gock221B

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『イニシェリン島の精霊』(2022)/突然おじさんに絶交されたおじさんの困惑……という「探偵ナイトスクープ」の依頼みたいな話。最後まで面白かったものの観終わると「自分に知識がなくてわかってない部分があるのかも?」と不安になる映画👨🏻👱🏻‍♂️


原題:The Banshees of Inisherin 監督&脚本:マーティン・マクドナー 音楽:カーター・バーウェル 製作国:イギリス/アメリカ/アイルランド 上映時間:114分

 

 

前作『スリー・ビルボード』(2017)が尋常じゃなく好きだったので長いこと楽しみにしてたマーティン・マクドナー監督の新作。
「孤島に住むおじ(中年男性)が親友のおじにある日、理由もわかぬまま絶交される。原因を探ったり関係を修復しようとすると彼に『これ以上、私につきまとうなら私は自分の指を切り落とすぞ』と脅してくる」
この探偵ナイトスクープの依頼でありそうなあらすじに魅了され、また前作『スリー・ビルボード』(2017)が良すぎたので楽しみにしていました。

ネタバレ少しあり

 

 

 

 

Story
ベッドのまわりに何もかも脱ぎ散らして 週末だけの秘密の部屋……
1923年、内戦に揺れるアイルランド本土から少し離れた、島民全員が顔見知りの小さな孤島イニシェリン島の男性パードリックさん(演:コリン・ファレル)からのご依頼です。

局長並びに探偵の皆さんいつも楽しく拝見させていただいてます。ところで……
私パードリックは親友コルム(演:ブレンダン・グリーソン)に突然の絶縁を告げられました。理由は全くの謎。彼も理由を一切話してくれません。
私は賢い妹シボーン(演:ケリー・コンドン)や近所の知的発達障害ドミニク(演:バリー・コーガン)の力も借りて事態を好転させようとしましたが、コルムから「これ以上自分に関わるなら私は自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされてしまいます。
コルムは何故わたしと絶交したのか、映画を観て確認してもらえませんか――

そんなご依頼。
映画開始と同時に主人公パードリックは、コルムの独居住まいを尋ねる。日課であるパブでの飲み会への誘いだ。だが、前述の通りいきなり絶交される。
いきなりクライマックス!
パードリックの日々の地味な暮らしとかパードリックとコルムが何日か飲み会してる様子などの退屈な描写は全部すっ飛ばしてるので好感触(そんな単純な情報は各キャラの台詞の端々で匂わせるだけでわかるのでいらない)。
パードリックは感じの良い独身中年男性だし、全く理由がわからない。
パードリックと同じく独身の妹シボーンと二人暮らし、飼ってる黒いヤギTwitterのフォロワーさんに教えてもらいましたがロバの間違いでした)とても愛している。仕事はよくわからないが牧場経営か?
コルムはパードリックより数歳から一回り歳上くらい年上の初老の独身男性。バイオリン的な楽器の演奏を嗜み(なんて名前の楽器だったか忘れた)、作曲もしているようだが仕事している描写がないのでどうやって食っていってるのかよくわからない、音楽が金になっているのか?あと犬を飼っている。
パードリックの妹シボーンは兄同様に独身。家事全般はシボーンがやっているようだ(100年前だから「女性にだけ家事させて!」などと思うところではなさそう)。
シボーンは読書が趣味。ある日、哀しい本を読んでたら、読書をしない兄パードリックは「どうせなら楽しい本を読めよ」と言ったりする。後のシボーンの結末も鑑みるに彼女は現実を直視する性格で、パードリックは現実よりも自分が見たいものだけ見る性格なのかもしれない(この辺に絶交の原因があるのかもしれない)。兄妹の仲はいい。パードリックはシボーンの事を妹というより「親友」みたいに言ったりするし就寝時もベッドを並べて寝ている。どちらかというと兄妹というより落ち着いた夫婦のように見える。別に「近親相姦っぽい」と言いたいわけではなく「暮らしを共にする、新婚が終わった落ち着いたパートナー同士」に見えるということ。なんで夫婦の設定にしなかったのかというと単純に「コルムを取り戻さないとパードリックは孤独のまま」という状況が欲しかったからか?
パードリック&シボーン兄妹の隣人ドミニクは知的発達障害者。いつも空気を読まず周囲の空気が凍りつく一言を放ってしまうためパードリック以外に親しい人はいない。シボーンの事が少し好き。いつも雰囲気を壊すので友達がいないのも納得だが、性格が悪いというよりも思ったことを速攻で言ってしまっているだけ。むしろ純粋で子供のままの精神が大人の身体に入っている感じ。また、警官の父親にDVされていて恐れている。警官の父親はイニシェリン島で威張っており。気に入らない島民をぶん殴ったりする。
コルムと親しくしたがっているので、コルムは芸術家として島で一目置かれているのかもしれない。

 

 

中盤くらいの早い段階でコルムの目的は判明する。
「作曲で後世に残る不朽の名曲を残そう」としている。独身で、子供がいないから死んでも長く残る「芸術」を残したいようだ。初老なので死を感じてなおさらそう思っている。コルムがずっと作っている曲は「人の死を予告するアイルランドの精霊バンシー」がテーマ。パードリックと絶交した後は音楽学校の生徒や音楽家と付き合い始める。ドミニクのDV父警官と乾杯している。
しかし島にあるパブは一件しかない。絶交の理由を聞かされないままのパードリックは毎晩、同じ店で数日前まで一緒だったコルムが知らない奴やクソ野郎であるドミニクの父と飲んだりしてるのが我慢ならない。コルムと同じ席に着くとコルムは遠い席に移ってしまう。しつこくすれば指を切り落とすと言う。
「老い先短いから不朽の名曲を残したい」という目的はわかるんだが、コルムがパードリックを絶交した直接の原因とは思えない。
コルムとパードリックは親友だったんだし、別に夜にパードリックと一杯やるくらい大して芸術の障害にはならないからだ。コルムはパードリックに「お前の愚痴を毎晩、聞かされるのは時間の浪費でしかない」とは言うものの、絶交後もパードリックの大ピンチを無言で助けたりするし友情が消えたわけではなさそうだ。
「絶交」を言い渡したはいいが毎晩パブで顔を合わせてしまう、というか近所だからすれ違ったりするし気まずくて仕方ない。パードリックも他に友達は妹とドミニクしかおらずインターネットとかもないから毎日毎日「コルムに絶交されたが理由がわからない」という問題はパードリックの中でどんどん大きくなっていく一方。
だからパードリックが絶交の理由を食い下がって訊こうと問い詰めたりして時が経つと共に揉め事が増えていき、問題は雪の積もった坂を転がる雪玉のように日増しに大きくなっていく。
パードリックは逆に「よし!わからん!今日から俺は生まれ変わった!っていう設定で強く行くぞ!」とコルムの心中は敢えて無視して無神経な男を演じて強くコミュニケーションする。その結果、コルムはウンザリして左の人指指を切り落としパードリックの玄関に投げつける。

 

青ざめたパードリックはコルムへの接触を一旦は控えるが、絶交の理由はわからないままだし、毎晩違うやつと楽しく演奏する様を見せつけられる、それらで非常に混乱しているパードリックの心。そして「私に近づけば指を切り落とす」という脅迫も、カマシではなく本当である事がわかってしまった。コルムの切断されて投げつけられた指は パードリックの心に大きな波紋を発生させただけだ。
振り子の原理のようにパードリックはコルムへの想いは強くなる。
絶交の理由がわからなさすぎるので僕は主人公パードリックに感情移入して観た。
パードリックも人間なので完璧ではないが基本的には良い奴なので、コルムが頑固な変人に思えてしまう。
自分にもこんな事あったかな?と思い返してみても、やはり女性との恋愛関係でしかない。しかも20代前半の、女性がこちらの落ち度をわかっているが僕が全くわかってないパターン。僕が一方的にわかってない状況(僕が相手の数倍アホという状態)。こういう時、相手はわかる相手にしか言わない。しかも女性が自分の心の内を察して欲しいという男女関係の場合、「私はこう思うが、あんたはこうだから私はムカついている。だからこうして改善して欲しい」などと説明したりしない。相手の気持になればわかる。アホらしいからだ。しかも相手が精神的に数倍の差でアホという場合、説明しても伝わらず無駄足になって余計に腹立つので言わないのもわかる。そんな時の僕はパードリックみたいに「よし、こんな喧嘩は嫌だし敢えて強気で行ってみよう!」などと相手より無神経な僕が更にアクティブに無神経になって「強気」で解決しようとしたら余計に激怒させる結果になる。切断された指を投げつけられる結果になる。自分がコルムの立場になる事も増えたのでどちらの気持ちもわかる。
だが絶交までの二人の交流を一切見てないので、それ以上はわからない。
コルムが不朽の名曲を残そうと焦っていること、パードリックは良い奴だが「人生」や現実を直視したがらない傾向があり、映画だけ観てたらよくわからなかったが「コルムから見るとパードリックは無神経なのかも?」と僅かに思わせるところがある。

で、二人の不仲が原因だったり外的要因や偶然の事故でイニシェリン島では惨事がいくつか起こる。そして一応の解決があり映画は終わる。
割と映画が開始した直後から最後まで目が離せず「面白かった映画だった」とは思うが、やはり絶交の原因が最後まで明瞭としないためピンと来ないモヤモヤした気持ちというパードリックとシンクロした状態で映画館を出た。
だが、映画開始と共にクライマックスだったり、島の占いババアがパードリックに「今夜、二人の人間が死ぬ!お前と妹ではない……」とか言って先の展開を予想させたり「犬を殺すのか?」「DV警官は殺しに来るのか?」などと要所要所わくわくさせて、おじ二人の地味な喧嘩で2時間持たせるあたり監督の力を感じた。
劇中、1920年代のアイルランド本土では内戦してるがイニシェリン島の島民は無関心。独身中年男性のパードリックとコルムの不仲、その原因は謎、コルムは「死を告げる精霊」をテーマにした不朽の名曲を残したい作曲家、パードリックの独身の妹は内戦やってる本土に去る、知的発達障害者ドミニクと乱暴者の父親、占いババアの予言、犠牲となる生贄……など、あからさまに「何かのメタファー」みたいに思えそうな要素が多すぎる。だが絶交の原因がわからない。これが現代劇なら主人公二人の喧嘩だけに集中できるのだが「1920年代のアイルランド」が舞台なせいで「俺が知らない『1920年代のアイルランドの内戦』にシンクロさせた何かがあってそれを知ればわかるのか?それを主人公二人の不仲と絡めてるのか?」などと思えてしまいよくわからなくなる。そんなの知らないし特に調べる気も一切ないので今後もよく知らないままだろう。勿論、知らなくてもこれらの事から何かを掴み取る事はいくらでも出来るが「自分の知識にない何かがあって、そのせいでピンと来ず、よくわからないのかも?」という疑念が残ってすっきりしない捕らえ所のない映画だったというのが正直なところだ。
「楽しめたならいいじゃないか」と思われるかもしれないが、何度も言うように「絶交の真の原因」のわからなさと「自分がわかってない事があるのかも……」という自分への疑念が晴れないままでしたね。
「このモヤモヤはパードリックの心理状態と同じだから、観客をそんな気持ちにさせたかったのか?」と一瞬思ったが大勢の人が関わる大きな映画でそんなボンヤリした事のために作ったりはしないだろう。
取り繕っても仕方ないので「最後まで面白かったが、観終わるとピンと来ない気持ちになりました」という敗北宣言のような正直な気持ちを書いて感想は終わろう。

 

 

 

 

そんな感じでした

『スリー・ビルボード』(2017)/憎しみの連鎖の円環から抜けた者だけが新しい状況を作り出せる🅰🅱🆎 - gock221B

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イニシェリン島の精霊|サーチライト・ピクチャーズ公式
The Banshees of Inisherin (2022) - IMDb

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