gock221B

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『クライ・マッチョ』(2021)/本作のテーマには同意できるがそれを全部台詞で言っちゃうのはイーストウッドらしくなかったですわ🐓

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原題:Cry Macho 監督&制作&主演:クリント・イーストウッド 原作:N・リチャード・ナッシュ
製作会社:マルパソ・プロダクション 製作国:アメリカ 上映時間:104分

 

 

 

イーストウッド監督作40作目。しかも主演も兼ねてるのは2回目、俳優としての主演も3回目。91歳だから最後かもしれないから観ますよね(もっとも14年くらいから毎回思ってるが)。ほんのりネタバレあり。

1970年代のテキサス。かつてロデオで名を馳せたマイククリント・イーストウッド)だが現在のマイクは妻子を失ったことで身を持ち崩し知人の牧場主の馬の調教師をしていた。
彼はある日、牧場主から「別れた悪妻との間に出来た現在13歳の少年を連れ帰る」という依頼を受ける。マイクは少年ラフォと彼が飼う闘鶏”マッチョ”と共にテキサスへと向かう―

という話。
イーストウッドが主演する時は、凄くイーストウッド本人(……が昔演じてたマッチョでヒーローっぽいキャラクター)みたいな主人公にどうしてもそうなる。
本作もまた「昔は荒馬を乗りこなしマッチョで凄かったが今は年老いてまったカウボーイ」という、やはり「かつてのイーストウッドが演じたキャラクターの成れの果て」みたいな主人公なので否が応でも期待が高まる(今年のナンバーワンかも?という期待)。しかも予告編すら殆ど観てないのでどうなるのか全然わからんしワクワクする。
ストーリーは「マイク(イーストウッド)が、メキシコに居る恩人の息子を連れ帰る」というシンプルな話。
その少年、ラフォはメキシコのアル中の母親の乱れた生活や、母の男からの虐待に嫌気がさし、家出してメキシコのストリートで暮らしていた。
まだ子供でカウボーイに憧れるラフォは鶏に「マッチョ」と名付けて育て、非合法の闘鶏場で戦わせて生計を立てていた。このマッチョは「マッチョになりたい。できればカウボーイのようにカッコよく強くて男らしい一人で生きていける男になりたい」というラフォのマッチョ願望がわかりやすく本編の間中そこらへんを元気に歩き回っている。何しろ名前からしてマッチョだからね(ちなみにマイクはマッチョの名を呼ばない)。
ラフォの母は、何してる女なのかよくわからないのだが、アル中かつ情夫や手下のチンピラが何人も居て、ちょっとしたギャングっぽい雰囲気を醸し出している。
彼女は幾ら男好きとはいえ90過ぎのイーストウッドを何度もベッドに誘うので少し「えっ?」という感じがあるが演じてるのがイーストウッドだから、まぁ……いいかと思った。
すんなり少年ラフォを拾ってテキサスへの国境へ向かう。母親が放った刺客が追いかけてきたり国境警察がウヨウヨしている。そして車も壊れたのでマイクとラフォとマッチョは人口の少ない田舎町に身を隠す。
この町が凄い田舎で、警官も居ないので立候補した保安官がいるという……中世みたいな町だ。この町が出てきてからちょっと不思議な雰囲気になる。
そこでマイクとラフォは、食堂を経営する優しいマルタに親切にされ、彼女の家の隣の空き家に住み、近所の小さな牧場で荒れ馬を調教したり近所の人のペットや家畜を診てあげたりして暮らす(てっきり馬に乗ってテキサスに帰るのかと思った)。
マルタはマイクと同じく夫や子供を全て亡くした未亡人、女系ばかりの孫を育てている。マイクとマルタは自然と優しいお互いに惹かれ合う。
愛を知らないラフォも、マイクを初めての年の離れた友達だと思い、優しいマルタ家族にも懐き世界で最も素敵な場所だと思うようになる。
このマルタさんがマイク同様に都合よく夫と子供夫婦を失ってるところとか、特にきっかけらしいきっかけもなくマルタさんがマイクに最初からグイグイ優しくしてくれるところなど、随分ご都合主義的に思わなくもなかったが(凄く久々に「ご都合主義」って言葉使った)、まぁマイクを演じてるのがイーストウッドでカリスマあるから、まぁいいか……と納得することにした。
それにしても前半で誘ってくるラフォ母の悪女といい、このマルタさんといい、いかにもイーストウッドの好きな女性のタイプ(気の強そうな有色人種の女性)だなぁと思った。91歳なのに30代男性と同じようにスンナリ……と恋愛が始まってしまうのもどうかと思ったがイーストウッドだから、まぁいいでしょう。
住民は怪我した動物を次々と異邦人マイクに診てもらいに来るし何だかマイクが超自然的な存在のように見えてくる。保安官がいるところからして時空の狭間に存在する町のようでもあるし突然、ご都合主義的な甘い展開が続くので、この中盤はちょっと夢でも見てるような……変なメルヘンチックなファンタジーじみた雰囲気すら滲み出ている。
だがイーストウッド監督映画なので「マルタさんや孫娘や近所の人たちがチンピラに殴られたり、動物が撃たれたらどうしよう」という心配も心の片隅にあった……が、本作はそんな事は起こらなさそうだな、なんとなく。
そうこうしつつもマイクは依頼主への義理を果たすため、甘い生活は一時中断してラフォを父のもとに一旦は連れて行かねばならず車で幸せな町を後にする。
その後、本当にちょっとしたピンチ(あまりに些細すぎて、ピンチは甘い町とは逆に現実に思えてくる)があるが何とか乗り越える。ジジイとガキなので鶏のマッチョが暴力担当。
そして依頼主の事で揉めてたマイクとラフォだが、マイクが突然、自分の考えを語りだす。……というかこの映画全編を通じてイーストウッドが言いたいであろう事を全て台詞にしてマイクが全部言ってしまう。
途中までふてくされてたラフォもそれを聞いて「……うーん、それもそうだ!マイク、僕わかったよ!」と言う。そりゃそうだろ、全部わかりやすく言ってくれるだからそりゃわかるだろ。
なんか……全然イーストウッド映画っぽくないやん!まるで黒澤明の一部の映画やん。
というか、わざわざ言わんで良くね?こんなに全部言うんならTwitterとかに書けばよくね?イーストウッドっぽくないですねぇ……どうしたんだろ。孫に「おじいちゃんの映画わかりにくい」とでも言われたのか?
ちなみにイーストウッドが本作で言いたかったであろう事というのは勿論「男らしさ(マッチョ)にこだわるなんてバカらしい。それより大事なことがある」的な事で、それは勿論『許されざる者』(1992)、『グラン・トリノ』(2008)『運び屋』(2018)などの傑作群と同じようなもので、こちらはそれに同意しつつ映画の出来自体にウットリしてた内容だったのだが今回はより老人らしく『運び屋』(2018)ではまだ少しあったカッコよさも完全に抜けて「愛する人達との暖かい家庭」のようなものもプラスした。……何かもう全く異論はないものの完全に「万人が思う普通の幸せ」に近づいてきて、こうなると只の良いおじいさんのエッセイという気がしなくもない。それってイーストウッドの只の私生活ですよね。一人で好きな作品を作り続けられる大御所の作品が最終的には只のエッセイになってしまう現象がイーストウッドにも訪れたのか。
「一個の映画作品!」という感じで一本の作品性を仕上げるよりジャズのように早撮りで次から次へと作品を連打……してもなお名作や傑作になってしまう……というのがイーストウッド映画って認識だったけど『ハドソン川の奇跡』(2016)『15時17分、パリ行き』(2018)あたりから「そこそこ面白し同意もできるけど……何かそのままやないか!」という素材を生かした独身男の手料理じみたシンプルさが行き過ぎてしまいシンプル料理というよりトマトとかを投げてきて「丸かじりが一番うまいんや」と言ってきた感がある。「確かにうまいし栄養もあるがしかし……」という感じがある。
それでも、本作の結論は同意できるし、もっと練れば傑作にもなりえたと思うんだが……。こんなにまで台詞で全部説明されたら、やはり「それならTwitterで140字で書いた方が早いのでは」という気持ちになった。あ、これさっきも言ったか。
なんか同じ監督主演作でパッと見は似ている『グラン・トリノ』(2008)『運び屋』(2018)は傑作だったけど、本作は、それらよりかなり劣りますね。
「『マッチョ(男らしさ)』を鶏に託してる」ところとかは「マッチョであることなんて、この鶏みたいなもんだ」って感じで良いだけに勿体ないですね。
あと親切なマルタさん家族との触れ合いも全部いらんかも。
マイクとラフォが荒馬牧場の納屋に寝泊まりしてるだけで良かったよね。そしてマイクとラフォとのふれあい時間を増やしたほうがいい。ついでに最後に国境まで行くのも馬で行った方がドラマチックだろ。
遡ってラフォのオカンがマイクに迫るところも要らんし、ここに来ての急な(自分の好みである浅黒くて気の強い)女性との絡みはなんなんだろう。死期が近づいた事を感じて生(性)への執着が湧いてきたのかな?
マイクとラフォとも別れも、本編終了の一ヶ月後にラフォが親父に愛想つかしたら何時でも、超速攻でマイクの元に行けるので別離感はない。
だけど久々の出演、『許されざる者』(1992)ぶりの乗馬(!)などは見れて嬉しかったですけどね。あと単純に、これほどまでにおじいちゃんになってもカウボーイハットで顔面の半分を影にして歩くと未だにカッコいいオーラが出てるのが凄い。
今回は何か「イーストウッド元気で良かったね」と思うべきか?いや、むしろ若い時から90過ぎるまでモテ続け、金と名声と仲間と家族を充実させ続けてたにも関わらず、暗かったりソリッドな映画を撮り続けてきた、そのモンスターぶりを驚嘆したり感謝する方がいいかもしれん。いつまでも、お元気で。
イーストウッド、健やかに……。

 

 

 

そんな感じでした

『アメリカン・スナイパー』(2014)/時と共に増していく影が酸みたいに彼を侵す🧿 - gock221B
『ハドソン川の奇跡』(2016)/本作もさらっと凄い映画だった。久々にイーストウッド的ヒーローキャラが出た🛬 - gock221B
『グラン・トリノ』(2008)/久々に観たが面白すぎて15分間くらいに感じた。深い感動と牧歌的な間抜けさ🚙 - gock221B
『15時17分、パリ行き』(2018)/当事者達の素材の味を出しすぎて奇跡体験!アンビリーバボー化🚄 - gock221B
『運び屋』(2018)/今まで観たイーストウッド監督作&主演作全62本中で一番好きかもしれん。自分だけの面白さを掴み取ろう🚙 - gock221B
『リチャード・ジュエル』(2019) /正義を行った大柄まじめ系こどおじ一筆啓上、煉獄が見えた👮🏻‍♂️ - gock221B

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Cry Macho (2021) - IMDb

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