監督&脚本:白石晃士 主題歌:聖飢魔II『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』 制作国:日本 上映時間:99分
シリーズ:「リング」シリーズと「呪怨」シリーズのクロスオーバー
映画製作会社かなんかが作った「『貞子vs伽椰子』という映画が公開される」というエイプリルフールのネタに対して白石監督が「自分が作りたい!」と乗っかって実現した企画。
「リング」も「呪怨」も、そこそこ好きだが初期のクリエイターが離れてから観てない
Jホラーじゃなくてアメリカンホラーっぽいノリ。
というか予告編が発表された時に、
予告編観た感じだけだと二か所で暴れてる貞伽椰にサブキャラがどんどん殺されていって霊媒師もやられて、安藤演ずるネオっぽい超霊媒師に辿り着いて、彼が伽椰子に呪いのビデオを見せて両者を対決させるという「フレディvsジェイソン」そっくりのストーリーに思える #貞子vs伽椰子 #白石晃士
— gock (@gock45) 2016年2月25日
‥と感じた通り「フレディvsジェイソン」のストーリーそのままだった。
具体的に言うと「有名ホラータイトルの個別の2人の最強モンスターが同じ世界観で、それぞれ別の場所で暴れているので主人公の女性キャラが2人のモンスター同士をぶつけて相打ちを狙う」というもの。
本作の宣伝で伽椰子のInstagramを作成して面白おかしい日常を投稿したり、面白動画で闘いを煽ったりして「2人は国民に愛されてるなぁ」とは思ったのだが同時に「二人とも怖くもなんともないキャラになっちゃったんだな」と寂しい気持ちにもなった。つまり盛りを過ぎたキャラなんだなって。
ネタバレあり
Story
女子大生の有里(山本美月)は「観たら2日後に必ず死ぬ」という〈呪いのビデオ〉を見てしまった親友の夏美を救おうと奔走し、強力な霊能者・経蔵(安藤政信)と強い霊感を持つ盲目の少女・珠緒による霊能者コンビと出会う。
一方、女子高生の鈴花(玉城ティナ)は「足を踏み入れると必ず死ぬ」と言われている〈呪いの家〉に足を踏み入れてしまい呪われてしまった。
そんな強力な2つの呪いを解くために経蔵が企てた秘策は「貞子と伽椰子を殺し合わせる」という作戦だったが――
流れ作業的な序盤
ちなみに「リング」シリーズ世界と「呪怨」シリーズの世界は繋がっていないので、本作は本作だけの独自のユニバース。本作に出てくる「呪いのビデオ」と「入ると死ぬ家」は「都市伝説の実体化」みたいな曖昧なオリジナルの呪い。
本作での「貞子」と「伽椰子と俊雄」などの悪霊の存在は、我々の世界でいうと「口裂け女」や「トイレの花子さん」のようものらしい。
だから、本作の世界に「山村貞子の過去」や「佐伯家の過去」等の設定は特になく、彼女らは「ただ単に有名な強い悪霊」というだけの存在。本作だけの貞子と伽椰子の設定を新しく語り直してる時間はないからこれでいい。
終盤、「リング」でお馴染みの井戸も出て来るが、この井戸の説明もなく「貞子といえば井戸っしょ」って感じのサービス井戸。
本作の序盤では、山本美月演じる主人公が関わる「呪いのビデオ」事件と、玉城ティナが関わる「入ると死ぬ家」事件。これが同時進行で描かれてやがて結びつく。
山本美月は最初から最後まで凄く強いキャラで、友人を助けるために二日後に死ぬ呪いに自らかかったり、世界を救うために何の葛藤もなく即、死を決断して実行したりする。
「フレディvsジェイソン」のヒロインも異常に強い女子だったが作劇の都合上、2人のモンスターと渡り合うには結果的に、聖人や英雄レベルの強いメンタルのキャラになってしまうのだろう。
物語の発端として、山本美月演じる主人公の友達がリサイクルショップで買った古いビデオデッキに入っていた呪いのビデオをつい観てしまう。
ちなみにこの時、山本美月は「スマホに夢中なので呪いのビデオを見逃したので呪いにかからない」というギャグで、現代ならではの呪いのビデオの脆弱性が浮き彫りになった。
確かに昭和は娯楽が少ないのでビデオが再生されたらつい観てしまう。だけど現代では古いビデオテープじゃなくても楽しいものがいっぱいあるのだ。貞子の呪いも新メディアにあわせてアップデートしなくちゃダメだな?
そしてビデオを観た友人は2日後に死んだ。作劇の都合上、死ぬまでの猶予が短い。
一方、玉城ティナは「死んだら死ぬ家」の近所に引っ越してくる。
近所の小学生たち数人が家に入ってしまうが、俊雄に皆殺しにされる(この中のいじめられっ子が玉城ティナと心を通わせそうだったので最後助け出すのかと思ったがそんな事はなかった)。そして玉城ティナも足を踏み入れてしまい家の呪いにかかる。
‥みたいな二つの怪異が起きるが正直あまりにも怖くなさすぎる。
何だか「二つの呪いのルール説明やサダカヤお決まりのあれこれを、ちゃっちゃと済ませときます」って感じで、やっつけ仕事の様に描かれる。
貞子などもシュバッ!というSEと共にショボいCGで現れる瞬間をわざわざ見せたりして最初から最後まで怖くない。
俊雄もオリジナルはめちゃくちゃ可愛い幼児だったのに、本作の俊雄は精通が済んだくらいの12歳くらいの妙にデカい子がやっていて気持ちが悪い。アップになったら舌をピチャピチャさせたり終盤では貞子に対してビビった顔したりしてるなど人間らしさが多いため幽霊に見えず白塗りした子役にしか見えない。
貞子や伽耶子も、小劇団系の達者な美人女優が頑張って演技してる感じだった。
「こんなに怖くないのは金がないせいか?」と思ったが白石監督はいつも金なくても上手く映画を撮るのでそれはない。
恐らく監督はホラーは好きだが「リング」や「呪怨」などのシリーズに全然興味ないんだなと思った。
実際、監督のインタビューを読んだら「Jホラーあまり観ない。わかりやすいアメリカンホラーみたいにしたかった」と言っていた。
確かに怖いJホラー表現を殆ど使ってなかったし、中盤以降はアメリカンホラーみたいな展開になっていく、そして中盤以降の方が楽しい。
だけどこの前半は中盤以降へのフリとしてJホラー表現をふんだんに使って普通に怖くしてほしかった。
この映画自体も充分「面白い邦画」という範疇だし他のよくわからない監督が撮るより絶対面白かったとは思うが、個人的に期待してたJホラー的な表現や「リング」や「呪怨」などの要素があまりに薄くてガッカリした。
また貞子がスマホやYOUTUBEから出てくる?とか、現代に貞子がいたら?みたいな色んな現代版アレンジの想像をしてたが、そういう場面も全然なかった。
そういえば、山本美月と呪いのビデオを観たその友達は、「貞子」を追い求めている大学の教授に相談する。
この教授は異常にキャラが立っていた。話がわかる変わり者って感じで好感度が高い。
正直言って、後から出てくるヒーローの経蔵&珠緒より、この教授の方が面白い。
個人的には経蔵&珠緒は居なくていいので、この教授が経蔵の役割をして欲しかった。
教授は貞子が大好きらしく「貞子に会えるなら2日後に死んでもいいよ!」と言い放ち、DVDにコピーしながら喜々として呪いのビデオを鑑賞、貞子の呪いキャリアとなる。
疑ったりせず、すぐに二人を信じて喜々として呪いに巻き込まれてくれるので映画の加速度が増し、どんどん面白くなった。
三人は霊能者のオバハンのところに行く。このオバハンはもちろん白石作品によく出てくる「見た目は凄そうだが霊にあっさり負けるベテラン霊能者」キャラだ。
「お祓い」で呪いのビデオを観た山本美月の友達に、水をぶっかけ水をアホほど飲ませ、ビンタ!この繰り返し‥我慢大会のようなお祓いが面白すぎる。
ちなみに教授は「貞子に会いたい」という理由で、お祓いは受けないスタイル。
この男、ただものではない。
しかし次の瞬間、山本美月の友達に貞子が憑依、霊能者一派を全滅させる。
ついでに頭突きで教授も殺害。
お気に入りの教授が~!
その瞬間、何故か教授の顔がめちゃくちゃになるという謎の演出(なんじゃこりゃ)
教授も「ちょ!貞子!?貞子は?!」と疑問を叫びつつ絶命してしまう。
なんだよ。教授が貞子に会った時のリアクションや台詞とか超楽しみにしてたのに‥。
すぐ殺すんなら、こんなに面白いキャラにして期待させずに普通のオッサンにしといてよ。‥期待させてそれを取り上げるような真似するなよ!
それとも「貞子に会いたがってるという教授の願いが叶う前に死ぬ」という意地悪ギャグだったのだろうか?
ちなみに山本美月は友人の呪いを自分に移そうと呪いのビデオを観るが、旧「リング」シリーズの「他人に見せれば自分の呪いはそちらに移行して助かる」という設定は、本作においては只の都市伝説だった。だから友人の呪いも解けず山本美月も呪いにかかってしまった。
これは旧「リング」の設定を逆手に取った上手いやり方だった。
中盤。経蔵と珠緒
オバハン霊能者は既に自分より強力な霊能者、経蔵&珠緒を現場に急行させていた。
経蔵は白石監督の「カルト」の人気キャラ〈ネオ〉とほぼ同じキャラ。
アニメキャラっぽい言動や霊能力が強いところ、登場の経緯や性格も同じ。強キャラだ
貞子や伽椰子を目の当たりにしてもビビらないし、貞子や伽椰子を倒せるほどの強さではないが何とか逃げる事くらいは出来る。「リング」「呪怨」世界においては貞子や伽椰子は我々の世界で言えば「死」そのものクラスの絶対的な存在なので「彼女たちを観てビビらない」というだけでも相当な猛者だし、ましてや「少しくらいは対抗できる」に至っては人類最高レベルと言える。
珠緒は盲目の少女で「何でも見通せる」キャラだ。彼女もまた霊にビビらない強キャラ
彼女は「何でも見通せるし、それが全部真実」なので、彼女が発言するだけであらゆる映画説明や展開をすっ飛ばして物語を進めることができる便利なキャラだ。
彼女のお陰で劇中で本来必要だったであろう数十分くらいの展開や説明が処理された。
白石監督映画は いつも制作資金が足りない分を埋めつつ、いつも面白いアイデアを捻り出す能力に優れている。
この非現実的な「無愛想イケメン&盲目幼女」という深夜アニメキャラっぽい組み合わせは、2人の色んな過去を想像させてくれる。
経蔵は貞子や伽椰子の事も既に知っている。彼には秘策があった。
「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ。」
と、白石監督ファンのニコ生ユーザーが大喜びしそうな台詞を放つ。
「フレディvsジェイソン」と同じ流れだ。
そんな面白いコンビなのだが、さすがに貞子や伽椰子を倒すわけにはいかんので終盤で急に弱体化する。また、貞子と伽椰子に僅かでも対抗できる力を持つ経蔵が生き残って終わったら「頑張れば貞子と伽椰子倒せるんじゃね」→「貞子と伽椰子たいしたことないんじゃね」という印象になってしまうのを避けるためか経蔵はあっさり絶命する。そして、何時の間にか珠緒も貞子と伽椰子に普通にビビる普通の女の子キャラに成り下がって終わる。残念だが仕方ないね。
安藤政信よりも有名じゃない俳優が演じていたネオが、貞子と伽椰子に対峙しても恐らく同じ様に敗北しただろう。
逆に、白石監督の企画‥たとえばコワすぎ!シリーズなどの白石作品に貞子と伽椰子‥の様なキャラが出てきて工藤や経蔵やネオなどの霊能者がそれを倒す展開は十分ありうるが、本作のような「リング」「呪怨」ユニバースで貞子と伽椰子を倒すという事はあり得ない(ネームバリューの差)。
そんな事はわかってるのだが経蔵の敗北にガッカリする。
だが、そんな風に経蔵&玉緒コンビを活躍させることが出来ないのではあれば経蔵は最初から必要なかったかもしれない。
いや、便利キャラの珠緒は残しといて、珠緒の指示で主人公の女子ふたりが事件解決にあたれば良かったのではないか(ついでに個人的に好きな貞子大好き教授も‥)
だけどTwitterでは二人はやはり人気だったようだしファンアートがたくさん描かれて盛り上がってたから成功なんだろう。
終盤。貞子vs伽椰子
山本美月の友人は絶望して、教授がダビングした呪いの映像をネットに解き放ってしまった。主人公たちは自分の呪いを解くだけではなく、貞子を消滅させなければ世界滅亡してしまう事になってしまった。
更に、呪いで死にたくない彼女は自殺しようとするが、その瞬間、貞子が現れて速攻の呪殺を行い、山本美月の友人は即死した。
貞子は「呪いの成就を邪魔されると速攻で殺しに来る」という事がわかった。
お祓いの儀式の時も呪いが解除されかねないから邪魔しに来たのだ。貞子は人をただ殺したいわけではなく、自分の呪いで殺したいのだ。だから「呪いにかかった者の自殺」イコール「呪いの邪魔」でしかない。
そして玉城ティナは「入ると死ぬ家」に入りこんでしまい家の呪いに感染。
そして経蔵は二つの呪いをぶつけて対消滅させる事にした。
山本美月は「貞子の呪い」が発動する時間に「入れば死ぬ家」に居れば、呪殺するために現れた貞子が伽椰子と鉢合わせになるだろうという計算。ロジカルだね。
そして山本美月と逆で「入れば死ぬ家の呪い」にかかった玉城ティナもまた、山本美月と同行して「入れば死ぬ家」の中で呪いのビデオを見れば、呪い同士が鉢合わせになって、やはり貞子VS伽椰子状態になるだろう、という二段構えの青写真。
実際にどうなったか‥というと対消滅せず!失敗!
何故なら、お互い不死身すぎて、いくら殺し合ってもすぐに復活してしまう。
メタ的に言うなら、どちらも日本映画がゴジラレベルで世界に誇る人気キャラなので、こんなところで消えるわけがない。
千日戦い続けても決着がつかない膠着状態となった。
ちなみに俊雄は伽椰子ほどの大悪霊ではなかったみたいで前菜代わりに、さくっと貞子にやられた。
【2人の攻撃方法】
貞子
呪い:ビデオを観た人間に憑りついて二日後に殺す。邪魔する奴を操る
攻撃1:伸縮自在の髪を操る。髪を敵の体内に無限に入れて破裂させる
攻撃2:TVの中の貞子空間に引きずり込む
攻撃3:目を合わせて支配、もしくは速攻の呪殺する伽椰子
呪い:家に入って来た人間を殺す。本作では家の外には出れないっぽい
攻撃:どこからか現れて引きずり込んで、しまっちゃう攻撃。
一体どこにしまっちゃってるのかはわからないが、とりあえず画面外に引きずり込んでしまっちゃう(俊雄も同じ攻撃方法)
こうしてまとめると伽耶子は神の様に強い原作より遥かに弱くされている。
そして貞子の攻撃方法は多彩になった印象。
二人の戦いは、金が無いから小規模だが主人公たちという観客の前で、モンスタープロレスを演じてくれて楽しかった。
恐ろしくもあるのだが、女子同士による髪の引っ張り合いとか引っかき合い的な小競り合い感も感じられて可愛いさも感じた。
しかし両者ともに不死身なために決着がつかない。そしてラストに。。
個人的には白石作品によく出てくる異界が開いてそこに行っちゃったり、平行世界のオリジナルの貞子伽椰子が出てきたりするという規模のデカいものを想像してたが、そんな事は一切なく普通のアメリカンホラーっぽい感じで終わった。
どうせなら「サダカヤになって世界がもっととんでもない事になった」という光景を具体的に見たかった。
サダカヤを演じてるのは誰なんだろう?やっぱり依り代になった山本美月なのかな?
基本的には面白い映画だったのだが、不満はやっぱり序盤の怖くなさ。そして「リング」「呪怨」シリーズへの興味の無さダダ漏れなところか。
そして貞子と伽耶子は、本家の怖くて強い彼女達らしさがなかった。
貞子x伽耶子x白石監督という組み合わせは、物凄い映画になるであろう事を勝手に期待していたが、蓋を開けるとただ貞子と伽椰子で低予算の「フレディvsジェイソン」をやっただけだった。
続編は多分ないだろうが、特に要らない気もする
そういえばエンディングテーマが良かったので、聖飢魔IIのシングルを小学生の時ぶりに買いました。
そんな感じでした
〈『リング』シリーズや『呪怨』シリーズ〉
『呪怨:呪いの家』(2020) 全6話/ソーシャルホラーの側面を強めて換骨奪胎した名作だった。あと可哀想な聖美の最期が本当に素晴らしくて心打たれた🏠 - gock221B
『貞子DX』(2022)/貞子の呪い(リングウイルス)を『イット・フォローズ』風に描いた一作目同様のミステリーで『リング』一作目の現代リメイク?貞子は全日本人と暮らしていく📼 - gock221B
『貞子3D』(2012)、『貞子3D2』(2013)/石原さとみ25歳が貞子モンスターを物理的にブッ殺して美少女・橋本愛16歳演じる貞子が出てくる一個目は良かったが続編は、そこそこ楽しんだ一個目を忘れたくなる種類のクソつまらなさでしたね👩🏻 - gock221B
〈白石晃士監督作〉
『鬼談百景』(2015-2016)全10話/『赤い女』が一番よかった - gock221B
『オカルトの森にようこそ THE MOVIE』(2022)/ファンサービスに徹した白石ホラーBESTプレイリストみたいな内容で楽しかったが、あまりに全てが分かり易すぎると少し物足りなくなるのが映画ファンという人種🌳 - gock221B
『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』(2023)/シリーズの集大成で既視感ある描写やキャラの数々。そして男の有害性に対峙する工藤に不思議な感動があり、このシリーズはもうこれで終わりでいいかも🏏 - gock221B
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