gock221B

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『落下の解剖学』(2023)/ミステリー映画だと思ってたら人間ドラマ&法廷劇のフランス映画だった。観てる間は正直しんどくて眠いだけだけど観終わって時間経つと面白いという風呂入るの面倒な時に入浴した後のような映画👩‍⚖


原題:Anatomie d'une chute 監督&脚本:ジュスティーヌ・トリエ 脚本:アルチュール・アラリ 製作:マリー=アンジュ・ルシアーニ、ダヴィド・ティオン 製作国:フランス 上映時間:152分 公開日:2023年8月23日(日本は2024年2月23日)

 

 

全然予備知識無しだが、甥が観てイマイチがってたので興味が湧いたのとアカデミー賞に色々ノミネートされたし近所でやってたから、どんな内容か全く知らない状態で観た。いや「ミステリーっぽいフランス映画?」くらいのボンヤリした予想だけあった。
主演のドイツ人女優ザンドラ・ヒュラーは本作の演技で賞を総なめ、今年のアカデミー主演女優賞にもノミネートされている。

※追記:第96回アカデミー賞脚本賞を受賞した。

ネタバレあり(……だけど厳密に言うとこの映画にネタバレは無いと思う)

 

 

 

 

が積もる人里離れたフランス山荘
ドイツ人作家の妻サンドラ(演:ザンドラ・ヒュラー)と、この山荘を売るために改装作業しているサミュエル(演:サミュエル・タイス)と、盲目息子ダニエル(演:ミロ・マシャド・グラネール)。そして盲導犬スヌープが住んでいた。
ある日、ダニエルが盲導犬と散歩から帰ると、父サミュエルが出血して息絶えていた
パニックになるサンドラとダニエル。

検死の結果、死んだサミュエルは頭に打撲の痕があり、階下には血痕が付着している。彼は作業していた3階の窓から落ちて真下の小屋で頭部を強打したか、または何者かに鈍器で頭を殴打されて落下死を偽装されたか、この2つのうちどちらかしか有り得ない。
サミュエル死亡時は息子ダニエルは散歩していたし付近には誰も住んでおらず、妻サンドラと2人だった。そして三階の窓から落下死したとしても頭をぶつけうる落下場所(小屋の屋根の上)に血痕がない。
かくして妻サンドラは夫サミュエル殺しの容疑者として裁判にかけられる。
サンドラの親友の弁護士ヴァンサン(演:スワン・アルロー)は勿論サンドラを熱心に弁護する。

 

 

という事で、残りの映画の大半の時間はサンドラの裁判が行われる。
休廷を挟んで実に4回くらいもの裁判シーンが描かれる。法廷映画だったのね。
劇中で描写されるのはサミュエルが死んだ時以外なので、息子ダニエルや傍聴人同様に我々観客もサミュエルが「事故で落下死した」のか「投身自殺した」のか「殺された」のか、わからない。
本作を観てる人は、劇中の裁判官や息子ダニエルや傍聴人に感情移入してサンドラの裁判を聞きながら「サンドラは夫を殺したのか?それとも夫の自殺か?」と考えていく映画になっている。だからミステリー映画かと思ってたけど人間ドラマ&法廷ものだった。
ちなみに「落下死したら付いてるはずの場所に血痕がない。だからサンドラが殺したのでは?」という疑念はヴァンサン弁護士の実験の結果によって「サミュエル死亡時、雪が降っていたので息子ダニエルが発見するまでの時間で雪が痕を洗い流すには充分な時間があった」という事がわかっている。つまりサミュエルの自殺か、サンドラによる他殺かは振り出しに戻り、サンドラの運命は裁判に委ねられた。

何度にも及ぶ裁判によってサンドラはバイセクシャルで女性との不倫経験があるとか、ダニエルが失明した事故があってサミュエルが自己嫌悪で鬱になりサンドラも夫を短期間憎んだりして夫婦仲が険悪になったとか、夫が数年前に自殺未遂したとか、サンドラの著作に夫殺しの願望が書かれてる疑惑とか(これは敵弁護士の稚拙な指摘)、サミュエル死亡の前日に夫婦が殴り合いに発展する大喧嘩していたとか、サミュエルが夫婦喧嘩の音声をたくさん録音していたとか……様々な事実が明らかになる。
正直言って、これらの証拠や新情報の殆どは最初から最後まで「サンドラが怪しい」というものが多い。サンドラは自分に不利な事をたくさん隠していたし激しい夫婦喧嘩の音声も法廷に鳴り響くからね。しかしサンドラが有罪になれば盲目の息子ダニエルは一人ぼっちになってしまう、それならサンドラがたとえ無罪だろうと自分が不利になる事を自分からわざわざ言わないのも当然。サンドラが怪しい新情報が多いからと言って、それが真実には直接結びつかない。
中盤から後半にかけては、殆どサンドラとサミュエルのギスギスした夫婦仲を描いていて、殆どノア・バームバックの『マリッジ・ストーリー』(2019)よろしく、険悪な夫婦を描いたヒューマンドラマの様相を呈している。……というか本作はこのサンドラの家族の人間性を描くのがメインなんですよね。人間ドラマ:法廷劇の割合は7:3くらいかな。
で、この映画は観客を驚かせるエンターテイメントなミステリー映画ではないので「第三者が忍び込んでサミュエルを殺した」「実は息子ダニエルが父を殺した」……など、意識外のサプライズな原因は有り得ない。そして散々、家族の人間ドラマを描いといて「そういうのとは何の関係もなくサミュエルは滑って落下死しただけでした」なんてことも有り得ない。つまり「絶望したサミュエルの自殺?」か「不仲の夫をサンドラが殺したか?」の二択。この2つのどっちか、それしか有り得ない世界。法廷で明らかになる主人公家族の人間ドラマを観て感じながら想いを馳せる。それがこの映画。

 


正直言って中盤から終盤にかけて、ギスギスした夫婦関係、敵弁護士のネチネチした攻めに耐える時間など、とにかく、しんどくて喋ってばかりの法廷シーン(回想シーンも少ない)がめちゃくちゃ長いので少ししんどくなってくる……いや、ぶっちゃけ「もういいから早よ終わってくれや……なんでこれがパルム・ドールとか賞そうなめしとるんや……」とか思って眠くなった。
事件の真実同様に霧がかった雪山を脱出のあてもなく彷徨い歩いてるような映画だ。
……が主演ザンドラ氏の熱演とか先を知りたい想い等があって不思議と目が離せない……だけど同時に眠い、一言で言うと観てる間あんまり面白くないまである。だけど観終わって一時間くらい経って反芻したら凄く面白くなってくる不思議な映画だった。この今おれがやってる映画の感想書くって行為は正に反芻だから、今が一番面白い。観てる間はしんどいし「これ感想書くことないからフィルマーカスにちょろっと書いて終わりだな」とか思ってたけど今面白いからこうして書けてる。たまにそんな映画ありますね。
ラストのラスト、本当なら裁判は終わりのところだが特別に息子ダニエルが最後に証言してそれで判決が決まる。もうダニエルは自分が知らない両親の秘密を裁判所で大量に聞かされてハッキリ言って十中八九ママがパパを殺したと疑ってて、途中からサンドラと口聞かなくなる。しかも最後の証言する前日、ある実験をしてサンドラが夫を殺したかもしれない証拠を新たに見つけてしまう!
……で、これはネタバレにはあたらないと思うので言うけど事件の真相は映画の最後まで観ても結局わからない。裁判の結果は、あくまでも裁判官が推測したものに過ぎないからね。
もしこれがアメリカ映画だったら、サンドラが夫を殺す瞬間の回想したり、又はそれを匂わす何かを示して映画が終わりそうだが、これはフランス映画なのでそんなのはない。裁判が終わった後のシーンが不自然なほど長い……しサンドラと親友弁護士のいちゃつきが妙に長い……が、これも又どちらにも見えるように描いている。多分「あなたが想像したものが事件の真相ですよ」形式だと思う。
というか本作がアメリカ映画だったら別に真相も匂わせも描かれなかったとしても「殺したのはサンドラ」って事になってると思う。
でも本作の場合はマジでわからない。何か僕が気づいてない匂わせがあったのかもしれないが僕にはわからなかったし実のところ真相に興味はない。
とりあえず三人家族をつぶさに見せつけられた二時間半でした。
前述の通り、サンドラが夫を殺したかどうかはマジでわからないんですけど僕の中では「サンドラは夫を殺してない」という結論になりました。メタ読みとか色々なもの総合したら「サンドラが殺した」の割合の方が高いとは思うけど。でも多分それはどっちでもいいんだと思いますわ。
そういえば犬好きな人が観たらめちゃくちゃ焦りそうなシーンあった。
結果的に面白かった。ただしそれは感想書いてる今が面白いのであって観てる真っ最中は面白くなかったです。映画鑑賞が「過去の体験」になってしまえば面白くなるタイプの映画。
めちゃくちゃ風呂入るの面倒くさくても風呂入って出た後に「くそっ風呂なんて入らなければよかった!」なんて思うことないだろ。正にそんな映画がこれ。


 

 

そんな感じでした

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Anatomy of a Fall (2023) - IMDb
Anatomy of a Fall | Rotten Tomatoes

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