原題:The Visit 監督:M・ナイト・シャマラン
制作:ブラムハウス・プロダクションズ 製作国:アメリカ 上映時間:94分
感想の前に。シャマランは天才なのかアホなのか
という話題は2000年代、映画ファンの間でよくかわされた。
おかしなインド人シャマラン氏は面白いのかどうかよくわからない映画「翼のない天使」でデビューした(というか内容覚えてない)
そして「シックス・センス」でブレイクしたシャマ氏。しかし一本では判断できぬ。
続く「アンブレイカブル」。意外な映画だったがこれにはアメコミ好きの俺氏も興奮。
しかし、これで映画ばかり観る趣味を持たない一般層がかなり離れた。
続く「サイン」ではもっと離れた。作家性あるっぽいのが三本もあれば判断できる段階だろう。残った者は「我らシャマラン好きである」と新人類シャマラン:ジェネレーションへと進化した(退化かもしれない)
この三作までの時は「シャマランって天才?」という気運があった。僕が一番シャマラン好きだった時期もこの「サイン」の時でサインも凄く繰り返し観て来たるシャマラン天下に思いを馳せた。
多くのシャマラン好きによくあった事だがシャマランは過剰に叩かれる事が多く、それをいかに擁護するかも楽しかった(これを仮にシャマランゲームと名付けよう)。
このシャマランに当たるような今の監督は誰だろう?
「ドライヴ」のニコラス・ウィンディング・レフンあたりか?
続く「ヴィレッジ」。これはハッキリ言ってあまり面白くなかった。
しかしこの時期「シャマラン凄い」と思いこんでた俺はああだこうだと理由をつけては良いところを必死で探した。「中盤の、ホアキンがヒロインの手を握る瞬間を撮りたかったんだ!」という無茶苦茶な褒め方が一部で流行った。
次の「レディ・イン・ザ・ウォーター」。これはしばらくの間「サインは好きで当たり前!これを好きな者こそ真のシャマラン好き!」という「サイン」以来の物差しになった。好きな人はシャマランの純粋さ中心に褒めてた気がする。俺は全くいいと思わなかった。ここでシャマラン列車から降りた。
続く「ハプニング」。これは「サイン」っぽくて、とぼけた作品で久々に楽しかった。
人が次々と飛び降りる凄いOP。そしてその後は最後まで間抜けなシーンが続く。
風が自殺を誘う映画なのだが、終盤ではそれと一切関係なく怖いババアにビビる展開がひたすら続くのが面白かった(このババアは本作「ヴィジット」に転生した)。
マーク・ウォルバーグが造花に話しかけるシーンも笑いを呼んだが「本筋よりも脇道に逸れてばかりの‥こんな裏笑い的な事でいつまでも喜んでいていいのだろうか?」という卒業間際の学生のような不安が頭をよぎりシャマラン列車には戻らなかった。
そこそこ面白かったが、もう煌めきのシャマラン列車に戻る事はなかった。
評判を落としての雇われ仕事「エアベンダー」「アフター・アース」。
これは何があってもシャマランを応援していた中原昌也氏を始めとする僅かに残っていたシャマランファンの殆どもついに脱落した。ちなみに俺は興味なさすぎて未だに観てないし今後も観るつもりない。
この二作の間にシャマランが監督ではなく制作に徹した「デビル」という映画もある。
これは悪くなかったが、悪くないだけで別にどうって事ない映画だった。
そんな感じで自分が真にシャマラン好きだったのは初期の2000~2004年くらいの間。
そんな感じで「シャマランはアホ‥とは言わない、面白いものもあるが酷い時は凄く酷い。それをサブカル的に無理に褒めててもしょうがないから距離を取って面白いものが出てきた時だけ観ればいい」という結論に達してシャマランの事は忘れた。しかしシャマランに熱中した短い期間も、それはそれで楽しかった思い出だ。
そして本作が公開されたが観に行かなかったのだが「シャマラン復活!」という声はよく聞こえていた。。観てみると実際、面白い方のシャマ氏だった。
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「ヴィジット(2015)」
あらすじ
シングルマザーに育てられている15歳の姉と13歳の弟は、祖父母から遊びに来ないかとの誘いを受け、ママは新しい彼氏と旅行に行くので姉弟だけで祖父母の家に行って一週間泊めてもらうことにする。
優しい祖父母に2人は喜んで、楽しく過ごす。
ただ、祖父母からは「楽しい時間を過ごすこと」「好きなものは遠慮なく食べること」「夜9時半以降は部屋から絶対に出ないこと」という3つの約束を守るように言われる。
しかし夜中になると、家の中から不気味な物音が響き渡る。。
姉弟
まず姉弟のキャラがよかった(本作の中でここが一番いいところ)。
姉はドキュメンタリーを撮っており、姉弟が持つ2つのカメラ、ノートパソコンに付いているカメラ、三つのカメラでPOVっぽく映画は進む。
この姉弟の視線で映画が進むので彼女らに寄り添って感情移入して観る事ができ、ババアに怖がることも容易だ。
弟はラップが得意。
クリエイティブな趣味を持った姉弟というのが凄くフレッシュな風を吹かせてて良い感じ。
姉弟はフレッシュなだけでなく心の傷もある。フレッシュさとトラウマとの塩梅が絶妙。
姉弟の持つカメラの構図や色んなものの見せ方とか、弟が姉にズームしていく場面を始めとする各人のインタビュー映像などは相変わらず上手くて楽しかった。
祖父母
祖父母だが「絶対に地下室には行くな」とか言って最初から少し怪しい。
深夜に物音がするので姉弟はドアを開けて見ると、祖母は深夜にウロウロしてゲロを吐いてたり四つん這いで這いずり回ってたり全裸で壁を引っかいてたりしている。
それらのシーンを観てると、シャマ氏が伊藤潤二の漫画を映画化したら面白そうだと思った。
祖母はエキサイトし過ぎてスカートが破れてケツが丸出しになる。この辺の描写が絶妙に居心地悪くなる。
この祖母「昔は美人だったんだろうな」って感じの端正なルックスで、おばあさんなのにロングヘアで色気(の片鱗)が見える。それで裸になったりケツが見えたりして、その裸も割と綺麗なのも見ていて居心地が悪くなる。
見た目も醜い婆さんなら単純に「キモい!」と感情に支配されればいいだけだが、そうではない絶妙なルックスの老女優さんなので見ていて色んな思いで複雑怪奇な気分にさせられる。
祖父は、ケツが緩いらしく便をしたオムツを納屋に溜めていたりする。
どちらも老人の生理的な気持ち悪さや笑いが強調されていく。
祖父母自身は、奇行について「夜更けになるとおかしくなる病気」とか「祖父はケツが緩い」とか一つ一つ説明するので姉弟は「まあ、お年寄りだから‥」と納得はするが何か怪しいなと思う。
「祖父母をキモがってはいけない‥」と思っている姉弟の視線で映画が進んでるので否が応でも感情移入していく。
この辺は横ノリのグルーヴでじわじわ上げていく感じで面白い。
デヴィド・リンチが老人や統合失調症を面白おかしく撮るのと同種の面白さ。
「祖父母はただの認知症or統合失調症なのか?」と思わされるが、過去のシャマランのパターンを思い出し「ひょっとして善人だったというオチか?」「ひょっとして祖父母は超自然的存在と交流している人達なのかも」「それとも‥」と色んな可能性が頭の中で屈折、乱反射が繰り返される中盤までが一番面白かった。
それにしても「早く逃げろよ、、」と思った。途中までは「祖父母は具合悪いんだな」と思ったり姉のジャーナリズム精神&弟の好奇心で留まってるんだろうと理解できた。しかし俺なら、さすがにババアが包丁持って深夜訪ねて来るのを観た時点で逃げるね。。
ノートパソコンのカメラを壊す場面はいらんだろう
中盤では上記の色んな想像しながら絶妙な面白さで話が進む。
姉弟はノートパソコンで、新しい彼氏と旅行中のママとちょくちょく会話しているのだが、祖母がノートパソコンのカメラ部分に料理か何かをこぼしてカメラを壊してしまう。
これで本作の秘密が完全にわかってしまう。
このわかってしまう時が早く来すぎる!
カメラが健在でも困らないのだから絶対に壊れない方がよかった。
「ママがパソコンで祖父母と話さないのはおかしい」という事になるが、そもそも何十年も会ってない両親に子供だけ寄こす時点でおかしいのでそれは別にいい。「まだパパとママと顔を合わせる気分にならないわ‥」という事にしておけばいい。ノートパソコンでママと祖父母が話さなくても済む理由は他にもいくらでも思いつけるはず。
実際その秘密がその後明らかになった瞬間の盛り上がりもイマイチだった。
別にシャマランに対して、どんでん返しを重要視しているわけではない。
ないが、カメラでバレるのを回避するのは容易だし、ここを隠す事によっての盛り上がりがかなり期待できたのだから何とか回避してほしかった。
ついでに言うなら祖父が冒頭で「地下室に行くな」というのも言わなくてよかった。
その後は姉弟が「サイン」っぽい解決のさせ方して最期まで上手い事進む。
訪ねてきた女性が吊るされてるカットが凄い好き。あと後半ではカメラをパンする度にババアがどんどん近づいて来る場面とかも良かった(このババアは奇行してる時よりも普段の方が怖い)。オーブンで何も起きないのは完全に読んでいた。
不自然なところはいっぱいあるのだが面白いから目をつぶって楽しむ事ができた。
どっちかというと「サイン」の方が好きだが、そういう感じで本作はシャマラン映画の中でもベスト3に入る良作だった。さすがにシャマラン本人は出てこなかったな。
かといって昔みたいにシャマランに熱狂する事はもうないと思うが「シャマランの次作も観たいな」と10年ぶりに思えた。世の中、色んな事があるもんですね。
そんな感じでした
『ミスター・ガラス』(2018)/”体制を突破して個々を世界に知らしめたい”という凄く真摯な映画だった👨🏽🦱👩🦲👨🦲 - gock221B
『オールド』(2021)/シャマランにしてはキャッチーだし若さや老いの恐怖や素晴らしさを考えさせられる良作ホラー👨👩👧👦 - gock221B
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