原題:Superheroes Decoded 〈Part.1: American Legends, Part.2: American Rebels〉
放映局:ヒストリーチャンネル 放映時間:Part.1=81分、Part.2=83分
ヒストリーチャンネルで作られたドキュメンタリー番組。
Huluで配信されてたので少し再生したら凄く面白かったので引き込まれて全部観た。
凄く良かった。
今まで番組名を見て、あまりに、ざっくりした邦題だったので適当な情報を紹介して終わりかと思ってスルーしてた。
番組の時間は限られてるので「あの話題がない、アレもない」というのは勿論ある。だけどここは情報を厳選して、アメコミ知らない人が見ても一発でわかる内容にまとめた内容を評価したい。
1938年の「スーパーマン」誕生から始まり、2013年の「Ms.MARVEL(カマラ・カーン)」誕生まで、DCとMARVELの色んなヒーローをアメリカの社会情勢とどう結びついて誕生、没落、復活、活躍してきたかを、あらゆる関係する著名人の証言と共に語られる。
証言で出てくるのはコミック関係者(スタン・リー。クリス・クレアモントとジョー・カサーダ、グラント・モリソン。ジェフ・ジョンズ。トッド・マクファーレン。「Ms.MARVEL」原作者の中東系女性作家コンビほか)、アメコミ映画&ドラマ関係者(ルッソ兄弟。パティ・ジェンキンス。ジョン・ファヴロー。リチャード・ドナーほか)、関連著作の著者やコメディアンや社会学者やアメコミ好き著名人(ゲーム・オブ・スローンズ原作者が何度も熱弁してくれる)‥など色んなアメコミ関係者&アメコミ好き著名人が語ってくれる。
ナレーションはバットマンの吹き替えをよく行っているケヴィン・コンロイ。
前・後編で合計2時間44分もあるが全く飽きずに観れた。
それぞれのヒーローの成り立ちやアメリカ社会との結びつきが、それぞれのヒーローのストーリーやキャラクター形成と如何に結びついているかがわかる。
アメコミに馴染みの薄い日本人からしてみれば「面白いかどうかと言われたら、まあ面白いけど、アメリカでは一体何でまたあんなに大ヒットしたんだ?」と思われやすいDC「ワンダーウーマン (2017)」やMCU「ブラックパンサー (2018)」が、何故あんなにアメリカ本国で大ヒットして尊敬されたのか、この番組を観れば理解できる。
面白すぎて、観ながらメモ書きしたものを推敲して張っただけで、感想というより観たまんまを書くかたちになってしまった。本編は編集などが凄く面白いので、うっかりこのページを読んでしまったとしても観て欲しい(Huluにこの動画がなかったとしても数ヶ月待てば多分また配信される)。
「アメリカ近代史と結びついてるDCとMARVELのヒーロー」だけを取り扱ってるので「ピーナッツ(スヌーピー)」や新聞漫画や風刺漫画やオルタナティブ・コミック‥などの〈ヒーローじゃないコミック〉や、ヨーロッパのコミックやバーティゴや「スポーン」を始めとするイメージコミックス、アラン・ムーア作品‥などは一切出てこない。
とにかくこの番組で出てくるのはDCとMARVELだけなのを了承して見て欲しい。
ブログで太字を多用するのは好まないのだが読みやすくするため、今回は太字を多用させていただく。
DCについての話題を青字、MARVELについての話題を赤字にした。
念の為書いておくが、これは僕がアメコミヒーローの歴史を述べているのではなく、僕がこの「アメコミ・ヒーロー大全 (2017)」という番組を書いてメモ書きしたり感想を言ってるだけなので凄く詳しい方に「そこ、違うぞ!」とか「何故もっとあのヒーローを取り上げない?」とか言われても困ります。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
パート1「誕生」
アメリカの歴史と、アメリカの神話たる正統派ヒーローを中心に語られる。
DCコミックのヒーロー‥主にスーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンのDC三人組が多く語られる。やはりこの3人は基本なのかな。
MARVELからはアメリカの歴史と密接に結びついたキャプテン・アメリカと、若者ヒーロー代表スパイダーマンの2人がDC三人組と同じかそれ以上に多く語られる。
★1930年代、アメリカの失業率は過去最大の約25%に達し貧富の格差が広がっていた。
1938年。ジェリー・シーゲル&ジョー・シャスターによって(後の)DCコミックからスーパーマン誕生。
有史以来、フィクションの英雄やヒーローは大勢いたが、一番最初に明確なスーパーパワーとキャッチーな名前とシンボリックなルックスを持った最初のヒーローが彼だ。細かい定義は知らんけど「明確なスーパーパワー」「キャッチーな名前」「シンボリックなルックス」を持ったキャラクターがスーパーヒーローという事になるらしい。
スーパーマンは悪どい官僚をこらしめた。彼の敵は「1%の富裕層」!私腹を肥やす豚どもだ。
移民が多く入って出来上がった国アメリカの国民にとって「違う惑星からの移民」であるスーパーマンは「自分たちの代表」ということなのか、80年近く経った今も、浮き沈みはあるもののアメリカのヒーロー代表といえばスーパーマンのままだ。
このスーパーマンのオリジン(誕生譚)が、まるでギリシャ神話のゼウスのように「若い国」アメリカの神話となった。
ラジオドラマ、フライシャー兄弟のアニメ映画、実写映画‥スーパーマンは絶対的な国民的ヒーローとなった。
スーパーマンに続け!とばかりに凄い数のスーパーヒーローが乱造され、そして彼らの多くは消えていった。
★続く1939年、アメリカの都会の犯罪への恐怖を反映してDCコミックからビル・フィンガー&ボブ・ケインの手によって、恐怖でもって悪者を恐れさせる闇のヒーロー、バットマン誕生!
復讐のヒーロー、バットマンはアメリカの理想を体現したスーパーマンの対極だった。スーパーパワーを持つスーパーマンとは違い、バットマンはただの人間だ。そしてバットマンの持つ武器は、知識、鍛え上げた技術、莫大な資金力、あらゆるガジェット。スーパーマン以降あらゆるヒーローが生まれては消えた中でバットマンが生き残ったのはバットマンのキャラクター性がスーパーマンと違いすぎるからだろう。
スーパーマン同様、浮き沈みはあるものの「最もクールなスーパーヒ-ロー」といえばバットマンで決まりだろう。
「この2人のヒーローはアメリカの分裂を表している」と番組は語る。
★現実世界ではコミックを超える本物の巨悪が誕生してしまう。ドイツではホロコースト(ナチスによるユダヤ人大量虐殺)が起こってしまう。
NYのタイムリーコミックス(今のMARVELコミック)のジョー・サイモンとジャック・カービーがキャプテン・アメリカを誕生させる。
超人兵士キャプテン・アメリカは、サイモンとカービーの「アメリカを戦争に参加させてヒトラーを倒したい!」という政治的な想いから生まれた。そして現実のアメリカもその願いどおり戦争に突入。
ヒトラーやナチスをぶん殴る「キャプテン・アメリカ」は米軍兵士に好んで読まれた。
★キャップの成功により、似たような戦意高揚ヒーローが生まれては消えていた。
1941年、ナチスの銃弾をも跳ね返す史上最強の女性ヒーローワンダーウーマン誕生。
強くてセクシー、だが何者にも媚びず闘い続けるワンダーウーマン。
男が戦争に行っている間、アメリカの女性たちは各工場で人手不足を補い「女性には仕事なんか出来ない」という風潮を跳ね返した。ワンダーウーマンは、そんな女性たちの権利獲得の象徴となった(その後の彼女については後述のパート2で)
★彼らヒーロー達に強い影響力がある事を悟った政府は、彼らを政治利用し戦意高揚のために利用する。
※ 「キャプテン・アメリカ:ファーストアベンジャー (2015)」の前半は、そんな様子が丸ごとフィクション化されていて素晴らしい。
かくして第二次世界大戦でスーパーヒーローはアメリカの神話となった。
しかし大戦が終わり、国内に目が向くとヒーロー達の人気は衰える。
MARVELチーフエディター「ナチスをぶん殴っていたキャップが銀行強盗をぶん殴ったところで、かつての興奮は帰ってこなかった」
彼らの人気はしばらく衰えた。しかしヒーローは時代と共に浮き沈みするものなのだ。
★終戦後、平和なアメリカでスーパーヒーロー達は暗黒期に入った。
精神科医フレデリック・ワーサムによるコミック弾圧が行われる。
ワーサム「バットマンはロビンとずっ~と一緒に居て一緒に住んで同じベッドで寝て池で同じボートに乗って月見たりして‥こいつらホモやろ!いやらしい!汚らわしい!ホモが!アメリカ全土の子供達がバットマン読んでホモになったらどうするんや?!アメリカ全国ホモ禁止!」と、思わず「じゃあ、お前がホモだろ?」と訊きたくなる勢いでギャーギャー騒ぎたてたワーサム。
このガイキチが発端となり、子供向けじゃない(とされた)コミックは弾圧された。
各出版社は生き残りのため業界による自主的な行動模範コミックス・コードを定める。
「ゲイを思わせる描写禁止!」「表紙に『犯罪』の文字禁止!」「流血禁止!」「政治家を疑う展開は禁止(なんじゃそりゃ)」
これによってバットマンの相棒ロビン、キャップの相棒バッキーなどのサイドキック(スーパーヒーローの助手のヒーローのこと)が消えた。
そもそもこの「ゲイを思わせる描写」という項目、男同士がモロに削岩機のようにファックしあってる描写なら規制されても仕方ないが「男が少年と一緒に闘う」「大人の男が少年と一緒にご飯を食べる」ってだけの描写を見て「おい!大人の男が少年と食事してるぞ!ホモ発見!許せん!」と騒ぐワーサムの方がどうかしてるのだが、どういうわけか、この時期のアメリカ全体は保守的だったようでワーサムに同調。
スーパーヒーローコミック最大のピンチが訪れた!☆
以前は反体制だったスーパーマンやバットマンも保守的でダサいキャラに改悪!
バットマンやスーパーマンが孤独じゃなくされ、ロビンなどの少年キャラが消され、女性や犬や猫や馬や猿などの動物の仲間が追加され「明るい大家族を持つ健全なヒーロー」に改悪される。
かっこよかった反体制スーパーマン、闇の騎士バットマンはもういない。
ワンダーウーマンも「こんな、強くて自立した女なんてけしからん!」と、結婚やファッションにしか興味がなく、すぐにメソメソと泣く「どこにでもいる女」って感じのキャラに改悪された。強くて何者にも媚びない素晴らしい女性ヒーロー、ワンダーウーマンは消えた‥。
こうしてヒーローコミックは自主規制を余儀なくされ、保守的でクソつまらないヒーローコミックばかりとなる(スーパーマンがピクニック行ってスーパーパワーでソーセージを焼いたりジュースを冷やしたりする地獄絵図が繰り広げられた)。
「ダサくされる」って、ヒーローにとって最もキツい状態かもね。
★MARVELコミックのスタン・リー、上司からチームもののコミックを描くよう言われてファンタスティック・フォー誕生(以降FF)。他にも色んなヒーローが生まれる(ハルク、アイアンマン、X-MEN‥これらは後編で語られる)
カウンターカルチャーの盛り上がり。
それまでスーパーヒーローといえば憧れの存在でしかなかった時代に「等身大の悩みを持った10代の少年」という今までになかった画期的なヤング・ヒーロー「あなたの親愛なる隣人」スパイダーマン誕生。
強敵との闘いよりも恋愛や私生活に悩むスパイダーマンは少年読者や若者のリアルな共感を得る事に成功した。
★60年代、コミカルでキッチュでビザールなTVドラマ「バットマン (1966~1968)」が始める。
ダークなバットマンが好きだった古参ヲタは嫌がるが、子供や一般大衆は大喜び。
★ベトナム戦争。公民権運動。揺れるアメリカ。
ブラックパンサーやファルコンなどの黒人ヒーローが誕生し、ワンダーウーマンが女性運動の象徴となる(これらについては後述のパート2で語られる)
★1972年、ウォーターゲート事件。国民のアメリカや政府への信頼が揺らいだ。
その時のキャプテン・アメリカのライター、S・エングルハートはそれまで政治的なストーリーを書いていなかったが「この件を無視して今後キャプテン・アメリカを書くことはできない」と判断し、ウォーターゲート事件にキャップを挑ませた。
「Captain America #175 (1974)」で「キャプテン・アメリカはシークレット・エンパイア(秘密の帝国)という悪の組織と闘い、黒幕を追い詰めて覆面を剥がすと‥何と、悪の黒幕はアメリカ合衆国の大統領だった(顔は描かれていないが明らかにニクソンを思わせるキャラクター)」‥というストーリー。
現実のアメリカ国民同様、キャプテン・アメリカはアメリカに失望し自我が崩壊。
「キャプテン・アメリカ」の名前と星条旗コスチュームを捨て、彼は数十年もの長期間、「ノーマッド(国を持たない男)」を名乗る。
アメリカに失望するあまり大人気キャラがトレードマークの名前とルックスを捨てるという前代未聞の出来事。
日本でいうと「仮面ライダーが最終回でラスボスを倒すと正体は安倍総理だった」みたいな感じか。
※この「アメリカそのものの内部に敵が入り込んでいた」というストーリーラインはMCUの傑作「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー (2014)」のモデルとなる。
★リチャード・ドナー監督による映画「スーパーマン (1978)」が作られて大ヒット。
カウンターカルチャーに乗り遅れていたスーパーマンの人気も復活。
国民が政府を信用できなくなっていたこの時代、人々はクリストファー・リーブ演じるスーパーマンの「世界一誠実そうで信頼できる雰囲気」に安心感を得た。
★スーパーマンの生みの親、ジェリー・シーゲル&ジョー・シャスターは、スーパーマンの権利を昔、二束三文で売ってしまっていたので「スーパーマン」のコミックや映画が大ヒットしているにも関わらず貧窮していた(富野みたい)。色々な人の働きかけでスーパーマン全ての関連作にクレジットされ、懐も名誉も潤って2人に笑顔が戻った。
★80年代。レーガン大統領。アメリカは再び楽観主義の時代に入る。
冷戦の再燃で新たな愛国心が生まれた。
久しぶりにスティーブ・ロジャースもキャプテン・アメリカに戻る。
派手で魅惑的な欲望の時代。貧富の差が広がり貧困や犯罪、暴力が増えた。
フランク・ミラーの傑作「バットマン:ダークナイト・リターンズ (1986)」が発表され、業界に衝撃走る。ダークナイト・リターンズはバットマンのみならずスーパーヒーローのコミック自体を更新した。
老年に達したブルース・ウェインが再びバットマンになり、ジョーカー等の宿敵との最後の闘い。新世代の悪党との闘い。そして体制側のスーパーマンとも闘う。街を奪還するために。
★そして、そんな「ダークナイト・リターンズ」のダークさを反映したティム・バートンの映画「バットマン (1989)」も大ヒット。
※注:「ダークナイト・リターンズ」とよく並んで語られるアラン・ムーアの「ウォッチメン (1986-1987)」もこの頃。この番組は、DCとMARVELの「キャラクター性の強いヒーロー」をメインに扱う番組のようなので「ウォッチメン」などは扱わなかったのだろう。
また天才アニメーター、ブルース・ティムが「ダークナイト・リターンズ」のようにダークで、モダンでミニマルな傑作アニメ「バットマン (1992-1995)」を制作、続けて「スーパーマン (1996-2000)」「ジャスティス・リーグ (2001-2004)」「ジャスティス・リーグ・アンリミテッド (2004-2006)」なども制作して現在まで続くDCアニメの礎となった。‥と、ブルース・ティムもこの章で語って欲しかった。
★楽観的で安心感ありすぎる感じが時代にそぐわなくなっていたスーパーマン。
そんなスーパーマンの死を描いたコミック「ザ・デス・オブ・スーパーマン (1993)」が発売。
スーパーマンの死はアメリカ全土に衝撃を与え、彼の死は現実世界のニュース番組で報道された(当時、日本でもニュースで報じられてたわ)。
‥といってもスーパーマンが生き返る事を確信してない者はいなかったと思うが‥、それでも彼が「一度でも死ぬ」ということ展開自体が衝撃だったらしい。
スーパーマンに訪れた「死」は、今まで品行方正で強すぎて緊張感がなくなっていたスーパーマンの存在自体に揺さぶりをかけ、彼の事を忘れかけていた人たちの視線を再び集めた。
★かくして時代遅れになりかかっていた古典的ヒーロー、スーパーマンとバットマン両巨頭は、80年代後半~90年代にかけて見事に「クールなヒーロー」として復活を果たし、現在まで人気が落ちることはない。
★“9.11”アメリカ同時多発テロ事件が発生、アメリカに激震走る。
キャップはコミックの中でテロリストと戦う。
テロの恐怖に怯える中、テロが行われたNYを舞台で9.11直後の時期、サム・ライミ監督の映画「スパイダーマン (2002)」公開、大ヒットする。
NYを拠点とするスパイダーマンの映画が作られたのも、9.11直後に公開されたのも、NY市民同様に傷つき悩み人助けするスパイダーマンが映画されたのも全て偶然だったが、映画「スパイダーマン」はこの時に世界中の人々が観たいものを「偶然」全て兼ね備えていた。
テロリストへの恐怖を反映したかのようなクリストファー・ノーランのダークナイト三部作 (2005~2012)が公開され大ヒットする。
恐怖や混沌を操るジョーカーを始めとする悪役に対し、バットマンが暴力で対処しても事態は全く好転しない様が描かれた。
21世紀になり善悪は以前のように単純ではなくなり、スーパーヒーローたちは複雑化した事態に臨機応変に挑んでいくことになる。
★スーパーマン原作者の一人ジェリーは17歳の時、強盗に父を殺された事がわかる。
彼は何故かその事をずっと黙っていた。スーパーマンを生んだのはアメリカではなくジェリーが父を失った個人的な悲しみからだった事がわかり、パート1は終わる‥。
そんな感じのパート1だった。スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンが多く出てくるのは想像つくが、キャプテン・アメリカへの言及がDC三人組と同じかそれ以上に多かったのが意外かつ嬉しかった(製作者にキャプヲタがいるのかもしれない)
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
パート2「反逆」
この後編では、権威や差別に服従せず、反逆精神が強いマイノリティのヒーローについて語られる。いわばDCヒーローが多く取り上げられたパート1が表、MARVEL中心のこのパート2が裏だ。
この後編ではワンダーウーマンを除いて、あとは全てMARVELヒーローの話題。
MARVELヒーローが如何にアメリカの社会や流行を敏感に作風に反映してきたか、マイノリティーのヒーローや権威に抗うヒーローが如何に多いかがよくわかる。
★学校や社会で目立たない日陰者が共感できる除け者ヒーローたち。
ヒーローと言うよりも「フランケンシュタインの怪物」などのモンスターにしか見えないハルクや「ファンタスティック・フォー」のザ・シングなど、心優しいが怪物のような異形ヒーロー。
異形ではないが「科学オタクでコミュ障で目立たない少年」スパイダーマン。
彼らに感情移入して静かに熱狂するアメリカ中の目立たないオタクや陰キャの少年達。
「氷と炎の歌(ゲーム・オブ・スローンズの原作)」の著者ジョージ・R・R・マーティン、彼は子供の頃「ファンタスティック・フォー」に感動して「面白すぎる!この面白さが半分だけだったとしても世界一面白い!」と励ましのお便りを出したら掲載され、スタン・リーから「ありがとうジョージ、これからも最高でいるよ」と誌面で返事を貰った。それがジョージ・R・R・マーティン初の印刷された文章になった。
★生まれつきスーパーパワーを持った新人類ミュータントチーム、X-MENの誕生。
X-MENは、ミュータント差別や、人類を滅ぼさんとする武闘派ミュータントと闘う。
劇中でミュータントは「自分たちに取って代わられる」と新人類を危惧する人類から激しい差別を受ける。
様々な国の人種が集ったヒーローチーム、X-MENは人種差別、多様性を描き、アラバマでの公民権運動が起きていた当時のアメリカに適合していた。
「平和主義者プロフェッサーX率いるX-MEN vs.武闘派マグニートー」の対立は、キング牧師 vs.マルコムX」の考え方の相違に似ていると指摘される。
★初の黒人コミック「オール・ニグロ・コミック」は、オール黒人スタッフ、オール黒人キャラクターという画期的な黒人コミック誌で創刊号は好評だったが「黒人が新しい文化を生み出して力を持ったらヤバい!」と危惧した差別主義者の白人たちによって印刷する紙を回して貰えず、第2号の内容は完成していたにも関わらず創刊号だけで廃刊となった。ひどない?!
それまでコミックには黒人が殆ど出てきていなかったが、スタン・リーによってMARVELコミックの脇役や背景のモブに黒人が登場し始めた。
今からすると考えられない話だが当時の黒人読者は、ただそれだけの事で「やった!台詞ないけどMARVELコミックの背景に俺たちと同じ黒人がいる!」と喜んだらしい。
そんな話を聞くと「ブラックパンサー!早く来てくれ~」と思わざるを得ない。
そんなMARVELに満を持して初の黒人ヒーロー、ブラックパンサー誕生。
アフリカの超文明国家ワカンダの王。頭脳は世界有数レベルで、たった一人で大人気白人ヒーローチームのファンタスティック・フォーの4人と互角に闘う。ワカンダという隠された超科学国家の王。何から何までクールすぎる。
彼一人が登場しただけでコミック界に多様性が生まれた。
黒人読者は「遂にコミックのヒーローに自分と似た顔を発見できた!」と熱狂。
同時期に起きた黒人民族主義運動・黒人解放闘争の団体〈ブラックパンサー党〉と混同されるのを嫌ったスタン・リーは一時期ブラック・パンサーの名称を「ブラック・レオパード」に変更するが、読者からクレームが殺到してすぐ元に戻した。
★ブラックパンサーは人気を博して定着もしたが、アメリカの黒人にとって「アフリカ超国家の王様」というのは偉すぎて少し距離があった。
そこでキャプテン・アメリカのサイドキック(相棒)としてアメリカの等身大の黒人ヒーロー、ファルコン誕生。
ファルコンはほぼ毎号、表紙とストーリーに登場。サイドキックとはいえファルコンは自分の意思で行動し、キャップとは対等の立場だった。
これには黒人読者も「キャプテン・アメリカの相棒がアメリカ黒人ヒーロー!マジで最高の気分!」と大盛り上がり。
キャップとファルコンが協力しあって悪と戦う様は「黒人と白人が協力しあえる社会」という明るい未来を感じさせた。
★泥沼のベトナム戦争に突入。アメリカの前途ある若者が毎週300人単位で死亡。
そのベトナム戦争への反発として「兵器会社の社長だったが戦争を目の当たりにして心変わり」する戦争を否定するヒーロー、アイアンマン誕生。
言わば戦争を否定するスーパーヒーローの誕生。ベトナム戦争中にこんなキャラを出すことにどれだけ勇気がいるか、想像に難くない。
★ワンダーウーマンの歴史が語られる。
原作者は、変人揃いのアメコミ原作者の中でもかなり変わった人物の一人ウィリアム・マーストン。ハーバード大学で心理学と法学を学び、ウソ発見器を発明した天才だった(そういえばWWも嘘がつけなくなる真実の投げ縄が武器ですね)。SMが好きで家には妻と愛人を同時に住まわせ二人同時に子供を産ませた。また、彼はフェミニストで男女平等を訴えており、彼はコミックに可能性を感じ、女性の共感を得るため第二次世界大戦中にワンダーウーマンを誕生させる(WWは紆余曲折ありつつも女性の強さのシンボルになり続けてるので彼の目的は成功した)
強く賢く勇気もあって優しいWWは人気を博し、戦意高揚にも利用されたが終戦後に暗黒期に入る。
★現実世界でも工場などに駆り出されていたアメリカの女性たちも「女は家にいろ!」と家庭に戻され、保守的な50年代に突入。
原作者マーストンもこの世を去っていた事もあり、現実社会とシンクロするかのようにワンダーウーマンも保守的なキャラに改悪された。
ワンダーウーマンは急に恋愛や結婚に夢中になりオシャレにうつつを抜かすようになる。更に以前は強かったのにすぐ泣くような「女らしい」キャラに変更され、特徴的なコスチュームやアマゾン族の闘い方も捨てて流行りのカンフーアクションで闘う‥という魅力が減ったクソキャラにされた‥というか、もはや全く別人のクソキャラ化した。
1960年の女性解放運動の時もWWは何もせず傍観者のまま‥。
そのままワンダーウーマンは10年以上の暗黒期を過ごす。。
★一方、現実世界。勢いを増した女性解放運動のリーダー、グロリア・スタイネム。
グロリアはDCコミックを説得し、自分が子供時代に好きだった時の強いワンダーウーマンに戻す事に成功。更に1972年、女性の力を想起させようと自ら創刊したフェミニスト雑誌「ミズ」の表紙にワンダーウーマンを起用。
グロリアは、自分が影響を受けた初期の強いワンダーウーマンのコミックを女児向けに再編集して発刊。未来のために30年前の自分のような少女読者を増やした。
※そして、その40数年後、映画「ワンダーウーマン (2017)」が公開され更に新たな少女のファンを増やした。そうして世代が繋がっていく‥
史上最強の女性ワンダーウーマンは完全に復活。
そういった経緯により、ワンダーウーマンはただの人気キャラと言うだけではなく、強い女性の象徴、フェミニズムの象徴、「男性抜きで私達は世界を変えられる」という女性たちの自信の象徴となった。
リンダ・カーター主演TVドラマ「ワンダーウーマン (1975-1979)」が大ヒット
ワンダーウーマンもまたスーパーマンやバットマンのように時代と共に浮き沈みを繰り返してアメリカと共に生きる。まるで現代アメリカの精霊のようだ。
★1964年にNYで初めて開催されたコミコン(日本で言うコミケのようなイベント)
そこからファンイベントが各地で開かれるようになりネットワークが広がる。
★60年代に人気を博したが何年か中断していたチームが1975年に復活した。
クリス・クレアモントの第2期X-MEN、プロフェッサーXやファーストファイブ等の旧キャラに加えて世界各国の様々な人種のミュータントが加入、人気を博す。
時代の怒りと混沌を表す新時代のアンチヒーロー、凶暴なチビのカナダ人ウルヴァリン誕生。これほど「ワル」のヒーローは今までになかったため彼はすぐ人気者となる。過去のトラウマに苦しむウルヴァリンはベトナム帰還兵の心情も表現していたという。
クリント・イーストウッドの「ダーティ・ハリー」が公開された頃だし、こういう不良ヒーローの先駆けだったのかも。
X-MEN初の女性リーダー、初の黒人メンバーにもなるストーム誕生。
女性であるだけでなく黒人でもある彼女は新たなフェミニズムアイコンとなる。
また「天候を操る」という強すぎる能力がクールなため、子どもたちがX-MENごっこをして遊ぶ時にもストーム役をする女の子が仲間はずれにされることがなかった。
第一期からいたX-MENファースト・ファイブの一人ジーン・グレイ。
「ジーンは優等生すぎて面白みに欠ける」と思ったクレアモントはジーンを、宇宙規模のパワーを持つMARVEL最強キャラの一人フェニックスへと変貌させた。
★混沌の70年代、品行方正なスーパーヒーローは時代遅れとなり、権力への不信感を象徴するスーパーヒーローが増える。
MARVELから再び黒人ヒーローのルーク・ケイジが誕生する。
彼は防弾の肌を持っており銃弾が効かないスーパーヒーロー。
黒人のために闘ったが凶弾に倒れたキング牧師やマルコムXなどの黒人指導者、そして治安の悪い街中でも撃たれて死ぬ黒人が多かった。
そのため、ルークは当時のアメリカ黒人たちの夢‥、
「撃たれても死なない黒人」として誕生した。
今から見ると「なんじゃこりゃ」だが、ルークのアフロヘア&ヘアバンド&腰にデカい鎖などのファッションはクールだった(らしい)。そしてルークの決め台詞「スウィート・クリスマス」も「意味わからん!かっけー!」と好評だった(らしい)
★街の治安はどんどん悪くなっていった。
映画では「ダーティハリー」や「狼よさらば」など悪人を容赦なく殺す映画がヒット。
そんな中、MARVELから悪人を捕まえるだけでなく自分自身の手で普通にブッ殺してしまうアンチヒーロー、パニッシャーが誕生。
市民の、犯罪を憎む気持ちと警察には任せておけない気分と合致して人気を博した。
★80年代。レーガンが大統領に。映画界ではシルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーなど筋肉俳優によるド派手アクションが人気に。
明るくバブリーなこの時代、国への信頼が戻り「アメリカ最強!」という脳筋時代へ突入すると、前述の色々な反体制ヒーローの人気は失速。ブラックパンサーも、しばらくの間「アベンジャーズの脇役」となる。
だがスーパーマンやバットマンやワンダーウーマン達のように人気の浮き沈みはある。
もし仮に「アイアンマンだせえw」と言っていた、この時代にタイムスリップして「約30年後にアイアンマンが一番人気になるよ」と言って信じる奴はいるだろうか?だから一時の感情でものごとの良し悪しを決めるのはやめよう。
★90年代初頭、皮肉屋で物事を斜めに見るジェネレーションXと呼ばれる世代が登場。
皮肉やジョークを飛ばし漫画のルールも破り殺人にも躊躇のないアンチヒーロー、
デッドプールが登場。
※僕が高校~20歳くらいの時。番組後半になってやっと僕の世代が出てきた。
日本では2回目?のアメコミブームが到来。「X-MEN」の邦訳やTVアニメや格ゲー、「スポーン」やそのアクションフィギュアが流行。本格的にアメコミの翻訳が始まり、それは現在まで続いている。
90年代は、X-MENやスポーンやアクションフィギュアやイメージコミックが流行し、グリム&グリッティ的な展開(やたらと陰鬱で残虐でそれでいて大して内容がない露悪的なストーリー展開)が流行った。
私見だが、それらは一過性の強い内容のない飛び道具みたいなものなので、こういったアメコミの歴史ものでは飛ばされることが多い。僕が大好きだったクリス・バチャロ画のそのものズバリなタイトルのX-MEN「ジェネレーションX」もスルーされて悲しい。だがスルーされても仕方ないくらい薄い年代だったのかもしれない。
この番組で扱った90年代は「スーパーマンとバットマンがクールに復活」「デッドプールなどのジェネレーションX」だけ一瞬出てきただけだった。確かに薄い時代だったのかもしれないがブルース・ティムのDCアニメなども含めてほしかった。
★2000年代。インターネットの普及でファン同士の交流や情報交換が進んだ。
「X-MEN (2000)」映画化。監督のブライアン・シンガーはゲイだったために、ミュータント差別をゲイ差別のように描いた。
アイスマンが勇気を出して両親に自分がミュータントである事をカミングアウトする場面では、母親が「ミュータントをやめられないの?」とアホな事を言い出す。これはゲイであることをカミングアウトしたら「‥ゲイってやめられないの?」と言い出すアホの親そのままだ。
「アイアンマン (2008)」映画化。そこから始まったMCUは「現在進行系の覇権コンテンツなので描かなくても知ってるだろ?」とばかりにサラッと話題は次に行く。
★現代。“9.11”アメリカ同時多発テロ事件以降、アメリカ国内の中東系の人々やイスラム教徒への風あたりが強かった。
MARVELのイスラム系アメリカ人の担当編集者サナ・アマナットとイスラム教に改宗した米国人女性コミックライターのG・ウィロー・ウィルソンは2013年、アメリカに住むイスラム教徒の女子高生ヒーロー、ミズ・マーベル(カマラ・カーン)が誕生。
MARVELはまたマイノリティ出身ヒーローを誕生させた。
イスラム教徒のヒーローはDCやMARVELにもいたがそれはサブキャラだったりチームの一員だった。個人でタイトルを持ったのはカマラが始めてだ。
作者はヘイトメールが山ほど届くのを恐れたが、カマラ・カーンは歓迎されベストセラーとなった。
※「今後MCUで作られそうなヒーロー最有力」のカマラは僕も大好きなので、未来を感じさせる彼女で番組が終わったのが最高だった。
★かくしてアメリカ現代史とアメコミヒーローが如何に結びついていたか、を語ったアメコミヒーロー史約80年について語った番組はここで終わる。
★★★
‥という感じで面白すぎて、番組で語られてた事をそのまま書いてしまった。
これは感想じゃないですね‥紹介?
何か色々書いてしまったがこれは目次みたいなもんで、このページを読んでしまっても番組を観た方が何十倍も面白いので観た方がいい。
様々な映画やコミックやインタビューをテンポよく編集された映像は、内容を知ってる知ってないに関わらず面白いので。
スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマン、キャプテンアメリカ、スパイダーマン、アイアンマン、ブラックパンサーなどの黒人ヒーロー、現代のミズ・マーベル‥‥それぞれの章が、彼ら彼女らの歴史そのまま。映画一本分にあたる情報量が十数個一気に叩き込まれるので面白いに決まっている。
昔からよく言われてたけど、アメコミのヒーローは、近代アメリカの神話なんだな‥とつくづく思った。
「スーパーマンで始まってカマラちゃんで終わる‥」という構成もいかしていたし。
アラン・ムーアが完全無視なのが気になるが、ムーアの場合ヒーローそのものに従事するよりフィクションそのものに従事していた印象が強いので省かれたのかもしれない。
Huluに入会してパッと見て退会すれば無料で観れるし興味持った方は観てください。
情報云々だけでなく、番組の編集自体が面白いので(僕もまた何度か観たい)
そんな感じでした
📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚📚