
原題:Sinners 監督&脚本&制作:ライアン・クーグラー 製作総指揮:ルドウィグ・ゴランソンほか 撮影:オータム・デュラルド 編集:マイケル・P・シャウバー 音楽:ルドウィグ・ゴランソン 製作国:アメリカ 上映時間:138分 公開:Apr 18, 2025(日本は2025年6月20日)
「白人達は俺達の音楽が好きなのさ。やってる俺達のことは嫌いだが」(本編より)
ライアン・クーグラーとマイケル・B・ジョーダンのお馴染みコンビによる、いつものように黒人をテーマにしたエンタメジャンル映画。「『ロッキー』の魂を受け継いだ黒人ボクサー」「MARVEL黒人ヒーロー」と来て今回は黒人ホラー。人気作の続編でもないし有名原作もない新規タイトルだが爆裂にヒットして物凄い高評価。
MCUが落ち目の今、監督名だけで客が呼べる状態へとランクアップしたのはこの監督チームにとって大きそう。
ネタバレあり
🧔🏽♂️🧔🏽♂️🎸 🧔🏽♂️🧔🏽♂️🎸 🧔🏽♂️🧔🏽♂️🎸 🧔🏽♂️🧔🏽♂️🎸 🧔🏽♂️🧔🏽♂️🎸 🧔🏽♂️🧔🏽♂️🎸 🧔🏽♂️🧔🏽♂️🎸
1932年、第一次世界大戦の退役軍人である双子のスモーク&スタック兄弟(演:マイケル・B・ジョーダン一人二役)は、シカゴでギャングになり大金を手にして故郷ミシシッピー州クラークスデールに戻り、白人から土地と使われていない製材所を購入。
地元の黒人コミュニティの為のジューク・ジョイントを始めるためだ。
……「ジューク・ジョイント」を検索したら「解放奴隷のアフリカ系アメリカ人が集って歌やダンスや飲酒やギャンブルなどを行う」だそうで……まぁ「ダンスホール」今でいうとクラブみたいなものか。
Juke joint - Wikipedia
黒人を差別して虐殺する白人優位主義者たちの〈KKK(クー・クラックス・クラン)〉は既に禁止となったが、KKKは隠れて存在していた時代。
クー・クラックス・クラン - Wikipedia
双子のスモーク&スタックは色々な悲しみや苦難を乗り越え、金と力を手にして帰還した。双子は、一日働き詰めの貧しい故郷の同胞たちに当時禁じられていた音楽や酒を楽しませ、日頃の辛さから一瞬自由になれるダンスホールを与えたかったのだ。
双子は、故郷に残した仲間たちを集め、夢のジューク・ジョイントを開店、夢のような夜を迎えるが、怪しい白人が訪問してきて楽しかった夜で、惨劇が起こる。
……そんな内容。
予告などでも匂わせてるだけなのではっきり言うのは気が引けるが、訪問してくる白人は吸血鬼。そこで途中まで現実の人間ドラマとして進んでいた話が後半は夜のダンスホールが地獄絵図になる様を描くホラーになる……という構成は『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)を思わせる。
観る前は割とそういう印象だったが実際に観ると、前半とラストへの力の入れようや吸血鬼や映画全体に込めた意味が大きすぎて『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)的なエンタメホラー要素はかなり薄く感じられる。
ギャングで身を立てた主人公の双子、兄スモークは呪い師でもある妻アニー(演:ウンミ・モサク)との間にできた娘を亡くし失意のまま故郷を出たらしい。弟のスタックはメアリー(演:ヘイリー・スタインフェルド)と付き合っていた、彼女は黒人クォーターなのだがぱっと見は白人に見える、そのため黒人の自分と付き合うと危険だし白人と結婚した方が幸せになれると思ったスタックは彼女の元を黙って去ったが、帰郷したことでメアリーと再会する(演じてるヘイリー・スタインフェルドも実際に黒人クォーターらしい、今までで知らなかった)。
3人目の主人公サミー(演:マイルズ・ケイトン)は双子の従兄弟。サミーの父は教会の宣教師だが、サミーはギターとブルースの天才で双子のジュークで演奏する。厳格な父は「悪魔を近づけてしまうぞ」とサミーの音楽活動を快く思っていない。
双子は他にも、町で弾き語りしていた名物酔いどれミュージシャンや貧しい幼馴染、中国系の何でも屋の夫婦など、非白人コミュニティの仲間を集めてジューク・ポイントを開店する。
……と、いった感じで前半はたっぷり時間かけて双子周辺のコミュニティの人間ドラマが描かれる。情感たっぷりに『七人の侍』(1954)形式で仲間を集めていく前半は一番面白かった。単純に上手いし、ここが一番描きたかったのでは?と思った。「黒人差別が残っている1930年代のマイノリティの人たちの人間ドラマ」とだけ聞くと「うわぁ、しんどそうだし地味そうだな」と感じてしまうが双子が誰よりも強くてかっこいいギャングだし、それぞれのキャラも魅力的だし彼らの各絡みも「過去にこの人とこの人はこんなことがあったんだろうな」ということが回想などなくても台詞で全部伝わるし凄く面白い。「こんなに面白いなら別に吸血鬼出てこなくてもよかったような」と思うが、それと同時に「1930年代の黒人やアジア人が憩いの場を作るために奮闘する人間ドラマの映画」だと前述のように「地味そう」なので観に行ってなかった、だからこれでいいんだろう。
この監督の他の作品もそうだしね、そして実際にクーグラー監督とマイケル・B・ジョーダンのコンビのデビュー作『フルートベール駅で』(2013)だけ観てないもんね、監督には悪いが。「黒人青年が駅で白人警官に撃ち殺された実話の映画化」って、もう現実の辛い濃度が濃すぎて観る前から辛すぎて観たくない気持ちが勝つ。そう考えると人種的な問題を描くには「吸血鬼」とか「MARVELのスーパーヒーロー」「ロッキーの後継者」など、何かそういった楽しそうな衣を1枚羽織らせた方が観やすくなるよね。だから監督はそうしてるんだろう。
スモークの妻役の人は『ロキ』〈シーズン1-2〉(2021-2023)でTVAの女性職員やってた人だね、分厚い体格の。
そして遂に皆の夢を乗せたジューク開店の夜、運営してる双子や仲間たち、集まった客たちも皆、日頃のつらい現実をいっとき忘れて「自由」になる。
ブルースの若き天才であるサミーも歌う。
盛り上がる皆、するとダンスフロアには楽器を持ったアフリカの部族のような男が居て「ん?こんな人いたっけ」と思っていると、エレキギターを抱えた黒人ギタリスト、ターンテーブルを回す黒人DJ、レゲエダンスを踊る黒人女性ダンサーなどが現れる。もちろん過去や未来の存在である彼らが物理的にジューク内に顕現したわけではない。「音楽や文化によって我々は時空を超えて一つに繋がれる、綿々と紡がれる大きな流れの中にいるのだ」とかそういった事が言いたいのだろう。
そして黒人だけでなく京劇を踊る中国人役者が踊る姿も。そうか、双子の仲間の中国人夫婦がいるからか、と思った。ここで忘れずに京劇役者が出てくるところが本当に抜かりない。
映画の真ん中くらい?にある、このシーンは映像も言いたいことも音楽も本当に何もかも文句なしに素晴らしかった。「う、うわぁぁ」という感じ。もはやアフリカ系アメリカ人と遠すぎるし特に思い入れもない日本人の自分が観てもそうなんだから黒人の観客の感動は凄かっただろうなと思った。間違いなく映画が始まってこの真ん中でのジュークが時空を超えるシーンは何としてでも一番描きたかったシーンだろうなと思った。映画史に残ってもおかしくない場面だった。
そんなジュークにギターを抱えた怪しげな白人三人が訪れる。
アイルランド系の吸血鬼レミック(演:ジャック・オコンネル)はネイティブ・アメリカンの警官に追われている。陽の光で死にかけたレミックはKKKの夫婦の家に逃げ込み、夫婦を噛んで吸血鬼の眷属へと変える(アイルランド系とネイティブ・アメリカンという組み合わせも色々あったとさっき記事で読んだ「あぁ、だから警官がわざわざネイティブ・アメリカンだったんだ」と、思ったがそれは自分の知識じゃないのでここでは書かない)。
ジュークを訪れたのは、このアイルランド系吸血鬼、そして彼に噛まれたKKK夫婦。
いわばアイルランド系吸血鬼もまた、追われる移民のような存在で、弱いもの同士が殺し合わなきゃならん辛い展開だ。
吸血鬼レミックはジュークの外でサミーの歌を聴き、サミーの才能を欲しがる。
白人による黒人への文化盗用のわかりやすいメタファー。
ここもまた監督の言いたかったことらしく前半で酔いどれミュージシャンが「奴らは俺達の音楽が好きなのさ、やってる俺達のことは嫌いだが」と念入りに前置きしておいてくれてるので観る人誰もが、知識なくてもわかるようにしてくれている。
そして吸血鬼ギミック的には「建物の内部の人間に『入っていい』と許可を貰わないと建物に入れない」という、これはいつ観ても痺れるネタだね。
それと吸血鬼レミックが「いつの時代のものかよくわからない『彼の世界の金塊』を持っている」というのが、レミックはどこから来たんだろうなどと色々想像させられて面白い小ネタだった。
ちなみに本作の吸血鬼は、フィジカル的には強くない(たぶん人間と変わらない)、しかし噛んで眷属にすると知識が並列されて記憶も全部読まれてしまうところがある、これによって吸血鬼は町にいるジュークの運営者の家族を人質に取りジューク内に乗り込んでくる。力尽くではなく悪魔の囁きで侵入してくる嫌らしさも素晴らしい。
そして吸血鬼なので当然、噛まれた者は白人だろうと黒人だろうと眷属になってしまう。これもまた「白人社会に絡め取られた者」みたいに見えてくる。「黒人差別」と「吸血鬼」を繋げて映画にしたのが冴えてる。いざこうやって出されると「何で今までなかったんだろう」と思うくらい「吸血鬼」と「黒人差別」が噛み合っている。
だが、いよいよ「やつらが入ってくる、迎え撃つぞ!」という普通だったら盛り上がるバトルシーンは正直がっかりした。
あまりに下手すぎる……というかカットが、猛スピードで組み合うジューク勢 vs.吸血鬼軍団の闘いがカットちゃがちゃ変わってハッキリ言って何してんのか全くわからない。
こういうアクションっていうのは「誰がどこにいて、どこにいる相手に何をしてどうなったか」という、位置関係とか闘いの流れが見えないと面白くない。それが全く見えないから面白くなかった。誰かが死んだ、誰かが噛まれた、誰かが相打ちに……それらの結果は、結果が画面に映ったからわかるだけで、その過程は全然ちゃんと観せられてなかった。
同じくラストバトルがショボかった『ブラックパンサー』(2018)の時は、CGがショボかったのは監督のせいではないが運動会みたいな団体戦だったのが本当にショボかった。それを自覚したのか『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエヴァー』(2022)では殺気あふれる良い闘いだった……が、また『ブラックパンサー』(2018)の時とは違う種類のだめなバトルになった。単純にアクションとかにはあまり興味ない監督なのかも。とはいえ『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)では試合すごくカッコよかったし、よくわからない。
そして最後はスモークが真の敵と戦う、ここは文句なく良かった。これもまたアメリカ本国では大盛りあがりだったんだろうなと思った。スモークが「楽しかったジュークの準備を皆とする様子」を回想しながら戦うシーンなどたまらない。
そしてサミーによるエピローグ。
ここもまたスタックの最後の台詞がぐっと来た……のだが、しかしスタックは何故こういう感じになったのかイマイチよくわからなかった。サミーに才能があってもっとサミーのブルースを聴きたかったから?
そういう感じでジューク軍団 vs.吸血鬼軍団のバトルがダメすぎた事以外は素晴らしかった。この監督の映画で一番好きかな。それに続編や原作付きなどではなくオリジナル作品っていうのが素晴らしい。
そんな感じでした
〈ライアン・クーグラー監督作〉
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)/ロッキーシリーズ同様に現実と物語がシンクロしている🥊 - gock221B
『ブラックパンサー』(2018)/ワカンダフォーエヴァーしに行ったらジャバリ族になって帰宅しました🐈⬛ - gock221B
『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエヴァー』(2022)/意外なシュリの内面!異常な殺意の高さや暴力や復讐の連鎖などで奏でられるチャドウィック・ボーズマンへの激しいレクイエム🐈⬛ 🧜🏻♂️ - gock221B
Sinners (2025) - IMDb
Sinners | Rotten Tomatoes
Sinners (2025) directed by Ryan Coogler • Reviews, film + cast • Letterboxd
罪人たち - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
