原題:Alien³ 監督:デヴィッド・フィンチャー 脚本:デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル、ラリー・ファーガソン 原案:ヴィンセント・ウォード 製作:ゴードン・キャロル、ウォルター・ヒル、デヴィッド・ガイラー 製作総指揮:エズラ・スワードロウ キャラクター創造:ダン・オバノン、ロナルド・シャセット 撮影:アレックス・トムソン プロダクションデザイン:ノーマン・レイノルズ 特撮:リチャード・エドランド 編集:テリー・ローリングス 音楽:エリオット・ゴールデンサール 制作:ブランディワイン・プロダクションズ 配給:20世紀フォックス映画 製作国:アメリカ 上映時間:劇場公開版は114分/完全版は145分 公開日:1992.05/22(日本は1992.08/22) シリーズ:『エイリアン』シリーズ第3作目
アレックス・ガーランド監督の未見作を全部観る流れが終わった、『ツインピークス』全部再見する流れやヨルゴス・ランティモス作品全部観る流れも継続中だが、同時に『エイリアン:ロムルス』(2024)が面白かったので久々に『エイリアン』シリーズを全部見返してみようかなと思ったところ。
で、そういう人は多いと思うが順番に観たら3のところでムカつきそうだから一番最初に消費して残りの楽しいドライブを取っておこうと思ったわけ。
今では巨匠となったデヴィッド・フィンチャーの長編デビュー作だが、様々なかたちで制作が難航し、配給会社からの様々な横槍でトラウマになったフィンチャーは「あんなの俺の映画じゃない」と言っているのは有名な話。ちなみに公開当時も今も全然人気ない、エイリアンが出てればなるべく応援したい人やフィンチャー作品だから何とかして褒めたい人くらいしか好きな人はいない……いや、決めつけはいけない、本気で好きな方もいるでしょう、失礼しました。僕も10代だった当時観に行ってスッキリしない気持ちで帰宅した。「エイリアン全部見返して感想書いてみるか!」という自らに対する企画で観ただけで「エイリアン」の名を冠してなければ特に見返すこともなかっただろう。
完全にネタバレあり。ちなみに観たのは完全版
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前回までのあらすじ
『エイリアン』(1979)
西暦2122年、ウェイランド・ユタニ社の所有する宇宙貨物船〈ノストロモ号〉は、巨大な異星人の遺体がある惑星LV-426にて未知の宇宙生物(エイリアン)と遭遇して搭乗員は次々と殺される。ノストロモ号・科学主任アンドロイド・アッシュ(演:イアン・ホルム)はウェイランド・ユタニ社によって研究用のエイリアン回収の命令、そしてその為なら乗組員を破棄しても構わないとインプットされていた。
かくしてノストロモ号はエイリアンとウェイランド・ユタニ社のせいで壊滅。
エイリアンを宇宙に放逐した唯一の生存者エレン・リプリーは脱出用シャトル〈ナルキッソス〉で生き延びた。
『エイリアン2』(1986)
西暦2179年。前作の後57年後宇宙を漂流していたエレン・リプリーは、ウェイランド・ユタニ社に救助され、エイリアン・クイーンを頂点とするエイリアンの巣となって連絡の途絶えた惑星LV-426探索に向かう植民地海兵隊に同行。リプリーと仲間達3人は犠牲を出しながらもクイーンを倒し、植民地海兵隊の宇宙戦艦スラコ号で再び冷凍睡眠に就いた。
西暦2270年。前作の91年後。
惑星LV-426のエイリアン殲滅作戦後、冷凍睡眠に就くリプリーら生存者達を乗せて地球に帰還するはずだったスラコ号に謎の事故が発生。スラコ号から切り離された脱出艇は凶悪な囚人が送られて労働させられている流刑惑星フィオリーナ161〈通称「フューリー」〉へと不時着。同乗していたヒックス伍長やニュートは着陸時に事故で死んでおり、ビショップも大破して機能停止。またしても一人だけになってしまったエレン・リプリー(演:シガニー・ウィーバー)。
ウェイランド・ユタニ社による救助を待っていたリプリーだったが、リプリー達が乗っていて墜落した宇宙船にはエイリアン・クイーンの卵があり、そこから産まれたフェイスハガーによって宇宙船が破壊されたらしい。
要するにハゲの犯罪者たちばかりの工場しかない寂れた惑星で、スキンヘッドにしたリプリーが囚人たちと共闘して、一匹のエイリアンと戦うというのが基本的な話。
このエイリアンは、リプリー達の宇宙船を破壊したクイーンエイリアンの卵から産まれたフェイスハガー。それが犬(完全版では牛)に寄生して産まれた四足歩行のエイリアン、通称〈ドッグ・エイリアン〉(完全版では〈バンビ・エイリアン〉)。
前作『エイリアン2』(1986)ではパルスライフルなどの最新兵器で戦ったためエイリアンの群れを掃討できたが、この惑星は「囚人の反乱を防ぐため一切の武器を置いていない」という設定。まぁいくら反乱防止とはいえ所長や職員たちが全く持っていないのはどう考えても不自然だが「素手で一匹のエイリアンに対抗する」という第一作目以上に過酷なコンセプトをやりたかったのが本作なんだろうから仕方ない。
今や大監督になったデヴィッド・フィンチャーはMV監督として有名になった後、本作で長編映画レビュー。ということで一作目『エイリアン』(1979)のリドスコ監督と似てる。撮影中はトラブル続きで出来上がりは配給会社に勝手に変えられたとの事ですが、とりあえずカッコいいシズル感ある映像はフィンチャー感強い。
具体的に言うと画面が全体的に黄土色で、何か常に壁とかから水が垂れて濡れてたり工場のパイプから水蒸気がよく出ていてカッコいい。
3年後に『セブン』(1995)の大ヒットで、こーいう映像は大流行になるのだが、本作の時点だと内容への文句と共に「暗い!殺風景」と叩かれた。
だが3年後の『セブン』(1995)以降は、こーいう映像(あと独特の速いモンタージュ)は90年代を代表するノリになった。確かにMV上がりのそういうカッコいい映像の雰囲気は出てる。確か凄い予算かけられてるし、工場のセットも格調高い。
また『ゲーム・オブ・スローンズ』〈シーズン1-8〉(2011-2019)のタイウィン・ラニスター役でおなじみの医師が下着姿のリプリーを解放するシーン、注射する時に薬に針刺して針先から薬品が垂れて患者に注射する時のドアップ、手術用具をバラッと並べてニュートの解剖(開胸の0.5秒以外は遺体は映らない)、ビショップに電極刺して喋るシーン、汗まみれ油まみれの荒くれ囚人たちが通風口などで作業するシーン、信仰に目覚めた囚人が説教してファンから五光のような光が入る場面……など、どれも本当にMVみたいでカッコいい。映像に押されてか、映画開始して40分くらいまでは「実は面白いのかも」と思った。だが気のせいだった。
映像やセットがカッコいいのに「暗い暗い!」とよく文句を言われたのはひとえに面白くないからだろう。内容が面白ければこれで『セブン』(1995)に先駆けて好まれたはずだ(もっとも『エイリアン2』(1986)のように明るく楽しくポジティブな「エイリアン」だけが観たかった人には、たとえ面白くても受け付けなかっただろうが)。
まず映画開始したら、前作『エイリアン2』(1986)で命懸けで守りあった愛着あったキャラクターであるニュート、ビショップ、ヒックス伍長が死んだところから始まる。もう何度か観て知った状態で再見してるにも関わらずOP映像で宇宙船にダメージ行く場面や、リプリーが仲間の死を告げられるシーンなどで初見の時と同じような「は?」という不愉快な気持ちになった。数少ない面白いX-MEN映画……マシュー・ヴォーンが監督した『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011)で色々若いミュータントが登場したが、嫌な監督ブライアン・シンガーが戻ってきた続く『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)ではマシュー・ヴォーンの評判を嫌ったのか「前作で活躍した若いミュータントは全員惨殺された」と知らない間に殺されてて、虚しくなるからもう『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011)観る気なくなったりしたが、そういう感じで過去の人気作がつまらなくなるような展開はやめてほしい。
過去作の仲間を出せない理由があるにしても一旦別れるとかリプリーが入ったカプセルだけ何かの理由で囚人惑星に来るとかさ、何らかの方法を考えてほしかった。特にニュート。映画で主人公が守る子供って只の人間じゃなくて「希望」のメタファーなんだからさ。事故で死んでましたはないだろう。彼女らが死んだことは30年以上前から知ってるのに再見したら映画開始20分くらい「は?」という気分が抜けず話が入ってこない。
だが本作を最後まで観ると、とことん救いがなく画面や様々な描写も殺伐とした……数年後に流行るサイコサスペンスの雰囲気で撮ろうとしているのも一目瞭然で、ニュートを殺すだけでなくわざわざ寄生されてないか解剖して確認するシーンまで付け加えているのは「今回は、明るく楽しい『エイリアン2』(1986)とは違うんだ」と強く言いたいのだろう。このシリーズや当時の大作シリーズは、ホラー映画などの低予算シリーズとは違い、一作毎にまるで違う作品のように何もかもガラッと変えて賭けに出るものが多かった。それはそれで勇気あるしどこか痺れる思い切りの良さもある。その点、先日公開されて大ヒットして評判も良い『エイリアン:ロムルス』(2024)はサービスシーンやオマージュが多すぎてそこが若干批判されてたりもする。本作は大きな賭けに出た、そこは偉いが完全に賭けに負けてしまった。
大ヒットした前作『エイリアン2』(1986)から作品の雰囲気をガラッと暗くして人気キャラを殺し、果てはリプリーがエイリアン・クイーンの卵を産み付けられ、人間のネガティブ面を象徴したウェイランド・ユタニ社に奪われるのを嫌って卵もろとも消滅する……。もう(まともに)続編も作れない思い切りが良いラスト。だがはっきり言って面白くない。色々と殺伐としててニュートを解剖したりもするが、肝心のエイリアンが人間を襲う時は「人間が何かに気づく→叫ぶエイリアン→驚く人間→どこかに引きずり込まれる又は人間の悲鳴と共に画面が変わる」といった感じで70年代だった一作目『エイリアン』(1979)みたいなやり方している。『エイリアン』(1979)は最初から宇宙で怪奇映画したかったのでアレでいいが、本作ではもっとグロくしたりショッキングな感じでエイリアンの活躍を描いてほしかった。
一匹しかいないのに「フェイスハガー vs.人間」「チェストバスターで人間から出てくる」などのシーンも飛ばしてるのも勿体ない。
そもそも産まれた実家が犬だろうが牛だろうが性能一緒なのもよくわからない。
足遅いから牛が実家でいいと思う。
クライマックスは迷路のような通路でエイリアンを誘導して溶けた鉛を浴びせる。そのために囚人が挑発したり通路を閉じたりするのだが、正直どこをどう走ってるのかよくわからない。あと囚人も全員ハゲで殆ど区別がつかない(それ以前に殆どの囚人はキャラも立ってない)。
それに今回は犬(完全版では牛)に寄生した四本脚エイリアンなので、人間に寄生したものより格段に足が早そうなのだが逃げる囚人に全く追いつけないので足も早く見えない。まぁそういう感じで面白い箇所がない。
良かったところといえば前述のフィンチャーのフェティッシュな映像と工場のセット、あとリプリーが犯されそうになるピンチでレイプマンシ囚人が今から挿入するぞ~というタイミングで歯を食いしばってゴーグルを掛けるカット。ここだけ異常にノリが良く、また「数年ぶりにSEXするのに何でよく見えなくなる黒いゴーグルを掛けるのか?」と考えると凄くおかしい。この1秒間だけは素直に微笑んだ。
あとはシガニー・ウィーバーがビッグになりすぎて映画始まる時の画面に、めちゃくちゃでかいアルファベットで
「シガニー・ウィーバー」
と表示される。全盛期のシュワルツェネッガーみたいで面白かった。
また「ガラスの湯気を手で払って頭を丸めたリプリーが映る!」「安全な立場になるためか気まぐれか自由意志で医師と寝るリプリー!」「エイリアンに顔を近づけられる汗だくリプリーといういつものシーン!」「皆に指示をするリプリー!」など、前2作でリプリーは時代を代表する「戦う女性キャラ」になった上での本作なので、シガニー・ウィーバーの発言力も扱いも最上級になっているため、ちょっと特に効果があるとは思えない「リプリー様のおでましだ!」感に違和感ある。わからん、これも映画がつまらないから上滑りして見えるだけで、もし傑作だったら「さすがリプリー!さすがシガニー氏!」と称えたりラストで涙したりもできたのだろう。
全体的に殺伐とした雰囲気と映像、そしてリプリー「前作での仲間や少女は全員死んだ!私はエイリアンの子を身ごもった!そしてウェイランド・ユタニ社が来たらエイリアンを捕獲&研究して生物兵器を作って大勢の人が死ぬ!だからエイリアンを武器無しで必死に倒す!そして私は自殺する!」という「上手く行けたら安心して自殺できる!」という、あまりにも救いのない展開で何だかテンションが上がらない。バトルもつまらないし。
何とも寂しくなる。面白ければまだしも、こんなもののために主人公リプリーや人気あった仲間達を殺してどうするん?そんな決定権がお前らにあるのか、という気持ちが湧いてくる。久々に観ても。
そんでラストカットは一作目『エイリアン』(1979)ラストでリプリーが航海日誌に「私はノストロモ号の生存者リプリー……」みたいなやつの声が聞こえて終わる。
自分の自由意志を最後まで守って、ウェイランド・ユタニ社の野望は一旦足止めできはしたが何とも淋しいラスト、淋しい映画。
僕は30歳過ぎてから性格的に全く鬱っぽくなったり落ち込んだりしない性格なんだが久々に淋しい、元気ない気持ちになった。
2000年くらいまでの大作の駄作ってよくこういう感じでガッカリする映画多かったな~と懐かしくなった。配給会社の背広組のパワハラ・セクハラとかも透けて見える感じもあって、それがウェイランド・ユタニ社とダブって嫌な気分になる。
ちなみにこの直後のビショップやビショップ作者などの小説が最近邦訳されたみたい。
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そんな感じでした
〈デヴィッド・フィンチャー監督作〉
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