gock221B

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『関心領域』(2023)/アウシュヴィッツ強制収容所という領域展開の中で平穏に暮らす幸せ家族という無関心領域👨‍👨‍👦‍👦💀


原題:The Zone of Interest 監督&脚本:ジョナサン・グレイザー 撮影:ウカシュ・ジャル 音響賞:ターン・ウィラーズ、ジョニー・バーン 音楽:ミカ・レヴィ 原作:マーティン・エイミスの小説『関心領域』(2014) 配給会社:A24ほか 製作国:アメリカ/イギリス/ポーランド 上映時間:105分 公開日:アメリカは2023年12月15日、イギリスは2024年2月2日、ポーランドは2024年2月9日(日本は2024年5月24日)

 

 

ジョナサン・クレイザーは『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013)の監督。
あらすじを聞いて『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013)は正直「スカーレット・ヨハンソンによる『スペースバンパイア』(1985)みたいなエッチなホラー映画かな?」と思ってて実際その通りだったが想像以上にアート映画っぽいスタイルで期待が外れたが、映像とポスターがカッコよすぎるのとスカヨハのふくよかな全裸が凄く印象に残った映画だった(今思えばこれぞA24って感じの映画だね)。でも次回作はしばらく音沙汰なかった。監督はその後にマーティン・エイミスの小説 『関心領域』(2014)に興味を持って本作の映像化に10年かけて映画化して大絶賛されたのが本作。

あらすじも「アウシュビッツ収容所のすぐ隣にある家に住むルドルフ・ヘス所長の家族が、すぐ隣で起きている大虐殺に対して”無関心”で幸福に暮らす物語」という、もうこの「あらすじ一行だけで一つの作品」と言いたいくらい関心を惹かれる領域で、公開を心待ちにしていた領域だった。
ルドルフ・フェルディナント・ヘス - Wikipedia
先日の第96回アカデミー賞でも作品賞にノミネートされ、国際長編映画音響賞を受賞した。ジョナサン・グレイザー監督はスピーチで、ユダヤ人としてガザ地区への攻撃への意義を唱えた。アメリカやハリウッドは基本的に親イスラエル派が多いので全員が賛同する訳では無く曖昧な笑顔や真摯な表情でじっと見つめる俳優たちも多かったが(私達も仕事中に難所を乗り越える時によくやる表情だ)、ビリー・アイリッシュマーク・ラファロなどを始めとして(奇しくも二人共好きや)監督のスピーチに賛同する者も居たという。アカデミー賞授賞式という華やかな場の半分は関心領域、半分は無関心領域になるという何だか踏み絵みたいな映画だ。

アカデミー国際長編映画賞「関心領域」の英監督、ガザでの戦争について声明 受賞スピーチで - BBCニュース

ネタバレあり……といっても史実なのでネタバレもクソもないけど。

 

 

 

 

1943前後、アウシュヴィッツ強制収容所ルドルフ・ヘス所長(演:クリスティアン・フリーデル)は、収容所のすぐ隣に建てた新居で、ヘートヴィヒ・ヘス(演:ザンドラ・ヒュラー)や子供達や義母や召使い達と理想的で平穏な生活を過ごしていた――

映像や構図は美しいしカッコいい(映像について、素人なので「カッコいい」だの「綺麗」「◯◯の映画に似てる」など稚拙な表現以外にどう褒めればいいのか思いつかないのが悲しいが、同時に別に評論家じゃないからええやろという気持ちもある)。
劇中ドラマチックなことは何も起こらない映画なのだが庭や屋内で家族の日常の映像が延々と流れるという異様な映像によって「何も起きてないけど、すぐ隣は強制収容所で今まさに130万人も殺されている」という感じで上映されている映画の画面の一つ後ろのレイヤーをめくった裏にあるものを常に意識せずにはいられない、そんな造りになっている。囚人は画面には映らないし主人公によって言及すら僅かにしかされないが、触れられないからこそ却って気になる。
本作のメイキングを観たら、家族が住むお屋敷にはカメラだけが設置されて撮影されたおかげで出演者たちは、いつもより自然な演技が出来たという。

また美しいのは映像だけでなく、ナチスなので制服や私服や家や建物の内部、家具、庭……など全て洗練されきっていて美しい。これだけ洗練された美しい暮らしぶりをしてる人が、仕事ではその洗練さを殺人のメカニズムに転用させて身の毛もよだつ大虐殺してる最中だというのが「文化的に熟成されれば、同時に洗練された精神も根付くかもしれない」といった甘い幻想を打ち砕く(何十年間も大勢の女優に性的加害しまくっていたハーヴェイ・ワインスタインも称賛される映画ばかり制作してたし、日本でもしょっちゅう芸能関係者や文化人……などが告発される事が増えたし、文化的な洗練と善悪は全く関係ないという事実は改めて周知された)。

ルドルフ・ヘス所長は敗戦、1年後にドイツ海軍兵士や農夫に成りすましているところを発見され、彼自身が130万人も大虐殺していたアウシュビッツの地、つまり本作で描かれた地で絞首刑にされたらしい。
本作ではそういったドラマチックな敗戦模様などは一切描かれず、ヘス一家が理想的で平穏な暮らしをしている様子のみが淡々と描かれる。ただし前述通り家のすぐ隣で膨大な数のユダヤ人が延々と大虐殺され続けている。
虐殺どころか本作では普通のファミリードラマで描かれるようなちょっとした家族の問題もあまり起こらないのだが「アウシュビッツ強制収容所の隣に住んでいる」という前提があるため、ヘス家族が平穏な暮らしを淡々とすればするほど観ていて怖くなってくる。また家庭でちょっとした問題は起きているのだが、その結果などを描かないので、まるでこの家庭にたまたまお邪魔した隣人の視線のように「あの人とあの人の問題、後でどうなったんだろう?まぁわざわざ訊けないしわからないままだな」という、私達もよく感じでヘス家の家庭問題は川のように流れていく。そもそもヘス家は何も起きていないどころか本当は世界で最も重大な問題を孕んでいるのだが本人達もそれに気づいていないし本作も構成上そこに近づかないので何も起きていないように見えるだけだ。
もう、この設定自体が秀逸すぎて表面的にはドラマチックな事が何も起きていないのに、その実ドラマチックなクライマックスが全編延々と続いているという本作の構造自体が酸のように私の身体を侵します。
ハリウッドの多くの大作が、表面的にもストーリー的にも実に派手に色んなことが起きてるにも関わらず、映画たくさん観てる人ならハリウッドの殆どの映画やドラマや邦画や日本のドラマが、大作のように大袈裟に彩りつつも実際は、制作者より配給会社のパワーの方が遥かに上なので結果的にベルトコンベアのようにシステマティックに制作されているだけっていう事を、映画ファンなら知ってます、何がしたいんだコラ、マスコミ飾って何タココラ(長州x橋本)。その点この映画はその間逆で、パッと見は控えめだけどその内部は青い炎が点火しているのが伝わります。

また「囚人たちや虐殺は1秒も映らず、ヘス家の幸福な暮らししか描かれない」と言いつつも、ヘス家の塀の向こうの強制収容所からは絶えず囚人たちを薪のように焼き殺した黒煙が立ち上っている。「この煙も数分前までは特に罪のない人間だったもの」と考えると「劇中で囚人たちは長時間映っていた」と考えることもできる。ヘス家の人たちは煙などには無関心だ(ちなみに実在したヘス家の人たちは収容所がある方の壁を極力向かずに生活してたという)。

そして映像で虐殺は煙以外映らないが、音は聞こえている。
囚人たちの苦悶の悲鳴や断末魔、囚人たちを殺す銃声などは頻繁に1日中聞こえている。赤ん坊の鳴き声まで聞こえてきて居心地が悪すぎる。
そういった虐殺の”音”が聞こえていない時でも「ゴゴゴゴ……」とか「ヴオォー……」といった空調のような地獄のような不協和音が鳴っている。すぐ隣で起きている虐殺を無視できない神がせめて音にしようとしているかのようだ。それらも現実の大気を震わせている物理的な音ではないのでヘス家の人には聴こえない。我々観客にだけ聴こえている音。1デシベルも聴こえていなかったのに81年間も聴こえている無音。
そんな音の中、ヘス家の母ヘートヴィヒや子供たちや家族は”悲鳴”や銃声などには無関心で普通にお菓子や果物とか食べて暮らしている。その映画タイトルから想起される状況が怖い。
ヘス家の無関心領域も怖いが悲鳴や不協和音BGMも普通に音色自体が怖い。アカデミー音響賞を獲ったのも納得だ。
ミカ・レヴィという作曲家の書いた曲も怖い、特にEDが一番怖い。OST(オリジナル・サウンドトラックはSpotifyにUPされてなかった)。
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ルドルフの妻ヘートヴィヒ・ヘス役は『落下の解剖学』(2023)の主人公役でアカデミー主演女優賞にノミネートされたザンドラ・ヒュラーが演じている。
同じ2023年に世界中で公開されて二作品共にアカデミー賞作品賞に入った、本作と『落下の解剖学』(2023)どっちでも殆ど主人公。きっとドイツの大女優なんだろう。
妻ヘートヴィヒは、夫が収容所の所長という高い地位に居て、この美しい自然に囲まれて殺される囚人の悲鳴が1日中聴こえている、この屋敷に家族全員で住んでいることに誰よりも(恐らくルドルフ本人よりも)誇りに思っている。
終盤、ルドルフ所長はアウシュビッツ強制収容所の所長を退任となり、ベルリン親衛隊経済管理本部へと単身赴任する事になる。
それを聞かされたヘートヴィヒは「私は、この家に住むのが夢だったし、ここで子供達をすくすくと育てたい!」と誰よりも取り乱し、この家に留まる。

ヘートヴィヒの老いた義母は途中からヘス家で厄介になる。
最初は「私〈アウシュビッツの女王〉と呼ばれているみたい」という娘の言葉を聞き、立派になった娘の発言に大笑いしていた義母だったが、異常な環境に居る事に気づいたのか、寝る前に窓から収容所を見ている事が増え、やがて書き置きを置いて出ていってしまう。
ヘス家の末娘が深夜、夢遊病のように家の暗闇に座っていることが多く、その度に見つけたルドルフが寝室に連れて行く。娘もまた”何か”を感じていたのだろうか。

何も起こらないとは言ったが家族間でちょっとした事は起きている。
ルドルフ所長の部下がやってきて「如何に囚人たちを大量に列車で運んでくるか」「囚人たちを如何に効率よく大量に焼き殺すか」「囚人たちを一度に殺すガス室をどうやって作るか」など虐殺装置の相談を部下と頻繁に行っていたりするすぐ横でルドルフの幼子がオモチャで遊んでいたりする。虐殺される囚人たちは、何て言われてたかド忘れしちゃったけど「藪」みたいな隠語で呼ばれている、罪悪感と己の人間性を消して殺し続けられるようにそう呼んでいたのか?
またルドルフは自分のオフィスに娼婦?だか囚人?だかの若い娘を呼び、自宅に繋がる直通の地下道にある水道で男性器を洗って妻が就寝する寝室に帰っている、浮気がバレないようにか?(まるで合コンでお持ち帰りの前に居酒屋やカラオケボックスのトイレの水道で股間を水洗いする大学生のようだ)。

また屋敷のポーランド人少女の召使いはヘス家の食べ物を盗み、深夜こっそり抜け出して囚人たちが強制労働させられていた工事現場の土に食べ物を埋め込む活動をしている。
本作は何らドラマチックなことが起きない映画なので彼女が見つかって収容所送りになったりはしない。そのかわり後日、現場で囚人たちが食べ物の奪い合いをして囚人たちがナチに虐殺される悲鳴が聴こえる。

ヘス家の人たちは強制収容所に”無関心”だとは言ったが、一度だけヘス家の人たちが関心領域展開してしまう時がある。ルドルフ・ヘス所長が子供達と水着姿で川で遊んでいた時のこと、強制収容所から飛んできた囚人の遺灰や骨片が飛んできて身体に付着してしまう。ルドルフは慌てて子供達を連れて帰宅し、バスルームで子供達を石鹸で洗いまくる。〈汚らわしいユダヤの豚どもの遺灰〉を落としたくて必死だ。この時だけはヘス家の関心が収容所に向いていた。

ラスト。
ベルリン親衛隊経済管理本部に移動になったルドルフ元所長は、夜遅くの退勤時、愛しい我が家に残った愛妻に電話して愛を囁いた後、階段を降りながら何度も嘔吐したり本部の廊下の先の漆黒の暗闇を凝視する。
そんな時、突然「現代のアウシュヴィッツ博物館」の映像が挟み込まれる。博物館職員が出勤して館内を清掃する。殺された囚人たちの260万足の靴が映る。映像は再びルドルフに戻る。多分、ルドルフは”自分たちがやっている事”を感じ取ったのだろう。
捕まった後のルドルフは「自分はよくわからん間に虐殺機械の歯車にされた。自分は悪魔ではなく家族を愛する普通の人間だった」みたいな事を言っていたらしい。
詳しくないので、ルドルフが本当にそう思ったのか、それともナチスへの逆恨みなのか、収容所でサディスティックに悦んで囚人を殺していたのか等はよく知らないが「収容所の囚人を効率的に虐殺し続ける仕事に就いていた」事を除けば恐らく家族を愛する普通の男だった気がする。我々の多くも、動き出したら滅ぶまで止まらない巨大な殺人工場の工場長になってしまえば「どうしたら効率よく商品(囚人)を死体に加工(虐殺)することが出来るか」という事に工夫を凝らして業績を伸ばそうとするのが普通なのだろうと思う。
勿論、そんなことしたり、そんな人間になりたくはないが「ルドルフやナチスは、俺達とは違う悪魔!」などと線を引いて安心するのは良くない。そうは思わなくても「自分もその立場になれば殺しに加担してしまうだろう」と全員が思うことが大事で、そういった全員の想像力こそがアウシュビッツの虐殺のような”悲惨の線”と自分たちの間に実行しないという”線”を引けるのだと思う。たとえそのイマジンが何のためにならなかったとしても思考停止よりは試行し続けたり試行し続ける事が大事なのだろう。……と、映画鑑賞という嗜好を経てそう思いました。そんなシン陰流 簡易領域。

そして前置きにも書いたがイスラエルユダヤ人が今まさにこの瞬間、ガザの罪もない市民や子供達を効率的に大量虐殺しているという事実を考えざるを得ない。劇場公開がアメリカ本国より僅かに遅れたせいで、その事が却って浮き彫りになった、そんな映画体験でした。
公開時ピンと来なかった『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013)も久々に観返してみよう。

 

 

 

そんな感じでした

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The Zone of Interest (2023) - IMDb
The Zone of Interest | Rotten Tomatoes

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