gock221B

映画やドラマの感想ブログ 😺🐱 殆どのページはネタバレ含んだ感想になってますので注意 😺 短い感想はFilmarksに https://filmarks.com/users/gock221b おしずかに‥〈Since.2015〉

『彼を信じていた十三日間』(「モダンラブ・東京」第5話)(2022)/黒沢清への興味を失ってたが久々の名作!💔


監督&脚本:黒沢清 制作配信:Amazonプライム・ビデオ 製作国:日本 配信時間:40分

 

先日、Twitterでフォロワーさんが、山の中で永作博美ユースケ・サンタマリアが佇んでいる黒沢清作品の画像を貼ってて「『ドッペルゲンガー』(2002)の画像かな?『ドッペルゲンガー』(2002)は黒沢清作品の中でも一、二を争うほど大好きだったし懐かしいな」と思った。
黒沢清の映画は90年代~2000年代の間、ほとんど信者状態に近いほど好きだったがJホラーブームの沈静化しだした『叫』(2006)を境にホラー映画をあまり撮らなくなった。それ以降も応援していたのだが2010年代半ばあたりで「ジャンル映画じゃない黒沢映画ってあまり好きじゃないかも……」と気付いた。勿論、好きな監督だったのでホラーじゃなくても面白い場面は必ずあったりするし純文学的な内容は幽霊も出せるしいけたのだが、全く現実感のない不思議な黒沢清映画は「幽霊」「人間関係」など、形が見えないものを中心に描くのは向いてたし、そんな作品の中で黒沢清が「変な刑事」「変な公的施設」「変な車窓」とかを描いても、元々変なものを描いていたので現実が歪んでても構わず、むしろ「今回も最高ですな!」と酔いしれていたのだが「社会」を描くことが増えると、逆に合ってないと思った。「犯罪」という現実を描いた『クリーピー 偽りの隣人』 (2016)では、それまで大好きだった黒沢清流「変な警察」か凄くノイズになった(『クリーピー 偽りの隣人』 (2016)自死した竹内結子さん観たら哀しくなるし最近、実際にセクハラ・パワハラしてて干された香川照之が犯罪者の役してるのも胸糞だし多分もう二度と観る事はないと思う)。
「戦争」という超現実を描いた『スパイの妻』(2020)などは一部、映画好きの間で蒼井優の演技や台詞が評判だった、僕も蒼井優好きだったので期待して観たが、戦争について誰しもが思うような事をクライマックスで語りだす様や蒼井優の珍言にシンプルにガッカリした。そんな感じで一応全部観たが『トウキョウソナタ』以降はあまり好きではなくなってきた。
しかし、こんな『ドッペルゲンガー』(2002)を思い出さずにいられない不穏な場面……しかも、これはAmazonプライム・ビデオのオリジナル欧米恋愛ドラマ『モダン・ラブ』(2019-2021)……の東京版『モダン・ラブ・東京』(2022)の中の、黒沢清が監督した一話だという。黒沢清への興味が薄れたと言ってもさすがに観ずにはおれんだろう。
2000年代に「今やってるオシャレドラマの中の一話を黒沢清が撮ったらどうなるだろう?物語が進むにつれてキレイな街に新聞紙が転がって世界が終わり、キラキラしてたはずの主人公はダンボールに突っ込んで死んでるんだろうか」みたいな冗談が一部映画好きの間で流行った。実際に観てみたら本作は、そんな2000年代に一部で流行った黒沢清ジョークが実現したかのような作品。

ネタバレなし

 

 

 

 

TV局のベテラン報道記者としてキャリアを積んできた独身中年女性桃子(演:永作博美)。彼女はマッチング・アプリだかお見合いだかで洋二(演:ユースケ・サンタマリア)という50代不思議な中年男性と知り合う。
洋二と飲んで気に入った桃子は、彼に家具を直してもらったりキャンプに連れて行ったりして仲良くなり、秘密を抱えた洋二は桃子の心の安らぎになっていく――

という話。
はっきり言って、かなり面白かった。何故かというと何時もにも増して一体、展開がどうなるのか全くわからないからだ。

永作博美は結婚に興味なく仕事ばかりしてきたキャリアウーマンというキャラ。職場では部下に異常に口うるさい。「厳しい」というレベルではなく明らかに「感じの悪い」嫌~な八つ当たり混じりのうるさい上司として描かれている。
このシリーズは「恋愛ドラマ」という括りなのでコレも一応、恋愛ドラマではあるのだろうが、本作のユースケは登場した瞬間から異様。黒沢清作品に出てくる浅野忠信西島秀俊豊川悦司松田龍平東出昌大のような空虚で異様なキャラ……一言で言うと「サイコパスにしか見えない」という意味だ。もしくは「幽霊のような男」と言ってもいい。
桃子はマッチングで知り合った洋二に「結婚・出産とかがそんなに大事ですかねぇ」と愚痴ると洋二は「死」について語る。バーを出ると洋二はやおら「楽しかった!」と絶叫、桃子は慌てて連絡先を訊く。何だか捕らえ所のない男だ(しかし最後まで見ると理由が全てわかるというのもまた面白い)。
「じゃ、また」と帰っていく洋二。なんか「ロータリーの中にホームレスの小屋?のようなもの……もしくは道具入れのような物がある」訳のわからん暗いゾーンを通過して帰宅する洋二。

いや、何なん!?ここ!
本当にわからんので形容しようがないし画像を貼ってもよくわからない。
黒沢清作品はロケーションで見つけた異常な風景が出てくる事がよくあるが、これも……久々に度肝抜かされた。
モダンラブ・東京』というタイトルの恋愛ドラマに出てくる風景か?これが!他の人が絶対にフレームに入れない景色……。何だか昔、黒沢清を好きだった事を思い出してきた。
桃子は洋二に連れられてキャンプに行くが別にキャンプ場などではない。
殆ど何もない河原に面した雑木林のような場所で猛然とキャンプする。
もう、このストーリーの最後で洋二が「人は死ぬ、必ず死ぬ。だから俺は何でもいい。あんたもいいだろ?そんなんで……」とか言いながら永作博美の首を締めて殺して森に埋めても全く不思議ではない雰囲気だ。
何を考えてるのか全くわからないユースケのキャラ、いつも洋二に困惑しているが惹かれてきてるので離れない桃子、少女か老婆どちらかにしか見えない不思議な生き物になってきた永作博美、さっきのロータリー、何もない雑木林でキャンプ、『モダンラブ・東京』(2022)というトレンディドラマのような枠……。全てが渾然一体となって乱反射を繰り返し訳のわからん魅力を発している。
他の、若(わか)や老(ろう)による裕福そうな男女のキラキラした恋愛模様や最終話のジブリのような大粒の涙が出る山田尚子の素敵なアニメだったりする恋愛ドラマorアニメなどが全て前フリとなって本作の異様さを際立たせている(ちなみに他のはあまり興味が沸かず観てない)。一足先にこれを観ていたフォロワーの方が「いや、一体どこが『モダンラブ』なん?w」とか言ってたのも思い出して余計に可笑しくなった。
この話しか観てないので「これだけ長編だったらよかったのにな」と思ったが、これだけだと観る人は一部の清好きしかいないだろうし「『モダンラブ・東京』(2022)の中の1篇」というポジションも可笑しいので、やはりこれで良かったのだろう。
あと昔は異常に明るいタレントだったユースケが実は長期間、激しい鬱状態だったという過去も今では知っているので本作の儚い「幽霊のような男」の役にマッチしている。
2人はテントに入って凄くじっくり……とテントのチャックを閉める洋二(性交の暗示か?)。桃子はキャンプにマグカップを2つ持ってきており片方を洋二にあげる。普段あまり感情が見えない洋二だがこの時は嬉しそうな何かが見えた。
次のカットで2人は、霧が立ち込めた森を歩く。テントをどこに立てたかわからなくなっている。桃子は今来た道を戻ろうとするが洋二は止める。
「来た通り戻ってもきっとた辿り着けない。僕たちはもう迷ってしまったんだから
いかにも黒沢清らしい台詞……。「こんな芝居がかった事を言う奴おるかい」と言われがちだが黒沢清本人がガチでこういう事を言う人なので飲み込むしかない。
これは単純に見たまんま。2人の状態を表しているんだろう。
幽霊のような男ではあるものの、どうやら洋二は善人で、悪事を働くような人物ではない事が伝わってきた。
2人の不思議な13日は過ぎ、洋二の秘密が明らかになり、またあのテントで嵐に遭う。
結局、洋二は一体いつから「ああ」だったのか?よくわからないが、彼が住んでいた場所を出て森に行った時から「ああ」だったのだろうと思った。
桃子はテントで最初にバーで洋二が話した「死」の話への返信を涙ながらにする。洋二は何とも言えない神妙な顔をする。桃子と洋二は割とずっと真面目に向き合ってきたが洋二の方から桃子にグイグイと積極的に働きかける事はできない事情がある。そんな性格だからこそ桃子は洋二に惹かれたのだろうし、なかなか上手くいかないもんだな。
確かにタイトルに偽りなく、黒沢清にしては恋愛を真面目に描いた気がする。
途中までは可笑しくて仕方なかったが最後の方は心打たれるものがあった。
それもこれもユースケがこの役にハマりすぎてたからだろう。衰退する日本が反映されてる気もするし共感も出来るキャラですわ。もうこんな風に滅びゆくしかないんですかね。
桃子は最後の方、どう思ってるんだろ?いかにも女性っぽく「これはこれで終わったからさっさと忘れ」て自分の生活に集中してるようにも見えるが、洋二の気配を感じて終わるんだよね。
もう黒沢清どうでもよくなってけど実に久々に面白かったし誠実さも感じました。『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』 (2013)っていう妙ちくりんな恋愛?カンフー短編映画が最後に好きだった作品だが久々に良かったですわ。

 

 

 

 

そんな感じでした

『ダゲレオタイプの女』(2016)/本作のあらすじ同様、現実世界から隔絶されたような黒沢幽霊映画inパリ👱‍♀️📷 - gock221B
『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)/本編は愛の話だったが、こっちは〈心の弱さ=悪〉という話かな 👉 - gock221B
『散歩する侵略者』(2017)/黒沢清映画のおかしな夫婦って好きですわ👉 - gock221B
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)/洞口依子の可愛らしさと大学のフワフワした感じ👩 - gock221B
『クリーピー 偽りの隣人』(2016)/大変な怪作だが犯罪がテーマなのに現実感なくて好きになれなかった🏠🏡 - gock221B
『893(ヤクザ)タクシー』(1994)/やとわれ仕事ゆえのエンタメ性と縛られた中での製作の姿勢 🚕 - gock221B
『復讐 運命の訪問者』(1997)/エンターテイメント性高めな映画でした🔫 - gock221B
『岸辺の旅』(2015)/幽霊が黄泉平坂で宇宙の終りと始まりを語る場面が好きでした👫 - gock221B

🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔🥛💔

Amazon.co.jp: モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~ - シーズン1を観る | Prime Video

www.youtube.com

#sidebar { font-size: 14px; }