原題:Old Boy 監督&制作:スパイク・リー 脚本:マーク・プロトセヴィッチ 原作:パク・チャヌク『オールド・ボーイ』(2003) 製作国:アメリカ 上映時間:103分
日本の漫画『ルーズ戦記 オールド・ボーイ』(1996-1998)をパク・チャヌク監督が実写映画化して世界各国の賞を獲った韓国映画の名作『オールド・ボーイ』(2003)をスパイク・リーがハリウッドリメイクした映画。つまり本作は、大元の日本の漫画じゃなくてパク・チャヌクの実写映画の方を原作とした映画らしい。
パク・チャヌクの映画は全部観てるし『オールド・ボーイ』(2003)もあまりに面白すぎて衝撃だった。韓国との感覚や宗教観の違い等もあって「何でそうなるの?」と思うことも多く、面白すぎた『オールド・ボーイ』(2003)も真相や結末が全くピンと来なかった(これは後述)。パク・チャヌクの映画で一番好きなのは『復讐者に憐れみを』(2002)、次に好きなの『お嬢さん』(2016)。『オールド・ボーイ』(2003)と『渇き』(2009)は僕がおかしいのかもしれんが共に結末で「何でそんなこと気にするの?」とピンとこなかった。
ピンとこなかったとはいえ『オールド・ボーイ』(2003)は面白すぎたので、このリメイクは観る気せずスルーしてたがエリザベス・オルセンの事を思い出して「最近MCUのワンダ役以外しなくなったな」と思ってコレに出てるの思い出してエリザベス・オルセン観たさで観た。MCU配役的に言えば「主人公サノスがニック・フューリーのSHIELD施設から20年かかって脱獄してワンダと知り合ってガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのマンティスが護衛する謎の男に復讐する話」と言える。
ネタバレあり。本作はネタバレ知ったら面白さ半減する人が多いので未見の人は注意。
Story
酒浸りで勤務態度も不真面目、妻子も大事にしない主人公(演:ジョシュ・ブローリン)。ある夜、酔い潰れた彼が目覚めると出口のない部屋に監禁されていた。部屋には毎日、餃子とウイスキーが差し入れられ娯楽はTVと筆記用具だけ。ネズミを育てたり自殺するという逃避は許されず、ただただ監禁され続ける。
TVで自分の妻が暴行されて殺害され容疑者にされていることを知り絶望するが、幼い娘は養女に出され無事に暮らしていることを知り禁酒してTVを見ながら身体を鍛えて20年間、脱獄の機会を待つ。
ある日、主人公は目覚めると20年ぶりに屋外にいた。
看護師の女性(演:エリザベス・オルセン)と知り合った主人公は、監禁施設で食い続けてた餃子の食べ比べで施設を探し当て監禁施設の管理人(演:サミュエル・L・ジャクソン)を拷問し、黒幕を探る。
主人公と女性は、アジア系の女性用心棒(演:ポム・クレメンティエフ)を伴った謎の男(演:シャールト・コプリー)と出会う――
……という、いきなり監禁されまくって全てを失った主人公が、真相を求めて黒幕に復讐しようとする話。
この、監禁のくだりから黒幕と出会うまでの流れはオリジナル同様に目が離せないくらい面白い。オリジナル観てるから後の展開は大体わかるのだが、監禁施設はネタバレの有無は関係ない面白さなので何度観ても面白い。この流れで主人公に完全に感情移入せざるを得ない。監禁された初期に友だちになったネズミを殺されて食事に出てくるところは映画の結末より可哀相だったな。
ただのアル中サラリーマンだった中年男が監禁部屋でTV見ながら20年間シャドーボクシングしてるだけで超人兵士みたいに強くなるのは不自然だが、これが主人公の特殊能力だと思うしかない。
そんな事を言い出すと監禁された時と20年後とで主人公が全く年を取ってないように見えるが、これもまた主人公はあまり老けない老け顔の男だと思うしかない。……いや、バーテンの友達や黒幕の用心棒であるアジア人女性も20年経っても全く変わってないのが不思議っだが、もうこれはこういう惑星だとおもうしかない。20年間という長すぎる監禁期間は娘を成長させるためだけの舞台装置なので、それがなければ別に監禁の期間は1週間でも数日でもいいよね。
娘以外の登場人物が全く老けないのもそうだが、脱出した主人公が出くわしたアメフトチームを素手で殺しまくるのも監禁施設に乗り込んでハンマーで無双するのも、アメリカの犯罪組織なのに誰も銃を使わず角材などの韓国っぽく戦うのも、どれも大人のおとぎ話みたいなフワフワした雰囲気だ。どう考えても変だが面白いので細かいところはあまり気にならない。
主人公は、監禁中は勿論、外に出される経緯も外に出て真相を探ってる時も常に黒幕の掌の上で転がされてる、そしてそれは主人公たちにもわかっているのに油断しきって暮らしているのも不思議といえば不思議だ。
全体的にはパク・チャヌクのオリジナルの方がいいと思うがスパイク・リーだし、こっちも悪くない。ジョシュ・ブローリンやエリザベス・オルセンは凄く良い。
また序盤のブローリンの吐瀉物の妙なリアルさや、設定はフワフワしてるくせにディティール描写がどれも生々しいのが良かった。エリザベス・オルセン演じる看護師のヒロインがサミュエル・L・ジャクソン軍団に脅されてズボンを脱がされてるのだが彼女はまるで学生時代からずっと履いてるかのような毛玉できてそうな野暮ったい深緑の細いフルバック縞パンを履いていた。この変な縞パン見て「人前で服を脱ぐ予定じゃない日に女性が無理やりパンツ丸出しにされた」感があった。確かに一般市民の登場人物が常にキメた下着つけてたら変だよな、と、パンツでスパイク・リーの演出の凄さを感じた。エリザベス・オルセンの哀しみパンツ。
次の段落から完全にネタバレ込みの感想なんで本作やオリジナル観てない人は御注意。
主人公は真相を探って黒幕に復讐するつもりだったが、実のところ黒幕の謎の男が主人公に復讐しようとしていた事が徐々にわかってくる(というか謎の男が、主人公が気づくように段取りしてるのだが……)。
クズな主人公は学生時代もクズで、いかにもDQN的な子供の残酷さで謎の男の妹が校内でおっさんと性交していた事を言いふらす。
で、おっさんは実は、謎の男とその妹の父だった。で、兄妹とも近親相姦しまくってる変態だった。父は「家族の誇りを護る」ために?妻と兄妹をショットガンで皆殺しにして自身も頭を吹っ飛ばして自殺……一家心中を図ったが謎の男はかろうじて生き延びた。
で、生き延びた謎の男はどうやら大富豪らしいのだが、悲劇の原因となった主人公に復讐するため、主人公に娘ができるのを待ち?主人公を監禁して妻を犯して殺し、娘を普通の家庭に育てさせて異常に親切な女性に成長させ?主人公を20年後に脱獄させ、監禁施設に乗り込んで怪我したところを助けて主人公の旧友がやってるバーにパスし、旧友が偶然、ヒロインの名刺に電話して呼んで、すると異常なまでに素性の知れない中年男性主人公を助けようとするヒロインがやってきて共に行動し始める。で、自分の正体や復讐の原因を主人公とヒロインに調べさせ……等の幾つもの偶然が絡まないと実現不可能そうな段取りがやっと終わった。
主人公に20年間見せてたTV番組も全部、謎の男が作ったもので、ドキュメンタリーに出てた「主人公の娘」も、天才子役に20年間演じさせていた偽物だった。本当の娘は、実は一緒に行動して昨夜モーテルで性交した看護師のエリザベス・オルセンだったのだ!愛した妙に若い女は実の娘だったのだ!これが謎の男の復讐だったのだ~そんな感じ。
この辺は、オリジナルも本作も「衝撃の真実だ……!!」と迫真の感想を抱くらしいのだが荒唐無稽すぎて「はぁ、そうですか。そういうもんですかねぃ」としか思えないものがある。
観客が感情移入して「黒幕を倒して娘を救え!」と応援して観てた主人公も実は「無意識に傷つけていた他者」に復讐されるべきクズだというどんでん返しなわけだが、そもそも主人公にやたら遠回りな復讐しようとする謎の男やその近親相姦&何の罪もない家族皆殺しパパも、あまりに異常すぎて只のバケモノにしか見えないものがある。兄妹も、家の中でパパの姿を見たら笑顔で1秒でパンツを脱ぎ始める異常な一家だし何ともね……バレたから引っ越して近親相姦やめて暮らす……ことが出来ない憐れな家族なんだろうけど「そんなにバレて困るんなら学校の透明の温室で野外セックスすな!」と言いたい。バレたらバレたで殺し合って生き残りが家族や友人をレイプとか殺して復讐してくるし、主人公はクズだが明らかに復習の方が悪すぎる。冷たい意見かも知れないが、早めに狂った血が全滅してよかったのかもしれませんね……。オリジナルは兄と妹の関係だったっけ?もう少し同情すべき近親相姦だったのを主人公が壊したというニュアンスだったと思うが……いや、そもそもオリジナルの近親相姦や真相も「はぁ?」としか思わなかった気がするが10年以上前なのでよく覚えてない。
「愛した女が実は探してた実の娘」だと主人公に知らせて絶望させる、これが謎の男の復讐だった。謎の男はヒロインに電話して「教えちゃおうかな?」と主人公をいたぶる。「そ、それだけはやめてくれ~!」と涙ながらに謎の男に懇願して暴露は許してもらえた。……だが、主人公は直前に作中最強キャラのポムさん演じるアジア人女性を倒したんだから、まず最後の真相の会話をする前に謎の男と手足を折るとかすべきだよね?オリジナルを観た時にも思ったが。あとヒロインが娘だと知らされて電話でいたぶられる時も、謎の男の状態は自分と娘には関係ないんだから、やはり謎の男の手足を折るとか両目を潰すなどして充分に行動できないようにすべきだと思う。
それ以前に、主人公は監禁の時からあまりにも謎の男の土俵に乗って彼のゲームをプレイし続けてるんだよね。それでは勝てるわけないよね。ひょっとして「自分が謎の男の家族を壊した」という罪悪感でもあったのかもしれないけど20年監禁されて妻をレイプされて殺されて娘を誘拐されてる(とこの時点では思ってる)んだから充分、復讐されてるよね。主人公もクズだったが謎の男の逆恨みや犯行の方が酷いし。
「実の娘を愛するよう仕向けられた」という復讐されてしまった主人公。謎の男は「私達と同じ想いをするがよい」と言ってたが、謎の男の家族は皆好き好んで近親相姦してたわけで、主人公は父娘は他人だと思わされて性交したんだから少し違うよね?もちろん恋人としても父娘としても一緒にはいられないだろうから主人公の絶望は変わらないんだろうけど、自分としては主人公に「やっちまった事は仕方ないじゃん。そもそも知らずに無理やり結び付けられたんだし仕方なくね?大金も貰ったし父娘離れて幸せに暮らそうよ」と言いたいところだが、そんな事をジョシュ・ブローリンに言ったら殺されそうでもある。口を開けるのはやめておこう。
「実の娘を愛するよう仕向けられた」と自分だけが気づいた主人公は、謎の男に貰った大金を娘に送り、残った金で元居た監禁施設に帰った……。
という結末。この結末はオリジナルのものより良かったです。やはり真相やクライマックスにあまり興味ないので楽しい監禁施設に帰った方がまとまりも良い気がする。
なんか長くなったが、デヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』(2014)にも思うんだが、復讐があまりにも複雑かつ金がかかりすぎるし偶然に頼りすぎてて現実感なさすぎますよね。「お前が好きな幽霊とか怪物とかスーパーヒーローの映画は荒唐無稽じゃないのかー」とか言われそうだけど、そういう荒唐無稽さは好きなジャンルだからリアルなんですよね。それは人それぞれですよね、僕にとっては野球やサッカーの試合の見方がわからないのでそれらも理解できないものですが好きな人にとってはそれらの試合見て面白い人もいるらしいし。要は「複雑すぎる復讐」ジャンルはあまり得意じゃないって事ですかね。ミステリーの複雑すぎるトリックみたいなもんだと思えば楽しめるかもしれないが、どうしても「準備ばっかりして、本当に復讐する気あるのか?」という不思議な気持ちになる。復讐が複雑すぎると途中でどうでもよくなってしまうのは僕だけでしょうか。オリジナルの終盤でもそう思ったがリメイクもやはりそう思いました。
まぁ、どんでん返しである真相と、娘が大人になるまで主人公の時間を止めるための監禁施設を思いついて、他のことは後から付けたものだからあまり真面目に考えてもなんですが……。
……といった感じで、オリジナル『オールド・ボーイ』(2003)を観た時と同じように「よくわからん復讐だなぁ」と延々と噛むことができたね10数年ぶりに。そう思うとかなり楽しめた方なのかもしれない。
そんな感じでした
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