gock221B

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「生きる(1952)」黒澤明/初めて観たが、泣けるとか感動というよりも面白くて活気のある映画って感じだった

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監督:黒澤明 上映時間:143分

記事とかで「黒澤明の最高傑作は?」みたいなところでは大抵「七人の侍」か本作が載ってるが、まだ「生きる」観た事なかったので観る事にした。
そこまで称賛されてるからには面白い事は間違いないのはわかってたが、如何にもアッパーっぽい他の作品と違って本作は「市役所で働くオッサンが余命僅かになって公園を作るという仕事を果たしてブランコ乗って歌いながら死ぬ」というストーリーだって事はボンヤリ知っていて、何か観たら寂しい気持ちになりそうで食指が湧かずにいた。

前半
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映画が始まると市役所の市民課長である主人公(志村僑)の胃のレントゲン写真が写り、ナレーションが語りだす

これはこの物語の主人公の胃袋である。
幽門部に胃ガンの兆候が見えるが、本人はまだそれを知らない

 次に、市役所の市民課でやる気なさげにハンコを押す主人公(志村僑)が映る

これがこの物語の主人公である。
しかし今この男について語るのは退屈なだけだ。
何故なら彼は時間を潰しているだけだからだ。彼には生きた時間がない。
つまり彼は生きているとは言えないからである。

だめだ!
これでは話にならない。これでは死骸も同然だ。

いや、実際この男は20年ほど前から死んでしまったのである。
その以前には少しは生きていた。少しは仕事をしようとした事もある。
しかし今やそういう意欲や情熱は少しもない。
そんなものは役所の煩雑すぎる機構と、それが生み出す無意味な忙しさの中で、全く磨り減らしてしまったのである。
忙しい。全く忙しい。
しかしこの男は本当は何もしていない。
この椅子を守る事以外は。
そしてこの世界では地位を守るためには何もしないのが一番いいのだ。
しかし一体これでいいのか。。一体これでいいのか!
この男が本気でそれを考え出すためには、この男の胃がもっと悪くなり、
そしてもっと無駄な時間が積み上げられる必要がある。。

このナレーション、、あまりにもキレキレである
窓口には主婦たちが来ており、下水を埋め立てて公園にしてくれと言って来ている。
役所は正にお役所仕事って感じで、主婦達を受け付けてる市民課が言う「ああ、それなら土木課へどうぞ」から始まり
市民課→土木課→公園課→保健所→衛生課→環境衛生課→予防課→防疫課→虫疫課→下水課→道路課→都市計画部→区画整理課→消防署?→児童福祉係→市会議員→助役→‥
という凄まじい大たらい回し大会が軽快な音楽乗せて回される‥ここが圧巻!
そして助役は「市民課へどうぞ
振り出しに戻った。
主婦たちを最初に応対した受付の男は主婦たちのことをすっかり忘れ、また最初の時のように「土木課へどうぞ」と言い、カメラが回り込んで主婦たちの顔が最初の時以来ひさびさに映る。
そして主婦たちが遂にブチギレて怒号が飛び交う!(俺なら3つめくらいでキレそう)
カットが変わり後日、志村喬は市役所を欠勤し病院にいた。
どうやら胃の腫瘍に気付いたようだ。
待合室で、胃癌の兆候にやたら詳しいオッサンがいて胃癌について語りまくる。
志村喬は胃癌ヲタから そっ‥と離れる、しかしその志村喬スリップストリームのようにピッタリついてきて胃癌について喋りまくる悪魔のような胃癌ニキ
凄い可笑しい。
絶望のあまり、帰宅して電気も点けずにうずくまってる志村喬の様子がヤバい
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というか迫力ありすぎてむしろ笑ってしまう。
親父がこんなになってても息子みつお(金子信雄)は「あ、いたんですか」とか言ってる!絶対何かあったと思って何か訊けよ
もっと辛気臭い映画かと思ってたが、いざ観たら軽快で面白い映画だった。
‥という、この前半が面白すぎて完全に心を掴まれた。

 

中盤
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志村喬は余命僅かだと確信して、この日から仕事を休み居酒屋で酒を飲む。
そこで知り合った漫才コンビ二丁拳銃の小堀みたいな痩せフランケン面の小説家メフィスト伊藤雄之助)と出会う。
遊びを知らない志村喬は彼に頼んで、パチンコ屋やスナックやストリップやナイトクラブなど色んな店に連れてってもらう。
途中、ホステスだか売春婦だかよくわからん夜の女に真面目帽子を取られてしまい、派手なオサレ帽子をゲットする志村喬(これはまるで童貞を喪失したかのような描写だった)
ここは妙に鏡を多用したシーンが多いのは「全てまやかし」的な意味?
この映画を現代版リメイクするなら、巨大ナイトクラブのシーンなどは新木場AGEHAサイバージャパンダンサーズとかポールダンサーを観るシーンになるのかな?
色々遊ぶが最終的には絶望的な顔になる。心の隙間を埋められなかったようだ。
次に、市役所を辞めた元部下の女の子とデートする。
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この子は幼女とオバハンを合体させたような雰囲気の元気で魅力的な女の子。
この世界の市役所は死の世界なので、活気あるこの子はさっさと抜けたんだろう。
この子が市役所の面々に付けた あだ名がどれも面白くて(「ハエ取り紙」「糸こんにゃく」とか)がウケた。特に「どぶ板」とか名付けられた日には落ち込むしかない。
息子みつおに何度か、胃癌を告白しようとするがその度に、みつおに絶望して伝えられない(本当に断絶しきっているのではなく、そこまでの人生で風通しの良い関係性を作ってなかったのですれ違いが多いというだけ)
女子からヒントを貰い、志村喬は映画冒頭でオバハン達が訴えていた公園作りを決意する。
ここで近くの席の女学生たちが学友にバースデイソングを歌うのだが、構図的にはまるで本当の意味で誕生した志村喬に向かって歌っているように見える。
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後半
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後半、志村喬がやっとやる気を出した次のカットではもう既に葬式している。
そこで親族や市役所の人達などが、志村喬最後の五ヶ月間について断片的に語って主人公が何を考えていたかどういう状態だったかなどが彼らの中で補完されていく。
この葬式のメンツや演技が当然凄いのだが、それより黒澤明の映画は、後半で登場人物が台詞で思ったことを分かり易い演技とともに全部言いまくる事が多くて本作の葬式もそうで正直、個人的にはあまり好きじゃない。
「いや、言わなくてもわかりますよ‥」という事を全部わかりやすく言われてしまうと自分のようなひねくれ者は覚めてしまう部分がある。
分かり易いからこそ世界的で大衆的な映画監督なのかもしれないし一長一短なんでしょうね。。
だけど志村喬がやるべき事を悟った瞬間に死んで後から回想で振り返る、という流れ自体はいいなと思った。
そして何か良い事をしようとする人は物凄く少なくて、その良い事がたとえ些細な事でもとんでもなく面倒な長い道のりでしか進まず、またその結果は世界を好転させずしかしほんの僅かの人の心には残る(かもしれない)という事を喉元までパンパンに詰めてくる感じがあった。
そしてブランコで感動のラストじゃなくて、皮肉な場面→パンドラの箱の底の小さな希望的なシーンで終わるとは思わなかったのでそれも驚いた。
当然のことながら自分の父親や自分についても多々思うことあったが、そういう個人的な事は他人に言う事でもないので書きませんが‥

 

でもやっぱ面白かった。
というかストーリーよりも志村喬の魅力がとにかく凄かった。
パワーありすぎてとてもじゃないが死ぬ寸前の人には見えなかった。
回想での末期状態も命の灯火が消えかかってる老人というよりは、凄い溢れるパワーでもって死の崖に全力で突っ込んでってるオッサンって感じの迫力。
開きっぱなしの瞳孔と顔面の迫力がもうとにかく凄かった。
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特にヤクザに「命がいらねえのか!」と凄まれても、本当に要らないのでニヤ~‥と不気味な笑みを浮かべるシーンはあまりにも気持ち悪かったしカッコよかった
こんな迫力を持って生きたいと思えた。

 

そんな感じでした
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