大な男性器のバケモノが居たのは、どうでもいい男と望まれない妊娠をしてできたのがボーって事なのか?よくわからないが母は男性嫌悪っぽいね。
その後、ボーは母に歯向かうが「母や大勢の観覧者に囲まれた水の裁判所」のような逃げ場のない不思議な領域に追い詰められ母と弁護士に責め立てられる。もう実家に帰って母に「そこ座んなさい」と言われてコンコンと説教されてる状態だ。
「ボーは、良い子のフリしてるが自分を愛する母への愛情など持ってない」とかそういう事。道中でボーがしてきた良くない事、そしてボー自身はそれを全て自分の都合の良いように記憶を書き換えてることなどを全て暴かれ責められる。
ボーは、母への恐れや罪悪感?でボートごと転覆。そして映画冒頭で聞こえた「幼い頃のボーが浴室で頭を打って動揺する母の声」が聞こえて映画が終わる。
「支配的な母に苦手意識があったが母に呼ばれて渋々実家に帰ったが退路を絶たれて説教されてウワーッ!と自我が持たなくなってメンタル崩壊した」、それを全編3時間もかけて観せられたような印象。

そういう感じで映像とか演技は相変わらず素晴らしいし、幾つか面白い幻覚やシーンもあり最後まで観れたが、やっぱり全編、精神が危うい主人公の夢みたいな主観ばかりが延々と続く映画はしんどいものがありました。
しかも映画冒頭で「こういうの全編続きますよ」と最初に宣言されたからよりしんどい。
僕としては単純に「実家に帰りたくないけど仕方なく帰省して逃げ場なしで落ち度を延々と責められて精神崩壊した男の話」だと単純に受け取った。誰しもそういう事はあるので少し共感はしましたが……。
楽しい笑えるシーンも幾つかあったんだけど長すぎる!2時間でいいよ。別にそこまでボーの内面に興味ないし……。
次はもう少し具体的な内容にするとか、ホラーに戻ってきてほしい。だがアリ・アスターって「家族に対しての重い想い」を映画に落とし込みたくて映画作ってる人であって特別にホラーが撮りたい人が第一の人じゃないからまたホラーを撮るかどうかは謎だね。
本作は本国で大コケして未だに制作費が全く回収できてないらしいし、焦ったA24スタジオが「今後はアート寄りの映画は減らす!」みたいな事を言ってたから次はもう少し具体的な描写の映画にしてくれるだろう。つまらなかったわけじゃないけど疲れた。

……というか『ヘレディタリー / 継承』(2018)が好きすぎて、ああいうのだけを求めてる自分が居る……。監督からしたら世に出て色んな自分を試してみたいはずだもんね。視野狭窄になりかけてたが広い目で今後も監督を見守っていこう。そう、想いを新たにした今日この頃でした。

〈僕の中のアリ・アスターTier〉
神!:『ヘレディタリー / 継承』(2018) ほぼ完璧。欠点なし
良い:昔撮ってた短編映画7本。面白いし短い
平凡:『ミッドサマー』 (2019):最もキャッチーな映画だし冒頭は神だが、スウェーデンに行って以降が予定調和すぎてつまらない
  :本作『ボーはおそれている』(2023):おもろいとこも幾つかあるが長すぎてウンザリ
  :『ミッドサマー ディレクターズ・カット版』 普通のミッドサマーより30分も長い

 

 

 

 

 

そんな感じでした

アリ・アスター監督作品〉
『ヘレディタリー / 継承』(2018)/今年の映画&ホラー映画で‥というか、ここ10年の映画の中で一番好き🤴 - gock221B
『ミッドサマー』 (2019)/映画全体の中では面白い方なんだが、この監督の新作という事を踏まえると田舎に行って以降のお決まりの流れでは満足できない🌼 - gock221B

👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶👨🏻‍🦳👩🏻‍🦰🛶

Beau is Afraid | A24
映画『ボーはおそれている』公式サイト|2024年2月16日(金)全国ロードショー

Beau Is Afraid (2023) - IMDb
Beau Is Afraid | Rotten Tomatoes

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