原題:Richard Jewell 監督&制作:クリント・イーストウッド
製作会社:マルパソ・プロダクションほか 製作国:アメリカ 上映時間:131分
「僕は大勢の命を救ったのに……」
大柄の警備員リチャード・ジュエルとその母親は、自分達をぶっ叩くために集結したマスコミが押し寄せて外出もできない自宅で呆然としていた。何だかとっても悲しそう……。
1996年、オリンピックが開催中のアトランタ。
不器用で実直な大柄の警備員リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)は、高齢の母ボビ・ジュエル(キャシー・ベイツ)と2人暮らし。
音楽イベントが行われていた公園で警備の仕事をしていたリチャードはテロリストが仕掛けた爆弾を発見。リチャードのおかげで被害者は極めて少ない人数に抑えることができた。
マスコミは3日間ほどリチャードを英雄として報道していたが、どういうわけかFBIやマスコミは変わり者で貧乏白人のリチャードに疑いの目を向け始める。
マスコミ報道は加熱し、リチャードはアメリカ全国民から激しいバッシングを受ける。
そんな窮地に陥ったリチャードを母親だけは無実だと信じるが家から一歩も出れず、FBIは証拠もなしにリチャードを「僕が犯人だ」と強引に自白させようとする。
嗚呼、大勢の命を救った英雄なのに相反する酷い扱いを受けている気の毒な男、そしてその母を救ってくれる者は誰かいないのか?
謎の中年男性「ここにいるぞ!」
貴方は……サム・ロックウェル演じる弁護士ワトソン・ブライアントではないか。
彼はリチャードが雑用の仕事をしていた時、知り合った上司だ。この世界でリチャードが頼れる者はワトソンしかいなかった。
かくしてリチャードとワトソンは、リチャードを悪だと思っているアメリカ政府つまり、この世界全体と闘っていくことになる……。
鐘を鳴らせ。「リチャード&ワトソン vs.World」の開幕だ。
クリント・イーストウッドが『父親たちの星条旗』(2006)あたりからよく制作するようになった英雄的行いをしたアメリカ国民の実話映画シリーズの‥11本目くらいかな?。
このブログ、なるべく週に一回は更新したいと思ってるのに一ヶ月近くも更新なしですみません。
8年使ってるPCが遂にイカれて更新できなかった。今もイカレてるんですが3週間、色々やってたら動作は劇遅だが一応動くようにはなったのでセーフモードで文章書いてノーマルモードで立ち上げてUPしたりと工夫したら更新できた。使い物になんないので来月あたりPC買い換えるとして、それまでの繋ぎはこのISDN時代のような苦しいやり方で頑張っていこう。死にかけのPCを使ってると自分が死ぬ時もこんな感じなのかなと思った。※このブログを書いた直後、完全に逝かれた。
完全にネタバレありなので、途中まで読んで気になったり他人の意見に左右されない自分だけの感想を持ちたい人は読むのをやめて映画を観ればいい。今ネトフリにあるよ。
リチャードは正義漢ではあるが要領が悪く軽んじられがちな外見をしている変わり者。
過去には警察官のコスプレして勝手に街を護って捕まった事もあるらしい。
警察官や大学の警備員の仕事にも就いていたが、(恐らく)融通が効かず取り締まりすぎて、彼としてはルールを守って取り締まってるだけなのだが大学生のモンスターペアレントから評判が悪くクビ。
「生徒が犯罪とかしたら当然捕まえるが、まぁ今のアメリカ大学生なら隠れて酒飲んだりマリファナ吸ったりするのは普通やろ」といった感じで周囲の空気に合わせる事が出来ないタイプだったのだろう。かなりの大柄でレトロゲームを愛する彼の居場所は当時のアメリカ社会には無く、常にバカにされたりからかわれる対象だった(本作を観た限りでは素朴で純粋な中学一年生男子がそのまま大人になった感じに見えた)。
そんなリチャードを唯一バカにしなかったのがワトソン弁護士だ。
リチャードはワトソンに懐き彼が好きなスニッカーズを常備していたし、ワトソンも昼休みにゲーセンでレゲーに興じるリチャードに付き合ったりもした。気さくなワトソンからすればリチャードはよくいる同僚の1人だったのだろうがリチャードからすればワトソンは生まれて初めて普通に接してくれる同僚だった。
リチャードがワトソンが当時いた会社の警備バイトを辞める時、ワトソンは不器用だが少年のような心を持つリチャードにお札を渡して「もし法の番人になれてもそのままでいろリチャード」と言った。
リチャードは「ワトソンさんは何で僕にお金を?」と、ピンと来てない様子。
ワトソン「権力を手にすると皆クソ野郎になっちまう。お前だけは今のままで居てくれ」
リチャード「ははは……変わるわけないです。このお金は僕が警官になれたら返します」
リチャードは常に職務に忠実な真面目な警備員だったのだが、周囲からしてみたら「こいつ警備バイトを何でこんな熱心にやってるんだ……?怪しい。変態かもしれん」と思われて疎まれていたのが悲しい。そういえば堅い信頼で結びつくことになるワトソン弁護士も初対面でリチャードが自分がスニッカーズ好きなこと知ってたのを知ると「何でそれを知ってる?俺のゴミ箱をあさったのか?」と一瞬だけ警戒していた。恐らく他の全ての同僚にこう思われていたのだろう。
8年後、警備員として公園でのライブの警護をしていたリチャード。
怪しいバッグを発見したリチャード。同僚たちは「心配し過ぎだよリチャード。ただのゴミだ」と取り合わなかったが、職務に忠実なリチャードは警官を呼び更に爆弾処理班を呼ぶ。バッグの中を見て青ざめる爆弾処理班。
それは確かに爆弾だった。
同時にイベント本部にも「爆弾を仕掛けた」という犯行声明の電話が近所の公衆電話からかかってきていた。
ライブを楽しむオーディエンスを遠ざけるリチャード達。
数分後にバッグは爆発。周囲に撒き散らされる殺傷用の釘。
だがバッグの向きが変わり、客を遠ざけたために爆風と釘は上空に放出されて数名の死者と負傷者だけで済んだ。
これが、あの夜あった事だ。
リチャードの「任務に忠実すぎる周囲の空気に流されない」性格のおかげで被害は最小限に抑えられた。
アメリカン・ヒーローとして報道されるリチャード。
いつも周囲に軽んじられていた、母親と同居している太ったフリーターこどおじ、一生日の目を見ないまま死んでいくはずだったリチャードがアメリカの英雄になった。
ママは大喜び。だがリチャードの人生最高の輝かしい時間は3日で終わった。
このテロ事件を担当して捜査する事になったFBI捜査官(ジョン・ハム)は、以前「自分で仕掛けた爆弾を発見したように見せかけてヒーローになった警備員や、自分で放火した消防士」などを例に挙げ、「このデブもそうに違いない!証拠はないがこいつが犯人やろ!」と何の根拠もなくリチャードを容疑者だと狙いをつけた。
だが勿論、まだ何も捜査してないのだから「リチャードが犯人」という可能性もゼロではなく、リチャードを一応洗ってみるのは普通の事だ。しかし、この捜査官は何の根拠もなくリチャードを犯人に仕立て上げようとしている。
捜査官は、特ダネ欲しさに枕営業してきた女性記者に「リチャードが容疑者」だと漏らしてしまった。女性記者は大喜びでそれを記事にして、瞬く間にTVニュースでの論調も「犯人はリチャード!?」という流れになる。マスコミやアメリカ国民は「冴えないリチャードが英雄」であることより「冴えないリチャードは自作自演の爆弾魔だった」という事実の方が面白いと思ったのだろう。
この女性記者の描写は結構問題になってたので彼女については最後に後述する。
ニュースを見て卒倒しそうなほど驚くリチャードママ。本当に可哀想。
FBIはリチャードに、犯人だと認める事になるっぽい書類に「形式上だけの事だからサインするフリして」と言い、リチャードがサインする真似だけすると、「うーん。リアリティが足りないな。本当にサインしてみて」などと言い出す。
リチャード「あのぅ、形式上だけならサインのフリだけでいいですよね……?」
FBI「勿論だリチャードさん、だから形式上ほんとにサインして」
まるでコントだ。
さすがのリチャードも「これサインしたらヤバい」と気づき、今は個人事務所を開いたワトソン弁護士に電話をかける。
8年前、ワトソンと繋がってなければリチャードはここで終わっていた。法の番人に憧れるリチャードが尊敬してやまない立派なFBI捜査官が3人もリチャードがサインするのを見つめて圧をかけて待っている。AV出演強制のやり方と同じだ。
しかもリチャードからのSOSを受けたワトソンが、リチャードが連れてかれたFBI本部に電話してもFBIは「リチャードなんて人は来てませんよ」などと嘘をつく。リチャードが帰宅してしまえば彼が「いま思い出したけど僕、犯人でした」と言えなくなる。弁護士の介入は避けたい。激怒したワトソンは怒鳴り散らしてリチャードを奪還する。ここでもワトソンがガキの使いのように「なぁんだリチャードはそっち行ってないのか。失礼しました」って感じのカカシみたいな無能だったらリチャードは終わっている。
多くの人命を救ったのにも関わらず、この早い時点で既に二回も終わりかけているリチャード!
リチャードがワトソンと共に帰宅すると、家の周りをマスコミが取り囲んで彼に罵声を浴びせかけてくる。
次にFBIは捜査だと言いリチャードの家の物を、銃は勿論だが掃除機からママのパンツまで全て持って帰った。
ママ「私のパンツやタッパー持って帰って一体何がわかるっていうの!?」
勿論、何か証拠が出ないかというの半分、あとの半分は国を挙げての嫌がらせでリチャードを疲弊させ自白させようとしているのだろう。
この件を担当している捜査官の心情が描かれるわけではないので彼が何を考えているのか正確にはわからないが本作を観た限りでは「このデブ怪しい!自作自演の爆弾魔に違いない!」という決めつけ7割。残りの3割は「本当の犯人かどうかなんてどうでもいい。ガリガリと精神を削ってやれば思い出すだろうぜ、自分が犯人だったという事をな」そんな感じだろう。
また爆弾魔を早く逮捕しないとオリンピックが中止になりかねず、そうなるととんでもない金額が無駄になる。もはやこの状況、一番大事なのは「真犯人を見つける事」ではなく「早めに『犯人』を捕まえてそれを報道する事」になってしまっている。
リチャードはただ良い事をしただけ、だが他人から尊敬されにくいお人好しだったのでアメリカ政府からしてみれば「市民を助けた?それはご苦労だったな。だが同時にオリンピックがやりにくくなってしまった。ついでだからお前が犯人だった事を思い出してくれないか?リチャード、お前さん英雄なんだろ?」ってわけだ。本当に怖い。
そんな困った日々、ワトソン弁護士の秘書が血相変えてリチャードの家にやって来て無言でワトソンとリチャードに紙を見せる。
紙には「うちの事務所にもここにも盗聴器が仕掛けられている」と書かれていた。
家の物ぜんぶ持ってかれた時に仕掛けられたのだろう。
リチャードを心配してやってくる古い知り合いの身体にも盗聴器が仕掛けてあった。
ワトソン弁護士は、犯人が犯行声明を告げた公衆電話を調べるが、とてもリチャードがイベント会場と往復できる距離ではない。
FBIも当然それは調べてるので「これじゃリチャードを犯人にできない」という事で「リチャードには共犯者が居た」というストーリーに舵を切る。
リチャードの親友(やはり定職に就いてない感じの中年男性)が連れていかれ、前述した知り合いみたいに盗聴器つけろと言われたがリチャードを護って断った親友。
更に尋問で「パイプ爆弾とか作ってないか?」と尋問され、親友は「子供の頃にはイタズラで作った」と言ったという。
リチャードとワトソンは頭を抱え「何でそんな事わざわざ言うんだ!」というムードになるが親友は「いや、子供の頃ほんとに作ったから‥‥嘘はいけないなと思ってさ」
親友だけあって彼もまたリチャード同様、不器用なタイプの様だ。
ここから先は完全に最後までネタバレ。
また捜査のためとか言って家に来たFBIに髪の毛を抜かれるリチャード。リチャードは「捜査のためだもんね‥‥」と協力する。
FBIにキレまくってるワトソンは、リチャードが自分を完全に舐めてるFBIに怒りもせず協力までする事に対してブチギレる。
ワトソン「ここまでバカにされて何で奴らにヘラヘラしてんだ!何で俺みたいにもっと怒らない!?」
ワトソンは恐らくリチャードの要領の悪さを暗に責めている。
リチャード「僕だって怒ってるよ!」
ただ正直者のリチャードは本当にあった事をFBIに全部言って、そして何もやってないリチャードがテロを仕掛けた証拠もないのに未だに容疑者扱いで、
彼にはこれ以上どうすればいいのかわからないのだ。怒って自暴自棄になればそれこそFBIの思うつぼだ。
ワトソン「こんな面倒くさい事になるとは!何で俺を弁護士に雇ったんだ!弁護士なら他にもいっぱいいるだろ!」
リチャード「あんたを弁護士に雇ったのは職場であんただけが僕をバカ扱いしなかったからだ!他の奴らは『デブ野郎』とか『ミシュランマン』とか罵ってきたけど、あんただけは!僕をまともに人間扱いしてくれた!」
リチャード「それなのに今度は僕に『自分みたいになれ』と怒鳴りまくってる!なれるわけないのに!僕は僕だ!」
そう、出遭った頃、リチャードの素朴な性格に惹かれたワトソンは「将来何があっても今のままのお前でいろ」と言ったではないか。
リチャードは常にリチャードのままでいたからこそ人にバカにされる実家住まいのまま‥だが、その代わり大勢の命を救ったのも今困った事になってるのも今、信頼し合うワトソンと怒鳴りあってるのも、全てあの時ワトソンが言った「そのままでいろ」を実践してきたからだ。
このリチャードの喚き散らしはジーンとした。
納得して落ち着いたワトソンはリチャードに言う。「反撃開始の準備は出来てるか?」
2人はバッシングの元になった枕営業の女性記者に怒鳴り込み、嘘発見器みたいな診断でリチャードは嘘を言ってない証明をし、傷心のリチャードママが記者会見を開いて「良い事したのに息子も私もアメリカ全体から痛めつけられ続けています!」と訴える。
特に会見の最後にママが「クリントン大統領!この会見を見てたらどうか私達を助けてください!だいとうりょうう!!助けてください!」
という訴えが本当に悲痛で胸を打った。何しろ大勢の人命を救ったのに何か月も24時間叩かれてるのだ。
このカフカ的不条理の煉獄、世界最強のアメリカとFBIが殴って来てるのだ。「殴るのやめて」と言ってもやめてくれるかどうかわからない。だから彼らより偉い大統領に「私達を殴るのをやめるよう彼らに言ってください!」と言ったのだろう。ママの悲痛な思考回路がモロで伝わって来てマジで胸を打つ。
このバッシングの発端となった枕営業女性記者も会見のママ演説を見て涙をぬぐっている‥‥おいっ!お前!笑 お前がやったんだよ!お前おまえおまえ!
とりあえずリチャードを叩きまくる世論はかなり弱まっただろう多分。
リチャードはワトソンを伴い担当捜査官に会いに行く。ラストバトルだ。
捜査官はいつものようにリチャードから失言を出させようと意地悪な尋問を繰り返す。
最初は素直に答えていたリチャードだが、やがて我に返り自分の想いを発言する。
リチャード「あの……あなたは僕をずっと疑ってますが何か証拠があるんですか?ママのタッパーから何か見つかりましたか?さっき入り口でFBIのマークを見た時、今までFBIは皆が憧れる一番価値のある職業だと思っていた。でももう今はそう思えない。こんな事があった後では。僕が職務を果たしたから助かった人もいるんです。それに、次に警備員が怪しいバッグを見つけた時に通報する気になるかな?そうは思えない。その警備員はきっとこう考える『リチャード・ジュエルみたいになるのはごめんだ!この場から自分だけ逃げよう!』それで皆が安全になるかな?僕があんたらに付け回されるのは構わない。好きにすればいい、耐えられる。だけど、あんたらが僕を追いかけまわしてる間、真犯人は野放しになってる。そいつがまたやったらどうなる?」
リチャード「だからさっき訊いたんだ。僕を罪に問える証拠があるんですか?」
捜査官は無言。勝負あった。これにて解決。
実直で要領の悪いリチャードが一体どうやって捜査官を打ち負かせるのか想像できなかった。
「僕は犯人じゃないし、僕も母も困ってるからやめて」それはもう何度も言った。ストレートしか投げられない男だ。これ以上どうすればいい?
そこで「証拠ないよね?」「僕を自首させたい気持ちはわかるけど犯人じゃない僕をパクっても犯人は野放しなので何の解決にもならない」
リチャードは素朴なリチャードのまま変わらず、捜査官に対して論理的に正論を解く。
「僕を捕えたら今後、誰も正義を成そうとしなくなる」と言ったのも大きい。
彼だってFBI捜査官だ、何人も第三者が見てる前でこれを言われて、まだ意地悪な尋問は続ける気にはなれないだろう。
つまり大袈裟に言うなら「僕をやったらアメリカが死ぬぞ」と言ってるのに等しい。
さっきも言ったように捜査官の心情は語られないので想像するしかないが、僕が思うに本作を観る限りこの捜査官は「リチャードが犯人」だと最初から本気で思ってはいなかったと思う。ただ完全に舐めてるリチャードを揺さぶって犯人にしようとしてるだけだ。もし後から真犯人が捕まっても「間違ってたよリチャード、ごめんね?犯人じゃないならもっと強く否定してくれたらよかったのに……」とか言って済ませる気だったのだろう。
とにかく勝利者は常に一人。ワトソンをセコンドに付けたリチャードの勝ちだ。
何か久々にブログ書いたら感想のコツ忘れて全部書いてしまった。ストーリー以外のこと書く暇なかったが主演のリチャードは『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でどうしようもない無職大柄を演じた大柄俳優。一世一代のイーストウッド主演を務めたが、トーニャの時のカスっぷりとは打って変って実直なリチャードを好演した。というか、これ観てこの俳優が大好きになったわ。「MCUでこの人が演じられる大柄ヒーローは居ないか?」などと思ってしまった。
あと『スリー・ビルボード』でも素晴らしかったけどサム・ロックウェルがマジで素晴らしいなと改めて思った。彼もまた『アイアンマン2』のハマーは出番少なすぎたのでまたMCUヴィランで出て欲しいね。カーンとか。もう彼から出てる面白いムードが凄い。話を聞く時、顎を上げて口をポカンと開けて相手を見て話を聞く様も「めちゃくちゃ聞いてるぞ」というムードが動作に出てるし、何だか相手の言う事を口から吸いこんで吸収してるようにも見える。どういうわけかただ座ったり立ってるだけで面白いのが凄い。何でだろう?演技のことよくわからんが演技のせいか?顔も似てるけどゲイリー・オールドマン的な、ずっと見ていたい魅力がある。
映画全体だが、ハズレなしのイーストウッド映画の面白い部類によくある「映画始まって数秒、まだ景色しか映ってないのにそこからずーっとめちゃくちゃ面白い」っていう感じが、本作にもあった。10年以上やってる実録アメリカンヒーロー映画シリーズの中でも前作『運び屋』の次に面白かったかもしれん。
だが欠点も結構ある。身体を使って捜査官から特ダネを聞きだす枕営業女性記者の件だが、彼女は既に亡くなっているらしく「死んで反論できない女性記者を、これほどまで悪く描くのはフェアじゃない」とバッシングを受けてボイコット運動も起きた。女性記者が務めていた新聞社が訂正を求めたがワーナーは「いーや!これが事実!」と妙に強い口調で突っぱねた。事実がどうだったのかは知らんのでこれには僕もボーっと見てるしかない。また「女性は身体を使って仕事を取るいう古い男性が考えたステレオタイプな女性像」という線でも叩かれた。
確かにムズイっすね。これが完全フィクションなら「このキャラは単に嫌な女性記者キャラ」という事で済んだかもしれない。だが実在モデルが居ない創作キャラだったとしても今のご時世にこのキャラは確かに叩かれるだろうな、とも思った。もし仮にこの記者がこの通りの事をしてたとしても枕営業で捜査官から情報を聞き出す下りはさほど必要ではないし面白いわけでもないし叩かれるに決まってるしマイナスしか無い、必要ではなかったように思う。
ただイーストウッド映画よく観てる人ならわかると思うけど、この異常に気が強くてダーティな枕営業女性記者って、イーストウッドが超好きなタイプの女性だけどね。そんなのフォローにはならんか。「大柄とオッサンと老人しか出てこないな……よし俺が好きなエロい女性キャラ出すか……」と思ったら叩かれた、といったところか?これは「イーストウッドもやはり旧世代のじいさまか‥‥」と初めて思った。だがイーストウッド90歳が今更SNSとかで風潮を勉強したりするとも思えないし、ここは周囲の人が説明してあげて欲しかった。
またジェンダー的な問題は置いといても最初は凄く意地悪だったこの記者は後半ワトソンに怒鳴られた後、急に例の公衆電話に行って「はっ!リチャードはやってない!?」と我に返ったり、リチャードママの会見で完全に改心して感涙したりして、単純に薄っぺらいキャラだな~!と呆れた。この記者が男性だったとしてもマイナスポイントだったと思う。
あとリチャードのラストバトルでの真摯な心の叫び。確かに感動はしたしリチャード凄いぞ!とも思ったが、同時に「この映画のテーマを全部口で言いすぎ……」とも思ってしまった。「実話」の映画化だし、現場で本当にああ言ったのかもしれないが、もう少し捻って欲しかった。
大御所映画監督や大御所作家の晩年の作品でよくありがちだが「これ、フィクションの形を借りたエッセイやん。ていうかツイートやん」という感じがあった。リチャードの意見には僕も賛成だッ!と思ったが、あまりに何もかもテーマを全部言ってしまうと急に陳腐に見えてくるものです。
それだ。「実話」と言えば、リチャードが頻繁に胸を抑えて苦しそうにしてたが、そのまま映画が終り「何だったんだ?」と思ってたら最後の字幕で「リチャードは健康を害して44歳で自然死した」と出てギョッとした。
まぁ凄く太ってて不健康そうではあるが本作をフルで観ると最近、世界中で話題となっている炎上騒ぎや芸能人の相次ぐ自殺など色々頭に浮かんできてしまい、
「リチャードはバッシングが激し過ぎたダメージで死んだ。私達全員が善良なリチャードを殺したのだ」と言いたいんだろうなと思った(存命中のリチャードの母親も「リチャードが心臓を痛めて死んだのはバッシングのせい」だと思っている)。
リチャードがラストバトルで本作のテーマを何もかも全部台詞で言っちゃうのは「なんかイーストウッドらしくないなぁ」と少し落胆したが、このリチャードが映画外で死んだという演出はイーストウッドらしい闇を感じた。勿論すべて「実話」なので「真実そのまま書き記しただけ」なんだが、最後に「死んだ」とぶっきらぼうに字幕出るのは「イーストウッドの演出の一つ」っぽさを感じました。ちなみに、よくある事ではあるが「リチャードが犯人!?」という報道は大々的にされまくったが「リチャードは犯人じゃなかった」「リチャードじゃない真犯人は捕まりました」という3ヶ月後のニュースは殆どされなかった。真実が伝わるまで噂は地球を三周する。未だに「リチャードが犯人」だと思い込んでるアメリカ国民も多いという。イーストウッドはこの事件を通してアメリカの恥部を描いて訴えたかったのだろう、僕には届いたが作品として粗が多くて知らしめきれなかった佳作どまりになってしまったのが残念。めちゃくちゃ面白くてたまに凄く感動する場面がある映画で、本来ならそれで充分なんだが本作はもっと……何十年も残るとんでもない大傑作になるポテンシャルがあった。要所要所の短所や荒い部分が大傑作ではなくしてしまってるな、という惜しさを感じた。イーストウッドが10年くらい練って1年くらいじっくり撮る監督ならそうなってたかもしれない、だがイーストウッドはジャズが好きなせいか早撮り量産でバンバン撮る人でしかも面白くない作品はない驚異の打率(たまにホームランもあり)それが長所でもあるので仕方ない。イーストウッドは90歳なのに2010年以降、8本も監督してる。バケモンやろ笑
そんな感じでした
『アメリカン・スナイパー』(2014)/時と共に増していく影が酸みたいに彼を侵す🧿 - gock221B
『ハドソン川の奇跡』(2016)/本作もさらっと凄い映画だった。久々にイーストウッド的ヒーローキャラが出た🛬 - gock221B
『グラン・トリノ』(2008)/久々に観たが面白すぎて15分間くらいに感じた。深い感動と牧歌的な間抜けさ🚙 - gock221B
『15時17分、パリ行き』(2018)/当事者達の素材の味を出しすぎて奇跡体験!アンビリーバボー化🚄 - gock221B
『運び屋』(2018)/今まで観た監督作+主演作全62本中で一番好きかもしれん。自分だけの面白さを掴み取ろう🚙 - gock221B
『クライ・マッチョ』(2021)/本作のテーマには同意できるがそれを全部台詞で言っちゃうのはイーストウッドらしくなかったですわ🐓 - gock221B
『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)/どうしようもない人間達をアホみたいに描いているが同時に地球を離れて空中にいる時のトーニャへの愛も感じた👱♀️ - gock221B
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