gock221B

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『パラサイト 半地下の家族』(2019)/想像通りの事が起きるが常に少しその上を行き続けるのが良かったです🏠

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原題:기생충 監督&脚本:ポン・ジュノ 製作国:韓国 上映時間:132分

 

 

 

ポン・ジュノ監督の物凄い大ファンってほどじゃないけど普通に好きです(というかいま映画好きな人でポン監督を好きじゃない人って滅多に居ないと思う)。短編とかは観てないけど長編映画は全部観てます(6本しかないが)。去年、真犯人が見つかったことが話題の「殺人の追憶 (2003)」も公開時に観に行きラストでスクリーンのソン・ガンホ氏に睨まれました。好きな監督作は‥「母なる証明 (2009)」が一番感動したタイトルで、一番何回も楽しんだのは「グエムル-漢江の怪物- (2006)」です。
10年代のポン・ジュノは、アメリカで映画製作して四苦八苦していた印象だった。
ポン監督のアメリカ映画である「スノーピアサー (2013)」も「オクジャ / okja (2017)」も、ポン氏の映画だけあって勿論ある一定以上の面白さはあったのだが「何か韓国映画の時ほど面白くないなぁ‥」と思っていた。似たような事はパク・チャヌクとかナ・ホンジンとか、あと韓国映画監督じゃないけどアメリカで上手くいかずとうとう一本も撮れずに香港に戻ったチャウ・シンチー等にも感じてて「アジア人がアメリカ映画製作するのは勝手が違うから難しいんだろうな」と思ってたが、ポン氏も10年ぶりに韓国に戻って国内向けに韓国映画作ったらカンヌ国際映画祭パルムドール獲ったりアカデミー賞に6つもノミネートし、韓国ならではの文化やディティールの描写が多いのに欧米でも大ヒットし、ポン氏やガンホ氏だけでなく、ポン氏の通訳ネキまで人気者になる始末(彼女は映画監督を目指すシャロン・チョイさんという若い女性だそうです)、そんな不思議な現象。という華やかな結果になり「やっぱり欧米では寄せにきたものより国の特色を出したものの方が観たいんだな」と思った。「江南スタイル」のヒットとか、西洋的美形アジア人俳優よりも目が細かったりツリ目のアジア人俳優の方がウケが良かったりするのと似たような感じか。
そんで、こういう流れだと文化鎖国ガラパゴス日本でだけヒットしない‥というのが定番の流れだが本作は日本でも大ヒットしたので凄く驚いた。まぁオッサンや年寄りはアカデミー賞ノミネートしたら急に観に行くからそれはわかるけど、若者が口コミで観に行ってるらしい。暗いニュースばかりだが本作のそういった話題は明るい話だね。アメリカでポン氏とガンホ氏がウケてはしゃぐ映像がTwitterでよく回って来て笑顔になった。アカデミー賞では作品賞か監督賞のどっちか獲って欲しい!他のノミネート作品や監督も好きな人ばかりだが、もう既に有名な奴らばかりなので今回はポン氏だけ集中して応援している。タイカ氏やグレタ・ガーウィグも応援してるけど若いからまだ獲れんだろうし今獲ったら今後しんどいからまだ獲らんでいいい。つまり絶対この映画が獲って欲しい!
近年同時多発的に公開されて話題になってる「万引き家族 (2018)」「アス (2019)」「ジョーカー (2019)」などの貧富格差映画の一本と言える。
以下の感想は後半にいくとネタバレが混じってくるので、まだ映画観てない人は途中で読むのやめた方がいい。映画の感想だけ書くので、劇中に出てくる半地下住宅とか台湾カステラとかジャージャー麺(チャパグリ)については各自ググってください。

 

🏠

 

韓国の貧困な者たちが住んでいるという汚い半地下住宅。
そこに住む主人公・浪人生の青年ギウ、その器用な妹、無職の父親(ソン・ガンホ)、元ハンマー投げの選手だった母親の四人家族は低所得の内職で何とか半地下生活を送っていた。
主人公ギウは、憧れの幼馴染に「自分は海外留学に行くから、自分の代わりにお前がお金持ちパク家の高校生の娘の家庭教師してくれ」とギウに頼む。
学生証を偽造し、お金持ちの家庭教師として潜り込む事に成功したギウ。
パク家の夫婦は、信頼する人の紹介なら割と何でも信用する事に気付いたギウは、妹をパク家の幼い長男の美術教師兼カウンセラーとして、父をパク家の夫のベンツ運転手として、そしてギウ達はオーシャンズ11並のあざやかな段取りで、元々居た家政婦を追い出し自分たちの母を高級派遣ハンドメイドとして潜り込ませることに成功。
ピザの宅配の箱作りの内職をして糊口をしのいでいた半地下一家だったが、今や全員がお金持ちに高級で雇われる事に成功した。
‥というのが前半第一幕までの話。
ここまでのストーリーやコメディタッチの展開は、割と平凡アメリカンコメディとかイキった邦画とか日本ドラマでよくありそうな流れなので正直どうでもいい。ただポン氏なので手並みの流麗さ美しい映像が半端じゃなく、この前半はポン氏の手腕を遺憾なく味わえる。ナレーションと共に一つの画面に複数の情報が流れるように同時進行して結び付き合い‥そして分離してまた結びつく‥といった感じでうっとりさせられる。
「こんなにコミュニケーションや活気や技術に優れてるなら何らかの方法で金を稼げるのでは?」という気がしなくもないが、まぁ本作は「半地下一家が金持ち一家にパラサイトする」ことによって格差社会を戯画化して描いたものなのでそういう細かい事にツッコむのはアホみたいなので素直に楽しんだ方がいい。
そして本作が他の高評価映画と違って優れてるところは「映画あまり観ない人でも凄く楽しめる、映画好きならもっと楽しめる」というところだと思った。
またよくあるフィクションなら金持ち一家は悪者として描かれがちだが本作の金持ち一家は別に悪人ではない。

 

 

 

半地下の家族は全員、映画のストーリー同様に一目瞭然のわかりやすいキャラと感情なので特に言うことはない。強いて言うなら主人公が「憧れの友達から貰って固執している石」が延々と象徴的に画面に出てくるのだが、凄く相反する色んなものの象徴のように見えてわかりにくいので観てるうちにどうでもよくなった。なんか実は深い意味があるのかもしれないが、自分はあの石に特に興味もないので「作品に深みを与えるためのアイテム」と捉えた(「2001年宇宙の旅」でナレーションをカットして深読みさせたような効果を作るための物体なんちゃうか?)。※具体的に石が何なのか後でわかったので一番下に追記しておく
運転手として潜り込んだソン・ガンホ演じる半地下父さんは、金持ち父さんに立ち入った質問(奥さんを愛してますね?)、金持ち奥さんへの肉体的コミュニケーション(握手)を図るが共にスルーされる。普通の映画だったらこれで金持ち父さんの心の中に入ったり金持ち奥さんとSEXしたりしがちな展開だが半地下父さんはそれが出来なかった。なぜなら「半地下の臭い匂い」が染み付いており拒絶されたから。この事はラストにまで影響する事で、この拒絶によって本作は過去に作られた凡百の格差映画とは違う展開が繰り広げられることになる。
一方の金持ち一家。
イキってるように見えるが恐らく生まれつきそうなんだろうなって感じの父親、邦画リメイクしたら中谷美紀が演じそうな世間知らずの美人妻、純真無垢な娘、無邪気な幼い弟などだが、彼らは半地下家庭に比べるとかなり解像度が荒いキャラクターとして描かれている。特に夫婦は凄く単純な性格をしており「ゲームに出てくるNPC(村人などプレイヤーじゃなくてコンピューターが動かしている簡単なキャラクター)よりほんの僅かに賢いだけ」ってくらいの印象。
この映画は半地下家族の視点で描かれてるし、だからその感じは「俺らから見たら富裕層はこういう人間味のない感じに見える」っていうニュアンスの描写なんだろうな、と受け取った。
そして金持ち一家は単純に見えるだけではなくリアクションもデカくて非常にマンガっぽい。半地下家族が現代の青年漫画のキャラクターだとしたら金持ち夫婦は昭和のギャグ漫画のキャラクターみたいに描かれている。彼らは半地下一家が放つ貧困の匂い「半地下臭さ」に「おわぁ‥」と思い切り顔をしかめて窓を開けたり、半地下父と握手しながら「手洗った?」などと無邪気に訊いてきたりする。幾ら何でもそういったセンシティブで失礼な事は、金持ちほど言わないものだと思うが、それらもまた富裕層が悪気なく生まれつき持っている「差別的な感情」をディフォルメして描いている。だからリアクションでかいんだろう。
悪人ではない金持ち一家の中でも金持ち父さんはイキってる喋り方だしナチュラルボーン男尊女卑っぽいし、比較的、悪人っぽいキャラに見えがちだが実のところ、この金持ち父さんも別に悪人というわけでもなく、至って普通の人物なんだろうなと思った。
「韓国の上流社会に適合して登っていくと自然とこんな感じの若干、男尊女卑気味のイキった感じの男になってしまっただけで、この男の本質は普通の平凡な男だ」という事が言いたいのかもなと思った。
この金持ち父さんの単純なキャラクターだが唯一、半地下父さんに「奥さんを愛してらっしゃる?」と立ち入った質問を笑顔でスルーする時だけ、普段とは違う複雑な表情を見せる。それを受けた半地下父さんは勿論それを感じ取り、それ以降「半地下の匂い」にリアクションされる度に半地下父さんの笑顔の下の闇が濃くなっていく、ここが本作の実に面白いところだ。

 

 

 

中盤。金持ち一家がキャンプに出かけてしまい、空き家となった豪邸で半地下の家族は酒盛りをする。
当然なにか良くないことが起きる前フリだ。順当に考えると予告もなく帰宅した金持ち家族に出くわしてしまうか、それとも元いた家政婦が半地下の家族を怪しんで彼らの正体を暴こうとしてくるかという事を予想する。それともポスターに死体があるから誰かが死ぬのか?などと考えた。
実際その予想通りに元家政婦が訪ねてきて金持ち家族が突然帰宅するのだが、思いも寄らない展開に突入していく。
‥最近思ったんだけど面白いストーリーって「全く予想してなかった事が起きる」ものよりも「予想してた事が確かに起きるんだけど僅かにそれを越える」ってものの方が面白く感じるよね?本作は正に後者だろう。
何やら狂気で別人のような表情になった元家政婦のオバハンが「キッチンに忘れ物を取りに来た」というので通したがなかなか戻ってこない、観に行くとオバハンはあり得ない姿勢で壁に張り付いていた。
えっ何これは?とこちらが思っていると、どんどん何だかわからない出来事が次々と起こっていく。そして謎の異空間への扉が開き「よくわからん事が次々と起こってるぞ」と思って観てる俺の脳内の動きを可視化したかのような動きでキャラクターが縦横無尽にアクションするので凄く気持ちよかった。
前作「オクジャ」で、本編とはさほど影響しないと思われる「女児とカバのチェイス」シーンが物凄かった事を思い出した。アクション映画じゃないのにどのアクション映画より凄いアクションがポン氏の映画に頻繁に入ってるのが可笑しい。
この階段のシーンと、前半で妹が潜入する時に「イリノイシカゴ‥」のラップしてた2つの場面がベストシーンだったな。
キャプテン・アメリカ主演の「スノー・ピアサー」では貧困を、列車の前後で描いていたが、本作は上下‥山の手と半地下‥そしてド地下で描いていく。もう何が何のメタファーとか、説明する奴がいたら「こいつ何、誰でもわかることを説明しとんねん!w」と説明する奴をスリッパでしばきたくなってしまいそうなほど明確に貧富の差をひと目でわかるように描いていく。というか前にしか進むことの出来ない「スノー・ピアサー」はさすがに単純化しすぎてて乗りきれないものがあったが本作はもっと楽しく観れるようになっていた。だから俺にとって本作は「スノー・ピアサー」のパワーアップ版という印象だった。
「上流にパラサイトする半地下」という愉快だったコメディが「上流の地下で、半地下と地下が殺し合う」という悲惨としか言いようのない哀しい展開に進んでいく。
何か既に観た人が「洪水がどうのこうの」言ってたから半地下が浸水してしまって半地下の家族の悲惨さを際立たせるクライマックスがあるんだろうなとはわかってたけど、まさか半地下タウンが水だけでなくウンコに埋め尽くされてしまうとは思ってなかった。またも想像を越えてきたな、うんこが‥。
てっきり洪水で終わるのかと思ったが、まだまだ色々な事が起きて良い感じのラストカットで終わる。
だけど個人的には、あの宴会の夜に地下に落ちて色々あって洪水‥という一連の流れが良すぎて後日も避難生活から再出勤するのだが、体育館への非難と就寝が挟まったせいで流れが途切れてしまい、狂騒によって狂乱の血となってた血液が平熱に戻ってしまった。そこでまたクライマックス場面に行っちゃうのは何だかしんどいものがあった(何だか射精したばかりで更に性器をいじられるかのような「また?もういいよ‥」という感じがちょっとした。突然の下ネタ失礼した、他に良い喩えがなかったからね)。
そして、酒盛りの大雨の夜は、ゆっくりする間もないほど色んな事がバンバン起こるので良いのだが、この体育館でしんみり就寝シーンが挟まる事によってゆったりした時間が流れてしまい「‥幾ら借金あっても地下にずっと住んでるなんてあり得ないだろう」などと余計な事を思ってしまうのも若干醒めた原因かもしれない。何度も言ってるように地下にいた存在もまた「半地下以下の地下」という「底辺中の底辺」を戯画化した存在なので、そんなツッコミは野暮ってものなのだが、やっぱ流れが切れるとこういうテンション低下現象が起きるよね。だから出来ることなら、屋敷から逃げてウンコ洪水に苦しんで、地下が心配になってまた屋敷に引き返して‥と、一連の流れのまま終わって欲しかった気がする。半地下ママが人質に取られてるから引き返したとか何か‥わかんないけどそういう流れで。
まぁごちゃごちゃ言ったが、今言ったのは些細なことで充分面白かったですけどね。

 

 

 

ラストの解釈だけど、僕は半地下父さんがあの地下に居るというのは主人公の妄想で、父さんはどこかで死んでると思う(生きてどこに隠れてたとしてもそれは物語的にも社会的にも死んだも同然なので生死どちらでも一緒)。主人公はわざわざ「脳を損傷している」と明言されたんだし半地下父さんを見たものは居ない。ライトの点滅を見たのは信頼できない主人公なのでこれもまた、勝手にモールツ信号だと思いこんだけだと思う。
そして、あのラストカットの感じからして主人公が金持ちになってあの屋敷を手に入れる未来も来ず、彼は一生、半地下のままだと思う(ちなみにポン監督は「主人公が稼いであの屋敷を買うには400年かかる」と言ってるらしい)。
ではバッドエンドなのかというとそうではなく、主人公は物語の中で一人だけ成長した人物で執着していた石も捨てました、だが成長したといっても「金儲けして父さんに会いたい」という、本作で描いた韓国の歪みそのままの成長の仕方なので、もし仮に主人公が成功してあの屋敷に戻ってこれたとしても我々が観てきたこの主人公じゃなくて、あの金持ち父さんみたいなキャラクターに変わって現れるのだろう。そんな主人公が屋敷を買い取れたとしてもそれでハッピーと言えるのか?しかも俺の考えでは父さんは地下に居ない、絶対に(もし居たとしても死んでるか、リスペクト男のように狂ってるだろう)。だけどラストカットの瞬間、主人公が「カネ稼いで父さんに会うぞ!」と思っている、その想いがかすかな希望なんだろうと受け取りました。バット振る以前に、まず思考しない事には何も始まらないわけだからね。とにかく「現代の貧困者に出来るのは願うことだけ。それが叶うかどうかは別だが‥というか98%くらいそれは叶わないんだけど願わなければ地下のリスペクト男みたいになる。それよりはまだマシだ‥」という、そういうラストだと思いました。それはそれで、他人から見れば今にも切れそうな頼りない糸のような希望だとしても、それは主人公自身や観てる僕にとってだけは確かな希望だと感じました。
それにしても映画を見終わった後、序盤で主人公と父親が、半地下の家の前でションベンしてる酔っぱらいと水かけあい対決して妹がそれをスマホで撮ってる場面を思い出すと何だか寂しくなるね。貧しいながら楽しい家庭でもあったんだな。
※追記:このブログUPした翌日の今日、本作がアカデミー賞作品賞&監督賞&脚本賞&国際長編映画賞を受賞!名実ともにポン氏が世界の頂点に!応援してた映画がアカデミー賞作品賞獲ったのなんて高校の時のイーストウッド許されざる者 (1992)」以来で、超久々にアカデミー賞で盛り上がれました。辛い終わり方した本作だったが、これによって半地下家族が報われた気がして嬉しかった(2020.02.10)
※追記2:このブログ書いた後どこかで読んで知ったけど、主人公の青年が執着していた大事な「石」は偽物だったらしい(洪水で浮いたのは中が空洞だから)。あれだけ大事にしてた「身分不相応な自分が唯一手にした高価な品=自分も金持ちになれるかもしれないという希望の象徴」が偽物だったから「自分はどんなに努力しても、あの家みたいな金持ちになれない」と悟ったと思います。
だから「半地下主人公が金持ちになれる可能性はめちゃくちゃ低いが未来は不確定。なれるかもしれない。だけどモールツ信号は幻覚で半地下父さんはもう死んでる」というのが僕個人の解釈です。

 

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そんな感じでした

「オクジャ / okja (2017)」子供向けアニメっぽい話が始めるが終わりの方では何なんこの話‥と不思議な気分にさせられる🐷 - gock221B 
「スノーピアサー (2013)」楽しかったがポン・ジュノの良さがアメリカナイズドで脱臭されてたような‥🚃‥🚃 - gock221B

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Parasite (2019) - IMDb


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